【書籍版1巻2/20発売】貞操逆転ハードモード異世界を鋼メンタル冒険者が生き抜く   作:風見ひなた(TS団大首領)

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第6話「恋する乙女は逆転世界ではチョロショタ」

「くそっ! 全然足りねえ! 金も力も!」

 

 アイリーンが机にジョッキを叩きつけながら叫ぶのを見て、彼女の仲間たちはまーた始まったよと言わんばかりの顔で視線を交わし合った。

 

「アイリーンは充分よくやってると思うけどね」

 

「そうそう、冒険者になって数か月でここまで伸びる子も滅多にいないよ」

 

「ガキ扱いするな! あたしは子供じゃねえ!」

 

 ガーッと気炎を吐くアイリーンだが、パーティの年長者たちには狼の子供が精いっぱいの威嚇をしているようにしか見えない。ガキと呼ばれて怒るうちは子供だろ、とパーティメンバーたちは肩を竦めた。

 

 実際アイリーンは子供である。大ブリシャブ帝国の大憲章(マグナカルタ)では成人年齢は21歳と定められており、おそらく14歳程度のアイリーンは法的に言っても未成年であった。おそらくと言ったのは、アイリーンはスラムの孤児院出身であり、親がいないので自分の正確な年齢を知らないからだ。

 もっとも大憲章がどう定めていようと、実際にはこの国の平民は子供のうちから何らかの仕事はしているものだ。スラム育ちならなおのこと、人手を余らせている余裕などどこにもない。積み荷運びや水売り、ドブさらい、靴磨きといった学がなくてもできる仕事に精を出し、空いた時間で連れ立って雑魚モンスターを狩ったりする。

 特に大角ウサギは手ごろな獲物だった。子供にも狩れるし、晩飯のクズ野菜だけのシチューに肉が追加される。いつも空きっ腹を抱えているスラムの子供にとって、これほどありがたい魔物もいない。

 

 もっともスラムの子供が狩れるのは大角ウサギくらいまでで、それ以上の格のモンスターは手出し厳禁とされている。単純に歯が立たないからだ。格の高いモンスターは魔法を操り、魔法抵抗を持つ装備品なしで直撃すれば子供なら即死する危険性がある。彼らの住む地方都市は城壁に囲まれており、知恵のあるモンスターはそこを人間の縄張りと見なしているのでそうそう都市周辺で見かけるものではないが、出会ったらすぐに逃げろというのが子供たちの間での常識だった。

 衛兵たちに言わせればそもそも勝手に外に出るなというところだが、もし子供たちが目の前で魔物に襲われていても、彼らのうちの半数ほどは見殺しにすることを選ぶだろう。スラムの子供には市民権がないからだ。衛兵の仕事は街と市民を守ることであり、市民権がない人間を守ることは職務ではない。もう半数ほどは都市の周囲に出現した魔物は撃退しなくてはいけないという理論武装で、助けてくれるかもしれない。しかしそれも確実ではない。スラムの子供たちにとっては、信じられるのは常に自分たちだけだ。

 

 アイリーンは特別な子供だった。今よりも小さい頃から強い魔力を持っていて、スラムの片隅に住む老婆から教わった身体強化の魔法を使って大人以上の怪力を発揮することができた。顔立ちもスラムの人間とは思えないほど整っているし、もしかしたらどこかの貴族の落とし胤なのかもしれないが、出自を示すようなものは何も持っていない。

 彼女に初歩の魔術を教えてくれた老婆は、年を経るごとに際立っていく彼女の美貌を見ながら溜息を吐いたものだ。

 

「お前が男であれば、娼館の売れっ子になれただろうにねえ」

 

 しかし生憎とアイリーンは女子であったので、引き取ってくれる娼館などなかった。男性出生比率1:3の世界では、娼館とは女性が男性と遊ぶ……あるいは種をもらいにいく場所なのだ。娼館には高い魔力や美貌を持つ男性が揃っており、優れた子孫を欲する裕福な女性にとっては遊びと後継者作りを同時にできる場といえる。

 ちなみに金がなく結婚もできない女性は、売春窟に行く。ここは非常に下等な娼館と言える場所で、薬物によって強制的に勃起させられた男性が、代わる代わる客の女性器に挿入させられて無理やり精液を搾り取られる。性病がはびこる劣悪な環境であり、ここに入れられた男性は数か月ともたず死に至るとされる。もちろんこんな苦界に自ら望んで身売りする者などいるわけがなく、野盗にさらわれたり飢饉の農村から買いたたかれたりされた男性の末路であった。

 

 

≪説明しよう!

 これは我々の世界における壁尻やラッキーホールのような格安性風俗である!

