【書籍版1巻2/20発売】貞操逆転ハードモード異世界を鋼メンタル冒険者が生き抜く 作:風見ひなた(TS団大首領)
いくら鈍感さに定評がある僕でもね、半年も暮らしてればこの世界がクレイジーだって気付くわけですよ。
だって明らかにおかしいもん。街を歩いてる若い男はいないし、目下戦争中って気配も漂ってこないし、僕がドブさらいの後に上半身裸で涼んでたら生唾飲み込んだ女が列をなしてジロジロ見てくるし、ギルドの受付に並んでたらさりげない風を装って尻や胸板にタッチしてくるセクハラ女いるし。
こりゃ貞操逆転してますわ。
受付のウェズさんとはたまにお弁当を広げる仲だけど、どうもこの世界の男子出生率って1/4しかないらしいですよ。しかもみんな性に淡泊で、元の世界みたいに恋人ほしいってガッツくこともなければ、思春期にエロいことで頭がいっぱいで勉強が手につかないってこともないらしい。僕なんか中学生の頃は常にエロで頭満たされてて、シャーペン握るよりもチ〇ポ握ってたかったって言ったらドン引きされました。
この世界の男、ちょっと淡泊すぎんか? 男女の貞操観念が逆転してるって言っても、元の世界の女はもっとむっつりでエロいだろ。ウェズさんが特に性衝動がないだけかもしれないけど。
そんなわけで元の世界の男並みの性欲を抱えてる上に、恋をする相手もそこらへんに転がっておらず、発散しようにも娼館に行く金もねえっていう飢えたスケベ女どもに囲まれて僕は生きています。
とはいえいきなり暗がりに連れ込まれて肉竿ワッショイ!肉竿ワッショイ!とかそういうわけでもなく、未だ貞操は無事ですが。
多分これはギルドの威光のおかげなんだろうね。冒険者なんてアウトローな職業ではあるけど、世間様から爪はじきにされた身なりに秩序というものはあるわけで。要はギルドが保護するってそれとなく宣言してる僕を性欲に任せて逆レなんてしたら、どんな目に遭わされるかわからない……ということで大人しくしてるんだろう。
まあ薄着とかしてるとギンギンに視線感じたりはしますが。見られるだけなら全然マシだよ、減るもんじゃないしね。
ただ困っているのが、パーティを組んでくれる相手がいない件。
僕がこれっぽっちも魔力を持っていないのはギルドではもう周知の事実で、ぶっちぎりの最弱として有名なのだ。
まあこの半年で結構コツを掴んだので大角ウサギくらいならなんとか狩れるようにはなったんだけど、こいつ別に一般市民でも狩れるんだよね……。なんならこっそり壁の穴を通って外に出た子供たちが遊びで狩ってるくらい。あいつら僕を見かけると「大人なのにウサギ程度にも勝てないの?」「お兄さん冒険者なんてやめて、早く結婚したほうがいいよ」って煽ってくるんだよね。
この世界においてはメスガキ以下の戦闘力、それが僕だ。
≪突然だが説明しよう!
適性がないのに危険な仕事を選んで苦戦している美人のお姉さんを、子供たちが純粋に心配している図である! なお、この子供たちは後に憧れのお姉さんが大人たちにゲスい欲望を向けられていることを知り、性癖が歪む!≫
そんな僕を仲間に入れてくれる人なんているわけがなく……。いや、正確にはいるんだけど「養ってやるから俺の男になれよ……♥」ってねっとりした手つきで尻を撫で回してくる女なので、お断りしている。
帰れ女、お前に曝炎神龍セット2.5個分の価値があるのか!
