【書籍版1巻2/20発売】貞操逆転ハードモード異世界を鋼メンタル冒険者が生き抜く   作:風見ひなた(TS団大首領)

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これまでのあらすじ付けたらとんでもなく長くなってしまったので、適宜休憩挟みながら読んでください。


第132話「鋼メンタルで結婚式を挙げ抜く」

 こんにちわ、みんなの旦那さんユージィです。

 なんだかいいところで話が中断されたような気がするので、これまでのおさらいをしておくよ。リアルタイムで読んでない人は何を今更って思うかもしれないけど、まあ聞いてね。

 

 ことの始まりは領主の娘三姉妹の長女、アンゼリカさんが僕に対して初夜権を行使すると言い出したことだった。次女のアミィさんが僕と結婚式を挙げるにあたって、その初夜で僕をアンゼリカさんに抱かせろってわけだね。

 妹が結婚するから姉が旦那を抱きますって、はっきり言って無茶苦茶だな。字面にすると何言ってんだこいつってなるけど、その無茶苦茶が許されてしまうのがこの時代の貴族ってものらしい。

 

 当然アミィさんは猛抗議をしにいったんだけど、アンゼリカさんはまるで取り合ってくれなかった。門前払いを食らわせて、顔も合わせてくれないらしい。

 

 もちろん僕のお嫁さん3人はこれには憤慨した。絶対に僕を他の女性に抱かせるつもりはないとめちゃめちゃ怒っている。

 正直僕はアンゼリカさんはかなり好みのタイプ……まあ僕が女好きなのはおじいちゃん譲りだからね。僕がまだ結婚してないならやぶさかではなかったけど。

 でも、絶対にユージィを他の女に抱かせないもん!と気炎を上げてるアイリーンたちを見ると、僕って愛されてるんだなあって実感するよ。

 お嫁さんに一途に愛されているんだから、僕の側だってお嫁さんたちに操を立てないと不義理ってもんじゃないか。

 

 というわけで、アンゼリカさんの毒牙から身を守るために、僕たちはそれぞれできることをしようということになった。

 ウルスナはアイリーンを貴族令嬢に仕立て上げるために、街をしばらく離れてたね。どうやら貴族教育の特訓をしたらしいんだけど、これは役に立つのかなあ。ウルスナの弁だとアイリーンがアンゼリカさんより上の立場になればおいそれと手を出せないってことだったけど……。所詮は偽令嬢だし、一か月程度の特訓でどうにかなるんだろうか。

 

 ただ、帰ってきたアイリーンはすごく貴族のお嬢様っぽくなっていて、正直めちゃめちゃ見違えた。来てる服は清楚なドレスだし、薄くお化粧してるし。これまでのアイリーンも好きだけど、仮装してるお嬢様モードのアイリーンもめちゃめちゃ可愛いよ。

 二人きりになったら寂しそうに甘えて来るし、そのギャップがもう辛抱たまりません。

 思わず押し倒したくなったし、アイリーンも満更じゃなさそうだったけど、一応館の中でエロいことはしないとデアボリカと約束してるので、鋼の意思で我慢してるよ。

 

 おっと、話は前後したけど、アイリーンとウルスナが街を離れている間、アミィさんはアンゼリカさんを説得しようと領主の館に通い詰めている。が、これは空振りで、どうあってもアンゼリカさんはアミィさんに会おうとはしてくれなかったようだ。

 

 そして僕は、アンゼリカさんの夫のアンドレイ氏に会いに行った。奥さんが僕を狙ってますよって告げ口しに行ったわけだ。将を射んとする者はまず馬を射よってわけだね。

 我ながらナイスアイデアだと思ったんだけど、アンドレイ氏はまるで覇気がなく、アンゼリカさんのことをよろしくなんて頭を下げる始末だ。寝取らせ同人じゃあるまいし、どこの世界に自分の嫁をよろしくなんて間男に頼む夫がいるんだよ。

 

 そんなわけで僕はドラコを連れ、毎朝領主の館の前でブートキャンプを始めた。

 まず見た目からしてアンドレイ氏はガリガリに痩せてるからね。ブートキャンプでマッシブになって自分の肉体に自信を持てるようになれば、アンゼリカさんも夫に惚れ直して僕のことなんか忘れてしまうだろう……という作戦だ。

 

 ウェズ君や、アレスさんたち蜜月楼の娼夫も駆けつけてくれて、日に日に参加人数も増える一方……ではあったんだけど、結局これは作戦失敗に終わった。アミィさんが言うには、アンドレイ氏を鍛えてもアンゼリカさんが僕を抱きたい気持ちは変わらないんだって。この世界の女性の心理は複雑すぎるよ、僕には理解が及ばないな。

 

 

≪説明しよう!

