【書籍版1巻2/20発売】貞操逆転ハードモード異世界を鋼メンタル冒険者が生き抜く   作:風見ひなた(TS団大首領)

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第67話「鋼メンタルでモンスターペアレントに説明し抜く」

「……というわけで、僕はあなたの息子さんを叱り、馬車の修理費用を請求しました。この件について僕は完全に被害者であると考えています。いかがでしょうか」

 

 ドラゴン襲撃事件の一部始終を語り終えた僕は、ふうっと小さく息を吐いて先方の反応を待った。

 

 よし、理路整然と説明できたな。

 これでドラゴンの誇りがーとか人間ごときが生意気なーとか言って暴れだすようなら、ウルスナには申し訳ないけど僕も【インフルエンサー】を切らせてもらう。生存優先で立ち回らないといけないからね、きっとウルスナもわかってくれるだろう。

 さて、どう出るか……。

 

 ドラパパはがっしりとした腕を組みながら、ドラっ子を横目で見やる。

 

「……事実なのか?」

 

「えっと、それは……」

 

「事実なのだな?」

 

 父親に低い声で淡々と問い詰められたドラっ子は、だらだらと脂汗を垂れ流しながら抗弁する。

 

「で、でも人間ごときが僕たちドライグに歯向かうなんて不遜……」

 

「その人間に負けたのは誰だ! 負けた上に嘘までつきおって! 一族の恥さらしとはお前のことだ!」

 

 まるで文字通り雷が落ちたような、激しい一喝!

 物理的にビリビリと空気が震え、この世界ではまだ高価な窓ガラスが揺れる。

 

 父親に怒鳴りつけられたドラっ子は、しゅんと肩を落として泣きそうな顔をした。

 ……あ、本当にぽろぽろ涙を零してる。まあ子供だから仕方ないね。

 

 不甲斐ない息子を見やったドラパパは、ため息をひとつ吐いて僕に小さく頭を下げた。

 

「我が息子のしでかしたこと、誠に申し訳ない。吾輩の教育が至らなかったことでご迷惑をおかけした。子供のしたことなどと誤魔化すつもりは毛頭ない。無論、賠償金はそちらの言い値通りの請求額をお支払いする」

 

「ええ、それでいいですよ」

 

 えっ! いくらでも吹っ掛けていいの!? という顔で足元のデアボリカが瞳を輝かせたので、つま先を踏んで黙らせておいた。

 

「痛っ!?」

 

 なんかすっごい抗議の視線を向けてきているけど、知ったこっちゃないよ。お前は雑巾がけでもしてろお漏らし女。

 

「……正直なところ、息子の(げん)は半信半疑であった。聖者などというものが存在するとも思えんし、ましてや人間がドライグの魔力を抑え込むなどありえぬこと。どうせ人間をからかいに行ったものの、何かへまをしたところを殴られたのだろう。人間相手に逃げ帰ってきたのが恥ずかしくて、針小棒大に大げさな嘘をついたのだろうと思っていたが……」

 

 ドラパパの言葉に、泣きべそをかいていたドラっ子がさらに肩を落とす。

 お前普段から父親にそんな風に思われてんのか。

 そんな息子の様子をスルーして、ドラパパはニカッ!と音がしそうな笑みを浮かべた。

 

「いやあ、吾輩の“竜の言葉(エンシェントワード)”に涼しい顔をする御仁が本当にいたとは! これでもかなりの魔力を注いだつもりであったのだがな! これならば息子を叩いて説教したというのも真実であろう! 大した人間もいたものだ、わっはっは! これは愉快痛快だ!」

 

「人にそんな精神魔術をぶつけておいて、その言い草……」

 

 アミィさんは額に青筋を浮かべて剣呑な視線を向けている。

 するとドラパパは右手を顔の前に立て、めんご!のポーズをとった。

 

「いやすまぬ、試したことは詫びる! 本当にドラゴンを相手に一歩も引かない人間がいるのか、試してみたくなってしまってな! うむ、貴殿もなかなかの胆力と魔力を備えた女子(おなご)のようだが……聖者殿には及ばぬな。見よ、まるでそよ風でも受けたように平然としておる! ここまで耐える者はドライグにもそうおるものではない、実にあっぱれな胆力よ!」

 

 いやあ……絶賛してくれて恐縮なんだけど、僕ずるっこ(チート)してるんだよねえ。

 とはいえこちらを高く買ってくれる分には、誤解を解く必要もないか。その方が交渉も楽に進むだろうし、高めに見積もっていてもらおう。

 それにしてもこのパパ、コワモテな容姿だけど意外とお茶目なのかな。

 

「さて、それでは賠償金だが。金貨180枚だったな、用意してきているので確かめてくれ」

 

 そう言って、ドラパパはカバンからずっしりと重い革袋を取り出した。

 カネ!とデアボリカが足元でうにょうにょ蠢くので、足を踏んで黙らせる。

 

 おお……これが日本円にして3000万円の金貨か。

 さすがに生の金貨がこんだけ山になってると迫力があるね。

 

 普段僕たちが使ってる銀貨ね、あれニセモノの銀なんだよ。一応銀は使われてるけど、ニッケルなんかを混ぜて大幅に水増ししてるんだ。いくら新大陸の銀山から掘ってるとはいえ、大衆に出回るほど銀が大量にあるわけないからね。

 その代わり、金貨は純度が高い。金含有率が高い貨幣が目の前でじゃらじゃらしてる光景って、謎の迫力があるなあ。

 

 それにしてもドラゴンはどこでこんなお金調達したんだろう。

 人間に交じって暮らしてないはずだけど……どこかの金持ちから奪ったのかな。それとも誰も知らないルートでひそかに貨幣経済に浴してるのか? 謎だ。

 

