【書籍版1巻2/20発売】貞操逆転ハードモード異世界を鋼メンタル冒険者が生き抜く   作:風見ひなた(TS団大首領)

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第12話「鋼メンタルで新商売を稼ぎ抜く」

「え~、病に毒~。病に毒~。何でも治すよ~」

 

 ウルスナと飲み比べした翌日、僕はお手製の旗を背負って街中を歩き回っていた。

 旗印には冒険者ギルドの印章と、鎌を持った死神の上に赤い線を交差させ、バッテンをつけた絵を並べて描いている。

 

「病に毒~。病に毒~。病毒退散、何でもあっという間に治るよ~」

 

 僕が考えた新しいビジネスモデル、それは病気治し屋だった。

 【インフルエンサー】で【疾病耐性】と【薬毒耐性】を移せば、どんな病気でも毒でも治せるじゃんという発想だ。

 この街には治療術士がいて結構重度の怪我でも直してくれるらしいのだが、治癒魔法では病気と毒は治せない。それなら病気と毒は僕が治療してしまっても、縄張りを侵すことにはならないはずだ。

 しかも元手はほとんどタダ。せいぜいギルドに余っていた端材を買い取って旗を作ったくらいしかかかっていない。

 これならどうやっても儲かるはず、と踏んだのだが……。

 

「うーん……誰も声をかけてくれないなぁ……」

 

 そろそろ2時間は経とうとしているが、街の人たちは遠巻きに見るばかりでまったくお客が訪れない。すごく注目を浴びているのは感じるんだけどなあ。

 何が悪いんだろう。どんな病気でも治してくれるとなれば、殺到してもおかしくないのに。ネームバリューが足りないんだろうか? うーむ、初日からがっぽがっぽって想定が甘かったか。

 いやいや弱気は禁物。根気よくいこう。

 

「病に毒~。病に毒~。何でも治すよ~」

 

 ひと際声を張り上げて歩き出した矢先……。

 

「何やってるんだ? お前」

 

 僕の目の前に現れたのは、どこかで見覚えのある女性の一団だった。頬に大きな傷のある筋肉ムキムキの大柄な女戦士を筆頭に、でっかいとんがり帽を被って顔を伏せた魔術師、無口なシーフの3人組だ。さて、どこで会ったんだっけ? えーと、確か……。

 

「冒険者ギルドの先輩だよね?」

 

「せんぱ……まあそうさ。今期ナンバー2のパーティだよ。残念なことに間に合わなかったんでね。あと数件こなせれば逆転の目もあったんだが……」

 

 あ、そっかそっか。確か半年前に飲み比べで潰したことがあったっけ。その節はごちそうさまでした。

 にしても、何が間に合わなかったんだろう? ウルスナもなんかがっくりしてたし、なんか冒険者ギルドの中で競争でもしてたのかな。正直最底辺冒険者の僕には雲の上の話だし、上位陣の動きには全然興味持ってなかったんだけど。

 

「で、お前こんなところで何やってんだ?」

 

「病気治し屋を始めたんだよ。今は営業中なんだ、邪魔しないでね」

 

「……病気治し屋……なんだそりゃ、医者ってことか?」

 

「医者なわけないじゃん、僕に医学の心得なんてあると思う?」

 

 僕がそう言うと、女戦士は何かとても面白いジョークでも聞いたかのようにげらげらと笑い出した。

 

「違いねえ! お前に病気なんて治せるわけねえよな! わはははははは!」

 

「いや、医者じゃないけど病気は治せるよ? 毒抜きもできる」

 

「ははは、男のくせにウサギ狩りなんてしてる歩く冗談みたいなやつだったが、とうとう頭までおかしくなっちまったみたいだな。毎日ドブさらいやってた奴が実は病気を治せるなんて、誰が信じるってんだよ! ほら、周りの奴らをよーく見てみろ。どいつもこいつも、到底信じられねえって顔してるじゃねえか!」

 

 女戦士に言われて、僕は改めて街の人たちの顔を見渡してみた。……まあ共感性が死んでる今の僕だと、人の顔見てもイマイチ感情を読み取れないんだけど。

 でも言われてみると、僕も毎日ドブさらいしてた貧乏人がある日突然、実は万病を治せる名医ですって名乗ったとしても診察を受けたいとは思わないかな。だってあまりにもイメージにギャップがありすぎるもん。

