【書籍版1巻2/20発売】貞操逆転ハードモード異世界を鋼メンタル冒険者が生き抜く   作:風見ひなた(TS団大首領)

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第38話「鋼メンタルでかつてない修羅場を切り抜ける」

「ごめんねウルスナ。ユージィの赤ちゃんはあたしが産むね」

 

 僕にお姫様抱っこされたアイリーンは、そんなことを言い放った。幸せそうに僕の頬に頭を擦りつけながらも視線はまっすぐウルスナに向けられており、その態度からはどこか余裕を感じられる。

 実質勝利宣言だよね、これ。

 

 伯爵家での一件のように、ウルスナはブチギレて殴りかかってくるかと僕は思わず身構えたが、予測に反して彼女が唐突に距離を詰めてくることはなかった。

ただ腕組みして、ドアにもたれかかりながらこっちを見つめている。

 

 え、なにこれ……。どういう感情? 共感性死んでなくてもちょっとわかりづらいんですけど。僕のことを諦めたわけでもないよね? それならすぐに帰ってるはずだし……。

 

「え、えーと……ウルスナ、何でここに? 僕の住所なんて教えてないけど」

 

 そんな間抜けなことを聞く僕に、ウルスナは小首を傾げる。

 

「ん? そんなのギルドの受付に聞いたら簡単に教えてくれたぞ」

 

 コ、コンプラ案件ー! ギルドの教育どうなっとるんじゃーい!

 ……いや、そもそもこの時代にコンプライアンスなんて概念が存在するわけないか。

 親の話だと、昭和の時代なんて小学校の連絡網にクラスメイトの住所と電話番号公開されてたし、市内の全市民の電話番号が載ってる分厚い電話帳が一家に一冊あったらしいからな。

 それ以前の時代となると、もうプライバシーなんて駄々洩れだよね。

 

「ふーん……」

 

 アイリーンはウルスナが手にしたワイン瓶に視線を向け、鼻を鳴らした。

 

「引っ越し祝いを口実にユージィの家に押しかけて、酔っぱらわせて無理やりモノにしようとしたんでしょ。やることがセコいなー。女として恥ずかしくないの?」

 

「なんだぁ?」

 

 軽蔑した視線を向けるアイリーンに、ウルスナがビキィ!? とガンを飛ばす。

 

「そっちこそユージーンの近所なのをいいことに、案内するついでに無理やり部屋に押しかけたんだろうがよ。この可愛こぶりっ子がよ、女の風上にも置けねえぜ」

 

「あぁん!?」

 

 ビキィ!? とガンを飛ばし返すアイリーン。図星だから始末に負えない。

 

 ……あれ、なんかおかしくない?

 これって僕が浮気の現場を見つかったシーンじゃないの? いや、付き合ってなかったんだから浮気でもないんだけど。

 

 この二股野郎! とかどっちを選ぶの!? とか僕に涙交じりの糾弾が飛んでくるかと思ったのに、雰囲気が完全にヤンキー漫画だぞ。

 

 

≪説明しよう!

 貞操逆転世界において、女の武器は涙ではない! 拳だ!!

 

 我々の世界では多くの場合男が選ぶ側であり、女は選ばれる側である! だから女は泣き落としで男の良心に訴えかけることで、自分の意見を通させようとするのだ!

 しかしこの世界においては女が男を選ぶ側であり、ときに男を巡って争うものなのである! 男とは強いメスに与えられる賞品なのだ!

 当然同性の女に泣き落としなんて通用しないから、その対立は不良漫画よろしくガン飛ばしと拳で行われるのである!

 

 ちなみにこのシーンは女が浮気した場面ではない!

