【書籍版1巻2/20発売】貞操逆転ハードモード異世界を鋼メンタル冒険者が生き抜く   作:風見ひなた(TS団大首領)

46 / 121
第46話「鋼メンタルでデアボリカの破滅を見届け抜く」

 何やら僕を見てニコニコとやたら上機嫌なアンゼリカさん。

 そんな彼女を警戒した目つきでじっと見ているウェズ君。

 この屋敷の主人でありながら長テーブルの端っこに座らされ、非常に不機嫌そうな顔で押し入ってきた闖入者たちを睨みつけているデアボリカ。

 そしてこの僕。この4人が、今回の話し合いの参加者だった。

 

 話し合いって言ってもなあ。

 この4人で何を話すの? デアボリカとウェズ君がすっごい剣呑な雰囲気出してるし、居心地悪いからとっとと帰りたいなあ。

 そんなことを思っていると、場を仕切るアンゼリカさんが笑顔のまま口火を切った。

 

「それではお話を始めましょうか~。今回集まってもらったのは、デアボリカちゃんのギルドマスター剥奪と、それに伴うユウジ君の後見人の移譲についてですよ~」

 

「だから! なんで私がギルマスの座をウェズに譲らないといけないんだ!?」

 

 バァンとテーブルを叩いて、デアボリカが語気荒く椅子を蹴立てた。

 

「私が作った組織だぞ! 私が一から構成員をスカウトして、私が心血注いで育て上げた組織なんだぞ! 都市政府には人事に口を出す権利はないはずだ! 冒険者ギルドは民間組織だ、都市をモンスターから守っているといえどもだ!」

 

 おや? ウェズ君の話だとほぼ官営って話だったけど、そうじゃなかったのかな。

 僕がそう思いながら見ていると、デアボリカは自分の言葉に励まされたのか徐々に豊かな胸を張って、表情に自信を浮かべ始めた。

 

「それに私のギルドは複数の都市にまたがる冒険者ギルド連盟に加盟している! ギルド憲章には冒険者ギルドは外部からのいかなる干渉にも左右されないと書かれているのだ! 都市政府が私を罷免することは、連盟にケンカを売ることに等しいんだぞ! アンゼ姉様、今すぐ考え直すんだな!」

 

 なるほどぉ。強気になったと思ったら、連盟なんてものを持ち出したのか。

 お前が調子に乗るときって、いっつも他人の権威頼りだよな。わかりやすーい。

 アンゼリカさんはうんうんと頷く。

 

「ええ、確かにその通りですね~。ちゃんと仕事をしてるギルマスさんを、サウザンドリーブズ政府が独断でクビになんてしちゃ、いらない波風を立ててしまいますよね~」

 

「だったら!」

 

「デアボリカちゃんがちゃんと仕事してたら、の話ですけどね」

 

「…………は?」

 

 アンゼリカさんは手元の羊皮紙を持ち上げると、裏返してデアボリカに突き付けた。

 

「これはですね~、デアボリカちゃんの働きぶりについての調査報告書ですよ~。この報告書によれば、貴方は半年前からギルド員さんを競わせ、成績優秀者さんにはユウジ君をお婿さんにすると焚き付けたそうですね~。ですが一か月前にユウジ君に病気を癒す力があるとわかると、それを一方的に反故にしたと。当然ギルド員さんが怒り出すと、秘書のウェズ君をギルマス代行に立てて逃げ回り、挙句にユウジ君を連れて2週間ロングフィールド伯爵領へ旅に出た……。ウェズ君、これは事実ですか?」

 

「事実です」

 

 ウェズ君は淡々とした表情で肯定した。

 

「…………」

 

 デアボリカはただただ絶句している。

 そんな彼女に、アンゼリカさんはふうとため息を吐いた。

 

「貴方は一か月の間、ギルドマスターとしてギルド員さんの怒りを収める責任を放棄したということですよね? ユウジ君は奴隷でもないのに勝手にお婿さんにするという約束をした件も問題ですが、その当時は市民権がなかったのでここは大目に見ます」

 

 大目に見られちゃうのか。

 市民権がない人って、マジで人間として扱われてないんだな……。

 

「でもですね~、ギルドマスターの責務を放置して、その処理を他人に押し付けたのはいただけませんよ~。半年前からギルド内部に無用の騒乱を招いた件と合わせて、連盟に罷免を認めさせるには十分ですよね?」

 

「い、いや! しかしそのおかげでウチのギルドは連盟内でもトップクラスの成績を上げられたんだぞ! ブリシャブ島全土に冒険者を派遣して、こんな片田舎の都市のギルドとは思えない成績だとお偉方にも認められたんだ! その功績があるだろう!?」

 

