【書籍版1巻2/20発売】貞操逆転ハードモード異世界を鋼メンタル冒険者が生き抜く   作:風見ひなた(TS団大首領)

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第4話「鋼メンタルでギルドの面接に耐え抜く」

 門兵さんに教えられた道を通って歩くこと十数分。

 それにしても、本当に男が少ない街だなぁ……というのが僕の感想だった。

 

 まったくの皆無というわけではないが、明らかに目にすることが少ない。それにみんな道の端っこをこそこそと肩身が狭そうに歩いていた。それもある程度歳のいった中年以上の男ばかりで、若い男はまったく見かけない。

 代わりに往来のど真ん中を我が物顔でのし歩いているのは若い女性たちだ。自分たちこそがこの街の主役だと言わんばかりの態度で、老人や男、子供なんかは彼女らの邪魔をしないように……というか絡まれないようにしているようだった。

 若い男はみんな徴兵されてこの街にいないのだろうけど、女性がこんなに偉そうに幅を利かせてるのはそれはそれで不自然な気もする。

 とりあえず下手に目立つのも良くないだろうから、僕も周囲にならって道の端っこを歩いて冒険者ギルドを目指した。なんだか女性たちからジロジロと視線を向けられたが、特に話しかけてくることもないようだ。若い男は戦争に取られているはずなのに、と不思議に思っているのか、純粋な黄色人種の僕が珍しいのか。

 

 あ、街の人は白人っぽい肌の色をしてますが、顔立ちはあんまりバタ臭くないです。いわゆる和製ファンタジーでよく見る感じの、西洋人とも日本人とも言い難い顔。ああ、ファンタジー異世界に来たんだなーって感じがしますねぇ。

 ちなみに表通りの街並みはレンガ造りが多くてもろに西欧~って感じなんですが、ところどころにガス灯が立ってるみたいっすね。結構技術が進んだ文明なのかも。電気を使ってたり自動車が走ってたりってことはないようなので、中世後期くらいの発展度なんだろうか?

 後はまあ……街がちょっと臭いっすね。道の側溝から臭ってくる感じ。ここにずっと住んでる人たちは気にならないのかもしれないけど、僕みたいな現代日本人にはちょっときつい感じ。しばらくすれば慣れるのかなあ。

 

 そんなことを思いつつ歩きに歩いて、ようやく冒険者ギルドらしき看板を発見。旅行鳩の模様が描かれてますね。こんな意匠の看板、冒険者ギルドじゃなけりゃ郵便局くらいもんでしょ。

 よーし、たのも~!

 

 

 

 

「ギルド登録料は銀貨5枚です」

 

「無一文です」

 

「お引き取りください」

 

 冷徹な感じの受付の男性は、冒険者になりたいと願い出た僕をすげなくあしらった。

 えっ、もうちょっと話を聞いてくれてもよくない?

 正直金取んのかよ!?とも思うのだが。だって僕はギルドのお仕事をしてあげてお金をもらう側なのに、登録料が必要なのっておかしくない?

 

 そういうことを訴えてみたところ、受付ははぁっと溜息を吐いた。

 

「たまに貴方のように勘違いされた方がいらっしゃいますが、我々は組合です。組織を健全に維持するためには、ギルドにいくらかの資金を集めなくてはいけませんし、貴方のような胡乱な人間は門前払いしなくてはならないのですよ。おわかりですか?」

 

「でも薬草集めとか、ドブさらいとか、そういった面倒な仕事を食い詰めた人間に割り振る社会のセーフティネットみたいな感じの組織なのでは?」

 

 ネット小説で得た知識をぶつけてみたところ、受付男性は嫌そうな顔を見せる。

 

「まあ……確かに役所の手が回らない清掃作業なども請け負ってはいますが、あくまでも結果論です。底辺労働者を養うことは我々の本意ではありません。我々の存在意義は危険なモンスターの駆除であり、いずれはどのギルド員もそうした仕事をこなせるようになってもらわなくては困ります」

 

 受付さんの言うことには、冒険者ギルドはあくまでもモンスター駆除業者であって、何でも屋は未熟なギルド員を食わせるためにサブで引き受けているにすぎないのだという。まあそうか、街の清掃なんて本来は役所がやる仕事だもんな。

 

「ですので」

 

 受付さんは僕にジト目を向けてくる。

 

「貴方のようにいかにも家出してきたばかりです、といわんばかりの世間知らずの男性に割り振る仕事なんてありませんよ。冒険者は過酷な仕事なんです。わかったらとっとと家に戻って、子供を育てていなさい。それが貴方のためです」

 

 あれっ? 僕、家出してきたと思われてるのか?

