【書籍版1巻2/20発売】貞操逆転ハードモード異世界を鋼メンタル冒険者が生き抜く 作:風見ひなた(TS団大首領)
「あ、そうだ。ウルスナだけに語らせておくのは不実だな。僕も言っとこ。
実は僕って異世界人なんだよ。元の世界で死んで、この世界で元の世界の姿のまま生まれ変わったんだ」
「…………」
「…………」
2人は顔を見合わせると、もう一度僕の方を見てきた。
「え? ホラ話?」
「いや、マジマジ。病気を治す力とか、魔封じの力とか、生まれ変わるときに神様からもらったんだよ」
正確には神様に会ったことはないし、【インフルエンサー】は後から購入したけど、話が複雑になるから細かい部分はオミットして説明したよ。
2人はまた顔を見合わせ、ぼそぼそと話し合っている。
「……どう思う?」
「いや……でも、誰も見たことがない
「え、どういうこと?」
「ずっと訳ありだと思ってたんだ。東洋の国からブリシャブまで、男が身一つで旅なんかできるわけねえんだよ。絶対どこかで盗賊に捕まって奴隷にされるか、夫にされてる。それが無事にブリシャブまでたどり着いて、こんなド田舎の都市で冒険者生活なんて不自然すぎるだろ」
「た、確かに……」
「大方東洋の地から奴隷として運ばれてきた元貴族が逃げ出したんだろうと思ってたが、それにしちゃ追手を気にしてる様子もないし、違和感の塊だったんだよ。もういきなりこの都市に降って湧いたとしか思えねえくらいに。正直、こいつの素性を確かめようともせずに便利だからって利用してるデアボリカの正気を疑ってたぞ」
……デアボリカってさあ。本当に、目先の欲望のことしか考えてなかったよね。
「でもそんな不審な男と結婚しようとしてたウルスナも、人のこと言えた口じゃないでしょ」
「……うん、まあ。俺も追われる身だし、同じ逃亡者なら構うことはないかなって。手に手をとって愛の逃避行とか、憧れてたし……」
結構刹那的に生きてらっしゃるんですねウルスナさん。
まあ、そうじゃなきゃ大貴族の家を捨てて逃亡生活を選んだりしないか。
僕たちに明日はない。……なんて言ったりはしないよ。絶対にQOL上げて幸せな家庭を築いてやるからな。
アイリーンははえーという顔で、僕をしげしげと見つめた。
「でも異世界人って、結構普通なんだね。そりゃ確かに髪は黒いし、肌も黄色っぽいけど、流れている血の色は変わらないし、言葉も通じてるもの」
「ああ、言葉は自動的に翻訳されるんだよ。そういう力ももらってるんだ」
「それでシャルスメル語も通じてるんですのね。納得しましたわ」
「ほえー。でも、そういう力を持ってること以外はあたしたちと同じ人間なんだね」
「いや、ひとつ違うところがあるかな」
まあ些細なことなんだけど。
「僕、魔力がないんだ。僕が暮らしてた世界には魔法もモンスターもなくて、空想上のものだと思われてたからね」
「「えっ」」
2人はもう一度視線を合わせると、大慌てで身を乗り出してきた。
「魔力がない!? 嘘、じゃあどうやって生きてるの!? 身体動かないよね!?」
「まるでゼロってことはないですわよね!? 市民登録できてるのだし、最低限はあるのでしょう!?」
「いや、ゼロだよ。皆無だ。最近神様にお願いして、魔力1にはしてもらったから市民登録できたんだよ」
「ま、魔力1……!?」
「理論上の最低値じゃありませんの……!? それ、もし魔法がかすったら……」
「死ぬよ。前に魔力1にした大角ウサギにスタンロッドを使ったら即死したから」
2人は言葉を探すように、ぱくぱくと口を動かした。
あ、やっぱ魔力1ってありえないほど低いんだ。理論上の最低値、ってことは実際にはそんな人間が発見されたことがないほどってことなのかな。
「ま、待ってください。じゃあ……そ……そんな状態で冒険者をやっていたと?」
「え、うん。いやー苦労したよ。みんなが簡単に狩れる大角ウサギも、魔力ゼロだと本当に強敵でさ。まあそれでも日に3頭は狩れるようになってたから。やっぱり頼れるのは筋肉だね。筋肉はすべてを解決するよ」
「……うぷっ」
アイリーンは口元を抑えると、シーツの上にうずくまった。
え、どうしたの?