 ヤンキー冒険者がコナをかけておいた聖女の家に押しかけて押し倒そうと企んでいたら、ライバルのショタが可愛さを武器に先に部屋に入り込んで、聖女をベッドに連れ込もうとしていたシーンである!≫

 

 

「言っておくけど、ユージィはあたしにプロポーズしたんだからね。もうあたしたち婚約者だもん、ねーユージィ?」

 

 わざとらしく髪の毛をぐりぐりと擦り付けて甘えてくるアイリーン。

 ウルスナが視線で『本当か?』と尋ねてきたので、僕は頷いた。

 

「うん、プロポーズはしたよ」

 

「だよね! 誓いのキスだってしたもんね!」

 

 いや、さっきのは誓いのキスじゃなくてただ口説いてただけだったんだけど。

 アイリーンの中でそうなってるなら、そういうことでいいよ。

 

「ほーら、もうユージィはあんたなんて眼中にないんだから! 邪魔だからとっとと帰んなよ! これから2人でイチャイチャするんだもん!」

 

 イーッと威嚇するアイリーンの煽りを受け、ウルスナのこめかみにビキビキと血管が浮かんでいるのが見える。

 しかしそれでも彼女は殴りかかることなく、腕組みをしてこちらを見つめていた。

 

「なるほどな。だけどユージーン、お前にプロポーズしたのは俺が先だったよな? キスもそこのガキより俺と先にしたよな? あの時の返事をまだ聞いてねえんだが……どうなんだ? そのガキよりも俺の方が女として断然魅力的じゃねえか?」

 

 そう言ってウルスナはつかつかと僕の方に近寄ると、僕のアゴをつまんでじっと瞳を合わせてきた。

 僕の腕の中のアイリーンがむっとした顔をしているが、ウルスナはそちらに視線を向けることを許さない。エメラルドのように美しい碧眼に、思わず吸い込まれそうになる。

 

「もう一度言うぞ、ユージーン。俺のものになれよ。

 そこのガキにプロポーズしたなんてのは気の迷いだ、そうだろ? 俺の方が冒険者としての腕もいいし、金も持ってるし、顔だっていいし、魔力だって上だ。俺はそこのガキよりも女としてずっと優れている。お前を満足させてやれるのはこの俺だ。結婚するなら俺にしておけ」

 

 

≪説明しよう!

 俺様系イケメンが顎クイしながらヒロインに迫る少女漫画的シーンである! ヤンキー漫画になったり少女漫画になったり忙しいなお前ら!

 ちなみにウルスナは選択肢を雄士に委ねているように見えるが、実際には自分の方が圧倒的にアイリーンより上だとマウントを取っているので、断られるとは思っていない!

 ウルスナ的には既に王手をかけたつもりでいる!≫

 

 

 え、僕にどっちか選べって言ってるの、これ?

 うーむ……これは難しい選択だぞ。

 

 アイリーンは子犬系で可愛いし、一緒にいると元気をもらえるし、冒険者としても成長株だ。両腕にすっぽり収まるくらいの体はぎゅっと抱きしめるととても落ち着くし、胸は小さいけどお尻の発育はいいし、すごくいい匂いがする。

 

 ウルスナは気の置けない悪友という感じで話してて楽しいし、いろいろ勘が鋭いし、バカそうに見えて結構物知りで頼りがいがある。胸は手のひらからこぼれだしそうな程よい巨乳ぶりで見ていて嬉しくなるし、腰はキュッとくびれてるのにお尻はプリプリしてる。

 おじいちゃん曰く――。

 

「いいかい、雄坊。嫁を選ぶときはもちろん性格が第一だ。価値観が合わない相手と一緒に暮らしてはいけないからね。

 しかし性格が同じくらい合う女たちから誰かを選ばないといけないなら、顔じゃなくてケツで選ぶんだよ。出産というのは本当に女の体に負担をかけるものだ。出産の苦しみに耐えられず赤ん坊と共にぽっくりと逝ってしまう悲劇は、古代から後を絶たない。生涯子供をなさず嫁と二人だけで生きていくというのならそれでもいいが、自分の遺伝子を残したいのなら安産型の嫁を娶るべきだよ。

 

