【書籍版1巻2/20発売】貞操逆転ハードモード異世界を鋼メンタル冒険者が生き抜く   作:風見ひなた(TS団大首領)

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第56話「鋼メンタルでホストとして接待し抜く」

「ゆ、ゆ、ゆ、ユウジ! なんで貴様がこんなところにいる!? いつから娼夫になった!? 新婚早々に嫁を放り出してこんなところで働いているなど……いや、あの2人は夫をこんなところで働かせるなど、女として甲斐性がないにもほどがあるだろう! そんな露出の多い衣装を着て、恥ずかしくないのか!? ああもう、どこからツッコめばいいんだッ!?」

 

 僕の顔を見たデアボリカは、手にしていたグラスを放り投げて頭を抱えた。

 

 なるほどなー。なんとなく予想はついてたけど、やっぱこのメスガキの上司はデアボリカか。まあこの上司にしてこの部下ありって感じだったね。

 その横ではアンゼリカさんがグラスを手に固まっている。僕をまじまじと見たまま、先ほどからまるで身動きしていない。結構予想外の出来事に弱いタイプなのかな?

 

 ちなみに僕の恰好はというと、男向けのバニースーツだ。

 上着は胸からお腹にかけてぱっくりと開き、大胸筋も腹筋もはっきり見えるようになっていて、首には黒い蝶ネクタイ。

 ボトムは黒い半ズボンで、鍛え抜かれた太腿を惜しげもなく晒しているよ。お尻には白いポンポンを付けて、ウサギのしっぽ感を演出している。

 黒いボタンのついたハンドカフスもオシャレでいいね。

 頭には黒いウサ耳をセットして、足元には白いパンプスでコントラストの対比を狙っている。

 急ごしらえにしてはいい出来でしょ? 僕がたった今作りました。

 

 本来は“蜜月楼”の酌夫としての制服は黒基調のバーテンダー風タキシードだったんだけど、僕に言わせればまだまだ刺激が足りないよ。

 というわけで急遽裁ちばさみでタキシードを改造して、上着のお腹をぱっつりと開き、ズボンも半ズボンの丈までぱっつりと裁断。

 ウサギの耳はコスプレ衣装があったのでそこから持ってきました。

 

 この世界ではまだバニースーツという概念がなかったみたいだけど、「大ブリシャブ帝国ってでかいウサギまみれだし、ウサギなんて年中発情してるからエロい男の象徴としてぴったりじゃない?」と説明したら、なんか納得してもらえました。

 

「素敵よユージちゃん! すっごくエロいわ! こんなエッチな衣装を考えるなんて惚れ惚れしちゃう!」

 

 黄色い歓声を送ってくるアレス氏に、僕はにやりと微笑みを返した。

 

 僕もなかなかいい出来だと思ってるよ。

 露出多めだけど、自慢の筋肉を余すところなく披露できるのはいいね。

 そのうちアイリーンとウルスナに披露してみるのもいいかもしれない。

 

「見られて恥ずかしいのは自分の体に自信がないから。本当に自分の筋肉を鍛えていれば、むしろこの衣装は自慢の肉体をアピールできる最高の素材となる……! そうだろう、アレスさん!」

 

「ええ、その通りよ!」

 

 白い歯を光らせてサムズアップするアレス氏に、僕は親指を立てて返した。

 

「おや? お酒が進んでないみたいですね。どうしましたお美しいお姉さん、めいっぱい楽しまないと損ですよ! グラスが空いていてはもったいない、僕がお注ぎしましょう!」

 

 そう言って僕は硬直しているアンゼリカさんのところへ行くと、ぽかんとこちらを見ている酌夫を横にどかしてその隣に陣取った。

 テーブルの上のブランデーをアンゼリカさんのグラスに注ぐと、黄金の蜜のような色合いの液体がとくとくと満ちていく。うーん、いい香りだ。こいつは上物の酒だぞ。僕もぜひご相伴に与りたい。

 

「僕にもこの美酒を貴女と共に愉しむ栄誉をいただけますか、お嬢さん?」

 

「は、はい」

 

 ラッキー! アンゼリカさんがまじまじとこちらを見ながら頷いてくれたので、僕は手酌でブランデーを空いているグラスに注いだ。

 

「では乾杯」

 

 アンゼリカさんのグラスとぶつけてチンと鳴らし、僕はぐびりと黄金の液体を飲み干した。

 うまーい! これはいい酒だ。伯爵様のところでいただいたものにも劣らない品質だね。これならいくらでも飲めるぞ。

 お酒で絶対酔わない体質になっちゃったけど、僕は元々お酒大好きなんだよ。特にアルコールの風味と喉を焼く感覚がいい。

 

 アンゼリカさんはグラスから一口酒を口に含んだきり、じっと僕を見ている。

 おっと、なんか楽しんでない系?

