【書籍版1巻2/20発売】貞操逆転ハードモード異世界を鋼メンタル冒険者が生き抜く 作:風見ひなた(TS団大首領)
「仕方ないな、ここだけの話だぞ。実は私たち3姉妹の父は、侯爵家の人間でな。まあその侯爵家も今は御取り潰しになって、私たちはその血を引く唯一の存在なんだ」
アミィさんは声を潜めながら、真剣な顔で僕に出生の秘密を明かす。
僕は思わぬ形で掘り出してしまった不発弾にごくりと息を呑んだ……。
が。
「ごめん、なんか大きな秘密を明かしてくれてるのはわかるんだけど……。侯爵ってどんくらい偉いんだっけ?」
僕の質問に、アミィさんの肩ががくりと下がる。
いや、僕もWEB小説読みだから侯爵ってのが相当えらいことは知ってるんだけどね。具体的にどれくらい偉いのか、作品によってまちまちだからいまいちよくわかってないんだよ。
と、アミィさんは肩を落としたかと思えば、ふふふと笑みを浮かべている。どうしたんだろ?
「まったく、ユウジときたら……。お前は本当にちぐはぐだな。病を治すなんてすごい力を持っているのに、誰でも知っているようなことを知らないんだから。お前が貴族なんていない世界から来たというのも、本当のことなんだろう。お前を見ていると、重い秘密だと思ってて抱え込んでいた自分がバカらしくなる」
「ええと……それは褒められてるの? 貶されてるの?」
「褒めるとか貶すとかじゃないよ、愛しい旦那様」
アミィさんは可愛らしいものを愛でるように、僕の額にキスをしてからそっと身を離した。
「侯爵というのは貴族階級でいえば上から2番目だ。この上は王族の分家にあたる公爵しかいないから、事実上王族以外ではこれが一番上ということになる。そうだな……世が世なら小国の王族だ、といえばわかるか? このブリシャブ島は今でこそ王家の元に統一されているが、その昔は小国が乱立していたんだ。その小国が王家の傘下に加わるにあたって、侯爵という身分に封じられた……というわけさ」
(作者註:諸説あるし、国によって爵位システムそのものも違うので、この世界ではこうだということにしておいてください)
ええと……。
つまり日本で言うと、かつては戦国大名としてブイブイいわせてた家が、徳川政権に組み込まれるにあたって雄藩の殿様になりましたとか、そういう感じ?
しかも外様大名としては一番上ということは、百万石大名で知られる加賀藩の前田家とか、そのレベルの大大名ってことだよね。
「ということは……アミィさんは世が世ならお姫様だったということ?」
うっひょおマジかよ。僕のお嫁さん、全員お姫様だったの?
そう言われればアミィさんってジェントリって割にはドラゴンと平気で渡り合ってたし、ジェントリって言う割にはめちゃめちゃ美人だし。本人が平民に毛が生えた程度の田舎貴族って謙遜する割には、魔力も容姿もずば抜けていると思ってた。
侯爵家の落胤ってことならそれも納得がいく。
アンゼリカさんも、認めたくないけどデアボリカも、容姿はめちゃめちゃ美人だし。
ふふふ、そうか……アミィさんはお姫様なのか。
可憐なアイリーン、一見乱暴だけど知的なウルスナ、武人のアミィさんと、僕のお嫁さん枠が高貴な家柄で埋まってしまったぞ。
こりゃ夜の方がますます滾りますなあ。このメス絶対孕ます……!
