【書籍版1巻2/20発売】貞操逆転ハードモード異世界を鋼メンタル冒険者が生き抜く   作:風見ひなた(TS団大首領)

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第44話「鋼メンタルでサプライズニンジャ理論と戦い抜く」

 ゴールドンのおじいちゃんの屋敷から帰った翌日、僕はアパルトメントの自宅で暇な時間を潰していた。

 

 あの後ゴールドン氏がなんか突然気分が悪くなったらしくて、今日のところはお引き取りを……って言われちゃったんだよね。僕のマッサージのせいで体調不良になったんじゃないかと心配してたけど、別にそういうわけでもないらしい。

 聖者様のせいではありませんので……って丁重に言われたのにほっとしつつも、何があったんだろうなあ。

 

 帰りの馬車の中で結婚に必要な持参金のことをアイリーンとウルスナに伝えたら、アイリーンはえっ何それって顔でびっくりしてた一方で、ウルスナは確かにそれはそうだって頷いていた。

 貧民層出身のアイリーンには結婚自体が縁遠いもので知らなかったらしいけど、ウルスナにとっては既知のものだったようだ。前々からもしかしてという疑念はあったけど、やっぱりウルスナって意外といい身分の出身なのかな。酒場で酔っ払っておっぱい見せつけてくる姿を思い出すたびに、いやいや、まさかな……とは思っていたんだけど。

 

 ゴールドンのおじいちゃんには持参金を払わなくてもいいよ、なんて言ったら女のプライドを傷つけると忠告されたけど、正直言ってアイリーンとウルスナの今の稼ぎじゃ何年頑張っても用意できない額だ。

 さすがにこれだけの金額ともなると、こちらとしても彼女らの意思を確かめる必要があると思う。

 

 なので極力彼女たちのプライドを傷つけないように、別に持参金なんて払わなくても事実婚で僕は構わないよ……ということを僕なりに遠回しに伝えてみたんだけど、ウルスナからはムッとした顔で睨みつけられた。

 

「バカにすんな! 持参金ってのはな、自分はこの男に見合う価値のある女だってことを証明するためにあるんだよ! あまり俺を見くびるんじゃねえぞ、必ず用意してみせるからな!」

 

 あー、失敗したなあ。ゴールドン氏の忠告に素直に従っておくべきだったか。

 

 オブラートに包んで提案したつもりだったけど、やっぱり彼女の中のプライドを刺激してしまったらしく、そう勢いよく啖呵を切られてしまった。

 そこまで断固として言われてしまうと、こっちもわかりましたと言うほかないよね。2人のためを思っての提案だったんだけどなあ……うまくいかないね。

 

 そして失敗してしょんぼりする一方で、ウルスナに惚れ直した自分がいる。

 やっぱり彼女は僕が尊敬するに足る、誇り高い女の子だ。

 

「あ、あたしも! あたしも絶対用意するもん!」

 

 ……ウルスナの様子を見て慌ててアイリーンも身を乗り出してきたけど、この子は大丈夫なのかなあ。

 ウルスナはまあわかるんだよ。世慣れている感があるし学もあるから、何か僕では及びもつかない方法を使って大金を稼ぎ出しそうな気がするんだ。

 

 ただ、アイリーンはなあ。デレたら可愛くて健気ですごく愛らしい子なんだけど、この子にそんな額を稼げるポテンシャルがありそうに思えないんだよね。

 いや、冒険者としての才覚はあるんだよ。コツコツ頑張っていけばそのうち大成してデカいモンスターも狩れるような大冒険者になるのかもしれない。ただ、そうなるまでには何年もかかるだろう。それに何より、僕は恋人がそんな危険な敵と戦うのが心配で仕方ないんだよ。

 

 我ながらチョロいことに、僕はもうすっかりこの2人のことを他人だと思えなくなってしまっている。そしてどうやら僕はちょっと愛が重いタイプらしい。

 前世で遊んだRPGにたまにいた、任務に挑む主人公に「行かないで! どうして貴方がそんな危険なことをしないといけないの!?」ってすがりつくヒロインの気分になってしまっている。

 

 自分が主人公キャラを動かしてたときには「うぜーなこの女、僕の邪魔をするんじゃねえよ」なんて思った記憶があるんだけどさ。逆の立場になるとすごくヒロインの気持ちがわかる。