「あ、あたし……。あたしそんな事情も知らずに、ユージィを引退させようと散々嫌味を言って……。お前に狩れるのは大角ウサギが精々だなんて……。いつまで経っても芽が出ないとか……。な、なんてことを……」
「アイリーン……。大丈夫、大丈夫です。あなたはユージーンを守ろうとして心にもないことを言ったのでしょう?」
「で、でも……あたし、最低だ……。最低だよ……」
真っ青な顔でぶるぶると震えるアイリーンの背中を、ウルスナが柔らかな手つきで撫でて落ち着かせようとしている。
「いや、そんな顔しないでほしいな。僕が好きでやってたことだし。大角ウサギしか狩れなかったことも、半年間芽が出なかったことも、そもそも事実しか言ってないもん」
「あなた、本当にどういうメンタルしてますの……? 普通、そんな状況で半年間も耐えます……?」
ウルスナ、さっきから素が出たままだね。そこまでショックな情報だったのかな。
「僕のいた世界だと、異世界では生き物を狩るとレベルアップしたり、活躍が神様に認められて新しい力を得たりって話だったんだけどね。なんかそういうことはなかったな」
「当たり前です。生き物を殺して強くなるなら、猟師は地上最強の生物になりますわ。どういう誤情報なのですか、それは……」
確かに言われてみればそうだな。猟師もそうだけど、地引き網の漁師とか凄まじい数の生物を一度に殺してることになるわけで、めちゃめちゃレベルアップしそう。
「じゃあ、もしかして前にドラゴンに使った魔封じの力というのは……」
「あ、うん。あれは僕の魔力を移して魔力1にしてるんだよ。僕と同じクソ雑魚にしちゃう能力だね」
「ああ……さっきあたしが使われたやつね。あれ、本当に最低の気分だったよ。手足をもがれて身動きひとつできなくなったみたいだった。二度とやらないでね」
ようやく顔色が戻ってきたアイリーンが、げんなりとした顔で口を開く。
そういえばさっきお風呂に入れるときに、あれを使って無力化したっけか。
「でもさ、これを使えばどんな相手が来ても怖くないでしょ? だからウルスナ、もし追手が来ても大丈夫だよ。僕に任せてくれれば……」
「いや、ダメだ。二度とその力は使うな。そんな力を持っていることを、誰にも知られちゃいけない」
ウルスナは首を横に振り、きっぱりとした口調で言った。
それが意外で、僕は目をぱちくりさせる。ウルスナは結構使えるものは何でも使うタイプだと思っていたのだけど……。
「どうして?」
するとウルスナは人差し指を立て、真顔で僕の瞳を覗き込む。
「いいか、ユージーン。異世界から来たお前にはピンとこないかもしれないが、王侯貴族の権威は魔力の高さが基盤にあるんだ。単に金や軍事力を持ってるから人民を支配しているんじゃない。高い魔力を持ち、それゆえに肉体が頑強で、その気になれば平民なんて一瞬で何百人も殺せる。そういう“特別”な人間だから……“特別な血”が流れている神に選ばれた人間だから、貴族は平民を支配していいんだというのが社会の常識なんだよ」
ほえー。なんかすごい価値観だね。
地球なら単純に金と軍事力持ってるから偉い貴族だって話だったけど。
いや、待てよ。確か中世のヨーロッパには王権神授説ってのがあったんだっけ?
