【書籍版1巻2/20発売】貞操逆転ハードモード異世界を鋼メンタル冒険者が生き抜く   作:風見ひなた(TS団大首領)

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第68話「鋼メンタルでドラっ子の教育を断り抜く?」

「どういうつもりなの、パパ!? ボクは絶対に嫌だよ、こんな人間なんかが教育係だなんて!」

 

 突飛なことを言い出した父親に、ドラっ子はきゃんきゃんと高音で吠え掛かる。ドラゴンというよりチワワと言った方が近い騒がしさだなあ。

 

「ね、姉様苦しい……ううっ」

 

「今はすごく大事なお話し中なのよ~? 部外者は黙ってね~?」

 

 なお、こちら側のうるさい上にがめつい小動物は、アミィさんに捕まってフェイスロックを食らいながら、アンゼリカさんに睨まれていた。恐ろしく空気読まないなこいつ……。

 まあこんな金の亡者のことはどうでもいいや。それよりドラパパだよ。

 彼は右手でこめかみを揉みながら、大きな溜息と共にその真意を口にする。

 

「突然の提案で驚かれただろうが……。我が息子は一族でも特別な存在でな。我らドライグの始祖はア・ドライグ・ゴッホというレッドドラゴンなのだが、その子孫に生まれてくる赤竜はかの始祖の生まれ変わりと言われているのだ。故に生まれながらにして族長の座を期待される。加えてただでさえ出生数の少ない男子だ。それはもう、周囲の誰からも大切に扱われてきた」

 

「そう! そうだよ、ボクは特別なんだ! 次期族長なんだよ! だからボクより偉いのは現族長のママだけなんだ! 教育係なんてボクより偉そうなもの、必要ないよ!」

 

 我が意を得たりとばかりに、胸を張るドラっ子。

 ああ、なるほどなあ。

 

「つまりあまりにもチヤホヤしすぎて、こんなアホに育ってしまったと」

 

「うむ、ご推察の通りだ」

 

「え!?」

 

 父親からアホだと肯定されてしまい、ドラっ子が目を剥く。

 

「パ、パパ!? どういうこと!? ボクはパパの自慢の息子だよね!? いつも褒めてくれてるもんね!?」

 

「まあ、魔力の素養はな……」

 

 非常に言いづらそうに言葉を濁すドラパパ。

 しょうがないなあ、僕が代わりに言ってあげるか。

 

「そりゃそうだろ、10人いたら10人がお前はアホだと思ってるよ。口に出してないのはお前が王子様だからなのと、アホでいてくれた方が都合がいいからだ。裸の王様ならぬ裸の王子様だよお前は」

 

「は、裸の王様……?」

 

 うん? この世界には似たような寓話はないのかな。

 もしかしたら裸の女王様ってタイトルなのかもしれないが。とんだドスケベだな。

 とにかくニュアンスは伝わったのか、ドラっ子は憤慨した様子で肩を怒らせる。

 

「ぶ、ぶ、無礼者! ボクは次期族長だぞ! そのボクに向かってこの面罵、これはドライグ全体への侮辱だ!」

 

「主語がやたら大きいのはアホの特徴だぞ。他のドラゴンだって、お前と同等のアホって言われたら腹を立てるさ。いや、お前みたいなアホを作っちゃった時点でドラゴン全体がアホ種族とも言えるが」

 

 ……いや、これはさすがに失言だったか。

 周囲を見れば、アンゼリカさんたちがしんと静まり返り、唇を引き攣らせている。

 そんな空気の中で、ドラパパはダンディな顔に苦笑を浮かべ、ゆっくりと首を振った。

 

「何とも耳が痛いな」

 

「ああ、失礼。ちょっと言いたいことをストレートに言ってしまう性格なもので」

 

「とはいえ事実ではある。この子をこのように傲慢に育ててしまったのは我々全員の咎だ」

 

 おや、許してくれる? 随分と心が広いんだな。それともどうしても僕に教育係を引き受けてほしいのか。

 

「吾輩も少々かわいがりすぎてな……。数百年に一度の赤竜の男子であるのに加えて、歳を食ってから生まれた子なので、どうしても甘くなってしまった。娘であればわがままが過ぎれば拳骨のひとつでも落としているところだが、息子となると体罰を加えるのも気が引けてな」

 

 ドラパパはぽつぽつと、育児の失敗を口にする。

 うーん、地球と真逆にもほどがあるだろ。男ならそれこそ雑に扱っても壊れやしないし、ガンガン叩いて躾けろみたいな感じだが。いや、最近の風潮だとそういう体罰もなくなりつつあるみたいだけどね。