そんな野望にフツフツと燃える僕を見て、アミィさんは苦笑を漏らす。
「いや、そんなことはないよ。私が侯爵家の血を引いているのは確かだが、私が侯爵家の姫だと名乗ることは絶対にない。何しろ、私の父は侯爵家から勘当された身だからな」
「……詳しく聞いても?」
「ああ」
そう応えると、アミィさんは足を組み直して事情を語り始めた。
「まず、私の父は侯爵家に生まれた男子だったのだが……。それがジェントリの母の夫になるのは不自然だろう? なにせ身分が違いすぎる」
確かに。日本で言うと、農民出身の足軽がいきなり戦国大名の娘を嫁にもらいました、みたいなもんだよ。秀吉じゃあるまいし、そんなことがそうそう起こりえるわけがない。
何かのっぴきならない事情があるに違いないのだ。
「魔力は血に流れる……と聞いたことはあるか?」
「確かロングフィールド家の伯爵様がそんなことを言っていたっけ」
「知っているなら話が早い。強い貴族の血を引いている者には、強い魔力が流れる。かつての戦で武功を立てた魔力の強い者が大貴族となる、あるいは大貴族が魔力の強い者を積極的に血族に取り入れた結果、そのようになったんだ」
なるほど。
伯爵様は自分の血を引く後継者を何とかして残そうと、強い魔力を持つ男性を多数妾に抱えていたっけ。僕も伯爵様に押し倒されそうになった。
あれは誰彼構わず襲ってるのかと思ったけど、僕のチート能力が魔力だと勘違いされていたのなら納得だ。昔から貴族にはよくあることだったんだね。
「侯爵家もそれに漏れず、強大な魔力をその血に宿していた。周辺の諸侯からも恐れられていて、『あの家系には悪魔が宿っている』とまで言われたらしい」
「悪魔って?」
「物の喩えだろう。それくらい強かった、ということかもしれん。そううそぶいていた父ももう亡くなったし、今更詳細を知りようもないが……それはともかく」
コホン、とアミィさんは咳払いして話を続けた。
「で、私の父はそれはそれは強力な魔力を持っていたらしい。侯爵家においてすらその力は抜きんでていて、これが女子に生まれていれば確実に次期侯爵だっただろう。残念ながら男子に生まれたので継承権はなかったが、その胤は侯爵家の重要な財産だ。侯爵家で自家消費して後継者を孕ませるもよし、他家との婚姻同盟の材料に使うもよし。王族に婿入りさせることだって、ありえたかもしれん。少なくとも田舎のジェントリの夫になるようなことは絶対にない。だが、本来起こりえないことが起こったのは……」
「起こったのは……?」
促す僕に、アミィさんは小さく頷いて言葉を続けた。
「実は私の父は……巨女フェチだったのだ」
「は?」
聞き間違いか? ……と思ったけど、アミィさんは至極真面目な顔をしていた。
マジかよ。
「
「え……まさか」
「そうだ。田舎都市の傭兵にジェントリ出身のデカい女がいると聞きつけた父は、はるばるサウザンドリーブズくんだりまで出かけ……母を見て、これが運命の女性だと確信したらしい。そのまま母にプロポーズして、二度と侯爵家には戻らなかった」
「いくら何でもフリーダムすぎだろ」
思わず呆れた感想を漏らす僕に、アミィさんは頷いた。
「信じられないのも無理はないが、本当のことなんだ。私の母はデカすぎて周囲のジェントリからの縁談をすべて断られていてな。これはもう一生独身だろうと諦めて、傭兵稼業をしていたそうなのだが……。突然侯爵家の男性が『貴方のデカさに惚れました! その巨乳で挟んでもらえるなら俺はもう死んでもいい! 俺と結婚してください!!』などと押しかけてきた。最初はからかわれてるのか?と疑ったようだが、元々結婚のあてなんかないし……と頷いたところ、結局父は死ぬまで母の傍を離れなかった」
どこを挟んでもらう気だったの?
