【書籍版1巻2/20発売】貞操逆転ハードモード異世界を鋼メンタル冒険者が生き抜く   作:風見ひなた(TS団大首領)

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第130話「鋼メンタルで挨拶回りをやり抜く」

 結婚式までいよいよあと1日。

 僕は迫りくるカレンダーの日付を見ながら、マリッジブルーを味わっていた……。

 

 嘘だよ。

 というか、まず今がアイリーンとウルスナが帰って来た翌日だ。つまりアイリーンとウルスナが戻って来て2日後にいきなり結婚式を挙式という運びになる。

 

 そんなことできるの? 結婚式っていろいろ段取りが必要じゃないの? と思うところなんだけど……それができちゃったんだよね。

 ウルスナはゴールドンのおじいちゃんと連絡を取って、ゴールドン氏が教会の手配から宿の手配、知人への結婚式の招待状まで全部やってくれていた。

 ウェズ君にも親友代表としてしっかり招待状が届いていたみたい。

 

 ちなみに僕は何一つ知らなかった。僕の知らないところですべての段取りが済まされていた。

 結婚式の当事者が2日前まで何も聞かされてないなんてことある!?って思うんだけど、僕経由でデアボリカに情報を知られるのを警戒してたんだって。

 まあ……あいつなら嬉々としてアンゼリカさんに密告しそうだ。何なら知らないところで僕をアンゼリカさんに売り飛ばそうとしていたとしても、何も不思議じゃない。

 それくらい僕はあいつを信用してない……いや、むしろ逆に信用してる。あいつは絶対にここぞという場面で僕を裏切るという確信がある。

 デボ子に裏切るなというのは犬に吠えるなというのと同じだ。

 

 そんなわけでマリッジブルーというか、事態が急展開したことにびっくりしているのが現状なんだよね。

 あ、独身時代にもっとあれやっておけば良かったとか、そういうのは別にないよ。僕はお嫁さんたちのことが大好きだし、そもそもこれまでだって結婚生活送ってたようなもんだからね。今更本人の意識が変わるってわけでもない。

 ただ法的に僕たちを外部から引き離すことができなくなったわけで、それはとても喜ばしいことだよ。

 むしろニヤニヤしながらカレンダーを眺めちゃう。

 

 でも結婚式を前に、独身時代にやっておくことは何かないかな……。

 あ、そうだ。あれを忘れていた。

 

「これからすぐに出かけよう!」

 

「ど、どうしたユウジ。いきなり立ち上がって……明日は結婚式なんだぞ、今日くらいゆっくりみんなで寛いでも……」

 

 明日の式のために用意されたタキシードの試着や式のリハーサルも終わり、みんなに囲まれながら居間でぬくぬくしていたときに思いついたもんだから、みんなびっくりしたような顔でこちらを見上げている。

 

 ちなみにこの中で一番変わったのはアイリーンだ。

 3週間をかけてウルスナがみっちり貴族教育したそうなのだが、その甲斐あって立ち居振る舞いがすごく洗練されている。香水なんかもつけるようになったし、薄くお化粧もしてる。元が美少女なのに、さらに研ぎ澄まされた感じだ。

 これならお忍びで街に出た貴族令嬢と言っても信じる人がいるんじゃないかな。僕と結婚するための演技とはいえ、こうまで健気に令嬢役に徹してくれると感無量だ。

 

 ただ僕の前で無理に気取ったお嬢様言葉を使おうとしてたので、僕が笑いながら「いつも通りのアイリーンでいいよ。可愛くて元気で、僕は素のままのアイリーンが好きだな」と伝えると、嬉しそうにはにかんで僕に抱き着いてきた。

 ウルスナはあーあと額を押さえてたけど、やっぱりアイリーンは元気じゃないとね。

 

 まあそれはともかく、僕は3人の方を向いて告げた。

 

「ゆっくり寛いでる場合じゃないよ! 結婚式を挙げる前に挨拶に行かなきゃ!」

 

「……誰に?」

 

「みんながお世話になった人たちにだよ! 結婚するならこれまでお嫁さんたちを育ててくれたありがとう、頑張って幸せにしますってお礼を言いに行かなきゃ!」

 

 ……僕の言葉に、3人と1匹は不思議そうに顔を見合わせたのだった。

 

 

 