 僕には戻る家なんてないんだぞ! ここは何としても食い下がらないと……!

 

「待ってください、僕は異世界から来たんです! ここで雇ってもらえないと、野垂れ死ぬか……お願いですからギルドに入れてください!」

 

「いせ、かい……?」

 

 受付さんは目をぱちぱちさせて、もう一度頭の上から爪先まで僕を眺めた。

 

「ああ、うん……。確かにごく稀に異世界からやって来たと主張する方が冒険者になりたいと門を叩いてくることはある、と聞いたことはありますがね……」

 

 なんと、この世界は僕が転生一番乗りじゃなかったのか。

 だけどそれなら話は早い。僕は勢い込んでカウンターに身を乗り出した。

 

「そうですそうです、僕がその転生者です!」

 

「……ええ、まあ聞いたことはありますよ。酒の席の与太話として、ですが」

 

「えぇ……? でも、そっから成り上がって伝説の冒険者になったりとか」

 

「しません。なっていたら格好の英雄譚として伝わっているでしょう。与太話で終わったということは、大成せずどこかで死ぬか引退するかしたということです」

 

「夢がないなあ……」

 

 まあでもごく普通の一般人が異世界に着の身着のまま送り込まれたら、そりゃ死ぬよね。いきなり勇者の素質とか出して成り上がる人は主人公なんだと思うよ。僕も残念ながらどこにでもいる一般人だからなあ……。

 

 受付さんは辛気臭い溜息を吐くと、じろりと僕に鋭い切れ目を向けてくる。

 

「貴方も夢など見ず、もう少し地に足の着いた仕事を探したらどうです」

 

「地に足の着いた仕事って?」

 

「……まあ、結婚して家庭に収まるのが一番だと思いますが。お嫁さんが1人ではさすがに家計も厳しいかもしれませんが、3人くらいで共同でならなんとか食ってはいけると思いますし」

 

「……ヒモじゃん!?」

 

「主夫ですが!?」

 

 なんてこった、この受付さん真面目くさった顔してクレイジーだぞ!

 よりにもよってヒモになって食ってけとかアドバイスしてきやがった!

 この世界って一夫多妻が常識なのか? たとえそうだとしても、倫理観どうなってんだよ。異世界怖いわぁ。

 

 

≪突然だが説明しよう!

 この世界では男性の出生率は25%であり、4人に1人の割合でしか生まれない!

 そもそもが慢性的に男性不足の社会なのだ!

 なので低所得層は娼夫の子種を買ってシングルマザーで育てるか、数人の家庭で1人の旦那を共同()()するかのどちらかが一般的である!

 ちなみに格差社会でもあるので、富裕層は1人の女性が複数の男性を()()して侍らせてたりするぞ!≫

 

 

 受付男性は僕の顔をじっと見つめ、真面目な顔で説得してくる。

 

「本当に私が言うのもなんですが、冒険者などやめておきなさい。貴方の器量ならばもうちょっとマシな仕事も見つかるはずですよ」

 

「でも僕はどうしても冒険者になりたいんです!」

 

 転生して冒険者になってチート能力で俺TUEEEEはテンプレだからな。

 実際一度はやってみたいじゃない?

