【書籍版1巻2/20発売】貞操逆転ハードモード異世界を鋼メンタル冒険者が生き抜く 作:風見ひなた(TS団大首領)
「私はアイリーン。アイリーン・ロングフィールド! 栄光ある伯爵家の長女であり、その旗を背負いし者! 下賤なる者どもよ、私の前に跪き頭を垂れなさい!」
淑女らしい華美なドレスを着込んだアイリーンは高らかに言い放ち、閉じた扇子を突き付けるように叫んだ。
ビシッ!という効果音がしそうなほどの迫力だ、いいじゃんいいじゃん。まさにあの伯爵様の娘って感じがするよ。
一秒……二秒……30秒ほど決めポーズを崩さず、アイリーンは静止を続ける。
そして、冷たい目でじっと観察しているウルスナ監督の方を恐る恐る見やった。
「あの……どうかな?」
「あーもう、なんでそこで俺の顔色を窺うんだお前は! 俺がいいと言うまでじっとしてろって言ったろ! 3分間じっとしてりゃ合格だったのに、たった30秒も我慢できねえのか!」
鬼監督のようにぷんすかと怒るウルスナに、アイリーンはだってえ~と情けない声を上げた。
「こんなポーズ絶対使う機会ないよお、そもそもあたしのキャラとは程遠いし」
「使う使わないじゃねえんだよ、お前がいざというとき伯爵令嬢として毅然と振る舞えるかを試してるの! 自分は間違ってないって自信があれば、決めポーズをいつまでも維持できるだろ。俺の顔色を窺うってことは、自分が正しいのか自信がないってことなんだよ!」
「うう~」
ウルスナの指摘に、アイリーンはへこーんと落ち込んでいる。
それで言い返さないのは、ウルスナの指摘はもっともだと思っているのだろう。
寒い冬はまだ続いている。
暦の上では1月を迎え、寒さはいよいよ強まるばかりだ。
僕もどうしてもと頼まれて急病人を治しに行くことはあるけど、そうでなかったら家の中でじっとしているよ。だって寒いもん。
気温は常に氷点下だよ、口を開けたら唾が凍るからおちおちおしゃべりもできないレベル。
そんな寒い日が続いているので、アイリーンも家の中でずっと過ごしている。
日課のお嬢様修行が捗るね。
ウルスナは毎日ビシバシアイリーンを指導しているよ。
この冬をかけてアイリーンを伯爵令嬢って看板に偽りがない存在に育てるつもりなんだって。
別にそこまで急がなくたっていいと思うんだけどな、何か急がないといけない理由でもあるんだろうか。
「まあまあ、その辺にしとこうよ。アイリーンもウルスナの弁が正しいってわかってるみたいだし。そもそも貴族ってのは生まれてからじっくりと教育を受けるもんだろ? 一朝一夕で成果を求めるのは、アイリーンが可哀想だよ」
「ユージィ~!」
百万の味方を得たかのように、アイリーンがぱあっと顔を輝かせる。
逆にウルスナは渋い顔でこちらをみやった。
「もう、アイリーンを甘やかさないでくれ。あのな、アイリーンが貴族らしく振る舞えなくて恥をかくのは、ロングフィールドの伯爵なんだぜ。伯爵の顔に泥を塗りたくないだろ?」
「それは……そうだけど」
「だろ? ……まああの伯爵は気にしないどころか、アイリーンちゃんはできない方が可愛いよ! クッキー食べる!? とか言ってベタベタに甘やかしそうだが……」
? ウルスナは口の中でもごもごと何やら呟いているが、なんて言ったんだろ?