 そうか、なるほどなー。下手にドブさらいしてる人って知名度があるせいで余計に客が来ないのか。

 うーん。僕のことを知らない人がいる地区に行くべきか? でも半年間街中を回って、大体の地区で顔を知られちゃってるんだよね。それこそスラム地区すら回ったんだから。

 それに僕の身なりも、ただの普段着だしなあ……。もっと上等の服にすべきだったかもしれないが、お金もないしね。

 こりゃ参ったな、八方塞がりか。いいアイデアだと思ったんだけど。

 

 女戦士はそんな僕の様子にニヤニヤと笑みを浮かべながら、言葉を続けた。

 

「で、お前なんでこんな詐欺を始めたんだよ。嘘ならもっとマシなのをつけよな」

 

「嘘じゃないよ? ちゃんと冒険者ギルドの看板も背負ってるんだ」

 

 そう言って僕が旗印の冒険者ギルド印章を見せると、女戦士は表情をひきつらせた。

 

「お、お前……マジか……。こんなセコい詐欺に冒険者ギルドの看板持ち出して、後でどんな処罰を受けても知らねえぞ……」

 

「だからマジだって。どんな病気でも毒抜きでもできるんだってば、冒険者ギルドの看板に誓ってね。ほら、邪魔するならどいたどいた」

 

 僕がそう言うと、女戦士ははあっと溜息を吐いた。

 

「しゃあねえな。まだ旦那になる可能性もないわけじゃねえし、止めてやるのがスジか……。おい、それじゃアタシの二日酔いを治してみな。どうもゆうべ飲み過ぎて、朝から頭がガンガンしててさ。行きつけの錬金術師に酔い止め調合してもらっても効きやしねえ。その背負ったギルドの看板に誓って、本当に治せるってんなら治してみな。そのかわり、できなきゃギルドに土下座して謝るんだぜ」

 

「うん、わかった。で、治療費はいくらほどくれるの? 僕、この世界の治療費の相場ってよくわからないんだよね」

 

「ははは、詐欺師が一丁前に生意気言うじゃないか。そうだな、銀貨5枚ってところかな。アンタにできる治療なんて、せいぜいそんなところだろ!」

 

 銀貨5枚か。肌感覚だけど、日本円にして700円~1000円くらい? この世界に来てから病気とは一切無縁で過ごしてきたけど、ここの治療費って案外安いんだな。

 回復魔法とかポーションが存在する世界だからそんなもんなのか? 回復魔法やポーションでは病気は治せないとは聞いてるけど、怪我の治療費が安いから病気も治療費が安いとか、そんな感じ……? そもそも底辺労働しかしてないからこの世界の物価自体もよくわかってないんだよね。

 とはいえさすがに安すぎる気もするが……。ま、1人あたりはあんまり儲けにならなくても、薄利多売で稼げばいいでしょ。

 

「【インフルエンサー】-【薬毒耐性】」

 

 僕は女戦士の前に手をかざすと、スキルを発動させる。

 別に手なんてかざさなくても、見るだけで発動はできるんだけどね。なんかアクションがあった方が、あっ今治してくれたんだなってわかりやすそうだし。

 女戦士は目をパチクリとさせながら、額に手をやった。

 そんな彼女に、仲間のシーフが声を掛ける。

 

「どうした、アンバサ?」

 

「……嘘だろ。頭の痛みも胸のムカムカも完全に消えた」

 

「だから本当だって言ったじゃないか。ほら、治療費おくれ。銀貨5枚だよ」

 

 踏み倒されないうちに回収しようと僕は手を差し出す。

 すると女戦士は僕の手を握りしめ、ずいっと身を乗り出してきた。

 

「ほ、本物なのか!? お前、本当にどんな病気でも治せるんだな!?」

 

「だから本当だってば。ギルドの看板に誓ってどんな病気でも治すよ。まだ疑うの?」

 

「た、頼む! それならこいつを治してやってくれ!」

 

 そう言って女戦士は深く顔を伏せた魔術師の肩を抱き、僕の方へと押し出してきた。

 

「リーダー……。私はこんなうさん臭い子に診られたくは……」

 

「いいから! なあ、頼むよユージィ。こいつを治してやってくれ。どんな治療術士にも医者にも治せないって言われてんだ!」

 

 魔術師は抵抗していたが、女戦士が彼女の魔術師帽を無理やり引き剥がすと、観念したように目をつむった。

 その顔にはぶつぶつと赤いできものがいくつも生じており、唇の端は赤黒く爛れてまるで口が裂けているように見える。

 

「ほら、手袋も外せ。よく診てもらうんだ」

 

「…………」

 

 女戦士に言われるまま、魔術師は手袋を外す。

 その掌はびっしりと黄色く変色したイボのようなものが覆っていた。

 

 ……これ、麻疹(はしか)か?

