【書籍版1巻2/20発売】貞操逆転ハードモード異世界を鋼メンタル冒険者が生き抜く   作:風見ひなた(TS団大首領)

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ドラゴン襲来の話をする前に、ちょっとだけ他キャラ視点の話をやらせてください。


第62話「あいつはマネタイズしない方がいいと思います」

 雄士が婚約者たちと初夜を迎えていた頃……。

 サウザンドリーブズの領館では、ある姉妹の密談が行われていた。

 密談とはいっても別に陰謀が繰り広げられているわけではなく、ただの上司と部下の報告にすぎないが。

 

 報告を受け取るのはサウザンドリーブズの次期領主であるアンゼリカ・ホットテイスト。そして報告を行うのはその2歳下の妹であり、サウザンドリーブズの衛兵隊に所属するアミーティア・ホットテイスト。つまり雄士がアミィさんと呼んでいる衛兵のことだった。

 

 今朝方、雄士から錬金術師と面会したいという要請を受け取ったアンゼリカは、護衛役として衛兵を寄越す際に妹であるアミーティアを指名した。雄士が錬金術師のアルシェとどんな話をするのか、把握しておかねばならないと判断したからだ。

 アンゼリカは雄士には干渉をしないと約束したものの、彼の行動を監視しないとは言っていない。むしろアンゼリカにとっては、雄士の行動を把握しておかないことこそ保護責任の放棄であり、“公正”に仕事を果たしたとはいえないと考えていた。

 

 しかしわざわざ錬金術師と話をしたいというのだから、それなりの学識を持っている者を寄越さなくては同席させる意味がない。偉大なるブリシャブ帝国に比べ、文化の遅れた東洋人の雄士が錬金術に深い造詣など持っているとは到底思えないが、念のために衛兵隊の中で最も学識の高い持つ者を選ぶことにした。

 そこで白羽の矢が立ったのが、アンゼリカの妹でもあるアミーティアだった。

 

 アミーティアは仕事に実直だし、貴族家の一員として魔術の教育も受けている。何よりホットテイスト家に忠実で、アンゼリカとしても全幅の信頼を置いていた。誰がどう見ても腹に一物抱えているデアボリカとは信用が違うのである。

 

「……姉上。姉上?」

 

 そのアンゼリカがいつになくぼーっとしている。

 虚空を見上げ、しきりにはぁ……とため息を吐いている。表情はアンニュイで、深い悩みを抱えているようだった。

 いつも冷静かつ冷徹で、機械にほんわかお姉さんのガワを被せたようなアンゼリカがこのような素振りを見せるなど、非常に珍しいことだった。というより、アミーティアが姉のこんな姿を見るのは初めてのことかもしれない。何しろ結婚式の前日ですら仕事の書類を読み込んでいて、「明日は他貴族家から迎えた婿と、婚姻業務を行います」みたいな顔をしていたのだ。

 

 まあ、珍しいと言えば頭にぐるぐると包帯を巻いているのもそうなのだが。

 

「姉上、報告書をお持ちしました!」

 

「……あ、ああ。お疲れ様、アミィちゃん。いつの間に来たの~?」

 

「先ほどからずっとおりましたが……」

 

 再三呼び掛けてようやく返事をしたと思ったら、その内容もまたぼんやりしている。

 先ほどまでデアボリカを高級娼館に連れて行って激励していたという話だったが、まだ酒が残っているのだろうか? やたら酒に強い姉にしては珍しいと、アミーティアは心の中で思った。

 

「本日のアルシェのアトリエにおいて、ユウジの行動についての報告ですが」

 

「ユウジちゃん!?」

 

 その名前を聞くなりがばっ! と凄まじい勢いで身を乗り出してきたアンゼリカに、アミーティアはぽかんと目を丸くした。

 

「……姉上?」

 

「ごほん、何でもないわ~。さ、報告書じゃなくて、早く彼についてのお話を聞かせてくれるかしら~」

 

 ワクワクと瞳を輝かせるアンゼリカに、アミーティアはやや不審げな目を向けた。なんだろう、朝と今で雄士の話題への食いつき方が違う気がする。

 私の婚約者なのに。

 

「ええと……私の理解した範囲内での話になるのですが、ユウジは屋敷を暖める装置と食物を冷やす装置の製造をアルシェに依頼していました」

 

「まあ~……? 暖炉とは違うの~?」

 

「暖炉よりも遥かに効率的に部屋を暖めることができるそうです。本人が設計図を引いて持参していましたが、非常に精緻でした。その仕組みはアルシェにとっても未知のもので……」