いや、それよりもどんな行動力してんだよ。
少なくともこの貞操逆転世界で半年過ごしてみて、僕はこの世界がどれほど男性にとって不自由なのか身に染みて知った。男性は女性の所有物として扱われてるし、街の中を移動するにも屈強な女性のボディガードがいないと危険なほどだ。ウェズ君なんて街の外に出たことがないと言ってたよ。
それが自分で田舎まで出かけて、侯爵家を飛び出して田舎貴族にプロポーズした? ありえないでしょ、世界のバグかよ。
「確かに、恐ろしいくらい破天荒な人だった。無論侯爵家も大事な財産がどこの馬の骨とも知れんジェントリに婿入りしたいと言って、許すわけもない。軍隊を派遣して取り返そうとしたが……父はそれをたった1人で撃退してしまった」
「え、勝ったの!? 軍隊って……それってつまり戦争になったってことだよね!?」
「ああ。巨人と蟻が戦うような、笑えるくらい非常識な戦力差にも関わらず、父が勝った。侯爵家の秘蔵っ子と呼ばれた父は、本当に侯爵家の総力を挙げても倒せないほどの
はえ~。
伯爵様は何を必死に子作りしようと頑張ってるんだろうと思ってたけど……。
そりゃ必死にもなるわ。
これもう生体兵器じゃん。たった一人で戦況を変えるほど強い子供が生まれてくるんだから、どうあっても自分の血を継がせないと次の代で周囲に攻められて滅亡するよ。だって周りの貴族も同等の戦力を擁してるんだもの。
しかもそれ男性なのに女性兵士や、侯爵家の女性貴族も倒したってことでしょ? バケモンかよ。
アイリーンやウルスナも、シャルスメル王国の王族の血を引いてるってことは、それと同じようなことができるということなんだろうけど……。僕の前では可愛い女の子で、まるでそんな気配は感じないが。
でもあの山を消し飛ばすほどの力を持つドラゴンと渡り合ってたし、やるときはやるんだろうな。か弱い庇護対象の僕の前ではそんな力を見せないだけで。
この世界で貴族がなんでやたら偉そうなのかもちょっとわかった気がする。
文字通り平民とは魔力量の格が違うんだ。同じ生物とは思えないほどに戦力差があれば、そりゃ自分たちは特別な存在だと思うよね。正確には先祖による品種改良の結果だけど。
「侯爵家はそれで戦力を失ってしまってな。仕方なく父に勘当を言い渡して、以後侯爵家の門を跨ぐこと相ならんと宣言したそうなのだが……。結局、その後滅亡してしまった」
「え、滅んだの? 侯爵家って大きな家だし、そうそう滅ぶことなんてなくない?」
「国王が議会の貴族に国外追放されるという政変が起きたんだよ。侯爵家は国王派に属していたことから議会派の貴族に攻められてな。一族郎党皆殺しにされ、侯爵家の領地は周囲の貴族のものになった。だから侯爵家の血を引く者は私たち姉妹しかいないし、継ぐべき領地も既にない……というわけさ」
ひょいと肩を竦めるアミィさんに、僕は深く納得した。
なるほど、そういう経緯なら確かに今更どうしようもないわ。
そもそも勘当されているんだし、継ぐ権利もないよね。
そうか……そういうことが……。
「え、待って。デアボリカはそのこと知ってるの?」
「知るわけがないだろう! 絶対に本人に言うなよ!」
僕の言葉に、アミィさんはとんでもないというように首を激しく横に振った。
「母様も姉様も、あいつには父はただの平民出身の巨女フェチだったと言ってあるんだ。自分は亡き侯爵家の正当後継者だ、不当に滅ぼされた旧領を回復する権利がある!とか言い出しかねないからな。そうなったら貴族たちに命を狙われるぞ。あいつの身の安全のためにも、絶対に秘密にしておいてくれ」
「ああ……言いそう……」
というか絶対言う、デボ子はそういう奴だ。目先の欲望のために身を慎むなんてことが一切できないからな……。
「でも楽しそうなお父さんだね。ちょっと会ってみたかったかも」
「ああ、そうだな。男性ながら武術にも長けていて、私も幼い頃に父から貴族流の戦術を教えられたものだ。まったく男性らしくない滅茶苦茶な人だったが……。ふふ、ユウジを見ていると父を思い出すよ。あるいは姉様も、ユウジを通して父の面影を見ていたのかもしれんな」
そうか……アンゼリカさんが僕に好意を寄せたのは、そういう理由で……。
え、待って。
つまりそれって僕がお父さんを思い出すほど滅茶苦茶な人間だってこと?
いや……そんなことはないと思うんだけど。
≪説明しよう!
