【書籍版1巻2/20発売】貞操逆転ハードモード異世界を鋼メンタル冒険者が生き抜く 作:風見ひなた(TS団大首領)
僕が結婚してから間もなく、冬が訪れた。
異世界転移してから初めての冬だ。
ゆーて日本も四季があるし、このブリシャブ島も同じようなもんだろって思っていたんだけど。
「めっっっっっっちゃ寒い!!!!」
この島の冬を舐めてた。完全に雪国だよこれ。
うんざりするほど雪は降るし、来る日も来る日もどんよりとした雲に覆われて天気がいい日なんてまるでない憂鬱な気候が続く。
そして冬がとんでもなく長い。11月から3月までずっと寒いらしいんだよ。1年の半分近くが冬ってことになる。この島って北海道より緯度が高いんじゃない?って考えたことあるけど、間違いない。ここはどう考えても北国だよ。
僕が3月の終わりに転移して来たのは僥倖だったと言えるね。おかげで半裸でドブさらいしても不自由なく過ごすことができた。
これが冬に転移してたら……あるいは成り上がることなくその日暮らしを続けてたら、今頃凍死してたかもしれないよ。
いやあ……秋の終わりからアミィさんがやたらアイリーンとドラコの修行の一環で薪割りさせてたんだけど、冬に備えてのことだったんだね。
山に行っては無数の薪を抱えて帰ってきてて、倉庫まるまる埋め尽くす勢いだったんだよ。
こんなに使い切れるの? と思ってたんだけど、僕が全然甘かった。5か月も冬が続くのなら全然必要だわ。
幸い錬金術師のアルシェさんに注文していたダルマストーブの試作品が届いたこともあり、暖炉よりも暖房効果は抜群にいい。注文した僕にグッジョブと言いたい。
2台届いたのでアミィさんが1台を詰め所に持って行ったんだけど、もっと作ってくれとアルシェさんのアトリエには注文が次々舞い込んでいるらしい。
アルシェさんにはもっといろいろなものを作ってほしいんだけどな……。
デアボリカは冬の間は僕に病気の貴族を治療させるんだと息巻いてたけど、それは無理だ。都市の外に敷かれた道路が凍結して、ツルツル滑るんだよ。こんな道を馬車で移動しようものなら、馬の踏ん張りが効かなくて大事故になるのは目に見えてる。
これはサウザンドリーブズの中にいるしかないね。
幸いアンゼリカさんとゴールドンのおじいちゃんが、都市内の富裕層やスラムの病人を紹介してくれるから仕事には困らない。冬の間は2人の紹介してくれる病人の治療に専念しようと思う。
「馬車なんて使わなくてもドラゴンがいるだろう!? こういう時こそドラコをこき使えよ!ドラコの背中に乗って移動すればいいだけじゃないか!! お前の助けを待っている病人がいっぱいいるんだ! ハリー! ハリー!!」
「は? 嫌だよ。このクソ寒いのに外なんて行きたくない。空ってめちゃめちゃ寒いんだぞ、雪降ってりゃなおのことだろ。絶対にお断りだね」
なんとか僕を連れ出したがるデアボリカに、ドラコは鼻で笑いながらダルマストーブの前で丸くなった。ストーブの前にクッションを置いて特等席にしている。これが猫竜ってやつかな。
「この怠け者が! お前を呼ぶ病人の声が聞こえないのかい、ユウジさんよぉ!!」
「お前は病人を癒したいんじゃなくて、治療費を稼ぎたいだけだろ。大体貴族の領地には医者がいるだろ、金があるならそっちに診てもらえばいいじゃないか」
「医者に診てもらっても病気が治らないからお前が必要なんだろうが! 医者と詐欺師なんて紙一重みたいなもんなんだよ! 医者が本当に病気を治せるなら、父様だって今頃ぴんぴんしとるわ!!」
なんか不意に地雷出して来るじゃんこの駄肉眼鏡。共感性を失ってる僕でも、それはさすがにネタにしづらいわ……。
僕が気まずい空気を感じていると、デボ子が鼻で笑い飛ばした。
「まあ、私が母様のお腹の中にいるときに死んだ人なんてどうでもいいが! 死人はお小遣いもくれないからな! なあユウジ、治療しようよ! カネだよカネ!!」
「……お前ってすごいな……」
自分でシリアスブレイクしていくのか……。
僕の言葉を褒めたと思ったのか、デアボリカは得意げに胸を張る。
「だろう!? 今頃分かったか、私はすごいんだ! さあ、この私に頼れ! もっと儲けさせてやるぞ! 治療費の取り分はなんと3割もお前にくれてやろう! 7割は紹介料として私がいただくが、いいよな!!」
「先生、こいつ頭おかしいの?」
「おかしいよ」
僕はドラコの言葉に相槌を打ち、小さく溜息を吐く。
「そもそもお前もうギルマスじゃないし、僕の上司じゃないだろ。なんで当然のように僕を連れ回そうとするんだ。貴族への紹介をするにしても、ゴールドンのおじいちゃんやジャニスといったツテもあるし、もうお前に頼らなくてもいいよ」
「嫌だーーー!! 見捨てないでくれーーーっ!! お前は貧乏な頃散々私に世話されておきながら、裕福になったら私を見限るのか!? そんな恩知らずの人間だったのか、お前は!?」
「いや……恩知らずって言うなら、先生の結婚式で裏切ったお前はどうなるんだよ……。しかもどの面下げて当たり前のように先生に会いに来てんだ。恥ずかしくないのか?」
「ここ! 私の家! いるの当たり前! お前ら居候! 身の程知れ!!」
「先生、はやいとこ引っ越した方がいいと思うよ」
追い詰められて余裕をなくしたのか、途端に片言になるデアボリカにドラコが白い目を向けた。
こいつ10歳児に言い負かされてるんだけど、これでギルマスやってたってマジ?
