【書籍版1巻2/20発売】貞操逆転ハードモード異世界を鋼メンタル冒険者が生き抜く   作:風見ひなた(TS団大首領)

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第23話「鋼メンタルで伯爵家のために尽くし抜く」

「はぁ、はぁ……水がおいしいー!」

 

 30分にわたる第1回ブートキャンプは幕を閉じ、伯爵家の旦那さんとお妾さん……人呼んで固い筋肉で結ばれたソウルメイツは、芝生に転がって荒い息を吐いていた。メイドさんにお願いして持ってきてもらった水入りのケトルを渡すと、みんなでぐびぐびと回し飲みしている。ついでに岩塩も用意してもらったので、これも舐めてもらった。

 

「はぁ……俺も年を取ったなあ。若い頃はもうちょっと体を動かせたんだけど」

 

「君が伯爵家に来て何年経ったと思ってるんだよ。俺たちもうおじさんだぜ」

 

「違いないや!」

 

 そう言っておじさんたちはワハハと笑い合っている。

 旦那と妾という立場だと確執もあるだろうに、なんだか和気あいあいとした雰囲気だ。伯爵様が平等に愛を注いでいるからなのか、それとも先ほどのブートキャンプで仲間意識が生まれたのか。どちらも素敵だと思うけど、後者の要因が多少なりともあってくれたら、僕も嬉しい。

 

「でもこうやって体を動かすのもいいな。社交ダンスとも収穫祭の踊りとも違う斬新なリズムで最初は戸惑ったけど、リズムに合わせて体動かすとすごく楽しい」

 

「わかる、なんか自然と笑顔になってくるよな」

 

「地獄の特訓って言うから何をされるのかと思ったけど」

 

「おいおい、そんなこと言ってたら後で本当に地獄だぜ。なんせ年を取ると後から筋肉痛が来るからな」

 

「うへぇ」

 

 確かにそれはそうだ。だからその筋肉痛を軽減するための対策を取らなくては。

 

 

 

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「というわけで、おやつタイムにします。運動してから2時間以内にたんぱく質……えーと、要するにお肉とか食べることで、筋肉痛を和らげて成長を促進することができます。料理人さん、何かすぐ食べられるお肉って出せますか?」

 

 ぞろぞろとソウルメイトを引き連れて厨房へやって来た僕は、お妾さんの一人でもある料理人におやつを要求してみる。

 すると彼はニコニコと笑顔を浮かべて、銀色の……あのなんていうの、皿の上に被せる銀色の蓋のついた皿を持ち出してきた。

 

「ありますよ。ゆうべの晩餐のローストビーフです!」

 

「ローストビーフかぁ……」

 

 顎に手を置いた僕をよそに、ミドラー氏は屈託のない笑顔を浮かべている。

 

「いいですね、ローストビーフ! 昨夜の晩餐では兄貴をご招待して振る舞おうとしていたのですが……。ぜひこの機会に召し上がってください」

 

「それって結構脂身ついてたりします?」

 

「ええ、もちろん。特別にいい部位ですよ」

 

「ではやめましょう。これから一週間は脂身が多い部位は避けてください」

 

「えぇ……?」

 

 ダイエットのために運動してるのに脂身の多い肉とか食べちゃだめだよ。

 

「もっとこう……サラダチキンとかないですか?」

 

「サラダチキン……?」

 

「えーと、鶏の胸肉を鶏ガラでとったスープで漬け込んだ料理で」

 

「鶏ガラってなんですか?」

 

 【悲報】ハードモード異世界、ダシを取るという文化が存在しない。

 

 ちょっとびっくりしたね……。煮込みとか食べてもなんか大味だなーって思ってたんだけど、まさかダシ自体が存在しなかったとは。動物の骨をハンマーで細かく砕いて血の塊を取り、野菜の切れ端と一緒に長時間煮込むんですよと教えたら、そんな料理法が……!? と仰天された。伯爵家お抱えの料理人でこのレベルなのか……。

 

 どんな食材があるのか確かめてみたところ、とにかく牛肉。どうやらこの国の貴族の間では客に豪華な牛肉料理を出してもてなす習慣があるそうで、それが貴族の権勢を示すのだそうだ。まあ牛っていっぱい牧草食べるから、育てるコスト高いもんね。とはいえ牛肉はダイエットには向かないしなあ。

 

 あとは卵やじゃがいも、玉ねぎ、保存食としてハムや干し肉。またしても驚いたことに、野菜は全然食べないらしい。確かに冷蔵技術がないから収穫から日持ちしないのはわかるけど、そもそもとして肉食文化で野菜の栽培がされてない。貴族が夏場に肉の付け合わせとして食べる程度にしか消費されてないそうだ。