 この世界の女性のメンタルは元の世界の男性そのものだから、本来お前がこの上なくよく理解してるはずだろ!

 自分の嫁さんがいくら運動してセクシーになっても、それはそれとしてムチムチでエロい女性に目移りしてしまうのは男性のサガなのだ! その反転と考えればあっさり理解できそうなのだが、雄士は【精神耐性】と元からのすっとぼけた性格のせいでまったく理解できていなかった! もうお前船降りろ!≫

 

 

 アンドレイ氏を円満にブートキャンプに参加させるところまではうまくいったんだけどなー。

 残念至極だよ。

 

 そんなことをやっている間に、アイリーンが特訓を終えてウルスナと共に僕の元で戻って来た。帰って来たアイリーンの見違えっぷりはさっき述べたとおりだ。見た目完全にお嬢様だよ、素質あるんじゃない?

 しかもウルスナは街の外にいながら、今回の結婚式の仲人であるゴールドンのおじいちゃんと連絡を取っていたらしく、結婚式の準備を着々と進めていた。なんと結婚式はあと2日後だ。花婿は何も知らないのに!

 

 とにかく結婚する前に挨拶回りは済ませないと。この世界の風習にはないらしいけど、僕は日本人だからね。義理を欠いちゃあいられないってわけで、お嫁さんたちの縁者に挨拶回りを行った。まあ領主であるアミィさんのお母さんには面会拒否されたし、ウルスナはシャルスメルの高位貴族家から家出してるから、実質アイリーンの縁者だけだけど。

 そしてアイリーンの師匠の老婆が、実はアイリーンのパーティリーダーのリイダさんだったことが明らかになった。それだけならまだしも、実はアイリーンはシャルスメル王国の太陽王とやらの双子の妹の孫だったりとか、ウルスナが太陽王の孫だったことまで判明した。

 

 いやいや……いくらなんでもそんなボロボロ出てきていい話じゃないだろこれ。RPGだったら山場で明かされるような衝撃の秘密が、お茶会の雑談のノリで出てきちゃったよ。

 秘密を暴いたのは僕だけど、まさかこんなでっかい出生の秘密が明かされるなんて予想外だわ。アイリーンはお嬢様の才能があると思ったけど、お嬢様どころか世が世ならお姫様の血筋だったね……。

 アイリーンとウルスナはまたいとこの関係にあたるってことなのかな。

 

 まあだからといって、僕たちの関係に何の変化もないけど。

 リイダさんには2人と結婚することで思わぬ災厄が降りかかるかもしれないって脅されたけど、それを言ったら僕なんて異世界からの転生者だからね。厄ネタなのはお互い様だよ。

 僕が【精神耐性】のデメリットで共感性を失っていることを知ってなお、彼女たちは僕を選んでくれたんだ。なら僕だって彼女たちの事情を背負うのがフェアってもんだろ。

 

 それに日本人オタクにとって、お姫様をお嫁さんにするなんて夢そのものだよ。これから僕はアイリーンに甘えられたり、ウルスナのすべすべしたおっぱいに触るたびに、本来は足元にも近寄られないような高貴な血筋の女の子とイチャイチャしてるんだって思うわけだ。

 デュフフフフフフフフフフ。

 おっと、いかん。思わず気持ち悪い笑みを浮かべてしまった。

 こんな顔を見られたら百年の恋も冷めるよ、シャッキリしなきゃ。

 

 

≪説明しよう!

