【書籍版1巻2/20発売】貞操逆転ハードモード異世界を鋼メンタル冒険者が生き抜く   作:風見ひなた(TS団大首領)

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第47話「鋼メンタルの爆弾発言で口を挟み抜く」

「異議あり! その提案には、私はまったくもって賛同しない! 冒険者ギルドのマスターとして、冒険者から翼をもぎとる行為を認めるつもりはない!」

 

 席を蹴立て、アンゼリカさんに人差し指を突き付けるウェズ君。

 そんな彼へアンゼリカさんは心底困惑したような視線を返す。

 

「あら~? 私としてはできる限りの好待遇を用意したつもりなのだけれど……。何が不満なのかしら。そもそもユウジ君は冒険者ギルドの管轄から外れるのだから、貴方に口を挟む権利はないでしょ~?」

 

「私はユウジ君の友人として発言しています。友が不利益を被ろうとしているのを見過ごすわけにはいきません」

 

「ふぅん? ならそれはそれでいいのだけれど。不利益なんてとんでもない勘違いよ~。私はユウジ君が安全で快適な生活を送れるように、精いっぱいの気遣いをしているのよ。十分な報酬も用意するし、御使い様だの天使様だのと変な人たちに付きまとわれることもない。それで何が不満なの~?」

 

「ユウジ君をサウザンドリーブズに閉じ込めて、その価値を独占しようとしているではありませんか」

 

 ウェズ君の言葉に、アンゼリカさんは小首を傾げる。

 

「それは当たり前のことじゃない? ユウジ君は聖者様という世界で唯一本物の奇跡を使える、生きた宝物のような人なのだし。彼を他の都市の貴族に見せびらかすなんて、どうぞ奪ってくださいって言ってるようなものよ~。それはお馬鹿さんのやることだわ」

 

「ぐぇ」

 

 あっ、灰になったデアボリカが姉の言葉のナイフで追撃されてる。

 

 まあそりゃそうだよな。普通に考えてアンゼリカさんが全面的に正しい。

 普通の人はお宝を手に入れたら、他人に見えない場所に隠して自分だけが利益を得ようとするに決まってる。貴重な宝物を誰彼構わず自慢して見せびらかすなんて幼児の発想だよ。

 

 アンゼリカさんは穏やかに微笑みながら、ウェズ君に諭すように言葉を続ける。

 

「もちろんウェズ君もそんな理屈はわかるでしょう? 貴方も傍系とはいえ、サウザンドリーブズの貴族なのだから。サウザンドリーブズをさらに発展させ、豊かで幸福な場所にするためには、是非ともユウジ君の協力を仰ぐべきよ~。だから私はユウジ君にできるだけの好待遇を約束しているの」

 

「それは……」

 

 言い淀むウェズ君に、アンゼリカさんはにこりと笑いかける。

 

「それに貴方も冒険者ギルドのマスターなら、外がどれだけ危険なのかよくわかっているでしょ~? 城壁の外は大角ウサギさんやゴブリンさんといった凶暴なモンスターさんがのさばり、盗賊団さんが幅を利かせている荒野なのよ~? わざわざそんな危険なところに行くなんてどうかしているわ。

 モンスターさんと戦うなんて、それしか能がない人たちに任せておけばいいの。まっとうに働いてお金を稼げる能力がある人は、安全な場所で平穏な人生を過ごすべきなのよ~」

 

 冒険者全否定!

 冒険者ギルドのマスターの前でそれ言う? とは思うけど、貴族としてはこれが当たり前の感覚なんだろうね。だって現代の地球のVIPとボディガードの関係を見ても、めちゃめちゃお金持ってるならボディガードする側じゃなくてされる側に回るもん。

 この人にとっては冒険者というのは命を張ってしかお金を稼げない人に見えるんだろう。実際この街の冒険者は元々が犯罪者スレスレの荒くれだったり、流れ者だったりするので間違っているとも言いがたい。

 

 そして現ギルマスのウェズ君は、貴族サイドの人間なんだよね。

 だから余計に物申しにくいんだろう。冒険者を利用して安全を買っているという点では、ウェズ君もアンゼリカさんも同じ穴のムジナだからだ。

 