 食事の基本はとにかく肉とパン! あと申し訳程度にオニオンピクルス。貧乏人はパンの代わりにじゃがいもも食べる。……そりゃ太るはずだよ。

 

「キャベツとかニンジンとか育ててる村はないんですか……?」

 

「あ、キャベツとニンジンなら僕が庭園で育ててますよ」

 

「……あるんじゃないですか。なんで食べないんですか?」

 

「? だって観賞用の植物ですよ?」

 

 【悲報】ハードモード異世界、野菜が観用植物扱い。

 

 嘘だろ、どんな異世界小説でも野菜くらい普通に育てて食ってるだろ!

 よくよく聞いてみたら新大陸から持ち込まれたトマトもあるのに、これも観賞用でしか育てられてない。トマトには毒があって食べると死ぬと思われているらしい。確かにトマトはトマチンという毒があるけどね。具体的にはトラックいっぱいのトマトを食べたら致死量らしいよ、怖いね。

 

「それ、全部来年から大規模に栽培した方がいいですよ。塩漬けとかピクルスにすれば日持ちすると思いますし。脂肪を避けてお腹を満たすには、野菜はすっごく便利な食材ですから。肉では摂れない栄養もいっぱいあるので健康にもいいですよ」

 

「そうなのか……後で妻に相談してみますね」

 

「あ、栽培に成功したら種を少し分けてもらっていいですか?」

 

「ええ、もちろん。使者に持たせましょう」

 

 僕も野菜食べたい。なんだかんだ、こっち来てから肉とパンしか食べてないもん。

 それに異世界農業スローライフもWEB小説の定番だしね。冒険者もほぼ引退したことだし、聖者が暇になったらのんびり農業生活もいいかも。まあWEB小説のスローライフってチート使って1か月で収穫とかしちゃうから、結局全然スローじゃなくなりがちだけど。現代日本人はどこまで行っても効率主義が染みついてるんだよなぁ。

 

 とりあえず脂質少な目・タンパク質豊富で手軽に作れそうなものは……。

 あ、そうだ。スパニッシュオムレツにしよう。

 僕は卵とじゃがいも、ハム、玉ねぎをいただいて、厨房の一角を借りることにした。

 スパニッシュオムレツというのは、じゃがいもを使ったオムレツの一種だ。トルティーヤとも呼ばれるけど、同じ名前のメキシコのパンとは直接的には関係ないよ。スペインの国民的家庭料理だ。

 

 じゃがいもや玉ねぎ、ハムといった具材を細かく刻んで、炒め合わせたら溶き卵を流し込み、火が通ったらひっくり返して完成。お手軽だね。味付けは塩コショウがいいんだけど、なんかコショウはすっごい貴重品らしいので塩だけで済ませる。香辛料はお客さん相手の晩餐で振る舞うときしか使えないんだって。さすがに伯爵家の家族とはいえ、趣味の筋トレのお供にそんな高級品使うのもったいないもんね。

 じゃがいもが入ってるので、少量でも満足感があるのがポイントだよ。じゃがいもも炭水化物だけど、使ってる量は多くないのでそこまで太るわけでもない。

 

 なお、料理中ずーっと料理人さんが僕の横に張り付いて、目を皿のようにしながらすごい勢いでメモを取ってた。なんか鬼気迫る勢いで怖かったんだけど……。これで作り方覚えてくれたら、これからもソウルメイツに振る舞ってもらえるしね。

 

 焼いてる途中からいい匂いが漂っていたので、ミドラー氏たちは涎を垂らさんばかりの顔をしていた。お皿に盛りつけて出したところ、待ってましたと言わんばかりにペロリだ。もちろん評価は上々。

 

「これはおいしい!」

 

「ううむ、イケる……! じゃがいもは貧しい民草の食材だと思っていたが……。これなら毎日でも食べられます」

 

「卵を使うのが、ちょっと贅沢ではありますが……相応にうまい!」

 

 え、卵って高級品なんだ……。

 よくよく聞いてみると、養鶏の規模も貧弱なので庶民ではちょっと手が届かない値段のようだ。肌感覚だけど、日本円にして1個500円くらい……かなあ? もちろん鶏そのものもかなり高い。伯爵家はお金持ちなんだろうけど、もうちょっと安いダイエット食は作れないかなあ。

 そう思って安い肉のあてはないかと聞いてみたら。

 

「安い肉……といえば、ウサギですな」

 

「そっか、大角ウサギだ!」

 