伯爵様がアイリーンを甘やかすとか聞こえた気がするけど、まさかなあ。いくらアイリーンが可愛いからって、あの自他共に厳しい伯爵様がえこ贔屓なんかするわけないよ。
あの悪役令嬢がそのまんま色気たっぷりの熟女になりましたって感じの伯爵様に限って、ないない。
もし伯爵様がアイリーンを猫かわいがりなんかしてたら、僕は鍛えた筋肉だけで空飛んでやるよ。それくらいありえないってことだ。
「まあ伯爵家相当は無理でも、せめてこの冬の間にジェントリレベルの振る舞いは身に着けてもらうぜ。これまでホットテイスト家で育ってたって設定があるんだ、それくらいはやってもらわないとな」
「うう~」
情けない声を上げるアイリーンに、僕と一緒に見学していたアミィさんが苦笑を漏らした。
「私たち程度の振る舞いなら一冬あれば十分か。言ってくれるな」
「あ、済まねえ。そういう意味で言ったんじゃなくて」
ウルスナは慌ててフォローの言葉を口にしようとするが、アミィさんはふふっと笑いながら首を横に振った。
「まあいいさ、事実だからな。ホットテイスト家なんて所詮は田舎貴族。ロクな産業もないし、昔は母上が傭兵団を率いて領民の食い扶持稼いでたくらいだ。ロングフィールド家みたいな、領地名を家名に冠してるような歴史ある貴族と比べるのもおこがましいよ」
この世界では領地名を家名にしてる貴族って、大昔から存在している家なんだって。ロングフィールドの土地の支配者ってのがそのまま家名になったって感じなのかな。
少なくとも昔からその土地をよその貴族に奪われたことがないってことだし、領地名を家名にしているってのは貴族としての権威の象徴でもあるんだろうな。
日本だとあまり見ないよね。昔から土地を奪い奪われしてるし、徳川政権時代には積極的に国替えして殿様と地元の繋がりを断ってるし。
「いや……なんかごめんな」
「はは、気にしてないさ」
アミィさんにしきりに恐縮するウルスナが、なんだか可哀想だな。
ちょっと助け船を出してやるか。
「そうだよ、だってホットテイスト家の貴族なんてデアボリカでも務まるんだよ? あいつに比べれば、既にアイリーンは人品の面で勝ってると言えるよ」
「……。ホットテイスト家の面目があいつのせいで地に落ちている……」
あれ……アミィさんがめちゃめちゃ渋い顔をしてる……。
言っちゃいけないことだったのかな、これ……。
まあ細かいことはともかく、アイリーンはそんな歴史ある家の長女になったわけで。
経歴ロンダリングの結果とはいえ、その肩書に相応しい人物になろうと頑張っている。
そんな健気なアイリーンを見ていると僕は……。
ムクムクッ。
正直股間がいきり立つ。
いや待ってほしい、サイテー!とか言わないでくれ。
これは種付けお兄さん……いや、男として当然の反応なんだ。
君たちもわかるだろう? 誇り高いもの、尊いもの、気高いものに白濁液ぶっかけたくなる気持ちが。
連綿と続く高貴な家系に自分の遺伝子を混ぜて汚染することは男として史上の喜び、そうじゃないか?
……いや、サイテーだわ。何言ってんだこいつ?
どう考えてもゲスいことしか言ってないわ。フォローのしようがないわ。
こんな意見に賛同してくれるのはおじいちゃんくらいのものだよ。そして賛同した直後におばあちゃんに捕獲されて夫婦の寝室に運ばれて行くよ。
僕たちって本当に最低のゲスね!
「……ユージーン、何で股間が盛り上がってるんだ?」
はっ! 気付けばズボンが痛いくらい突っ張っていたのを、ウルスナに見つかった!
その指摘に、部屋の中の女性陣の視線が僕の股間に集中する。
これは違うの!
やめて! こんな汚らわしい僕を見ないで!
お嫁さんに汚いものを見るような視線を向けられたら、僕生きていけない!
「ふ、ふーん……。ユージィ、あたしで興奮してるんだ?」
おやぁ?
淑女風のメイクをしたアイリーンが、しまりのない顔でデヘヘと笑った。
メイクに全く似つかわしくないだらしない笑みだ。
教授! これは一体……!?
≪教授ではないが説明しよう!
男性ならついついチンポが不随意勃起してしまい、女性に見つからないか肝を冷やした経験が人生の中で絶対にあると思うが、貞操逆転世界では基本的に男性が勃起してるのを見つかって女性から冷たい目で見られることはない!
男性からエロい目で見られることは、基本的には女性にとって嬉しいことなのだ!
地球において女性から濡れた!抱いて!って目で見られて、嫌な気分になる男性は滅多にいないのである!
あと薄手のTシャツを着た女の子の乳首が勃起してると、なんかいいもの見たって得したような気分になるだろう?
この世界で男性の勃起を見た女性の反応はこんなものなのだ!≫
セ、セーフッ! よくわからないけど、少なくともお嫁さんに嫌われずに済んだみたいだ!
「あー……ごめんね、ドレス着たアイリーン見てると、つい……」
「??? どんな服装だろうが、あたしはあたしだよ?」
「えっ?」
「変なユージィ。衣装なんかで興奮してるの?」
僕の困惑をよそに、アイリーンは不思議そうに首を傾げている。
あれ、どういうこと? コスプレって概念が通じてないような……。
≪説明しよう!
まるで通じていない!
地球において、多くの男性が俺がファッションに凝ったところで、女性からモテるわけじゃないしなーと思っているのと同じである!
