【書籍版1巻2/20発売】貞操逆転ハードモード異世界を鋼メンタル冒険者が生き抜く   作:風見ひなた(TS団大首領)

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第118話「鋼メンタルでポピーちゃんに見送られ抜く」

 そしてついに僕たちがドラゴンの里を離れる日がやって来た。

 かれこれ10日程度の滞在だったけど、めちゃくちゃ身の詰まった日々だった気がするね。

 ほんの10日でドラゴンとスノーゴブリンという2種族の運命が大きく変わることになったんだから、むしろ彼らの方が怒涛の日々だったのかもしれないけど。

 

 そんなドラゴンとゴブリンたちは、ドラゴンの里のはずれにある草原に集まり、僕たちの出立を見送りに集まってくれた。

 

「ロックスター……」

 

 ゴブリンたちの先頭に立つのはポピーちゃんだ。

 神妙な顔でこちらを見て来る彼女に、僕は苦笑を浮かべた。

 

「僕はもうロックスターじゃないよ。その称号は君のものだ。これからはポピーちゃんがゴブリンの代表として、ドラゴンに影響を与えるカリスマとして、両種族の友好を背負っていくんだよ」

 

「私のロックスターは貴方だけです!」

 

 そう言って、ポピーちゃんは僕の胸にしがみついてくる。

 背後でアイリーンが土を踏み込む音と、むぐっと何かを言おうとしたのが聞こえる。多分興奮して割って入ろうとしたアイリーンを、アミィさんが押し留めたのかな……。

 

「私も貴方と一緒に行きたい……! ずっとおそばにいたいです……!」

 

 ポピーちゃんが僕の胸に顔を擦り付けるたびに、温かい液体がシャツに滲んだ。

 ……ポピーちゃんをお嫁さんに、か。僕にとっては悪い話じゃない。

 可愛いし、賢いし、強いし、なんてったって天然モノののじゃロリだよ。こんな子が僕を好いてくれるなんて、男冥利に尽きるってもんだ。一も二もなくOKしたい。

 だけどね。

 

「人間の街の生活は、君にはきっと辛いものになるよ。人間はゴブリンに敵対的で、君を見るなり殺そうと襲い掛かってくる人だっている。そうなるとわかっていて、君を連れてはいけない。それに他のゴブリンたちはどうするの? 君を慕う子たちを見捨てるわけにはいかないでしょ?」

 

 それは僕にとって悪い話ではないだけだ。

 ポピーちゃんにとっては、きっと悪いことになる。身の安全のことを思えば、この子を連れていくわけにはいかない。だから僕は心を鬼にして、彼女を突き放すことにした。

 

 しばしぐしゅぐしゅと鼻を鳴らしながらポピーちゃんは僕のシャツにしがみついていたが、やがてぱっと離れた。その瞳は赤くなっていたが、涙の跡はもうなく、悪戯っぽい笑顔を浮かべていた。

 

「むうー、やっぱダメか。ロックスターみたいなお人よしは、泣き落としに弱いと思ったのじゃがな。当てが外れたのー」

 

 僕はそんな強がりを口にするポピーちゃんの頭を撫でたい衝動にかられながら、ぐっと拳を握って我慢した。最後まで責任を取れないなら、半端な優しさを見せるべきではない。

 

「……うん。危うくポピーちゃんをさらっていきたくなるところだったよ」

 

「ふふふ。そちらの事情もわかっておるよ。人間も男より女の方が立場が強い。おぬしの妻たちが同意しなければ、わらわを妻に迎え入れることはできぬ。……それにおぬしの妻は、みな心身ともに優れたものばかりじゃ。夫に危害を加えられた側でありながら、黒王に頭を下げ、過ちを犯したドラゴンを許したという話も聞き及んでいる」

 

 ポピーちゃんは遠い目で、そんなことを口にした。

 ウルスナが知恵を使ってあのドラゴンを助けてやったことかな。あれは僕のワガママをウルスナがとんちで叶えてくれたんだけど、外から見るとそう見えるのか。いや、そもそもこの世界的には男性に意思決定の権限なんてなくて、女性が主導で物事を決めるというのが常識なだけなのかな。

