【書籍版1巻2/20発売】貞操逆転ハードモード異世界を鋼メンタル冒険者が生き抜く 作:風見ひなた(TS団大首領)
僕の部屋に押し入ってきたドラコは、不審そうな顔で周囲に視線を巡らせている。
「何か?」
「……いや、さっき変な音がしただろ」
「口笛だよ、どこにも変なものなんてないだろ?」
「チーンジャラジャラなんて音がする口笛があってたまるか!? お前の口どうなってんだよ!」
僕の言い訳にツッコミを入れるも、ドラコは音がするようなものをどこにも見つけられず、首をひねった。
ふーっ……。
あっぶねええええええ!
慌てて自販機消したけど、なんとか間に合ったみたいでよかったああっ!
なんか床に散乱していたチートコインも一緒に消えたみたいだね。もう一度自販機を呼べば現れるだろうか。というか現れてくれないと困るよ、貴重なものだし。
これで何の成果も得られませんでしたぁっ!って感じでドラコも自室に帰ってくれるだろう。悪いなドラコ、散々部屋から引っ張り出そうとしてなんだが、僕にだって部屋に引きこもって内緒のことをしたいこともあるんだ。
……と思いきや、ドラコは何やら壁を見上げてじっと佇んでいる。
「何、これ?」
ドラコが見ていたのは、僕が壁中に貼り付けていた図面だった。
一番手近にあるのは、先日アルシェさんに渡した冷蔵箱の図面の控えかな。
「ん……ああ、冷蔵箱の設計図だね」
「冷蔵箱? なんだよそれ」
「食べ物を冷やす道具だよ」
僕は自販機への追及を逸らすために、ぺらぺらと口を回す。
さっきの音のことを忘れてくれるなら、今の僕は何だって喋るぞ。
「は? 食べ物冷やして何かいいことあるわけ?」
「食べ物を冷やすと、腐りにくくなるんだよ。肉とか常温だとすぐ腐るだろ? それを日持ちさせるのに使えるんだ。あとはそうだな……アイスクリームなんかも作れる」
「アイス……何だって?」
「アイスクリームだよ。牛乳や卵に砂糖を混ぜて、キンキンに冷やしたお菓子だ。水が凍ると氷になるのはわかるだろ? 牛乳や砂糖をかき混ぜてクリームにしたものを凍らせると、とても舌触りがいいごちそうになるんだよ。もうね、口の中でとろけて口中に甘味が広がっていく感覚がたまらないんだ」
「ふ……ふーん」
ドラコは僕の話に相槌を打ちながら、ごくっと唾を飲み込んだ。ゆらゆらと尻尾が揺れている。
おや……興味がおありで? やっぱり子供だな。さっきの音のこと忘れてくれるならサービスしてやってもいいぞ。
「食べたいの? 冷蔵箱が出来上がったら作ってやろうか」
そう声をかけてやると、ドラコははっとしたように眉を跳ね上げさせると、不機嫌そうな顔で声を荒げた。
「そ、そんなもの興味ない! ガキだと思ってバカにするなよ!」
「そっか。じゃあアイリーンやウルスナと食べようかな」
「なんだよ、結局作るんじゃないか。じゃあ、ボクも食べてやるからありがたく思えよな」
素直じゃないなあ、こいつ。まあいいや、冷蔵箱を作る目的がまた一つ増えたな。
そんなことを思っていると、ドラコはむすっとした顔で図面に視線を戻した。
「……それで? どうやって物を冷やすんだよ」
「ああ、仕組みが知りたいの? ほら、この箱って上下に引き出しがついてるだろ。上に氷とか氷の精霊石とかを入れて、下に食べ物を入れると、冷たい空気が下に流れていって食べ物が冷えるって仕組みなんだ。あとは引き出しの扉におがくずとかコルクを仕込んで、冷たさが外の空気に漏れ出ないようにしてやればいい。簡単な仕組みだろ?」
「…………」
ドラコは僕に視線を向けると、まじまじと僕の顔を見つめてくる。
なんだよいきなり。これまでまったく視線を合わせようとしなかったくせに、どういう風の吹き回しなのか。そんなに見つめてもアタイ落ちないんだからねっ。
「お前、結構すごい奴なの?」
「すごくはないかなぁ」
すごいのはこういった機械を考え付いた先人だよ。
僕はその知識をただ受け売りして図面に起こしただけだ。他人の功績を自分のものとして偽るなんてことはしたくない。
ドラっ子は別の図面に指を突き付けると、僕に説明を求めてくる。
「じゃあ、この機械は?」