 

「せめて冒険者の適性チェックとか、そういうのだけでも受けさせてください!」

 

「……よく知ってますね。そういうのも本当はギルド員登録の一部で有料なんですが」

 

 何度目かの溜息を吐いて、受付さんはカウンターの下から水晶玉を引っ張り出してきた。

 

「わかりました、受けさせてあげましょう。銀貨5枚は個人的な貸しにしてあげます。その代わり、才能がなければ綺麗さっぱり諦めなさい」

 

「やったあ! ありがとうございます!」

 

 冷たい顔してるけど、受付さんはとてもいい人だった。

 この能力チェックってのも一度やってみたかったんだよな。

 ここですっごい潜在能力持ってるのが発覚して、水晶がぱりーんと破裂したりして「こ、これは……!?」っていうの定番じゃない?

 僕はウキウキで水晶に手をかざし、うおおおおお……!とか声を出して謎のオーラを送ってみた。出てるかな? オーラ。

 受付さんは淡々と「そういうのいいです」と言ってから、水晶に目をやった。

 

「こ、これは……!?」

 

 おっ! 僕の潜在能力におののくパターンだな!?

 受付さんは自らの目を疑うように瞼をぱちぱちして、やがて低い声で呟いた。

 

「……こんなにも冒険者に向いてない人、初めて見ました……」

 

「ええー!?」

 

 そんな馬鹿な。これが僕の考える異世界冒険者基本セットや! って勢いで異世界言語や耐性スキルを詰め込んだんだぞ。

 

「ちゃんと見てくださいよ、僕耐性スキルいっぱい持ってますよ!」

 

「あー、確かに天恵(ギフト)はいっぱいありますね……。こんなに耐性系ばっかり授かった人も初めて見ましたが。でも耐性ばかりあってもね。そもそも貴方、魔力ゼロじゃないですか、これでどうやってモンスターを倒すおつもりです?」

 

「魔力……? でも前衛やるからいらないですよね?」

 

「何言ってるんですか、前衛ならなおさら必須に決まってるじゃないですか」

 

「えっ」

 

「えっ」

 

 ……受付さんの話によると、どうやらこの世界の人間は誰もが先天的に魔力を持って生まれてくるらしい。

 魔力は後衛職が攻撃魔法とか回復魔法を使うのに必要なだけでなく、前衛職は魔力を使って自分の筋力や瞬発力をブーストして戦うものなんだそうだ。のみならず、敵の攻撃を軽減するためにも無意識で魔力は使用される。

 魔力が必要ないのはローグなどのサポート職くらいだが、それにしたって罠の感知や敵の気配の察知に魔力を使うらしい。

 

 つまり魔力が完全にゼロの僕は、戦闘の場に立つ資格がないというわけだ。

 そんなん仕方ないだろー! だって現代日本に魔力なんてないんだからさー!

 ……あ、もしかして【継承】せずに現地人として生まれ変わってれば、魔力持ちになれたのか? でもなー、それで僕の人格が消えてもなー。

 

 くそっ、こんなことで僕の冒険者人生が始まる前に絶たれるなんて……!

 

 ……いや、待てよ?

 僕の脳裏に浮かんだのは、白い空間を出る前に頭をよぎった曝炎神龍セットの一文だった。もしかしてあの自動販売機、後からチートを買うこともできるんじゃないか? 大賢者の素質は15枚もしたが、もっと弱い魔力でいいなら安く買えるはず。

 現状コインは1枚も残っていないが、この世界で功績さえ立てれば新しくもらうことだってできるだろう。

 となれば、ここで冒険者の道を諦めることはできない。

 

「お願いします、それでも冒険者になりたいんです!」

 

「いや、見込みないなら諦めるって約束だったじゃないですか? 魔力ゼロのうえに筋力も素早さも大したことはない……これでは冒険者は無理です。貴方のために言ってるんですよ」

 

「本当に僕で狩れるモンスターっていないんですか?」

 

「うーむ……大角ウサギくらいならなんとか……。いや、駄目です駄目です。大人しく諦めてください。冒険者は無茶です」

 

「じゃあ逆に聞きますが、僕は何ならできるっていうんですか!?」

 

「娼夫やれば天下取れますね」

 

 

≪突然だが説明しよう!

 エキゾチックなアジア人の顔立ち!

 一般常識は皆無だが、高度な知識を持っている異世界人の教養!