お前ほど滅茶苦茶な人間は滅多にいねーよ!!≫
……ま、いいか。
僕が滅茶苦茶かどうかはともかく、アミィさんが僕を見て心の慰めを感じてくれるのなら、それはそれでいいことじゃないか。
「お父さんのことをもっと聞きたいな。他にどんなことをした人だったの?」
「と言っても、父がしたのはそれくらいだよ。あるいは父の魔力をもってすれば周囲のジェントリを滅ぼして一大勢力を築けたかもしれんが、父には権勢欲がなくてな。母の巨体に抱かれていればそれで満足だそうで、子供の頃はよくイチャついている2人を見たよ。母は極端に現状維持を望む人だから、そういう意味でも相性がよかったのかもしれん」
「へえー」
「ただ……男性だてらに強大な魔力を持っていたせいか、妙なツテはあったな。ゴールドン翁だが、実は古い知人らしい。本来ライバルになりえる関係だが、ゴールドン翁が男性だてらに侯爵位を継承していて、それで親近感を持ったのだろう。彼も国王追放事件のどさくさで領地を失い、一族と共に各地を放浪していたのだが、父はそれを憐れんで私の都市に来ないかと誘ったのさ」
「え、ゴールドンのおじいちゃんがサウザンドリーブズにいるのって、お父さんのツテがあったからなんだ!?」
「そうだよ。ゴールドン翁は困窮しているときに助けてくれた父に大いに感謝してな。裏社会のドンの一人に返り咲いた今も、この街のスラムに住んでいる。表は私たちホットテイスト家が、裏はゴールドン翁がそれぞれ支配しているというわけなんだ」
そうか。ゴールドンのおじいちゃんって相当お金持ってそうなのに、なんでこんな田舎街で暮らしてるんだろうと思ってたけど。そういう事情があるのなら納得……。
「え、待って。じゃあデアボリカは亡きお父さんの旧友であるゴールドンさんに、散々顔に泥を塗るような真似をしてたってこと?」
ロングフィールド家での美人局事件といい、ゴールドンのおじいちゃんが仕切ってる結婚式への乱入といい、結婚式での前からこの街から追い出したかった発言といい、どれをとってもとんでもない挑発行為だと思うんだけど。
「それについては……うん……。むしろゴールドン翁が私の父に恩義を感じてくれているから、ギリギリ見逃してくれてるんだと思う……」
「あいつやっぱり今のうちに処分しておくべきなんじゃないか……?」
ゴールドンのおじいちゃんの懐が深すぎる。義理堅いってレベルじゃねーぞ。
改めてあのおじいちゃんってすごい人なんだな、結婚式での感謝を伝えるためにも今度お菓子を差し入れよう。
しかし、それにしてもアミィさんのお父さんって面白い人だなあ。この貞操逆転世界って男性の肩身が極端に狭いと思ってたけど、こんな人もいるのか。
ますますもって一度は会ってみたかったよ。話が合うかはともかく、そんな珍妙な人間をこの目で見てみたかった。
「他に逸話は?」
「いや……後は……。ああそうそう、私が子供の頃に学者になりたいって言ったら、すごく喜んでくれた。『選択肢は多い方がいいからな』と武人と学者、どの道を選んでもいいように基礎を仕込んでくれたんだ。錬金術師のアルシェも父の教え子で、裕福とはいえない出自ながら父の援助を受けて、王都の大学に進んだんだよ。だから今でもアルシェは我が家に感謝してくれているんだ」
「そりゃ立派な人だなあ」
「先進的な考えを持つ人ではあったな」
この時代にあってなかなか言えることじゃないよ。伯爵家出身だから学問にも理解があった、ということなのかな。
それに基礎を教えられた、ということは本人も学問の素養があったってことだ。
でもアミィさんはどこか浮かない顔をしているようだが。
「まあ……それも善し悪しだが。ウェズは父に憧れるあまり、男性の社会進出なんて言い出したからな。あまりあんな常識外れの人間を参考にしない方がいいと思うが……。父から強力な魔力を受け継がなかったからな、侯爵家相応の魔力しか継いでないんだ。それだって充分強力だが、大層な思想を掲げるには心もとないのでは……と心配しているんだよ」
そうか、ウェズ君が男性の社会進出にやたら熱心なのは、アミィさんのお父さんのせいなんだ。
確かにそんな見本が親族にいたら、男性だって女性に負けてないって言いたくなるよね。
……ん? なんか引っかかるような……。
「え、ウェズ君がお父さんから魔力を受け継いだ……というのは?」
「ああ、ウェズにも侯爵家の血が流れているからな。ウェズの父は私の父と同じだ」
「……それって……。え、ウェズ君ってアミィさんの兄弟なの!?」
「ああ。ウェズは私たちの腹違いの兄弟だぞ。ウェズの母は、私の母の妹なんだ。まあ分家扱いだし、世間的には従弟ということになるが」
ええ……? 姉妹で同じ男性の子を孕んだの……?