幸いにしてギルドマスターのデアボリカさんは「ゆっくり成長してくれればいいんですよ~」って言ってくれているので、この半年というものドブさらいやらネズミ退治やらの雑用仕事を挟みつつ、じっくりゆっくりと僕のペースでやらせてもらっている。
馬糞やら人糞やらの汚物が大量に混入したドブさらいなんて鼻が曲がりそうなんだけど、なんと【苦痛耐性】を使えば悪臭をカットすることができることを発見した。【疾病耐性】が守ってくれるから病気にもならないし、【精神耐性】のおかげでルーチンワークも苦にもならないから、僕はなんの負担もなくこなすことができるのだ。
それに何より、人から感謝されるのがいいね。誰もやりたがらない仕事だからか、街の人は結構ありがとうって言ってくれるのだ。終わった後は頭から井戸水被って行水すれば臭いも消せるしね。なんか行水した後にもありがとうって言われるのが謎だけど。
ただ、最近デアボリカさんが「あの……そろそろ仕事が嫌になったりしませんか?」とか聞いてくるのが不思議だ。
人から感謝される仕事をしてるんだから嫌になるわけもなし、最近では大角ウサギを狩れるようになって自分の進歩も実感しているので「いえ、全然! やりがいがあってますます気力が充実してます!」って答えてるんだけど、そのたびに「そうですか……」と狐につままれたような顔でどっかに行ってしまう。
きっと僕が自分の成長の遅さを気に病んでいないかと心配してくれてるんだろう。
僕みたいな末端社員のことも気にかけてくれてるんだなぁ……さすがだぁ。
とはいえ、だ。
デアボリカさんは僕の成長はいくら遅くても気にしないと言ってくれているが、もう半年も経つんだしそろそろステップアップしたいなーとは思っている。
なので毎晩こうしてチート販売機を召喚しているわけだが……。
「コインが増えないなぁ……」
宿の一室に現れた自動販売機を、僕は首を傾げながら見やった。
この半年というもの、チートコインはただの1枚も増えていない。
……いや、おかしくないか? 僕なりにこの半年間、精一杯頑張ったつもりなんだけどまったく評価されてないってこと? 大角ウサギの駆除はともかくとして、ドブさらいとか、失踪した猫探しとか、結構人に感謝される仕事はやってきたつもりなんだけど。誰にでもできることは評価に値しないってことなのかなあ。
生前いくらいいことをしても死なないと表彰されないからコインが増えないって可能性もあるけど、それなら自動販売機を呼び出せるのはおかしいでしょ。自動販売機を呼び出せる以上は、コインだって生きてるうちに増えるはずだ。
ちなみにこの半年、かなりひもじい思いをしたこともあったけど、犯罪にだけは手を染めていない。酒場で無防備に財布をぶら下げてる人とかいたからやろうと思えば盗めたんだろうけど、評価が下がってコインを没収される可能性があったからだ。目先の小銭よりもチートコインの方が価値が高いのだから、盗みなんかしないよそりゃ。このスタンスは今後も変えるつもりはない。犯罪ダメ、絶対。良識云々じゃなくてチートが欲しいからってのは自分でも現金だと思うけど。
それはさておき……。
「やっぱ魔力がないと話にならないな。1でもいいから魔力が欲しい……」
この世界で冒険者をやって痛感したのが、魔力がないと本当にお話にならないということ。前衛職であっても魔力は攻撃力や防御力の底上げに使われるため、魔力が低いと敵の装甲を貫けないし、一撃食らうと命にかかわる負傷を受けてしまう。魔力が低い者はそもそも冒険者としてやっていけないのだ。
なお、この世界では一般的に女性の方が男性よりも魔力が高い傾向にある。どんなにムキムキに見える男性でも魔力が高い女性と腕相撲したら負けてしまうのだ。だから戦うのはもっぱら女の仕事で、か弱い男は家で料理や育児でもしてろってのが昔からの文化なのだとか。ウェズさんがそう言ってた。男性なりに社会進出を果たしたくて受付をやってるらしい。フゥン。