 どうも酌夫というのは女性を楽しませるのが仕事らしいから、このままじゃ失格だな。とりあえず褒めてみよっか。

 

「今宵は新月ですね。ここへ来る途中、お怪我などされませんでしたか?」

 

「大丈夫ですけど~……」

 

「それはよかった。貴女の美しさに、月も恥じらって姿を消してしまったようです。さあ、どうぞもう一献。月の女神もかくやという美貌の天使に、この一杯を捧げさせてください」

 

「まあ~。ふふ、背伸びしちゃって可愛いですね~」

 

 驚きがさめてきたようだ。

 アンゼリカさんは普段のペースを取り戻すと、僕が勧めるままにお酒を口にした。

 

 あ、ちなみに僕のテンションがさっきからおかしいのは演技だよ。

 昔『実録!ホストクラブ密着24時』っていうテレビ番組でホストの手口を見たことがあって、それをアレンジしてるんだ。

 なんかホストって「ウェイウェイ! シャンパン入りました~! グイグイよし来い!」みたいなノリで定番コール連呼してるような感じが多いみたいなんだけど、このお店はああいうのよりもっと上品な感じだし、言葉は飾らないとね。とりあえずこの路線で続けてみようかな。

 

 アンゼリカさんもちょっと機嫌が良くなったみたいだし。一発芸を披露するのはゲストが機嫌を直して場を温めてからでもいいだろう。

 

「ああ、いい酒ですね。一人で飲んでもおいしいでしょうけど、貴女のような方と飲むとさらに格別だ」

 

「ふふ~。私もユウジ君と飲む機会があるとは思いませんでした~。ユウジ君、まさかここで働いてるんですか~?」

 

「いえ、今日は特別ゲストのようなもので。でもラッキーです、アンゼリカさんと一緒に飲む機会にありつけるなんて」

 

「うふふ、見え透いたお世辞なんて結構ですよ~。こんなおばさんと飲んでも楽しいわけないでしょ~? いつも若くてかわいい子と一緒なんですから~」

 

 アンゼリカさんは疑うような口調で、そんなことを口にする。

 

 おばさん?

 でもアンゼリカさんって20代後半くらいでしょ。それはおばさんじゃなくてお姉さんって呼ばないかなあ。

 僕も中学生くらいの頃は20代後半なんておじさんおばさんだよなーみたいなことを考えてたけど、実際20歳になるとまだまだ全然お兄さんお姉さんだよねって思うよ。

 特にアンゼリカさんは綺麗好きだし、20代前半でも通じるくらいに若く見える。

 

「もちろんあの2人と飲んでも楽しいでしょうけど、アンゼリカさんにはあの2人はない魅力がありますから。それがお酒をおいしくさせるんですよ」

 

「あら~。どんなところかしら?」

 

「繊細なところです」

 

 僕はそう言って、グラスを傾けた。

 ぷはー、うまい。

 

「貴女は賢く、公正な判断を心掛けている方だ。その一方で心優しく、誰かのことをいつも気にかけてもいる。その公正さと情愛の間でバランスを取りながら、貴女はいつも人知れず心の軋みに苦しんでいる。それが貴女の繊細さだ。僕にはそれが、とても美しい心の在り様だと思えているのです」

 

「…………」

 

 アンゼリカさんは黙ったまま、疑わし気に細めていた瞳を見開いた。

 

 あ、別に僕は大したこと言ってないよ。

 例のホスト番組で、人を褒めるときのテクニックを紹介してたんだ。美人に向かって綺麗だねなんて褒めても、全然響かないんだよ。そんなの本人だって自覚してるからね。

 

 人を褒めるときに効果的なのは、自分では気づいていない部分、もしくは自分で気づいてるけど内心に隠している部分を言い当てることなんだってさ。すると相手はこの人は自分の内面を見てくれてる、理解者になってくれる……と感じるんだ。

 