 なおアイリーンとウルスナもアミィも、今どんな病も一瞬で治せるうえに筋肉質なドスケベボディを持つ聖者を好きにしてる……!と雄士の体をまさぐりながらだらしない顔をしてることがあるのでお互い様であった! 今更だが、この世界では大体の女性がドスケベである!≫

 

 

 おさらいはこんな感じでいいかな。

 なんか現代の学校に転生した夢を最近見たような気がするが……いや、あれはただの夢だからいいか。学生服姿のアイリーンやウルスナもめっちゃ似合っててよかったけど。

 

 さて、僕は今教会の一室にいる。新郎待合室だね。もう少ししたら結婚式が始まる予定だよ。

 

「しゅっ! しゅっ!」

 

 部屋の片隅では女の子向けの可愛らしい服を着せられたドラコが、しきりに素振りをして練習している。

 今日の結婚式で、ドラコは僕たちの進むバージンロードに籠からお花を撒く役を任されていて、その練習に余念がないようなのだが。

 

「あんま気張らなくていいよ。そんなの適当で」

 

「何言ってんだよ! 一生に一度あるかないかのオトコの見せ場だぞ!?」

 

 僕の言葉に、ドラコはがーっと口から小さな火を噴きながら反論する。

 

「まあ大船に乗ったつもりで僕に任とけよ! 先生の花道は一部の隙もなく僕が飾ってやるからな! ふふん、ドライグの王子に祝ってもらえるなんて、先生は幸せ者だぞ!」

 

「あ……ああ……」

 

 胸を反らして偉そうに言うドラコに、僕は生返事を返した。

 ええ? だってこれ、海外ドラマの結婚式とかでよく見る、白いドレスを着た小さな女の子がバージンロードに籠から花を撒く奴に相当するんじゃないの? あんなの誰がやっても同じだし、失敗しても子供だからしょうがないって微笑ましくみられるじゃん。成功しようが失敗しようが、誰も気にしないんじゃないかなあ。

 まあ祝ってくれるのは嬉しいけど。なんでこいつこんなに気合が入ってるんだろ?

 

「それより先生、もっとシャキッとしろよ! 結婚式と言えば男性最大の晴れ舞台だぞ!」

 

「んー……」

 

 ドラコのお叱りに、僕は生返事を返しながら着慣れないタキシードの襟元をいじった。

 この世界の男性にとって、結婚式って最大の晴れ舞台なのか……。まあ、男性って普段はアンドレイ氏みたいに家の中に閉じこもってるみたいだしなあ。ウェズ君みたいに男性ながら社会進出してる方がおかしいみたいだ。

 そう考えると、おめかしして衆目に身を晒す結婚式というのは男性にとって晴れの舞台なのかもしれないね。

 

「まあ結婚式を挙げたからって、何も変わらないよ。もうとっくにアイリーンもウルスナもアミィさんも僕の内縁の妻同然だし。これはあくまで僕と彼女たちが夫婦だよって世間に宣言する以上の意味はないよ。だから気楽にいけばいいんじゃないかな」

 

「またそんな張り合いのないこと言って! 普通の花婿ならめちゃめちゃおめかしに気を遣って、数時間は化粧に凝るところだってのに、ほとんどすっぴんだし。……なあ、今更だけど本当にそんな大人しいタキシードでよかったのか?」

 

 ドラコの言葉に、僕は眉根を寄せた。

 

「大人しいタキシードって……これで普通だろ。じゃあどんな風にしろって言うんだ?」

 

「えーと……ドライグ流なら全身に金ラメを入れるかな。こうすることでドライグの鱗を象徴するんだ、格の高い家ほどキラキラしてるよ。あと角もつける。このときの角はどれだけ盛ってもいいとされるから、竜によっては3メートルくらい盛るね。それから尻尾の」

 

「もういい! 頭がおかしくなりそうだ」

 

 僕は【精神耐性】を貫通してダメージを与えて来るドラコの言葉を無理やり遮った。

 ドラゴンマジかよ……!? どんな文化の結婚式なんだよ。角隠しは聞いたことがあっても、わざわざ角を盛るなんて初めて聞いたわ。

 ドラゴンの結婚式に行くことがなくてよかった、思わず吹き出してしまうかもしれん。

 

