【書籍版1巻2/20発売】貞操逆転ハードモード異世界を鋼メンタル冒険者が生き抜く 作:風見ひなた(TS団大首領)
『それではコインの支払いに移らせていただきます。今回の実績解除の報酬はコイン1000枚になります。忘れずにご回収ください!』
「そんなことより質問に答えろ! 新世代魔族ってなんだ!? 僕の子供が魔族ってことか!? おい!! ……うわっ!」
質問の答えの代わりに、チーンジャラジャラと音を立てて排出口が開き、そこから大量のチートコインが吐き出されてくる。
くそっ、邪魔だなオイ! 僕が今欲しいのはチートじゃない、質問の答えなんだが!
大切な子供がわけのわからん存在認定されてるのに、新しいチートだやったーなんて喜べるわけないだろ!
「くそっ、質問に答えろ! おいったら!」
『今回の実績でお支払いしたコインの他にも、これまでの行動で達成した実績がいくつかあります。そちらのコインもお支払いしますか?』
「そんなことはどうでもいい! 会話をしろ!」
『了解しました。なお、本機は管理者不在につきオートモードで稼働しております。ご不明な点がありましたら、お客様コールセンターへ営業時間内にご連絡ください。ご利用ありがとうございました』
そう言うとフッとモニターから光が消え、自動販売機は電気が落ちた機械のように沈黙するばかりとなった。
いや、文字通り電気消えてるわこれ。
「ふっざけんなよお前、言いたいことばっか言って後はだんまりか!?」
僕は自動販売機をユサユサと揺するが、自動販売機はうんともすんとも言わない。
せめて防犯モード起動とかなんか反応してくれればよかったが、これじゃ何ともならないぞ。
僕をこの世界に呼んだ管理者とやらが神様とすれば、この自動販売機は差し詰め天使ということになるのだが……。
メガテン天使機械説どころじゃねーわ、ガチ機械だぞこれ。
せめてお客様コールセンターとやらの連絡先くらい教えていけよ。
「ほぎゃあ!ほぎゃあ!」
「わ、泣き出した! これどうしたらいいの!? どうしたらいいの!?」
「あーよしよし、ごめんね。パパうるさかったよねー。よしよーし」
大声で怒鳴り散らす僕にびっくりしたのか、我が子が火のついたように泣き出した。女の子の方が泣き出すと、つられて男の子の方も泣き出す。
腕の中で泣き喚く娘をアイリーンがオロオロと眺めており、ウルスナは優しい声色で娘と息子を宥め始めた。
『やだー! この人うるさいー! うえーん!!』
『近くで誰かがが泣いてる! こわいよ、うわーん!!』
……うん。マジで僕のせいで泣いてたわ。ごめんね。
それにしてもどうしたもんか。
別に放っておいても害はなさそうなんだが、もし将来的に我が子になんか影響があることだったら嫌だし、わかる範囲で疑問は解決しておきたい。
だけど自動販売機型天使は説明する気がなさそうだし……。
となると、唯一の手掛かりを当たるしかないか。
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「えっと……なんで僕呼ばれたの?」
部屋の中央で正座したドラコは、居心地悪そうに僕たちを見上げた。
彼を取り囲むのは僕を筆頭に、おねむの我が子を抱いたアイリーンとウルスナ、そしてアミィさん。
産婆さんにはお礼の金品を持たせて帰っていただいている。
アイリーンもウルスナも出産という大業を為した後なのだからゆっくり休んでもらってよかったんだけど、我が子のことだからとこの場に居合わせることを選んだ。頼もしいね。
「お前が唯一の手掛かりだからだ。ドラコ、話してもらうぞ。魔族ってなんだ?」
「どうして今更そんな話……。あのね、だからそれは大約定で話しちゃいけないことになってるの。これは人間の王族やドライグの長に伝わる秘密なんだ。たとえ先生が相手でも、話すわけにはいかないよ」
「さっき僕の子供たちが、新世代魔族だって言われたよ。魔力を持ちながら呪いに冒されていない史上初の人類だって」
「えっ!?」
