【書籍版1巻2/20発売】貞操逆転ハードモード異世界を鋼メンタル冒険者が生き抜く 作:風見ひなた(TS団大首領)
僕の名推理で立て続けに図星を刺され、ドラっ子は呆然としている。
ここでダメ押しとばかりに、僕は言葉を連ねた。
「いくら人間の世界から情報を隠蔽したとしても無駄だ。僕だけはお前が魔族だということがわかっているんだぞ……!」
「うん、まあ……魔族だけど……?」
僕の指摘に頷くドラっ子。
やはりそうか! 僕の考えは正しかったようだな……! 伯爵家の真実に続いてまたまた真相にたどり着いてしまうとは、僕ってやっぱり名探偵の素質があるのかも。
僕たちのやり取りを見守っていたデアボリカが横から口を挟んでくる。
「魔族……? なんだそれは? こいつはドラゴンだろう?」
「魔族というのは恐ろしい呪いに感染している種族なんだ。性行為によって呪いを拡散し、眷属を増やそうとする。人間よりも高い魔力を持っているが、その精神性は邪悪で、魔王に率いられて世界征服を企んでいるんだ」
話の後半分はいわゆるチート知識というやつだ。大体のファンタジーWEB小説では魔王が世界征服を企んでいるのがお約束だからね。
これはちょっとズルいメタ読みだけど、主人公と悪役は必ずセットで存在するものでしょ? チート転移者の僕が存在するからには、当然魔王的な存在もどこかに存在しているはず。じゃなきゃ僕を転移させた神様の片手落ちだよ。
いつかは手掛かりが見つかるはずと思ってたけど、やっと尻尾をつかんだぞ。
自信たっぷりに断言する僕の言葉に、デアボリカは驚きを露わにする。
「世界征服を企む呪われた魔族だと……!? そんな恐ろしい種族がいるのか……!?」
「ああ、僕たちの目の前にね。高い魔力を持つ、モンスターを使役して人間を襲わせる、邪悪な精神性を持つ……これらの特徴にあてはまっているドラゴン族こそ魔族……! いや、魔族という大きな括りの中の一種族と考えられるんだ!」
どうだ、とばかりにドラっ子に指を突き付けてやると、彼は何やら目を伏せながら頭を振った。
「なんだか可哀想……。約定の結果とはいえ、人間ってここまで無知になっちゃったんだね……」
「どういうことだ? 魔王とやらは本当にいるのか? 吐け!」
クソ雑魚と化したドラっ子に哀れまれたのがプライドを刺激したのか、デアボリカは高圧的に迫る。弱い相手には強く出るよねこいつ。
「お前たちって本物のバカなの? あのさあ、世界征服を企む魔族の王様なんて、子供のおとぎ話じゃないんだから……」
ドラっ子は半笑いを浮かべながら首を竦めて、それから何かに気づいたように眉根を寄せた。
「いや……。見方を変えれば確かにそうだけど……。ええと……ねえ、これってこいつらへの皮肉? 結構許されるラインを越えかけてるけど」
どうして僕に向かって質問してくるんだよ。質問されてるのお前だぞ。
にしても、なんか口ごもってる感あるな。
「何か口に出せない理由があるのか?」
「そりゃ大昔からの大約定があるからね。誰彼構わず聞かせられる話じゃないでしょ」
「大約定? なんだそれは。お前は敗者だぞ、知っていることは全部聞かせろ!」
ぐいぐい行くデアボリカだが、ドラっ子は軽く肩を竦める。
「お前、態度は偉そうだけど恰好を見た感じ王族とか教皇庁の人間じゃないんでしょ? じゃあ言えない」
「そ、そうか。じゃあ仕方ないな」
王族や教皇庁という名前を出された途端、デアボリカは卑屈な笑みを浮かべてすごすごと引っ込んだ。権威に弱すぎんかお前。あとウルスナから豚を見るような目で見られてるけど。
「とにかく一つだけドライグの名誉のために言っておくけど、ボクたちは君が言う魔王とは一切関係ないからね。ドライグが魔王の配下だなんて、冗談でも本当に不愉快だよ! もう絶対口にしないでよね!」
「お、おうわかった」
この話はこれで終わり、とばかりにドラっ子はぷんすかと顔を背ける。