「それはだるまストーブだね。元々は石炭を燃やそうと思ってたけど、火の精霊石というのを使えば煙も出ないって話だから、それに合った形に書き換えたんだよ」
「じゃあこれは?」
「それは機関車。石炭を燃やして水を沸かして、その圧力を利用して走らせるんだ。うまくいけば馬車より何倍も速く走るし、山ほどの荷物や乗員を運べるよ。まあ、僕は内部のことはよく知らないから外側の形だけだけどね」
「これは?」
「それは蒸気船。同じように石炭を燃やして、その圧力でスクリューを回して水の上を移動するんだ。風を読む必要もないし、凪のときに手漕ぎする水夫もいらない。材質も鉄で作れるから、木製の船よりも丈夫だし腐食もしづらいよ」
「……これは?」
「それは飛行機。複葉機ってタイプだね、空を飛べる乗り物だよ」
「空を!? 人間が!?」
「うん。でも、この世界にもホウキっていう飛行装置があるんだろ? だから需要はないかもしれないけど。魔力とか使わないから、誰でも空を飛べるのがメリットかな。まあ例によって、僕はガワしか知らないから、エンジンや翼の細かい調整は頭がいい人に考えてもらうしかないけどね」
「あれは……?」
「それは電球だね。フィラメントっていう細い線に電気を流すタイプのランプだよ。ランプと違って煤も出ないし、火災の心配もないのがメリットだ。確か初期のはフィラメントに竹を使ったはずだけど、竹ってどこに行けば手に入るのかなぁ」
さすがの僕でも電球の発明者のトーマス・エジソンがフィラメントに日本の竹を使ったという逸話くらいは知ってるよ。
まあそもそも電流を得る方法がわからないと、図面を引いても宝の持ち腐れだけどね。なんかいい発電方法ってないだろうか。
それから僕はドラコが指さす図面を、次々に説明していった。
なんかこいつ、科学に興味あるのかな。アルシェさんとか紹介してやろうか?
そんなことを思っていた矢先、ドラコはがしっと僕の腕をつかんだ。
なんだ?
「お、お前……こんなものを無防備に壁に貼るな! 金庫! 金庫にしまえよ! バカじゃないの!?」
「金庫? そんな大したものかなあ」
「大したものだろ! ボクにだってこのうちのどれか1枚でも実現したら、今の世界を変える代物だってわかるよ! こんなものを誰にでも見られる場所に置くな! 盗まれたらどうするんだ!?」
「どうするって……」
はっきり言って、どれもこの世界の技術では実現不可能なものばかりだ。
タービンが発明されてない蒸気機関車や蒸気船、エンジンの欠けた複葉機、電流を流せない電球。肝心要の技術の詳細を僕が知らないから、どれも役に立たない。
冷蔵箱とだるまストーブくらいじゃないかなあ、今の時代で実現できるのは。
ただ、もしまかり間違ってこの図面が流出して、とびっきり頭のいい誰かがこれを参考に実現させたとしたら……。
「嬉しいかなあ。だって世界の技術が進むわけだろ? それで幸せになる人が増えるなら、僕はそれでいいんじゃないかと思うよ」
「……名誉欲とかないの、お前? お前が考えたんだろ、これ。他人にアイデアを盗まれて悔しくないのか?」
「いいや。僕が考えたわけじゃない、知ってるだけだよ。僕の故郷の国では既に実用されてる機械ばかりだ。生み出すのと知ってるだけなのは、全然違うだろ。そんなのちっとも偉くないよ」
「……こんなものが、既に実用されてる国があるの?」
ドラコはしばしぽかんとした顔になった後、何やら嬉しそうに口元を歪めた。
「へへっ、ブリシャブめ。自分の国は世界一の先進国ですみたいな気取った顔しておいて、ざまぁないや」
なんかドラゴン的に思うところとかあるのかな……。
そして僕の視線に気づいたようで、なおさらハッとした顔になる。
「それならなおさら、しまっとけよ。絶対にブリシャブの奴らには見せちゃだめだ」
「どうして?」
技術が広まるのはいいことだと思うんだけど……。
小首を傾げる僕に、ドラコは真剣な顔をして告げた。
「これが知られたら、お前は殺されるぞ」
「……なんで?」