 

「しかし、聖者殿は違う! 息子をぶん殴って説教したと聞いたとき、吾輩はこの子の教育係が務まるのは貴公しかいないと確信したのだ! この子が間違っているときはどれだけ叩いても構わん! どうか我が息子を正道へと導いてやってもらえないだろうか!?」

 

 くわっと目を見開き、そんなことを言ってくるドラパパ。

 いや、体罰教師と知って子供の教育を依頼してくる親ってなんなんだよ。そりゃ確かにドラゴンを殴って説教できる人間なんてレアだとは思うけど。

 

 ドラっ子もパパに裏切られた!? みたいな顔して固まってるじゃん。

 別にこいつの味方をするわけじゃないけど、僕にとっても都合の悪い話なんだよなこれ。

 

「いやぁ……家庭教師ってことは、ドラゴンの集落に引っ越さなくちゃいけないんでしょ? それは無理ですよ。僕はこの街でやらなくちゃいけないことがあるので、お引き受けできません」

 

 僕の言葉に、アンゼリカさんとドラっ子がこくこくと頷く。

 アンゼリカさんから紹介される市民の治療もしないといけないし、アルシェさんのアトリエに依頼しているストーブと冷蔵庫の監修も必要だ。

 そもそも僕はハネムーン中だったんだよね。蜜月楼は居心地がいいし、しばらくあそこでイチャイチャラブラブしていたい。

 

 そんな意図を込めた言葉だったんだけど、ドラパパは我が意を得たりとばかりに大きく頷いてくる。

 

「まさにその通り。この子をしばらく預かって、手元で教育していただけないだろうか!」

 

「ええええええええええええ!?」

 

 この世の終わりみたいな悲鳴あげるじゃん、このドラゴン。世界の終焉を告げる黙示録の竜かな? 随分情けない終末の使者でございますね。

 

「じょ、冗談だよねパパ!? 下等な人間と一緒に暮らせっていうの!?」

 

「そうだ」

 

 すがりついてくる息子を一刀両断で切り捨てると、ドラパパは僕に向き直る。

 

「我々の村の環境は、この子にとって毒なのだ。チヤホヤと甘やかしてダメな男に育てようとする女しかいない。せめて吾輩だけは心を鬼にして接しようと思ったのだが、そうすると妻がへそを曲げてな……。こうなればもう、この子を村から引き剥がすしかない。聖者殿の下で厳しく育ててやってもらえまいか」

 

 いや……いやいやいや。

 そこで神妙に頭を下げられても……。

 

 教育に失敗したのはあなたたちドラゴンの責任でしょ。その後始末を僕に押し付けられても困るんだよ。

 

 ……とはいえ、だ。このままわがまま放題のダメ王子に成長されると、人間全体にとってめちゃめちゃ不利益でもあるんだよな。

 なんせゲーム感覚でモンスターけしかけて人間の村を滅ぼすようなクソガキだよ。

 それもまだ子供だからその程度で済んでいるのであって、この先成長して力を付けたらどんな災厄になるかわかったもんじゃない。

 

 どうしたもんかと頭を悩ませていると、ドラっ子が僕に指を突き付けてきた。

 

「こんな奴から教わることなんて何もないよ! ボクだって侍女から計算とか文字とか教わってるんだ! 教育係なんていらない!」

 

「ああ、まあ。僕も人に教えるのは下手ですね。文字も書けないし……」

 

 先日、アルシェさんに科学知識を教えて、自分の教師適正の低さを思い知ったところだ。共感性がないので相手が何をわかってないのか、推し量ることができないんだよね……。

 

「ほら! こんなこと言ってる! 時間の無駄だよ!」

 

 鬼の首を取ったようにドヤ顔を披露するドラっ子。

 しかしドラパパは首を横に振ると、息子の肩に手を置いた。

 

「違う。この方から学ぶべきは計算や文字ではない。生き方や考え方を学ぶのだ。今少し話しただけでも、吾輩はこの方から学ぶことを沢山見出したぞ」

 

「「マジで!?」」

 

 僕の言動から学ぶことがあるとか、言われた本人がびっくりなんだけど!?

