【書籍版1巻2/20発売】貞操逆転ハードモード異世界を鋼メンタル冒険者が生き抜く   作:風見ひなた(TS団大首領)

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第20話「鋼メンタルで痴話喧嘩を傍観し抜く」

「このチャラ女! ユージィの前から消えろっ!」

 

「いい加減うざったいんだよチビ助! ユージーンのそばをチョロチョロしやがって、前から気に入らなかったんだ!」

 

 どうも、聖者ユージィです。

 現在僕の目の前では絶賛修羅場が展開されています。

 ウルスナとアイリーンが僕を巡って女の戦いを繰り広げているんだけど、現代日本みたいにビンタとか嫌味の応酬みたいな大人しいもんじゃないよ。もう相手の顔面と腹目掛けてパンチは飛ぶわ蹴りは飛ぶわ、全力ギリギリの格闘戦だ。完全に格闘マンガのノリで殴り合っている。これが武器を預けてなかったら、真剣持ち出して殺し合ってたのかもしれないね。

 おっかしいなあ、さっきまでラブコメ少女漫画の世界だったはずなのに、いつの間に少年格闘漫画の世界に移行したんだろうか。

 ひとつ分かることは、この世界の女のメンタリティってほぼ男のそれだってことだ。性欲だけが男並みになってるかと思ってたけど、闘争本能がたくましすぎる。男を家庭に押し込めて戦争やってたみたいだから、ものすごく好戦的な文化になったんだろうね。

 

「ぶっとばす!!」

 

「てめえが死ねえっ!!」

 

 いや、すっごい勢いで殴り合ってるね。現代日本のプロの格闘家でもこうはいかないよ。魔力でブーストした者同士の殴り合いってすごいんだなあ。詳しく説明しようかと思ったけど、僕は格闘技のこと詳しくないからやめとこう。*1今はウルスナの足を折ろうとしたアイリーンと、アイリーンを絞め落とそうとしたウルスナがギリギリと拮抗してて、埒が明かないと見たのか互いに跳び下がったところだよ。

 

スカウト(密偵職)のくせに結構やるじゃん……」

 

「ガキだと思ったが手加減はいらねえみたいだな……」

 

 なんかいきなり本格格闘漫画みたいなこと言い出したぞ。この2人はどんな世界観で戦ってんだよ。

 

 魔力持ちのエリート冒険者って魔力で身体能力ブーストしてる分、僕みたいな一般人じゃちょっとついていけないな。僕も元の世界じゃそれなりには鍛えてたんだけど、それでも大角ウサギには苦戦させられるし。それを軽く屠れるレベルの人間同士の戦いとなると、武術の達人同士の対戦みたいになるんだろうな。

 

「あーあ、とうとうこうなったか」

 

 騒ぎを聞きつけた冒険者たちがやって来て、ウルスナとアイリーンの殴り合いを観戦し始めた。

 

「止めなくていいんですか?」

 

「どうせそのうち必ずぶつかるんだ、早いうちに格付けを済ませた方がよかろう」

 

「なるほど?」

 

 リーダーさんの言葉に、僕は首を傾げた。

 なんかどっちかの手足の骨が折れるまで止まらなさそうな殺気を出してるけど、これ本当にまともに決着つくんだろうか。

 

「君が止めてみるかね? 君のいうことなら聞くかもしれんぞ」

 

「ふーむ」

 

 よし、これでいこう。

 

「やめて! 僕のために争わないで!!」

 

 するとアイリーンとウルスナは僕の方に視線を送り、

 

「待っててユージィ! このチャラ女はあたしがやっつけてあげるからね!」

 

「ユージーン、このガキをわからせたら2人でしっぽりと続きをしような!」

 

「うおおおおおおおおお!!!!!」

 

「ぐおおおおおおおおお!!!!!」

 

 僕の声に奮起した2人は、ますます激しい勢いで殴り合いを再開する。

 

「ダメみたいです」

 

「そうだね」

 

 リーダーさんは焼き菓子などかじりながら、殴り合いを観戦している。ほれと1つ差し出されたので、ありがたく受け取って口に運んだ。お、フィナンシェだ。バターがきいていて結構うまい。さっきの夕食でデザートとして配られたやつだね。

 

