【書籍版1巻2/20発売】貞操逆転ハードモード異世界を鋼メンタル冒険者が生き抜く 作:風見ひなた(TS団大首領)
「マッチョの魅力を伝えるために、毎朝ダンスを踊って勧誘しようと思うんだ」
「そんなのに釣られる奴はいないと思う……」
僕の提案を、ドラコはドン引きした顔で速攻否定してきた。
どういうことだ……?
折角の提案をアンドレイ氏に拒否された僕は、毎朝ブートキャンプをしてはどうかと仲間たちに相談してみたのだが、帰って来たのはすげない拒絶だった。
そんなことってある?
だって毎朝楽しく運動して、マッチョになって、奥さんからも惚れ直されるんだよ?
誰も損することがない、プラスしかない素晴らしい案じゃないか。正直これを考えたとき、僕は自分が天才じゃないかと思ったくらいだよ。
「インストラクターは僕がやるから、何も心配いらないよ。ほら見て、これ仕立て屋から届いた指導用の服だよ。動きやすそうでしょ?」
そう言って僕は自信たっぷりに届いたばかりのトレーニングウェアを見せつけた。
動きやすく、吸水性もバッチリ。上下のセパレートでゴムみたいに伸び縮みするけど、ちゃんと汗も良く吸ってくれる素材を使っているんだ。
この世界の文明レベルだと難しいかなと思いながら無茶ぶりしたんだけど、仕立て屋は僕のオーダーをしっかり反映してくれていた。ドラコの服を頼んだところに注文したんだけど、こんなフェティッシュな服を作らせてくれるなんて……!とわけのわからないことを言いながら、大喜びで仕立ててくれたよ。
サイズも複数用意してもらってるから、アンドレイさんの分もある。
だが、これを見たアミィさんは表情を引き攣らせて叫んだ。
「エッッッッッッロ!!!」
「エロ……?」
僕は首を傾げて、トレーニングウェアを見下ろす。
いや、エロくないよ。どっからどう見てもただのトレーニングウェアだ。
みんなが一体何に引っかかっているのかわからないよ。
≪説明しよう!
ただでさえ男性は人前に出ることが少なく、出るときもなるべく体のラインが出ないよう厚着するのが常識のこの世界において、雄士提唱のトレーニングウェアは体のラインが出まくりでお腹もぱっつり見えているとんでもないエロ服であった!
たとえば現代日本で「動きやすいから~」と言っておへそが見えてる短めのチューブトップに太ももムチムチのローライズの短パンで街を歩いている女がいたら、どう思うだろうか?
動きやすそう以前にうわっ!痴女だ!!とドン引きすることは間違いない!
エロいグラビアでモデルが着ていることはあれど、実際にこれを着て街を歩く奴はいない。そのレベルのエロい服として見えていた!≫
「ユウジ……この服を着て毎朝公道で筋肉を見せつける体操をするだと……? 正気か?」
「正気だけど……?」
アミィさんの言葉に、僕は小首を傾げた。
僕にやましいことは一切ない。何を引かれているのかさっぱりだ。
だけど、もしこれがエロく見えているというのなら。
「これをエロだと認識する人の心が汚れているんだよ。僕はただ運動して筋肉を鍛えようと言ってるだけだ。恥ずかしいと思う人が恥ずかしいんだ」
「うむう……そう言われればユウジの言う通りかもしれん」
「待って、呑まれないで!? アミィ先生までおかしくなったら、僕止められないよ!? ウルスナ先生、帰って来て! 今すぐこいつらにツッコんで!!」
アミィさんが僕に理解を示し始めた瞬間、ドラコがぎゃんぎゃん吠えて抵抗した。
あー、うるさいな。実際やってみたらお前だってこの体操のすばらしさに気付くよ。
「そうだ、ドラコも明日から毎朝僕と一緒にやろう」
「僕も!? なんで!?」
「僕一人だと、ただの変人って思われるかもしれないだろ。だけど複数人がやっていれば、ああこれは意味がある体操だなと思ってもらえる。数は力ってわけだよ」
「先生は変人だよ!? 一人が二人になっても変人が二人になるだけだよ!!」
まだギャンギャン無駄吠えドラゴンしてるので、僕はアミィさんに目配せした。即座にこくりと返事が戻ってくる。
「ドラコ、ユウジに付き合うなら、早朝の訓練は免除してやろう」
「えっ……!? マジで……!?」
「ああ。ユウジの言う通りなら、その踊りで体が鍛えられるらしいからな。踊って体が鍛えられるというのは正直信じられんが、他ならぬユウジが言うんだ。物は試しだろう」
「ぐっ……う、うーん……うーん!!」
