【書籍版1巻2/20発売】貞操逆転ハードモード異世界を鋼メンタル冒険者が生き抜く 作:風見ひなた(TS団大首領)
「それでは男島雄士、リンボーダンスを披露させていただきまーすッ!」
僕が披露するもの……それは西インド諸島から世界中に広まったユーモラスな踊り、リンボーダンスだ。
上体を大きく後ろに反らしながら、水平に渡された棒の下を潜り抜ける曲芸みたいなダンスだよ。
実は僕はこれが大の得意で、大学のサークルの飲み会でもことあるごとに披露していたんだ。
とはいえ、ルールも何も知らない人に向けていきなり披露してもわけがわからないよね?
だからしっかりと踊りながら説明しました。
僕はカリビアンリンボーダンスの動画を見て覚えたんだけど、これって実際にリンボーダンスをする前にサンバを踊って場を盛り上げるんだよ。
「ヘイ!」
太鼓のリズムに乗って腰をフルフルとくねらせながら、僕は飛んだり跳ねたりしながらノリノリでダンスを披露する。
振り付けも完璧だ、任せてくれ。昔動画で完コピするまで覚えたからね。なんか異世界に来てから前世で見聞きしたものに関しての記憶力が異様に良くなってるから、ばっちりだよ。
「おお……!?」
「な、なんだこれは……見たこともない前衛的な舞踊だぞ……!」
「これが東洋に伝わる舞!? 聖者様は踊り子でもあるのか……!?」
「こ、腰の振りがエッチすぎる……! 短パンから覗く生足が……!」
いや、東洋じゃなくて西インド諸島だよ。南米だね。
ともあれルールも解説したところで、僕は体を鍛えていることに自信のあるイケメン娼夫たちを数人呼び出した。
リンボーダンスって競技の一面もあってね、数人単位で順番に棒の下を潜って行って、棒にひっかかったり地面に体が着いたりしたら失格になる。一通り終わったら次は棒の高さを一段階下げて次の周回だ。最終的に最後の一人になるまでこれを繰り返すよ。せっかくだからみんなにも参加してもらおうじゃないか。
「ヘイ! ヘイ!」
太鼓の音に合わせて僕は手拍子を叩きながら、上体を反らして余裕で棒を潜り抜けていく。
いつしかみんな僕と手拍子を合わせて、棒を潜る娼夫たちを応援し始めたね。
「く、くうっ!?」
おっと、最初の周回はよかったものの、次の周回で一人脱落しちゃったね。
「なんだよお前、体固えなあ」
「うっせ、思ったより難しいんだよこれ!」
だよね。結構きついと思うよ。何せ普段やらない動きだからね。
リンボーダンスってね、全身の関節が柔らかくないとなかなか難しいんだ。でも毎日しっかりとストレッチと筋トレをしてれば話は別だ。
これは見せ筋だけを意識して上半身だけ鍛えてるとうまくいかない。しっかり全身運動で体を鍛えてるかをアピールする、絶好の筋肉サービスタイムってわけだね。
「はっ! ほっ!」
そこへ行くとアレス氏はさすがだね。大柄な体躯なのに、見事に体を折り曲げて棒の下を潜り抜けていく。やはり最後に残るのは僕とアレス氏になりそうだな。
「ぐ、ぐびり……!」
おっ、よほど見入っているのかな。
女性陣が食い入るように身を乗り出して、僕が棒を潜るところを見つめているね。うんうん、楽しんでくれているようで何よりだ。
現代人にとっては所詮棒を潜るだけでしょ? って醒めた感じで見られるかもしれないけど、みんなで勝負してるとすごく盛り上がるからねこれ。
しかし、こう……急ごしらえの衣装だから、ちょっと服のサイズが合わないかな。
半ズボンが結構ぴちぴちで、下半身に食い込んでるんだよ。
おかげでマイサンが半ズボンの上からくっきりと浮かび上がってしまっている。
まあそれは別にいいんだけど、このままだと股の可動域が狭くて棒くぐりに支障が出そうだ。
「はぁ……はぁ……!」
なんかすごい荒い息を吐いてる人がいると思ったら、身を乗り出してるアンゼリカさんだった。よほど僕のパフォーマンスに夢中になってくれてるみたいだね。これは芸人冥利に尽きるよ。
「はああっ! 負けないわよ、ユージちゃん!」
「おっ……やっぱりアレスさんが残ったか」
いつしか僕とアレス氏以外は全員がリタイアして、残るは僕たち2人だけだ。
「さすがはアレスさんだ。体を鍛えているのは本当みたいだね」
「ふふっ。筋肉を愛する者として、エンターテイナーとして、そうやすやすと負けてあげるわけにはいかないわよぉ」
「オーケー! 一騎討ちといこうか!」
既に棒の高さは30センチ、アレス氏の体躯で潜れるギリギリになっている。
これが最後の戦いになりそうだ。
「まずは私から行かせてもらうわよぉ!」
「いいね! さあ、みんな手拍子と掛け声で応援してください! ハッ! ハッ! ハッ! ハッ!」
『ハッ! ハッ! ハッ! ハッ!』
みんなの熱い視線が集中する中、アレス氏は……見事に棒を潜り抜けた!