ドラコは信じがたいものを見るかのように、アイリーンとウルスナの胸元のおくるみを見やった。お乳をもらって満腹になった我が子は、清潔な布で何重にも包まれ、今は安らかに寝息を立てている。
「別にこれまではどうだってよかったから聞かなかったけど、我が子が魔族だって言われちゃ僕だって黙ってやり過ごせない。もう一度聞く、魔族とはなんだ?」
「一体誰がそんなこと……。え、ええーっと」
頭上を見上げて僕から視線を逸らすドラコ。そんなことしても逃げられないぞ。
僕がじっと見つめ続け、話すまで解放しないぞと言外に示すと、ドラコは観念したように息を吐いた。
「……言えないよ、たとえ先生でも」
「こいつ……まだそんなことを!」
ウルスナが苛立ったように口を開くと、ドラコはあわあわと手を振った。
「違うって! 意地悪で言ってるんじゃないよ、秘密を口外できない魔法がかけられてるの! 僕が大人になったら一族の呪い師に解いてもらう手筈なんだ!」
「む……じゃあしょうがねえか……」
黙り込むウルスナに、僕はなるほどなあと感心した。まあ確かに、次期族長とはいえ所詮子供だもんな。
次期族長だから小さいうちから秘密は教えるけど、それを吹聴されたら困るからカギはかけておく。子供には次期族長って意識を持たせられるし、秘密が漏れる心配もない。とても合理的だ。
「わかった」
僕はドラコの言い分に頷きを返す。
そして解放される!とぱあっと顔を輝かせるドラコに、言葉を続けた。
「じゃあ僕の質問にジェスチャーで答えろ。イエスなら首を縦に、ノーなら首を横に触れ。それなら口外したことにならないだろ?」
「……はい」
解放されねえーー!! ドラコはがっかりした顔で、渋々と頷いた。
さて、質問タイムだ。イエスかノーかでしか答えてくれないから、よく考えないとな。
とはいえ、僕だってある程度の推論は自分の中にあるけど。
「じゃあ第一問。魔族とは、魔力を持つ人類のことである」
「ぶふっ!?」
僕の言葉に、ドラコは勢いよく噴き出した。
お嫁さんズも何言い出したのこの人!?みたいな顔で僕を見ている。
「い、いきなり核心!? 普通もっと刻んで質問するだろ!?」
「いいから質問に答えろよ。魔族ってのは魔力を持ってる人を言うのか? アイリーンもウルスナもアミィさんも、みんな魔族ってことでいいのか?」
……こくり。
おずおずと首を縦に振るドラコを見下ろしながら、僕は自分の考えが正しかったことを知った。
やっぱりなあ。僕が薄々考えていた通りだ。
このナーロッパ世界の人間は、全員が魔力を持っている。つまり全員が魔族だ。
そして自分たちが魔族だということを忘れている。魔力を持つ者ばかりになった結果、魔力を持っていることが当たり前になった。
だから自分たちが特別だという意識がない。自分たちこそが普通の人間だと思うようになっているのだ。
前々からヒントはあったよ。
たとえばウェズ君は、大昔には魔力を使えない人間がいたって言ってたよね。それが次第に魔力を使える人間に取って代わられた。
ということは、その時代には魔力を持たないスタンダードな人間が、魔力を持つ人間を呼ぶ呼称があったはずなんだよ。それが“魔族”なんじゃないかな。
それが魔力を持つ人間ばかりになって、いつしか忘れられてしまった。
それから、僕って魔力1じゃない?
これって【魔族種付け権】とセットのチート、【魔族として最低限の魔力】なんだよね。つまり魔力の最小はきっかり1だってことになる。
忘れてるなら最初から読み返すか、書籍版1巻買ってね。えへへ。
で、話は変わるけど、単位ってどうやって決まるか知ってる?
たとえば1kcalは1Lの水の温度を1気圧のもとで1℃上昇させるのに必要な熱量。1Lは一辺が10センチメートルの立方体の体積。
単位というのは必ず何かの基準があって決まるものだ。
そして魔力も単位であり、その定義は【魔族として最低限の魔力】である。
じゃあそれを当たり前のように使っている人たち……この世界の人間は何者なのか?