 

「その話を聞いたとき、わらわはその寛大さに心を打たれたよ。そしてわらわの……ゴブリンの狭量さを改めて思い知った。ゴブリンの中で、誰が同じように敵を許せようか。そして、それがわらわたちの今の限界なのだと知った。わらわの器量は、おぬしの妻の誰一人にも及ばない。残念ながら女としての魅力で、わらわは完全に負けておるようだ」

 

「ポピーちゃん……」

 

「おぬしの妻の中で、人格面でわらわが勝てるのは……そう、あの眼鏡をかけた銭ゲバ女くらいのものか」

 

「だからデアボリカは嫁じゃねーって言ってんだろ!?」

 

「え、違うの?」

 

「違うわ! 侮辱するにも限度があるだろ! 誓って指一本触れてねえわ!」

 

 僕の言葉を聞いたポピーちゃんは、心底不思議そうな顔で首を傾げた。

 

「どうしてヤらないのじゃ? あんなに顔と体がいいのに……?」

 

「顔と体しか良くないんだよなあ!」

 

 顔と体は100点、性格はマイナス200点なのがデアボリカだ。巨乳で可愛くて知的な顔立ちでも、精神がドブカス銭ゲバおもらし女なら勃たないってことあるんだ……と僕をびっくりさせた女だよ。

 

 むしろポピーちゃんは顔と体さえよければ人格が心底終わってても許されると思ってるのか?

 ……いや、そうか。ゴブリンにはそもそも恋愛という文化がなくて、男性を捕獲して無理やり種付けさせることで永らえてきた種族だから、顔と体以外に異性の魅力を評価するポイントを知らないのか。

 さっきのウルスナへの評価は、ゴブリンに生まれた変化の兆しなのかもしれない。

 

 ポピーちゃんは苦笑を浮かべると、小さく頭を振った。

 

「またわらわはおかしなことを言ったらしい。ゴブリンはやはり精神的に未熟なのだな。今のわらわがおぬしを欲するなど、とんだ高望みだ。わらわたちは変わらねばならぬ。他種族との門戸を開き、1300年におよぶ断絶を埋め、他種族に見下されることのない立場にならねばならぬ。それが女王であるわらわの為すべきことじゃ」

 

 その幼げな顔立ちには、断固とした決意と女王の名に相応しい矜持が宿っていた。

 その大望はきっと成し遂げられるだろう。彼女が生きているうちに成されることがなかったとしても、その想いを受け継ぐゴブリンたちによって、いつの日にか。

 何故なら彼女が手にした力とは……歌とは想いを人に伝える技術だから。彼女に憧れ、後に続く者たちによって、ポピーちゃんの決意は本人の死後も生き続けていくだろう。

 

 ポピーちゃんは不意ににひっと相好を崩すと、僕の胸をぽんと叩いた。

 

「そうなってから、あのときわらわのプロポーズを受け取っておればと悔やむがいい。ゴブリンは世界中の男がぜひ婿入りしたいと願うほど、魅力的な種族になってやるからのう」

 

「……うん。楽しみにしてるよ」

 

 もう君はとっくに魅力的だよという言葉を喉の奥に飲み込み、僕は笑顔を作ってポピーちゃんの決意に応えたのだった。

 

 

「それじゃあみんな、仲良くね! また会おう!」

 

 

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【スノースクワッドカンパニー300周年記念式典】

 

 世界一の楽器メーカーであり、大ブリシャブ連合が誇るブリティッシュロックの総本山でもあるスノースクワッドカンパニーの創業300周年を記念する式典が、今月末日に開催されることが発表されました。

 

 300年以上にわたって世界のミュージックシーンを牽引してきたスノースクワッドカンパニーは、元々はスノーゴブリンと呼ばれるゴブリン種の一部族に過ぎませんでした。当時のゴブリンはあらゆる種族より迫害されており、スノーゴブリンもその例外ではなかったのです。

 