 

「えっ、アルシェちゃんでもわからなかったの~?」

 

 驚くべきことだった。アルシェは今でこそこんな生まれ育った田舎の城塞都市にアトリエを構えているが、少し前までは国一番とも言われる高名な大学で研究していた才媛なのだ。学長を務めている教授と仲違いの結果、大学を追われて故郷に戻ってきた。

 確か教授はニュートンって名字だったはずだが、あのアルシェが処女こじらせた独身ヒスババアなんて悪口を言うからには、相当偏屈な根性曲がりなのだろう。

 まあ教授の話はともかく、そのアルシェにも未知の理論というからには。

 

「実はでたらめとか~?」

 

「いえ……アルシェに理解できないと見るや、理論について講義を始めました。半日ほど付きっきりで」

 

「……ふぅん。半日もユウジちゃんとお話ししたんだ」

 

「姉上?」

 

 一瞬真顔になったアンゼリカを、アミーティアがじっと見つめる。その視線に気づくと、アンゼリカは何でもないわよ~とニコニコ笑顔を浮かべた。

 

「それで、アルシェちゃんはユウジちゃんの言ってることが理解できたの~?」

 

「ええ……8割がたは理解できたと言っていました。最後の方は積極的に質問も行っていたので、まるっきりのでたらめでもないと思います。私も半分ほどは理解できたと思いますが……我々が知る魔術の理論体系と矛盾する概念も多く。先入観が理解を妨げている部分がありそうです。『そういうものだと仮定する』ということで理解を進めたアルシェは、やはり頭が柔らかい」

 

「そう。それで、その発明品は有用そうなの~?」

 

「ええ! 特にストーブという装置はとても便利そうです! 衛兵隊の詰所にもぜひほしい、あれがあれば冬の寒さに震える兵たちも随分快適に過ごせることでしょう!」

 

「アミィちゃん、私はそういうことを聞いてるんじゃないのよ~」

 

 アンゼリカは笑顔のように見える切れ長の瞳を見開き、とんとんと包帯を巻かれた額を叩いた。

 

「この街の発展にとって有用かと聞いたの。新たな産業にできる? 新たな雇用を生み出せる? 発明品の工場を建設した場合、特産品として他の貴族領に売れるかしら? その構造を真似してコピー品が作られるまでどれくらいかかる? アミィちゃんにはそういう話ができてほしいの。だから貴女を監視に寄越したのよ」

 

 不意にむんずと心臓を掴まれたような圧迫感を見せるアンゼリカ。

 その瞳を見て、ああ、いつもの姉上だとアミーティアは奇妙な安堵を覚えた。

 都市の発展のために人生を捧げる冷徹な計算機械。それがアミーティアの知る姉だった。

 

「デアボリカちゃんはこういうお金の話が得意だったから、これまではあの子に任せてたんだけどね~。あの子もほとぼりが冷めるまでは謹慎させなくちゃいけないし。だからアミィちゃんもお金の話をできるようになってね~。いつまでも一衛兵なんてやってちゃだめよ~。……というか、そろそろ衛兵長に就任してほしいのだけど」

 

「いいえ、まだ私には早い」

 

 アンゼリカの言葉に、アミーティアは頑として首を横に振った。

 領主一家の次女である彼女が日々軍務に勤しんでいるのは、元はと言えば領主である母・ギガンティアの意向だった。長女であるアンゼリカには次期領主、次女のアミーティアには衛兵長、三女のデアボリカには冒険者ギルドを任せて、政治・軍事・経済の三本柱で次世代に都市を支えてもらおうという計画だったのだ。

 

 しかしアミーティアは、まず一兵卒からキャリアをスタートした。望めばお飾りでも衛兵長にはなれただろうが、本人がそれをよしとしなかった。

 

「軍隊は食ってきた飯の数がモノをいう世界です。窮地の鉄火場に立たされたとき、ただ血筋だけでトップに立った若造の命令など誰が聞きましょうか。私は一兵卒として彼らを労苦を共にし、彼らの信用を勝ち得なくてはいけない。そうして彼らに推されてこそ、本当の意味で兵と共に死地を潜れる将になれるのだと私は信じます」

 

 それを聞いた現在の衛兵長は、本気でアミーティアを一兵卒として扱った。なんなら新兵教練では平民出身の兵士よりも厳しくしごき抜いたほどだ。

 そんなアミーティアが城壁の門兵を任され、飛行部隊“箒”のエースとして専用機まで与えられるに至ったのは、ひとえに彼女の努力の成果だった。

 