まあ魔力のおかげで体のラインが見えるようなスケスケ薄着やビキニアーマーみたいなお前戦場ナメてんの?って感じのファッション優先スケベ装備をした女冒険者を眺められてこっちとしては眼福ですがね。どうもこの世界の女は男の視線に無頓着というか、自分が男の性欲の対象になっているという意識が薄いようで、ジロジロ見ていても嫌悪感を抱くどころか呑気に手を振り返してくる始末である。お前ら、自分がどんだけドスケベか自覚しろよ。まったく、返す返すもクレイジーな世界だ。
はぁ、それにしても……。
「どうすりゃコインが増えるんだろうなあ……?」
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雄士が2階に消えてから、酒場はワイワイと賑わいを取り戻していた。
エールを酌み交わしながら野卑な冒険者たちが口にするのは、もっぱら雄士の話題だ。ここ最近はずっとそんな調子である。
「今日もユージィはエロかったよねぇ」
「ああ、大角ウサギの突撃で鎧に穴が開いてたけど、そっから脇腹から鼠径部が覗いててさぁ。筋肉がチラチラ見えてんのよ。なのに本人は全然気にした風もなくて、いつも通りの無頓着でのしのしとウサギ担いでんの。腋とかもバッチリ見えてるし」
「いやぁ、すごいよねえ。夏場なんか上半身裸でドブさらいしててさ。鼻も曲がりそうな臭気が立ち込めてんのに、円陣組んで集まったギャラリーがガン見してんの。で、終わったら一斉に『ありがとうございます!』だって。本人は人がやりたがらない仕事をやったから感謝されたって嬉しそうにしてたけど」
「それ、オカズくれてありがとうございますってことでしょ? 帰ってから絶対シコってたわ」
「そりゃあねぇ。ただでさえ貴重な男が無防備に上半身を裸でさらしてたら、誰だってオナネタにするわな。それ目当てでドブさらいの仕事がユージィに集中してたくらいだし」
「いや、役所は自分たちで業者雇ってドブさらいしろよ……。まあユージィが半裸さらしてる方が住民は喜ぶのかな?」
「ほんとユージィは自分がどんだけエロいか自覚しろっての。あんな無自覚ドスケベ男、他にいないよ。ほとんど痴男スレスレじゃん」
≪突然だが説明しよう!
これは我々の世界で言うと、嫌な顔ひとつせずに日々上半身ブラ1枚でドブさらいに精を出す貧困美少女にあたる! どれだけジロジロとおっぱいを見られていようと、まったく気にせずに手を振り返してくれるような絶妙なカモ具合だ!≫
「そんなのが自分はクールな一匹狼です、みたいな顔して酒場でエール飲んでんだからたまんねえよな~」
「女に媚びて寄生しようって感じもないしねえ。あんだけ魔力の欠片もなけりゃ、普通は冒険者なんてさっさと諦めるか、男を武器にして強い女に取り入ろうって考えそうなもんだけど」
「なんか自分の力だけでなんとかしようとしてんだよね。才能もないのにさぁ、健気だよねえ。ああいうの見てるとさぁ……」
『ブチ犯してぇ~!!』
女冒険者たちは声を揃えながら互いを指差し、ギャハハハハと下品な笑いをあげながらジョッキを傾けた。
「だよなぁ~! 暗がりに連れ込んで、無理やり犯したくなるよなぁ~!」
「わからセックス! わからセックス! 肉竿ワッショイ! 肉竿ワッショイ!」
この女冒険者たちの頭が大層悪く下品なのはもちろんなのだが、自分がどれだけセクシーなのかにも気付かないままエロスを垂れ流し続けた雄士にも責任はある。具体的にはこいつらはどっちも宿の2階で金を払って雄士の生着替えを鑑賞したクチであった。金払って着替えを見せるような商売男なんだから、猥談のネタにしてもいいだろという判断である。雄士の懐には一銭も入って来ないのだが。
別にこれはこの2人に限った話ではなく、この酒場にいる客は大体雄士の生着替えを鑑賞したことがある。ギルド共有のオナネタであった。
余談だが、この下品な会話をしている女冒険者たちは、よそのファンタジー世界ならヒロインを務められそうな太ももぶっとい清楚系剣士といかにも頭よさそうなおかっぱ眼鏡魔導士である。慢性的に男が不足しているので、リアル女子校の下品でだらけた空気が社会全体に蔓延しているのだった。いや、貞操逆転しているから男子校か?