ふーむ、魔族って割とこの世界のタブーにあたる話なのかな? 大約定とやらが何なのか知らないが、断片的な情報を集めると大昔に多種族の間で結ばれた「魔族の存在を秘密にしよう」という協定らしい。そしてその協定には人間の王族や教皇庁も関わっている。
ここに僕の持つスキルを掛け合わせることで、ひとつの推論が浮かび上がってくる。
僕は【魔族種付け権】とかいうふざけた名前のスキルを持っているが、これの効果は性交渉しても魔族の呪いに感染せず、安全に子作りができるというものだ。
つまり人間と魔族の間には子供が生まれるのだ。これは「魔族は人間の近縁種である」という事実を示している。
ヒョウとライオンの雑種のレオポンっていうのが昔日本でブームになったらしいけど、雑種が生まれるにはそもそも交雑が可能なほどに遺伝子が近くないといけないんだよね。
僕たちの世界ではホモ・サピエンスには近縁種が存在しなかった……正確にはネアンデルタール人やクロマニヨン人がいたけど、既に絶滅していた。しかし、この異世界においては人間と遠い祖先で枝分かれした魔族が今も存在しているということなのだろう。
この推論を補強するのが、やはり僕が持つスキル【異世界語会話】だ。
大角ウサギの言葉は翻訳しないが、ドラゴンの言葉は翻訳したという事実から考えるに、おそらくこのスキルの前提条件は「相手が人間かその近縁種の場合」だ。
ドラゴンは正確には竜人族とでも呼ぶべき種族であり、この世界において人類の一種に分類されているのだろう。怪獣形態になれてバカ高い魔力を持つとか、あまりにスペックが違いすぎて同じ人類として数えていいものか不安になるけど。
しかしこの推論はちょっとみんなには言えないな。あまりにもショッキングすぎる。
大協定とやらに引っかかった場合、口封じに消されることも考えられるしね。
この推論は僕の胸の中に秘めておくことにしよう。
思索の海から戻った僕は、ドラっ子がじーっとこっちを見つめているのに気づいた。
「……ねえ、お前は何? ボクに魔封じを一瞬でかけたり、魔族のことを知ってたり、どう見てもただの人間じゃないよね。もしかして教皇庁の人? でも、なんか髪も黒いし、教皇庁っぽくないよね……
「いや、僕はただの旅人……」
「こいつは聖者だ! 神から力を与えられた特別な人間だぞ!」
横入りしてきたデアボリカの言葉に、ドラゴンは目を丸くする。
「聖者……?」
「その通り、聖者の力をもってすればお前のような邪悪なドラゴンの力を封じるなど造作もないのだ! 恐れおののくがいい! そしてこの聖者が所属している冒険者ギルドのマスターがこの私だ! 私にはもっと敬意を払え!
……というか、私もそんなことができると聞いていなかったのだがな? なぜもっと早く言わなかった貴様!?」
僕をダシに自慢しているうちに、僕への怒りが込み上げてきたらしい。
自慢するのか怒るのかはっきりしろ。小者感本当にすごいなお前、出会った頃の底知れなさが微塵もないんだが……。
「何度も言おうとしたけど、黙って座ってろって言ったのはお前だぞ」
「本当に黙る奴があるか!? 現場の判断で臨機応変に対応しろ! 冒険者というのは自主性を重視するものだぞ!」
「じゃあ今度から僕が好きに動いてもいいんだね?」
「いや……お前、隠し玉多すぎて何をしでかすかわからんからダメだ……。というか、魔封じとかできるなら最初から言えよ!? 他に隠してることないだろうな!?」
「僕の能力なんて水晶玉で把握してるはずでしょ。あれで全部だよ」
「ぐぬぬ……」
何のための適性審査なんだか、まったく。
ただちょっとスキルを組み合わせて新しい効果にしたり、後から自動販売機で購入したりするだけじゃんかね。後から購入したものも教えてるし、何も問題ないでしょ。
まあ、なんだ。
「僕に勝手に動いてほしくなかったら、危険が及ばないようしっかり守ってね」
「くそっ……!」
「どっちの立場が上なの、お前ら……?」