 いや、大学の構内でこういう写真を見た気がするぞ。確か学内掲示板で、こういう症状の病気が流行ってるから気をつけろって書かれてたな。えーと、確か……。

 

「梅毒?」

 

「! そう、それだ! 医者がそう言ってた! なんだよ、やっぱり医者なんじゃないかお前!」

 

「いや、たまたま知ってただけで医者じゃないんだけど……」

 

「なあ、頼むよユージィ。このままじゃ10年もすれば頭が狂って死んじまうんだろ? 不治の病だってことは重々知ってる。せめて症状を軽くするだけでも頼めねえか……?」

 

 梅毒って確か性病だよね。現代だと抗生物質で治せるけど、昔は不治の病だったんだっけ? 日本にも戦国時代に宣教師経由で入って来て、色街を中心に大流行したとか。

 

「おっけー、任せて。こんなのちちんぷいぷいで治せるよ」

 

「ち、ちちんぷいぷい? よくわからねえけど、頼むわ……」

 

 僕は魔術師のおでこに手を当ててやる。

 ほい、【インフルエンサー】-【疾病耐性】っと。

 

「お……おおおお!? き、奇跡だ……! アノール、お前、顔が元通りになったぞ!」

 

「ほ、本当……!? 本当に!? ああ、手がすべすべ! 私の手だ! 私の本当の手に戻った……! 信じられない……!!」

 

 女戦士とシーフは、魔術師の顔を見るや否や左右から抱き着く。

 そして魔術師は自分の手を眺めると、両手を胸の前で抱きしめるようにしてぼろぼろと涙を零した。

 

「ああ、体が痛くない……! 本当に病魔が去ったんだ! ありがとう、ありがとう……!」

 

 うんうん、よかったね。やっぱり感謝されるのは悪い気分じゃないな。チートでパパッと治しただけなので大げさに感謝されるのは面映ゆいけど……。

 それより、もらうものはもらわなきゃね。

 

「じゃあ治療費ちょうだい。2人合わせて銀貨10枚だよ」

 

 すると女戦士と魔術師は、奇妙なものでも見たように顔を見合わせた。

 

「あ、あの……さっき言った額はさ、言葉のアヤで……」

 

「本当にごめんなさい。リーダーがケンカ腰になっちゃって……」

 

 ん? もしかしてこれ、値切ろうとしてる?

 

「ダメダメ、びた一文まからないよ。タダでさえ安いんだから。はい、1人銀貨5枚! それ以上でもそれ以下でもなく、1人5枚しか受け取らないからね!」

 

「……あ、ああ。そこまで言うんなら……」

 

 ちゃりんちゃりん。

 よっしゃ、初報酬ゲットだぜ! 20%はギルドに納めないといけないから、銀貨8枚が儲けか。それでも今日の晩飯代くらいにはなるな。

 この調子でどんどん儲けたいね。

 

「それにしても気を付けないとだめだよ。梅毒をうつされるなんて」

 

 別に他人の恋愛事情に興味もないんだけど、お金もらったし一応忠告くらいはしてあげる。

 すると魔術師はバツが悪そうに俯き、女戦士は苦笑いを浮かべた。

 

「まあ、そう言ってくれるな。いつもはちゃんとした娼館に通ってるんだけど、たまたまオキニの王子(男娼)が埋まってる日があってさ。ちょっとグレードの低い店に行ったら、そこでもらっちまったみたいだ。まあ女の性欲は我慢できるもんじゃねえからな。特に冒険から帰って来たあとはムラムラしちまってよ、ガハハ!」

 

 え、ちょっと待って聞き流せない話が出てきたんだけど。

 

「……冒険者って、みんな娼館に行くの?」

 

「そりゃ当たり前よ。アタシらに婿入りしたいなんて男はいねえから、性欲発散するのもガキこさえんのも娼館行くしかねえわな! ま、婿入りしたいって男がいるなら別だけどよ……」

 

 ナンバー2の女冒険者3人は、なにやらねっとりとした視線を僕に浴びせてきた。なんだろう、妙に悪寒がするような……。

 いやあ、さすがにパスだわ。性病がはびこってる店で男遊びしてる女はちょっと遠慮したいかな。【疾病耐性】持ちの僕が性病にかかることはないだろうけど、やっぱりね……。ばっちいとまでは言わないけども、敬遠したい気分になる。

 

 

≪説明しよう!