こんな肉食メスの群れに迷い込んだ雄羊なんか秒で食い散らかされそうなものだが、雄士が半年も童貞を守れているのはもちろん事情があった。
「で、結局誰がユージィの童貞を食うんだろうね?」
「そりゃおめー、今一番アツい賭けの対象だからよ。まあでも上位PTの誰かでしょ? ギルマスが焚きつけてるしさ」
「いや、そりゃ見通しが甘いよ」
インテリ魔導士がウサギの串肉にがぶりと噛みつき、知的に眼鏡を光らせながらムチムチ剣士に串を突き付ける。
「上位勢なんてほっといてもトップ成績なんだから、褒美をあげる意味が薄いのよね。ここは中堅へのご褒美とすることで、忠誠心を爆上げさせた方がギルドとしちゃおいしいわけよ。私の見立てでは、やっぱりウルスナあたりかな?」
「ほーん、なるほどねぇ。でもさぁ、自分たちを差し置いて下位の奴がご褒美かっさらっていったら上位PTは気を悪くするんじゃない?」
「まあそういう見方もあるけど。でも上位PTなら別にユージィにこだわらなくたって、いくらでも男は買えるじゃん? 一番男をほしがってんのはやっぱり娼館に通う金もないけどポテンシャルはある中堅層なのよね」
「なるなる。でもさ、女と男のことは一概には言えないしさ。特別にユージィが欲しいって上位勢もいないとは限らないんじゃない? なにしろ」
『チンポでかいし』
ハモった後にギャハハハハハハと下品な笑いを上げてジョッキを鳴らし、女冒険者たちはグビグビ酒を呷る。
別に男性器の大きさで男の価値が決まるわけもないのだが、それでも一般的に男性器はデカい方が良いとされている。デカすぎると痛いだけなのだが、こいつらは口だけのオナ猿処女なのでそこらへんがわかっていないのだった。
≪突然だが説明しよう!
我々の世界の童貞男はみんな巨乳が好きだ! 自分に自信がないから年下を狙うロリコンもいるが、大体の男はおっぱいはでかい方がいいと思っている!
だから貞操逆転世界においては、処女はでかいチンポが好きなのだ!≫
それはさておき雄士が未だに誰にも手を出されていないのは、ギルドに保護されているからである。
もっと言えば、ギルマスのデアボリカが見込みのありそうな冒険者にこう告げて回ったのだ。
「貴女も随分ウチで活躍してくれてますし、そろそろ収入にも余裕ができたのでは? ここらでひとつ、家庭を持ってはいかがでしょう。帰ったときに出迎えてくれる夫子がいるというのはいいですよぉ~。ちょうど今、いい子がいまして。冒険者の才能はないのでもうじき諦めるんですが、冒険者の仕事にも理解があるので夫にするにはぴったり! 器量もよく、身持ちも固く、人のために働くのが大好きという子なんですよ。もちろん本人の了承も取ってますし、じきに冒険者を引退します。本人を見たければ、ウチと仲のいい酒場の2階で見られますよぉ。
さて、これは貴女だから持ち掛けてる話なのですが……とはいえ、他にももっとギルドに貢献してくださる方がいらっしゃれば、そちらにお話を持っていくことも、もしかしたらあり得るかもしれません。となれば……わかりますよね?」
ギルドの冒険者たちは大いに発奮した。
これを中堅から上位層までの独身全員に言って回ったのである。
大ブリシャブ貴族を絵に描いたような二枚舌外交であった。
おかげでギルドの成績は大いに上がり、他の街の冒険者ギルドの3倍近くにも達したほどである。
これにはさぞかしデアボリカもウハウハであろうと思われたが、今になって顔を青くしていた。理由は2つ。
1つには冒険者たちがあまりにも加熱しすぎているから。雄士争奪戦は本人の知らないところで大いに盛り上がった。上位PTは顔を合わせるたびにバチバチと火花を散らしてメンチを切り合い、争奪戦に関わらない下層以下のPTは格好の賭けの対象として張った張ったで銭を積み上げる。ギルドの成績は大いに上がったが、代わりに内部での仲が非常に険悪になった。うまく雄士を婿にする勝利者が出たとして、そのまま他のPTが納得してくれるかはかなり怪しい感が出てきている。
そしてもう1つは、半年が経過しても雄士が冒険者を廃業する様子が一切見えなかった。焦ったデアボリカは雄士に諦めさせようと毎日のように顔を見に行くのだが、ドブさらいや猫探しのような3K仕事ばかり押し付けられた雄士はまったく堪えていない。まるで常人のメンタルとは思えなかった。
「ど、どうしようウェズ君!? このままではギルドが空中分解してしまうよ……!」
「死ねばいいんじゃないですか?(困りましたねえ)」
「逆ゥ!」
こうしてギルドに吹きすさぶ台風の目となった雄士だが、本人だけは呑気なものであった。童貞は死ぬまで守るつもりだけど、それはそれとして彼女は欲しいな~。(元の世界基準で)恥じらいがあって可憐な子とかと付き合いたいな~とか思っている。
無理だゾ。