「私だ! 見てわかるだろう!」
呆れた顔のドラっ子に向けて、噛みつかんばかりの顔をするデアボリカ。
あいにくと渾身の威嚇もまるで功を奏していないようで、ドラっ子はチワワに吠え掛かられた大型犬のような小馬鹿にした笑みを浮かべている。……あんまりナメられても懲らしめられないか。
「言っておくけど、デアボリカは人間にしては魔力高いよ。魔力1になってる今のお前だと、初級の電撃一発で黒焦げになる。デアボリカの全力で攻撃されたらどうなるかな?」
「ひっ」
自分が置かれている状況を思い出したのか、ドラっ子はぶるっと身を震わせた。
「お、お、脅しはやめろよ。ボクにはそんなの通用しないぞっ」
「いや、事実だよ。前に大角ウサギで実験したときは、人間の子供でも使えるマジックアイテムの電撃一発で黒焦げになって即死した。ひとつ、自分の体で試してみるかい?」
そう言いながら、僕はバックパックから
「まあドラゴンの生命力なら耐えきれるかもしれないけど。何発まで耐えられるか試してみるのも一興かもね」
「や、や、や、やだああっ! 来ないでえっ!!」
一瞬で顔色を蒼白にしたドラっ子は、その場にへたりこむとお尻をずりずりと引きずって必死に僕から逃げようとする。
目尻には涙が浮かんでおり、歯の根が合わないほど口元を震わせていた。
僕はずかずかとドラっ子の前まで歩み寄ると、その顔を覗き込んでやる。
「嫌だ、来ないでって、お前がスタンピードをけしかけた村の人間も言ったんじゃないのかな? そのときお前はどうしたんだ? 弱い人間が泣き叫ぶのを見て、愉快だって笑ってたんじゃないのか?」
「そ、それは、だって……。あいつら弱いもん! 弱い人間は強いドライグに何をされても仕方ないんだって、みんなが言ってたから!」
「じゃあお前も僕に何をされても仕方ないよな? お前の方が僕より弱いんだから」
「…………」
都合が悪くなるとだんまりか。仕方ないな……。
僕だってそう褒められた人格じゃないし、お前が言えた口かって自分でも思うけど。今この子を叱れるのは僕しかいないから、これから柄でもないことをするよ。
「立て」
僕はドラっ子の胸倉をつかんで立たせると、思いっきりその頬を叩いた。
遠慮なく力を込めたので、パァンと景気の良い音が鳴る。
ドラっ子の防御力を下げた覚えはないから、全力で殴らないとな。
所詮魔力1の僕のビンタなんて大したダメージが入ったとも思えないけど、殴られたこと自体がショックだったのか、ドラっ子は頬を押さえてぶるぶると震えている。
「た、叩いた……! ママにだって叩かれたことないのに!」
「お前の親が殴りそびれたから、僕が教えてやってんだよ。いいか、よく聞け。お前は悪いことをした。人間を面白半分に殺して遊んだ。だからこうして報いを受けている。弱い者をいたぶって楽しむ者は、いつか自分より強い奴にいじめられるもんだよ」
「だって、それは! 人間なんて虐めていいんだって、みんなが……」
「誰が口ごたえしていいって言った?」
もう一発、逆の頬にビンタをお見舞いする。
ドラっ子は頬を腫らせて、ぽろぽろと涙を零した。
「人間を虐めたのはお前だろ。他の誰かのせいにするな。弱い者を虐めたのはお前なんだから、お前が罰を受けるんだ。お前は次のドラゴンの王様なんだろ。悪いことをしたときに、家臣が悪いんですって罪を押し付けるのが王様らしいやり方か? それで胸を張って誇りある王様を名乗れるのか?」
「うっ、うっ……うえええええええん……!」
ドラっ子は、眉をたわめてびいびいと泣き始めた。
子供の泣き声は、なんとも哀れを誘う。
「な、なあ……ユージィ君。ちょっとやりすぎではないだろうか……?」
「そうだよ、この子もまだ子供なんだし……殴らなくても言えばわかるよね?」
そんなことを言い出したリーダーさんたちに、僕は内心で溜息を吐いた。
かーっ出たよ。この世界の女の悪いところが。
≪説明しよう!