 おばあちゃんをごらん、武道の有段者とは思えないくらいのデカケツだろう? この女なら3人は産めるなと思ってたら、なんと8人も産んだスケベメスだよ」

 

 直後、おばあちゃんのヒップドロップでおじいちゃんはマット(座布団)に沈んでいたね。僕もさすがにその発言を女性に聞かれたら殺されても仕方ないと思ったよ。

 しかし前時代的とはいえ、確かに一理はある。

 伯爵様のところの悲劇を知っていると、健康な赤ちゃんを産めるって本当に重要なことだと思わざるを得ないよ。

 

 現時点ではウルスナの方が確かにいいカラダしてるんだけど、アイリーンもまだまだ成長期だし。デカケツという点ではどちらもバッチリだ。

 何より僕の性癖にも合っていますよ。やっぱお尻のでかい女の子いいよね……。押し潰されてよし、わしづかんでよし。僕にとって最高に興奮できるパーツのひとつといえる。

 

 そして性格はどちらも好みだ。どちらの娘を選んでも、一生を幸せに添い遂げられるだろうという予感がある。

 となれば……僕は自分の心が赴くまま、偽らざる本心を口にした。

 

「僕は両方と結婚して子供を産ませまくりたい」

 

「……」

 

「……」

 

 間の悪い沈黙が部屋中に満ちた。

 

 うむ。やっちまったな。

 僕は心の中で深く頭を抱えた。

 

 ……いや、我ながらさすがにないわ。こんなん100年の恋も冷めるだろ。

 アイリーンもこれには呆れて婚約はなかったことになるんだろうなあ。

 振り出しに戻るかあ……。まあ正直精子が脳に回って頭おかしくなってるし、ちょっとクーリングダウンを設けた方が良かったのかもしれない。

 

「あー、その……。まあ言葉の綾で、どっちと一緒にいても楽しいしさ。そんな君たちが顔を合わせていがみ合うのは見たくないというか。両方の恋人になるから、ケンカは止めて3人で幸せに過ごさない? なんちて……」

 

 いかん、何を言ってもドツボにはまっていく。

 というか選べねえよなあ、こんなのどっちも魅力的だし。両方欲しいというのが偽らざる気持ちだよ。

 

 アイリーンは僕の腕から飛び降りると、ウルスナと無言で顔を見合わせる。

 あ、こりゃ2人とも本気で呆れてるな……。

 

「……どう? あたしはいいけど……」

 

「ん……まあ、お前が噛みついてこないなら……」

 

「うん。何より2人より3人の方が家計がね……」

 

「ああ……だよなあ。いずれどこかで協力は必須だからな……お前となら……」

 

 2人は何やらごにょごにょと相談していたが、やがてひとつ頷き合うとこちらに視線を向けた。

 

「わかった。じゃあ俺とアイリーンがお前を共有の夫にするってことで手を打とう」

 

「え!? いいの!?」

 

 僕が思わず目を丸くすると、ウルスナは不思議なものをみるように小首を傾げた。

 

「いや、お前が言ったんだろ。両方と結婚したいって。別にいいよ、この国は一夫多妻制だし」

 

「その代わり、ちゃんと約束してね! あたしもウルスナも他の男は抱かないから、ユージィもあたしたち以外とエッチしちゃだめだよ! あと、勝手に妻を増やすのもダメ! あたしとウルスナが認めない限り、絶対許さないからね!」

 

「うん、もちろん!」

 

 いやっほー! ハーレムじゃーい!

 

 え、マジで? こんなうまい話ある? そりゃ異世界WEB小説といえばハーレムとチートがデフォルトだけど、まさかそれが自分の身に起こるとは。

 思わずばんじゃーいと諸手を上げて飛び跳ねちゃうくらい嬉しい!

 こんな可愛くて好みの女の子たちを同時にお嫁さんにできるなんて、こんな幸せなことがあろうか! いや、ない!