「こういう男を巡っての殴り合いってさ、割と勝敗に関係なく既に男の中ではどっちの女を選ぶか決まっていて無意味だったりするものだが。君の中で答えは出ていたりするのかね?」

 

「いや、特にはありませんね」

 

「では両方とも好みではないとか?」

 

「そういうわけでも……。両方ともタイプは違いますが可愛いし、好きですよ」

 

 ウルスナは気が合う友人ポジで、顔はイケメン系で、バンダナの下に隠した金髪はサラサラで綺麗だし、オッパイは形のいい美乳だし、見ていて嬉しくなるような美人さんだ。なんかちょっと感情が重たい予感がするが、それも愛の深さと捉えれば美点だ。それに物知りだしカンも鋭いし、当意即妙でぽんぽん話題を返してくるから話していてとても楽しい。恋人にできなくても友達ではいてほしい、そんな女の子だ。

 

 アイリーンは生意気な小動物系で、顔は美人の幼体という感じ。身長は小柄だが、手足はすらりと伸びたスポーツ系少女だ。赤い髪は爽やかな柑橘系の香りがする。胸こそ小ぶりだが将来有望だし、からかうと可愛い反応をしてとても楽しい。背後から抱きしめて頭を撫でてやると初めは抵抗してもがくが、やがて力が抜けてふにゃふにゃになるのがなんとも愛らしい。首筋から香る体臭も、なんだかすごく落ち着くんだよね。

 あと、価値観が日本の女の子っぽいのもいい。この頭のおかしい貞操逆転世界で元の世界の正常さを感じられる貴重な存在だ。

 

≪説明しよう!

 アイリーンは現代日本の女の子に価値観が似ているのではなく、ツンデレ生意気ショタしぐさがたまたま雄士の目から見るとまともな女の子に見えるだけである!

 BSS(僕が先に好きだったのに)性癖に加えて、宿屋ではカワイイ!と言い出した聖女にぬいぐるみのようにハグされて体臭を嗅がれ、ショタっ子の性癖はもう複雑骨折寸前だ!≫

 

「どちらかを選ぶとなると……そうですね」

 

 僕は少し考えてから、口を開いた。

 

「正直二股かけたいし、3人でデートしたいし、可能なら両方とも孕ませたいです」

 

「このビッチ最低だ!」

 

 僕の発言を聞いたリーダーさんたちは、ドン引きした顔で後ずさった。

 そうか、僕はビッチだったのか。そうか……。

 

「でもこの国の文化では、複数の女性で男を共有するのは普通のことだし、スケベな男は大歓迎って感じのはずでは?」

 

「それはそうなんだけど、男がいきなり女並みの性欲を剥き出しにして、複数の女を孕ませたいですとか言い出すととちょっと引くよ」

 

「でも複数の女を孕ませるのはこの国の男にとって普通なんですよね?」

 

「うん、結果としてはそうなんだけど……その、主導権というか、ね……」

 

 うーん? どうにもよくわからん。難しいなあ。

 ハーレムばっちこいの文化だと思ったんだけど、どうやらそうではないらしい。

 

 

≪説明しよう!

 「どっちの男もタイプだし、両方と同時に事実婚してどっちの子かわからない赤ちゃんを毎年産みまくって3人で育てたいです♥」と発言したビッチにドン引きする気分である! 大体の男はスケベな女が好きだが、自分たちを圧倒するレベルのド淫乱には尻込みするのだ!≫

 

 

 ……はっ、そうか。 

 僕たちの世界で女が複数の男を侍らせることを逆ハーレムと呼ぶが、この世界は貞操逆転しているから男が複数の女を侍らせたら逆逆ハーレムになるのか。なんか1周回って来たけど、男には夫婦生活の主導権がないからこの世界的には異常な関係に映るわけだな。

 この世界における一般的なハーレムっていうのは、伯爵様みたいに女がたくさんの男を娶ることを言うのだろう。うーん、深いぜ。

 

 そんなことを考えている間にも、ウルスナとアイリーンのキャットファイトは続いている。キャットファイトと呼ぶにはあまりにも流血デスマッチだが。

 わかったことがひとつあるんだけど、これ自分を巡って争われても、あんまり嬉しくないな……。どっちかというとケンカなんてやめてほしいし、両方とも好きな子だから傷つく姿なんて見たくないよ。殴り合うくらいなら僕を挟んで果物あーんとかイチャイチャチヤホヤしてくれた方がずっと嬉しい。どうして仲良くできないんだ……! 世界は……!