途端にうんうん唸って葛藤を始めるドラコ。
そこまでアミィさんにしごかれるのが嫌なのか……。
「いいじゃん、どうせここは人間の街だし。いくら恥ずかしくても、ドラゴンのお前にとっちゃ、旅の恥はかき捨てってなもんだろ?」
ドラコがいつも言ってることを逆手にとって、僕は耳元で囁いてやる。
ふふふ。悪魔の囁きだぜ。
「わ……わかったよ。少し踊るだけだからな」
「よし!」
ドラコが渋々頷いたので、僕は満面の笑みを浮かべて包みを取り出した。
「ドラコの分のトレーニングウェアもあるんだ! 思いっきり汗をかこうな!」
「!?」
子供サイズのトレーニングウェアを見たドラコは、頬を引き攣らせて呟いた。
「僕、早まったかもしれない……」
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というわけで早朝ブートキャンプが幕を開けた。
「アンドレイくーん! 一緒に体操しようよ~!!」
領館に向けて大声を出すが、アンドレイ氏が出て来る気配はない。
まあいいさ、初日からブートキャンプの魅力が伝わるとは思わない。だけど僕が楽しそうに踊って健康になってるのを見れば、そのうち向こうから仲間に入れてくれって言い出すはずだ。
早速ドラコと並んで、リズムに乗って軽快な体操を披露したよ。
ブートキャンプと言っても、元の音楽を知ってるのは僕だけだし、楽器もない。だから僕がリズムを口ずさむだけの単純な体操だ。
だけど開放感があって楽しい! 朝の道路で踊ってると、ちょっとしたストリートパフォーマー気分だ。こんな楽しいことを知らないなんて人生損してる!!
「ヘイ、ワンツースリーフォー! きびきび動くと楽しいだろドラコ!」
「た、楽しいかって言われても……!」
今日が初日のドラコは、僕の動きについてくるのに精いっぱいだ。普段やらない動きに目を白黒させながらついてきている。
だけど初日からきっちり真似ができるなんて大したものだよ。さすがアミィさんに鍛えられてるだけのことはあるね。
ちんまいトレーニングウェアに身を包み、頑張って踊っている。
ちなみに普段は女装して過ごしているけど、今は男の子の姿だ。正体がバレる危険はないよ。普段が女子だと思われてるから、いざ男の子の格好しても人物像が一致しないでしょ。さすがに角は帽子で隠してるけど、しっぽは出したままだ。へーきへーき。
「うわあ……エッチな服の人がキレッキレのダンスを踊ってる……!」
「え? 何? 今日って収穫祭か何かだっけ?」
「すっごい筋肉……エッロ……!!」
「おちびちゃんかわいいー! あの子どこの子だろー?」
「あのしっぽ、アクセサリーかな……。踊るたびにぶかぶかの帽子とでっぷりしっぽが揺れて、あああああ……! 私の中で何かがめるぅ……!!」
僕たちがノリノリで体操しているのを見て、女性の通行人が足を止めてくる。
なんか涎垂らさんばかりの顔でこっちを見ているけど、ボディガードのアミィさんが怖い顔で睨みを利かせているから、ある程度以上は近づいて来ないね。
うーん、男性の飛び入りがいたら大歓迎なんだけどなー。
富裕層が住む治安のいい通りなので、主夫だと思われる男性がちらちらとこちらを見てはいるんだけど、僕たちに加わる様子はない。
まあ初日だしこんなもんか。
ひとしきり踊り明かした僕は、領館の窓に向けて手を振った。
「アンドレイくーん、見てたー!? 明日もこの時間に来るからね! 参加待ってまーす!」
僕の言葉に、どよっとギャラリーがどよめく。
「聞いた!? 明日も見られるんだって!」
「やっべえ、早起きして最初から見なくちゃ……!」
「明日は友達呼んで一緒に見よう!」
「タダでこんなええもんを見られるなんて……長生きはするもんじゃあ」
「結局これ何だったの? アンゼリカ様のサービスかなあ」
「いや、こんな破廉恥なものをアンゼリカ様みたいな真面目な方が許可するとは思えないけど」
「でもアンドレイって確かアンゼリカ様の旦那さんじゃなかった?」
うるさいな……。参加者は歓迎だけど、ギャラリーは正直どうでもいいのだが。
まあいいや。
僕はぜいぜいと肩で息をしているドラコの頭を軽く撫でた。
「お疲れ様、ドラコ。最後までよく頑張ったな、ナイスガッツだ」
「ふ、ふん……。当然だろ、僕はアンタの弟子だぞ!」
? 僕の弟子だから最後まで運動出来て当然?