 

「……なんかすげー嬉しそうだけど、本当にいいのかお前……?」

 

「普通の男なら、いきなり複数の妻ができるとか死んだ目になるところだよ……?」

 

 怪訝そうな顔をするウルスナとアイリーンだけど、何を心配してるんだろう? 複数の可愛いお嫁さんがいきなりできるとか、普通の男なら大喜びだろ!

 

 

≪説明しよう!

 雄士はお嫁さんを複数抱えたハーレムに大喜びしているが、この世界的には逆だ! 

 コイツは複数の女から夫として抱えられたのである!

 そもそもこの世界では夫は妻の所有物であり、共同所有者が増えたという話なのだ!

 

 そしてこの世界の大体の男は性欲が薄く、体力的にも女より華奢でセックスの回数をこなしにくい! なのに共同所有者が増えると彼女たちに均等に夜の御勤めをこなさねばならなくなる! 搾精ハーレム地獄だ!

 つまり初手から複数の女に所有されるのは、普通の男にとっては絶望的な状況なのであった!

 

 ちなみに庶民の間で一夫多妻制が一般的なのは、男が少ないためと、家計のためだ! 女が外で働いて金を稼ぐのが当然の社会なので、一夫一妻では妻が妊娠中で働けないときは収入が途絶えてしまう!

 そこで複数の妻が働くことで、家計を互いに補っているというわけである!

 なお金持ってる貴族や商人なら、たくさんの男性の妾を抱えて事実上の多夫一妻が許されている! 伯爵様マジ性豪!≫

 

 

「本当にわかってるのかな、こいつ……?」

 

「ねえ、あたしたちに平等に愛を注いでくれなきゃだめだよ? あたしをウルスナよりたくさん愛してくれるならいいけど、こいつに負けるとか我慢できないんだから!」

 

「あ、何抜け駆けしようとしてんだ! 言っとくけど、抱かれるのは俺が先だからな!」

 

「なんで! 先にプロポーズされたのはあたしなんだから、あたしが先だもん!」

 

「ざんねーん、先にプロポーズしたのは俺でしたー。だから俺が先な!」

 

 早速ぎゃんぎゃんとケンカを始める2人。

 いやー参ったな、モテる男は辛いぜ。

 

 なんで女の子の漫画って恋愛モノばっかなんだろと思ってたけど、気持ちがわかったわ。

 異性にチヤホヤされるのってハンパなく自己肯定感が満たされるもん。

 男なら修行なりなんなり努力を払って強くなったり社会的地位を上げたりして、ようやっと成功体験を得られるところを、女はイケメンや社会的地位が高い男にチヤホヤされるだけで勝ち組になれるからな。何をもって成功者とするかの基準がそもそも違うんだね。

 

 僕は言い争う2人の背中に忍び寄ると、左右の手でお尻をすりすりと揉みしだいた。

 

「ケンカしないで。2人とも平等に抱かれてあげるから。ちゃんとこのデカケツの一番奥に子種仕込んで、同時に妊娠させてやるからな……!」

 

 ……はっ、ついおじいちゃん仕込みの卑語が出てしまった。

 引かれるかなと思ったけど、アイリーンとウルスナは顔を赤らめてもじもじしている。

「は、はい……。お願いします……♥」

 

「お前……脳みそ女かってくらいスケベなこと言うよな。本当に聖者かよ?」

 

 

≪説明しよう!

 聖女の初夜を巡って争っていたら、聖女が突然2人のちんちんをすりすり♥と愛おしそうに揉みしだいて「ケンカはだめです。3人で仲良くエッチしましょうね。2人の子種を私の子宮に注ぎ込んだ子供なら、私たち3人の子供ですよ。お2人の赤ちゃん、い~っぱい産ませてくださいね♥」と言い出したような状況である!≫

 

 

「まあ大昔の外国の神殿には聖娼っていう娼()がいて、神事として旅人にスケベしてくれたらしいしね。聖なるものと卑しいものはコインの裏表なんだよ、きっと」

 

「な、なるほど……?」

 

 僕が適当にペラ回したら、なんか納得してくれたらしい。

 うんうんよかったよかった。

 

「じゃ、ベッド行こうか?」

 

 僕が2人の肩に腕を回すと、彼女たちはしおらしく俯いたまま言いなりになった。

 おお、いける……いけるぞこの流れは!