「あー、なるほど。さてはその連盟内の評判を中央議会に進出するネタにするつもりだったんだな?」

 

 僕が思わず口を挟むと、デアボリカはギロリとこちらを睨みつけてきた。

 

「うるさい! お前は黙っていろ! 余計なことを言うとブチ殺すぞ!?」

 

「デアボリカちゃん、そんな乱暴な言葉を使っちゃダメですよ~。他人を無用に脅すような悪い子は、デアボリカちゃんでもおしおきしちゃいますよ」

 

 アンゼリカさんが頬に手を置いてあらあらと眉をひそめると、デアボリカは途端にびくんと体を震わせて語気を弱めた。おお、やっぱりお姉ちゃんには弱いんだなあ。こんなに優しそうな人なのに、どこに怖がる要素があるのかわからないけど。

 

「報告書によれば、ギルド員さんは怒り心頭だったそうですね~。今にも割れる寸前だったギルドを収めたのはギルマス代行を務めていたウェズ君で、ギルマスとしてとても適性があるとあります」

 

「だ、誰だその報告書を書いたのは!? 明らかに内部の人間だろう、それ! 裏切者め!」

 

「でも先に裏切ったのはデアボリカちゃんですよね~?」

 

「は……?」

 

 アンゼリカさんはぺらぺらと報告書をめくる。

 

「約束を反故にしたまでならまだよかったんですよ~。序列1位のパーティさんはユウジ君を婿に取る話を辞退しましたし、それ以下の序列のパーティさんも矛を収めざるを得ませんでした。でも、デアボリカちゃんはギルド員さんの前で『冒険者ギルドは中央議会に打って出るための踏み台』だなんて言っちゃったんですよね?」

 

「あっ……」

 

 デアボリカは顔色を真っ青に染めると、わなわなと震えだした。

 

「ま……まさか、あの失言を……」

 

「はい。旅から帰ったその日のうちに、護衛をしていた冒険者さんたちがギルド中に触れ回りました」

 

 マジかぁ。

 要するにそれはアイリーンとウルスナのパーティメンバーの仕業なんだけども、リーダーさんもよほど腹に据えかねたんだな。

 

「ギルド員さんはみんなカンカンですよ~。『拾ってもらった恩があるからと一度は大目に見ていたけど、自分たちをそんな風に思っていたとは思わなかった。そんな扱いをするならこっちにも考えがある』と、みんなこぞって移籍を考えたり、ボイコットしてますね~。ウェズ君が今、必死に宥めて回っていますよ?」

 

 アンゼリカさんの言葉に、ウェズ君がげんなりとした顔で頷いた。

 ウェズ君が苦労人すぎる……。デアボリカのやらかしたツケを全部払わないといけないとか、ウェズ君にどんな落ち度があるんだよ。

 いっそ本当にロングフィールド領に連れて行ってあげた方がいいんじゃなかろうか。もうどーにでもなぁれって逃げてもいいのよ?

 

「領主様が貴方を謹慎処分にし続けているのも、激怒した冒険者から身を護るためでもありますからね。当面は絶対ギルドに顔を出したりしないでください、庇いきれません」

 

「う……うう……」

 

 ウェズ君の淡々としてるけど温情のあるコメントに、デアボリカはがくりと椅子に崩れ落ちた。

 

「以上をもって、デアボリカ=ホットテイストにはギルドマスターの業務を継続することが事実上不可能であり、その責務を全うする意思ももたないとサウザンドリーブズ政府は判断しました。暴徒となった冒険者さんが都市の秩序を乱す可能性を危惧して、特例としてギルドマスターの罷免を求め、後日連盟にも事実関係と共に通達します。また、後任には一カ月の間、苦難の中で代行を務めあげたウェンズディ=コールドリバーを推薦します。以上の決定に異議はありませんね?」

 

 判決文を読み上げる裁判官のように事務的な口調で、アンゼリカさんはデアボリカの社会的地位の剥奪を宣言した。いや、実際裁判官でもあるんだっけ。

 問われたデアボリカは、ぐったりと椅子にもたれかかって言葉もないようだ。真っ白に燃え尽きて、口から魂が抜け出ているようにすら見える。

 

 悪魔は分不相応な野心の火で身を焼かれ、天使の裁きを受けて灰となったのだ。

 

 終わったな……。

 散々迷惑をかけられてきたけど、実際こうなってみるとざまぁという感想すら出ない。むしろ可哀想すぎて、かける言葉すら浮かんでこないよ。

 僕って甘いのかなあ。

 迷惑をかけられた分以上に何もかも失いすぎてるでしょ、これ。

 

 実の妹の社会的立場を抹殺したアンゼリカさんは、とんとんと報告書を机の上で揃えると、困ったような笑顔を浮かべた。

 

