【書籍版1巻2/20発売】貞操逆転ハードモード異世界を鋼メンタル冒険者が生き抜く 作:風見ひなた(TS団大首領)
帰って来たぞ、懐かしきサウザンドリーブズ!
いや、たった10日弱しか留守にしていなかったんだけどね。なんだか結構な期間離れていたような気がするよ。自分でも気づかないうちに、この街に愛着を抱いていたということかな。それだけ大冒険だったというだけかもしれないけど。
さて、冒険者ギルドに戻った僕はウェズ君から念願のブツをいただいた。
「はい、これが君の市民登録証とアパルトメントのカギですよ」
「おお……! サンキュー、ウェズ君!」
「どういたしまして。今日はもう疲れているでしょう、ゆっくり休んでください。また後日、冒険の土産話を聞かせてくださいね」
そう言って、彼はニコリと微笑む。いつも本当にすまないね。
ウェズ君には僕に代わって市民登録とアパルトメントの契約の手続きをお願いしていた。本当の市民登録にはしばらくかかるという話で、それが済むまではアパルトメントにも入居できない状態だったので、旅立つ前の準備期間は例の宿屋の覗き部屋で過ごしていたのだ。
今日初めてそのアパルトメントに向かうわけで、実のところ僕にとっての初入居日ということになる。一応内見だけはしてるんだけどね。
「それと、ギルドマスターから今回の報酬の支払いを指示されています。報酬額は金貨60枚、そこから20%を引いた48枚が貴方の取り分になります……お確かめください」
「うおっ……」
カウンターの下から出てきた傷一つない新品の皮袋の重みに、僕は息を呑んだ。
慎重に皮袋の中身をカウンターに取り出し、10枚1組にして重ねていく。うん、間違いない。48枚きちんとある。
デアボリカはドラゴンの一件で最後までぐちぐちと言っていたが、当初の約束通りの報酬を支払ってくれていた。あいつ人格面には問題があるけど、金勘定は本当にしっかりしてるんだな。
これがどれくらいの価値なのかだが、20歳の市民が1か月毎日働いて得られる月収が大体金貨1枚らしい。つまり金貨1枚は日本円にして15万円~20万円くらい。
そしてこの街の医師が1回の診察で請求する金額が金貨3枚……キリのいい数字で50万円ということになる。
正直目玉が飛び出る金額だよね。なんかの間違いじゃないのかと思ったんだけど、どうやらこの世界では医学というのは相当なエリートじゃないと学べないらしく、きちんと教育を受けた医者はこのくらいの治療費をもらって当たり前なのだそうだ。
現代知識を持ってる僕からするとヤブもいいとこなんだけどな。
デアボリカは約束通りこの街の医者の相場と同額の報酬にしてくれたので、20人分で60枚……約1000万円ということになる。そこからギルドの徴収分20%を引いた約800万円が今回の僕の手取りだ。
うふっ。
……ああ、いかんいかん、思わず頬が緩んでしまう。僕ってそこまで金銭欲や物欲はないタイプだと思ってたんだけどね。やっぱり自分の仕事が評価されて大金もらったとなると、嬉しくなっちゃう。
でもずっと清貧で通してた僕がいきなりお金持ったら、みんなから成金だと思われて反感買っちゃうかもしれないし、そ知らぬ顔をしなきゃ。
共感性が死んでる僕一人だと絶対に嬉しさを顔に出しちゃってただろうけど、ウルスナがあんまり態度にするなよって釘を刺してくれたのだ。すごくありがたい。
しかし、ふふふ……。
1週間ちょっと働いただけで800万円かぁ。あまりにもボロいぜ。
……いや、伯爵様に夜這いかけられたり、書類仕事したり、ドラゴンに遭遇して生命の危機に陥ったことを考えたらそこまでボロくはないのか? まあそれはともかく。
今回と同じ治療を月1でやったとしたら、僕の年収は手取りで約1億円にもなる。いや、なるほどね。これは僕が無差別に治療したことでこの街の医者が激怒するはずだわ。ここまでの額ならビッグビジネスだもんね。
そして伯爵家に雇われてた医者って、伯爵様と家族20人分の1000万円を受け取っておきながらまったく成果を出してなかったのか。
いや、伯爵家ならここの医者よりもっと高額の医療費を請求されていたかもしれない。それも複数回に渡って治療してただろうし。そんだけ巨額の金をもらっておいて何の成果も出せず、しまいには病気にかかったのは伯爵様が好色の罪を抱えていたせいだ、氷水を被って神に許しを乞えと口走る……悪いけど、こりゃ殺されても仕方ないかもね。
ちなみにデアボリカがドラっ子に請求した馬車の金額は金貨180枚。日本円にして約3000万円だ。
ボリすぎだろと思ったけど、本当にそれが相場らしい。職人による完全オーダーメイドだとそのくらいするんだってさ。あの馬車、とんでもない高級車だったんだな……。現代日本で言えば装甲車を兼ねた高級リムジンみたいなものかな?
