【書籍版1巻2/20発売】貞操逆転ハードモード異世界を鋼メンタル冒険者が生き抜く   作:風見ひなた(TS団大首領)

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お待たせしました、第二部再開です。
(私が)嬉しいお知らせもあるよ!

そして第二部開始早々1話抜けてたことが明らかになりました(白目)


第33話「ある貴族令嬢の前日譚」

 今でこそチンピラのような言葉遣いで、酒場でモテねえ!とかクダを巻き散らしたり気になる男にオッパイ見せつけてセクハラしてたりするウルスナだが、別に生まれてこの方ずっとそうであったわけではない。

 

 ウルスナも元を辿ればやんごとなき生まれ……すなわち海峡を隔てた隣国であるシャルスメル王国の貴族であったのだ。

 それも辺境伯の子女という相当な高位貴族。姉が数人いたので継承権は低かったが、それはそれは厳しく育てられた。

 

 ウルスナにも金色の髪を腰まで伸ばし、たおやかな容姿を持ちながら武芸と魔術と学問をおさめ、いつも品のいい穏やかな笑顔を浮かべて馬鹿笑いなど決してしない……そんな理想的な淑女であった時期があったのだ。今では想像もつかないことだが。

 

 辺境伯の配下の中には、あまりにも完璧な淑女ぶりを示すウルスナこそが嫡子にふさわしいのでは……そう考えてウルスナに接近しようとする者もいた。

 上に継承権を持つ者が何人いようが関係ない。ナーロッパの血塗られた歴史においては、家督相続で血を流すことなど当然。現在でこそ長子相続制が普及しているが、少し遡れば分割相続が当たり前で、親が死ぬなり子供が骨肉の争いを繰り広げることなどいくらでもあったのだから。

 

 しかしウルスナはどれだけ人にヨイショされても、ご冗談をと控えめに笑うばかりで、決して取り合わなかった。

 

「この身は姉君様をお支えするためだけのもの。いくら切れ味の鋭い剣であっても、担い手がいなければただの金属の塊です。どうかわたくしなどに目を向けるくらいなら、姉君様をお支えしてくださいませ。それがシャルスメル騎士の忠義というものですわ」

 

 お前本当に今のウルスナと同一人物か?

 

 ともあれ、ウルスナはそんな具合にのらりくらりと周囲と渡り合っていた。

 

 ウルスナは聡明だった。自分の器が姉たちよりも秀でていることは承知していたが、決して驕らず、常に長女を立てていた。下手な動きをすれば暗殺されるであろうことを重々承知していたから、生来の快活な性質に蓋をして、常に謙虚に振る舞い続けた。

 

 何より彼女が賢かったのは、辺境伯家の当主という椅子に何の価値も見出していなかったことだ。数万人という人々を統べ、他国と接しているが故に交易による権益も握っている、金と名誉と権力のすべてが詰まったポジション。

 誰もが羨む地位だが、その椅子に座ったが最後、もはやそれまでの自分ではいられなくなる。

 常に辺境伯家にふさわしい言動と判断を求められ、食事も着るものも配偶者もすべて他人が決めたものを強制させられる。貴族家の当主とは「家の奴隷」の最たるものなのだ。

 

 それでもいい、とにかく権力と金が欲しいという者もいるだろう。どっかの悪魔のような女みたいに。

 だがウルスナはそうではなかった。彼女は生来、自由を愛する女だった。

 いつか継承権を放棄して独立し、自由騎士になるなり商売を始めるなりして、自分の決めたように生きていきたい。それがウルスナが心の奥底に秘めた願いだった。

 

 一方で、権力と金に執着する人間を、心の底から侮蔑していた。もちろん自分のしたいことを貫こうとするなら、権力も金も重要だ。それを持たない人間は誰からも軽んじられる。ウルスナだってゆくゆくは権力も金も得るつもりでいる。

 だが、それに執着するあまり他人に媚を売る人間はあまりにも醜い。そのあり方は、権力と金に自分の人格を明け渡したのと何が違うのか。

 

 ウルスナの精神の軸には誇りがあった。

 シャルスメル貴族の多くは彼女が唾棄するような権力と金の奴隷ばかりだったが、皮肉にも厳格に育てられた彼女の精神には、誇りを美徳とする思考が宿っていたのだ。

 貴族としての教養と、騎士修業での薫陶が、ウルスナの魂に高潔な精神という根を下ろしていた。

 