 そこへいくと僕なんか人間だからね。

 新郎の衣装なんて平凡なタキシードで十分だ。花嫁さんのウェディングドレスは盛りまくってすごい時間がかかるだろうけど、男性側は適当でいいから楽なもんだよ。

 釈然としない顔をしているドラコを黙らせて式を待っていると、コンコンと部屋のドアがノックされた。

 

「御使い様、今よろしいですかな?」

 

「ゴールドンさん! もちろんです、入ってください」

 

 僕が促すと、ゴールドン氏がのっそりと入って来た。

 いかにも英国紳士といった風体を、ぴしっと糊の効いたスーツに包んでいる。相変わらずいぶし銀なおじいちゃんだ。

 

「この度はおめでとうございます、御使い様」

 

「ゴールドンさんがいろいろ手配してくれたおかげですよ! こんな立派な式を用意してくださって、本当にありがとうございます」

 

 頭を下げて祝辞を述べてくれるゴールドン氏に慌てて頭を下げ返すと、ゴールドン氏はほっほっと好々爺の笑みを浮かべた。

 いや本当に、かなり金がかかってるよこの式。そもそも庶民は式なんか挙げられないからね。結婚式なんか適当でいいって言ったけど、それは当人の心構えの問題だ。実際にお金出してくれた人には、ちゃんと感謝を伝えないとね。

 

「いいんですよ。これは儂からの祝福です、幸せになってくだされ」

 

 ぴんと立ったカイゼル髭をしごき、ゴールドン氏はにこやかに笑う。

 

「でもかなりお金がかかったんじゃ……。一部だけでもお返ししないと」

 

「気にしないでくだされ。御使い様に病を癒していただいた恩を思えば、この程度どうということはありませんわい。むしろ御使い様の人生における一大イベントをこの儂が仕切らせてもらえる、そのことが光栄至極ですじゃ」

 

 ああー、おじいちゃんの背中から後光が見える~! こんな神的に良い人、滅多にいるもんじゃないよ。

 ん? ドラコ、何をゴールドン氏を見るなり警戒した顔で身構えてるの? スポンサーの前だぞ、大人しくしなさい。

 

「う、うん。でもこの人、めちゃめちゃ悪そうな気配だぞ……?」

 

「ドラコ! すみません、ゴールドンさん。教え子が失礼なことを……」

 

「ほっほっ、いいんですよ。坊や、いい嗅覚をしていますな。だが本人の前で警戒を露わにするのは減点です。御使い様の教え子だから大目に見ますが、次は気を付けるのですな」

 

「!!!」

 

 笑顔のゴールドン氏の方からそよ風が吹いた?ように思われた瞬間、ドラコが総毛立ちながら僕の背後にささっと隠れた。そのままズボンにしがみついてフーッと怯えた目をしながら唸っている。

 ??? どうしたの?

 

 僕がきょとんとした顔で首を傾げていると、ゴールドン氏は苦笑を浮かべた。

 

「おっと、つい。これは失礼しました。……フフ、それにしても御使い様はまるで動じていらっしゃらない。結構本気だったのですが……儂の魔力くらいどうということはないということですか。流石は御使い様です」

 

 ????? 何をわけのわからないことを言ってるんだろう。そもそもゴールドン氏はさっきから身動きしてないしなあ。

 ほらドラコ、せっかくのタキシードが皺になるじゃないか、離れた離れた。

 

 

≪説明しよう!

 格闘漫画で言うところの、ヨボヨボの老人がいきなり秘められた闘気を解放して、見ている側が圧倒されたシーンである! ドラゴンボールで亀仙人のじっちゃんがかめはめ波を打つ前にムキムキになって、ブルマたちがびびっていたアレだ!