「ブリシャブという国がカスだからだよ。お前が思ってる以上にあいつらは貪欲で、嘘つきで、プライドが死ぬほど高い。自分の国は世界一の文明国で、だから他の国を侵略して他民族を残らず奴隷にしてもいいと思ってる。本気で世界征服しようと企んでるんだ。
ボクたちドライグの縄張りも古い時代から何度も侵略されてきた。奴隷にならなかったのは、ボクたちがドラゴンに変身できる能力を持っていて、あいつらの侵攻を跳ね返す力を持っていたからだ」
自分の祖先が受けた仕打ちを滔々と語るドラコ。その瞳の奥には、憎悪の炎が赤赤と揺れているように思えた。
「お前みたいな他国民が、自分たちより優れた技術を持っているなんて、あいつらのプライドが許さない。お前を捕まえて、拷問にかけて、根掘り葉掘り知る限りの知識を吸い出そうとするぞ。
それでブリシャブ人の学者が発明したことにして、最後にお前を口封じに殺すんだ。絶対にそうする、間違いない。
技術だってブリシャブが独り占めして、他の国を侵略するのに使われる。喜ぶのはブリシャブ人だけ、世界中に不幸がばらまかれるぞ。だからその図面は絶対人に見せちゃだめだ。むしろ、今すぐ焼き捨てた方がいい」
……うーん。
僕の知っているブリシャブ人は、アイリーンやウェズ君をはじめ気がいい人ばかりなんだけど。まあ女性は全員シコ猿ではあるが。
ただ、大ブリシャブ帝国という国については……ドラコの言葉を否定しきれないな。
ブリシャブ人がプライドが高くて、人種差別をする人たちだというのは、冒険者ギルドの受付の男性たちを見れば確かに……と頷けるところがある。
何より、ドラコの瞳は真剣だった。僕が発明で儲けるのに嫉妬してるとか、ブリシャブが技術発展するのが嫌とか、そういうのではない。ドラコは本心から彼の言ったことを信じているようだった。
「……わかった。お前の言うとおりにするよ。図面は燃やそう」
「うん、それがいいよ」
僕の言葉に、ドラコはほっと息を吐いた。結構ガチで僕のことを心配してくれてたのか?
こいつには嫌われてるもんだと思ってたけどなあ。
「ただ、冷蔵箱やストーブは既に作ってもらっているけど」
「それくらいならいいんじゃない。ボクもアイスクリーム食べたいし……」
そして自分が口走った言葉にハッとして、肩を怒らせた。
「別に楽しみじゃないからな! 調子に乗るなよ!」
「はいはい」
もしかしたら、こいつのおかげで命拾いしたかもしれないわけだしな。
気合を入れてとびっきりのアイスクリームを作ってやるか。
「それにしても、燃やすとなるとちょっと惜しくもあるな……。もし、この技術をドライグが全部実現できたら、ブリシャブなんて……」
ドラコは図面がびっしりと張られた壁を、ちょっともったいなさそうに眺める。
と、その視線が一点で静止した。
何やら突然呼吸が荒くなり、その頬も紅潮している。風邪だろうか?
下腹に手を置き、何かを我慢するような表情を浮かべながら、口を開いた。
「……あれは?」
「ん? ああ、自動車だよ。馬車よりも速く走る乗り物だね」
僕はスケッチに視線を向け、ドラコに説明してやった。
トヨタのセルシオだね。うちのおじいちゃんが乗り回していたから、細部までばっちり覚えてるよ。
あれって割と高級車なんだってね。僕にとっては見慣れた、乗用車といえばこれみたいなイメージなんだけど。『重厚感あふれる優雅なスタイリング』なんて表現する人もいて、人間の美的センスってそれぞれなんだなあって思うよ。
ドラコもそういう人種なのか、何やらとろけるような眼差しで夢中でスケッチを見つめている。
腰をくねくねともじつかせているが、おしっこ我慢してんのか? それを我慢してでも見ていたいってことなのかなあ。ふーむ、そこまで気に入ったのか。
「欲しかったら、これやろうか?」
「いいのっ!?」
うおっ、すごい食いつき……。
僕の提案に、ドラコはすごい勢いで振り返って叫び声をあげる。
「どうせ燃やすものだしね。お前が大切に保管して誰にも見せないならあげてもいいよ」
「うん! 大切にする! 絶対に大切にするよっ!」
ドラコは興奮した面持ちでこくこくと何度も首を上下させる。
あれ? なんか思ったよりも素直だな。これ、交渉材料にできるか?