「まあ、今は冬だし、引っ越しも難しいよ。しばらくここにいるしかないだろ」
「ちぇっ。おいメガネ人間、先生を裏切ったこと僕は忘れてないからな」
「ち、ちくしょーー! 覚えてろよ、いつか絶対にこの屋敷から追い出してやるからなーーー!!!」
今が逃げるチャンスと見たのか、デアボリカは捨て台詞を吐いてとんずらをこいた。
まあどうせ自分の部屋に逃げ帰ったんだろ。そのうち寒くなって出て来るさ。
……結婚式で裏切られたのに許すなんて甘いって?
デボ子に裏切るなっていうのは鳥に飛ぶなっていうの同じだからね。あれはどうやっても裏切るんだから、逐一めくじら立ててもしょうがないよ。
それに認めたくないけどあいつ僕の義妹だからな。しかもアミィさんとアイリーンの分、二重に義妹ということになる。妹ってこんなに可愛くないことあるんだ……。
まあいかに小憎たらしくても、お嫁さんの血縁を否定することは僕にはできない。
それに幸いなことに、あいつに裏切られたところで痛くも痒くもないからね。バカすぎて裏切られてもまるでダメージがない。ヤブ蚊より無害な生き物だからほっといてもいいよ。
まあそんなわけで、ここ最近は大体僕たちは居間でゴロゴロしている。
僕の仕事はぱぱっと終わるからね、寒いからすぐ家に帰ってくるよ。
アイリーンとウルスナは結婚を機に冒険者を辞めた。
アイリーンは伯爵令嬢として、日々ロングフィールド家から送られてくる書類にてんてこ舞だ。デスクワークだけでなく、令嬢としての所作や教養の勉強もしているから、毎日本当に大変そうだけど、僕からのスケベなご褒美に釣られて頑張っている、
ウルスナはアイリーンに令嬢としての教育を施している一方で、まだまだ不慣れなアイリーンの仕事をサポートしてもいる。
さらにそれだけでなく、ジャニスと書簡の交換をして何やら別の仕事も進めているようだ。形になったら僕にも何をしてるのか教えてくれるらしい。僕に言わないのは、例によってデアボリカを警戒しているからだね。銭の匂いには本当に敏感だからな……。
それにしても、こんなにバリバリ仕事をこなしているとは。ウルスナって本当に有能だったんだなあ。こんな優秀な人間を手放しちゃって、元の家は大丈夫なんだろうか?