 だが、雄士は魔力1のクソ雑魚なので、そういうやりとりをまったく理解できていない! あまりに雑魚すぎるので、この世界の人間なら誰でも持っているはずの他人の魔力を感じる能力が欠如しているのだ! お互い知らぬが花である!≫

 

 

「時に御使い様。こうして式の直前にお顔を拝見したのは、貴方様にお伝えしたいことがある故なのです……」

 

 ゴールドン氏は声を潜めると、ちらりとドラコに目を向けた。

 あ、これは共感性を失った僕でもわかるよ。人払いをしてくれってことだね。

 

「いや、ドラコのことは気にしないでください。こいつには何を知られてもいいです」

 

「せ、先生……!」

 

 僕の言葉に、ドラコはやたらキラキラした目を向けてきた。

 いや、部屋から追い出すのが面倒だっただけなんだけど、どうしてそんな感動したような目つきで僕を見て来るんだこいつ。どうせいずれはドラゴンの里に帰るわけだし、何を知られても大した影響はないだろってだけなんだが。

 

「フフ、御使い様にそれほどまでに信頼されているとは……。少々妬けてしまいますな」

 

 何が?

 ゴールドン氏は僕とドラコに微笑ましいものでも見るような視線を向け、そして気持ちを切り替えるように咳払いをする。

 

「実は……貴方が結婚されようとしている方の素性についてです。東洋出身の御使い様はご存じないかもしれませんが、彼女は……」

 

「ああ、アイリーンとウルスナがシャルスメル王族の落胤って話? それなら知ってるよ」

 

 あっけらかんと僕が言うと、ゴールドン氏とドラコが目を剥いた。

 

「知っておられたのですか!?」

 

「ええっ!? お姉ちゃんたちそんな高貴な血筋なの!?」

 

 なんか驚愕したような顔を向けて来るじゃん。

 というかドラコ、お前やたらビビってるけどどうした。ドラゴンは人間なんかより高尚な生き物なんだから、相手が王族だろうが平民だろうが関係ないだろ。

 ということを突っ込むと、ドラコは黒歴史をほじくり返されたようなばつの悪い顔をした。

「い、今はそんなことどうでもいいだろ……! それよりお姉ちゃんたちがシャルスメルの王族ってマジ……? シャルスメルってナーロッパ世界最大の王家だよ! 王家の血筋に伝わる魔力だって相当なもんだ、ドライグなんか足元にも……い、いや! ドライグにも匹敵する家系だよ、うん!」

 

 へー。なんかすごい国なんだなあ。

 まあ史実におけるフランスの立ち位置らしいし、そんなもんか。史実のフランスがどんだけすごかったのかしらんけど。

 

「……儂が太陽王にお目にかかったのは、まだ儂が侯爵だった頃。ブリシャブから親善使節としてシャルスメルの王宮に派遣されたときのことでした。全身に膨大な魔力を湛え、顔立ちには己への絶対の自信を浮かべ。美しい顔立ちに叡智に満ちた眼差しを宿す、世界最強の国家の化身。人に生まれ落ちた神。まさにこの世で最も優れた人間。御使い様が妻に迎えようとされているウ(・)ル(・)ス(・)ナ(・)殿は、かの若き日の太陽王に瓜二つなのです」

 

「あ、ウルスナの方なんだ。アイリーンは?」

 

「え、いやアイリーン嬢のことは存じませんでしたが……。ともあれ、他人の空似と言うにはあまりにも似ております。しかし確証もなく、せめてお耳にだけは入れておこうと思ったのですが……。流石は御使い様、ご自分で真相に辿り着いておられたのですね」

 

 そう言って、ゴールドン氏は深い感銘を受けたように何度も頷いた。

 いや、僕もリイダさんからぽろっと聞かされただけなんで、そんな感心されるようなことじゃないんだけどね。突っ込んだら思いがけずでかい秘密が出て来ただけだし。

 

 そんなことを思っていると、不意にゴールドン氏は顔を引き締めた。

 

「御使い様、本当に式を進めてよろしいのですね? シャルスメルの王宮を敵に回すことになるやもしれませぬ。今なら儂の権限で式を取りやめることもできます。儂の微力を尽くして、相手を遠ざけることも」

 

「え? いいよ、そのまま式を開いてよ」

 

「……本当に後悔なさりませぬか」

 

「うん。だって別に僕はシャルスメルの姫君と結婚するつもりなんかないもん。好きな相手がたまたまシャルスメル王家の落胤だっただけだよ」

 

 僕は冒険者のアイリーンとウルスナに熱心にアプローチされて、あの子たちを好きになったんだ。シャルスメル王家の落胤だから好きになったんじゃないよ、そんなのただの追加された属性に過ぎないじゃないか。