「それと……これからは外で友達を作って遊ぶって約束するなら、他の自動車の絵も描いてやってもいいぞ」
「他にもあるの!?」
「ああ。トラックとか、消防車とか、ワゴン車とか、いっぱいあるぞ。自動車はめちゃめちゃ種類があるからな」
「わ、わかった! 遊ぶ! 遊ぶからもっとちょうだい!」
ドラコは何かにとりつかれたような素直さで、僕の提案に飛びついてきた。
おお……まさかこんなにうまくいくとは。
いやあ、思わず笑顔がこぼれちゃうな。
「ふふっ……」
「な、なんだよ!?」
警戒するようにこちらを見るドラコに、僕は笑みを向けた。
「いや、ドラコも男の子なんだなって」
「わ、悪い!?」
「いーや。男の子はこういうのが大好きだからな、わかるよ」
「だ、だよねっ! ボク、変じゃないよね!?」
「ああ、普通だぞ。僕にもそういう時期があった」
僕はしみじみと頷いて、ドラコを肯定してやった。
「よ、よかったぁ……。こんな絵に見とれるなんて、ボク頭がどうにかなっちゃったのかと思った」
ドラコは心底安心したと言わんばかりの顔で、ほっと、胸を撫で下ろしている。
ふふ、わかるぞ。
小さな男の子は自動車が大好きだからね。僕も子供の頃はミニカーを集めて大興奮していたもんだ。
まさかドラゴンとこういう形で共感できるときが来るとは。いやあ、共感性を失った僕にしてはなかなかのグッドコミュニケーションだったんじゃないか? ばっちり意思疎通できたね。
ハシゴを使ってセルシオのスケッチを剥がし、丸めてドラコに手渡してやると、ドラコはそれをとても大切なお宝であるかのように抱きしめた。決して折り目などつけないように丁重に、しかし誰にも渡さないといわんばかりに両腕で抱えている。
自分が描いたものをそこまで気に入ってもらえると、なんとも面映ゆいね。
「じゃ、じゃあボクは部屋に帰るから……」
「ああ。また夕飯どきにな」
「……絶対に部屋に来ないでね!? 絶対だよ!?」
「はいはい」
何やらいそいそと立ち去るドラコに適当な頷きを返し、僕はふうっと安堵の息を吐いた。
やれやれ、うまく誤魔化せたようだな。
それにしてもさっきはびびったよ。
自販機が故障でも起こしたのかと思ったけど……なんかアナウンスが流れてきたから、正規の入手でよかったのかな。
パニックになってたし、立て続けにいろいろ言われたから、ちょっと内容を詳細には覚えてないんだけど……。
あれ、でも妊娠って言った?
「……妊娠!?」
僕のお嫁さんたち、妊娠してるの!?
いや、初夜から2週間くらいしか経ってないから段階的には着床なんだろうけど。まあ着床したら大体妊娠したって言って間違いはないのか?
なるほど……それは……。
めちゃめちゃ嬉しいな。
思わず頬がにまーって緩んできちゃう。へへ。僕がパパかぁ。
いや、持参金のあてもないのに妊娠させちゃってこれからどうすんのって心配もあるにはあるんだけども。
自分の遺伝子を受け継いだ子供、楽しみじゃないわけないでしょ。それも大好きな女の子たちの子供だよ? 絶対可愛いよ、間違いない。何があっても死ぬほど可愛がる。
今からベビー用品とか買い集めなきゃ。いや、子供部屋を整えるのが先か?
ただ、気になるのは……。
実績に【魔族孕ませ】とかなかった? あれなんなんだろ。
アイリーンもウルスナも明らかに魔族じゃなくて人間だし。
僕は他の女性に手を出した覚えはない。寝ている間に夜這いされたとかもないと思う。
一番可能性が高いのはバグかなぁ。
なんか僕が前世の出来事を忘れないのもバグっぽい挙動だし。そもそもカタログの説明が詐欺ばっかりで何も信用できないんだよね。
……もう一度呼び出して確かめてみるか。
今度はパチスロみたいな異常な動作をしなければいいが。
そう思いながら、僕は壁に向かって手をかざした。
「来い、“
一瞬目の前がブレ、何もなかった空間に再び自販機が出現する。
サービスが良いことに、自販機の前には何やらずっしりとした革袋まで置かれていた。チートコインをまとめてくれたようだ。カタログは詐欺ばかりなのに、こういうところは気が利くね。
今は挙動も落ち着いてるようで、自販機はひっそりと鎮座している。
さっきのは一体何だったのやら……。
首を傾げながら自販機を眺めていると、チャリンと音がして革袋の上にさらに5枚のコインが落ちてきた。
≪おめでとうございます!
実績【性の手ほどき】を達成しました。
チートコイン5枚をプレゼントします≫
「……は?」
なんのこったよ。
僕が頭の上に疑問符を浮かべていると、続けてアナウンスが降ってくる。
≪取得条件は【何らかの手段で男の子を精通させる】です≫
なるほど。
バグってるわ、これ。
≪久々に説明しよう!
雄のドラゴンには、自動車はなぜか非常にセクシーで欲情を掻き立てる造形をしているように見えるのだ! 種族の本能がそうなっているのだから仕方がない!
この世界ではまだ自動車が発明されていないが、開発された暁には超高級オナホとしてドラゴンから大好評を博するはずだ!
雄ドラゴンにとって、雄士が描いた自動車のスケッチは思わずオナらずにはいられないほどシコリティが高く、無垢なオスガキも思わず精通を迎えるほどのスケベさを秘めている!
ドラゴンにとっては、雄士は琴線とチンポにダイレクトヒットするドスケベ絵を量産できる神絵師であった!≫