 なんかね、この世界にはそうした慣習とかないみたいだよ。

 結婚なんか個人が勝手にするもの、ご勝手にどうぞという感じらしい。

 というか、まずもって平民だと結婚式をきちんと挙げるようなことがない。教会を借り切って長々と儀式するような蓄えを、普通の平民は持ってないんだって。そういうのは貴族階級がやるもんなんだそうだ。

 だから役所に結婚しますって届け出を出したら、あとは本人たちの言ったもん勝ちになる。なんなら届け出すら出さず、事実婚で済ませてるようなケースもゴロゴロある。

 

 しかもこの世界、貞操逆転してるからね。

 むしろお嫁さんがお婿さんの家族にこれまで育ててくれてありがとう、後は私が責任もって幸せにしますって宣誓するのが普通なんだそうだ。

 

 でも普通とか関係ねえよなあ!

 僕はやりたいようにやる。

 みんなの家族に恩義を通さねばならないと感じてるのは僕なんだから、僕が納得するようにやるぞ。

 

 ただ、ウルスナとアミィさんには挨拶すべき相手というのがいなかった。

 ウルスナは知ってのとおり実家から家出してこの街に流れてきたし、アミィさんも今更結婚を伝えないといけない相手がいないんだって。

 アミィさんのお母さんには挨拶しようと思ったんだけど、向こうから断られちゃった。毎朝屋敷の前で卑猥な恰好で踊ってる狂人とは会いたくないって。そうかあ……。

 

 そんなわけで僕が挨拶できたのは、アイリーンの関係者だけだった。

 アイリーンを育ててくれた孤児院の牧師さんだね。

 スラムに住んでる60歳くらいのおじいちゃんだったんだけど、これがかなり腰の低い人で、アイリーンと結婚してくれてありがとうと、涙ながらに僕に頭を下げて来た。僕の方が恐縮するくらいだ。

 

 本当によかったね、幸せになるんだよとアイリーンの手を取ってお互いに涙する様子には、僕も思わずもらい泣きしたもんだ。

 ウルスナとアミィさんも、横で見てて鼻を鳴らしてたからね。

 こんな良い人に育てられたから、貧乏育ちでもアイリーンは素直でいい子に育ったんだなと、そう思える人だったよ。

 来てよかったなあ。そう思える一幕だった。

 

 それはいいんだけど。

 

「あれがアイリーンお姉ちゃんの彼氏!?」

 

「バカな……実在しただと!?」

 

「本当に細マッチョでクッソエロい!?」

 

「あたしたちに見栄張って居もしない彼氏の自慢してると思ってたのに!」

 

「嘘だ! こんなことがあっていいわけがない! 世界が私を騙している!」

 

「アイリーンお姉ちゃんみたいなちんちくりんでもあんなマッチョな男を捕まえられるのか……。じゃああたしが大人になったら、もっといい男と結婚できるな! ここを出る日が楽しみ~!」

 

 ……物陰からこちらを見て、ヒソヒソ話してるメスガキたちは何……?

 

「あの……気にしないで……」

 

 真っ赤になったアイリーンが、気まずそうに顔を伏せた。

 ああ、孤児院の子供たちの前で僕のことを話したのね……。

 それにしても実在を疑われるとは。僕ってそんな希少種なのかなあ。

 

 

≪説明しよう!

 アイリーンは雄士と付き合う前、孤児院の妹分の前で、あたしってどちゃくそエロい細マッチョでイケメンで料理もできて優しい冒険者の彼氏がいるんだよね~と見栄を張ったのだが、子供たちからそんな出来すぎた男いるわけねーだろとハナクソほじりながら白い眼を向けられたのだ!

 雄士は話を聞いた人間から実在を疑われるレベルでクッソレアなのである!

 お前はもう少し自分がユニークレアであることの自覚を持て!

 

 なお最後に発言した女の子は、孤児院を出てから現実を知って咽び泣くことになる! 可哀想に!≫

 

 

 

 ひとまず、これで仁義は通した。

 アイリーンを育ててくれた人には挨拶したし、もう何も思い残すことはないな!