つまり彼女たちこそが魔族だってことになるじゃないか。
……という自説を披露すると、みんなぽかんとした目で僕を見やった。
「きろかろりーとか、りっとるとかよくわからないけど……なんだかすごいよユージィ!」
「そんなこと考えてたのかお前……」
「そ、それが本当なら大発見だぞ! なんでこれまで黙ってたんだ、ユウジ!?」
「え? だって訊かれなかったし……」
僕の言葉に、全員がズコーーーっと転ぶ。
いや、だってどうでもよくない? それがわかったからって得するわけでもないし。
変に波風立てるくらいなら、みんな魔族なんだろうなーって僕の中でぼんやり思ってるくらいでいいんじゃないかな。
あとみんなが魔族だからって、別にどうとも思わないよ。
だってそういう呼び方も大昔にされてたってだけで、基本的に人間だもの。
僕を好きでいてくれて、エッチなこともさせてくれるなら、僕は魔族だろうが純人間だろうがどうだっていいよ。そもそも純人間なんてとっくに絶滅してるみたいだし。
むしろこの世界の女性が妊娠したら超絶パワーアップすることの理由が説明できてほっとした。やっぱり同じ人間ではなかったんだねって。
これで妊娠したアイリーンが夜な夜な月に向かって吠えることの説明もできたな、ヨシ!
≪説明しよう!
そんなことはねえよ!?≫
まあそんなわけで、魔族とはこの世界の人間を指す言葉だってことがわかったところで。
「じゃあ続いて第二問。魔族の呪いとは何か?」
「…………」
僕の質問に、ドラコはそっぽを向く。
まあイエスノーで答えられる質問じゃないしね。
「の、呪い? 私たちがその魔族とやらだったとして……呪いってなんだ!? 私たちは呪われているのか!?」
「え、そんなの初耳だよ! 別に体の不調とかそんなの感じたことないし」
「俺も聞いたことがねえ。それも人間全員が呪われてるってことだろ? そんなの気付かないわけがないと思うが……」
僕の言葉に、お嫁さんズは不思議そうに声を上げる。
うん、まあわからないよね。
だって彼女たちは“普通の人間”を知らないんだから。
「呪いとは貞操逆転だ。つまり、女性が男性に対して過剰な性欲を抱くこと。女性が男性より強靭であること。女性に対して男性の出生率が非常に低いこと。この世界の当たり前こそが“呪い”なんじゃないか?」
「え……」
女性陣は僕の言葉にぽかんとした顔をする。
彼女たちには絶対に想像しえないだろう。
女性が性欲をおおっぴらにすることを許されず、男性より社会的に弱く、男女の出生比率がほぼ1:1である世界のことなど。
誰も魔力を持っていない世界出身の僕だから、気付けたのだ。
「…………」
……こくり。
ドラコの頷きに、僕は溜息を吐いた。
そしてもうひとつ確かめなければならないことがある。
【魔族種付け権】の本来の効果。
つまり“魔族と交配しても呪いが感染しない。生まれてくる子供は魔族となるが、母胎の呪いを継承せず健康な状態で出産される”という一文の意味だ。
「呪いは性交渉によって感染する。魔族の女性に誘惑されてコトに及んだら、男性も生まれてくる子供もまた魔族となる。だから魔族化は急速に広がった。純粋な人間が絶滅するほどの勢いで」
……こくり。
うん。やっぱりな。
まあそうだと思ったよ、じゃなかったらどこかに純粋な人間が生き残ってるはずだもの。
人間が子孫を作るためにはセックスが必須だ。でもその相手が魔族の女性しかいなくなれば、子供は魔族しか生まれなくなる。
世代を重ねていくほどに魔族の数は増え、純粋な人間は減る。
やがて純粋な人間は駆逐され、世界は魔族だけとなり……そして魔族が新しい“人間”となる。
もしかしたら世界のどこかには、純粋な人間だけの隠れ里もあるかもしれないけどね。
「それがわかったとして……。つまり……どういうこと?」
アイリーンは困惑したように眉をひそめる。
まあわかったところで、だから何?ってことではあるんだけど。
