【書籍版1巻2/20発売】貞操逆転ハードモード異世界を鋼メンタル冒険者が生き抜く   作:風見ひなた(TS団大首領)

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第123話「公権力を使って全力で寝取りに来る女」

 話は数時間前に遡る。

 アミィはサウザンドリーブズの領主の館を訪れていた。要件はひとつ、領主代行である姉のアンゼリカに、雄士との結婚の許諾を得るためである。

 

 既に領主である母からの許諾は取り付けている。

 武者修行にかまけて浮いた話のひとつもない次女が、なんと万病を治す力を持つという聖者を捕まえてきたのである。そりゃもう反対意見の出ようもなく祝福してくれた。

 

 元より、雄士は根無し草の外国人なのだ。それをサウザンドリーブズのために格安価格で奉仕させようなど、頭おめでたいことを考えるのはデアボリカくらいのものであった。

 領主である母はもう少し現実が見えているので、根無し草が無条件で働いてくれるなどとは思っていない。しかもこの街の裏の支配者であるゴールドンとその聖者は懇意であるという。

 所詮無爵位のジェントリに過ぎないホットテイスト家の権力では、聖者に言うことを聞かせることなどできようわけがない。

 だが、聖者を繋ぎ止めることはできないとはいえ、みすみす聖者を見逃すのは惜しい。せめて自分たちが重病を患ったときに治療を受けられるコネくらいはつないでおきたい。

 

 なんとかならないものか……と思っていた矢先に、アミィからの結婚報告である。

 身内であれば、治療を受けるコネとしては充分だ。

 出来の悪い三女ことデアボリカが聖者の周辺をチョロチョロしているのは気になるが、出来の良い次女であるアミーティアが何とか抑えてくれるだろう。むしろデアボリカもアミィのおまけで嫁にあげてもいいとまで領主は思っているが、それは雄士が断固拒否するだろう。

 無駄な爆乳と顔の偏差値以外はマイナス要素の塊のような女である。

 

 というわけで領主の許諾は得ているのだが、領主代行であるアンゼリカの許諾はもらっていない。

 困ったことに、あまり統治にやる気がない領主と違い、アンゼリカはバチバチにやる気がある。既に領主は病がちな体質を理由に実権をアンゼリカに譲っており、アンゼリカがサウザンドリーブズの実質的な領主と言って過言ではない。

 そのアンゼリカに結婚の許諾を得ようとしても、なんのかんのと理由をつけて面会を拒絶されてしまっているのだ。手紙も何通か送っているが、とんと返答がない。

 

 貴族の端くれであるホットテイスト家の一員として、アミィが結婚するためには家長の許可が必要なのである。

 このあたり、現代日本なら好きになった相手がいるなら自由に結婚すりゃいいじゃんとなるが、この時代では前提が異なる。個人より家の意思の方が優先されるのが貴族というものだ。

 結婚とは個人同士ではなく、家同士がするものなのだ。結婚するかどうかは家長の匙加減ひとつで決まる。

 

 なのでアンゼリカが許可してくれない限り、アミィは結婚できないでいたのだが……いい加減そろそろ許可が欲しい。

 今回の一件で雄士はドラゴンやゴブリンからも引く手あまたの人材だとはっきりしたわけだし、この街に戻ってこれたのは一種の奇跡ですらある。雄士を繋ぎ止めるためにも、結婚を進めるべきだ。

 そしてアミィと雄士の初夜も迎えたばかり。ロマンチックにお姫様(王子様)扱いしてくれるなんて……フフフ。いかんいかん、思い返すとだらしなく頬が緩んでしまうな。

 

 ということをどうにか進言しようと思っていたところ、アンゼリカの方から面会しようと言ってくれたのである。

 やれやれ、ようやく肩の荷がおりる!