何か言いたげな僕に、アミィさんは苦笑を浮かべた。
「お前には倫理的に受け入れがたい話だったか? 言っておくが、姉に婿入りした男性の子種を妹もご相伴に預かるのは、この世界では珍しいことじゃないぞ。それくらい男性の数が少ないんだ。そもそも姉妹ということになっているアイリーンと私を抱いてるお前に言えた口じゃないだろう」
「……それはそうだね」
大変素晴らしい夜を過ごさせていただいています。
アイリーン様、ウルスナ様、アミィ様、いつもお世話になっております。
これからもよろしくお願いします。
「まあウェズの母の体格は人並みだったので、父はあまり好みではなかったそうだ。個人的に愛を囁いたことはなく、抱いた後はすぐに母の元に戻ったそうだよ」
「そうかあ」
複雑な家庭環境で生まれた腹違いの兄弟か。
そりゃウェズ君もデアボリカにやたら辛辣な態度も取るわけだ。
男性に生まれたからって理由だけで、出来の悪い妹の補佐役に回されたんだもの。
絶対ムカつくだろそんなの。デアボリカが身の丈に合わない野望を吹いたり、仕事を全部押し付けられるたびにイライラしたに違いない。
しかもお父さんを尊敬してるのに、自分は父が母を義理で抱いたから生まれた子だというギャップ。それで実子のデボ子があのザマなんだから、なんでこんな奴がチヤホヤされるんだと鬱屈した想いを抱いただろうな。今はデボ子を追い落としたとはいえ、おいたわしい。今度飲みにでも誘おう。
「しかしお父さんって本当にお母さんが好きだったんだね」
「まあな。私の母は背がデカい以外は娘の私から見ても凡人もいいところだが……父に出会えたことだけは運に恵まれていると思うよ。幼い私に『ギガンティア最高! 巨女マジ萌えるわ~。あの女のためなら俺、世界の全てを敵に回してもいいわ』なんて言ってたっけな」
「はは、本当に愉快なお父さんだ……」
ん? 待てよ、『萌え』? その単語、この時代にあったか?
【異世界言語】の誤作動? いや、でも……。
これまでの情報を並べ直してみる。
貴族の家に生まれた、本来その家の子としてはありえない魔力。
貴族出身の男性としてはあまりにもフリーダムすぎる思考。
科学研究をよしとする先進的な思考。
男性なのに学問の基礎、貴族の武術を修めている。
『萌え』という現代語の使用。
これ……異世界転生してるのでは?
というか、異世界貴族転生のテンプレムーブなのでは?
異常に強いというのも、自動販売機からチートで魔力を買ったからとすれば説明がつく。それが子供たちには受け継がれなかったのも、チートが個人に属するからでは。
僕だって異世界の貴族に生まれたら、同じくらい無茶苦茶するだろうし。
この世界が貞操逆転してて、本人が重度の巨女フェチという以外はすごく理解できる。
そして巨女フェチという性癖は僕にはまるで理解できないが、好きなことのために命を賭けちゃうという点は現代日本のオタクとしては非常によくわかる。
以前、僕はこの世界に僕以外の転移者がいるのではと予想したが。
今より過去の時代に既に存在していた、というケースも起こりえるのだ。
「本当に変な人だった。たまに私にはわからない言葉を使うこともあってな。上級貴族というのはジェントリとはまるで違う言葉を使うのだなと思ったものだ」
「ほ、他に! 他に何か言わなかった!? なんかアミィさんには理解できないようなこと!」
ガクガクと肩を揺すって問いただすも、アミィさんは眉根を寄せるばかりだ。
「な、なんだいきなり? そう言われても覚えていないよ。理解できないことをわざわざ覚えてるような奴、いるわけがないだろう?」
まあそりゃそうだが。
「なんでもいいよ! 何か覚えてない!?」
「そう言われても……。あ、いや。確か子供の頃に何か言われたような」
「何!? 何を言われたの!?」
「えーと……なんだっけな。『マーレ』『エルディア』『紅蓮の弓矢』『鎧の巨人』『地ならし』この全てのキーワードの意味がわかる者が現れて、そのときに俺が死んでいたら伝言を伝えてくれ……だったか?」
『進○の巨人』やそれは!!
もう間違いない、アミィさんのお父さんは異世界転生した現代オタクだ!!
というか伝言まで巨人を忍ばせるとか、どんだけ巨女好きなんだよアンタ。もしかして始祖ユミルでシコってたタイプか?