 

 そりゃ止めるでしょ。恋人が自分の見えないところで死んでしまったらとか、生きて帰ってきても大怪我して腕とか失くしてたらとか、想像するだけで嫌な気分になるよ。

 自分にも戦う力があるなら話は別だよ。自分が頑張れば恋人は死なないで済むかもと思えば、一緒に頑張ろうねってお互い励ませる。でも自分が無力な場合、無事を祈ることしかできないわけで。そんな状況で頑張ってねって危地に送り出すとか、なかなかできるもんじゃないよ。世のヒロインってすごいよね。

 

 一応僕にもなんちゃって魔封じの魔眼こと【インフルエンサー】があるから、恋人のサポートはできるけど、僕はもうモンスター狩りはやりたくない。いくらなんでも危険が過ぎる。

 鋼メンタルなのと命知らずなのはまったく別の問題だよ。流れ弾がかすっただけで死ぬような戦場に自分からのこのこ向かうのはさすがにどうかしてる。

 

 で、そんな僕が恋人のために何をしてやれるかを考えた結果……QOL(生活の質)を高めることが一番じゃないかな、という結論にたどり着いた。

 毎日お仕事に汗を流して、へとへとに疲れて帰ってきた恋人においしいご飯を食べさせてあげて、清潔であったかくて居心地のよい部屋で疲れをねぎらってあげて、寝る前にいちゃラブエッチをして3人で抱き合って寝る。

 これだよ。幸せな生活ってのはこういう日々のことを言うんじゃないか?

 

 まあ僕の前世だとおいしい料理を作るのも部屋を綺麗に掃除するのも、女が男にしてあげるものだって思想がまだ社会に根付いてたので、立場が逆になっていることに少々思うところがなくもないけど。

 郷に入れば郷に従えともいうしね。

 

 一応既に初夜に備えてお風呂を手配してはいるけど……うーん。

 僕はちらっとベッドに目を向けてみる。

 ……いや、これはないな。こんな独身向けのシングルベッドで3人で愛し合おうなんて無理だよ。せめてダブルベッドくらいは必要でしょ。

 

 僕の部屋には既にウルスナが自分の家からマグカップやら歯ブラシやらぬいぐるみやらの私物を持ち込んできていて、さらに負けじとアイリーンが隣から自分の私物も運び込んできたから、引っ越し3日目にして既にぎゅうぎゅうになりつつあるのだが。

 こんな狭苦しい部屋で3人暮らすのはさすがにきついものがあるよ。四畳半のアパートで同棲してた昭和の貧乏カップルじゃあるまいし。……いや、おそらく文明的には昭和から2、300年ほど昔にあたるとは思うんだけどね、この世界。

 

 折角引っ越したばかりの新居だけど、3人で新婚生活するならもうちょっといい物件に引っ越したい。できれば3人それぞれに個室が欲しいし、大きなベッドも用意したいし、毎日料理できるように台所もほしい。あとトイレと風呂は別で。

 そもそもギルドメンバーが勝手に住所調べて押しかけてくる可能性がある時点で、新婚家庭が落ち着いて暮らせる住居じゃないんだよ。防犯設備もしっかりしておかなきゃね。

 ただなあ、そこまでいい物件となると……。

 さすがに僕も手持ちにそこまで余裕がないし、かといってあまり稼ぐとアイリーンとウルスナの持参金がえぐい額になるし。二律背反だね。困ったもんだ。

 

 そんなわけでなんとかうまい方法はないかなと考えていると、コンコンと窓板を叩く音がした。ここ3階なんだけどね。

 

「ユージー殿~。密書の配達でござる、お邪魔するでござるよ~」

 

 聞き覚えのある声に振り向くと、窓にへばりついた全裸の金髪忍者が首を差し込んでいた。

 

 サプライズニンジャ理論って知ってる? そのシーンに突然忍者が出てきて場をめちゃくちゃにした方が面白い話になるようなら、その話は書き直した方がいいっていう創作理論なんだけどね。それを常時発動しているトンチキな女がこいつだよ。

 

「ジライヤ……いつも思うけど、なんで全裸で外を徘徊して衛兵に捕まらないの?」

 