 シャルスメルの貴族たるもの、常に誇りを胸に抱き、権力に(おもね)らず、金銭の誘惑に屈することなかれ。

 シャルスメルの騎士たるもの、紳士に敬意を払い、弱き者の盾となるべし。

 その“誇り”こそがウルスナが教育の中で刷り込まれた最も理想とするべき姿であり、彼女はその理想像に少しでも近づけるように日々努力を重ねてきた。

 

 そしてその精神性が、逆にウルスナを自由から遠ざけてもいた。

 

 いつか独立して自由になりたい。

 しかし自分をここまで育ててくれたのは、辺境伯家の資産と両親の教育だ。育ててもらうだけもらっておいて、それを無碍(むげ)にして自分の好きなようにふるまうなど、誇りある人間のすることだろうか。

 ウルスナは自由にはなりたかったが、決して恥知らずにはなりたくはなかった。どんな形であれ、これが自分だと誇れるような人間でありたい。

 生み育ててくれた家への恩義と自由への憧れの板挟みで、ウルスナは悩み続けた。

 

 こうして日夜厳しい鍛錬と勉学に励み、口ではいずれ姉を支えて家のために身を捧げると(うそぶ)きつつ、いつか独立して自由になる日を夢見ていた貴族令嬢ウルスナ。

 その器量を日々着実に伸ばし続けていた彼女だが、ひとつ解せないことがあった。

 

 それは両親の態度だ。

 本来継承権が低い子女など、あくまでも嫡子のスペアでしかない。それはどんな高位の貴族でも同じことだ。部屋住みとして育てておき、いずれは家から独立させて騎士とするなり、商売をすることを認めるなりして独立させる。

 だから普通は末の方の娘など、大体が放任主義で育てられる。教育は非常に金がかかるものだ。いずれ家から出ていく者にコストをかけるのは無駄なのだ。

 

 だが、ウルスナはやたらと厳しく育てられた。上の姉と比べれば明らかに厳格で高度な教育を受けている。

 姉たちは「ウルスナだけお母さまに厳しくされてかわいそー。あたしたちは今日も楽しく男の子とお茶会(デート)だけどねー」などとニヤニヤ笑っていたが、教育をうけることにどれだけ金がかかるものか知っているウルスナはただ微笑んで受け流していた。

 内心によぎる疑問。何故自分だけがこのように厳しく育てられるのか?

 横紙破りをして自分に相続させるかとも思ったが、長女への接し方からそういうわけでもないように思える。

 

 そして母親から二言目には言われる「勉学に励んだら、褒美としてお前にはいずれよい婿をあてがってやる。お前の役目は血を継ぐことだ」という言葉。

 腹を痛めて産んだ我が子に向けるにしては愛情の欠片も見えない視線とともに、母親は常にそうした“褒美”をちらつかせた。

 ……どうして自分の血を残す必要がある? 長女の血さえ残ればそれでいいはずだ。

 「光栄です、一層努力いたします」と口では応えたものの、疑問を抱くと同時に、何やら自分が子供を産む装置としてしか親に認識されていないようで、気持ち悪さを抱かざるをえなかった。

 

 その言葉の意味がわかったのは、かつて密偵をしていた執事にねだって潜伏術を教わってから間もない日のことだった。自主鍛錬として屋敷の隠し通路を移動していたウルスナは、両親の密談を聞いてしまった。

 

 自分は彼女たちの実の子ではなかった。

 表立っては伏せられているが自分は養子であり、元は別の家の子女であったらしい。そしてその家の血を継ぐために、適切な男を探してあてがおうとされている。

 

 騙されていた。

 そう悟った瞬間、ウルスナの中で家への忠義はチャラになった。

 その日のうちにウルスナは荷物をまとめ、出奔した。

 

 おそらくウルスナの家出に気付いた実家からは追手が出されただろうが、ウルスナが捕まることはなかった。

 王都へ向かうと見せかけてフェイントを入れたのが良かったのかもしれない。家出をした若者の行先など、当然言葉が通じるシャルスメル国内か同じ言語圏の隣国に違いないと思ったはずだ。

 まさか言語も違えば歴史的にも不倶戴天の天敵である、大ブリシャブ帝国へ海を越えて向かうなどとは思わなかっただろう。密かにブリシャブ語を学んでいたのが役立った。

 