 我々の世界ではわざわざ利用するまでもないほぼ特殊性癖のようなものだが、この世界の貧乏人はこうやって無理やりにでも妊娠しないと絶滅するぞ! まあ性欲も我々の世界の男性並みなので、誰のチンポでもいいから欲しいというのもあるが!≫

 

 

 利用する側の女性としても彼らに憐憫を覚えないわけでもないが、彼女らだって子は欲しい。後継者は必要だし、男性が生まれればいい家に婿入りさせるか娼館に売って一財産にできるからだ。……余分に女子が生まれたら、孤児院に捨てればいい。

 そうして捨てられた孤児たちが成長して、スラムは徐々に拡大していく。

 

 とはいえ、スラム育ちの子供がみんな貧民になるとは限らない。中には才覚を顕わして市民権を獲得し、きちんとした職に就く子供もいる。

 冒険者となったアイリーンはそのうちの一人だ。

 冒険者とはモンスター討伐者のことであり、主に都市周辺に出没するモンスターの駆除に従事する。腕に自信があれば強大なモンスターに挑んでもいい。生存圏を拡げることは人類にとって正義の行いであり、その献身には栄誉と報酬が与えられるだろう。

 過酷な肉体労働であり、高い魔力と魔術を行使するためのある程度の学識が求められる仕事でもあるが、アイリーンはそのどちらも備えていた。魔術の知識を得られたのは、彼女を気に入っていくつかの手ほどきをしてくれた老婆のおかげである。

 

 冒険者になりたいと言ってギルドに押しかけて来たスラムの小汚いガキは、当然のように締め出されかけた。

 しかしたまたまその場にいた黒髪の青年が「なんでダメなんですか? 僕みたいな得体のしれない東洋人は受け入れて、この街で育った子供は追い返すんじゃ理屈が通らないでしょう」と横槍を入れたのだ。

 キュン。

 おかげでアイリーンは冒険者適性を見てもらうことができ、その高い適性を評価されて特別支援として装備品を貸与してもらえた。

 そして前衛が不足していたパーティに潜り込み、冒険者としての頭角をメキメキと顕わしているところだ。彼女を迎え入れたパーティも別に低ランクで燻っていたわけではなく、事故で前衛を失った後に新規メンバーが見つからずに停滞していただけだったので、才能のある新人をじっくりと育成する余裕があった。

 

 完全に上り調子なのだ。このままいけばパーティは確実にさらに上の領域に行ける。

 なのにアイリーンは酒を飲むたびに、力が足りないと泣くのだった。

 その理由というのが、

 

「このままじゃユージィがあいつらに取られちゃうよぉ~! やだぁ~!」

 

 はぁ……とパーティリーダーの魔術師が溜息を吐く。

 

「もう諦めたまえアイリーン。君には手に入らない男なのだよ」

 

「やだ! あたしだって才能あるもん! ユージィをメイドにしてあいつらから守ってあげるんだから!」

 

「そりゃ確かにお前には見どころはあるよ。お前となら、そのうちギルドでも上位のパーティになれるし、自分の屋敷に器量のいいメイドの一人も雇えるようになるかもね。でもユージィの婿入りはもうじき決まっちゃうし、それまでにお前があいつをメイドに雇えるような金を用意できるわけがないんだ」

 

「うう~」

 

 涙目でテーブルに突っ伏したアイリーン。肩までの赤い髪をまとめた小さなポニーテールをふるふると震わせる少女を眺めながら、パーティメンバーたちはジョッキを傾けた。

 

「この話何回目?」

 

「こいつが加わってから半年、ほぼ毎晩だしなあ」

 

「まあ憧れのお兄さんを追いかけて冒険者になったら、その貞操を賭けてギルド上位が血眼で競り合ってるんだからな。脳も破壊されるわ」

 

「大体こいつの態度が悪いんだよ。好きな男に絡みにいくのはいいけどさ、どうして小馬鹿にするんだ? 絶対好印象抱かれてねえぞアレ」

 

 仲間たちから言葉のナイフでぐさりぐさりと刺され、アイリーンはさらに肩を落とす。

 

「だって、ユージィの顔を見ると何言っていいのかわかんなくなるんだもん……」

 

「ガキんちょだな」

 

「子供だねえ」

 

「思春期によくある病気だな」

 

「だからガキって言うな!」

 

 年長者たちに切って捨てられ、アイリーンは涙目で小さな肩を震わせた。

 

 

≪説明しよう!

 我々の世界で言う、年上のお姉さんに素直になれずに憎まれ口を叩くショタだ!

 おねショタ展開になるとあっさり落ちるチョロい竿役である! おっと、もう落ちてたようだな!≫

 

 

「大体なんでメイドなんだよ。好きですって付き合ってくださいって言えば、速攻でかっさらえるんじゃねえのかあの東洋人」

 

「す、好きとかそういうんじゃないし。ただあんな性欲まみれのケダモノどもから守ってあげたいだけで、だからメイドにして側に置くのが一番守りやすいかなって……」

 

 すらりとした指をしきりに組み替えてもじもじするアイリーンに、パーティメンバーたちはへっ、と鼻を鳴らした。

 

「自分は性欲とか関係なく守りたいんだとか言い出しましたよこいつ」

 

「騎士様気取りで偉いでちゅね~」

 

「思春期によくある病気だな」

 

「あたしは本気なの!」

 

 酔いと恥じらいで顔を真っ赤にするアイリーンに、パーティメンバーたちはやれやれと肩をすくめる。

 

「認めちまいなよ……それは独占欲だ。性欲100%の薄汚い感情なんだよ」

 

「お前もこっちに来い……。その切なさをオカズにシコるとやたら捗ることに気づくのだ……」

 

「大層微笑ましい。いいぞ、もっとその心の傷を切開して私に見せてくれ」

 

「この大人たちサイテーだよぉ!」

 

 本当に最低であった。

 冒険者としては面倒見がいい人たちなんですけどね。




ちなみに大憲章でいう成人年齢とは「親の財産を相続できる年齢」のことであり、それ以前の歳で飲酒しようが出産しようが誰も気にしません。特に貧民層では。
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