【書籍版1巻2/20発売】貞操逆転ハードモード異世界を鋼メンタル冒険者が生き抜く 作:風見ひなた(TS団大首領)
本編とはまったく関係のないif話です。長いので適度に休みながら読んでね。
こんにちわ、転生者・男島雄士です。
今、僕は現代日本にいます。
いや当たり前なんだけど、ちょっと待ってほしい。なんだか世界の様子が僕の知ってるのと違う。
街中のエッチな広告が男性モデルばかりになってたり、酒や職業関連のモデルは女性モデルばっかりになってたり。テレビの出演者もセクシー女性枠は男性ばかりになってるし、汚れ芸人枠はみんな女性になってる。
テレビから目を離して現実の街を見れば、歩いているのは大半が女性だ。男性はいるにはいるけど、あまり見ない気がする。
きょろきょろしながら街を歩いてたら見知らぬ女子高生たちにヒソヒソ話されながらスマホで写真撮られたよ。
僕、なんかしたっけ?と思いながら見つめ返したら、女子高生たちは近づいて僕を包囲してきた。
「ねえねえボク、もしかして今暇だったりする?」
「お姉さんたちとカラオケ行かない? もち、ウチらがおごっちゃうからさ!」
「固いこと言わないで、ちょっとくらいいーじゃん?」
うぉ、これもしかして逆ナンってやつ? 唐突にモテ期が来たじゃん。ナンパとかされたの初めてだよ。
ちょっとギャル入ってるチャラ目の子たちでイマイチタイプじゃないけど、結構可愛いしナンパされたの初めてだし、頷いちゃっおっかなー。
……と思ったところで、婦人警官がホイッスルを吹き鳴らしながら近づいてきた。
「こら! 男性への声掛けはハラスメント行為ですよ! 男性保護法違反です、さあ散った散った!」
「ちぇ、なんだよおまわり!」
「ちょっとくらいいーじゃん、けちんぼ!」
「はいはい消えますよ。じゃあねーボク、今度は遊ぼうねー」
婦人警官に叱られた女子高生たちは、蜘蛛の子を散らすようにたちまちいなくなってしまった。ああ……初めてナンパされたのにぃ……。
残念な気持ちを抱えながら彼女たちの後ろ姿を見つめていると、婦人警官はくるりとこちらに向き直る。え、何?
「貴方も貴方ですよ! いい若い子が、そんな筋肉質な肌を晒して街を歩くなんて……。それじゃナンパしてくれと言ってるようなものです! そもそも男性がたった一人で街を歩くなんて、何を考えているんですか。付き添いの女性はどこです? まったくもう……!」
「あ、はい……。ごめんなさい?」
「今度から気を付けてくださいよ。決して一人で街を歩かないように! すぐに家へ帰りなさい。なんなら送っていきましょうか?」
「あ、いえ。大丈夫です……」
「そうですか。では、気を付けて帰りさいよ、ボク。このあたりの学校は治安が悪いんですから、ガラの悪いお姉さんに絡まれないように」
そう言い放つと、ぽかんとする僕をよそに婦人警官は颯爽と踵を返した。
僕は唖然としたまま、その後ろ姿を見つめることしかできなかったのだ……。
「……願書投函したら帰るか」
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……ということがあったんだけどね。
うん、これ完全に貞操逆転してるわ……。
正直何でこうなったのかよくはわからない。ある晩高熱でうなされて、翌朝熱が引いてから着替えて外に出たら、世界はこんな有様になっていた。まるで天原先生の漫画だな!