 いやぁ……自分で言うのもなんだけど、こんなちゃらんぽらんなヤツから学ぶことなんてないと思うなあ。

 どういう買い被りか知らないけど、絶対に見習わない方がいいよ。

 

「パパはこいつのこと誤解してる! こいつは暴力的で邪悪な恐ろしい人間だよ! こんな奴見習ったら、頭おかしくなっちゃう!」

 

 そんな悲鳴をあげるドラっ子。

 奇遇だな、僕が暴力的で邪悪かはともかく、僕の真似をしたら頭おかしくなるという点については完全に同意見だ。

 

 だって僕自身、自分のこと頭おかしいガキと思ってるもん。

 面白いもの見つけたらほかのこと放り出して飛びつく成人男性とか、どうかしてるでしょ。頭幼稚園児かよ。

 

 そんなことを思っていると、ドラパパは僕に視線を向けてきた。

 

「聖者殿、この子に無理して何かを教える必要はないぞ。有益な知識を授けてもらえるならありがたい話だが、学ぶつもりのない者に教えても時間の無駄だ。差し当たって、そばに置いてくれればそれでよい」

 

「はあ……。要は同居だけさせてればいいってこと?」

 

「うむ、そういうことだ。学ぶ意思があれば勝手に育つ。成長しようとする意思すら見せないのなら、この子は最初から族長の器などではなかったということだ。ボンクラを族長になどできん。女に腰を振って一生を終えるのが似合いだ」

 

「そんなぁ……!?」

 

 ドラっ子は父親に見捨てられたと思ったのか、顔に絶望を浮かべている。

 

 成長する気がないなら廃嫡するぞって、わざわざ口に出してくれてるあたり相当に甘いんだけどなあ。ドラパパは彼なりに息子の成長を祈っているようだ。

 ……その教師役を僕に押し付けないならいい話なんだけどなあ。

 

 さて、どうしたものか。

 こいつを引き取るとなると、ハネムーンは中断せざるを得ない。まさか子供をひとり屋敷に残して、娼館に入り浸ってるわけにもいかないでしょ。

 それに教育費の6000万円なんてもらっても困るんだよ。今大金を受け取ってしまうと、アイリーンとウルスナの持参金がさらに膨れ上がってしまう。

 

 なんとか理由をつけて断らないと……。

 そう思っていると、誰かが僕の背中をつんつんと突っついてきた。

 

「……なんだよデボ子。僕は今頭使ってんだから、後にしてくれ」

 

「デボ子って言うな! それよりお前、この話は受けた方がいいぞ」

 

 耳元でぼそぼそと囁いてくるデボ子に、僕は眉をひそめる。

 

「受けないよ。どう考えても厄介ごとだろこんなの」

 

「いーや、受けるべきだ。お前ら、いつまで娼館でイチャついてるつもりだ? 前にも言ったよな。お前とイチャついてる間、アイリーンとウルスナの成長は止まってるんだぞ」

 

 む。それは確かに。

 2人とも1週間前から仕事に行くようになったけど、最初の3日間は完全に交尾のことしか頭になくなってたし。

 毎日毎日明け方までセックスして、ちょっと眠ったら食べ物を胃に詰め込んで、それから仕事に行ってるんだよね。若いから大丈夫なんだろうけど、睡眠不足から事故を起こさないかちょっと心配になってもいる。

 

「このドラゴンの子供が屋敷にいれば、お前らの生活も少しはハリがあるものになるだろ。子供の前でみっともない姿なんて見せられないもんな。嫁の成長を考えるなら、思い切って環境を変えるべきなんだよユウジ」

 

「それはお前がドラゴンと同居するという意味でもあるけど。それはいいの?」

 

「もちろんだ。私は父が子の成長を想う姿に心を動かされた! 健やかな成長のため、私も全力で力を貸そう! 見てくれ、私のこの瞳を……!」

 

 僕はデアボリカの瞳を覗き込んだ。

 キラキラと金貨の色に輝いていた。完全に金に目がくらんでいる。なんて信用できない瞳なんだ……。

 とはいえ、こいつの言うことも一理ある。

 

「分け前がほしいのか? 僕の代わりにこいつに算数でも教えてくれるなら、少し分けてあげてもいいけど」

 

「心外だな、私が金目当てだとでも思っているのか!? だがくれるというならもらうこともやぶさかではない。安心しろ、私も財テクには自信がある。この謝礼金はギルドを介さず、お前個人がドラゴンと取引した金としてウェズや姉様に話をつけてやろう。それならお前の嫁の持参金が増えることはない。カネがあれば、お前が何やらやってるという錬金術師のアトリエへの研究費用も出資できるぞ」

 