 

「おい貴様ら、やめんか! ここは伯爵様のお屋敷だぞ! 他人の家でケンカする馬鹿がどこにいる!」

 

 ようやく駆け付けてきたデアボリカが、2人を無理やり引き剥がして仲裁する。

 擦り傷まみれになったウルスナとアイリーンは、ヴヴヴグルルと喉で威嚇音を出しながら互いをけん制し合っていた。可愛いでしょ、あの猛獣たち僕の彼女候補なんですよ。

 それにしてもあの死闘に割って入るとはさすがはギルマスだ。そう思って見ていると、デアボリカがこちらに視線を向ける。

 

「お前もお前だ、何故止めない!」

 

「いや、僕みたいなか弱い男にどうにかできるわけないでしょ」

 

「こういうときだけ弱いアピールしやがって……怠け者め」

 

 どうもデアボリカは僕を本当は強いんじゃないかと誤解している節があるな。多くの人間に治癒能力を使ったり、クーデターの旗頭に祀り上げられそうになったせいか? 昼行燈を装って実力を隠していると思っているようだが、僕は本物の最弱冒険者なんだよなあ。ウオオオオオ! 僕はスタンガン一発食らっただけで死ぬぞおおおおお!

 ん? あ……そうか、2人を魔力1にすればよかったのか。取得したばかりのスキルって、咄嗟に出てこないもんだなあ。そんなことを考えていると……。

 

「おやおや、見世物はもう終わりか」

 

 パシッパシッと扇子を掌に叩き付けて音を鳴らしながらやってきたのは、伯爵様だ。デアボリカとほぼ同時に来るということは、さっきまで商談してたのかな?

 デアボリカは揉み手せんばかりの低姿勢になって、冷や汗をかきながら媚びた笑顔を浮かべる。

 

「伯爵様、申し訳ございません。連れの冒険者たちが粗相を働きまして……。何分血の気が多いのが冒険者という生き物でして、下賤の身にとってはそれもまた戦うための力となりますので。お庭を散らかしたこと、どうか平にご容赦を……」

 

「まあよかろう。我が家でも騎士や傭兵の殴り合いはある。血の気が多い方が実戦では役に立つというものだ」

 

「ご理解賜りまして、誠に恐縮でございます」

 

 なんだ、「元気があって結構! ワッハッハ!」で収めてくれるんじゃん。

 伯爵様も結構寛大なところがあるんだな。

 そう思っていると、伯爵様は僕の顔に視線を向けてきた。はて?

 

「聖者殿、晩酌に付き合ってくれぬか。先ほどまでデアボリカ嬢と数字の話をしていたのでな、眼が冴えて眠れそうにないのだ。東洋の話でも聞かせてたもれ」

 

「…………」

 

 デアボリカに視線を向けて判断を仰ぐと、何やら口元を歪めて目を細めている。

 どっちだよその顔は。

 共感性が死んでる僕にそんな表情を読み取らせようとするんじゃないよ。

 ……あー、任せるってことかな? 本当は断らせたいけど、ここでウルスナとアイリーンが乱闘した手前、断ることができない苦渋の表情って感じか。

 まあ、それで迷惑の詫びになるなら仕方ないかな……。

 

「わかりました、ご馳走になります」

 

「大変結構! とっておきのブランデーがあるのだ、付いてくるがいい」

 

 

 

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 伯爵様自らが琥珀色の液体をとくとくとグラスに注ぎ、僕に向かって出してくれる。

 給仕がいるのかと思いきや、応接室には伯爵様と僕しかおらず、完全プライベートのサシ呑みの席だった。

 ご返杯とかした方がいいのかしらん……と思っていたが、伯爵様は自分のグラスにブランデーを注いでいる。うーむ、勝手がまるでわからんからお任せしておこう。

 

 伯爵様はグラスの下部分に掌を置き、器全体を手の熱で温めるようにして持っている。僕も同じように真似をして、グラスを持ち上げた。

 

「今日のよき出会いに」

 