「つまり、だ。俺たちは呪われている。本来の人類は、女性が男性に過剰に発情することもなければ、男女比が著しく偏ってるってこともない……ってことだろ?」
ウルスナはそう総括した。
さすがウルスナ、頭の回転が速いね。
彼女は肩を竦めて、やれやれと溜息を吐いた。
「だからどうだってんだ? そりゃ男女比が1:1なら、素晴らしいことだって思うけど。でももう純粋な人間はどこにもいないんだぜ。それに俺たちは呪いを持ってる側なんだ。呪いはセックスで感染するんだ、避けられこそすれ受け入れられることはないだろ」
うん、そうだね。
「あ、ちなみに僕は【魔族種付け権】ってチート持ってるんだ。僕はセックスで呪いが感染することはないし、生まれてくる子供は魔力を持ちながら呪いにも冒されてない新世代の魔族になるんだって」
『は!?』
「だからこの子たちは男女比1:1だし、魔力も持ってるよ。多分女性が男性に過剰な性欲を催すこともないんじゃないかな。新世代の人類らしいから、大事にしてあげてね」
『…………』
4人は互いに顔を見合わせると、僕をまじまじと見つめた。
え? 何、どうしたの? お嫁さんからそんなに熱心に見つめられると照れるぜ。
「ええと……じゃあユージィが子種を振りまけば、この世界の偏りが解消される……ってこと? 男性不足も、男性が酷い扱いを受けてるのも、全部?」
「ユージーン、お前……すごいな……」
「我が父がどうやっても抗えなかった“呪い”を……。チンポ一本でどうにかできるというのか……!?」
「せ、先生……! それが本当なら聖者なんて生易しいものじゃない! 本物の救世主だよ!?」
「え? やだよ」
僕がすげなく言うと、全員がズコーーーーっとまたコケた。
いや、本当に何言ってんだよ。
「嫌に決まってんじゃんそんなの。子種を振りまくって、要は他の女性を抱けばってことでしょ? 僕は誇り高きユニコーンだからね、お嫁さん以外抱く気はないよ。僕のチンポは生涯君たち専用だ」
そう言うと、お嫁さんズは満更でもなさそうに照れ顔をしながら頬を掻いた。
「ユージィがそう言うなら……」
「まあ、自分の夫の貞操も守れない女は嫁失格だからな」
「そこまで想われているとはな……」
「いやいやいや、何言ってんの!? 男女比が正常になれば、男性が所有物扱いされる時代を終わらせられるんだよ!?」
ドラコだけは泡を食ったように抵抗するが、
「でもそれじゃ僕が種馬扱いされるってことじゃん。男が所有物扱いされる時代を終わらせるために、僕に犠牲になれって? 種ドラゴン扱いされそうになって助けを求めたくせに、僕にはそんなこと言うんだ?」
「いや……まあ……そうは言わないけど……」
僕が問い返すと、ドラコは口を濁した。
まあね、全世界を相手にハーレム築くようなもんではあるからね。
僕のおじいちゃんみたいな生粋の種付けおじさんなら大喜びだろうけど(そしてその後おばあちゃんに捕まるだろうけど)、僕は種付けお兄さんであると同時に、誇り高きユニコーンでもある。
誰彼問わずに種を付けるなんてごめんだ。お嫁さん以外に貞操を許すつもりはない。
「……わかったよ、もう言わない。先生の頑固さは知ってるし」
ドラコは小さく溜息を吐くと、肩を竦めた。
そんなドラコを見ながら、アイリーンは小さく笑う。
「ふふ。ドラコには悪いけど、あたしは嬉しいかな。ユージィが世界中の女の子よりあたしたちを選んでくれて」
「ユージーンは世界の救世主にはなり損ねたけどな」
「私はユウジの意思を尊重するよ。父の遺志が叶えられないのは残念だが」
ウルスナとアミィさんもアイリーンに同意するように笑みを浮かべている。
僕の意思を最優先してくれるお嫁さんばかりで、僕は幸せ者だな。
それにしてもひっどい呪いだ。
アミィさんのお父さんは、この“呪い”に気付いてたんだろうな。
なんせ現代日本出身だもんね。そりゃこの貞操逆転世界の異常さに気付くだろ。
とはいえ、気付いたところで自分一人の力じゃどうにもならないし、迫ってくる無数の可愛い女の子と一発でもヤッたらアウトだし。