 ほう。それは耳寄りな話だ。

 僕はお金の話とかさっぱりだからね。

 別にそれほどお金がほしいわけでもないけど……アルシェさんの研究が進むなら願ってもないことだ。

 何よりお嫁さんの負担が減るのはとてもいい話だね。

 

 こいつも役立つことがあるんだな。

 そういうことなら、引き受けてもいいか。

 

「でも横領とかするなよ。勝手に投資信託に回したりしたらアンゼリカさんに突き出すぞ」

 

「……もちろんじゃないか。私を信じたまえよ」

 

 あ、絶対やらかすわこいつ。

 あとでアンゼリカさんとウェズ君を巻き込んで、金の流れを監視してもらうか。

 

 とりあえず内緒話を終えて、僕たちは体を離した。

 

「……ヒッ!? 姉様方、なんでそんな怖い顔で私を見るんです!?」

 

 デアボリカが何やら悲鳴を上げているのを背中に聞きながら、僕は口を開いた。

 

「わかりました。ではその条件で引き受けます」

 

「おお、そうか! 不肖の息子だが、よろしく頼む!」

 

「そ、そんなぁ!?」

 

 ニッコニコの笑顔のドラパパと、屠殺場に送られる豚のような悲鳴を上げるドラっ子。いや、さすがにその反応はちょっと傷つくわ。確かにウチには金に目がくらんだ豚がいますけどね。

 

「まあいいか。じゃあこれからよろしくね、ええと……」

 

 あれ?

 

「そういえばこの子、名前なんていうんです?」

 

「ああ、名前はない」

 

 ドラパパは顎髭を撫でながら、奇妙なことを言った。

 

「いずれ成人したらア・ドライグ・ゴッホを襲名する予定だが、子供のうちは名付けないでいる。我々の里は少々しがらみが多くてな、そういう慣習があるのだ。吾輩は我が息子と呼んでいるが、妻はベビーちゃんと呼んでいるし、侍女どもは若様などと呼んでいる」

 

「なんか、すごい奇妙な風習だね……」

 

「すごいだろう! ボクは特別なんだ!」

 

 はいはい、すごいのは風習の奇妙さであってお前じゃないぞ。

 胸を張って謎に威張るドラっ子を見ながら、僕はうーむと唸った。

 

「人間社会で暮らすにあたってやりにくいから、なんか名前つけていいですか?」

 

「ああ、もちろんだ。あくまでドライグの間の風習だからな。何かいい名前をつけてやってくれ」

 

 ドラパパがそう言うと、ドラっ子は嫌そうに顔をしかめた。

 

「こいつが考えるのぉ? どうせロクな名前つけないだろ」

 

「失礼な奴だな、ちゃんとつけるよ。えーと」

 

 そうだなぁ。

 呼びやすさと覚えやすさを考慮して……。

 

「じゃあドラコで」

 

「今、絶対ドラゴンの子供だからドラコってつけただろ!? 適当すぎる! ボクは絶対呼ばれても返事しないからな、そんな名前!」

 

 さすがにバレたか。

 もうさんざん心の中でドラっ子って呼んできたから、今更気取った名前考えるの面倒なんだよね。

 どうしたもんか……と思っていると、ドラパパはふーむと唸り声をあげた。

 

「ドラコか。さては“竜公(ドラクル)”をもじったのだな?」

 

「え?」

 

 きょとんとするドラっ子と僕に、ドラパパはしきりに感心したように頷く。

 

「250年ほど昔の南方の地に、異教徒の侵攻を食い止めた英雄がいてな。それが“竜公”を名乗っていたのだよ。我々ドライグにあやかった異名を名乗るとは、人間にしては感心なことだと思ったものだ。聖者殿もその伝承をご存じだったのだろう。さすが聖者殿だ、歴史にも造詣が深いとみえる」

 

「絶対違うよ!? パパはこいつのこと買い被ってるよ!」

 

「ふーむ、勇壮な英雄に連なるありがたい名前ではないか。ぜひ拝名するといい」

 

「話を聞いてパパ! こいつ絶対そんなんじゃないから! 自慢の息子が適当な名前つけられそうになってるよ!? 止めるなら今しかないよ! ジャストナウ!」

 

 えーと。

 僕はぽん、とドラっ子の肩を叩くと、せめてもの親愛の笑みを浮かべてみせた。

 

「これからよろしくな、ドラコ?」

 

「やだああああああああああああああ!!!!!」

 

 

 これが、僕と初めての弟子の馴れ初めだった。

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