 伯爵様とグラスを打ち鳴らしてから、ブランデーを口に含む。

 うーん、これはいける。ブランデーを飲んだことはないけど、ウイスキー並みにアルコールが強く、口に含んだ瞬間にカッと口の中が燃えるような感覚がある。それでいてウイスキーよりも香りが豊潤で、鼻に抜けていくときにアルコールのどこか薬品的な臭いと共に鼻腔内に香りが広がっていく。

 

「これはおいしいですね」

 

「そうだろう。シャルスメルから取り寄せた一級品だ。国王陛下も愛飲しているものだぞ、これでまずいと言ったら陛下への不敬になってしまうな」

 

 そう言って伯爵様は機嫌良さそうに笑った。

 その態度には先ほどのトゲトゲしさは見当たらない。梅毒で随分気が滅入っていたんだろうな。

 改めて彼女の顔を見ると、目の形が細く鋭いのでかなりキツい印象があるが、全体的には十分美人の範疇に入ると思う。具体的には「十代の頃は“悪役令嬢”って呼ばれてました」って顔立ち。長年の闘病で若干やつれてはいるが、年齢的にも三十代半ばでこれから女盛りというところだし、これから元の華やかさを取り戻していくのだろう。

 何より今はご機嫌で笑っているので、いきなり逆鱗ワードを踏んで首ちょんばということもあるまい。

 

「上流階級の食事ってすごく静かにするのがマナーと聞いていたんですけど、お酒をたしなむ分にはそんなこともないんですね」

 

「まあ、食事はそうだな。だがさすがに飲みの席まで静かにしろと言われては息が詰まるよ。国ごと新教に鞍替えして教会へ献金する必要はなくなったが、厳格派どもはどうも娯楽をするな、酒は飲むな、豪華な食事も食うな、収穫祭もやめろと口うるさくていかん。人間はゴーレムではないのだぞ、そうそう聖書を読んで祈るだけの存在になれるものか。……いや、聖者殿、もしや厳格派か?」

 

 なんかこの世界の人たちって同じ神様を信仰してるけど、数十年前にがめつい教会に嫌気がさして、新教というのが分離したんだよね。厳格派っていうのはその主流派で、拝金主義の旧教への反発からか徹底した清貧をヨシ!としてる派閥と聞かされている。

 正直、僕は派閥争いなんかに関わりたくもないな。

 

「いえ。新教を奉じてはいますが、特に教派はありません」

 

「そうだろうそうだろう。酒も相当イケるクチのようだからな。こいつは厳格派の堅物どもにはもったいないわ」

 

 そう笑って、伯爵様はブランデーのお代わりを注いでくれた。

 チェイサーの水で口を洗ってから、ありがたくいただく。うーん、この香りがやっぱりたまらないね。

 

「聖者殿の国にはどんな酒があるのだ? まさか酒のない国などなかろう」

 

「そうですね。僕の故郷ではポン酒を飲みますよ」

 

 “日本”という名前なのかはわからないけどね。ファンタジー世界あるある、東の果ての日本っぽい島国。多分この世界にもあるだろう。

 

「米から作った素朴な発酵酒に灰を入れると、灰が酒の中の不純物を吸って底に溜まり、澄んだ酒になるんです。見た目もまるできれいな水のように美しいですし、味も爽やかでおいしいですよ」

 

「ほう……。米とはあのサラダの付け合わせの野菜のことだろう? あんなものから酒ができるとは驚きだな。一度は飲んでみたいものだ。それで、このブランデーと比べるとどっちがうまい?」

 

 む、それは難題だな……。うーん、酒は何でもそれぞれの良さがあっておいしいんだよね。でもあくまで個人的な趣味で言えば……。

 

「僕は香りがいい酒が好きなので、このブランデーでしょうか」

 

「ははは、世辞はいいぞ。……いや、世辞を言うような人間ではないな、お前は」

 

 どうも、お世辞のひとつも言えないほど気の利かない精神ぶっ壊れ系転移者です。

 伯爵様は琥珀色の液体をグラスの中でくゆらせ、遠い場所を見る目をした。

 

「お前のような人間が、世の中にいるとはな……。よもや、本当に天よりの使いなどではないだろうな?」

 

「めっそうもない。どこにでもいるただの人間ですよ」

 

 異世界産ですけどね。

 