ちなみに貞操逆転してるだけでなく、男女比が1:4になってるらしい。
そうなると何が起きるか。
中世ヨーロッパなら力ある女性が男性を取り合うなんてことが起こるだろうけど、ここは法治国家である現代日本だ。
社会的弱者である男性は保護されなければならない! みたいな感じで、過度に男性が保護される風潮になっているらしい。
いや、もちろん近代日本では男性の身分も低かったし、男性は子種を絞り出す機械扱いとか、村民共同の竿みたいな扱いもされてたらしいんだけどね。現代になって男女平等みたいな思想が広がりだすと、かつての反動で過度に男性の権利を守ろうという流れになったらしい。
まあ保護が行き過ぎて、街も一人では歩かせてもらえないのはどうかと思うが。
男女比1:4くらいなら、まだそこまで保護しなくてもよさそうだけどなあ。
なお、社会の表舞台に出られなくなった男性は、ネット上で息抜きをしている。
既婚男性の愚痴が集まる鬼男板ってのがあるんだけど、もうすっごいよ。
舅どもがうるさくて早く死なねーかなとか、3人の嫁に囲まれて毎晩種を絞られて俺は孕ませる機械じゃないっつーの!とか、嫁たちへのデスノート公開しますとか、結婚への夢も希望もない嘆きが溢れている。
なんかこの世界、重婚できるみたいだね。まあ普通に一夫一妻だと女性がめちゃあぶれるから仕方ないか。おかげで男性が悲鳴をあげているようだけど。
カルチャーギャップが面白すぎるので、鬼男板のウォッチングは僕の新たな趣味になりつつある。
「ユージィ、何を見てるの?」
電車内でニヤニヤとスマホを見ていると、
「ああいや、掲示板の書き込みをちょっとね」
「ふーん。ずっとニヤニヤしてるけど、何かよっぽど面白いこと書きこまれてるの?」
「いや、愛璃にはあまり面白くないかもね」
そう言いながら僕はスマホをしまい、そんなもんよりあたしを構って!と言わんばかりにジト目を向けて来る愛璃に向きなおった。
ぷうっと頬を膨らませてる姿が小動物を連想させて何ともかわいい。
愛璃は僕の護衛役を務めている幼馴染の少女だ。
なんとこの世界、性犯罪防止の目的から未成年の男性が外を歩くには1名以上の女性の付き添いが必要になるらしい。条例でそう決まっているのだとか。
そして僕は何の因果か、高校生に転生してしまっていた。元は大学生だったはずなんだけどなあ。
ちなみに細マッチョ体型はそのままだ。元の世界の高校時代は典型的なもやし野郎で、男らしい名前へとコンプレックスから大学に入ってから体を鍛えたので、それが失われず済んでほっとしたよ。鍛えるのすっごい大変だったからね。
そんなわけでばっちり未成年の僕は、通学に護衛の女性が必要だった。そんな僕に学校が白羽の矢を立てたのが、近所に住む幼馴染の愛璃というわけだ。
愛璃は同い年とは思えないほど小柄で、明るく裏表のない女の子だ。感情の起伏が激しく、ちょっと子供っぽい性格も相まって、表情がコロコロと変わる。
少し甘えん坊なところがあり、無邪気に笑いかけてくる仕草は子犬を思わせるところがある。
とはいえ、しょせんは幼馴染。幼馴染は負けフラグとも言うしね。
昔から彼女を知っている僕にとっては、妹のようなものだ。まったく異性としての魅力を感じない。
……わけがねーだろ! めちゃめちゃ可愛いわ!
そもそも僕にはこの世界に元からいた“僕”の記憶がないからね。元の世界からこの貞操逆転世界に直で放り込まれているから、この世界のことはまったく無知だ。周囲にも高熱からくる記憶喪失で通している。
そんな僕にとって、愛璃は幼馴染を名乗るまったく初対面の美少女だよ。
正直顔もめちゃくちゃタイプだし、性格もウマが合いそうだし、トドメに時折首筋からふわっと香る体臭がすごく良い香りがする。もう相性良すぎて実はどっか別の世界で夫婦でしたとか言われても、信じてしまうかもしれない。
こんな可愛い子と幼馴染って、元の世界の僕マジかよ。一生の運を使い果たしてるだろ。
「? どうしたの、ユージィ。そんなまじまじ見られたら照れちゃうよ」
そう言って体の前で手を合わせ、愛璃はもじもじと体を軽くくねらせながら、上目遣いで僕を見つめ返してきた。
くう~~っ、可愛ええ! 元の僕、本当にいいの? この子とイチャイチャしちゃうよ? 軽く一線越えちゃうよ?
『いや、知らんし……。僕は女とか見たくもないから、好きにすれば?』
おや、幻聴か? なんか僕のようで僕でない声が聞こえたような気もするけど、まあそういうことなら好きにさせてもらおう。
こんな可愛い子と付きっ切りの通学環境を整えてくれる学校があまりにも神すぎる。男子生徒には漏れなく近所の女子生徒を送迎役として支給って、これもう公式のお見合い斡旋じゃない? こんな好待遇を用意してもらえるなんて、転生して本当にラッキー!
≪現代世界でも説明しよう!
無論こんなことに幸せを感じているのは雄士だけで、気が合わない女性を護衛につけられたら双方ギスギスすること請け合いだし、そもそもこの世界の男性は女性に軽い嫌悪感や不信感を抱いているし、四六時中女性に監視されてる時点でストレスだしで、あんまりハッピーなシステムではない!