実際にはバリバリ女性は男性のファッションを見ているのだが、あまり女性はそういった評価を本人に直接伝えないので、男性は男がファッションに凝るの無意味じゃね?と思ってしまいがちだ!
加えて男性の体には価値がない、男は黙って質実剛健というのが共通認識なのも相まって、男性はファッションにあまり凝らない!
つまり貞操逆転世界では、女性は自分たちが着飾ったところで男性にはモテないと思っているのである!
さらに言えば、この時代は近代直前の中世であり、コスプレという概念がない!
メイドさんいいよね、あの黒っぽい色気のない服で仕事してるのそそるわ……という概念はあるが、それをまだ言葉にできていない時代なのである!≫
「私もわからないな、どういうことなんだ?」
「あー……まあ俺はわかるが。服にぐっとくるというか……。うーん、言葉にしにくいな……」
アミィさんがアイリーンと同じく首を傾げる。ウルスナはわかっているようだが、明確な言葉にはできないようだ。
うーん……。
メイドさん萌え!とか花嫁さん萌え!とか、現代日本では腐るほどありふれてたけど。
そういう“良さ”を一言で表現できるのってかなり文化水準が高いことだったんだな。
「えーとね。つまりその、服というのは“属性”を表すものでね。僕はその属性に対して興奮しているということなんだ」
「属性……? あたしの魔力は月の属性だけど、ユージィは月に興奮するってこと? ワーウルフ?」
「いや、魔力の属性は今は関係なくて。その、仕事とかシチュエーションとかのイメージが服にあってね。淑女という属性に僕は興奮したのであって」
「???」
うーん、口で説明がしづらい……!
コスプレ文化を持たない人に、どうやって説明したらいいんだよ。
僕がどう答えたもんかと思っていると、アミィさんが口を挟んできた。
「いや、待ってくれ。言葉で説明するのが難しいなら、ここはユウジが実演してくれないか?」
「へ? 僕が実演?」
どういうこと?
きょとんとする僕に、アミィさんが諭すように口にする。
「ああ。ユウジが王子様の格好をしてくれないか? それで私たちが王子様姿のお前にグッとくれば、淑女姿のアイリーンに興奮したお前の気持ちもわかると思うんだ」
「は、はあ……」
なんか変なことになってきたぞ。
王子様姿の僕に女性がグッとくる? そんなわけないと思うんだけど。
逆ならともかく、男性がどんなファッションをしたところで、それで女性にモテるわけないよ。
参ったな、なんとか断らないと……。
「え、えーと……。そう、王子様の服なんて持ってないだろ? だからそれは無理なんだよ、申し訳ないなー。いやー残念……」
「安心してくれ。父が若い頃に着ていた服があるんだ。王子とはいわずとも、かなりの高位貴族としては充分な服だと思う」
侯爵子息ぅぅぅぅぅぅぅぅ!!
ああそうだね、侯爵家の令息がホットテイスト家に無理やり婿入りしてきたときに着てた服だもんね。世が世なら一国の王様だもんね、そりゃ王子様の服と言っても通じるよね。
物持ちがいいな畜生!!
「母上は父の遺品を後生大事に保存しているが、なーにちょっと持ち出すくらい平気さ。死蔵しているくらいなら誰かに着られた方が服も幸せだろう。早速持ってくるよ」
「わあー、貴族様の服来たユージィってどんなのだろ? 結婚式に来てくれたジャニス君みたいなのかな?」
「こいつは楽しみだ。貴族男子はなかなかお目にかかれるもんじゃないしな」
三人は和気藹々と話に興じている。
くっ……どんどん退路が塞がれていく……!!
「ああ……うん……。わかった、着ればいいんだろう」
最終的に僕はうなだれ、アミィさんが用意した服を着ることに同意した。
お嫁さんの悲しむ顔を見たくないからね、仕方ないね。
男性のコスプレなんか見ても何も楽しくないと思うけど。3人をがっかりさせないといいけどなあ……。
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「これでどうかな」
アミィさんのお父さんの服に身を包み、僕は3人の前に立った。
言っちゃなんだけど、めちゃめちゃ仕立てがいいよこの服。すべすべした上質な布が使われているし、複雑な文様の金の刺繍があしらわれている。
それでいて決して嫌味すぎず、全体が上品なバランスで落ち着くように計算されている。
元のデザインもいいし、数十年前の服とは思えないほど保存状態も良好。仕立てた人の腕がすごくいいことがわかるし、これを保存していた領主が夫を心底愛していたんだなってことも伝わってくる。
ただはっきり言って、僕には上質に過ぎる。
これ生まれながらの貴族のための服だよ。僕みたいな雑種が袖を通していいようなもんじゃない。
馬子にも衣裳とは言うけど、限度ってもんがあると思うよ。
明らかに服に着られてるだろこれ、みっともなくないかな。
そう思いながらちらっと3人の方を見ると、みんながみんなぽかーんと口を半開きにして、食い入るようにこちらを見つめていた。
「えっと……?」
「めっちゃいい」
「なるほど……なるほど……」
「ほおー。ほおー……」
3人ともしきりに頷きながら、こちらをガン見してくる。
ええ……何この反応?