 しかし当時のスノーゴブリンの族長であったポピー・スノースクワッドが、現在のブリティッシュロックの起源となるロックミュージックを発明したことで、状況は一変します。

 弱者への励ましというメッセージを込めたロックはたちまちスノーゴブリンたちに広まり、彼女たちは吟遊詩人としてブリシャブ島のあちこちの街へと歌って回ったのです。当時のゴブリンはモンスターとして恐れられ、時に討伐の対象となるほどでしたが、ゴブリンたちは恐れることなく街に潜りこんでは、ときに酒場で歌い、ときに広場でゲリラライブを開き、果敢にロックの伝道に努めました。その一方で、貴族や豪商に求められれば楽しいダンスや演劇を披露したという点も、ゴブリンの柔軟さを示しているといえるでしょう。

 

(ゴブリンたちの大規模ライブが開催された後、男性が行方不明になりゴブリンたちに連れ去らわれたという風評が立つこともありましたが、多くの場合はゴブリンたちの歌声とパフォーマンスに惚れ込んで自発的についていったようです)

 

 スノーゴブリンの盟友となったのは、少数民族であるドライグ族でした。

 巨大なドラゴンに変化できる彼女たちは、要請に応えてゴブリンをブリシャブ島のあらゆる場所へ運びました。おかげでゴブリンはいつでも島の好きなところでゲリラライブを開き、敵対的な人間から逃げおおせることができたのです。

 

 何故強大な力を秘めたドライグ族がスノーゴブリンに協力したのか?

 それはスノーゴブリンがドライグ族の生殖にとって重要な儀式を司っていたからです。

 ゴブリンが描く【エロマンCar】という絵画はドライグ族の男性に欲情を催させる神秘的な力を秘めており、さらに【カンドサンゼンバイン】というドライグ族の女性によく効く媚薬を作り出すことができたのだといいます。この媚薬は精力に不安があるドライグ族の男性でも女性を満足させられるため、大変重宝されたようです。

 

 残念ながら【カンドサンゼンバイン】の製法は失伝してしまいましたが、ドライグの旧宮殿には【エロマンCar】のモデルに使われたという精霊石の彫像が現存しており、これは驚くほど現在のフォーミュラカーに酷似しています。

 しかし自動車が発明される半世紀以上も前に洗練されたフォーミュラカーが存在するわけがなく、長らく歴史学者によって性質の悪いいたずらだと否定されていました。しかし、近年のマナ放射年代測定によって、これは間違いなく1700年前後に加工された精霊石であると判定されています。

 何故現代から300年以上も昔にこれほどフォーミュラカーにそっくりな彫像が作られたのかは一切不明ですが、伝承によればこの彫像は初代ロックスターであるポピー・スノースクワッドが製造したものとされており、彼女が予知能力を持っていたという論拠の一つとなっています。

 

 事実、ポピー・スノースクワッドの行動は、本当に未来予知が可能だったのではないかと考えざるを得ないほどの冴えをみせていました。

 たとえば、ブリシャブ島の各地に点在していたゴブリン族の糾合もそのひとつにあたります。当時は山賊として他種族の生活を脅かし、モンスターと呼ばれて恐れられていたゴブリンたちを集め、説得し、仕事を与えたのは彼女の偉大な功績のひとつです。

 ショービジネスや楽器作りという新しい仕事に出会ったゴブリンたちは、略奪行為をぴたりとやめ、ロックスターの指導の下で歌と演劇、楽器工房を新たな天職としました。

 同胞たちを養うため、ポピーがスノースクワッドカンパニーという企業を興したことも、彼女の先進性を示す功績のひとつに数えられます。

 

 その起業から300年。

 今ではゴブリン族は芸能活動に引っ張りだこで、その活動は海を越えて世界中に広がりを見せています。彼女たちに見初められたファンの男性が婿入りする例も枚挙に暇がありません。

 そして、彼女たちの活動は、常にスノースクワッドカンパニーの楽器と共にあったのです。

 楽器に刻印されている、青い精霊石と白い狼を描いたエンブレムは、300年の時を経て、今もゴブリンを見守り続けています。

 

 

――ある音楽専門誌の広告記事より。




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