確か王様は神様から王権を与えられた神聖な存在だから、人々は王様の命令を聞かなくちゃいけませんよって話だったな。戦前の日本の天皇制も似たような感じだったはずだ。
「じゃあこの世界では魔力は神様によって貴族の血に与えられたもので、だから貴族は平民を支配していいんだ……ってコト?」
「そうだ。そもそも貴族の発祥が、高い魔力を持った豪族が魔力の弱い連中を支配下にしたってところにある。聖書には『主は祝福を与えた者の血に、自らに代わり人を統べるための力と意思を与えられた』って書かれてるけどな。多くの貴族がどんなに暴政を振るうクズ野郎でも平民が耐えて従うのは、貴族は神に選ばれた指導者だからと宗教で教えられてるからなのさ」
で、とウルスナは表情を険しくする。
「もしそこに……相手がどんな王侯貴族でも、一瞬で魔力を封じられる人間なんてものが現れたらどうなる?」
「……貴族から危険な存在だと思われる?」
「そうだ。魔力を封印されるだけでも貴族にとっちゃ脅威なのに、それを行使するのが神様にお願いしていろいろと融通を聞いてもらえる聖者ときた。しかも神様と交信ができる選ばれた存在なのに、本人には魔力がこれっぽっちもないんだぞ。それが政治的にどれほどヤバい存在かわかるか?」
ああ……なるほど。僕にもウルスナの言いたいことがわかった。
つまり、神に選ばれた僕に魔力がないということは、
「神様が貴族に力を与えたという、聖書や教会の教えが嘘っぱちだとバレる」
「そうだ。お前は、君主制の大義名分を否定し、世俗権力と癒着した宗教の欺瞞を暴くとんでもない爆弾なんだよ。だからお前に魔力がないこと、魔封じの力を人間にも使えることは絶対に誰にも知られちゃいけない。今後一切、魔物相手にも魔封じの力は使うな。それは人間にも使えるんじゃないか、なんて邪推する奴が出ないとも限らねえ」
「……わかったよ」
「心配すんな。そんなもんなくたって、俺とアイリーンがお前を守ってみせる。な、アイリーン?」
「……ほへ。あ、うん! 守るよっ!」
アイリーンは話についていけずに、ぽかーんとしてる。
まあそりゃそうか。むしろスムーズにこんな突飛な話を受け入れて、さらに僕が気づかなかった危険性まで指摘してくるウルスナの頭の回転がすごいんだ。
「問題はデアボリカが既に魔封じが人間に使えることを知ってるってことだな……。やっぱあいつ、口封じに殺した方が……まあ、今のあいつには何もできないとは思うが。ほかにお前に魔力がないって知ってる奴はいるか?」
「ああ、ウェズ君が知ってる。魔力を測定したのも彼だし」
「……そりゃラッキーだったな。きっとあいつ、お前のために情報を秘匿してるんだ。今度礼を言っときな」
「うん」
ウェズ君、また見えないところで僕のために骨を折ってくれてたんだな。本当に彼には頭が上がらない。
それを気づかせてくれたウルスナは……。うん、やっぱこの娘って素敵だなあ。
えへへ、これ僕のお嫁さんなんですよ。
あ、お嫁さんといえば。
「もしかすると、生まれてくる子供には僕の魔力ゼロが遺伝しちゃうかもしれないけど……。それでもいい? 僕の子供を産んでくれる?」
すると2人は顔を見合わせるまでもなく、笑顔で頷いてくれた。
「もちろん! あたし、ユージィの子ならどんな子でも愛せるよ! 絶対にユージィも、子供も、守り切ってみせるから!」
「正直なこと言うとな、俺の魔力はちょっとばかり強すぎるんだ。俺はこんな力を持って生まれてきてよかったなんて思ったこと一度もねえよ。俺の魔力とお前の魔力ゼロが混ざって、ちょうどいい感じのガキが生まれてくりゃ万々歳じゃねえか。……だから、どうかわたくしにあなたの子供を産ませてくださいまし」
あー、これ反則だよ。
曇り一つないアイリーンの笑顔も、最後だけしおらしくなるウルスナのギャップも、僕の男心にビンビンくる。こんな娘たちに求められてるなんて、男冥利に尽きるだろ。
……というか、ちょっと肌寒くなってきたな。
必要なこととはいえこんなまじめな話、初夜にバスローブ姿の半裸でするようなことじゃないよ。
ようし、男女双方の決意がまとまったところで続きするか!
「ヤろう」
「ヤろう」
「ヤろう」
そういうことになった。