【書籍版1巻2/20発売】貞操逆転ハードモード異世界を鋼メンタル冒険者が生き抜く 作:風見ひなた(TS団大首領)
そんなわけで僕たちは今、高級娼館“蜜月楼”に来ています。
娼館って娼夫のお兄さんがお客のお姉さんにエッチなサービスするところだと思ってたし、まさかゴールドン氏にこんなところを紹介されるとは思わなかったんだけどね。
もちろんそういうサービスがメインなんだけど、別にそれだけというわけでもないらしい。娼夫と一緒にお酒を飲んだりだとか、素性を隠したいカップルが豪華な部屋で誰はばかることなくセックスしたいだとか。
ここらへんはキャバクラ……ホストクラブ?とか、ラブホテルも兼ねているみたいだね。カップル同士がパートナー交換したりとか複数人で盛り合ったりするようなのもあるみたいだからハプニングバーもかな。まあそれは僕たちには関係ないか。
要するにエロの総合レジャーパークみたいな理解でいいらしい。テーマパークに来たみたいだよ、テンション上がるなあ~。
で、馬車から降りるなり黒服のお姉さんが即座に駆け寄ってきた。
「申し訳ございません。本日は貸し切りとなっておりまして……」
「ゴールドンのおじいちゃんからの紹介で来ました」
「大変失礼いたしました。どうぞこちらへ……お荷物がございましたらお預かりいたします」
武器とかは入り口で全部強制的に預けさせられるみたいだね。魔法が存在する世界でどれだけの意味があるのかはわからないけど、お客さんの身の安全を確保したいという意識は好ましいと思うよ。裸の付き合いだからね。
そのままプレイルームに通されたわけだけど、これがまた広い。
100畳くらいはあるんじゃないかなあ。もちろんひとつの部屋で100畳ってわけじゃなくて、ベッドルームに加えてリビングルームもあるし、巨大な浴槽付きのバスルームも個室のトイレもあるし、高級そうなお酒の瓶が並んだホームバーのスペースも設けられてるよ。
はっきり言っちゃうと、これって高級ホテルのロイヤルスイートルームだね。
ただひとつ違うのは、ベッドルームがやたら金ピカで力が入ってるってところ。ベッドも10人くらいが横になれるくらいでっかいし、サイドチェストに水や精力剤らしきポーションが入った瓶が並んでるよ。
これは金持ちのおっさんが10人の女を侍らせて遊んだりするんやろなあ。うらやましい。
……いや、この世界だと10人の男を侍らせた金持ちのお姉さんか? なんか10人の裸の男がちんぽこ並べてベッドに寝転んでる絵のインパクトがきつくて、全然うらやましくなくなったぞ。
アイリーンはそわそわと落ち着かない様子で部屋の中を探検している。あっ、クローゼットを開けたら中身が大小様々なディルドの山で、慌てて扉を閉めた。「うわーうわー」と真っ赤になってる。かわいい。
ウルスナはいかにも平然とした風情で、あちこち見て回ってるね。あ、ディルドが入ったクローゼット開けた。「へえ……なかなかいいものを揃えてるじゃないか」なんて余裕の顔でうそぶいている。
お前処女だって知ってるんだからな。愛いやつめ。
「さてと」
ベッドに腰かけていた僕が立ち上がると、2人の背中に俄かに緊張が走った。
動物が耳をピンと跳ね上げるみたいに、僕の挙動に注目を注いでいるのがわかる。
来る―――――!
「じゃあ僕、ゴールドンのおじいちゃんと約束があるから、先に娼夫さんたちの病気を治してくるね。2人はゆっくりくつろいでていいよ」
来ない――――!