 この異世界、ウサギモンスターが本当に多いんだよね。奴らのせいで島中の草原が食いつくされてしまっているし、繁殖力もヤバいから狩っても狩ってもすぐ増える。おかげで僕みたいな最底辺の貧乏人でも毎日肉を食えたので、良し悪しではあるんだけど。

 このロングフィールド領でも大角ウサギがうようよしているので、ウサギ肉にはことかかない。ウサギの肉は脂肪も少ないから、ダイエット食に使えそうだ。

 早速ウサギの骨でダシを取って、ウサギ肉を漬け込む手法を料理人さんに教えておいた。漬け込み時間は1日で済むので、明日には試食できるだろう。

 サラダチキンならぬサラダラビットの発明である。

 

 他に肉の代わりになるような食材はないかな……魚とかでもいいんだけど。

 

「ああ……魚ならありますね。この時期なら川を上って来たサーモンが獲れますよ。誰も食べないので安値で取引されてますが」

 

「サーモン! いいですね、なんで食べないんですか?」

 

「ブリシャブ人なら誰だって魚なんかより肉を食べたいじゃないですか? 魚は復活祭前の肉を食べてはいけない期間に仕方なく食べる程度ですね。みんな魚は生臭くて好きじゃないんですよ。それにサーモンはよく食あたりしますし」

 

 な、なんてもったいない……!

 おさかな天国の日本人としては、魚はお友達だからね。ぜひおいしく食べなきゃ(←友達を食べるサイコパスの鑑)

 

「私たちの中にも風味が好きだって変わり者はいるので、一応スモークサーモンを仕入れてはいますが……」

 

「その人はとてもセンスがいい! 島国ならもっとお魚食べましょ、お魚!」

 

 魚が生臭くて嫌いというのは、冷蔵技術も輸送技術も発達してないので、すぐ腐っちゃうからだろうね。食材を少しでも長持ちさせる工夫として燻製は発明されているけど、魚は生臭くてまずいものって固定観念が染みついちゃってるんだろう。

 食あたりはアニサキスやトキソプラズマなんかの寄生虫のせいだな。多分サーモンを一度冷凍して寄生虫を殺すという手順が発明されてないんだろう。でも、スモークサーモンなら燻製にする途中で寄生虫は熱で死滅するから大丈夫のはずだ。

 

 そもそもみんなには【疾病耐性】を付与してあるし、万が一にも寄生虫症にはならないよ。寄生虫なら付与したその日のうちに全部排出しちゃうんだからまさしくチートだよね。

 ウイルスや病原菌も1日で排出してるのかもしれないけど、寄生虫と違って目に見えないから確かなことは言えないかな。念には念を入れた方がいいね。

 

 さて、保存されていたスモークサーモンを一切れもらってみたけど、これが魚の脂が口の中でとろける絶妙な味わいだった。現代日本で一般的な冷燻じゃなくて、しっかり熱を通したホットスモークサーモンだけど、これはこれでうまいなあ。

 一言で言うと、燻製の香りがついた焼き鮭だね。もう少し塩に漬けておけば、日本人好みの塩鮭に近い味になりそう。でもここは大ブリシャブ帝国だから、ここの人たち向けの味にアレンジしないとね。今すぐお前をもっとおいしくしてやるからなぁ~♥

 

 そんなわけでさっくりと作りました、ホットスモークサーモンと玉ねぎのマリネになります。まあこれも簡単、オリーブオイルとお酢と塩と砂糖でマリネ液を作って、スモークサーモンと玉ねぎをぶちこむだけ。あとは1時間ほど冷暗所で寝かせれば完成だ。例によってコショウがあればいいんだけど、ないならないでヨシ!

 

「ほう……! これもうまい! 燻製の香りで生臭さが消えている!」

 

「酸っぱくて非常にさっぱりとした味わいだ。こりゃいいや、正直歳のせいか肉料理も胃がきつかったんだ。俺はローストビーフよりもこちらの方が好みです、これからは肉料理の副菜に欲しいな」

 

「冬になったら鱈とかで代用してもいいですよ。季節のお魚で作ってください」

 

 ブリシャブ島は緯度が高いようなので、鱈なんかも取れるはずだよね。

 

「なるほど……! なるほど……!」

 

 料理人さんが鼻息を荒くしながらメモを取りまくっている。

 参考になったならよかった。今後は彼独自のダイエット食レシピを編み出してほしい。

 

 そんなことを思いながら舌鼓を打つソウルメイトを見ていると、ミドラー氏が感に堪えないといった様子で僕の両手を握ってきた。

 

「兄貴は本当にすごいですね! 医療だけでなく運動、農業、料理にも深い造詣をお持ちとは……! 貴方こそ賢者と呼ばれるべき方では!?」

 