やっぱりすごいよアレス氏は、初めて挑戦する競技でここまでの健闘を披露するなんて。
棒を潜り終えたアレス氏は、高々と両腕を広げてアピール! これには僕も思わず拍手だ。
「さあ、今度はユージちゃんの番よぉ!」
「よぉし、頂上決戦といこうか!」
と、その前に……。
やっぱこの半ズボンじゃこれ以上股を開くのは無理だね。ふむ……。
よし、脱いじゃおう!
僕は勢いよくズボンを脱ぎ捨てると、ぽーいと宙に放り投げた。
そのままズボンは空を舞って……。
あ、やべ。アンゼリカさんの顔にばさっとかかったぞ。
ごめんね、酒の席の無礼講ということでどうかひとつ……。
アンゼリカさんは顔に被されたものが僕が脱いだズボンだと見るや、それを胸元にぎゅっとかき抱いている。……え、これどういう感情? とりあえず怒ってはいないのかな? 片手をあげながらウインクして、ごめんねという気持ちを伝えておこう。
さて! 黒のパンツ一丁になった僕は、窮屈さも消えて気分さっぱり。
これなら股関節も存分に開けるってものだ。
「では、レッツリンボー!」
「Foooooooo!!」
リズミカルに太鼓が鳴り響く中、僕は限界までぐうっと股間を広げて、上体を反らして棒を潜ろうとする。
「よっ! はっ!」
むむむ……久々にこの高さに挑むから、ちょっと苦しいか?
だがここが勝負のしどころだ。下腹に力を込めて……むんっ!
ばちぃん!!!
「あっ」
いかん、力を込めすぎてしまった……!
圧迫からの解放感にさらされたマイサンは、勢いよく勃起して棒を跳ね飛ばしてしまったのだ。
くそおっ、こんなくだらないことで負けてしまうとは……!!
「うおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
あれ? 何でみんな盛り上がってるの?
僕はフロア中を包み込んだ謎の歓声に、ぱちくりと目をしばたたかせた。
そんな僕の前に、アレス氏がやってくる。
「負けたわ……」
「へ? いや、僕は棒に触れたから失格だよ」
「リンボーダンスで負けたんじゃないわ。私は娼夫として、エンターテイナーとして貴方に完敗したのよ……! ここは娼館、エロの殿堂! であるならば、私は性の求道者であることを第一にしなくてはならなかった。だけど、私は日頃の鍛錬の成果を見せたいというエゴに囚われ、エロのスペシャリストであることをいっとき忘れていたのよ」
「……はあ」
いや、何言ってんのこの人?
