【書籍版1巻2/20発売】貞操逆転ハードモード異世界を鋼メンタル冒険者が生き抜く 作:風見ひなた(TS団大首領)
ウルスナとアイリーンは僕との結婚のために、自分ができることをしている。
一方の僕が何もしなくていいのか? それじゃ男が廃るよね。
というわけで、ウルスナたちとは別に僕は自分のできることをすることにした。
「そんなわけで直談判だ。アンゼリカさんの夫のところに行くぞ」
まあやることは単純に旦那さんに告げ口するだけなんだが。奥さんこんなことしてますぜ、男として黙ってていいんですか!みたいな。
取次は前もってアミィさんにお願いしている。本来なら貴族に平民が面会を申し込むなんて無茶だけど、僕には聖者って肩書があるし、なにより初夜権を行使されそうになって当事者だもんね。即日面会が叶ったよ。いやあ聖者って肩書がありがたいと思ったの初めてだなあ。
そのアミィさんは、浮かない顔で僕のボディガードを勤めている。
どうしたのアミィさん、これでガツンと言ってもらえれば、初夜権云々も立ち消えになるかもしれないよ?
「うん……まあ、そうなるといいな」
なんか歯切れが悪いな……アミィさんらしくもない。
まあいいや、そんなわけでアミィさんとドラコを連れて領主の館にやって来たよ。別にドラコは連れてこなくてもよかったんだけど、まあ社会科見学をついでにやろうかなって思って。人間がどんな暮らしをしてるのか、見ておいた方がいいよね。
そんなわけで領主の館に足を踏み入れたんだけど……。
あれ、貴族ってこんなもん?って拍子抜けした。確かに平民の住まいよりは綺麗ではあるんだけど、思っていた宮殿とかではない。ちょっと立派な家程度の豪華さだ。お役所としても機能している建物だから、役人たちが働く分大きくはあるんだけど、装飾はあまりぱっとしない。
下手すると僕たちが住んでる(デアボリカの)屋敷の方が立派かもしれない。
「期待に沿えなくて申し訳ないが、ジェントリの住まいなんてこんなもんだよ。貴族と言っても平民に毛が生えたようなもんさ」
露骨にがっかりしている僕の表情を見て、アミィさんは苦笑を漏らした。
そうか……。そういえば貴族の暮らしといえばロングフィールド伯爵家しか知らなかったもんな。立派な庭園もあったし、屋敷も広かったし、あそこってガチの金持ちだったんだね。
「なんかデアボリカの家の方が立派かも……」
「ああ……。あいつは見栄っ張りだからな。金をかき集めて、領主より立派な屋敷を建てたのさ。身の程知らずにもほどがあるがな」
まあ今ではそこに僕たち一家ががっつり住んでるわけですけどね。
デアボリカ1人で僕たち5人に勝てるわけないだろ! 民主主義的に!
ドラコは僕の後ろを歩きながら、物珍しそうにふうんと鼻を鳴らしている。顔に案外大したことないなって書いてあるよ。これは実家の宮殿と比べているんだろう。
まあドラパパも海外貿易でガチで儲けてるからね。あの人も相当なお金持ちだよ。
ややあって、僕たちは屋敷内の一室に通された。
僕は平手でパンっと自分の頬を張り、気合を入れる。
さあ、決戦の時だ!