呪いを避ける方法が、女の子とヤる前に自動販売機で一見役立たずな【魔族種付け権】を取得することということには、さすがの彼も気付けなかったようだ。
……いや、どうやって気付けってんだよ。こんなん偶然が重ならなかったら気付くわけねーだろ。
アミィさんのお父さんは強大な魔力を買ったようだから、なおさら【魔族として最低限の魔力】とセットになったチートなんか目をくれるわけがない。
どうせ呪いを解けないなら、自分の性癖に素直になるか……とアミィさんのお母さんを選んだんじゃないかなあ。
そこはもう想像するしかないけどね。
彼がまだ生きていたなら、僕を見てなんて言ったんだろうな。
「あ、でも僕は他の女の子抱くの嫌だけど、子供たちは知らないよ。もしかしたらこの子が大きくなったら、僕以上の種付けお兄さんになって、女の子いっぱい孕ませたいって言い出すかもしれないし」
ウルスナの胸でくうくう寝息を立てる我が息子を指さすと、ウルスナはちょっと嫌そうな顔をした。
「種付けおにい……? いや、特別な能力を持ってるのはユージーンだけだろ。この子は新世代の魔族って奴かもしれないが、呪いを避ける能力はない。呪いを持ってる女と接触したら、呪いが感染しちまうぞ」
「あ、大丈夫だよ。【インフルエンサー】で【魔族種付け権】を植え付けてあげるつもりだから。父から息子に贈るプレゼント……ってやつかな」
「…………」
もちろん【疾病耐性】や【薬毒耐性】も分けてあげるつもりだよ。僕の子供が病気で亡くなるなんて考えたくもないからね。
この時代、乳幼児の死亡率はすっごく高いんだって。日本でも近代以前は“七歳までは神のうち”って言われてたもんね。そのくらい昔の子供はすぐ亡くなったそうだよ。
安心してくれ、僕の子供に生まれたからには万全のサポートで大人になるまで面倒をみるよ!
僕がそんな決意を固めている横で、ウルスナは我が子をまじまじと見つめた。
「え……? この子、人類の救世主になるんですの……?」
「その子が望めばだけどね。でもわからないよ、もしかしたら僕のユニコーン気質だけ受け継ぐかもしれないし、女性嫌いになるかもしれない。僕はその子の好きに生きてほしいと思っている」
僕がそう言うと、ウルスナはほっと息を吐いた。
「そ、そうだよな。女好きになるとは限らないもんな」
「うん。だから僕はこれからも君たちを孕ませ続けるつもりだし、子供たち全員に【魔族種付け権】を渡すつもりだ。いつかはユニコーン気質を継承してない、女性好きなだけの男性が生まれるかもしれない。彼が人類の救世主になってくれるさ」
「…………」
「まあそうでなくても、子供をたくさん作れば、そのうち新世代の魔族が広がっていくんじゃないかなあ」
魔族が旧人類を駆逐したように、魔族もまた新世代に駆逐される日が来ると思うよ。
だって魔族の女性ってみんなドスケベだもん。
僕の子ってことは、おじいちゃんの血を引く性豪だろうし、そんな男性を見逃すわけがないと思うな。
誘蛾灯に惹かれる蛾のように自分からホイホイかかって、新世代の魔族を産むんじゃないかと思われる。
まあ、僕には関係ないことだけど。僕はお嫁さん3人とイチャイチャできればそれで満足だ。
「うにゃう」
ウルスナの胸の中で、救世主になるかもしれない小さな命はむにゃむにゃと寝言を口にする。彼はまだ自分の可能性も知らず、小さな寝息を立てるばかりだった。
「ま、まあこれからもユージィに愛してもらえるってことだもの。よかったよね、ねっウルスナ?」
「それはそうなんだけど……。お腹を痛めて産んだ息子が他の女に狙われることを考えると、すっごく複雑な気分ですわ……!」
「まあ私たちもユウジにたかったドスケベだから……。人のことは言えないから、なっ?」
なんだか葛藤しているウルスナを、アイリーンとアミィさんが必死に宥めていた。
我が息子め……! 生後2時間にしてウルスナの執着心を煽るなんて……!