そもそも電車内で若くて細マッチョな男性がいる時点で車内の注目の的であり、先ほどから品定めするような視線で女性たちからジロジロ見られているのだが、雄士はまったく気にもしていなかった!≫
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何事もなく学校に到着したよ。
高校に通うのは人生で二度目になる。
正直前世で高校を卒業したときは、二度と通いたくないと思ってたよ。なんせ高校時代は貧弱なモヤシ系オタクだったし、ちっともモテなかったからね。
だけど細マッチョボディでモテモテスクールライフっていうなら話は別だよ。そりゃもう楽しいに決まってるじゃん、今から高校生活が楽しみだよ!
と、言ってるそばから登校中の女子生徒の視線がジロジロ突き刺さってくる。
うん、まあ注目されて当然かな。
なんせこの学校は共学校なんだけど、男子生徒は学年に2人だけだからね。
何でもこの世界では男子はみんな男子校に行くらしい。そりゃまあ女性から身を守ろうと思ったら、一番いいのは女性がいない環境に行くことだからね。言っても女性ってそこまで警戒するようなもんか?とは思うけど。
わざわざ共学校に行く男子なんて普通はいないから、共学とは名ばかりで実際女子高みたいなもんなんだってさ。
……いや、さすがに狙ってないよ? ただ目覚めたら中学3年生で、とりあえず前世の僕が通ってた高校の願書を出したら、ほかの男子がいなかっただけの話で。
ただ結果的に女子校に男子が迷い込んだ状態みたいになってるわけで、こんなんハーレムじゃんね! へへへ、期待が高まりますなあ!
≪説明しよう!
普通の男子なら期待が高まるどころか絶望必至な状況である!
この世界の男子は野獣のようなドスケベ女どもに嫌気が差しており、女嫌いな男がデフォなのだ! 実質女子校だから男子の目を気にする必要がないため、女子の生活態度も緩み切っており、そのだらしなさも女性への幻滅に一役買っているぞ!≫
「むぅ~~! みんなユージィのことジロジロ見て! 見世物じゃないよ、あっちいけシッシッ!」
女子たちに視線を向けられていることを察して、愛璃はぷんすかと怒っている。
本人は大真面目なんだろうけど、怒ってるところも可愛いなあ。ぶわっと全身の毛を膨らませてるリスみたい。
そんなに怒らなくてもいいと思うんだけどなあ。そもそも僕は愛璃の幼馴染ではあるけど、彼氏でも何でもないんだよ? 僕が誰と付き合おうが僕の勝手だと思うな。
≪説明しよう!
愛璃の主観ではとっくに雄士は彼女のものという認識になっている!≫
おや? 朝から校庭の隅のベンチに座っているのは……。
あれはウルスナ先輩じゃないか。校内では知らぬ者のない有名人だ。
金髪ですらりとしたモデル体型、そしてかなりの巨乳。フランス人とのハーフだそうで、日本人離れした容貌はかなり目立つものがある。
だが彼女を有名にしているのは、その容姿や経歴からではない。彼女は札付きの不良生徒なのだ。他校の生徒とも事あるごとに揉めており、殴り込みに行って番格をブチのめして帰ってきたことは一度や二度ではないと聞く。
今も生徒たちが皆教室へと向かっている中、ウルスナ先輩は行儀悪く大股を開きながらだるそうにベンチにもたれかかっている。授業に出る気はさらさらなく、このままサボるつもりのようだ。
さすが不良……というか、サボるつもりならなんでわざわざ学校に来ているんだろう? なんか事情でもあるのかな……。
そんなことを思いながら見ていると、ウルスナ先輩はふとこちらに視線を向けて来た。
「おう、ユージーンじゃねえか。お前も一緒にサボるか?」
キヒヒと意地悪そうな笑みを浮かべながら、ウルスナ先輩はそんな声を掛けて来る。
どうも僕の入学当初からウルスナ先輩は僕のことを認識しているようで、事あるごとに僕に声を掛けて来るのだった。
僕はそんな目立つタイプの人間じゃないと思うんだけどな。まあそもそもこの学校で男子は珍しいし、ただそれだけで顔を覚えられるきっかけにはなるのかもしれない。
ちなみにユージーンというのは僕の名前の雄士と、“友人”の掛け言葉なのだそうだ。
「いや、サボらないよ。ウルスナこそ、折角学校に来たんだから授業に出たらどう?」
「チッ、くだらねえ……」
ウルスナ先輩はそう吐き捨てると、おもむろに制服の胸元を開いて双丘をチラチラと見せつけて来た。むむっ!!!