 

「それに結婚してから相手に出生の問題があったことがわかるなんてあるあるだしね。そういうのを含めて、相手の問題を一緒に背負ってあげるのが夫婦ってもんだと思う」

 

 そう。

 僕のおじいちゃんだって、資産家の一人娘の絶世の美人だと思っておばあちゃんに手を出したら、実はとんでもないヤンデレだったことがわかって一生尻に敷かれてるからね。でも本人もまんざらじゃなさそうだし、それはそれで幸せな夫婦と言えるんじゃないかな。

 

『そんなことはない! 俺は、俺はもっと他の女を数十人侍らせてハーレムヒモ生活を満喫してみたかったあああああああああ!!! ハッ、お前!? いやこれはちが……ああああああああーーーーーーーッ!!?』

 

 ん? なんか幻聴が聞こえたような? ちょっと前に変な夢見てからおかしいな。

 これもホームシックの一種なのかなあ。

 まあいいか。

 

「先生……そこまでの覚悟を」

 

「……わかりました。御使い様がそこまでおっしゃるのであれば、もう何も言いますまい」

 

 ゴールドン氏は深く頷くと、僕の目をまっすぐに見つめた。

 

「不肖、このゴールドン。残された全力を賭して、生涯貴方を守り抜くと誓いましょう」

 

「ぼ、僕だって! 先生、困ったことがあったらドライグの里に逃げて来いよ! 相手がシャルスメルの王宮だって、ドライグが全力で匿ってやるから!」

 

 え? いや、そこまで事を大きくしなくてもいいんだけど。

 これまでだってウルスナは辺境伯家で放置されてたみたいだし、アイリーンだってずっと自分は孤児だと思ってたし、大丈夫じゃない? ライバル国の辺境都市まで探さないでしょ。

 そもそも今更ウルスナを探してどうするんだよ、ウルスナを王女様にでもするの? それなら身元のしっかりした王家の遠縁の人を後継者にした方がいいでしょ。2人とも心配しすぎだよ。

 僕の力になってくれるって言葉は嬉しいけどね。

 

 さて、それじゃ内緒話も終わったし、後は結婚式が開かれるのを待つばかりか。

 そんなことを思っていると、ゴールドン氏は僕に上から下まで視線を向けて来た。

 

「ときに……その花婿衣装、少々地味すぎるのでは? 儂が金を出すのですし、もう少し凝ったものでもよかったのですよ?」

 

「凝ったって、どういう風に?」

 

「そうですな……タキシードにラメを散りばめてみるとか、尻に極彩色の尻尾を付けてみるとかが一般的です」

 

「だよな! 地味すぎるよな、これじゃ!」

 

 我が意を得たりとばかりに頷くドラコに、ゴールドン氏も頷き返す。

 

「ですな。あ、そうだ。大きな翼を背負って天よりの御使いであることをアピールするのはどうです? 御使い様にぴったりですぞ」

 

「いや、先生といえば朝の体操だろ。ここはタキシードの胸元をばんっと大きく開いて、持ち前の筋肉を披露するのはどうかな? 筋肉こそ先生の最大の持ち味だぜ」

 

「むうっ! それはなんともエロ……いや、扇情的ですが、斬新さも感じます。年寄りにはない発想……やりますね、小娘」

 

「へっ、よせやい」

 

 呆然と見つめる僕をよそに、ゴールドン氏とドラコはキャッキャと盛り上がっている。

 

「それかこの籠の中の花をこう口に咥えてさ。スポットライトが当たる中、セクシーな流し目でマッチョポーズを取りながら花婿登場っていうのはどう? こんなエロい男と結婚するんだ!って出席する女性の目は釘付け間違いなしだよ」

 

「ほう……ほうほうほう! その発想は新しい! 御使い様にしかできない花婿登場ですな! それに時間がなくてもすぐ用意できるのもいい! スポットライトは儂にお任せを、この微力を尽くして演出して見せましょうぞ」

 

「おっと爺さんにだけいい格好はさせないぜ。僕もライト役をやる、任せてくれ」

 

「小娘……! フフ、流石は御使い様の弟子を名乗るだけはあるようだ」

 

「当然だろう? 僕は先生の全てを受け継ぐつもりだ……!」

 

 ドラコとゴールドン氏は不敵な笑顔を交わし、深くうなずき合った。

 いかん! このままでは僕は自分の結婚式でマッチョポーズを取りながら登場した変態になってしまう!