「……それでも。それでも冒険者は金だけをもらって命を張っているわけではありません。未知の場所を訪ね、未知の強敵と出会う。冒険にロマンを求めているからこそ、私たちに代わって命を懸けることができるのです」

 

 おお。言葉を絞り出すように、ウェズ君が口を開いた。

 僕はじっと黙って、会話の流れを見守っている。きっと僕がしゃしゃり出て、アンゼリカさんに直接言葉を交わすことはあまり良い結果をもたらさないだろう。だからこそ、ウェズ君は僕に代わってアンゼリカさんに抗ってくれているのだ。

 僕にだってそれくらいはわかる。ここは黙って、ウェズ君に託そう。

 

「冒険者はそれしか能がないからモンスターを駆除しているのではないのです。みんな他の人生を選べるくらいに有能で、あえて冒険者を選んだのです。先の言葉は撤回してください。そして、ユウジ君から冒険者であることを奪わないでください。彼は自分の脚で世界を見て回ろうとしているのです」

 

 アンゼリカさんは目をぱちぱちと瞬かせ、あっけにとられたような顔をした。

 ……いや、これは本当に何を言われているのかわかっていない?

 

「ええと。自分の脚で世界を見て回る? それに何の意味があるの~?」

 

 すっごい哲学的な問いがきたな。

 ウェズ君は何とも言い難い顔をした。

 

「意味と言われても……。自分の目で未知を拓き、世界を広げる。そうすることで探求心を満足させ、ロマンを味わう。それを楽しいと感じる人種もいるのです」

 

「それはその人が満足するだけでしょ~? この街を豊かにすることに力を費やせば、その人だけじゃなくてみんなが幸せになれるじゃないの~。そっちの方がずっと素晴らしいと思わない?」

 

「……確かにそういう一面もありますが」

 

「でしょ~? だからユウジ君は冒険者なんかより、この街で病気を治すことに専念してみんなを幸せにするべきだと思うのよ~。それが誰にとっても一番幸福な選択だわ」

 

 あー。これはダメだ、話が通じないやつだ。

 アンゼリカさんは極端な全体主義者なのだろう。

 きっとアンゼリカさんにとってはこの街だけが世界なのだ。街を囲む壁の外に何の興味もなく、そしてこの街を自分自身だと思っている。だから街を発展させることが誰にとっても幸せだと考えるし、個人の探求心や好奇心は些末なこととしか捉えない。

 

 これが母親の教育の成果でこうなったのだとしたらすごいよ。

 アンゼリカさんは統治者としてまさに理想的だ。個人の欲望をもたず、全体の利益しか考えない統治マシーンとして完成されている。

 なんでこの人の妹がデアボリカなんだろうね。三女だから放任主義で育てたにしても、クオリティに差がありすぎるだろ。

 

 ウェズ君は眉をしかめて、言葉を探しているようだ。

 どうやって説得したらいいものかと考えているのだろう。

 それを反論の余地なしとみなしたのか、アンゼリカさんは満足げな笑みを浮かべた。

 

「ウェズ君はとってもいい子ね~。私があれこれ勝手に決めてるのを見て、お友達を心配したんでしょう? 大丈夫、私に任せてくれれば全部安心よ~。ユウジ君には何不自由のない生涯を約束するわ~」

 

「…………」

 

「私、ユウジ君のこと気に入っちゃったもの。こんな可愛い子だと思ってなかったなぁ。ふふっ、いい子いい子してあげたいな~」

 

 そう言って、彼女は僕に慈愛の笑みを向けてくる。

 うーん、好感度が高いのは嬉しいんだけども。何か嬉しくないのはどうしてかな。

 

「頑張って働いてくれた分だけ報酬もいっぱいあげるし、彼にぴったりのお嫁さんも探してあげるわね~」

 

 ん?