2人ががくりと膝から崩れる。
「お、お前……! お前……!」
ウルスナが何か文句を言いたげだけども、仕方ないんだよ。
「だってそういう約束でここを使わせてもらってるんだから。こういうことはきちんとしなきゃだめだよ。ね、アイリーンはおとなしく待っててくれるよね」
「う、うん! 待つよ!」
「よしよし、えらいえらい」
アイリーンの頭をかいぐりかいぐりと撫でてやると、「あたし、待てができるおりこうさん!」という感じで嬉しそうに笑顔を浮かべる。
「……わかったよ」
こうなるとウルスナも我がままを言えず、むすっとした顔ながらも頷いた。
よしよし、この2人の操縦法がだんだんわかってきたぞ。まずアイリーンから説得すれば、ウルスナは折れてくれそうだ。
「何、長くはかからないよ。ぱぱっと終わらせてきちゃうから、戻ったらとりあえず一緒にお風呂に入ろうね」
「お、おう!」
「一緒にお風呂……えへへ、すっごいえっちだね……!」
2人はでへへと期待に満ちた表情で、僕を送り出してくれたのだった。
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で、この店のキャストこと娼夫のみなさんの治療に来たわけだけど。
「わあー、すごいや! 本物の聖者様だ!」
「その黒髪、地毛なんですか!」
「腹筋すごいっすね! ちょっと触ってみてもいいっすか!?」
僕は黒髪の細マッチョイケメン集団に囲まれ、キャイキャイと質問責めされていた。
「えっと、治療を……」
「聖者様の筋肉マジイケてますね! こう、見せ筋じゃなくてしっかり実用って感じ!」
「髪の毛ツヤツヤだあ! 染めた色じゃこうはならないよなぁ」
「聖者様、握手してください! 握手!」
「聖者様って彼女や彼氏いるんですか?」
「治療……」
なんというか、彼らの圧がすごい。そして距離感も近い。
あっこら、どさくさに紛れて勝手に人の胸筋を触るんじゃない。金とるぞ。
「ちょっとアンタたちぃ! 聖者様が困っちゃってるじゃないの! ほら、見世物じゃないのよ! 散りなさぁい!」
高い声の一喝が響き渡ると、娼夫たちはさっと僕から離れて部屋の後ろに下がる。
「ごめんなさいねぇ。この子たち、媚びを売ることばっかうまくって。女に媚びを売るならともかく、同じ男に売ってどうしようってのよ。ねーえ?」
漆黒のキセルを手に近づいてきた声の主は、ウェーブがかった艶やかな金髪を腰まで伸ばした偉丈夫だった。その体躯はよく鍛えられており、上半身ががっしりと盛り上がっている。胸元はがっつりと開き、豊満な大胸筋を晒していた。
下半身もいいね。大腿四頭筋にハムストリング、どちらもしっかりと太い。僕にはわかる、これはただ者じゃないぞ。
ただし口調はオネエだ。
「ええと……あなたは?」
「私はここでナンバーワンを張らせてもらっている、アレスという者よぉ。ふふっ、まあ誰にも身請けされないまま年季だけ嵩んだロートルってわけねぇ」
そんな謙遜を口にしながら、アレス氏はぷかりとキセルを吹かした。
キャ……。
キャラが濃い!
こういうオネエ口調のお兄さんって大体強キャラなんだよね。
もう娼夫の人たち、完全に黙りこくって様子をうかがってるもん。この娼館でがっちり権力握ってるんだろうなあ。吉原遊郭でいうところの花魁みたいな感じ?
「……あらやだ、聖者様っていうからしわくちゃのお爺ちゃまが来るのかと思ったら、随分かわいい子だったのねえ。これはこの子たちが騒ぐのもわかるわぁ」
そう言って、アレス氏は僕の顔を覗き込みながら艶やかに笑う。
それがもう色気があるっていうか、男の僕でもドキリとさせられるような妖艶な笑顔なんだよ。いやあ、本当にエロい人って性別を超越するんだね。
「えーと、病気の治療に来たんですが」
「ああ、そういうお話だったわねぇ。実のところ性病にかかってる子なんていないんだけどね」
「え、いないの?」
僕が目を丸くすると、アレス氏はコロコロと笑う。
「いないわよぉ。みんなちゃんとアルシェちゃんが作った予防薬を毎日飲んでるもの。ああ、アルシェちゃんっていうのはこの街一番の錬金術師ね。王都の学院で学んだとびっきり優秀な子で、周辺の都市含めても一番の腕利きなのよ」
「へえー」
アルシェって今日行ったアトリエのアルシェさんだよね? というか工学や物理学だけじゃなくて薬学まで修めているのか。そりゃ優秀だわ。
「このお店はお高い分、そのへんはきちっとしているの。万が一にでもお客様に病気なんてバラ撒けないものね」
「予防薬なんてものがあったんですか」
「決して安いものじゃないけどね。それでも必要なことよ。このお店は一夜の楽しい夢を見たいお客様に、つらい現実を忘れて素敵な快楽の夢を心行くまで楽しんでいただくためのお店なの。そのためならお高い魔法薬だって必要な投資よね」
魔法で病気を治すことはできないとは聞いたけど、予防するポーションなら存在するのか。
……あの豪華なプレイルームを擁するようなお店のスタッフが高いと口にするほどなんだから、本当に値が張るんだろうなあ。一般人がそうそう手に入れられるようなもんじゃなさそうだ。そもそも市場に出回ってない可能性が高いね。アルシェさんしか作れない特注品なのかもしれない。
「でも、じゃあなんで僕は病気を治せなんて言われたんだろ?」
「それは口実じゃないかしら。タダだと聖者ちゃんも気が引けるでしょ? だからオーナーも病気の治療を名目にしたんだと思うわぁ」
「なるほど」
さすがゴールドンのおじいちゃんだ。人間関係の調整がうまいね。
そんな僕を見て、アレス氏はふふっと笑った。
「ま! 予防薬って言っても万能じゃないしねっ。せっかくだから聖者ちゃんに診てもらおうかしら。梅毒や毛ジラミは防げても、風邪とか水虫とかいろんな病気にはかかるのよぉ。コホッ、コホッ。……かくいう私もちょっと最近咳が出ちゃって、いやぁねえ。トシは取りたくないわぁ」
……あれ?