「わかる、わかるよ!!」
「え、わかるって……巨女性癖がわかるのか? 私は人よりちょっと背が高いくらいだが、大丈夫かな」
「いや、そこはボケなくていいよ! キーワードわかるから伝言を教えてって言ってるの!」
僕の言葉に、アミィさんは目を見開く。
「えっ……本当か!? 母様も姉様もまるでわからなかったそうだが……もしや、異世界由来の伝承なのか?」
「伝承というかマンガというかアニメというか……まあそんなもんだよ」
「そうか……。とはいえ、私もよく覚えていないんだが」
「頑張れアミィさん! その優秀な頭脳をフル回転して思い出してくれ!!」
「優秀って……。まあ頑張ってみる」
アミィさんは若干照れながら、うーんと眉根を寄せた。
そしてしばしの時間が流れ……。
「ええと……『俺の身は魔族の呪いに冒された。美味な果実に毒を仕込む、単純な罠に引っかかってしまった。誓って後悔はしていないが、呪いを打ち破る方法を失ったことは無念だ。後から続く者よ、俺に代わってこの世界に数千年続く呪いを破ってくれ。ぶっちゃけて言うと女を抱くな、女に抱かれるな。貞操を守ることこそ、この呪いを打ち破る術を探る唯一の方法と知れ』」
「…………!!!」
それは……!
「手遅れじゃね?」
「ああ、うん……そうだな」
僕もうアイリーンもウルスナもアミィさんも抱いちゃったよ?
アイリーンとウルスナは子供まで生まれるよ? 僕もうすぐパパだよ?
そもそも種付けお兄さんである僕に貞操を守れって無茶言うなよ。
「そもそも自分は巨女とヨロシクやっといて、後輩にはセックス禁止って何様やねん」
「そう言われても……私は伝言されただけだし。父がすまん……」
「あ、別にアミィさんに文句があるわけじゃないよ」
申し訳なさそうなアミィさんに、慌ててフォローを入れる。
僕の可愛い奥さんに文句がある奴は誰だ! 絶対に許さないぞ!!
「えーと、他には?」
「あとは……『困ったことがあったら悪魔を探せ』だったかな」
「悪魔を探す……?」
「すまない、それについてはよくわからないんだ。悪魔なんて伝説上の存在だからな、実在するかも怪しいよ。我が父ながら
悪魔……悪魔ねえ。
人の皮を被った悪魔ならこの家にもいるが。
つーかデアボリカのことだが。名前の意味からして『悪魔のような女』だし。
とはいえ、アミィさんのお父さんが亡くなったのはデアボリカが生まれる前だ。まだこの世に生まれてもいない人間を指しているわけがないし、あいつにそんな大それたことができるとも思えない。
あるいはお父さんの出身の侯爵家が『悪魔の血が流れている』と言われていたことに何か関係があるのか?
とはいえ、当人が既に死んでるし、一族郎党皆殺しになってるから縁者もいないだろうし、もうこれ以上は手がかりを見つけようもないよ。手詰まりだ。
「……まあいいか。呪いってのも何のことだかわからないし、考えても仕方ないよ。まあ僕以外の誰かがうまくやってくれるでしょ」
「え、いいのか? 随分と他力本願だが」
「いいのいいの、僕が考える必要があるのは奥さんとイチャイチャすることと、今日の晩飯の献立くらいだから。あとは誰かに任せるよ」
種付けお兄さんに難しいこと言われても困るし。僕には腰を振ること以外何もできないよ。
貞操を守れなかった時点で、僕もその呪いとやらに冒されているのかもしれないけど、今のところ何の変化もないよ。気のせいじゃない?
僕はアミィさんの額にチュッと口づけて、立ち上がった。
「さ、そんなことよりご飯の用意をしよう。そろそろアイリーンやウルスナ、あとドラコも帰ってくるだろうしね」
「……そうだな。では私は配膳を手伝うとしよう」
アミィさんは僕と顔を見合わせ、にこりと微笑んだ。
どこか長年の肩の荷が下りたという感じがする。意味が分からないながら、お父さんの伝言を誰かに伝えられてほっとしたのかな。
なんにせよ、愛しい奥さんの気を楽にすることができてよかった。
後はこの世界を訪れるだろう誰かに『お前セックス禁止な!』って僕が伝えるだけだね。ヨシ!
そして鼻歌なんて歌いながら、僕は晩御飯の支度に向かうのだった。
どんな鼻歌かって? 『紅蓮の弓矢』だよ。