「今サボるなら、ちょっといいもの見せてやるけどどうだ? ほれほれ」
悪戯っぽく笑いながら胸元をチラつかせてくるウルスナ先輩。
日本人ではありえない抜けるように白い肌に形の良い北半球、そして珠玉のチラリズム……!
どうしよう、すっごく悩む! チラリズムのお陰である意味乳を直接見せつけられるよりも魅力的だ。こいつ、自分の魅力を理解している……!
≪説明しよう!
理解などしていない! この世界の常識として、女性が胸元をチラチラさせて男性を釣れるなどという考え自体がない! 通常の日本において、胸筋をピクつかせている男性についていく女性がいないのと同様である!
ウルスナの行動は学校で有名なかわいこちゃんにセクハラして反応を楽しもうという不良の悪ふざけであり、誘惑しようという意図はさっぱりなかった!≫
くっ……こんな魅力的な誘惑がこの世にあるのか!? 世のサボロー君は全員ウルスナを見習って、直ちにTSして主人公を誘惑するべきだぞ!
よくよく考えてみれば僕は高校で習うことなどとっくの昔に学んでいるわけだし、少しくらいサボってもいいのでは……!?
僕が本格的に頭を悩ませていると、後ろからきゃんきゃんと愛璃が割って入った。
「ウルスナ! 朝からユージィをからかわないで!」
「あ? なんだ、愛璃かよ」
ウルスナ先輩は興が削がれたという顔で、ブラウスのボタンを留めた。ああ、グッバイマシュマロツインズ……。
「なんだよ、入学当時はあたしがこの学校をシメるんだって鼻息荒く俺に突っかかって来たくせに。ユージーンの護衛を任されたらすっかり大人しくなりやがって」
「あーあーあー!」
愛璃はわたわたと手を振りながら、チラチラ僕に目をやった。
「う、嘘だから! あたしそんなことしてないから! 信じてユージィ!」
「へっ……かわいこぶりやがって。中学ではあたしが番を張ってた、高校でも同じようにする。ロートルは黙ってあたしにその座を明け渡しなって吠えた気概はどうした?」
「ちょっと黙ってくれるウルスナ!? 違うから! 全然違うから、ユージィ!」
いや、違うも何も。
ウルスナが一年坊の愛璃のことを知ってるってことは、そういうことがあったという何よりの証拠だと思うんだけど……。
≪説明しよう!
全面的にウルスナが本当のことしか言っていない! 雄士の護衛役になるまで、愛璃は不良漫画のノリで殺伐とした生活を送っていた!
なお愛璃の中学時代のあだ名は
「あーあ、俺は悲しいぜ。激しい殴り合いの末に義姉妹の契りまで結んだ仲だってのに、全然話しかけてこなくなったしよ。所詮女の友情なんて男が間に挟まったら、あっけなく崩れ去っちまうものなんだな」
「ちょ、やめてよ! ユ、ユージィ違うからね! あたしそんな好戦的な性格じゃないからね! ウルスナの方から因縁付けて襲って来たんだから!」
やれやれと首を竦めるウルスナの発言を遮って、愛璃が懸命に言い訳してくる。
いや、でも殴り合って義姉妹の誓いを結んだのは本当じゃないの? 愛璃がウルスナに先輩ってつけずに呼び捨てにしてるあたり、相当深い仲だと思うんだけどなあ。
まあ別に愛璃が誰彼構わず喧嘩を売るような性格でも、僕は構わないんだけど。だって僕が殴られるわけじゃないし。なんで僕への体面なんか気にする必要があるんだろ。
≪説明しよう!
喧嘩っ早い少年がヒロインに乱暴者だと思われたくなくて、必死に体面を繕っている場面にあたる! が、肝心の雄士は自分が不良漫画のヒロインという自覚はこれっぽっちも持ち合わせていなかった!