 

 ……と思ったんだけど。どうやらアイリーンにはもう一人、彼女に魔法の手ほどきをしてくれた恩師なる人物がいるらしい。

 魔法だけでなく読み書きや初歩的な礼儀作法も仕込んでくれた人で、孤児院育ちのアイリーンがウルスナも一目置くほどの教養を身につけられたのはその人のお陰だそうだ。

 スラムの一軒家に住み、ひっそりと薬の調合などで生計を立てている老婆だという。

 

「あ、でも別に会わなくてもいいよ! 師匠って気難しい人だし……。あたしの方から折りを見て結婚しましたーって伝えておくから」

 

 アイリーンはわたわたと手を振ってそんなことを言うが……。

 

「いや、そういうわけにはいかないよ。聞けばアイリーンに冒険者の素養を教えてくれたのはその人じゃないか。突然訪ねていくのは失礼かもだけど、今日会えるならぜひ会いたいよ」

 

「俺も興味があるな。そうか、やけに教養があるなと思ってたが、そんな人から教えを受けてたのか……」

 

「私も会ってみたいな。スラムにそんな人物がいたとは初耳だ。折角の機会だし、見分を深めるためにも市井の賢者にお目通り願いたい」

 

 僕がどうしても会いたいと言うと、ウルスナとアミィさんも賛意を示した。

 

「う~。そんなに言うなら……。でも牧師様みたいに、手放しでほめられるような人じゃないよ? いつもあたしのことからかっていじめるし……」

 

 僕たちの言葉に折れたアイリーンは、渋々とスラムの中を道案内する。

 いかにも不承不承といった口調だが、なんだか見えない尻尾がぱたぱたと振られているような気がした。まあ誰でも自分のルーツに興味を持ってもらえると嬉しいよね。

 

 やがてアイリーンがたどり着いたのは、みすぼらしい一軒のあばら家だった。

 見るからにボロボロで、本当に人が住んでいるのか?と疑いたくなる廃屋一歩手前の風体だ。ただ、それはスラムの家ならどこだってそうだけどね。

 

「師匠~。アイリーンです、お話ししたいことが……」

 

「鍵はかかってないよ、勝手に入りな」

 

 遠慮がちにドアをノックするアイリーンに、中からぶっきらぼうな声が飛んでくる。

 

 アイリーンに続いてドアに入ると、そこには目深にフードを被り、腰を折り曲げた女性がヒッヒッと笑いながら僕たちを待っていた。

 

「フン。いつだって乱暴にドアを開けては、何か教えてとか面白い物ない?とか訊いてきた無礼なガキが、いっちょ前にノックなんか覚えたかい」

 

「ええと、そのぉ……」

 

 ばつが悪そうに口ごもるアイリーンに、師匠はふぇっふぇっと妖怪じみた笑いを上げた。

 皮肉げに唇を大きく歪め、アイリーンに見透かすように言う。

 

「お貴族様の教育を受けて、少しは行儀が良くなったようだね。それとも彼氏の前だから猫を被ってるのかい?」

 

「え! 師匠、なんでそれを!」

 

 目を丸くするアイリーンに、師匠は人を食ったような笑みを浮かべた。

 

「あたしゃなんでも知ってるのさ。伊達に歳を食っちゃいないよ。なにせ“魔女”だからねえ、ふぇっふぇっふぇ」

 

「はえ~……!」

 

「もちろん、アンタがそこの男と結婚するってこともね。すべてお見通しさ」

 

「さ、さすが師匠……!」

 

 アイリーンは尊敬の眼差しで師匠を見つめている。

 というか……。いや、まあ師匠と弟子で語らってるみたいだからいいか。

 

 そう思っていると、アミィさんが進み出て深々と頭を下げた。

 

「突然の来訪、ご無礼をいたしました。本来なら前もって先触れを出すところですが、結婚式を明日に控えていて時間がなかったので」

 

「ハッ! スラムに先触れなんて大層なものはいらないさね。アンタはこの街を支配してる一族の次女だね?」

 

「はい。貴方のような在野の賢者にお目通りできるとは、光栄です」

 

 先ほどのやりとりから、師匠をすべてを見通す千里眼の賢者と判断したのだろう。

 アミィさんが、畏まった態度で頭を下げている。

 

「よしとくれ、よしとくれ! こんなババアを捕まえて賢者だなんてこそばゆいよ! ふぇっふぇっふぇ!」

 