「……というわけで、奥さんは僕に初夜権を行使しようとしてるんです! どう思いますか!?」
「そうですね……」
勢い込んで告げ口する僕に、アンゼリカさんの旦那さんはゆっくりと頷いた。
アンゼリカさんは二十代後半だからてっきり若い兄ちゃんが出て来ると思ったのに、旦那さんというのは四十代のおじさんだった。ロマンスグレーっていうのかな、髪や髭に白いものが混じり始めている、ちょっと枯れた雰囲気の人だよ。
ただ、身なりは結構ちゃんとしてる。伊達なおじさまっていう雰囲気があるね。
名前はアンドレイ氏というそうだ。
これは僕も少し意外だった。なんせアンゼリカさんとは一回り以上歳が離れている。ハタチの僕からすれば、二倍以上も年上の相手だよ。
とはいえ、これで怯んでもいられない。幸せな結婚生活のため、僕は爆弾をぶちまけた。
「私が妻を満足させられていないということでしょう。貴方には大変申し訳ない思いをさせています」
「ですよね! だから奥さんにガツーンと……」
「ガツンと……何を言うのですか?」
気弱そうに口を開くアンドレイ氏に、勢いで押し切ろうとしていた僕はつんのめった。
いや、何を言うのかって、決まってるじゃないか。
「そりゃ自分という夫がいながら、僕みたいな若造に浮気するなんてけしからんとか!」
「……? 女性が複数の男に目移りするのは普通のことでは?」
「は……」
いやいやいや、何を言い出すんだ?
パートナーが浮気しようとしてるんだぞ? 何をおっとりした顔をしてるんだ。
僕ならアイリーンやウルスナに別の男が言い寄ってるって考えただけで我慢ならない。寝取られる可能性を考えただけでゾワゾワする。
夫婦だぞ、嫁さんは自分で守らなくてどうするんだ。
僕が信じられないものを見る目で見つめる中、アンドレイ氏は自嘲するように小さく笑う。
「私もトシですからね……。こんな枯れた男より、貴方のような若くて
「はあ……」
僕はアンドレイ氏の言葉に、ぽかんと頷くことしかできなかった。
まあアンゼリカさんのことだし、役目だからといって無表情に男に跨って腰を振っている姿は容易に想像できる。
あの人、そういうことしそうだ。普段はニコニコしてて人当たりがいいんだけど、内面の機械的な部分を隠すための擬態というか……。
下手にいつも微笑みを絶やさない分、ベッドルームで無表情になるのきっついな。
チンポ中折れしそう。
いや、それはともかく!
「貴方はそれでいいんですか!? 悔しいでしょう!? 僕みたいなちょっと前まで毎日ドブさらいしてたような肉体労働者に嫁さんを抱かれようとしてるんですよ! もっとこう、言うことがありますよね!」
「言うこと……?」
アンドレイ氏はしばし考えてから、僕に頭を下げた。
「この度はどうも……。不甲斐ない私に代わって、妻を満足させてやってください」
「……は……!?」
さすがの僕も絶句した。
どこの世界に間男に向かってどうぞ寝取ってくださいなんて頼む旦那がいるんだよ!
寝取らせ系エロマンガでしか見たことないわそんな男!
思わず立ち上がったものの、僕は二の句も告げないまま黙ってアンドレイ氏が頭を下げるのを見つめることしかできなかった。
そんな僕の袖を、アミィさんが引っ張る。
「ユウジ、もういいだろう。これ以上は何の実入りもない。帰ろう」
「アミィさん……! だって、こんな情けない男! 一言言ってやらなきゃ気が済まない!」
「違うんだ、ユウジ。これが普通なんだ。これが一般的な男性像なんだよ」
アミィさんの言葉に、ドラコがつまらなさそうに鼻を鳴らした。
僕が興奮しすぎたのでちょっと落ち着かせる、という名目で、しばしのクールタイムを設けることになった。
別室に通された僕は、そこでアミィさんから補足の説明を聞くことになる。
「それで……あれが一般的な男性像っていうのは?」
「見ての通りだ。男性というのは、女性に所有されるものなんだよ。女性がいくら外にオトコを作ろうと、男性の側にはそれを非難する権利はない。諦めとともに受け入れるしかないのが普通なんだ」
そんな馬鹿な……!