別世界のお前は自分に共感性がないのは【精神耐性】のせいだと思っているようだが、違うねッ! お前は元からそういう性格だッ!≫
と、僕たちが朝からそんな会話をしていると。
「おい、お前たち! とっとと教室に入らないか!」
凛とした声が響き、眼鏡をかけた少女が姿を現した。
制服をきっちりと着こなし、胸には生徒会役員であることを示すエンブレム。気真面目そうな顔立ちに、揉ませる相手もいないくせに豊かに実った巨乳を下げている。
「あ、デボ子だ」
「デボ子って言うな! 私はデアボリカだ!!」
むきーっと牙を剥きだしながら、デアボリカが抗議の声を上げる。
デアボリカは僕と愛璃のクラスメイトであり、1年の4月だというのに生徒会書記に任命されている。本人はそれを鼻にかけており、全校生徒の中でも筋金入りのエリート、ゆくゆくは生徒会長になると言って憚らない。
「私の目が黒いうちは、クラスメイトのサボりなど決して認めんぞ! さあ、とっとと教室に急ぐんだな! お前もだ、ウルスナ! まだ4月とはいえ、出席日数が足りなくなっても知らんぞ!」
「チッ……うぜえ」
まあ言っている内容だけ聞けば生徒に出席を勧める立派な内容なんだが。
こいつ理事長の娘で、完全な身内人事なんだよな……。生徒会長のアンゼリカ先輩はこいつのお姉さんだって話だし。まあアンゼリカさんの方は人格者らしいし、理事長の娘なんて肩書がなくても実力で生徒会長に選ばれただろうけど。
デアボリカの方は完全に功績を稼ぎたくて言ってるのが見え見えだ。
「ほれ」
ウルスナは財布を取り出すと、中から一万円を取り出した。僕の世界と違って肖像画が女性のようだけど、まぎれもなくこの世界の一万円だ。
「俺のサボりを見逃すならこの万券やるよ。出席ってことに書き換えといてくれ」
「バカなことを言うな! 私をそんなゲスな人間に見えるか! そんな金をもらったところで、私が不正を見逃すと思っているのか!」
断固とした口調で言いながら、デアボリカの視線は一万円に釘付けだった。ウルスナが左右にぴらぴらと振るのに合わせて視線を動かし、へっへっと飢えた犬のように吐息を吐いている。見えるし思います。
「この人って……」
愛璃が嫌悪感たっぷりの目でデアボリカを見ていた。やっぱりこいつデボ子扱いで十分なんじゃないかなあ。
「おっと春風が」
桜色のイタズラな風さんが吹き抜け、ぴらぴらと一万円札が空に舞い上がる。
「わんわんわんわんわん!!!」
デアボリカは風に遊ばれる1万円を追いかけて走り出していった。とうとう人間であることも捨てたのかあいつ。
ウルスナはそんなデアボリカの反応がよほどツボに入ったのか、腹を抱えて笑っている。
「はあー、笑えた。朝から笑うと少しやる気が出てきたから、ちょっと教室に顔を出すか」
「それはいいけど……さすがにもったいなくなかった? だって一万円だよ?」
一万円があればプロテインの大袋もエロゲ―も買えると言うのに。
するとウルスナは一瞬きょとんとした顔を見せて、唇を歪めた。
「あれは子供銀行券だよ。まあ本物でも、一万円程度構やしないけどな」
……もしかして、結構なお嬢様なのかこいつ? 何で不良なんかやってんだろな。
≪説明しよう!
この世界のウルスナは実はお嬢様だけど親に反発して不良をやっているという、不良漫画ではよくあるライバルポジなのだが、雄士にはまるで通じていない!
そもそもこの世界が不良系少年漫画の男子校のようなものであり、雄士はガラの悪い男子校にただ一人紛れ込んだ絶世の美少女のようなものなのだが、こいつには一切その自覚はない! 可愛い女の子ばかりの学校で高校生活やり直せてラッキーとしか思っていなかった!≫
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その後もいろいろあった。
いろいろというのは具体的には体育の時間の準備運動で僕と誰がペアを組むかで掴み合い揉み合いの乱闘になったりとか。なんか男子の数が少なすぎて男女混合で授業することになったんだけど、キャットファイトというのが生易しすぎると感じるほどの乱闘だったよ。拳も蹴りも出てたもん。
まあ眺めてるうちにもう一人の1年生男子のウェズ君が僕と組みましょうと誘ってくれたので、女子たちが血で血を洗う戦いを見ながら体操してたけど。
あとは音楽の時間、僕が使った後のリコーダーを洗ってきてあげる!と声を掛けて来た女子の間で、リコーダーが殴り合いの争奪戦になったりとか。
はたまた授業中に教科書を忘れて来たことに気付いたので、先生に隣の席の人に見せてもらえと言われたところ、前後左右斜め9つの席の女子が一斉に私が見せてあげるよ!と絶叫して殴り合いの争奪戦が始まったりとか。
……この子たち、なんでこんな血の気が多いんだろう?
親切ないい子たちばかりなんだけど、血の気が多いのが欠点だなあ。
≪説明しよう!