 そんなことを思いながら、僕はウェズ君が貨幣をカウントする姿を見守った。

 

「……確かに。こちらをギルドへの賠償金として受領させていただきます。受領証を作りますので、しばしお待ちを」

 

「私も! 馬車の購入に私財を出したこのデアボリカにもそれを受け取る権利がある!」

 

「デアボリカちゃん~? 私たち、今まじめな話してるのよ~?」

 

「ヒッ!」

 

 うんうん、やっぱりデボ子を黙らせるにはアンゼリカさんだな。

 

 そんな僕たちを見ながら、ドラパパは顎髭を撫でる。

 

「……ときに世間話をするにも喉を潤すものが必要だと思うのだが、どうかね?」

 

「あ、ああ。失礼しました。今、茶を持ってこさせましょう」

 

 ウェズ君はそう言ってメイドを呼ぼうとするが……。

 

 待てよ、ドラゴンだよね。

 竜の好物といえば……。

 

「いや、お茶じゃドラゴンの喉には甘いだろ。この屋敷で一番いい酒を持ってきてくれ。ガンガンに強いやつがいい。多分デアボリカの書斎にあるだろ」

 

「おい! 私の秘蔵の酒だぞ!? 何を勝手に!!」

 

「おもてなしの精神だよ、こういうときケチると屋敷の主の格が低くみられるぞ」

 

 うずくまるデアボリカの耳元まで腰をかがめ、囁いてやる。

 デアボリカは涙目になりながら、うう~と呻き声を上げて不承不承頷いた。ついでにパンツも履き替えてこいよ、臭うぞ……。

 

 

 

 ややあって。

 

「かんぱーい!」

 

 持ってこられたデアボリカ秘蔵のウイスキーをグラスに注ぎ、僕たちは時ならぬ酒宴に興じていた。

 

「ぷはぁ!」

 

 これは強いね! 度数40くらいは余裕でありそうだ。

 地球でいうところのスコッチによく似ている。スコッチも産地で全然風味が違うんだけど、これはフルーティさとちょっぴり薬品っぽさが入り混じった独特の香りがある。舌が焼ける感覚に続いて、華やかな香りが鼻を抜けていくよ。まあ僕は産地がどこだろうと、お酒なら何でも大好物だけど。

 

「うむ、これはいい! やはり腹を割って話すには酒を交えねばな! 聖者殿はドライグのことをよくご存じだ!」

 

「あっはっは! それほどでも!」

 

 ドラゴンのことなんて何一つ理解してないけどね!

 洋の東西を問わず伝説に出てくるドラゴンって酒好きだから、もてなすなら茶より酒だよなーと思っただけなんだよね。単にこのおじさんが酒好きなだけかもしれないけど、うまくハマってくれたようで何より。

 

 惜しげもなくカパカパ飲まれていく酒瓶を見ながら、デアボリカが唇を噛んだ。

 

「ああ……私が賠償金を数えながら飲もうと楽しみにしていた酒が……」

 

 趣味が悪いな、こいつ。

 酒の趣味はいいんだけどなー。

 

 ウェズ君は下戸なのか、形だけ口をつけたきりで、あとはみんなの様子をうかがっているね。アンゼリカさんはいける口らしく、ぐびぐびやっている。アミィさんは仕事中だから、と水を飲んでいるね。

 

 これは天井の人の分、と言ってグラスにお酒を注いで部屋の隅に置いたら、目を離してる間にグラスが消えてたよ。どうやったんだろう。我がお嫁さんながら、時々想像もつかないポテンシャルを見せつけてくるなあ。

 

 ドラっ子はリンゴジュースを注がれ、不貞腐れた顔でちびちびやっている。そりゃ面白くないだろうね……。

 

 息子とは逆に、ドラパパはすごく機嫌がいい。息子の不始末で3000万円なんて大金を払わされたのに、どうしてこんなにテンション高いんだろうね。

 今も僕のグラスに酒を注いで、ガハハと笑ってるよ。

 

「さ、どうぞ聖者殿」

 

「じゃあお言葉に甘えて」

 

 僕は注がれたお酒を一息に飲み干した。

 かぁ~、うまい! 喉が焼けそう! つまみにソーセージとかほしいな!

 知っての通り、僕は【薬毒耐性】で絶対に酔わないからね、無限に酒の風味だけ楽しませてもらってるよ。

 僕の飲みっぷりを嬉しそうに見つめながら、ドラパパはしみじみと頷いた。

 

「聖者殿は大した御仁だ。理知があり、公正で、胆力がある。まこと、これほどの男が世の中にいるとは思いもしなかった」

 

「いやー、そんな褒められたもんでもないっすよ」

 

「そう謙遜なさるな。謙遜も過ぎれば嫌味になりますぞ、わはは!」

 

 90%くらいチートのおかげなんで本当に褒められたもんじゃないんだよなあ。

 

「そんな聖者殿を見込んで、お願いしたいことがあるのだが」

 

「あ、いいっすよ。僕にできることなら何でも聞きます」

 

 なんせ気前よく3000万円も払ってもらったんだからね。

 ちょっとくらいのお願いならサービスで聞いちゃう。ほれ、何でも言ってよ。

 

 僕がそう思って言葉を待っていると、ドラパパは姿勢を糺して言った。

 

「どうか我が息子の教育係を引き受けていただけぬか。謝礼として、此度の賠償金の倍……金貨360枚をお支払いする用意がある」

 

 …………。

 

「えええええええええええええ!?」

 

「引き受けまぁす!!!!!!!!」

 

 一瞬の静寂の後、ドラっ子とデアボリカの絶叫が部屋中に響き渡った。

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