……とは思うが、貞操逆転的に考えれば、ここは18世紀の中世世界ということになる。
その時代は女性の権利が弱く、男性は好き放題していたと聞いたことがある。特に貴族社会ともなれば、完全な男尊女卑の世界だろう。
その男女の力関係が逆転していると考えると、嫁さんに何も言えない旦那というのもわからなくもない。
「そもそも、これまでお前が接してきた男性というのが外れ値ばかりなんだ。普通の男性というのは、女性に口応えなどしない。女性の決定に従順に従うのがよい男性とされている」
アミィさんの言葉に、またドラコがフンとつまらなさそうに鼻を鳴らした。
まあ……確かに。ドラコは女性上位の社会に触れて嫌な思いをしたばかりだしね。
思えば、僕の周囲の男性たちは女性に対して強く出る人ばかりだ。
逆転して考えると、ウェズ君は家に押し込められるのを嫌って、女だてらに男社会へ殴り込んだタフなお嬢さんってことになる。
ロングフィールド家のジャニス君も、女性ながらに家督相続して、男性しかいない貴族社会に立ち向かおうとしている貴族令嬢と考えれば、なかなかのガッツだ。
ゴールドンのおじいちゃんも、女性ながらに大きな権力を持つフィクサーってことになる。ドラパパは女性ながらに愛する夫と巨万の富を築いた冒険商人だ。
なるほど……確かに僕の周囲の男性って例外的にすごくたくましかったんだな。
普通の男性というのはもっと大人しいものなのか。
「加えて、
「イくとき『アクメシマス、ピーーー』とか言いそうだもんね」
「ぶほっ!!」
僕の冗談がツボに入ったのか、アミィさんはしばし呼吸できなくなるほど引き攣った顔でうずくまり、それから勢いよく突っ込んだ。
「笑わせないでくれないか!? なんだそれは!?」
「ロボットの絶頂シーンだけど?」
「いや、わからん……。ユウジの世界ではそんなものがあるのか……?」
「ないけど?」
「じゃあなおさら何なんだよそれは!?」
僕にもわからん。
まあ近い将来、セクサロイドが普及したら一般的な光景になるんじゃないかなあ。地獄か?
さて、そんな場を和ませる小粋なジョークはさておき。
「アンドレイ氏はアンゼリカさんを満足させられてないのか」
「私も詳しくは立ち入ってないがな……。だが結婚して数年になるというのに、まだ子供はない。姉上にはお前との間に子供ができたら、嫡子にするとまで言われたよ」
「はあ……」
それは……面倒な予感しかしないなあ。
その子のパパを名乗るのは僕なの? アンドレイ氏なの?
ややこしい問題をパスするためにも、アンゼリカさんにはアンドレイ氏の胤だけ孕んでもらいたいところだが。
「ならやることは一つだ。アンゼリカさんがアンドレイ氏に惚れ直してもらえばいい。僕なんか目に入らないような魅力的な男性が夫なら解決じゃないか」
「ああ……。いや、まあ……。それはそう……かもしれないが」
あっけらかんとした僕の言葉に、アミィさんは何とも言えない顔をした。
どうしたの? ドラコと揃ってそれができれば苦労はしねェ!!って顔してるけど。
できるできる、もっと気楽に考えようよ。
「だからってその……どうしろっていうんだ?」
「アンドレイ氏がムキムキになればいいんだ! 僕、これからアンドレイ氏に指導して、強靭な肉体を作るように進言してくるよ。久々のレッスン開始だ、燃えて来たぜ!」
「は!? いや、その……おいちょっと待てユウジ! おい!」
ようやくやることが見えてきた!
要はロングフィールド家のときと同じことをすればいいんだ! アンドレイ氏がムキムキになれば、夜の生活にも自信が出て、アンゼリカさんも惚れ直す!
これが夫婦生活円満のマッチョライフだ!
よーし、燃えて来たぞ! シックスパック製造機と呼ばれた僕の力を見せてやる!
僕は隣の部屋に入ると、自信満々に声を張り上げた。
「アンドレイ氏! マッチョになりましょう!」
「え……? 嫌ですが……」
次の日の早朝から、マッチョの集団が領館の前に並び、たくましい筋肉を見せつけながら運動するのがサウザンドリーブズの風物詩となった。
彼らは領館に向けて「アンドレイくーん、早く仲間になりなよー!」と叫び、館の男性を熱心に勧誘していたとされる……。