アレス氏は悔しそうにぐぐっと拳を握ってから、爽やかな笑顔を浮かべた。
「でも、貴方は違った! たとえ競技に負けてでも、エロのエンターテイナーとして最高の笑いと盛り上がりを追求するその姿! 貴方こそ聖者……いえ、性者と呼ばれるにふさわしい人だわ!」
「いや、変なあだ名つけないでくれる?」
なんなんだよ性者って、そんなイカれた単語初めて聞いたわ。
「ねえ、みんなもそう思うでしょう!?」
アレス氏が周囲を見渡すと、娼夫たちは熱のこもった様子でうおおおおおお!と叫んだ。
「エロすぎる……!!」
「こんなエロい人は見たことがねえ……! まさにエロの申し子だ!」
「と、東洋の聖者はこんなすさまじくエロい芸を修めているのか……!? 信じられない、なんてエロい国なんだ! 変態性において大ブリシャブを凌駕している!」
「ふおお……エッチすぎるよぉ……。長い竿がうまそうすぎる……! 俺、男だけど口いっぱいに頬張りたい……!」
「か、感動しました……! 人間の体はここまで欲情を掻き立てることができたのですね!」
観客たちは堰を切ったように僕の芸についての感想を語り始める。
いや、意味がわからんのだけど。
「感動……?」
「はい! リンボーダンスだけじゃなく、その前に披露していただいたダンスもとんでもないエロさでした! 俺たちもセクシーなダンスを芸として仕込まれていますけど、こんなエロいダンスを見たのは初めてです……!」
興奮した様子のイケメン娼夫に熱っぽい視線を向けられ、僕は心底困惑していた。
いや、どういうことだよ。
アンゼリカさんは真っ赤な顔をして、瞳を充血させながら食い入るように僕を見てるし……。何なの……。
≪説明しよう!
日本で数々のエロコンテンツに触れている雄士は感覚がマヒしていて、ちょっとやそっとのエロでは何も感じなくなっている! しかし何も知らない人間にとってはバニースーツはとんでもなく煽情的なエロ衣装に見えるし、ブラジリアンサンバは極めてセクシーなダンスとして映るのだ!
しかもセクシーダンスと言っても決して猥褻な印象を与えるものではなく、非常に洗練された動きを伴った健全な肉体美を与えるものだった! かつ、雄士が爽やかな笑顔で楽しそうに踊っていたため、スポーツ的なダンスとして捉えられている! 本来なら300年後に完成するサンバは、まだダンスという文化が未成熟なこの時代にあっては、とてつもなく斬新な印象を与えていた!
とどめに貞操逆転しているため、現地人にとっては『東洋から来たエキゾチックな踊り娘が披露した、この世のものとも思えないほどエロくて洗練されたダンス。これはきっと天女の舞に違いない』という評価なのである!≫
アレス氏は僕の前に跪くと、深々と頭を下げた。
「どうか私を弟子にしてもらえませんか。あのダンスとリンボーを、貴方が考案したバニースーツともども、“蜜月楼”の名物にさせてほしいの! どんなきつい修行も耐えてみせるし、どれだけ高額な謝礼も必ずお支払いするわ! ですから、どうか御師事を……!」
「正気で言ってるの……!?」
いや……いやいやいや。
サンバとリンボーは立派な文化だからいいけどさ、バニースーツだけは絶対辞めた方がいいよ。この店は引き続き上品路線を貫くべきだって。
ちょっと冷静になってきたけど、そもそもなんだよ男用のバニースーツって。頭どうかしてるんじゃないの? こんなん着て筋肉を見せつけるとか、露出狂全裸女忍者をどうこう言えないほどのバカだよ。
あろうことかイケメン娼夫たちは熱に浮かされたように僕に詰め寄り、「僕にもご師事を!」「どうかあの東洋の舞踊を教えてください!」「師匠!」「先生!」と口々に教えを乞うてくる。
僕もね、異世界知識を現地に教えるWEB小説たくさん読んできたけど、サンバとリンボーダンスを教えてくれと乞われる展開は初めて見たよ。
「ええい、散れ散れ!」
そこに割って入ってきたのは、さっきまで太鼓を叩いていた駄犬だ。
なかなかいい演奏だったよ。さらに僕を助けようとは、なかなかやるじゃん。
そう思っていると、駄犬は僕の腰をねっとりとした手つきで撫でてきた。おい。