ドラっ子が仰天したのも無理はない。あいつの親、本当に払えるのかね……。
「さて、この金貨ですが……お持ちになりますか? まったくお勧めはしませんけど。ユウジさんがよろしければ、いつも通りギルドでお預かりしますよ」
「もちろん、よろしくお願いします!」
一も二もなくウェズ君の言葉に甘えることにした。こんな大金、安アパートに置いとけるわけないだろ! これまで通りギルドに預ける一択だよ。
そもそも年収1億(予定)もあれば、アパルトメントとかじゃなくて自分の屋敷だって買えちゃうだろうし、そこはウェズ君から打診もされたんだけどね。
どうもこの国って、ある程度の収入がある世帯は
見栄を張りたいばかりによその家庭でメイドとして働いて、そのお給料でメイドを雇う人までいるんだって。もう意味わかんないけど、この国の人ってそれくらい見栄や名誉を大事にしてるんだろうね。
ちなみにメイドさんは男女どっちもいるらしいけど、男性は超高級職なんだって。そもそも男女比率が女性に圧倒的に偏ってるからね。使用人に男性を複数抱えてた伯爵様って本当にお金持ちだったんだなあ。
それはさておき自分の話だけども、僕はこれからデアボリカに連れられて旅暮らしをするわけで、結構留守がちになるだろう。
するとその期間メイドさんはやることないわけで、暇させるのも申し訳ない。そもそもあんまりいない家にお金をかけるのは無駄じゃないかと思う。
そんなわけで、どうせ一人暮らしだしアパルトメントで充分だろうとなったわけだ。
アパルトメントへの移動は、アミィさんの忠告に従って護衛を雇うことにした。正直オーバーだと思うけど、なんかみんなが口を揃えてそうしろって勧めてきたからね。
フード付きのローブを被って歩けとまで言われたけど、まるで犯罪者みたいだよこれ……。
ちょうどアイリーンが近くに住んでいるらしいので、案内されがてら彼女と一緒に街を歩いた。
これまで寝泊まりしていた宿屋は商店街のはずれにあったが、アパルトメントは住宅街にあるため、街の雰囲気も随分違う。夕暮れ時ということもあって仕事から帰宅した母親を夫と子供が迎える声も遠くから聞こえてはくるが、基本的には閑静な雰囲気だ。
「結構静かなんだな」
「そうだね、アパルトメントがある区画は単身者ばかりだから。所帯を持ってる人たちの家は、別の通りにあるんだよ」
「へえー」
「あ、晩御飯と飲み物は途中で買っておいた方がいいよ。当たり前だけどアパルトメントにはキッチンなんてないし、食べに行くにもお店はちょっと遠いんだ。この近くに持ち帰り用の軽食を売ってる屋台があるから、そこがお勧めだよ」
「なるほど、サンドイッチでも買っていくか」
この国って、食文化がかなり貧弱だな。所帯を持ってる家庭や村落ではもちろん自炊をするんだけど、都市のアパルトメントに住む独身者は一切料理をしないらしい。
これじゃ料理文化が失伝してメシマズ国になっちゃいそうだけど、大丈夫なのか?
それにしても、僕とアイリーンも随分と打ち解けてきたもんだ。こうして和やかに雑談しながら歩くなんて、こいつと顔を合わせるたびに嫌味を言われてた頃からすると考えられないな。
それがほんの一か月前なのだから、随分と急に関係性が変わったもんだ。
正直言うと、僕は今の関係になれてうれしい。
険悪な関係だった頃からこいつ顔だけはいいなと思ってたけど、仲良くなるとこの世界の女にしては珍しいくらい純真だし、目まぐるしく変わる表情はずっと見ていたくなるほど愛らしい。
あと、口では否定してるけど、僕のことが好きだってびんびんに感じる。いくら共感性が死んでようと、毎晩同じベッドで寝るとかしてくれたら、さすがに伝わるよ。
僕、自分には女性の好みのタイプとかないと思ってたけど、それは間違いだった。
僕が好きなのは、『僕のことを好きになってくれる女の子』だ。そりゃそうだろって話なんだろうけど、好意を向けてくれる女の子を可愛く思わないわけないよ。
それでその子に興味を抱いて観察するようになって、その子のいいところに気づいてますます好きになっていく。僕は今のアイリーンを、一か月前の2倍も可愛いと感じている。
ふと、通りを吹き抜ける秋風がふわりとアイリーンの体臭を鼻に届けてきた。
そう。何より……この子は匂いがいいんだよ。なんというか、独特の香りで……なんだか胸が締め付けられるというか、すごく懐かしい香りがする。前にどこで嗅いだかわからないんだけど……この子の香りに包まれていると、とても心が安らぐんだ。
「ユージィは一人暮らしは初めてだよね」
「これまで宿暮らしだったけど、きちんとした場所に住むのは初めてだね」
「じゃあ、一人暮らしで何かしてみたいことってある?」
「ある」
「へえー。何をしたいの?」
「それは内緒」
アイリーンの質問に、僕はあいまいな応えを返した。
僕が一人暮らしでしたいこと……それは僕が今まさに一番したいことでもある。
ヌキてえ~~~~っ!! 今すぐ思いっきりブッコキてえ~~~~っ!!