「えっ……。いや、大したことじゃないですよ」

 

「またまた! 謙遜も美徳とはいえ、過ぎれば嫌味に聞こえてしまいますよ」

 

「あはは……」

 

 いや、本当に大したこと言ってないんだよね……。WEB小説あるあるの「また俺何かやっちゃいました?」とかじゃなくて、筋トレやキャンプが好きな人なら本当に当たり前の知識なんだよ。

 よくよく振り返ってみると確かに知識チートのテンプレのようなムーブなんだけど、別にそこまで専門知識を披露したわけじゃないんだよね。そりゃ水車とかの複雑な機構を知ってて再現する高校生転生者とかいたらお前何者だよ、すげーなってなるけど。むしろ僕はなんでこんな知識知らないんだよ……ってドン引きしてる状態だよ。

 

 マリネって古代ローマで開発された料理じゃなかったっけ? この世界にもローマに相当する古代ロマン帝国なる国があったみたいだけど、マリネとか入浴文化とか失伝しちゃったの? すっごい退行してることになるんだけど……。本当にこの異世界、ハードモードだなぁ……。

 こんなんで賢者なんて呼ばれたら、異世界小説で賢者を名乗る主人公たちに申し訳が立たないので、謹んで辞退させていただきたい所存。

 

 そんなことを思っていると、料理人さんがメモとペンを手にずいっと身を乗り出してきた。

 

「兄貴、どうかもっとご教授を! 他の料理もぜひ教えてください!」

 

「待ちたまえ。料理人ならレシピがどれほど貴重なものかわかるだろう。千金を積むか、弟子入りして教えてもらうのが筋というものだ。兄貴の高徳に甘えて厚かましいことを言っているとわからないのか。伯爵家の一員として、恥を知りなさい」

 

「あ……す、すみません」

 

 ミドラー氏に掣肘(せいちゅう)されて我に返った料理人さんは、しょぼんと肩を落としている。

 

「いえ、いいですよ。僕もダイエット食やお菓子くらいしか作れないですけど、それでよかったら。あと、野菜の育て方もコツがあるので、僕が知ってる範囲でお伝えします」

 

「なんと……本当によろしいのですか?」

 

「いいんですよ、僕も野菜の種ほしいですし」

 

 まあ輪作して連作障害を避けるとか、合間にクローバーを育てて土の中の栄養素を補充するとか、発酵させた鶏糞を肥料にするとか、そんなWEB小説読みなら誰でも知ってる初歩的な知識だけだけど。多分この世界ではまだ発見されてないだろうから、ヒントにはなるんじゃないかな。

 

「聖者様のご厚情に深く感謝いたします。いっそ申し訳ないくらいで……」

 

「だって、僕たちソウルメイツでしょう? 筋肉で結ばれた兄弟じゃないですか。困ってる弟を助けてあげるのは兄の務めなので」

 

 まあ半ば押し付けたような兄弟関係だが。

 ミドラー氏は何やら胸の前で拳を握り、肩を震わせている。お貴族様相手に、さすがに不躾だっただろうか……?

 

「……兄貴、明日からは妾たちを全員参加させてもよろしいでしょうか。私の息子も、ぜひご教示を受けさせたく思います」

 

「うん、もちろんいいよ」

 

 参加者は多い方がお互いに励まし合ってモチベになるしね。

 

「息子さんって、確か1人だけ成長したっていう男の子だよね」

 

「ええ。妾との間に生まれた男子もおりますが……」

 

「その子たちも連れてきていいよ。料理人さんが人数分のおやつ作るの大変かもしれないけど、修行と思って頑張って!」

 

「う、うす! 頑張りまっす!」

 

 突然話を振られた料理人さんが、背筋を伸ばして返事をする。

 なんか教えてもないのに体育会系の返答が身に付きつつあるな……。

 

「ミドラーさんの息子さんって何歳なんですか?」

 

「今年で15歳になります」

 

 へえー、中3くらいか。若いうちから体を鍛えるのはいいことだ。

 

「僕もこのせか……この国に来てから年下の男の子と話すのは初めてかも」

 

「若い男は大事にされていますからね。貴族ならなおのこと、息子もどうにも内向的に育ってしまって……。部屋にこもるか、裏庭で花を見てるかしているばかりで」

 

「そっか、友達になれたらいいんだけどな」

 

 僕の言葉を聞いたミドラー氏は、深々と頭を下げたのだった。

 

「はい。私の後も、息子が貴方のお力になることを祈っています」




≪説明しよう!
今回は熟女奥さまの群れに混じって料理教室している聖女の回である!
男とキャッキャしてるときくらいは説明を休ませてもらおうか!≫
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