お前がいる学校の治安が悪すぎて、殴り合いで解決がまかりとおってるからだよ!≫
ただまあみんなに優しくチヤホヤされてるからよかったよ。
エロゲーとかだと男子校に女子は私だけ!? これから一体どうなっちゃうの~!?って題材で輪姦三昧とかあるけど、今のところそんなことはない。むしろお姫様に接するみたいにみんな優しくしてくれる。まあたまに殴り合いとかしてるけど、僕に暴力を振るう素振りは微塵もないからね。フィクションと現実の区別くらいつけよーね、オタク君!
≪説明しよう!
全員発情してお前を狙って目をギラつかせているのだが、逆に誰が一番乗りかでけん制し合っているので結果的に誰も手が出せないだけである!≫
「ユージィ、一日お疲れ様!」
放課後僕の席にやって来た愛璃は、ニコニコ笑顔で労ってくれる。
「愛璃の方こそ、一日お疲れ様。助かったよ」
「そんなあ、お礼なんていいんだよ! なんたってあたしたち幼馴染なんだから! もっと妹みたいに私を頼ってね!」
実のところ愛璃にはすごく助けられている。
音楽の時間や教科書みたいに僕を巡って争奪戦が起こっても、幼馴染の愛璃にお願いすると言えば誰もが納得してくれるのだ。なんかチッ……と舌打ちしてるけど。
いざというときの避難先として、愛璃は非常に役立つ存在であってくれる。
「じゃ、帰ろっか」
「うん!」
それに何と言っても可愛いしね。こんな可愛い子と一緒に下校できるなんて、二度目の高校生活最高かよ。転生先も文明的な生活が保障されてるし、これほど好条件の転生なんてそうあるもんじゃないよ。いやあ、転生できてラッキーだなあ!
愛璃と雑談しながらの帰り道、それは本当に楽しいものだった。
古びた駄菓子屋の前で子供の頃駄菓子を分け合ったんだよ、とかここに昔ゲームショップがあって、店先のガチャガチャで出たおもちゃの指輪をくれたんだよとか思い出話も聞いた。
僕にその記憶はないが……まあ中身が別人なので当たり前なのだが、そう語る愛璃の表情はとても楽しそうで、イキイキとしていて。僕はこの世界の自分になりすましていることにちょっと罪悪感を感じた。
楽しい時間は過ぎるのが早いもので、いつしか僕の家の近くまでたどり着いていた。
ちょっと古いけど、住宅街の中では割と目立つ大きなお屋敷。これが男島家だ。
まあ大きい代わりに、家族も多いから結構やかましいよ。おじいちゃんとおばあちゃんが子だくさんで、僕のお母さんが姉妹の末っ子なんだけど、みんな入り婿迎えてるからね。従姉妹がめちゃめちゃ多くて大家族なのだ。この世界でも僕の家族構成は変わっていないらしい。
「送ってくれてありがとう。ここまででいいよ」
「そんな、お礼なんて言わなくてもいいよ。だってあたしたち幼馴染だもん! あ、でもお礼したいって気持ちがあるなら、お部屋にあげてもらったり……なんて」
指先をツンツンと突き合わせる愛璃に、僕は小首を傾げる。
「? 幼馴染なんだから、僕の部屋なんて飽きるほど来てるだろ。今更見て面白い物なんかないと思うよ」
「え、あ、それはそうかもしれないけど! 年頃の男の子の部屋ってちょっと気になったりとか……。こ、今度でいいから!」
「ふふ、変な愛璃。じゃあ今度ね」
マジかよ、女の子の方から僕のお部屋に行きたいななんて言われちゃったよ。
これもしかして脈あり? 僕の部屋に連れ込んで押せば行けたりする?
いや、でも従姉妹がうるさいから自宅デートはなしか……。まあそれはおいおい考えればいいか。
「じゃあ、また明日……」
そう言おうとした矢先、背後に寒気を感じて僕は振り返った。
日本人形のような姫カットの少女が、髪をざわざわとざわめかせながらこちらに鋭い視線を向けている。
「ああ、
「お兄様……どなたですか、その女性は?」
僕の挨拶にまるで反応せず、妹の有珠は同じ問いを繰り返す。
聞こえなかったのかなあ。我が妹ながら、思い込みが激しくて一度こうだと思ったらなかなか人の話を聞かないから困る。
「知ってるだろ、幼馴染の愛璃だよ。僕のために毎日送り迎えの護衛をしてくれているんだ。ありがたいことだよ、お前も礼を言いなさい」
「誰ですか、その女は?」
有珠は同じ質問を繰り返す。
はあ……説明したばかりなんだけどなあ。人に質問するならちょっとは聞く姿勢をとろうよ。
「だから、幼馴染の愛璃だってば」
「だから、誰なんですかその愛璃というのは? お兄様に女性の幼馴染なんているわけがないでしょう! 大の女性嫌いのお兄様が、女性の友人を作るわけがない!」
「……えっ?」
愛璃の方を振り返ると、そっぽを向いて口笛を吹いていた。
えっ……まさか、そんな……。
「大方護衛を任されたのを幸い、お兄様の記憶喪失に付け込んで、自分が幼馴染だと吹き込んだのでしょう! あまつさえ妹同然に思ってもっと頼りにしろとか言ったに違いありません! この女狐め!」
「クックック……バレちゃしょうがないねえ……」
有珠の指摘を受けた愛璃は、可愛らしい顔を歪めて不敵な笑みを漏らした。
ええ……? この手の転生モノで、幼馴染の経歴が嘘だったことある……?