 【異世界語会話】であらゆる国籍のVIPと日常会話が可能!

 【疾病耐性】による絶対に性病にかからない肉体!

 【薬毒耐性】によるアルコールや危険薬物への万全の抵抗力!

 【苦痛耐性】によるどんな不快な客やハードなプレイにも耐えられる耐久力!

 【精神耐性】による囚われの娼館暮らしも苦にしない精神性!

 さらに前世から【継承】された細マッチョ系の引き締まった体格などなど!

 

 これらにより、男島雄士は娼夫として完璧な才能を持っているのだ!

 まさに神の遣わした天性の娼夫である!≫

 

 

「僕は体を売るつもりなんてありませんが!?」

 

「え……本当に? 冒険者よりずっとマシだと思いますが」

 

 心底不思議そうな顔をする受付さん。いや、こっちの方が不思議だよ。

 こっちの世界だとそんなに男の売春が流行ってんの? 買う女いるのかよ。

 

 そもそも僕の貞操は決して安くないんだよね。

 だって前世で童貞卒業せずに死んだら25枚もコインもらえたんだよ? これは曝炎神龍セットにして2.5個もの価値があるんだ。来世でも僕が自我を保ったまま転生できるかはわからないけど、できれば今世でも童貞は守り通して来世分の25枚を確保したい。この世界には親はいないから、親不孝で相殺されることもないし。

 もちろんこの世界でものすごく好きになれる女の子が現れたら童貞を切ることもやぶさかではないけど、この女には曝炎神龍セット2.5個分の価値はあるのかと自問するようにしたいね。よほどスタイルが良くて顔が可愛くて性格も好きになれる娘じゃないと相手にしないよ僕は。

 ……いや、前世で彼女一度もできなかった非モテ君が何様だよって話だが。

 

「まあそんなわけで、当ギルドには貴方の席はありませんのでお引き取りください」

 

「そこをなんとか! そのうち魔力も生えてきますから!」

 

「生えませんよ! 人間の魔力量は生まれ持って決まってるんですから! 今見込みがない人がこれからどうにかなるなんてこと、絶対ありません!」

 

 うぬぬ……! なんて話が通じない受付さんなんだ!

 僕のことを本気で心配して突っぱねてくれてることが伝わってくるから心苦しいけど、僕だってここで諦めるわけにはいかない! というか、ここでダメなら本気で体を売るしかなくなりそうだし……需要ないと思うけど。

 

 そうしてすがりつく僕と引き剥がそうとする受付さんがあーだこーだと揉めていると……。

 

「おや? 見ない顔ですね……。当ギルドに何か御用ですか?」

 

 背後から掛けられた声に振り向くと、そこには眼鏡を掛けた涼やかな美貌の女性が立っていた。怜悧な細面で豪奢なローブを羽織っており、年の頃は十代後半から二十代前半くらい。僕と同じくらいの年齢だけど、既に一流企業でバリバリ働いてるデキる女上司って雰囲気を漂わせていた。

 彼女はどこか冷たさを感じる顔立ちにそぐわない、にっこりとした微笑みを浮かべながら、僕に視線を向けている。

 

「あら、東洋人の方ですね……ずっと東の果ての国に住んでいると聞きますが。この大ブリシャブ帝国もいろんな土地に植民地を広げていますから、昨今は様々な人種を見る機会が増えましたねえ。それで、何を揉めていらしたのです?」

 

「ああ、マスター。すみません、こちらの、その……自称異世界人の方が、ギルドに入れてほしいとゴネられてまして」

 

「へえ……それはそれは。我がギルドを選んでいただけるとは光栄なことです」

 

 受付さんの口ぶりからして、どうやらこのお姉ちゃんがここのギルドマスターなのだろう。女性ながらにギルドを束ねているのだから相当なやり手だろうな。

 人当たりのいい笑みを浮かべてはいるけど、さて。

 

 受付さんは苦いものを口にしたかのように口元を引き締めながら、水晶玉を持ち上げる。

 

「いえ、それが……この方の能力では冒険者としてやっていくのは不可能かと……」

 