 で、そういうときの決まり文句が「繊細さ」だよ。だって人間であれば必ず心の中に矛盾を抱えているものだからね。はっきり言ってしまうと、繊細ではない人間なんて実はいないんだ。だけど他人から「君は繊細だね」って言われてしまうと、他人に理解してもらえた気がしちゃうんだね。

 あ、少なくともアンゼリカさんはアイリーンとウルスナよりは繊細だろうから、あの2人にない魅力という言葉に嘘はないよ。

 

 それと、褒めるときには「自分はそう思う」と口にするのもポイントだ。相手との心の距離をぐっと近づけたように錯覚させられるんだってさ。

 

 心理学って面白いね。同時にそうしたテクニックを使って相手の心に忍び寄る人間が存在しているわけで、おっかなくもあるよ。

 僕はこんな手口を悪用して相手を篭絡するような悪い人に引っかからないようにしなきゃと思ったもんだ。

 

 まあ、こうして相手に楽しいお酒を飲ませるための話術として使うのなら結構なことでしょ。おっとアンゼリカさん、またグラスが空いてますよ。へへへ、僕も一杯いただきますね。

 

「では改めて乾杯。……貴女の心の美しさに」

 

「は、はい……」

 

 アンゼリカさんはなんだかぽおっとした感じで、僕とグラスを交わす。

 だんだんとお酒が回ってきたのかな。よし、楽しくお酒を飲ませられたぞ! パーフェクトコミュニケーションだね!

 

 あ、そうそう。あと心の距離を近づけるテクニックといえばパーソナルスペースだね。僕はぐいっとアンゼリカさんに体を密着させて、肩をぶつけるほどの距離に迫る。

 

「あ……」

 

 アンゼリカさんの肘が僕の脇腹に密着しているけど、構わず肩をこすりつけていくよ。相手との心の距離が近づいたところで体をくっつけると、さらに親近感を得られるそうだ。

 もちろん相手の反応を観察して、嫌がってる感じなら即座に離れないといけないけど。アンゼリカさんは何か照れてる感じなので、問題なさそうだね。

 まあ元から抱き着き癖のある人だし、そこらへんで嫌がることはないと踏んではいたけど。

 

 ちなみに僕もアンゼリカさんの爆乳が剥き出しになった胸板に直接当たって、すごく気持ちいいよ。むほほ。

 

「……ユウジ君、思ってたより悪い子だったんですね~」

 

 アンゼリカさんは僕の肩に首をもたれかからせながら、ぽおっと虚空を見上げてそんなことを呟いた。はて? 何か悪いことしたかな……。

 思い当たる節がないけど、とりあえずこういうときの定型句でも言っておくか。

 

「貴女がそうさせるのですよ。罪な(ひと)だ」

 

「そんなこと……」

 

 アンゼリカさんがそう言って顔を伏せたとき、キャンキャンうるさい声が響いてきた。

 

「おい! お前、いつになったら芸を披露するつもりだ! アンゼリカ様に酒ばっか飲ませてごまかそうたってそうはいかないからな!」

 

「あーはいはい」

 

 デアボリカのところの駄犬メスガキが、イケメン娼夫たちを侍らせながらグラスを持ち上げて喚き散らしていた。

 確かに芸を披露するために来たんだったな。いや、そもそもの目的はこの駄犬の主人の顔を見ることだったんだけどね。その飼い主ことデアボリカは、何やら僕とアンゼリカさんを交互に見ながらオロオロしてるよ。

 まあそろそろ場も温まってきたし、いっちょ芸を披露してやりますか。

 

「…………」

 

「ヒッ!? アンゼリカ様、どうして私を睨むんです……?」

 

 背後で駄犬が何やら怯えた声を上げているのが聞こえたが、まあ僕には関係ないな。

 

 僕はバニースーツの上着を勢いよくはだけ、人差し指を天に突き付けた。

 

「ヘイ! ミュージックカモン!」

 

「うむ!」

 

 駄犬は僕の後ろに立つと、小太鼓を打ち鳴らしてリズムを奏で始めた。

 一発芸には音楽が必要だということで、演奏ができる人を探したんだけど、この駄犬が太鼓なら得意だというのでワンフレーズだけ教えたのだ。

 本当にこのワンフレーズを繰り返すだけだけど、それで十分。

 

 そして僕は、とっておきの隠し芸を披露する。

 

「それでは男島雄士、リンボーダンスを踊らせていただきまーすッ!」

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