【書籍版1巻2/20発売】貞操逆転ハードモード異世界を鋼メンタル冒険者が生き抜く   作:風見ひなた(TS団大首領)

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すみません……昨日1話抜かして投稿してたので、昨日中に読んでくださった方は33話にも目を通してから読んでいただければ。


第35話「ロングフィールド領・ヒロインサイド(後)」

 さて。アイリーンとウルスナがお互い雄士を本気で狙っていることを確認して、それからどうなったか。

 

 モロに思惑がかちあった2人は、雄士を巡って殴り合いのケンカを繰り広げた。

 伯爵家の庭で私闘とか命がいらないのか? という愚行だが、この機にどうあっても決着をつけておかないとこの先不安で夜も眠れない。

 

 実際に拳を交わして分かったのは、お互いのケンカの腕前は完全に伯仲しているということだった。格闘が得意という触れ込みで冒険者になったウルスナも舌を巻くくらい、スラムで揉まれたアイリーンのケンカ殺法は研ぎ澄まされたものだったのだ。

 ウルスナも騎士修業の一環として格闘術を修めてはいたが、それに匹敵する強さとは。今はただのルーキーに過ぎないが、年齢を考えればいずれこのガキは冒険者として凄まじい伸びしろを見せるのではなかろうか? それこそ、自分をも凌駕するほどの。

 

 ウルスナの中で、さらにアイリーンへの警戒度が上がった。悲しいかな、アイリーンは恋敵という大前提があるため、彼女への評価が上がることはそのまま警戒度が上がることにつながるのだ。

 

 決着がつかず睨み合っているところをデアボリカに引き離された2人は、そこにやってきたローズ伯爵にみすみす目の前で雄士を連れていかれるという苦汁を飲むことになった。

 そこで何やら悪い顔をしたデアボリカが、「よし、お前たち。これから伯爵様がユウジを襲うはずだ。そんなの許せないよな? だから私についてこい、邪魔をしてユウジの貞潔を守ろう」と言い出したのだ。

 

 明らかに伯爵の弱みを握って脅迫しようというゲスい魂胆が見え見えの話だったが、ウルスナはそれに乗った。たとえ悪事に加担したとしても、雄士の初めてをもらうのは自分じゃないと許せない。もちろん生涯雄士を抱く女は自分だけだけど!

 あ、それはそれとして、デアボリカのことは今後養豚場の豚と思って見ることにしますね。

 

 

 

 そして……何がどうしてそうなったのか今でもわからないのだが、なぜか2人で雄士を挟んで同じベッドで寝ることになった。

 これもうお誘いだよな? 2人で一晩中聖者の体を貪り尽くしていいってことだよな? 身を清めたウルスナはごくりと唾を飲み込み、そわそわするアイリーンと視線を交わしながら、雄士の後ろについてベッドに入った。

 

 そして雄士がぐっすりと眠りについた。

 どういうことですの!?

 女2人をベッドに誘って、5分で熟睡する殿方とかいます!? 何を考えていらっしゃるのか、まるでわかりませんわよ!?

 混乱のあまり、思わず令嬢モードに戻りながらウルスナは心の中で絶叫した。

 

 まさか本当に一緒に寝るだけ? 嘘でしょう、こんな無防備な殿方っています?

 手を出したい、なんとしても出したいですが……! でもここで手を出したら、ユージーンの無垢な信頼を裏切ることになるのでは……!? 

 それは絶対にできません。

 ユージーンの精神性を貴いものと感じているわたくしがここで手を出すことは、シャルスメル貴族の理想を目指したかつての自分に泥を塗るのと同じ。血を吐くくらい辛いし過去最高にムラムラしてもいますが、手を出すわけには……!

 はっ! アイリーンは!? あのシコ猿ジャリからユージーンを守らなくては!

 

「ね、ねえ、ウルスナ」

 

「……なんだ」

 

 ウルスナが身を起こそうとした矢先、アイリーンが声をかけてくる。

 シーツの上からでも、その下半身がもじもじとすり合わされ、欲情を我慢していることが見て取れた。わかる。自分もそうだから。

 

「……眠れそう?」

 

「眠れるわけねえだろ、こんな生殺し……」

 

「だ、だよね……」

 

 アイリーンがごくりと唾を飲み込むのが聞こえる。

 

「男の子ってさ、なんでこんな体ゴツゴツなんだろうね。すごくたくましくて、頼もしい感じで。触ってると胸がどきどきして、お腹もなんだか熱くなってきちゃう……」

 

「……血迷うなよ、ぶっ飛ばすぞ」

 

 そうアイリーンに警告しながら、ウルスナは心の中で涙した。

 ウルスナ自身もそっくりそのまま同じことを思っている。

 こんな頼りがいがあって、引き締まった腕でぎゅっと抱きしめられたらどんな気持ちなんでしょうか。そのうえ「愛してるぞ、ウルスナ。俺の子を孕め」なんて耳元で低い声で囁かれたら……! ああ、もう……♥

 そんな最高のシチュエーションの夜なのに、なんでこの人寝てるんですの!?