「そんな……! だって駄菓子屋で駄菓子を分け合った思い出とか、ゲームショップの前でガチャを回した思い出を臨場感たっぷりに語ってくれたじゃないか! あれも全部嘘だったっていうのか!?」
「あ……あれはあたしに同い年の男の子の幼馴染がいたら、どんな感じに過ごしたかったかなかなー……って日頃から妄想してたからで……」
愛璃は恥ずかしそうに指先を突き合わせ、顔を赤く染めた。
よかった、ちゃんと可愛い。
そんな愛璃に指を突き付け、有珠はキィーと高い声を上げる。
「これだからお兄様を底辺女子校になんか通わせるのは反対だったんです! お兄様には深窓の令息に相応しい男子校に行ってほしかったのに、気付いたら勝手に願書を出していて! 私は最後まで反対したのに、それ見たことか! こんなどこの馬の骨とも知れないアバズレがついてきたじゃないですか!」
深窓の令息ってなんだよ。気軽にパワーワードを発するんじゃない。
というか元いた世界の僕の母校、底辺女子校扱いなの? 一応共学なんだけど。
それにその言い方は実際にその学校に通ってる子を前にするには酷い言い草なんじゃないかなあ。底辺校だなんて。
「あ、あたしはユージィを周囲の女の子から守ってたんだよ! 底辺女子校だからってみんながみんな猿同然の女ばかりじゃないんだから!」
底辺女子校であることを否定しない!?
いや、みんな親切で可愛い子ばかりなんだけどなあ。
「わたくしは騙されませんよ! どうせ幼馴染を名乗れば他の子を差し置いてお兄様を独占できるかも……なんて考えているんでしょう!」
「ぎくり! そ、そんなことはないよ?」
あ、ダメだ。目が泳いでる。めちゃめちゃ嘘がつけないタイプだ……。
よくそれで幼馴染を詐称しようなんて思ったな。
「貴方の嘘はまるっとすべてお見通しです! 観念してお縄につきなさい!」
居丈高に言い放つ有珠に、愛璃は苦し紛れに反論した。
「あ、あなたこそ妹なのにお兄ちゃんにべったりじゃない! あたしを遠ざけてお兄ちゃんを独占しようなんて企んでるんでしょ、このブラコン!」
いやあ、それは的外れだよ。有珠は確かにブラコン気味ではあるけど、それはただの兄妹愛だからね。愛璃が言ってるようなことはまったくないよ。
「ぎくりぎくり!!」
有珠さん……?
愛璃のことを言えないほど動揺した有珠は、必死に目を逸らしていた。
「だ、だからどうだっていうんです! 折角生まれた男性を自家消費するのは当然ではありませんか! 法律でも近親婚は禁止されていませんし、むしろ日本国憲法では家庭内の男性に求婚する権利が保障されているのですよ!」
マジかよ、日本終わったわ。
というかどういう理屈でこれ通したんだよ。倫理的にも遺伝子学的にもアカンやろ。
まあ男子出生率20%しかないなら、家族が真っ先に手を出して男性を確保したくなるのかもしれんが。
……もしかしてよその家庭の女子に手を出されたくないから、男性を男子校に入れて箱入りに育ててるんじゃないだろうなこの世界。
とりあえず有珠が僕を男性として狙っているという話は聞かなかったことにしたい。ちょっと妹や従姉妹に対しての見方が変わりそう。
僕がそんなことを思っていると、愛璃と有珠はバチバチと火花が出るほど睨み合っていた。
「う~~~~~~っ!」
「がるるるるるるる!」
可愛いでしょ、あの二人僕の幼馴染(偽)と実妹なんですよ。地獄絵図か。
と、思いながら見ていると、二人はおもむろにこちらを振り返った。
『どっち!?』
「何がだよ」
いや、どっちかを選ぶなら断然愛璃一択だが。
だって僕近親NGだし。彼女としてどっちかを選ぶなら、そりゃ血のつながりのない赤の他人だよ。まともな世界で20年間生きてきた倫理観が、妹を恋愛対象として見ることを絶対に拒否している。いくら可愛くて清楚な佇まいでも、妹という時点でダメだよ。
ただ僕はこの世界の僕ではないわけで、そういう意味では僕とこの世界の有珠は赤の他人だとも言える。元の世界の有珠はさすがにお兄様と近親婚します!と往来で宣言するほど終わってる人格じゃなかったしね。
何より有珠は贔屓目抜きで可愛いし、妹でないなら好意を受け入れるのもやぶさかではない。
こういうときは……アドバイザーを立てよう。
この世界に元々いた僕! どう思う!?