襲い掛かって来たドラゴンを倒したらロリ美少女になり、それを聖女がぶん殴って説教を始めたらドラゴンがガチ泣きしたので、男たちがもうその辺で……と言い出した構図である! ロリ美少女が涙するのを黙って見ていられないのが男というものだ!≫
ノーマルな異世界転生モノで敵だった女を優しく許してやる主人公を見て、「これだから男は……」と愚痴をこぼす仲間の女になんだこいつ、醜い嫉妬しやがって……と思った覚えがあるんだけどさ。今なら彼女たちの気持ちがわかるよ。
なんで殺されかかった相手を、異性だからって理由だけで許してやらなきゃいけないんだよ。嫉妬とかじゃなくて、ひたすらに理不尽だってぼやきたくなるだろ。
特にこの世界は男が全体の1/4しかいないせいで、とにかく女が男に甘い。男に人権がなくて女の所有物と見なされている世界ではあるけど、その一方で男のわがままは仕方ないわねで済まされてしまうことが多い。
なにせ男は貴重なので、親切にしてやらねばならないという風潮が文化に根付いているのだ。
僕はこの半年の間、街中でほぼ男と接する機会がなかったからその辺に疎かったけど、先日のロングフィールド家のソウルメイツとの交流で価値観をアップデートしている。
なので、
「泣けば許されると思うな」
「!?」
僕はためらうことなく、ドラっ子の逆の頬にもう一発くれてやった。
ドラっ子は涙を止め、信じられないという顔をして呆然と頬に手を置いている。
ほれみろ、どうせ泣きまねだと思ったよ。
「お前の周りの女がどうだったか知らんが、男の僕には泣き落としなんて通用しないぞ。お前を反省させるまでこのままだ」
「う、う……」
じわっと涙を浮かべながら顔を伏せるドラっ子を見ながら、僕は日本にいた頃のおじいちゃんの言葉を思い返していた。
「いいかい、雄坊。最近の世間じゃ体罰はいけないとか言うが、おじいちゃんはそうは思わない。
痛みで罰を認識させることも必要だ。悪いことをしても罰を与えられないと、子供は大人を舐める。大人の言うことを素直に聞かなくなり、馬鹿にするようになる。そんな子供が社会に出たら、いきなり上司の命令に服従することを求められるんだ。
不幸なことだろう。だからおじいちゃんは雄坊がとても悪いことをしたら叩いて叱るよ。いつか雄坊にも子供ができたとき、その子が悪いことをしたら叩いて叱りなさい。それがその子のためになるんだからね。
もっとも、おじいちゃんはメスガキに『雑ぁ~魚♥』と罵られるのも大好物だよ」
直後におじいちゃんはおばあちゃんにしばき倒され、マウントを取られながら雑魚煽りをされていたね。
なんだかんだ言って、僕を叩いて叱ったことのない優しいおじいちゃんだった。僕は良い子だし、口で言って聞かせればわかるからって言ってたっけ。
このドラっ子は、親や周囲から一切怒られずに育ってしまったんだろう。優しい虐待というやつだ。王族だし、男だからということで、チヤホヤされたんだろうな。
そんなのが本当に王様になってしまったら、誰にとっても不幸になる。それこそドラゴンにとっても、人間にとってもだ。だから僕がここで性根を叩き直す。それがこの子のトラウマになるとしても。
しかし、どうすっかなあ。
いくら頬を叩いて説教したところで、その程度で弱い者いじめしなくなるとは思えないんだよね。喉元過ぎれば熱さを忘れるってやつで、すぐにけろっとした顔で狩りごっこをするに違いない。どころか、仲間を連れて復讐に来ることも考えられる。
「やはり、このまま荒野に放って生き延びさせることで、弱い者の気持ちを学ばせるしかないか……」
「!?」
僕がぼそりと呟いた独り言に、ドラっ子はびくりと体を震わせた。
慌てて僕の上着を握ると、ふるふると首を振りながらすがりついてくる。
「ま、待って! それだけは……! そんなことされたら、絶対死んじゃうよぉ!」