 これは風俗通いは男の甲斐性だよな、ガハハ!と自慢するオッサンに対して一般人の女の子が白い眼を向けるときの感情である!≫

 

 

 やっぱり付き合うなら身持ちが固い女の子がいいな。この世界にそんな女の子がいるようにも思えないけど。そうすると、僕はこの世界でも生涯童貞なのかなあ。来世でまた童貞ボーナスでコインもらえるならそれでもいいけどさ。

 

「じゃ、あんがとなユージィ! またなんかあったら頼むわ!」

 

「はいはい、もう病気うつされるような店に行くのはやめときなよ」

 

 女戦士に肩をバンバン叩かれ、女魔術師に深々と一礼され、寡黙なシーフに渋い仕草で黙礼をされて、お客第一号と第二号は去って行った。

 とりあえず今日の分の晩飯代は稼げたし、一休みするかな……。

 

 そう思って歩き出した矢先、様子を見ていた群衆の中から大慌てで10代後半くらいの女の子が飛び出してきた。

 つぎはぎだらけのかなり質素な服装で、口元を抑えながらコホコホと咳込んでいる。

 

「ゴホ、ゴホッ……す、すびばせん! あの、病気治してくれるって本当ですか! ずっと風邪が治らなくて、私も診ていただけまぜんか……?」

 

「ん? 別に構わないよ」

 

「それで、あの……治療費は……。やっぱりざっきの人たちはギルドのお仲間だからあんな値段だったんでずよね? 私、あまり持ち合わせがなくて……」

 

「ああ、銀貨5枚でいいよ」

 

「ほ、本当でずか……! ぜ、ぜひお願いしまず!」

 

 僕たちがそんな会話をしていると、街の人たちがどよどよとざわめきはじめた。やがて何人かが僕の前に駆け寄ってくる。

 

「わ、私もいいですか!?」

 

「ごめんよ、あたしも診ておくれ!」

 

「ちょっと、押さないでよ! 私が先だよ!」

 

「お願いします、この子を診てください! まだ生まれたばかりなのに病気にかかって、泣きもしなくて……」

 

「倍だ、倍払う! 10枚出すから私を先に診てくれ! リューマチが痛くて痛くて仕方ないんだよ!」

 

「なんだよ10枚ぽっちで! オレは3倍……いや、10倍出す! 頼む、オレを早く見てくれ! 二日酔いで頭が痛くて死にそうなんだ!」

 

「ちょっと、酔っぱらったくらいで割り込まないでおくれったら! あたしの分の魔法がなくなったらどうしてくれるんだい!」

 

 駆け寄る人々はみるみる増えて、あっという間に僕を取り囲む人混みができる。やいのやいのと押し合いへし合い、取っ組み合いのケンカを始める始末だ。

 おやおや? これはこれは。

 もしかして僕のターン来ちゃった?

 

 僕がこほんとわざとらしく咳払いすると、街の人たちは一斉にこちらを見た。

 そんな彼女たちに、僕はにっこりと笑って売り口上を口にする。

 

「はいはい、治してほしい人は一列に並んでくださいね。割り込みする人は最後尾に並び直してもらいますよ。何人でも治せるから、おとなしく順番を守ってください。お代はこの冒険者ギルドの旗印にかけて、誰でも一律で銀貨5枚です。どんな軽症でも重病でも、貧乏人だろうが金持ちだろうが、老若男女の隔てなく。誰であっても平等に5枚きっかり払ってもらいますからね!」

 

 よーし、いっぱい治していっぱい儲けるぞー!




【雄士があまりにも考えなしに行動していると思われた方への解説】

雄士が自分の行動がもたらす結果を深く考えていないのは、【精神耐性】のデメリット効果です。

人間が行動する前にその是非を考えるのは、行動の結果が人間関係や自分の利害に悪影響をもたらすことを恐れるためです。
しかし【精神耐性】は共感性を失わせるため、人間関係にヒビが入ることを忌避しなくなり、何か不利益があっても耐えればいいやというマインドになってしまい、結果的に考えなしに行動しがちになってしまいます。

なので「みんなは病気が治って幸せ、僕もお金がもうかって幸せ! みんなハッピー!」と思いつきに飛びついてしまっているわけです。

……というのが一応の解説ではありますが、まあこの作品コメディだしね!
難しいことなんて考えず、気楽に楽しんでいってくださいな。
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