「ほう、どれどれ?」

 

 水晶玉を覗き込んだ彼女は、ふぅんと鼻を鳴らしたかと思うと、たちまち笑顔になった。

 

「おお、いいですね! 【疾病耐性】に【薬毒耐性】、冒険者としてはとても素晴らしい天恵をお持ちだ。これなら貴方にしか任せられない仕事がたくさんありますよ!」

 

「えっ……」

 

 ぱちぱちと手を打って喜ぶギルドマスター。おっ、これめっちゃ好感触じゃん。

 受付さんは青い顔をしているけど。自分の人物眼を上司に全否定されたのがショックなのかな?

 

「貴方のような方を探していたんです! ぜひ当ギルドにお力添えいただけませんか?」

 

「もちろん! ありがとうございます!」

 

 なんだ、やっぱり見る人はちゃんと見るもんなんだな!

 僕はニコニコ笑顔をギルドマスターさんに返した。

 ……こんだけ好感触なら、ちょっと調子に乗ってもいいか?

 

「あの、それでですね……実はこちらに来たばかりで、手持ちがまるでなくて……。本当にできたらでいいんですけど、当座の生活費とか装備を揃えるお金を貸していただければなって……」

 

「おお、なるほど。異世界人ならば仕方ありませんね。もちろんです、私のポケットマネーから銀貨20枚ほどお貸ししましょう。装備は……ウェズ君、確か先日未帰還になった銅クラスパーティがいくつか倉庫に預けっぱなしにしていたものがありましたね? あれを貸して差し上げなさい」

 

 ウェズと呼ばれた受付さんは、困惑を隠さない顔をしながら頷いた。

 

「ええ、ありますが……。正直状態はあまりよくありません、結構放置されていましたから」

 

「それでも大角ウサギと戦うくらいなら十分でしょう。初心者からあまり品質の良いものを使っても、成長する醍醐味がない。そう思いませんか、ユウジさん?」

 

「そうですね! 最底辺からの方が成り上がり感あります!」

 

 おっ、僕の名前を知ってる? さっきの水晶玉に表示されてたのかな。

 そう思って水晶玉を見たけど、僕には読めない言語だった。

 【異世界語会話】って筆記まではカバーしてくれないのか。ちょっと失敗したかなあ。でもまあ、コインに余裕もなかったし仕方ないか。

 

 ギルドマスターさんはニコニコと機嫌よさそうに頷く。

 

「宿はウチのギルドが懇意にしている酒場の2階に部屋を用意させましょう。もちろん宿賃は自分で工面してもらいますが……」

 

「もちろんです、そこまでご迷惑をかけるわけにはいかないので!」

 

「貴方はご自分の立場をよくわかっていらっしゃる。きっと大成しますよ。なに、最初はかなり苦労するかもしれませんが……焦る必要はありません。いつかきっと成り上がる日が来るでしょう。それまで私は貴方の活躍を応援していますよ」

 

 めっちゃいい人だな、この人! さすがギルドマスターだ!

 人の上に立つ人はこうでなくっちゃ。

 なーんだ、異世界転生ヌルゲーじゃん!

 

 

 

=====

====

===

 

 

 

 雄士がウキウキとギルドを後にした後で、受付の男性……ウェズは、ギルドマスターの部屋に気色ばんだ顔で押しかけた。

 

「どういうつもりですか、マスター? 彼をギルド員に迎えるなんて……。到底戦えるような能力じゃない、あれじゃ早晩死にますよ」

 

 冒険者ギルドのマスターを務めるデアボリカは、葉巻に火をつけるとふうっと一服くゆらせ、氷のように冷たい息と共に煙を吐く。

 

「死にませんよ。死ぬような仕事をやらせるつもりはない。彼にはドブさらいとか、薬草摘みとか、狩りならネズミ退治と……大角ウサギまでかな。そういった最低クラスの仕事だけあてがっておきなさい。命の危険がある仕事は受けさせないように」

 

「……? そんな扱いじゃ、嫌になって冒険者を辞めますよ。冒険者志望の子なんて、多かれ少なかれ危険なモンスターを倒して英雄になりたいって夢を抱いてるものでしょうに」