そういえばスラムの病人を治したとき、何人か結核っぽい病状の人がいたような。それでパンデミックの予兆を疑ったけど……。
ま、ここで全員治しちゃえば問題ないか!
「わかりました、それじゃ一列に並んでください。自分が病気じゃないと思ってる人も、まだ発症してないだけで病気を抱えてる可能性があります! ここにいない人がいたら、集めてきてください! まずはアレスさんから、そこに立って!」
「あら、なんか突然凛々しくなっちゃって。お兄さんドキッとしちゃうわぁ。ふふっ、じゃあちょっとだけ診てもらおうかしらね」
うふふと笑うアレスさんの額を軽く叩きながら、【インフルエンサー】を発動。
なんだか子供のお遊戯を見守るみたいな顔をしていたアレス氏は、途端に瞳をぱちぱちとしばたたかせた。
「あ、あら……? 最近ずっと感じてた、息苦しさと胸の痛みがすうっと消えたわ……。これ、もしかしてマジで……?」
「ア、アレスの兄貴! 顔色が良くなってませんか!?」
「本当だ! 最近すごく心配になるような咳をしてた兄貴が! 医者なんてヤブだからって、治療にも行かなくて心配してた兄貴の咳が止まってる!」
やっぱこれ、パンデミックが進行してたんじゃ……?
もしかしてゴールドンのおじいちゃんが心配してたのって、性病じゃなくてこっちの方だったのかな。だとしたらゴールドン氏はすごいよ。
わあ……!と色めき立った娼夫たちが、こちらに先ほどとは違う色の視線を向けてくる。
「あ、あの! 次は俺を診てもらえませんか!? 実は俺も咳が出てて……」
「ちょっと待てよ、次は僕! 僕でお願いします!」
「オイラもちょっと熱っぽくて……」
「あっ、ちょ……」
我先にと殺到しようとする娼夫たち。その勢いに押されて倒れ込みかけた僕を、誰かが逞しい腕で抱き留めた。
「てめえら、鎮まりやがれ! 聖者様は一列に並べとおっしゃっただろうが!」
ドスの利いた声がびりびりと部屋中に響き渡ると、娼夫たちが一斉にびくっと体を震わせて固まる。
声の主は腕の中の僕の顔を覗き込みながら、申し訳なさそうな顔をした。
「ふぅ。ごめんなさいねぇ、躾のなってない子たちで。ああ、それにしても」
アレス氏はにこりと穏やかな笑みを浮かべた。
「久しぶりに遠慮なく大声が出せるって、気持ちいいわね。これもあなたのおかげみたい。ありがとう、聖者ちゃん」
「どういたしまして」
アレス氏の今の笑顔には妖艶さの欠片もなかったけれど、僕はその笑みが今日見た彼の表情の中で、一番好ましいと思った。
「さあ、ではこの店中のキャストを緊急治療します! 人気のキャストほど多くの客と接触しているから、危険度が高いです! 人気キャストから優先してこの部屋に集めてください! オーナーであるゴールドンさんから治療を託された僕のお願いは、オーナー命令に等しいと思ってくださいね!」