「それは拙者のアーマークラスが低いからでござるよ。忍者は全裸になるほどアーマークラスが低く、無敵の存在になるのでござる。東洋出身のユージー殿には常識でござろう? なにせ忍者の本場なのだからして」

 

「僕の故郷を勝手に全裸の変態のユートピアにするな」

 

「それに全裸ではないでござるよ? ほらほら、乳首と股間はちゃんと隠しているでござる」

 

 そう言って金髪碧眼の長身ポニーテール忍者は、爆乳の先端と股間に貼り付けた星形のシールを自慢気に見せびらかした。こいつ本気で頭がどうかしとる。

 こいつは冒険者ギルドでも序列8位という腕利きのスカウト職で、名をジライヤという。ブリティッシュ(ブリシャブ流)忍術という得体のしれないスキルを会得しており、本人は東洋から伝わった忍術だと主張しているのだが、おそらく東洋人が聞いたらブチ切れること必至だ。僕はこの世界の人間ではないから耐えられた。

 

 ちなみに本名はマイン=セラーといい、本人もずっとその名を名乗っていた。

 しかし僕がこいつの名前を初めて聞いたときに【異世界語会話】が“地雷屋(マインセラー)”と翻訳してしまい、びっくりしてうっかり口に出してしまったために、「ジライヤ!? なんだかすっごく忍者っぽい名前でござる! もしや貴殿は東洋出身でござるか!? 本場の忍者のことを教えてほしいでござる!」とめちゃめちゃ絡まれてしまった。

 以来、こいつは自分をジライヤと名乗るようになり、ことあるごとに僕に話しかけてくるようになってしまった……というわけである。

 

 ちなみに全裸だと防御力が上がるなどというイカれた物理法則はこの世界にはないし、衛兵からは普通に露出狂の性犯罪者として指名手配されている。

 僕からするとスタイルがよくかなりセクシーなボディをしている眼福な存在なのだが、特にそのことで衛兵から手心を加えてもらえるということもないようだ。

 

「それはそうと、寒いから中に入れてもらえないでござるか? もう秋も深まってきたでござるしな」

 

「嫌だ、絶対に入ってくるな」

 

「ええー? なんででござるか? 宿暮らしだったときは入れてくれたでござろう?」

 

「婚約したばっかだからに決まってんだろうが。お前みたいなのと2人っきりで部屋にいるのを恋人に見られて、婚約破棄されたらどうしてくれるんだよ」

 

 僕があえてつっけんどんに言うと、いつもは天真爛漫(のうみそツルツル)な笑みを浮かべているジライヤの瞳がきゅうっと猫のようにすぼまった。

 

「ふぅん。誰と? どうして? いつ?」

 

「…………」

 

 あれ、もしかして何かまずったか?

 何か地雷を踏んでしまったような気がしながらも、僕は咳払いした。

 

「そんなことどうでもいいだろ、プライバシーの問題だよ」

 

「……よく見たら、お部屋の中に可愛い小物が置いてあるでござるねぇ? わぁ、あのぬいぐるみ可愛い~。誰のでござるかぁ?」

 

 部屋へと身を乗り出してくる全裸忍者が、わざとらしい口調でそんなことを言う。

 僕は無言でその顔面に掌をあてると、ぎりぎりと力を込めて押し戻した。

 

「人の生活をすっぱ抜こうとするんじゃないよ」

 

「これは失礼、情報を集めるのは忍者(透っ破)の習性でござるからして」

 

 あ、僕は誰にでもこんなことはしないよ。冒険者ギルドだとデアボリカとこいつ、あとは仲良くなる前のアイリーンだけだ。こっちに不躾な態度をとる奴には、相応の態度で仕返ししていいと思ってるからね。

 どうせこいつを窓から突き落としても怪我ひとつしないだろうし。

 

「ところでユージー殿ぉ。拙者たち、半年ほど頑張ってお仕事してたんでござるよ。ええ、成績優秀者は誰かさんとお付き合いできると聞いてそれはもう死ぬ思いで張り切ったでござる。なのにユージー殿は聖者だから約束はナシと言われて、その矢先に婚約? そりゃないと思わないでござるかぁ~?」

 