 大ブリシャブ帝国に入ったウルスナは念のためにさらに港から離れて旅をして、接触した闇ギルドの運び屋の案内でサウザンドリーブズという片田舎の城塞都市に潜り込んだ。

 このあたりで路銀が尽きた彼女は当面の仕事を探す必要があったが、ここで運よく冒険者ギルドがギルド員を募集していた。騒動を起こして都市を困らせている荒くれ者たちに仕事を与えようという試みであったため、荒くれ者の統率という一面もあって身分を詳しく問われることもなかった。

 ウルスナは騎士顔負けの剣術を修めているし、貴族令嬢の嗜みとして魔術も学んでいる。実のところ魔術師が一番適性があるくらいなのだが、身バレを防ぐために格闘に長けたスカウトという設定で申請した。格闘技と潜伏術も学んでいてよかった。

 

 こうして誰も自分を知らない土地で、冒険者となったウルスナはついに念願の自由を手に入れることに成功した。

 

 だが……奴はハジけた。

 

 それまでの抑圧された厳格な教育の反動か、酒をかっくらってゲラゲラ笑う下品なセクハラチンピラになってしまったのである。

 元々は身バレを防ぐために貴族とは程遠い人格を演じようという思惑だったのだが、チンピラムーブはあまりにも彼女の素の性格に合ってしまったのだ。

 気が付けばたった1年で、身も心も立派なチンピラに成り果てていたのだった。

 

 その1年でウルスナは冒険者としてメキメキと頭角を現し、中堅層に入るくらいになった。上位陣は元々他の都市の冒険者ギルドでの経験がある連中ばかりなので、ルーキーとしては最上の成果と言ってもいい。

 ギルド長のデアボリカの方針で冒険者への金払いはよかったため、娼館にも気軽に行けるくらいの貯金もできた。トップクラスの高級店は難しいだろうが、性病を持っていない気の利いた男くらいならいつでも抱ける。

 

 しかしウルスナは男を買うことはなかった。遊び人のチャラ女を気取って男を侍らせて酒を飲んだりはするが、いざセックスという段になると金を払って帰ってしまう。とんだヘタレ女だが、娼夫たちからはクールでカッコいいと評判だった。そいつ処女(童貞)だよ。

 

 その心の根底に燻るのは、母親からの「お前の役目は血を継ぐことだ」という言葉。

 

(わたくしは……俺は、子供を産む道具なんかじゃねえ。俺の身は俺だけのものだ。

 子を産むにしても、相手は本当に好きな男がいい。こいつの子なら産んでもいいってくらい惚れこんだ男との子だけが欲しい。

 まあ、そんな男なんか生涯出てこないかもしれねえがな……それはそれでいいさ)

 

 かわいそうに、それ生涯喪女決定の思考回路だぞ。

 

 

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 さて、そんな見た目チャラ女のはっちゃけ喪女街道を突き進んでいたウルスナだが、ある日の酒場で、彼女は“運命”に出会った。

 言わずもがな、現代日本からの転移者・男島雄士である。

 

 とはいえ、ウルスナが出会ってすぐに一目惚れしたわけでもない。

 確かに腹筋バッキバキの細マッチョで黒髪異国人というセックスアピールの権化のようなとんでもなくエロい体をした男ではあったが、ウルスナとて娼館で酒飲んで遊び回ってるのでエロい男はそれなりに見慣れている。それではウルスナの琴線には引っかからない。

 デパ地下で試食だけして世界の美食を味わいつくしたとグルメ気取ってるようなイキリ方だが、それはそれとして。

 ウルスナは彼をただのエロいだけの男とみなして、興味を向けないまま酒場を去ろうとした。そのときだ。

 

 酒場でウサギ肉の煮込みを注文した雄士は、やがて運ばれてきた皿を見て困ったような顔をした。そしてこう言ったのだ。

 

「あの……スプーンとフォークをもらえませんか?」

 

 酒場は一瞬で女たちのゲラゲラとした馬鹿笑いに包まれた。

 

「おいおい、どこのお貴族様だぁ? こんな酒場にそんな上等なもんはねえよ。手づかみでむしゃぶりつくか、パンを浸して食うんだよ!」

 

「ったく、どこから流れてきたんだ? そんなの常識だろうが、常識! ギャハハハハ、お坊ちゃんはとっとと家に帰りな! なんなら連れてってやろうか? 俺の家のベッドにだけどなぁ! ゲヘヘヘヘ!」

 