 そりゃ毎朝領主の屋敷の前でマッチョを引き連れながら体操したりはしたし、結婚式なんて適当でいいとは言ったが、そこまで筋肉をアピールしたいわけじゃないよ!

 

「ウーム、翼もいいが小娘の案も捨てがたい。いや、いっそどちらもやってしまうという手も……? どう思われますか、御使い様?」

 

「ふ、普通で! 普通でいいよ! 頼むから普通にしてくれ!」

 

 僕の言葉に、ゴールドン氏とドラコは不思議そうに顔を見合わせた。

 

『これが普通ですけど……?』

 

 久々に異世界のカルチャーギャップに打ちのめされたわ。なんだこの世界……!?

 

≪説明しよう!

 貞操逆転世界の結婚式において、花婿衣装は一生に一度の男性の晴れ舞台となる! 普段家族の所有物扱いで家の中に押し込まれている男性が、自分の好きなように目立てるまたとない機会なのだ!

 なのでライトアップ、天空からゴンドラで登場、極彩色のタキシードなど、結婚式で頭がハッピーになってるのもあって思い思いの方法で目立とうとするのである!

 なお、花嫁は普通にウェディングドレスである。貞操逆転しているので、女性が目立ってもしょうがないでしょという発想なのだ!≫

 

 

 

 そしていよいよその時がやって来た。

 バージンロードに立つ僕の前に並ぶのは、ウェディングドレスを着込んだ3人の花嫁たち。 アイリーンは可愛らしい桃色のドレス、ウルスナは爽やかな水色のドレス、アミィさんはオーソドックスな白色のドレスで、はにかむように僕を見つめている。

 今日これから、この3人が名実ともに僕の奥さんになるわけだ。

 

「くっ……ううっ……!」

 

「先生……泣いて……?」

 

 僕はじわりとこみあげて来るものがあり、思わず掌で目頭を押さえた。

 3人とも可愛すぎるだろ……! こんな美人と3人も同時に結婚できるなんて、前世の僕はどれほどの功徳を積んだというんだ……! 

 いや、僕の前世は現代日本なのだが。前世でモテなかった分の幸せが一気に訪れたに違いない。

 

「わかるぞ、先生の気持ちは……。女に所有されるのは屈辱だよな。それをこんな多くの人の前でしらしめさせられるなんて、涙するほど辛いだろう」

 

「いや、お前は何もわかってない。知ったような口を利くな」

 

 傍に立ってウンウンと訳知り顔に頷くドラコに突っ込むと、変な顔をされた。

 

「ええ……? でも一般的に男ってのはそういうもんじゃ……?」

 

「僕は別なんだよ。お前も本当に好きな人と結婚するときが来たらわかる。まあ良い人と出会えることを祈っとけ」

 

「うーん、やっぱ先生って変なオトコだよなあ」

 

 まだぼやいているドラコを置いて花嫁たちに近付くと、にこりとたおやかな笑顔を返される。普段とはまた違った魅力があって、それもまたどきりとさせられた。

 

 偽物とはいえ貴族令嬢を名乗っているアイリーンは、どこから調達したのか一番高そうなアクセサリーを可愛いらしいデザインのウェディングドレスに付けている。ん? このアクセサリー、どこかで見たような気もするが……いや、気のせいかな。着慣れていないところが背伸びしている感があって、ちょっと微笑ましい。

 

 対してウルスナはいつもバンダナにしまっている髪を下ろし、美しい金髪をロングヘアにしている。ドレスを着慣れているのを見て取れて、こうしてみるとああこの子は本物の貴族令嬢なんだなと思わされるよ。こんなきれいな子と結婚できるなんて夢みたいだ。

 