 彼女が武力も魔術も死ぬ気で鍛え抜いたのは、ひとえに街を守りたいという一心からだ。自分には政治も(はかりごと)もできない。生真面目で良くも悪くもまっすぐな自分の性格を、アミーティアはわかっていた。政治は姉に、謀略は妹に任せよう。自分はただ、外敵から物理的に都市を護るのみ。そうしてただひたすらに腕を磨いてきたのだが。

 

 ここに来て今度は政治と経済の話もできるようになれという。

 我が姉上の要求はいつも果てしなく高い、とアミーティアは内心でため息を吐いた。

 

「まあ、衛兵長就任の話はまた今度でいいわ~。それで、アミィちゃんはどう思うの? ユウジちゃんの知識で、街を豊かにできそう~?」

 

 姉の再びの問いに、アミーティアはほっそりとした顎に手を置いた。

 しばしの逡巡。やがて、彼女は恐る恐るという感じで口を開いた。

 

「ユウジの知識で儲けようなど、考えるべきではありません」

 

「……へえ~?」

 

 続きを促され、アミーティアは渋々と言葉を紡ぐ。

 

「彼の知識は私たちの水準を遥かに上回っている。私たちのようなたかが田舎者のジェントリごときが、彼を利用しようなど身の程知らずもいいところです。確かに彼の知識を使えば、一時的には豊かになるでしょう。しかし必ず周囲から目を付けられる。彼をめぐって大貴族間の血みどろの争いになる。サウザンドリーブズは戦火の中に沈み、ホットテイスト家は死に絶えるでしょう」

 

「……じゃあ、彼の行動を制限した方がいいのかしら?」

 

「いいえ。それは悪手です」

 

 アミーティアは首を横に振り、考えを述べる。

 

「ユウジのことは放っておきましょう。彼は自分の発明品で儲けようなどと考えない。彼にとってはあたりまえの知識だから、それを金に変えようという発想がないのです。その発明品をいくつか私たちに分けてもらい、私的に利用する。それで留めておくべきです。彼のしたいようにさせておきましょう。彼を下手に束縛すると、反発して暴走する。あいつはそういう奴です。周囲に被害が出ない程度にほどほどに自由にさせて、その恩恵を分けてもらう。それが我々にとってもユウジにとっても、ベストな関係だと思います」

 

 アンゼリカが秩序、デアボリカが混沌に振り切れているとしたら、アミーティアは中庸だった。あるいはアンゼリカが王道、アミーティアが中道、デアボリカは腐れ外道か?

 

 街の発展も個人の儲けもどうでもいい、とにかく平穏な街を守ること、それがアミーティアの信条だった。

 もちろん婚約者の雄士に都市政府からあれこれ口出ししてほしくないという個人的な欲目もあるが。婚約者があれほど楽しそうにあれこれしているのに、邪魔をしたくないのだ。だからお前の婚約者じゃねーって。

 

 アンゼリカはしばし瞳を閉じ、妹の考えを反芻するように考えを巡らす。

 ややあって、彼女は再び瞳を開いた。

 

「正しい」

 

 うん、とアンゼリカはこくりと肯首する。

 

「アミィちゃんの言うことはもっとも。私は宝珠を献上してきたデアボリカちゃんと同じ間違いをするところだった。身の丈に合わない宝物で儲け話など考えるべきではない」

 

「では……」

 

「都市政府はユウジちゃんに何ら強制はしないし、支援を求められたら友好的に接する。引き続きこの路線を継続するわ~。ありがとうアミィちゃん、貴方に相談してよかった。デアボリカちゃんに相談してたらと思うと、ゾッとするわ~」

 

「ああ……あいつは間違いなく一儲けしようと企んだでしょうね……。あいつの意見は半分程度に聞いておくのがいいですよ」

 

 デボ子が知らないところで、再起の道が閉ざされていた!

 

 ともあれ、これで雄士も引き続き好き放題できてめでたしめでたしである。

 

「ところで……アミィちゃん、恋人ができたんですって~? おめでとう~!」

 

 おっとぉ?




お久しぶりです。
第三部のスタートとなります。
今話からは3日に1回のペースで更新させていただきたいと思います。
その代わり今後は休養期間はなしということで。

なお、別シリーズでムキムキの野郎冒険者がサキュバスに転生して現代社会で冒険者学園に通うTSバトルコメディ『野郎リンカネーション~スケベ淫魔の転生冒険者学園日記~』がありますので、よかったらそちらも見てやってください。
https://syosetu.org/novel/382667/
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