ただ冒険者を辞めたとはいえ、僕が冒険に出たら2人とも個人的についてきてくれるそうだ。いわば僕の専属冒険者になった、という感じかな。
そもそも街の外は雪景色だし、モンスターも大体は冬眠しているから、冬場はあまり冒険者の仕事もないらしい。アイリーンも冬の間食いっぱぐれるくらいなら、いっそこうして転職したのはよかったのかもしれないね。2人が抜けたわけだけど、リイダさんは以前からいつ2人が辞めてもいいように準備してたそうで、問題はなさそうだ。
転職といえば、アミィさんも衛兵を辞めた。
これからは都市政府の依頼を受けてVIPである僕のボディガードをするのが仕事になるのだとか。まあこれまでも僕のボディガードはしてたから、実質的には何も変わってないね。
そもそも夫を守るのは妻の役目だから、ある意味では何もしなくてもお給料がもらえるなとアミィさんは笑っていた。僕も美人のお嫁さんがいつも一緒にいてくれて嬉しいよ。
さて、暮らしの装いを変えた僕たちの冬の生活だけど……。
隙あらばめちゃめちゃイチャついている。
ドラコの目もあるし、デアボリカには屋敷の中でエロいことするなよ! 絶対だぞ!って釘を刺されてるから露骨なスケベはしてないけど、居間のストーブの前で暖まりながら4人で集まって肌を寄せあったり、くすぐりあったりして戯れてるよ。
大体さあ、冬場ってすることがなさすぎるんだよね。
テレビやらネット環境やらが完備している現代ならいざ知らず、この世界は中世まっただなか。時間の潰し方といったら体を動かすか、お喋りするしかないんだよ。読書という手もあるけど、相変わらず僕はこの世界の字を読めないしね。あと本が非常に高価だ。
それでもなんとか時間を潰そうと、いろんなゲームを作ってはみた。
チェスとか、将棋とか、リバーシとかはもちろん、人生ゲームやカタンまで再現した。
トランプも作ったよ。この世界には植物紙がないから、木片を加工した木札の裏にニスを塗り、木目を隠してカードを作った。
どれも家族には非常に好評で、特にアイリーンとドラコはトランプ、アミィさんとウルスナは将棋が気に入ったようだ。
チェスは元々この世界にあったから、ウルスナは遊び尽くして退屈してたんだって。よくアミィさんと難しい顔で対局を楽しんでいる。僕もちょっとは定石を知ってるから最初は勝ててたんだけど、すぐに定石を吸収されて勝てなくなってしまった。スペックの差を思い知らされるね……。
とはいえ、ゲームよりも楽しくて飽きないのがスキンシップだ。
そもそも僕たちは新婚夫婦だからね。ただでさえ息を吐くようにイチャイチャしたい。
そこに冬の退屈さが加われば、もう……ねえ?
昔の時代の一家が子だくさんだったのもわかるよ。それが理由のすべてではないだろうけど、イチャイチャするにはこの寒さと暗さはもってこいだ。
というわけでアイリーンとウルスナが妊娠した。
……いいだろ別に、僕たちは夫婦なんだからお嫁さんに子供ができるのはめでたいことだよ!
それが発覚したのは12月の年の瀬だった。
最近アイリーンがよく食うなー。ウルスナもピクルスを好んで食べるようになったなー。
……なんて呑気に思ってたんだけど、
「もしかして2人ともおめでたなんじゃないか? 一度医者に診てもらおう」
とアミィさんが言い出して、それで妊娠が発覚したというわけだ。
僕の子だよ、僕がパパになるんだよ!!
とは言っても、僕にできることは何もない。
男親ができることなんて、種を仕込んだ後は何もないからね。
せいぜいが奥さんが無事出産できるよう、せっせと環境を整えるくらいのものだ。
そして僕が何かする必要もないくらい、僕のお嫁さんたちはパワフルだった。
「あ、ベビーベッド重いだろ? アイリーンは妊婦さんなんだから座ってて……」
「大丈夫だよ、このくらい軽い軽い! まだお腹も膨らみかけだし!」
「ウ、ウルスナ! 薪割りなんていいよ! 僕がするから……」
「平気だって、こんなん魔術でちょちょいだよ。妊娠してから魔術のキレもいいし、余裕余裕」
僕が力仕事を引き受けようとしても、アイリーンとウルスナが全部こなしてしまう。
妊婦さんをいたわろうとしても、余計なお世話と言わんばかりだ。
「まあ……この世界の女性は、基本的に自分のことは自分でするのが原則だからな。妊婦になるとパワーアップしてさらに元気になるから、力仕事も手助け無用だ。男性が必要なのは本当に子種を出すところだけだぞ」
「……冗談だと思ってたけど、本当に妊娠するとパワーアップするんだ……」
あまりにも僕がいた世界と違いすぎるだろこの世界の女性。
貞操逆転してるからって、あまりにも女性がパワフルすぎる。
でも言われてみれば、この世界の社会の担い手は女性たちだ。彼女たちが妊娠するたびに1年近く働けなくなるのでは、社会が回らないだろう。
元の世界では奥さんを妊娠させても男性たちは変わらず働いていたわけだし、それが貞操逆転したとなると、女性が妊娠しても変わらず働けるのは当たり前のことなのかもしれない。
……いややっぱおかしいだろ。
どうなってんだよこの世界の人類。本当に僕が知ってる人類と同じ種族か?