 

「ええ、辞めてくれて結構。むしろ早く辞めてほしいくらいだ」

 

 デアボリカはニイッと冷酷な笑いを浮かべる。

 ウェズはそんな上司の思惑が読めず、一転して困惑した表情になる。

 

「……どういうことです?」

 

「彼が辞めたら、有望株の冒険者に夫を紹介してあげられるということですよ」

 

「では、最初から彼には諦めさせるつもりで……」

 

「ええ、その通り。冒険者なんて堅気の仕事じゃありませんからね。そこそこ腕利きとして名が通り、蓄えにも余裕ができた冒険者であっても、なかなか夫を捕まえられないのが実情です。何しろいつくたばるかもわからない仕事だ、いくら今儲かっていても、未亡人になる可能性が高い女の夫になんてなりたがる一般市民の男は少ない」

 

 この世界の一般市民にとって、若い男性は家族からとても大切にされるのが常識だ。何しろ彼らは大切な財産であり、裕福な家に婿入りさせれば強力な縁故ができる。だから若い男性は見合い婚が成立するまで家に押し込められ、なかなか外には出してもらえない。

 そんな社会環境では自由恋愛などなかなか成立する余地がないし、冒険者などは元々が家を追い出された次女三女がなる場合が多く、お見合いをするツテすらないこともしばしば。

 そんな冒険者の女たちにとって、若い男との結婚は成功の証そのものなのだ。

 

 デアボリカはクックッと喉の奥で笑い声をあげた。

 

「身寄りのない若い男なんて都合のいい存在が、まさか向こうから飛び込んで来るとはね。さて誰に婿入りさせるか、今から悩ましくてしょうがありませんよ」

 

「…………」

 

 同じ男として、ウェズは雄士に同情を禁じえなかった。

 この大ブリシャブ帝国に男として生まれたからには自由はない。

 貴族階級に生まれたウェズも、今はこうして社会に出て仕事をしたいという希望を一応かなえられてはいるが、いずれは家の決めた結婚をする定めにある。男に生まれた時点で、自由に生きる資格を奪われているようなものだ。

 それはわかってはいても、悪い女に人生を弄ばれる男を見るのは気が咎めた。

 そんなウェズの顔色を見やり、デアボリカは肩を竦める。

 

「おやおや、悪魔でも見るような顔をしないでくださいよウェズ君。私は誰もが幸せになれる絵を描いているんですよ。男日照りの冒険者は、念願の若いイケメンと結婚出来て幸せ。冒険者の道を諦めたユウジ君も、冒険者の夫になって何不自由ない生活をできて幸せ。そしてギルドも、夫をもらった冒険者からの忠誠心を買えて幸せというわけです。三方良しのハッピーなお話じゃありませんか?」

 

「冒険者の道を諦めるまで、きつくて辛い仕事をやらされるユウジさん以外は幸せでしょうね」

 

 そう吐き捨てるウェズに、デアボリカはいかにもブリシャブ貴族らしい性根の歪んだ笑みを浮かべた。

 

「覚えておきなさい、ウェズ君。こういう腹芸ができてこそ、人の上に立つ貴族というものですよ」

 

「……ええ、大変勉強になりました。参考にしますよ」

 

 ウェズの皮肉を聞き流し、デアボリカは口に咥えた葉巻をウキウキとカレンダーに向けた。

 

「さて、ユウジ君はキツくて臭い最低級の仕事ばかりやらされて、どれだけ精神が持つでしょうねえ? 1週間? 2週間? こちらも用意がありますから、せめて1か月はもってほしいものですがね……クククク……!!」

 

 

 

 

 

 ――そしてそれから半年が経過した。

 

 

「ふう~! ドブさらい終わりっと! 人の役に立つ仕事って気持ちいい~!!」

 

 

 雄士はまったく何ともなかった!!




この話書いてたとき、ぶりしゃぶ食べてすごくおいしかったので大ブリシャブ帝国という名にしました。
それ以外の意図はありません(強弁)
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