「そんなにがっかりしないでください、デアボリカちゃん。これも身から出た錆ですよ~。でも安心してください、デアボリカちゃんを見捨てるようなことはしませんよ。ギルマスに戻してあげることは難しいですが、財産の没収なんてしません。ほとぼりが冷めたら新しく起業でもして、大好きなお金儲けをすればいいじゃないですか~」

 

 うん? うん……。

 いや、なんというか、自分の手で社会的生命を奪っておいて、そういうこと笑顔で言えるってすごいね。

 ウェズ君が言ってた、善人だけど常に他人に優しい結果をもたらすわけではないって、こういうことか。

 貴族だから、家族だからって大甘に見逃されるのもスッキリしないけど、身内でも容赦なく処罰するのも目の当たりにするのはちょっとキツいものがあるな。

 

 そんな真っ白に燃え尽きたデアボリカから視線を外すと、アンゼリカさんはニコッと優しそうな笑顔を浮かべた。

 

「さて、じゃあ本題に移りましょうか~」

 

「えっ」

 

 これで本題じゃないの? もうお腹いっぱいってくらいなんだけど。これ以上の話はカロリーオーバーだよ。今日はいったんお開きにして帰らせてくれない……?

 そんなことを考えている僕をよそに、アンゼリカさんは言葉を続ける。

 

「見ての通り、デアボリカちゃんは再起不能になってしまったので、ユウジ君を後見することができません。ですから、これからはユウジ君は都市政府を代表して私が後見しますね~」

 

「あ、はい」

 

「では差し当たってですが、ユウジ君はもうサウザンドリーブズの城壁から出てはいけません。お外はとっても危ないですから、ずーっとこの都市にいてくださいね~」

 

「は?」

 

 聞き間違えか? 今、とんでもないことを言われたような気がするけど。

 そんな僕に、アンゼリカさんは掌を合わせてにこにこと笑顔を向けてくる。

 

「安心してください、生活に不自由させるつもりはありませんよ~。病人を癒すことをお仕事にしたいんでしたよね? これからは私が都市内の富裕層を見繕って、診療を斡旋しますよ~。もちろん引き続き、ロングフィールド領でデアボリカちゃんがお約束していた金額をお支払いしますね~」

 

「…………」

 

 私って太っ腹でしょう、と言わんばかりの笑顔を向ける彼女に、僕はなんと言っていいのかわからなくなった。

 いや、ありがたい話ではある。

 これは僕に最大限配慮しているんだろうなーというのも伝わっている。

 伝わっているんだけど、それは……。

 

「それからデアボリカちゃんが後見人ではなくなったのだから、これからは冒険者ギルドの管轄を離れても大丈夫ですよ~。私の管轄に移しますし、職場として大きな診療所も用意してあげますね。これで冒険者ギルドに2割のマージンを納める必要もなくなります。そもそも冒険者ギルドの仕事はモンスターさん退治であって、何も支援してないのにそんなマージン取るなんて理不尽ですよね~? これでもーっとお金を稼げますよ~、嬉しいですね~♪」

 

 アンゼリカさんはまったく邪気のない天使のような笑顔で、そんなことを言う。

 ちらりと横を見ると、ウェズ君が眉間に深い皺を寄せていた。眼鏡は怒気で真っ白に曇り、その鏡面の下を窺い知ることはできない。

 

 アンゼリカさんはぽん、と手を叩くとさらに言葉を続けた。

 

「ああ、それと……ユウジ君が御使い様だとか天使様だとか、そんなデマが市民さんの間に広がっていますよね~。あれは良くないと思うんですよ~。それで私に名案があって、あれは私の差し金だったってことにしましょう。ユウジ君は私に言われてやっただけということで。ほら、私の名前って『天使みたいな女』だし、噂を吸収するにはぴったりでしょう? これでユウジ君に付きまとう厄介な人たちも減らせますね~」

 

 それは為政者としては当たり前の発言なのだろう。

 為政者よりも民衆に人気のある人物が存在しているなんて、本来あってはならないことだ。だからその人物を支配下に置いて、人気を吸収する。

 シビリアンコントロールってやつだね。

 むしろこの時代の文化からして殺されないだけありがたい話だし、アンゼリカさんが本当に善人で心優しい人なんだろうなっていうのはひしひしとわかる。

 わかるけども……。

 

 口ごもる僕に代わって、ウェズ君はすうっと息を吸い込むと、テーブルを力の限りに叩いて声を上げた。

 

「異議あり! その提案には、私はまったくもって賛同しない! 冒険者ギルドのマスターとして、冒険者から翼をもぎとる行為を認めるつもりはない!」




時限爆弾は残ってる、まだ底じゃないぜ。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。