荒い息を吐きながら、駄犬は興奮に潤んだ瞳を向けてくる。
「ククク……いい芸だったぞ。この宴が終わったら、私の部屋に来い。たっぷりと可愛がってやろうじゃないか……」
だめだ、所詮駄犬だわ。
「……ホーカン」
それまでじっと沈黙を貫いていたデアボリカが、駄犬に声をかける。
すると駄犬はにやりと唇を歪め、ギザ歯を覗かせながら卑屈な笑みを浮かべた。
「あ、デアボリカ様も一緒にこいつで愉しみますか? へへへ、デアボリカ様が先で結構ですよ!」
「そいつは聖者だ。アンゼ姉様が保護してる、この街のVIPだぞ」
「えっ」
ギギギと僕の方を振り向いた駄犬は、ばっと僕から離れると神速の動きで土下座した。
「申し訳ございません~! 平に、平にご容赦を~!!」
は……速い……。なんという洗練された土下座だ。
というかこの世界、ヨーロッパっぽいのに土下座は存在するんだね。
まあ別にこいつにそこまで迷惑をかけられたわけでもないし、僕としてはどうでもいいんだけど。
そう思っていると、許してもらえる気配を感じたのか駄犬が顔を上げようとしてきた。とりあえずダンッ!と足踏みしてやると、びくっと頭を引っ込めてぷるぷると震え始める。
「すごいな、デアボリカそっくりだぞこいつ」
「私はそこまで卑屈ではない! ……ないだろ!?」
まあこんな駄犬はどうでもいいんだ。
それより詰めかける娼夫たちをどうしたものか……と思っていたところ。
「あーーーっ! こんなところにいた!」
「おいユージーン! すぐ戻るって言っ……なんて恰好を晒してんだお前!? くそっ、見るな! 俺たちのダーリンだぞ! 散れ、散れっ!」
こうして僕はお嫁さんたちに捕獲され、プレイルームへと連行されたのだった。
2人がすさまじい殺気をまき散らしてみんなを威嚇してたから、誰にも邪魔されずに戻ってこれたよ。やっぱり持つべきは頼もしいお嫁さんだね。
======
====
==
雄士が嵐のように連れ去られていった後、荒れ果てたラウンジでデアボリカは深いため息を吐いた。
「まったく、こんなところであいつらと遭遇するとは……。そもそもどうやってこの店に入ったんだ、貸し切りのはずではなかったのか? まったく、あのバカどもはどこにでも湧いてきて困りますね、姉様」
デアボリカが振り返ると、アンゼリカは雄士が去った後の扉へとじっと虚ろな視線を注ぎ続けていた。
「姉様?」
「……あの人たちが、ユウジ君の奥さんなのですか?」
「え? ええ。そうです、今日が初夜とかなんとか」
「そうですか。結婚しているのですか。すでに人の夫になっている人に手を出すのは、公正とは言えませんね」
そう言いながら、アンゼリカはぎゅっと拳を握りしめる。
その手の中で、美しい造形を象られた高級グラスが音を立てて爆ぜた。
「……何故ですか!? どうしてもっと早く私の前に現れてくれなかったのです!?」
「あ、アンゼ姉様……? まさか……」
デアボリカは最悪の予感に声を震わせながら、腰をかがめてアンゼリカの顔を覗き込む。
その瞳には、公正であることを至上の是とする聡明な彼女にはついぞ見たことがない、熱に浮かされたような色が滲んでいた。
アンゼリカは手に残ったガラスの破片も気にせず、毎日手入れを欠かしたことのない美しい髪をがしがしと掻き回して悲鳴を上げる。
「あああああああ! 公正ではない! 既婚者の私が他人の男に手を出すのは、不倫は断じて公正ではない! なのに、どうして……どうしてっ……! どうしてこんなに胸が痛いの!? ああああああっ! 頭が、頭が壊れる……ッ!! ああああああああああ!!」
アンゼリカが年上の男を婿に迎えてから10年、デアボリカは姉のこんな瞳は見たことがなかった。
天使のような女性とその美貌と品性を人々に讃えられたアンゼリカは、自身を都市の人々に奉仕するための存在と定義しており、27年間の人生で一度も恋などしたことがなかった。
アンゼリカは、生まれて初めて恋を知ってしまった。
「……嘘でしょう、姉様……」
呆然とするデアボリカの前で、アンゼリカは雄士の残り香がついた半ズボンに顔を埋め、深く息を吸っていたのだった。
あーあ、また一人壊しちまったな。