『知らんがな、好きにすれば? あー君の世界、女性が群がってこないし、有珠はベタベタしてこないし、すごく過ごしやすいなあ。大学生になってるけど、堂々と酒は飲めるし、記憶喪失って言えば大体誤魔化せるし、最高! あ、もうそっちには帰らないから以後連絡してこないでね。着拒にしとくから(ガチャ)』
うーむ、現実逃避で訊いてみたけど軽く拒否られた気がするぞ! まあ元々別世界の僕とお話しする能力なんてないんだけどさ。
そんな現実逃避する僕に、二人はじりじりと詰め寄ってくる。
「どっちを選ぶの、ユージィ!?」
「どちらなのですか、お兄様!!」
どうやら僕自身が決めねばならないらしい。そうだな……。
ええい、こうなったら仕方がない。僕も腹を括ろう。
「じゃあ両方彼女ってことで。この日本って重婚できるみたいだし、問題ないでしょ?」
僕がそう言うと、二人はぱちくりと顔を見合わせる。
そしてややあってから、お互いに顔を顰めた。どうもこいつとはうまくいきそうにないな……ということを本能的に察したらしい。
「……このお高く止まった日本人形みたいな顔した色ボケチンパンジーと分け合うの?」
「……この誰にでも吠え掛かる躾のなってないデスチワワみたいな女とわたくしが同格……?」
お前ら本当に犬猿の仲なんだな……。
そして色ボケチンパンジーとデスチワワという表現が互いを端的に表している。こんな短い時間でお互いの本質を掴めるなんて、逆に仲がいいんじゃないのか?
「いいだろ、ごねるなら彼女にしてやらないぞ」
そう言って僕がねっとりと二人の尻を撫でながら言うと、二人はもじもじと顔を赤らめながら頷いた。
「ユージィがそう言うなら、まあ我慢してあげるけどぉ……」
「お兄様の頼みですから、考慮してあげなくもありません」
……。あ、あれ!? 通ったぞ!?
こうなったら2人に嫌われるしかないと思って、最低の発想を最低の口説き文句とともにお届けしたのに、セーフなのこれ!? どうなってんのこの世界!?
いや、往来でロリ2人のケツをいやらしく揉んでる姿は圧倒的アウトなのだが、とにかく首の皮はつながってしまった。今が夕暮れ時で、人通りがなくて本当に良かった。
男島さんの坊ちゃん、妹含むロリ二人並べてねちっこくケツを揉みながら彼女にしてやる!って暴言吐いたんですって!とご近所の奥様に噂されたらたまったもんじゃない。
それにしてもこんな幻滅されても仕方のない口説き文句が通る当たり、もしかしてこの世界って相当な売り手市場なのか?
ともあれ想定とは違ったが、これで時間は稼げた。
愛璃はともかく、有珠は後で穏便にフろう。彼女にしてやるとは言ったけど、別れないとは一言も言ってないからね。やっぱ妹は心理的に抵抗があるよ。
ま、ロリキャラ二人程度いなすなんて簡単でしょ。
愛璃と有珠に左右から抱き着かれ、スリスリと自分の匂いをつけるように甘えられながら、僕はそんなことを思ったのだった。
翌朝。
「あの……学校から俺も近所だから護衛に加われって言われてさ。まあなんだ、よろしく頼むぜ」
「がるるるるるるるるる!」
「しゃーーーーーーーーっ!」
愛璃と有珠からしきりに威嚇されながら、ウルスナ先輩は照れたように頬を掻いた。
3人はちょっと捌けないかなあ……。
世界観設定作ってる時がすごく楽しかった(粉ミカン)