 これで大手を振ってユウジと結婚できるし、あの屋敷で夫婦4人+ドラゴン1匹で幸せに暮らしていけるな。アミィはそんなことを考えていた。デボ子のことは忘れている。

 

「こうして顔を合わせるのは久しぶりですね。アミーティア」

 

 すっかり領主代行が板についた様子で、アンゼリカはにっこりと微笑んだ。

 相変わらず田舎のジェントリとは思えない、際立った美貌の持ち主だ。

 錫杖を握る手は白魚のように細く、ピンクのロングヘアは艶々としており不衛生さの欠片もない。もっと格の高い貴族と名乗っても通じるほどの、艶やかな美貌と澄んだ知性を感じさせる、とびっきりの出来物である。

 

 よかった、いつもの姉様だ。アミィは密かに胸を撫で下ろした。

 公正な判断力と理知に長けた、ホットテイスト家が誇る傑物。無論アミィにとっても、家長として担ぐのに文句のない人物だ。

 何のかのと理由をつけて会ってくれなかったが、決して私情で判断を曇らせない理知的な人柄には何の変化もないようだ。

 

「はい。姉上もお変わりなく。頭を怪我されたので人前に立てないと聞いておりましたが、もうすっかりよいようですね」

 

「ええ。心配をかけましたね、アミーティア」

 

「いえいえ、大事がなくて本当によかった。それで、早速ですが今日の用向きですが……」

 

 迂遠な世間話をするでもなく、いきなり本題を持ち出すアミィ。

 貴族らしさに欠けるが、武人らしく実直ではある。アンゼリカは困った妹を見る目で、くすりと微笑んだ。

 

「前に手紙でも触れましたが、結婚したく思います。相手はユウジといい、流れ者の外国人ですが万病を治す力を持っております。家として縁を繋ぐことに決して足りぬ相手ではなく、本人の性格も……その、トリッキーと言いますか、多少何をしでかすかわからないところはありますが、優しく義理固い性格です」

 

「知ってます」

 

「……え?」

 

 アミィは顔を上げたが、そこにあったのはどうかしました?とばかりに穏やかな瞳を向けるアンゼリカの笑顔だった。

 聞き間違いか? アミィは言葉を続けることにした。

 

「それで、結婚の許可をいただきたいのですが……」

 

「ええ、いいですよ。許可しましょう」

 

 あっさりとアンゼリカは頷いた。

 なんだ、全然怒ってないじゃないか。アミィはほっと胸を撫で下ろす。会おうとしても会ってくれなかったので何か機嫌を害したのかと思ったのだが、いつも通りのアンゼリカだ。

 すべての判断を法に委ね、決して私情を挟むことはない。昔からアミィが頼りにする姉の姿だった。

 

「では、初夜権を行使させていただきましょう。結婚式が終わった後、初夜を迎えるのは貴方ではなく私です。これは家長としての命令です、貴方に拒否権はありません」

 

「なっ……」

 

 アミィは二の句を告げず、呆然とたたずむばかりだった。

 

 初夜権。

 領民が結婚した場合、花婿との初夜は領主が迎えるという権利だ。

 もちろん、こんな悪法が実際に行使されたことはない。だが、制度としては存在する。

 この悪法が存在することによって領主にはそれだけの権力があるのだと平民に示し、領主はそれを行使しないことで領民に寛容さを示す。

 決して行使されることはない法として、この法は慣例的にナーロッパ地方全域に存在しており、サウザンドリーブズもその例外ではなかった。

 

 その見せ札でしかない法を、行使すると言ったのか? あの公正な姉が?

 

「はは……御冗談でしょう姉上。デアボリカに吹き込まれたのですか、その冗談は笑えませんよ」

 

 アミィは乾いた笑いを浮かべて冗談で済まそうとしたが、アンゼリカはいたって真顔で続けた。

 

「私は本気です。もちろん、子供を宿したら産みます」

 

「…………」

 

 アンゼリカは真剣な目をしていた。つまりガチで孕む気でいる。

 

「姉様には配偶者がいるではないですか……。もし子供ができたら、その子をどうなさるおつもりなのです? お家騒動の種になります」

 

「嫡子にします。ホットテイスト家も継がせます。聖者の子なのですもの、誰にも不適格などとは言わせません」

 

 口の中をカラカラにしてなんとか紡いだアミィの反論を、アンゼリカはバッサリと切って捨てた。

 

 ここに至ってアミィは悟った。本気だ。なんとしてでもユウジの子を孕む気でいる。

 こうまでユウジに執着する理由は定かではないが……いや、実際にはユウジとどこかで面識があるのだろう。家族の縁を理由に彼を繋ぎ止めようというのなら、アミィだけで十分だ。

 そして法を盾にしている以上、アミィには止めようがない。このサウザンドリーブズにおいて、アンゼリカは最高権力者だ。住民の誰も逆らえない。

 

 アンゼリカは最後にふっと目元を和らげた。

 

「ごめんなさいとは言いません。だけど、私にはこの方法しかないのです。憎んでくれても結構。だけど……もう決めました。私は彼の胤を孕みます」

 