 口ではそう言いながら、満更でもないように師匠は笑う。結構ノリがいいのかな。

 そして黙って観察するような鋭い視線を向けているウルスナにも目をやり、フフッと笑った。

 

「アンタのことも知ってるよ。シャルスメルのゴルディエ辺境伯家の末娘だろう? いつもアイリーンの姉貴分をやってくれているようで、ありがとうねえ」

 

「! 参ったな……俺のことまで知っているのか……」

 

「言っただろう。あたしゃなんだって知っているのさ」

 

 一発で素性を言い当てられたウルスナが、脱帽とばかりに首を振る。

 その目つきはまだ相手への警戒を解いていないが、その眼には相手への敬意が宿っていた。

 

 ほえー、すっごい。ウルスナを感服させるなんて並大抵のことじゃないよ。

 それじゃ僕が現代日本から来たことも知ってるのかなあ?

 

 そう思って様子を見ていると、最後に師匠は僕へと視線を向けた。

 品定めするような目つきで僕を嘗め回すように見ている。

 

「ふーん。これがアイリーンの婿ってわけかい。ここにいる3人を嫁にするだけあって、なかなかいい男っぷりじゃないか」

 

「えへへ、どうも~」

 

 褒められて悪い気はしないね。

 

 そのまま師匠は僕の方に近づくと、おもむろに僕のタマタマをわし掴んできた。

 えっ、いきなり何?

 戸惑っていると、師匠はふぇっふぇといやらしい笑みを浮かべる。

 

「ははは、でっかいタマを持ってるじゃないか。これなら女3人相手にしてもそうそう枯れることはなさそうだ。アイリーンもいい男を捕まえたもんだねえ」

 

「師匠! ユージィのタマタマに触れないで!」

 

 慌てて抗議の声を上げるアイリーンに、師匠は高らかな笑い声をあげる。

 

「なんだい、減るもんでもないだろう? アイリーンの旦那をこの目で見てみたくってねえ。心配しなくても、こんな枯れたババアに何もできやしないよ」

 

「もう、師匠ったら! ユージィ、ごめんね!」

 

 プリプリと師匠に怒りながら、アイリーンは軽く頭を下げて来る。

 アミィさんやウルスナも、まったくしょうがないエロ婆さんだなと苦笑を浮かべていた。

 

 あ、これって亀仙人がピチピチギャルにセクハラしてるのを見て、まったく仕方のないスケベジジイだな!って呆れた笑いを上げるノリ? まあエロに元気なご老人を見てそんな感想を抱くのはわからなくもないけど。

 正直やられてる側としては、あまり心穏やかなもんでもないなあ。

 

「まあ、アイリーンもお貴族様2人と並んでこの男を抱けると考えたら、悪くないねえ。平民も貴族も服を脱いだら平等ってわけだ、ふぇっふぇっふぇ! こりゃ痛快だよ!」

 

「もー、師匠! ウルスナやアミィさんに失礼でしょ!」

 

 カラカラと笑う師匠を、アイリーンが怒ったように窘めている。

 ウルスナやアミィさんは苦笑しながら、師匠の皮肉を聞き流しているね。まあ元から2人とも貴族として偉ぶる様子はまるでないんだけど。

 

 そう思って見ていると、師匠は腰を折り曲げながらよっこらしょと椅子に腰かけた。

 

「さ、今日は結婚するって伝えに来たんだろ? それならもういいよ、あたしゃ何でも知ってるからね。こちとら忙しいんだ、用が済んだなら帰った帰った」

 

 そう言ってしっしっと僕たちに向けて手を振り、机の上のすり鉢に向き直る。

 

「師匠ったら、本当に自分勝手なんだから……。ごめんね、みんな」

 

「いや、私たちの方こそ勝手に押しかけて時間を取らせてしまった。ご老人、申し訳ない」

 

「いやあ、おとぎ話に出てくるような本物の魔女っているもんだなあ。アイリーン、お前すごい人に指導を受けてたんだな」

 

「え……えへへ、いやあそんな」

 

 ウルスナに褒められ、アイリーンは満更でもないように照れ笑いを浮かべる。

 和やかな雰囲気があばら家に流れ、彼女たちはほんわかとした空気に包まれていた。

 

 ……ええと。そろそろいいかな。

 

「あの……アミィさんもウルスナも、本当にこの人がおばあさんに見えてるの?」

 