 

「商人の子あたりが妥当だと思うけど、ユウジ君は平民だけど聖人だし、ジェントリの子女でも釣り合うわよね。できるだけ若くて男の子に優しい子を探してあげるわね~。男の子を使い潰したりしないような性に淡白な子を見つけるから、期待しててね~♪」

 

 いやいやいや。そりゃ困るよ。

 さすがにこれ以上黙ったままはまずい、ウェズ君には悪いがここからは僕が話させてもらう。

 

「いえ、僕はもう婚約者がいるのでそれは遠慮します」

 

「「……え!?」」

 

 ウェズ君とデアボリカが弾かれたように僕に顔を向けた。

 

「ちょ、ちょっと待ってください。いつの間に婚約者なんて生えてきたんです!?」

 

「おい、どういうことだ貴様! 私に隠れて恋人なんて作っていたのか!?」

 

 2人ともめちゃめちゃグイグイ詰め寄ってくるじゃん。

 

「いや、2日前にプロポーズされたから2人とも娶ったけど……」

 

「2人!?」

 

 アンゼリカさんまでが目を丸くしてこちらを見つめている。

 

「なんで2人も~!? デアボリカちゃんからそれなりの報酬を受け取っているはずだし、女に囲われなくても十分でしょ~? 婚約するにしても1人でいいはずじゃあ……」

 

「え、だって2人とも好みだし」

 

「でもその……夜の生活はどうするつもりなの~? 女1人の性欲に付き合うのも大変でしょ~?」

 

 ぽややんとした顔に似合わず、結構あけすけなこと訊いてくるんだなこの人。

 

「いえ、別に……? 僕はスケベだから2人同時に相手しようかなって」

 

「!?」

 

「早く一緒に住んで、毎晩でもイチャイチャしたいなって考えてます」

 

「!?!?」

 

 

≪説明しよう!

 聖女というからにはさぞ清純なのだろうと幻想を抱いていた貴族の兄ちゃんが、いつの間にか男2人と付き合っていたことをカミングアウトされたうえに「好みの男性2人と結婚したので、早いとこ毎晩3Pしまくりたいです♥」との爆弾発言を聞かされたような衝撃である!≫

 

 

「だ、誰だ!? 誰と結婚するつもりだ貴様! まさかとは思うが、冒険者ギルドの人間じゃないだろうな!? なあ!?」

 

 デアボリカが縋りつくように僕の胸倉をつかんでくる。

 なんだよお前に関係ないだろ。

 僕はその手をパシッと叩いて振りほどきながら、胸元をただした。

 

「アイリーンとウルスナだよ」

 

「ぎゃああああああああああああああ!!!!」

 

 デアボリカは両手を頭の横に置いて、激しくシェイクした。

 エクソシストに退治される寸前の悪霊みたいな悲鳴をあげるじゃん。

 

「き、貴様ぁぁぁ! そんなことをして、私がどうなると思う!? 散々競争を焚き付けたうえで聖人だからと約束を反故にしたうえで、しれっと中堅とルーキーから2人嫁にしてるんだぞ! 私を殺す気か!? 本気で命を狙われるだろうが!!」

 

「え? 結婚するのになんで僕がお前の事情なんて気にしないといけないんだよ」

 

「まあそりゃそうですよね。自業自得です」

 

 吹き出しそうなのを必死に堪えるような顔で、ウェズ君が頷く。

 

「ぎいいいいいいいい!! もうダメだああああ! 二度と屋敷の外を歩けない! もう嫌だ、この屋敷だけが安全な居場所なんだ! 私はこれから一生外に出ないぞ! この楽園に引きこもって暮らすんだ!」

 

 デアボリカはテーブルの下に潜り込み、ぶるぶると震えた。

 自身の行動の結果とはいえ、なんて哀れな生き物なんだ……。

 

 まあこいつのことなんてどうでもいいや。

 僕はアンゼリカさんに向き直ると、思うことを口にした。

 

「アンゼリカさん、僕のためにいろいろしてくれるのは嬉しいです。でも僕には僕の人生を選ぶ権利があります。貴方にあれこれと人生設計をされなくても、勝手に生きていきますよ。僕は貴方のペットじゃないんですから」

 

「……ああ、言っちゃった」

 

 ウェズ君は苦いものでも口にしたように口元を歪め、でも瞳にはどこか楽しそうな色を浮かべながら呟いたのだった。




天使(極L)
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