息子といえど許さないぞ、ウルスナに執着されるのは僕だけでいいんだ!
僕が密かにジェラっていると、ドラコがおずおずと声を上げた。
「あの……もういい? 僕を解放してくれる?」
「あ、もういいよ。ついでに質問3なんだけど、ドラゴンもゴブリンも元人間ってことでいいんだよね。ある地域で一定以上に繁栄した生物からモンスターが生まれるなら、それは人間も例外じゃないはずだし。人間から生まれたモンスターである魔族が分化して、ドラゴンやゴブリンになった。だから大枠で言えば君たちドラゴンも“人間”だよね」
「…………」
こくり。
まあそうだよね。だってゴブリンは人間の子供産んでたし。
人間とチンパンジーの間に子供はできない。人間とチンパンジーは遺伝子がかなり近いらしいが、それでも混血は不可能だ。
ほぼ同種ってくらいに遺伝子情報が相当近くないと子供はできないはずなんだよ。
ってことは、ゴブリンは元々人間だったと考えられる。
精霊術に長けて、厳しい環境にも適応でき、洞窟暮らしに向いた小柄な体躯を持つように進化していった結果、今のロリ蛮族のゴブリンになったんじゃないかな。
魔族には基礎魔術っていう“なりたい自分になる”力があるって、リイダさんが言ってたし。
同様に、ドラゴンも元はドラゴラムを覚えた人間だったはずだね。ドラゴンになれる私たち特別!ってエリート意識が、今のプライドが高いパワー至上主義の原点なんじゃないかな。
「もういい加減にしてよ!? これ以上は僕喋らないからね!?」
「あーもういいよ、訊きたいことは大体訊いたから」
プリプリと怒るドラコを宥めながら、僕は頷いた。
そうか、ドラコも大枠で言えば“人間”なのか。
……ちょっと親近感が湧いたな。
まあ僕は救世主なんて大それたものになるつもりはないし、ウルスナにああは言ったけど、子供たちにも普通に幸せな人生を送ってほしくはあるけど。
子供たちの人生に口を出すつもりもない。
我が子がどんな人生を送るとしても、それは彼らの自由だ。未来の可能性は彼ら自身のものだ。
だから好きに育て。好きに生きろ。
どう生きようが、僕は君たちの幸せだけを祈っている。
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そんな家族のやりとりを、天井裏から覗く一対の瞳があった。
普段ならばウルスナが気付いただろう。彼女は防諜対策に神経をとがらせており、屋敷への侵入者の気配には非常に敏感だ。
騎士時代に身に着けた魔術により屋敷には無数の結界が張られ、侵入者は決して見逃さない。
起業して忙しい身になってからも、ウルスナが防諜を気にかけなかったことは一度もない。
しかし今日この時に限っては、ウルスナは出産という大仕事に取り組んでおり、屋根裏の侵入者に気を配ることができなかった。
屋敷に侵入するには今日こそが唯一のチャンスであり、そして侵入者は秘密を聞き逃すことはなかった。
「ふうん……新世代の魔族、でござるか」
侵入者は小さく呟く。
この情報はクライアントに伝えねばなるまい。
ギルマスに就任したウェズでも、その前のギルマスであったデアボリカでもない。
もちろんデアボリカへのスパイとして、彼女を雇った領主代行のアンゼリカでもない。
もっと上……彼女の本当の雇い主。
太陽王ルイズ十四世に。
「ぬかったでござるなあ、ウルスナ。太陽王の孫らしくもない失態でござるよ」
その日、サウザンドリーブズから一人の冒険者が消えた。
自称をジライヤ。またの名はマイン=セラー。
金髪碧眼でポニーテール、全裸の女忍者。
ウルスナの後を追うようにいつの間にか街に現れ、冒険者ギルドに所属していたスカウト。
彼女の前身が何であったのか、彼女がどこに消えたのか。
知る者はサウザンドリーブズには誰もいなかった。