 

「し、しない。アンタこそあたしが寝たからって抜け駆けしないでよ」

 

「しねえよ、俺はお前みたいなネンネと違って自信があるからな」

 

 そう言ってあたかも男に慣れてるような余裕の笑みを浮かべてみせるウルスナ。

 しかし処女である! 娼夫に酌をさせて酒を飲んだことはあるが、男のモノを咥え込んだことは生まれてこの方一度もない! 正真正銘の未使用、口だけ番長であった!

 

 間の悪い沈黙が闇の中に満ちる。

 やがてアイリーンが口を開いた。

 

「オナるのはセーフ?」

 

「……情けだ、見逃す」

 

 敵ながらナイス!と拍手したい気分だった。

 アイリーンがシコるなら、自分もシコって問題ないですよね。

 ウルスナがそう思った矢先、アイリーンが続けた。

 

「じゃあ、あの……ユージィの指を借りるのは?」

 

 天才だったか……!

 ウルスナは驚愕した。

 アイリーンを見誤っていた。まさかこれほどのひらめきができるとは……!

 

「……俺もやるわ」

 

 

 

 でもって、2人は雄士の手を借りていたし始めた。

 R-15なので詳しくは描写できないのだが、それはもうすっごい興奮した。雄士の指があっという間にべっとべとになるくらい濡れた。

 

「はぁ、はぁ……。ユージィ、ユージィ……♥ 好きぃ、大好きぃ♥」

 

 闇の中でも見えるくらいにアイリーンの吐息が熱く茹だっている。

 きっと自分も同じだろう。

 

(ユージーン、お慕いしています……。いつか、いつか私に抱かれてください。だから今は代わりにこの指で……)

 

 最後のプライドとして言葉は断固として口に出さず、ウルスナはギシギシとベッドを軋ませながらユージィの指を咥え込もうとした。

 そのときである。

 

「ユージィ……好き。ちゅっ♥」

 

 高ぶったアイリーンが体を伸ばし、雄士の頬にキスしたのである。

 さらに一回だけでは物足りなかったのか、二度三度と何度もキスの雨を降らせている。

 

 そういうのもあるのか!

 ウルスナは衝撃に打ちのめされた。

 性知識はおぼこ極まりないウルスナにとって、アイリーンの行為は革新的に映ったのである。

 アイリーン、恐ろしい子! わたくしが予想もつかないエロ行為を……!

 わたくしもやります!

 

「ユージーン……ちゅっ♥」

 

「ユージィ、好きぃ。大好きぃ♥」

 

 ちゅっちゅっちゅっ。

 闇に包まれた客室に、濡れた水音が響き渡る。それは唇から漏れ出た唾液が奏でる音なのか、キスをしながらもひっきりなしに雄士の指を押し付けている股間から奏でる音なのか。

 

 そのときであった。

 

「グルルルル……!」

 

「……は?」

 

 唐突な気配にウルスナが振り返ると、そこには狼に似た巨大な獣が座り込んでいた。

 その大きさは天井すれすれまでに達しており、立ち上がればそれ以上にもなるだろう。獣の体毛はキラキラと白く輝いており、ところどころが電流が走っているかのようにスパークを起こしている。

 獣の背後には白く輝く扉があり、その先は眩しくてどこに通じているのかわからない。

 ただ言えることは、この突然出現した獣は自分たちに敵意を隠さず威嚇してきているということ。そして自分たちが持つ魔力とは全く性質を(こと)にする、強大な力を秘めているだろうということだった。

 

「な、なんだこいつは!?」

 

 思わずベッドの上に立ち上がったウルスナは、反射的に身構える。

 

「ダメだよウルスナ、刺激しないで!」

 

「何言ってんだ、敵襲だぞ!」

 

 同じく身を起こしているアイリーンの囁き声に怒鳴り返すウルスナだが、アイリーンは唇に指をあててシッと音を立てる。

 

「師匠に聞いたことがあるんだ。きっとこれは聖獣……。この世界の外、天上の国に住んでいるという神様の使いだ。伝説の中に登場する神聖な獣だよ」

 

「聖獣だって……? なんでそんなもんがここに現れる?」

 

「ユージィが聖者だからだよ。ユージィが穢されそうになっていると思って、護りに来たんだ」

 

「そんな俺たちが汚い存在みたいに……」

 

 いや、男の寝込みを襲ってる女はどう考えても卑劣で汚いわ。

 自分の行動を顧みたウルスナは、羞恥のあまり頬を赤らめてうつむいた。

 