「……アミィさんだけ妊娠できなくて残念だったね」
居間のストーブの前でくつろぎながら、僕はアミィさんのうっすらと6つに割れているお腹を見た。そこにはまだ生命が宿っておらず、見た目には何の変化もない。
「まあ、こればかりは授かりものだからな。仕方ないさ」
アミィさんはそう苦笑を漏らし、鍛えられたお腹をゆっくりとさする。
仕方ないと口では言いながらも、なんだか少し残念さが滲み出ているように僕には思えた。
「それに悪いことばかりでもない。2人が出産して子育てに追われているとき、2人がお前を守れないでいるとき、私が家族を守ってやれるからな。私の妊娠は、2人の子供が大きくなってからでいい。うまいこと周期がズレてくれたんだ、天の配剤だと思おう」
「アミィさん……」
アミィさんの言葉を聞きながら、僕はゆっくりと目を閉じた。
瞑目しながら、決意を固める。
決めた。絶対このメス孕ます。
蜜月楼に連れ込んで、嫌というほどザーメンを子宮にぶち撒ける。
嫁さんを孕ませ損ねるなんて種付けお兄さんの名折れだよ。
おじいちゃんが知ったら、「こんな別嬪を嫁にもらっておきながら孕ませないとはそれでも俺の孫か! ええい! もうお前には任せておけない! 俺が孕ませてやろう!」と叫んで褌を脱ぎ去る。
そして直後に天井から舞い降りて来たおばあちゃんに子種をインターセプトされて「いやあああああ! これはお前のための子種じゃないの! 許してええええ!!!!」と情けない絶叫を上げる。大人のオスがこんな情けない声で鳴くんですねえ。
いいぞおばあちゃん、シミュレーションとはいえグッジョブ。このメスは僕だけのものだ。おじいちゃんにも指一本触らせねえ。
「アミィさん」
「ふふっ、なんだユウジ。今日は甘えたい日か? いいぞ、今日はアイリーンもウルスナもいない分、私に思う存分甘えてくれ」
ゆっくりと肩を抱くと、アミィさんは嬉しそうに微笑んでくれた。
ちなみにアイリーンとウルスナは、意気揚々と買い物に出かけて行った。おむつなどのベビー用品を大量に買って帰るらしい。
一度ついていったことがあるが、キャイキャイと女同士で盛り上がって買い物が長引くうえ、木箱を両肩に担いで帰ってくるのだ。持ち上げてみようとしたが、僕の筋肉をもってしても脂汗がだらだら出て来た。それをあの2人はこともなげに持ち上げるのだ。
この世界の妊婦が強すぎる。そりゃ男性の出る幕なくなるわ。
そんなわけで買い物は2人に任せて、僕は家で大人しくしていることにした。僕のボディガードをしてくれるアミィさんも一緒というわけだ。
なお、ドラコはそりを作ってやったところ、大喜びで友達と遊びに行っている。デボ子? 知らん。どっかで金儲けの算段してんだろ。
そんなわけで今は夫婦水入らずの時間。
2人で肩を寄せ合う、しっとりとした時間が流れている、
ああ、落ち着く……。たまにはこうしてゆっくりイチャつくのもいいね。
アミィさんは大樹のようなイメージだ。派手さはないけど、どっしりとして頼りがいがある。元気なアイリーン、智謀に満ちたウルスナに負けず劣らず、僕にとって大切な存在と言える。
「アミィさんはいいな。本当に一緒にいて落ち着く」
「ふふ、そうか? お世辞でもそう言ってもらえると光栄だな」
軽く笑顔を浮かべるアミィさんに、僕は唇を尖らせる。こんな拗ねた表情をできるのも、年上女房のアミィさんが相手だからだ。
「本心だよ? アミィさんはなんというか、安定してるんだ。アイリーンやウルスナみたいに実は王族なんて出生の秘密はないけど、だからこそ地に足がついてると思う」
「……そう、か」
その返答にどこかぎこちなさを感じて、僕は顔を上げた。
「……アミィさん?」
「な、なんだ?」
「もしかして、アミィさんにもあるの? 出生の秘密とか」
「あー……うー……」
アミィさんはしばし視線を宙にさまよわせ、やがて隠し切れないと思ったのか静かに頷いた。まあ……アミィさんは大概嘘を付けないからね……。
「……ある。まあシャルスメル王国の王族の落胤ほど大した話ではないがな。それを知ったところで今のお前の生活が変わるわけでもない。知ったところでどうにもならない話だよ」
「知りたいな。聞かせてよ、アミィさん」
僕がせがむと、アミィさんは奥歯にものが挟まったような顔をした。
「……本当に知ってもどうにもならんぞ?」
「でも知りたい。奥さんのことを全部知りたいと思うのは普通のことじゃない?」
その言葉と同時に僕が甘えたように肩に顔をこすりつけると、アミィさんはふうっと小さな溜息を吐いた。
やった。こんな甘えたムーブも、アイリーンやウルスナの前では絶対できないからね。
「仕方ないな、ここだけの話だぞ。実は私たち3姉妹の父は、侯爵家の人間でな。まあその侯爵家も今は御取り潰しになって、私たちはその血を引く唯一の存在なんだ」
……どうしよう。軽い気持ちで掘り返したら、なんかデカい不発弾出て来たぞ。