 僕の言葉に、みんなはきょとんとした顔になった。

 

「ん? どういう意味だ、ユウジ?」

 

「ばあさん以外誰もいないだろ」

 

「ユージィ、何を言ってるの?」

 

 3人は口々に僕がどうかしたんじゃないかって顔を向けている。

 が、師匠だけはぴたりとすり鉢を回す指が止まっていた。

 

 あのね。

 そもそも僕は、この人が最初から老婆になんか見えてないよ。

 そりゃ腰も曲がってるし妖怪じみた笑みも浮かべてるけど、見た目20代半ばくらいのうら若い女性に見えてるんだけど。

 というか、僕この人知ってるんだけど。

 そろそろ質問してもいいかな?

 

「こんなところで何をやってるの、リイダさん?」

 

「…………!?」

 

 フードの下からだらだらと冷や汗を流しながら、彼女はすり鉢をかき混ぜる指を震わせていた。

 間違いない。彼女はアイリーンのパーティのリーダーを務めてる、リイダさんだ。

 

「ユージィ? さっきから本当に何を言ってるの? リーダーがここにいるわけないじゃない」

 

「いや、絶対にリイダさんだよこれ。なんかおばあちゃんっぽい演技してるけど、見た目完全にリイダさんだもん。僕の言葉にギクッって顔してるし」

 

 不思議そうなアイリーンに言い返しながら、僕は小首を傾げた。

 

「で、もう一度訊くけど……リイダさん、こんなところで何やってるの? わざわざ別人のふりまでして」

 

「り、リイダなんて人知らないねえ……! よ、用が済んだらとっとと出てってくれ!」

 

「いやもう遅いよ? 声が震えてるの隠せてないよ?」

 

 僕がそう指摘すると、リイダさんは諦めたようにスクッと背筋を伸ばした。

 途端にみんながええっ!?と声を上げる。あ、もしかしてなんかしたのかな。

 

「ええっ!? な、なんでリイダさんがこんなところにいるの!? 師匠は!? リイダさんが師匠に化けてたってこと!?」

 

 動揺するアイリーンの声をBGMに、リイダさんは聞き慣れた声色で口を開いた。

 

「な、なんでわかったんだい……? 私の術は完璧だったはず……! シャルスメルの王宮ですらこれを見破った者はいないというのに……! いや、見る者の精神に影響して発動する術なんだ、そもそも私を視界に入れた時点で老婆に見えているし、疑おうという気すら起きないはず……!」

 

 あ、魔法で見た目を偽っていたのか。

 でもごめんね。僕には【精神耐性】があるから、他人の精神に働きかける術は全部シャットダウンしちゃうんだよ。本当に言及するの久々なんだけど、これオート発動なんだよね。

 

 でもオート発動の結果リイダさんが若い女性に見えてるってことは、これがリイダさんの本当の姿ってことになる。

 そうなるとアイリーンの想像とは逆になるよね。

 

「アイリーン、違うよ。リイダさんがずっと老婆に化けてアイリーンに教育してたってことでしょ」

 

「え……!? で、でもおかしいよ! 私が小さな子供の頃から、師匠は面倒見てくれてたんだよ! その正体がリイダさんだったってこと!?」

 

「確かにおかしいな。アイリーンが小さい頃から面倒見てたって割には、リイダさんは見た目20代に見えるぜ」

 

「そうだな。一体どういうことなんだ?」

 

 首を傾げる一同に、リイダさんは肩を竦めた。

 

「いいだろう……。こうなれば仕方がない、事情を明かそうじゃないか。何故私が老婆に身をやつし、アイリーンの面倒をみていたのか。実は」

 

「あ、ちょっと待って」

 

「な、何かね……」

 

 何やら事情を語ろうとしたリイダさんの話の腰を折り、僕は口を挟んだ。

 

「自分には千里眼があるんだなんてフカシこかないように先に言っておくけど、結婚式の招待状はリイダさんの手元にも届いてるよね? だからアイリーンの結婚を知ってるのは千里眼じゃなくても当然なんだけど、それはそれとしてウルスナの出自を知ってるのおかしいよね? なんで知ってるのか、それもちゃんと納得がいくように説明してね」

 

「…………!」

 

 リイダさんの唇の端が、ヒキッと引き攣った。

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