 なお、これを発言したのは山賊みたいな毛むくじゃらのオッサンではなく、賢そうな眼鏡のインテリ魔術師とむっちりとした太ももを持つ清楚そうな美少女剣士である。

 本人たちとしては親切に忠告してあげたつもりであった。かわいそうに、喪女歴=人生なので男とのマトモな会話ができない美少女たちである。

 

 恥ずかしそうに顔を伏せ、ちぎったパンで肉を掬う雄士を見て、ガラの悪い女冒険者たちはさらにゲラゲラと笑った。

 バカにしているのではない。男が恥じらう仕草を生まれて初めて目の当たりにして、その胸のときめきをどう発信していいかわからないので、混乱した結果とりあえず笑いとして発信されたのだ。内心ではこの可愛い生き物ブチ犯してえ……と思っている。

 

 ウルスナは……笑わなかった。

 スープ皿を見て、カトラリーを要求する。それは彼がそうした文化を持つ社会の出身であるということを示している。それも気取った様子ではなく、ごく当たり前のような要求の仕方だった。

 スプーンとフォークを使って食事をするというのは、このナーロッパでは貴族だけの作法なのだ。庶民は手づかみで食事をするのが当然。そこらへんのインテリそうな見た目の魔術師も、平然とスープ皿に手を突っ込んで肉をくちゃくちゃと咀嚼している。そう、クチャラーで当たり前なのだ。みんなそうだから、誰も気にしない。

 

 しかしこの東洋人は、黙って口を閉じながらもぐもぐと肉を噛んでいる。マナーが自然なものとして身についている。それは確かに正しい貴族教育を受けたウルスナからすると稚拙なテーブルマナーではあったが、庶民が自然にする仕草ではなかった。

 ……この東洋人は、どこから来たのか? 何故ナーロッパのテーブルマナーを身に着けているのか?

 

「おもしれー男……!」

 

 チロリと唇を舐めながら、ウルスナは呟いていた。

 それ以来、彼にあれこれとちょっかいを出す日々が始まった。

 

 とはいえ、それでもあくまでもからかう程度のものだ。

 生乳を見せて童貞をからかってやろうという、逆転するとチンポを同級生の女の子に見せつける頭悪い男子中学生のようなムーブに収まっていた。

 

 それが変わったのは、彼と飲み比べをした日のこと。

 その日、ウルスナは雄士が冒険者を辞めると聞いて悄然としていた。

 ついに来るべき日が来た。あんな最底辺の暮らし、いつまでも続けたいと思う人間などいるわけがない。雄士は別の女のものになり、これからは家に閉じ込められ、ウルスナが気軽に会話できる相手ではなくなる。

 

 その事実を噛みしめながらヤケ酒を飲んでいたウルスナの胸によぎったのは後悔だった。こんなことなら無理やりにでも自分のものにしておけばよかった。ギルドからの制裁を恐れて手を付けずにいたが、元々自分はよそ者だ。この地で得た名声はあるが、雄士が手に入るなら投げ捨てたっていい。無理やりさらって逃避行したってよかったのだ。

 自分はバカだ。失ってからそれに気づくなんて……。

 どこぞの逆転ショタと違って、BSSの趣味がないウルスナはただ落胆するばかりだった。

 

 そんなとき、いつもと変わらない調子で雄士が現れる。

 その顔を見たウルスナは、キュッと下腹が疼いた。

 こいつの子を産みたい。絶対に自分のものにしたい。脳内をあっという間に支配したその衝動的な渇望を必死に我慢して、ウルスナは平常通りにふるまった。

 

 幸い、雄士が冒険者を辞めるというのは誤報だった。それでウルスナはどれだけホッとしたことか。そして、自分の中にあった恋心を自覚して、どれほどムラついたことか。

 ウルスナは密偵の仕事のために調達していた睡眠薬を盛ってまで雄士を手に入れようとしたが、何故だか雄士には一切効かなかった。

 

 次の日、雄士が実は癒しの力を持つ聖者だったことが発覚したが、ウルスナは当然のことのように受け入れていた。

 自分をここまで狂わせる男なのだ、ただの男であるわけがない。

 睡眠薬が効かなかったのも、聖者ならさもありなん。

 

「……本当に面白い殿方ですこと」




本作の書籍化が決定しました! いやっほう、夢みたいだ!
出版社さん、イラストレーターさんは今後お知らせします。

加筆マシマシでヒロインの話やエロ展開ももっと増える(予定)なので、
無事に発売までこぎつけたらぜひお手に取っていただければ嬉しいです。

それではWEB連載第二部もお楽しみください。
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