「まあそうか。そうだろうな。本物の天の御使いであれば、貴族を抹殺することこそあれ、救いなどせんだろう。我らの血こそが罪の結晶だからな」

 

 え、そこまで言うの? 確かに貴族って結構汚いことしてる気はするけど。この人よほど貴族が嫌いなのかな。それにしてはかなり貴族以外を見下したムーブしてた気がするけど。

 僕は相当不思議そうな顔をしていたのだろう。

 伯爵様は首を振って、小さく笑った。

 

「まあ、聖者たる貴君にはわからんだろうな。東洋人ならばなおのことだ」

 

「はあ」

 

「ときに、東洋人は魔法を使えないというのは真かね?」

 

 さあ……。どうなんでしょうね?

 僕は首を傾げた。僕はこの世界の東洋人じゃないしなあ。

 

「使える人もいるんじゃないでしょうか? 僕は見たことないですけど」

 

 そんなん知らんわを適当に言い換えてはぐらかす作戦!

 すると伯爵様はじっと僕の顔に視線を注いできた。

 

「聖者殿はどうなのだ? 魔法は使えないのか?」

 

「あー……まあ、使えませんね」

 

 嘘言ったって仕方ないしなあ。ここは肯定しておこう。

 

「そうか……」

 

 伯爵様はグラスをテーブルに置くと、腰を浮かせた。

 そして僕と同じソファーに腰かけ直し、隣に寄ってくる。え、何?

 僕が腰を横にスライドさせると、その分伯爵様も動いて距離を詰めてきた。

 

「えっと……?」

 

「聖者殿、貴族に生まれた女は次代の(かまど)となるのが仕事だ。民の統治、王への納税、領地を拡げるための戦争、それらを遂行する能力ももちろん求められる。だが本当は別にそんなことはどうでもいいのだ。より強い魔力を持つ仔を産み、育て、家を継がせる。究極的に言えば、貴族はそのために存在する。我らは家系という形なき怪物の奴隷なのだ」

 

「はあ」

 

 伯爵様は僕の左手を取ると、自分の腹に添えた。

 なんだかそこは、僕が知っている女性のものよりも熱を帯びているような気がした。

 

「この(はら)に巣くう魔物がな、常に暴れるのだよ。もっと優れた胤を寄越せ、もっと濃い精を寄越せと。まこと、貴族の女は竈よ。この胎は、より強い仔を作りたくて仕方がないのだ。産んだそばから、よしよくやった、ではもっと優れた作品を産めと言いおる。私もその囁きに応えるがまま、十四の齢から子をなしてきた」

 

「…………」

 

 伯爵様は僕の手を離すと、今度は僕の膝を撫でてくる。薄い布越しに膝を刺激されて、僕は顔をしかめた。

 

「子はもう20人産んだ。だがまだ足りぬ。熱が終わらぬ。より魔が強い仔を、より血が濃い仔を……いつまで続くのだろうな。私は正直、怖いのだ。夫だけでは収まらぬ、妾をもらってもまだ足りぬ。メイドに庭師に料理人に、目の届く男に手あたり次第手を付けて一層熱を帯びた。しまいには旅の男から梅の毒を食らい、身内にばらまいてもまだ懲りぬ。だからな、聖者殿。私は考えたのだよ」

 

 伯爵様は顔を近づけ、真っ赤な紅を乗せた唇で僕の耳朶を打った。

 

「いっそ魔の一切ない男の胤を孕めば、この胎の業火は絶えるかもしれぬと。だから聖者様、お願いだ。貴君の胤を私におくれ。貴君の聖なる胤で、私の情欲の炎にとどめを刺しておくれ」

*1
一応描写しておくと、『ウルスナがアイリーンを投げ飛ばして地面に叩き付けたかと思いきや、すかさず受け身を取ったアイリーンがローキックでウルスナの脚を刈ろうと体を翻す。それを寸前で見切ったウルスナがジャンプしてかわし、空中からアイリーンの脳天にかかと落としを繰り出す。それを両手で受け止めたアイリーンがウルスナの脚をぐるりと回して折ろうとするが、ウルスナがアイリーンの首をクロスホールド。お互いぎりぎりと力比べをしたのち、どちらからともなく体を離して距離を取る。』だよ。ね? 目が滑るでしょ。読まなくていいよ。

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