「刺激しないで……。ゆっくりと距離をとって、敵意がないと示して」

 

「だけど、ユージーンが……」

 

「大丈夫。この子は絶対にユージィに危害を加えない。それに……わかるでしょ」

 

 アイリーンはじりじりと後ろに下がりながら、喉をごくりと鳴らした。

 

「この子がその気になったら、あたしたちじゃ絶対に勝てない……」

 

「…………」

 

 アイリーンの言うとおりだ。

 ウルスナは無言で小さく頷くと、部屋の隅に向けてゆっくりと後退した。

 

 彼我の力量差は圧倒的だ。冒険者になる以前から騎士修業としていろいろな強敵と戦ってきたが、これほどの力を持つモンスターは、いまだかつて遭遇したことがない。

 いや、モンスターと呼ぶのも憚られる。視界に入れるだけですら恐ろしく、自分たちとは根本的に相性が悪い力が満ち満ちている。それは神気としか言いようのない、神聖で恐ろしい力の塊だった。

 聖獣……いや、神獣。神の力を宿す獣。

 

 やがて2人が充分に下がったとき、獣はずいと前に進み出た。

 ぐぱりと大きな顎を開き、舌先を雄士に向ける。

 

 ウルスナが思わず飛びかかろうとするのを、アイリーンがその手をつかんで止める。

 

「大丈夫」

 

 獣は大きな舌でべろりと雄士の顔を舐める。

 ……小さな弟を慈しむような優しい色の瞳だと、ウルスナは思った。

 

 そして獣は踵を返すと、輝く扉に向けて歩み出す。

 扉を潜る寸前で、ちらりとこちらに向けた一瞥は「悪ふざけも大概にしておけよ、雌ども」と言っているような気がした。

 

 獣が消えた後、ウルスナとアイリーンは部屋の隅にへたり込んでいた。

 心底恐ろしいものに出会った。

 びりびりとした重圧の名残が、まだ残っているような気がする。

 あれがその気になれば、自分たちは一瞬で蒸発させられてしまっただろう。

 

 ウルスナはアイリーンと視線を交わすと、小さく呟いた。

 

「……寝るか。今度は何もせずにな」

 

「そうだね……次は警告で済まないだろうし」

 

 同じベッドで寝る分には、あの獣は目をつぶるだろう。

 雄士がそう望んだことだからだ。

 雄士の寝込みを襲って不随意の性交渉を迫るならば容赦はしないが、雄士が望むことならば黙認される。何故だかそういう確信があった。

 あの獣は、言葉を発さずに人間の魂に語り掛ける……そういう力があるのかもしれない。

 

 よくよく考えたら、おかしいのだ。

 弱っちい冒険者の雄士が、安宿暮らしで半年もの間、誰にも襲われてこなかった。

 確かに冒険者ギルドが手を出さないようにと睨みを利かせていたが、それでも不心得者はいるはずである。元は荒くれ者の彼女たちが、ギルドを無視して襲い掛かっても何も不思議はない。

 なのに雄士はまったく無事のまま、のほほんと不用心に過ごしている。

 ……あの獣の加護が、雄士に劣情を抱いた不心得者たちの魂に何らかの働きかけをしていたのではないだろうか。

 それほどの力を持つ存在は、やはり神に近い存在ということになるが。

 

 ウルスナは小さなため息を吐いた。

 まったく、大したボディガードが潜んでいたものだ。

 

 ……伯爵家に寝泊まりする一週間は、生殺しで過ごすことになりそうだ。

 さすがにあの獣に立ち向かう気にはなれない。

 あまりにも絶大な力を持ち、さらに自分たちとは致命的に相性が悪い感じがあった。そして何より、あの獣は雄士にとって大切な存在という気がする。それこそ家族のように。

 

 ……もっとも、これで諦めるつもりはない。

 こんなことくらいで諦めるほど、雄士への執着心は小さなものではないのだ。

 要は雄士が起きているときに、雄士の意思で迫られればあの獣も口を出せないはず。

 サウザンドリーブズに帰ったら、絶対に雄士をモノにする……!!

 

 ウルスナが心の中で決意を固めている横で、アイリーンもまたぎゅっと拳を握っていた。

 ふと2人の視線が交差し、ふっふっふと小さく笑い合う。

 

「ユージィの赤ちゃんはあたしが産む」

 

「ぬかせ。ユージーンは絶対に俺を選ぶぞ」

 

 

 これほどまでに思考回路が同じなのに、シコ猿たちは分かり合えない。

 似た者同士だからこそ選ぶ男の好みも同じで、そこに譲り合いの余地はない。

 しかしこの夜以降、アホなことを一緒にやったという連帯感で和解の余地が生まれたのも確かだった。

 

 そう、シコ猿は、シコ猿を知る……!

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