以前ロングフィールド家に行ったとき、聖者としての箔をつけるためとデボ子に騙されて片乳首丸見えのトーガを着せられたことがあったけど。
あれとはまた似て非なる反応をされているようだ。
「あー、この服は上等すぎて、僕には似合わないと思うんだけど……」
「ちょっと黙って! イメージが崩れる! 今のお前は王子様なんだ、いつものユージーンを出さないでくれ!」
僕が口を開いた矢先、ウルスナ監督が語気強く言い放った。
反射的に僕が口を閉じると、ウルスナはふん……ふん……と僕の全身を360°舐めるようにぐるぐると回ってチェックを始める。
さっきのアイリーンの指導より力入ってません?
それを他の二人は止めるでもなく、アイリーンはほえーと僕を見つめているし、アミィさんはしきりにそうか……母上が見ていたのはこれか……などとしきりに僕を見て頷いている。
……まあよくわからないけど、3人がなんだか楽しそうだからいいか。
しかし、今の僕は王子様ね。
あまりピンと来ないけど、まあ役を演じるくらいなら。
僕だって高校時代に演劇部のピンチヒッターで舞台に上がったことがあるんだ。
あの頃培った僕の演技力を見せてやるぜ!(モブA役)
「おや、美しい蝶が舞っていると思ったら、ドレスを着た淑女であったとは」
僕はアイリーンの手をそっと握った。
アイリーンはえっえっと慌てているが、そんな彼女に穏やかに微笑んでみせる。
「御機嫌よう、お美しいお嬢さん。野の花に遊ぶ蝶を愛でるように、つい貴女の手を取ってしまいました。不躾な僕をお許しください」
「ひゃ、ひゃい! 全然っ、いいですよっ!」
アイリーンは舌を噛みそうなくらい声を上ずらせながら、しきりにこくこくと頷き返してくる。いやなんか必死なくらいテンパってるな。
ごっこ遊びなんだから、軽くあははユージィったら気取ってる~。全然似合ってないよ~って笑い飛ばしてくれていいのに。
「ユ、ユウジ?」
「お、お前……こんなことできたのかよ」
「申し訳ない、お嬢さん方。今はこちらの健気な蝶を愛でているところでして。貴女方のお相手はまた後程。さて」
僕は2人に「相手するの1人ずつね。そんなキャパないんで」ということを王子様っぽく言いながら、アイリーンの指にそっと口づけた。
槍を握ってるうちにできたのか、ごつごつとしたタコがある。まだ戦う女性の手だ。
「綺麗な指をしているね、愛しい蝶よ」
「え、あの……。タ、タコができちゃって。カッコ悪いよね、ごめんなさい」
しきりに恐縮するアイリーンに、僕はくすっと笑ってしまう。
「そんなことはないよ。大事なものを守るために戦う、それは気高く美しい行為だと思う。今の貴女は槍からペンへと持ち替えている途中だ。だけどそれは大事なものを守るための行為だ。武器こそ変わりこそすれ、貴女の心の在り様は変わらないよ」
「ユ、ユージィ……」
これは本心だ。
発見! 照れ臭くて普段言えないことも、キザな演技してるときなら言えるぞ!
本音を伝え合うことは夫婦生活円満の秘訣っていうしね。どんどん気持ちを伝えていけ。
僕はアイリーンの前に跪くと、引き続き日頃の想いを口にした。
「大事なものを守ろうとする貴女のその心こそ、最も美しいのだと思う。いつも守ってくれてありがとう、アイリーン。貴女の心に、僕はいつも感謝しているんだ。美しい蝶よ、この身を花に喩えるのは面映ゆいが、願わくばいつまでも僕と共にあってほしい」
「は、はいっ! こちらこそお願いしましゅ!」
慌てたように何度も頷くアイリーンに、僕はそんなにテンパらなくても十分伝わってるよと愛でるような微笑みを返す。
いや、しかし王子様の演技ってこれで合ってるのかね?
なんせ本物の王子様なんて見たことないからね。
とりあえず妹が持ってた乙女ゲーを参考にキャラを真似てみたけど、これで合ってる?