 まさか脱童貞が3Pになるとは!

 

 もう童貞維持ボーナスとかいいや。捨てる捨てる。

 こんな可愛くて僕のことを好きでいてくれるお嫁さん2人同時に抱けるなら、余裕でコイン25枚以上の価値あるわ! 曝炎神龍セット? 何それ、刹那で忘れちゃった。

 雄の人生の最大の目的はお嫁さん孕ませることだよ。今こそ男島雄士とかいう男らしすぎる名前の本懐を果たすときだ!

 

「あ、でも……」

 

 ウルスナが思い出したように僕の顔を見上げてくる。

 

「あの、護衛の聖獣はいいのか? 前みたいに阻止してくるんじゃ……」

 

「聖獣?」

 

 何の話だろう。僕が首を傾げていると、アイリーンがぶるっと体を震わせた。

 

「あ、あれかぁ……。すごく怖かったね」

 

「ああ……ものすごい威圧感で威嚇してきて、生きた心地もしなかったぜ。あれを見て、ユージーンってやっぱり聖者なんだなって心底納得したわ。無防備に見えたけど、ちゃんと守護獣(ガーディアン)がいたんだなって」

 

「ごめん、何の話?」

 

 僕が頭を掻くと、アイリーンとウルスナは顔を見合わせた。

 

 

 2人が語るところによると……。

 伯爵家に初めて泊まった日の夜、僕を挟んで寝たアイリーンとウルスナはすごくムラムラきて、僕にいたずらしようとしたらしい。いたずらの内容を聞こうとしたらはぐらかされてしまったけど……額に『肉』とでも書こうとしたとかかなあ。

 

 まあともかくいたずらして興が乗り始めたとき、突然部屋の中に光る扉のようなものが出現した。

 驚いた2人が振り返ると、その中から目が眩むような威光を備えた、真っ白な光の塊が姿を現したのだという。その姿ははっきりとは見えなかったが、巨大な狼のようなシルエットをしていたとか。

 

 光る獣はすごい剣幕で2人を威嚇してきたので、彼女たちは慌てて部屋の隅へと逃げた。恐ろしい気配を発してはいたが、不思議と僕に危害を加えるとは思えなかったのだそうだ。

 震える彼女たちを一瞥した獣は、ゆっくりと僕の元へと歩み寄るとその頬をぺろりとひと舐めして、また扉の向こうへと帰って行ったのだという。

 

 その体験があまりにも恐ろしくて、2人は残りの日程はいたずらを控え、ただ隣で寝るだけに留めた……ということだ。

 今まで僕に言わなかったのは、本人が寝ている間にいたずらしたことを言うのがはばかられたからだとか。

 

 

 僕は、心の中でほろりと涙を流した。

 その獣の正体に、思い当たるものがあった。

 

 ペロだ。

 僕が日本にいたとき飼っていた愛犬だ。

 

 僕が小学校に上がる前に捨てられているのを見つけて、それからつい最近亡くなるまでずっと一緒に暮らしていた。

 僕が拾ったときはまだ仔犬だったくせに、僕より大きくなるのが早いからって、僕が小学生の間はなんだかお兄ちゃんみたいに振る舞っていた。

 僕の顔をペロペロと舐める甘えん坊で、お風呂嫌いで、鳥ささみが好きで、僕と一緒の布団で並んで眠るのが日課だった。

 おじいちゃん犬になって体も心も弱くなって、それでも僕のことが心配で寝るときは僕の隣に居たがっていた。最期の最期まで僕の姿を探していて、僕がそばにいることを確認すると、ようやく安心したように息を引き取った……そんな犬だった。

 

 きっと死んでからも、僕を見守っていたんだ。それどころか異世界にまで追いかけてきて、無防備な僕を守ろうとしていた。

 