「生命力や敏捷性はそのままなんだから、何とかなるでしょ。それに親元まで歩いて帰れればそれで済む話じゃない?」
「た、たどり着けるわけないだろ! それにたどり着いたとしても、魔力を失ったボクが次期後継者になんてなれないよ! ボクという後継者を失ったドライグがどうすると思う! 一族総出で復讐に来るんだぞ!」
口にしている間に、ドラっ子は何やら強気になってきたようだ。
「そうだ、ボクをこんな目に遭わせた復讐をしてやるんだからな! それが嫌なら、今すぐ僕に魔力を返せよ! ほらっ!」
「……?」
僕ははて、と首を傾げた。
この子は何か考え違いをしていないか。
「お前が帰っても、ドラゴンたちは復讐になんてこないと思うよ」
「え……?」
「お前がチヤホヤされてるのは、王族の男だからだよ。女たちがお前に期待してるのは子種だけ。種馬ならぬ種ドラゴンとしての役割さえ果たせればそれでいいんだ。むしろ人間並みの力しかなくなってる分、逃げられにくくなってありがたいくらいじゃないかな」
ドラっ子は先ほど頬を叩かれたときよりもショックを受けた表情で、ワナワナと肩を震わせている。
「う、うそだ。そんなはずない……。僕は生まれながらに偉くて、貴重で、次の族長にふさわしいって……」
「あのな、冷静に考えろよ。本当に自分たちの王様にしたいなら、子供の頃からもっとちゃんと叱って育てるだろう。暴君なんかになられたら、自分たちの身が危ないんだから。
それをせずにただチヤホヤしてるってことは、お前の王様としての器量なんか誰も気にしてないんだ。お飾りの王様になって、子種さえくれるならお前のことなんてどうでもよかったんだよ」
「あ……う……」
ドラっ子は呆然自失した感じで、その場に膝を折った。
「うそだ……うそだ、そんなわけない……」
頭を抱えながら自分に言い聞かせるように呟いているが、僕の言葉を否定しきれないのかその瞳には絶望の色が浮かんでいる。
「な、なあ……さすがに子供には残酷すぎたのではないか……?」
リーダーさんがどうすんのこの空気……という顔で口を挟んで来るが、ウルスナは力強く首を横に振る。
「いや、これでいい。子供のうちから自分の立場をしっかり理解させておかないとロクなことにならねえぜ」
「ううむ……」
心を砕かれたドラっ子を前に、リーダーさんはどう収めるんだよって視線を向けてきた。そうだなあ……。
僕はぽんとドラっ子の肩を叩くと、耳元に囁いてやる。
「だが、お前は今気づけた。今から頑張って立派な王様を目指せば、周囲もお前を立派な後継者として認めてくれるかもしれない」
「ほ、ほんとか……? ボク、ちゃんとした族長になれるのか……?」
「ああ」
微かな希望の光を瞳に浮かべるドラっ子に、僕は力強く頷いてやる。
「しっかり勉強して、世の中のことを知って、弱い者いじめなんてせずに強い者にだけ立ち向かっていく勇気を手にする。そのためにも」
僕はドラっ子の手をぎゅっと握った。
「魔力を失った状態で荒野を生き延びて、弱者の気持ちを知ろう!」
「やだああああああああああああああああ!!」
ぶんぶんと全力で首を横に振って拒否するドラっ子。
あれ、おかしいな……説得できそうな空気だと思ったんだけど。
「おかしい! おかしいよお前! なんで処刑する方向に話を持って行こうとするの!? 反省するって言ったじゃん、立派な王様になるって言ったじゃん! この状態で見捨てられたら絶対に死ぬって言ってるよね!?」
「苦難を乗り越えてこそ立派な人物になれるものだよ。それに僕も生き延びてきたんだから大丈夫だってば」
「い、嫌だっ! その苦行になんの意味も感じないよっ! もうわかった、強い者にいたぶられる気持ちは十分わかった! もう弱い者いじめしないから許してよぉ!」
びいびいと泣きながら許しを乞うドラっ子を見て、デアボリカがふふんと鼻を鳴らす。