そう思いながらちらりとウルスナを見やるが、アミィさんと並んでほえーと信じられないものを見るような目でただこちらを見つめているばかりだ。
ダメだ、全然参考にならない。
アイリーンは……と見れば、頬を赤らめながらウルウルした瞳で僕を見つめるばかりだ。
くそっ、何が正解なんだ! 誰か答えてくれよ!
≪説明しよう!
雄士が参考にしている乙女ゲーの王子様キャラとは、つまり女性から見た理想の男性像のひとつである!
詩的で紳士的、女性に優しく感謝の気持ちを言葉にして伝えてくれる……男性から見ればキザ野郎であるが、女性にとってはこのうえなく寄り添ってくれる存在なのだ!
貞操逆転的には歴戦の勇者の傷をカッコいいとか守ってくれてありがとう、と言ってくれる優しく可憐なお姫様といったところだろうか!
つまりこれが正解なのである!≫
その後、何が正解なのかわからなかった僕は、とりあえず自分を信じてキザな口調でアイリーンのいいところを逐一褒めたり、日頃の感謝を伝えたりしてみた。
勢い余って即興でポエムを読んでみたりした。僕の頭に眠るロミオメールの才能よ、メールもない世界で生涯使う機会がないだろう才能を発揮するのは今だぞ。
もちろん題材はアイリーンの可憐さについてだ。これならいくらでも語れる。
だが、そこまでやっても何が正解なのかはわからない……!
僕がペラ回すほどアイリーンはうっとりした顔つきで瞳を潤ませてくるけど、これが正解でいいのか? 王子様ムーブの正解ってなんなんだ!?
そもそも共感性を失っている僕に、他人の反応から正解かなんてわかるのか!?
ウルスナ監督! 自分を信じて演技するって、こんなに難しいことなんですね!!
「ユージィ……。あたしのこと、そんなに思ってくれてたなんて……」
「ええ。愛していますよ、アイリーン。僕の麗しい蝶の君」
おっとりした笑顔で微笑みながら、僕は肚を決めた。
何が正解かなんてもう僕にはわからない。
だから自分の心に従おう。
というわけで、僕は下半身に素直になった。
「だから今からスケベしようや……」
途端に女性陣からの目が冷たく僕に突き刺さった。
「えぇ……?」
「それは解釈違いだわ」
「途中まではよかったのに、なんで最後で欲望を剥き出しにするんだ」
えっ、やめて! いきなりお嫁さんからドン引きの視線向けられたら死んじゃう!
というかいつも君たち男性が引くくらいドスケベなのに、こういうときだけドン引きするのなんで!?
≪説明しよう!
地球でいえば、心優しく可憐なお姫様が、突然獣の本能をむき出しにしてがっつき交尾しようやとスケベ顔も露わに言い寄って来た状態である!
もちろん女性に求愛されるのは嬉しい! 嬉しいが、時と場合によるのだ!
今はドスケベセックスよりも、最後までお姫様ムーブを貫いてほしかった! ロマンと性欲は別腹、そんなときが男性にはあるのだ!≫
トホホ……。やはり僕には王子様は無理だったか……。
まあ最初からわかってたことですけどね。
そう嘆きながら服を脱ごうとした矢先。
「おい、まだ脱ぐな!」
「私たちの番が終わってないぞ。ちゃんと私たちにも実演してくれ!」
顔を上げると、そこにはいつの間にかドレスを着込んだウルスナとアミィさんの姿があった。
え、これ2人にも同じことしろと?
ちょっとアイリーンさん、何とか言ってやってくださいよ。
そう思って目配せすると、アイリーンはわかってるとばかりにこくりと頷いた。
「ちょっと待ってよ、まだあたしの番が終わってないんだから! ちゃんと最後まで王子様として口説いてもらわないと!」
「全然伝わってないな!?」
僕は思わず突っ込みながら、溜息を吐いた。
いいよ、やってやるよ。今日の僕は最後まで王子様だ。鋼メンタルで王子様をやり抜いてやる。
「僕の愛しの君たち。僕を巡って争わないでくれ、ちゃんと順番に愛でてあげるとも」
3人を褒めるネタならいくらでもストックがあるしね。
そう思いながら、僕はにこやかな王子様スマイルを向けるのだった。
「ふわぁ……! これ癖になりそう」
「貴族時代にこんな殿方に出会えていれば、今も貴族だったのですけどね」
「ふふっ、女を捨てた私にこんな僥倖が巡ってくるとは。母の気持ちがわかるよ……!」
さあ来い! 今日はいくらでもキザにほめちぎってやるぞ!