その理屈はよくわからないけど、まあ頑張ってくれたのは確かだ。
後でシャーベットでも食べさせてやるか。まあ作るのはドラコなんだけど、布に氷と塩と果汁を包んでぶん回すだけだから、実験感覚で楽しく作れるだろう。
そんなことを考えながら、僕はアミィさんに守られて初日を終えたのだった。
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さて二日目。
今日も今日とてドラコと二人っきりの体操が始まる。
「あらぁ水臭い。そんな楽しいことをするなら、声を掛けてちょうだいよぉ」
……とはならなかった。
いざ体操を始めようとした矢先、ずらっと並んだ男たちが割って入って来たのだ。
その先頭にいるのは……。
「アレスさん!」
「どうも、お久しぶりね♪」
そう言ってアレスさんはウインクを送って来た。
この人は覚えてるよ、ゴールドンのおじいちゃんが経営してる高級娼館“蜜月楼”で働いてるオネエの娼夫、アレスさんだ。
基本人の名を覚えるのは苦手な僕だけど、あまりにもキャラが濃すぎる。
見ればアレスさんの後ろには、“蜜月楼”の娼夫たちがずらりと並んでいる。
「何だこの人!?」
ドラコはぎょっとした顔でこちらを見ている。
そういえばドラコは初対面か。失礼なことを言わなければいいけど。
「あらぁ、可愛い坊やねぇん。食べちゃいたいわ、ウフフ」
アレスさんに不敵な笑みを向けられたドラコは、ささっと僕の後ろに隠れてぶるぶると震えた。
いや、大丈夫か。アレスさんの方がキャラの強さで上回っている。
「アレスさん、どうしてここに?」
「兄貴が何やら路上で妙なことを始めたって聞いてね。どういう理由か知らないけど、兄貴だけが踊るなんて寂しいこと、許さないわよ。兄貴だけを見世物にはさせないわ」
そう言うと、アレスさんは背後の男たちを振り返った。
「お前ら、わかってんな! 兄貴だけに恥ずかしい思いはさせねえ! ここでイモ引く奴はいねぇよなぁ!?」
『うっす! 俺たちは兄貴と一蓮托生っす!』
「昨日の酒は残ってねえな! お貴族様の住む通りだからってビビんなよ!」
『うっす! スラムの気概を見せてやるっす!』
いや、別に僕は恥ずかしいなんて思ってないんだけどな。
しかしそうか、アレスさんたちは普段スラムで暮らしてるのに、わざわざ富裕層が暮らしてる区画まで足を延ばしてきたのか。スラムの人間は富裕層を敵視していると聞く。なのに彼らは敵地までやって来てくれたのだ。
しかも職業柄、彼らは夜に働くはず。つまり仕事が終わってすぐに駆け付けてきてくれたことになる。
それも僕に恥をかかせたくない一心からとなれば、ありがたくないわけがないよ。
「おやおや……先を越されてしまうとは」
「ウェズくん!」
僕の歓声に、ウェズくんはぱちりとウインクを返した。
「ユウジ君の人望は大したものですね。僕も微力ながら馳せ参じたのですが、出遅れてしまったようです」
「順番なんか関係ない、来てくれただけで嬉しいよ!」
「アンゼリカに無体なことを吹っ掛けられたのでしょう? 僕の力ではアンゼリカに翻意させることはできないですが……せめて一員に加えてください」
「ありがとう、ウェズくん……!」
ここにいる人数は十人ちょっとだが、百万の味方を得た気分だ。
なんかウェズくんやアレスさんを見て、ドラコも僕は最初からやる気満々ですが?みたいな顔つきになってるし。
「よーし、やるぞみんな! アンドレイさんにこの体操の魅力を伝えるんだ! では軽いストレッチから、それが済んだらリズムに合わせてノリノリで行くぜ!」
『Hooooooooooooooooooooo↑!!』
『いえーい! 見てるか、アンドレイくーーーーーーん!!』
僕たちの野太い唱和が、早朝の街を揺るがした。