「ふふっ……哀れなものだな。これが王子とは、ドラゴンも内実は大した種族でもなさそうだ。従者も連れずに王族が外出など、文化も底が知れるか」
ふうむ、なるほど。従者ね。
「確かにそうだ、王族は従者を連れているものだからね。よし、わかった」
僕はひとつ頷き、デアボリカに視線を向ける。
【インフルエンサー】-【魔力】。
「へ……?」
途端にデアボリカはバランスを崩して、地面に倒れ込んだ。
いきなり魔力が1になったから仕方ないね。
「ユ、ユウジ……貴様、何を……?」
「僕は以前から思っていたんだけど、デアボリカも大概他人の心がわからないよね。だからこの機会にデアボリカも魔力1で荒野を生き抜いて、弱者の心を知ってみようよ」
ぽかん、とデアボリカが口を開く。
ややあって状況を理解したのか、顔を真っ赤にして怒鳴り始めた。
「ば、馬鹿者! 私を誰だと思っているのだ!? ギルマスだぞ、貴様の上司だぞ! サウザンドリーブズの領主の娘だぞ!? 私に恥をかかせてタダで済むと思っているのか!?」
「うん。だって僕、既にサウザンドリーブズよりもっと怖いドラゴン族の王子に恥をかかせてるんだから今更な話だよね」
「…………」
言葉を失ったデアボリカは、冒険者たちに視線を向ける。
「な、なあ! お前たちもユウジに言ってやれ! こんなバカげた冗談はやめろって! な、私がいないと困るよな!?」
『…………』
冒険者たち全員が、ぷいっとそっぽを向いて視線をそらした。
「え……? 嘘だろ……?」
人望がなさすぎる……。
僕はデアボリカの肩をぽんっと叩き、にこやかに笑ってあげた。
「ほら、みんなも性根を叩き直した方がいいってさ」
「う、嘘だ……嘘だ嘘だ嘘だ! 私はお前たちのためにずっと尽力してきたんだぞ! お前たちが飯を食えるのは誰のおかげだと思ってるんだ、おい!」
「みんなの前で、冒険者ギルドは中央議会に行くための踏み台だって言っちゃったのはお前だぞ?」
僕の言葉にこくりと頷くリーダーさん。
部下の造反に、デアボリカはんぎっと変な声を上げた。
ようやく自分の失言に気づいたのか……。
「ほーら見ろ。そういうところが他人の心がわからないって言うんだよ」
「だ、だとしても! 私はちゃんとみんなを養ってきただろ!? 荒野に追放とかされるほどひどいことしたか!? なあ!?
っていうかユウジ、貴様だって人のこと言えた口か!? お前気持ち悪いぞ、一番人の心わかってないのはお前だ!」
「確かに……その通りだ」
僕は【精神耐性】で共感性を失ってしまっているからね。
人の心が一番わからないのは他ならぬこの僕。デアボリカの指摘は正しい。
デアボリカとドラっ子は、僕の論理の隙を見つけたことにほっと息を吐いた。
「だ、だろう? なら……」
「わかった、確かにデアボリカの言う通りだ。だから僕も荒野に下ろう」
「は?」
「大丈夫、僕は半年間生き延びてきた経験があるからね。初心者のお前たちにもきっといい手本を見せてやれると思う。3人ならどんな苦難でも乗り切れるさ、大船に乗ったつもりで任せてくれ!」
僕の本気を見て取ったのだろう。
デアボリカとドラっ子は顔を見合わせると、ひとつ頷く。
そして次の瞬間、びいいいいいいいいと泣き喚きながら僕に飛びついてきた。
『やだあああああああああああ!! 魔力返して! 返してよおおおおお!!!』
「うおっ、鼻水つけるな! ばっちい!」
この後、ここで手を離したら人生が終わるとばかりにしがみついて全力で泣き落としてくる2人を振り払えず、仕方なく荒野送りは勘弁してやることになったのだった。
雄士はいまだに異世界テンプレチート転生のお約束が通じると思い込んでいます。
魔王とか言い出したのは別に本人的には突飛な話ではなく、主人公として異世界チート転移者がいるんだから、その対となる大ボスもどっかにいるはず……という一種のメタ読み。
貞操逆転世界でそうそうお約束が通じてたまるか。