 ありがとう、ペロ。

 僕は大丈夫だよ。この2人は僕のお嫁さんだ、僕を傷つけることはけしてない。

 だから邪魔をしたりせず、安らかに眠っていてくれ……。

 

 僕が心の中でそう語りかけると、どこかでワン!とひと鳴きするのが聞こえるような気がした。

 

 そして……。

 いや、待て。ペロといえば。

 

 僕はアイリーンに目を向けると、聞いてみた。

 

「……アイリーンってさ、最後にお風呂入ったのいつ?」

 

「お風呂? 入ったことないよ」

 

 ………………。

 

「あ、半年前にギルドの試験を受けるときに、孤児院の院長先生に入らされたかな。熱いお湯に浸かるのって変な気分だったし、もう2度と入りたくないけど」

 

「この国って水も薪も貴重だからなあ。庶民だと生まれてから一度も入ったことない奴って珍しくないよな。あ、俺は綺麗好きだから、3か月に一度は入ってるぜ」

 

 あっけらかんとそんなことを言う2人の肩を叩いて、僕はこちらを向かせた。

 

「僕と結婚したからには、最低でも3日に1度は入ってもらうからね。拒否権はない。特にエッチする前と後には絶対に入って、隅々まで綺麗にしてもらう」

 

「え、なんで!? 水も薪ももったいないよ!?」

 

「横暴だ! 垢を落としたら病気に……」

 

「うるさい、いいから風呂だ風呂! 風呂入るまで絶対にエッチしないからな! 僕に女の好みはないと思ってたけど、間違いだった! 

 僕の好みは、最低でも3日に1度は風呂に入る女だ!! お前らが風呂入るまで、絶対抱かないからな!!」

 

 

 この程度の暴言で許したんだから、感謝してもらっていいと思うよ。

 

 ペロってお風呂嫌いで、いくらお風呂に入れようとしてもすぐ逃げちゃうんだよ。なのに毎晩僕と同じ布団で眠りたがるから、いつの間にか僕もその体臭に慣れちゃってね。

 ふわふわの毛にくるまりながら寝てたから、すごく安心できる臭いと認識するようになっちゃったんだろうね。

 ペロの体臭は、僕にとってはとても落ち着くいい匂いだったんだ。

 

 でもさ、いくら僕が共感性死んでるからって言えないじゃないか。

 可愛いお嫁さんに向かって、「君から洗ってない愛犬の臭いがしてすごく落ち着く」なんてさ。

 

 

 

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 【継承】……前世で得たすべての能力を一切失わず、次の人生に持ち越せる権利を得るチートスキル。転生時に取得すると、転生ではなく転移扱いとなる。

 

 前世で得た肉体と精神に関する「すべての能力を一切失わない」ので、前世で鍛えておけば転移後にどんな食生活をしても転移前よりも筋肉が細ることはないし、前世で得た記憶と知識はどれだけ時間が経っても失われず、いつでも鮮明に思い起こせる。

 

 ペロは死後に雄士の守護霊として彼を見守っていたが、魂に紐づいた存在であったために【継承】の対象となり、異世界へついていくことになった。

 しかしただの守護霊では世界の壁を越えることができないため、つじつまを合わせるためにペロの霊格は神獣クラス近くまで大幅に補正されたうえで世界間移動能力を与えられている。

 

 仕様の穴をついたバグじみた進化であるため、ペロは雄士が眠っているときに彼の身を守るためにのみ顕現できるという制約を負った。普段は「主人に愛されたペットが死後に行く世界」で雄士を見守っている。

 異世界にいながら、眠っている雄士を狙う者の魂を霊的に威嚇して怯ませ、雄士を狙わないよう心変わりさせる能力も持つ。

 

 これが半年間安宿に泊まっていても雄士が貞操を守れた理由である。

 なお、発情しすぎて威嚇も効かないシコ猿ヒロインズには直接顕現して対処した。

 

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