 断固とした決意。

 その目つきを見たとき、アミィは悟った。アンゼリカは愛に狂っている。

 そして誰よりも法を忠実に守る彼女だからこそ、法に則ってアミィに手出しできない形でユウジを獲りに来たのだと。

 

 

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「……というわけなんだ」

 

 そうアミィさんは苦悩を顔に張り付けながら、言葉を結んだ。

 

 そうか……アンゼリカさんはそこまで僕のことを抱きたがっているのか。

 いや、正直なんでそこまで気に入られているのかわからないが。僕がやったことってリンボーダンスを披露したり、ホストの真似をしたり、半ズボンをアンゼリカさんの頭に被せただけなんだけどな。

 不敬だと怒られるようなしでかしにはいくつも心当たりがあるんだけど、惚れられるような行為にはとんと覚えがない。人の好みってわからないなあ……。

 

 アミィさんの話を聞いた側の反応は様々だった。

 

 アイリーンはカンカンに激怒して、「そんなのってないよ! お貴族様だからって好き放題しすぎじゃない!?」と足を踏み鳴らしている。まあ常識的な反応だね。

 ウルスナはふうんと呟きながら顎をさすり、無言を貫いている。

 

 ドラコが無言で踵を返そうとしたのを、ウルスナは冷静に呼び止めた。

 

「おい、ドラコ。どこへ行くつもりだ?」

 

「決まってるだろ。今から領主の館を焼いてくるんだよ!」

 

 口から湯気を吐き出しながら吠えるドラコ。その瞳孔は爬虫類のように縦に裂け、真っ黒に染まっていた。

 めっちゃ迫力がある。ドラゴンって本気で怒ったらこんな感じになるんだね。

 そんなドラコに、ウルスナは溜息を吐く。

 

「やめておけよ」

 

「くだらない法のために、先生が好きでもない相手に抱かれるんだぞ! しかも結婚式の直後に! 僕がそんな奴焼き殺してやる! ウルスナは悔しくないのかよ!?」

 

(はらわた)が煮えくり返ってるに決まってんだろ」

 

 次の瞬間にウルスナが醸し出した凄みは、激怒しているドラコをして黙らせるものがあった。その表情にいつもの軽薄さは微塵もなく、眼光には殺意が満ち溢れている。

 

「怒るほど冷静になるタチなだけだ。……本音ではすぐにでも殺してやりたい。貴族の風上にも置けない、恥ずべき行為だ」

 

「じゃあ!」

 

 勢い込んで言うドラコに、ウルスナは首を横に振った。

 

「乗り込んで殺しに行くのはダメだ。貴族殺しは大罪だぞ。ユウジと暮らせなくなる」

 

「それは人間の法だろ! ドライグには関係ないじゃないか!」

 

 確かにそうかもしれない。ドラゴンは現時点ではモンスターだと思われている。仮に領館を襲ったところで、天災として受け止められるかもしれないが。

 

「ダメだよドラコ。ドラゴン族はこれから人間と商売をするんだろ? 危ない連中だと思われるとその話もパアになっちゃうよ。ドラパパはそんなこと望まないはずだ」

 

「ぐぐぐぐ……!」

 

 ドラパパの名を出して僕がめると、ドラコは押し黙って地団太を踏んだ。

 あんだけ話をまとめるのに苦労したんだ、ここでドラコを暴れさせてフイにするわけにはいかないよ。

 

「もう知るか、フン!」

 

 当事者の僕が冷静に諭したのが効いたのか、ドラコはフンとソファに飛び乗って、背中を向けて横になってしまった。拗ねてるみたいだ。

 

 さて、とりあえずアンゼリカさんを暴力でどうこうするという意見はなくなったかな。

 アイリーンもウルスナも不満たらたらそうだが、カチコミしようとは思ってないらしいし。

 話を持ってきたアミィさんはずっと済まなそうな顔をしている。妹としての立場と妻としての立場で揺れているのかな。

 

「まあ一晩体を好きにさせるだけで済むんだろ? 犬に噛まれたと思って忘れちまえよ、な?」

 

 そうニヤニヤしながら言ったのはデアボリカだ。なんとも下世話な笑顔を浮かべながら、ウリウリと僕の腹に肘を当てて来た。

 