 どよんとした瞳で、何やらドロドロとした恨み節をぶつけてくるジライヤに僕はため息を吐いた。

 

「知らないよそんなこと。僕は一度たりとも承知した覚えはない。それにな、僕はお前にひとつだけ言っておきたいことがある」

 

「何でござるか?」

 

「結婚するにしても、僕は全裸で屋根の上を飛び回る女だけは選ばない」

 

「偏見でござる!? 人には主義主張というものがあるのでござるよ! もっと拙者の主義主張を尊重してほしい! 多様性に寛容になって!」

 

「じゃあ露出狂とは結婚したくないっていう僕の主義も尊重してくれるんだよな?」

 

「ん……んん……」

 

 言い淀むジライヤに、僕はもう一度ため息を吐いた。

 

「大体逆の立場で考えろよ。お前は毎日全裸にエプロンだけで街を歩く男と結婚したいのか?」

 

「む……無理でござる。ユージー殿が家の中で裸エプロン姿を拙者だけに見せてくれるのなら、それはそれで正直嬉しいけど、それで街を歩く変態とは結婚できないでござる!」

 

 え、こいつ家の中でなら嬉しいの……?

 ちょっと予想外の返答でドンビキしてるんだけど。

 男の裸エプロンのどこに興奮する要素があるんだ。このシコ猿を少し甘く見てたわ。

 

 ま、まあいい。とりあえず説得はできたようだし。

 

「じゃあこれからはどうすればいいかわかるな?」

 

「はい……。明日からは服を着て街を歩くでござる」

 

 よしよし。これでこいつも真人間になることだろう。

 

「というか、よくこれまで官憲に捕まらなかったな」

 

「ああ、それは全裸で潜んでいると絶対に見つかっちゃだめだ、見つかったら人生が終わる……! という気分になるからでござる。そうすることでアーマークラスが下がって、見つかりにくくなるのでござるよ。これが隠れ身の修業に最適なのでござる」

 

「絶妙に筋道が通ってるようでまるで通ってない理論はやめろ」

 

「特に住宅地の屋根に潜むときは最高でござるな。いつ若い男に見られて悲鳴をあげられるかわからない、そのスリルがたまらないのでござる」

 

「やっぱりただの露出狂の変態なんじゃねーか!」

 

 もうやだぁ、この変態と会話するの……。

 鋼メンタルにも限度ってものがあるんですよ。

 

「あ、勘違いしないでほしいでござる。拙者がこうして裸で目の前に姿を現す異性はユージー殿だけでござるよ? 他の男性の前では完璧に姿を消してお話ししてるでござる」

 

「そんな特別感はいらない」

 

「まさに裸の付き合いというわけでござるな」

 

「裸なのはお前だけだ、そんな一方的なコミュニケーションが成立してたまるか」

 

 頬を赤らめ、もじもじと体をくねらせて恥じらう全裸の女忍者に、僕は欲情するよりも頭が痛くなった。何故その恥じらいをそもそも裸を他人に見られてはいけないという常識に回せなかったのか。

 

 そして一刻も早くお帰り願いたい。こいつとサシで話しているところを絶対にあの2人に見られたくない。

 

「それで、何しにきたんだよお前は。密書の配達にきたんじゃないのか」

 

「あ、そうでござった。ギルマスからのお使いでござる。密書とは言うものの、ユージー殿は文字が読めないので伝言にて承ってござるよ」

 

「デアボリカから?」

 

 はて、なんだろう。

 次に治療に行く貴族が決まったのかな?

 僕が小首を傾げていると、ジライヤは桜色の唇の端をニイッと歪めた。

 

「あやつではござらぬ。新ギルマスからの使いでござるよ」

 

「え、新ギルマス?」

 

「そうでござる。拙者たちをいいようにコキ使って約束を反故にしたあのアバズレの時代はもう終ったのでござるよ。これからの拙者たちの主君はウェンズディ=コールドリバー……ウェズ殿なのでござる!」

 

「は?」

 

「そしてウェズ殿からの伝言でござる。これからのユージー殿の身の振り方を決める会談を開こう! 場所は旧ギルドマスターの屋敷、デアボリカ邸でござる!」




Xで設定だけ出してたやべー奴を本編に出したら、本当にインパクトがやばすぎた。
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