……冗談でもボケでもなく。
今僕は切実に、金玉に溜まりに溜まったものを抜きたくて仕方がない。
そもそも僕は聖人君子でも何でもない、ただの20歳の男子大学生なんだよ。日本にいた頃は毎日3回か4回は抜いていたくらい、男性機能も健全だ。
それがこっちに来てから、毎日半裸でドブさらいする姿を女性にガン見され、ギルドに戻ればセクハラされ、夜は夜で女に着替えを覗かれる日々。
それでも覗き穴を隠せば自家発電くらいはできたけど、この1週間というものは毎晩アイリーンとウルスナというとびっきりの美少女に挟まれて、柔らかな感触と心地よい体温と甘い体臭に包まれながら眠っていた。
これにムラつかなければ男としてどうかしているだろ。
なのに日中は日中でブートキャンプに書類作りにと、隠れて抜く暇もない。
ちなみに伯爵家には個室のトイレがなく、排泄物は全部部屋のおまるにためて、メイドさんが回収する形だった。とにかく一人になれる時間なんてマジで一切なかったよ。プライベートの時間って、実は贅沢品だったんだね。
そういうわけで、今の僕は性欲が本当に限界でヤバい。金玉がギンギンに膨らんで今にも爆発しそうだ。
【精神耐性】のおかげかアイリーンと爽やかな顔で会話できてるけど、下半身は完全に別のこと考えてますよ。とっとと10日間たまりにたまったものを放出しないとどうなるかわからん。
「えー、ケチんぼー」
これこれアイリーンさんや。ぷうと小さく頬を膨らませて、可愛らしく僕の胸をつついてくるんじゃありませんよ。
食うぞお前。
あまりに欲情がたまりすぎて、アイリーンがいつもの2倍ほど可愛く見えている。一か月前と比べて2倍可愛く見えているから、2×2=100倍だよ100倍。
くそっ、頭が本格的にどうにかなってる。助けてくれ。早く僕を一人にしてくれ。
「あ、ここだよ」
アイリーンが指差す建物を見れば、確かに先日訪れた建物に間違いない。
そのまま彼女の先導で建物の中を進み、ウェズ君に教えられた部屋番号が記された扉の前に立つ。……あれ? なんか変だな?
性欲で茹だる頭の中で、ふとよぎる違和感。
するとアイリーンはニヤニヤと悪戯っぽい笑みを浮かべて、その隣の扉を指差した。
「実はあたしの部屋は、この隣なのでした。へへ、偶然だね! びっくりした!?」
ああ、なるほどね。道理でこの辺りや建物の中に詳しすぎると思った。
「うんびっくりびっくり。驚いたな。だから早く抜かせて」
「抜く? ああ、カギを?」
いかん、思っていることが口に出てしまっている。
獣欲が【精神耐性】を凌駕するだと……!?
僕はニゴリと限界スマイルを浮かべて誤魔化すと、手早く自室のカギを開けてドアへと滑り込んだ。のだが……。
何やら背中にくいと引っ掛かりを感じたので振り返ると、アイリーンが僕のローブの裾を指先でつまみ、上目遣いでこちらを見つめていた。心なしかその頬が紅くなっているのが、明かりのない夕闇の廊下でもわかる。
「……どうしたの?」
「えっと……中に入ってみてもいい? あたしの部屋とどう違うのか、見てみたいなー……なんて」
ふ……ふぅ~~ん。
「いいよ」
「やたっ! へへー、お邪魔しま~す!」
アイリーンは何とも嬉しそうな笑みを浮かべて、僕の部屋に入って来た。
……ごくり。
僕は思わず喉を鳴らした。
おいおい……無防備に男の部屋に入ってきたぞこの娘。
これ合意でいい? 合意ってことでいいんだよな!?
≪説明しよう!
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