「いよっ、憎いねこの色男。どうやってアンゼ姉様に取り入ったんだ? まあアンゼ姉様も少しトウは立ってるが美人だし、お前にとっても悪い話じゃないだろ? これで私も肩の荷が下りるってもんだ」

 

「本当に殺すぞ貴様」

 

 僕が何か言う前にウルスナからガチの殺意を向けられ、デアボリカはヒッと息を呑んだ。

 じょばーという音もした。

 あ、こいつ……またお漏らししやがった……!! デアボリカの膝を伝う黄色い液体を見ながら、僕は溜息を吐いた。

 

 まあ今のウルスナの言葉は本当に殺意の塊だったから、さもありなんとも思うけどね。地獄の底から湧き出てきた呪詛かと思ったよ。

 ウルスナも元は騎士だったって言うし、戦場で本当に人を殺した経験もあるんじゃないかなあ。絶対に怒らせちゃだめだね。

 

「……ユージーンはどう思うんだ? 体を一晩好きにさせていいのか?」

 

「僕の意見か……」

 

 心なしか柔らかいトーンで訊いてくるウルスナに、僕は顎をさすった。

 

 正直に言えば、光栄な話だと思う。

 アンゼリカさんは美人だし、頭もよさそうだし、そんな人に一晩でもいいからと体を求められるのは、男性冥利に尽きる話だよ。

 僕が未婚であれば、こちらからお相手させてもらいたいほどだ。

 

 だけど、それは未婚なら、の話だ。

 僕にはもうアイリーン、ウルスナ、アミィさんという心に決めた人たちがいる。

 

 僕はユニコーン気味というか、彼女たちが他の男性とよろしくやってるのなんて我慢ができない。想像するのだって嫌だ。一生僕だけを好きでいてほしいし、他の男性なんて見てほしくない。女性で言えば、相手を束縛するタイプのヤンデレなのだ。

 そういった貞潔を女性に求めるのに、自分は他の女性とイチャついてもいいというのはアンフェアだと思う。

 女性の側に生涯僕だけを見ていて欲しいと求めるのなら、僕の側もこの子たちへの貞操を守るべきだ。少なくとも人妻に色目を使うなんてあっちゃいけないよ。

 

 というか、僕の方こそこんな魅力的な美女3人を嫁にするなんて恵まれすぎてるよ。他の男性に口説かれてないか心配になってきた。どの子も本当に魅力的だし、ソワソワしてきたなあ……。

 

 

≪説明しよう!

 雄士は嫁が他の男性に奪われないか心配しているが、無用の心配である!

 この世界の男性は基本的に家に閉じ込められているか、娼夫しかいない! そもそも出会いが存在しないし、男性は自分から女性を口説きにいくような積極性も持っていないのだ!

 

 むしろ女性に鼻の下を伸ばす雄士はとんでもねえビッチであり、雄士が他の女性に靡かないか戦々恐々としているのは嫁たちの方である!≫

 

 

「僕はみんな以外の女性を抱くのは嫌だよ。生涯君たちだけを愛するつもりだ」

 

「ユージーン……」

 

「ユージィ……」

 

「ユウジ……」

 

 きっぱりと言った僕に、お嫁さんたちはほっと胸を撫で下ろした。

 ……僕がアンゼリカさんに抱かれるかもと思ってたのか、やけに安心した感じだけど。

 

 しかし、そうは言ったもののどうしたもんか。

 僕がサウザンドリーブズの住民である以上は、初夜権を拒む手段がない。法で決まっていることだしなあ。

 じゃあどっかに引っ越す? とはいえどこにって話になるし、アミィさんはアンゼリカさんの妹だからどこに逃げても縁は付きまとってくる。

 いっそ4人で駆け落ちとかしちゃうとか? ここまで生活基盤を築いたのに、全部投げ捨てて新天地へってのはもったいない気がするけど。それにドラゴン族との交易の話もあるし。

 

 あるいはゴールドンのおじいちゃんになんとかしてもらえないかなあ。

 結婚式の段取りは任せろー(バリバリ)とか言ってたし、これも段取りのうちってことで……いや、でもスラム住まいのおじいちゃんにあまり無理を言うのも悪いな。

 

 うーん、いい方法が思いつかないぞ。

 僕が考えあぐねていると、ウルスナは心なしか明るい表情で言った。

 

「よし、ユージーンがそう言うのなら方針は決まった! 俺にいい作戦がある!」

 

 えっ……。

 どう見ても手詰まりに見えてるんだけど、一体どうやって……?

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