 アミィさんは今日はあくまでアイリーンとユウジの結婚式だから……と遠慮しようとしていたが、強引に説得してアミィさんにもウェディングドレスを着せた。アイリーンとは一回り近く年齢差があることを気にしてるみたいだったけど、そんなの関係ない。4人でこれから一緒に家族になるんだから。

 飾り気が極端に廃されたウェディングドレスはアミィさんの無骨な人柄を表しているようで、それが逆に清冽な美しさを醸し出している。

 

「じゃあ、行こうか」

 

「う、うん!」

 

「はい、あなた」

 

「よ、よろしく頼む」

 

 僕の言葉に、三者三様の返事を返してくれる花嫁たち。

 付添人となったゴールドン氏について、僕はしずしずとバージンロードを歩いていく。

 

「おめでとう、ユウジ君」

 

「兄貴、かっこいいですよ!」

 

「あらぁ、素敵! でもちょっとタキシードが大人しいかしら?」

 

「吾輩の結婚式を思い出すなあ……。3メートルくらい角を盛ったっけ」

 

「マイスター、来たぞ! 招待状をくれてありがとう!」

 

 ウェズ君、ロングフィールド家のジャニス、アレスさん、ドラパパ、ポピーちゃん……。

 これまで知り合った人たちが参列してくれて、口々に祝福してくれる。僕は誰に招待状が出されたかまるで知らないんだけど、まさかドラゴンやスノーゴブリンまで出されているとは。そしてみんな遠路はるばる参列してくれるなんて。

 

 しかし3メートルも角を盛ったドラゴンってあんたかよ。

 

「それでは結婚式を執り行いマース」

 

 牧師の言葉に、僕たちは頭を下げた。

 新教国であるブリシャブには神父さんはいない。教えのすべては聖典に書かれており、教会はあくまでも聖典を紐解く教えの場、牧師は聖典をわかりやすく教えるための師という考えだ。だから厳密に言えば教会に来なくとも教えを知ることはできる。

 それでも人は教会を必要とする。冠婚葬祭、生活の区切りをつけるための儀礼の場として、教会は人の営みに必要不可欠な場所なのだ。

 

 そして今日、僕たちもここで一区切りをつけ、夫婦となる。

 

「それでは病めるときも、健やかなるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り、真心を尽くすことを誓いマースか?」

 

 そんなのもちろん、訊かれるまでもない。

 

「誓いま……」

 

「その結婚、ちょっと待ったーーーーーーーーっ!」

 

 そのとき教会のドアが乱暴に開かれ、闖入者たちが姿を現す。

 

「おいおいおい、こちらにおわすはサウザンドリーブズの当主代行を勤めるアンゼリカ様だぞ! その当主代行に黙って結婚式を挙げるだなんて、許せる話じゃないよなあ~!? もちろんこんな結婚式は無効だ、無効! まあ、大人しく初夜権を行使するっていうなら話は別だけどなあ! ですよね、アンゼ姉様!!」

 

 手をスリスリと高速で揉み合わせながらドヤ顔を決めるデアボリカが、威勢よく言い放つ。そしてその後ろにはまったく無表情のアンゼリカさんが佇んでいる。

 

「貴様……なんのつもりだ。今は神聖な式の最中だぞ、失せろ」

 

 ゴールドン氏がドスの効いた低い声で威圧した。

 彼にとってみれば自分の名前で大々的に人を集めた式を、どこぞのボケナスに台無しにされようとしているのだ。そりゃ殺すぞボケがって声色にもなるよね。

 

 デアボリカは露骨に顔色を青くしたが、それでも踏みとどまり、フンと鼻を鳴らした。

 

「い、いくらゴールドン翁が相手でも、大義はこちらにある! この国の法では領主が認めない結婚は無効となっていますからね! つまりアンゼ姉様が認めない限りユウジは未婚のままということ! だからアンゼ姉様がユウジに手を出してもそれは不倫ではないし、法には触れない! 結婚を認めてほしければ、大人しくユウジを差し出すことですね! ですよね、アンゼ姉様!!」

 

「…………」

 

 さあ、結婚前の最後のボスバトルが始まるぞ!




二度目の脳梗塞からカムバック。
また3日おきに更新するのでよろしくね。
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