【書籍版1巻2/20発売】貞操逆転ハードモード異世界を鋼メンタル冒険者が生き抜く   作:風見ひなた(TS団大首領)

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第76話「事態と性癖の複雑骨折」

「デアボリカの私室は2階の奥にあるはずだ。一列になっておとなしくついてこい」

 

 一行の先頭に立ったアミィは、屋敷の廊下をずんずんと歩いていく。

 48人の怒れる女冒険者たちは、そんな彼女の後ろをおっかなびっくりついていった。

 

 まるで冒険者たちによる貴族様のおうち見学ツアーのような光景である。

 衛兵であり当主一家の娘でもあるアミィが先頭に立っているため、戦闘行為は一切発生しなかった。私兵を兼ねているメイドたちが駆けつけてきたが、アミィが通せと言うと恭しくお辞儀して道を譲ってくる。

 アタシたち、討ち入りにきたはずなんだけどな……と冒険者たちは思わず首をひねった。

 

 それにしても、無爵位貴族(ジェントリ)の三女に過ぎないデアボリカだが、廊下に飾られているインテリアのセンスはかなりいい。心落ち着く風景画やツボなどが目の保養をしてくれる。

 本人の銭ゲバぶりからいかにも成金好みの悪趣味な内装の屋敷に住んでいるんだろうとばかり思っていたカルラは、予想を裏切るセンスに内心で感心した。

 

「いい絵だねぇ……。アタシには芸術なんてまるでわからないけど、ずっと眺めていたくなる絵だというのはわかるよ。デアボリカにこんな絵を愛でる感性があったなんて意外だったな」

 

「あいつは就く職業を間違えたんだよ。デザイナーでもやっているのが一番平和的なのに、どうしてこう権力などに執着するのだか……。まあ、ホットテイスト家に生まれた時点で家のために尽くす職業以外は選べないが」

 

 嘆息しながら歩みを進めるアミィの後ろで、冒険者のひとりがそっと壺に手を伸ばす。

 この壺もあたしらをこき使って荒稼ぎした金で買ったんだろう。それなら少しくらいあたしらに戻してもらっても罰は当たるまい。

 

「言っておくが、この屋敷を荒らすなよ。ここは現在ホットテイスト家の管理下にあるため、屋敷への狼藉はホットテイスト家への反抗と見なす。何も盗むな、何も壊すな。屋敷を出るときに首がつながっていたければな」

 

 背後を振り返りもせずに投げかけてくるアミィの鋭い言葉に、冒険者がピタリと手を止めた。首筋を冷たい汗が伝う。

 

 カルラは小さくため息を吐くと、他の冒険者たちに号令を下した。

 

「衛兵の姐御の言う通りにしろ。アタシらはデアボリカを誅しに来たんだ、押し込み強盗をしにきたんじゃない。万事お行儀よくだ。もうアタシらは盗賊まがいの荒くれ者じゃない、冒険者なんだ。できるよな? 家に住み、毎晩同じベッドで寝て、金を払ってモノを買う。そういう当たり前の人間になれたんだ。ここでもマトモな人間として振る舞えるな?」

 

 カルラの言葉に、冒険者たちは無言で頷いた。

 

 そう、彼女たちはほんの数年前までは当たり前の人間ではなかった。

 重税に耐えかねて住んでいた村から逃げた逃亡農民であったり、スラム生まれだったり、盗賊の一員だったり。背景はそれぞれ異なるが、少なくとも平穏な生活をしていた者はほぼいない。

 そんな彼女たちは、サウザンドリーブズに流れ着き、冒険者ギルドに拾い上げてもらうことでやっとまともな暮らしを手に入れることができたのだ。

 

 その拾い上げてくれた恩人であるデアボリカに、今こうして牙を剥いているのはなんという皮肉だろうか。

 

 5年前、まだ13歳の小娘でしかなかったデアボリカと初めて出会った日のことが、カルラの脳裏をよぎる。

 その頃は他の都市で中堅冒険者をやっていたカルラは、新しいギルドに実力のある冒険者を呼びたいという少女の熱心なスカウトに応じて、この都市を訪れたのだ。

 

「貴女のような冒険者が来てくれるなんて、本当にうれしいよ。私はこの街に、大きくはなくても実力のあるギルドを作りたい。みんなが切磋琢磨して、活気のあるギルドを。この街はまだまだこれから大きくなる。そのためには実力のある冒険者ギルドが必要なんだ。どうか私に力を貸してくれないか」

 

 そう言って差し伸べられた小さな手の感触を、今でも思い出せる。

 あのとき夢を語った少女はどこへ行ってしまったのだろうか。

 

「ここだ」

 

 アミィは足を止めると、カルラの方を振り返る。

 

「好きに問い詰めるといい。私はここで見ている」

 

「ああ……。しかし良かったのか?」

 

「何がだ?」

 

 扉の横の壁に背中を預けながら、アミィは聞き返す。

 そんな彼女の真意が読めず、カルラは眉をひそめた。

 

「いや……衛兵が率先してデアボリカの屋敷を案内してくるなんて。上に知られたら大目玉なんじゃないのか。どうしてアタシらの肩を持つ?」

 

 カルラはアミィに「デアボリカが成績優秀者にユージィと結婚する権利を与えると言って騙しておきながら、自分がユージィを囲っている」と説明した。

 それを聞いたアミィは、「それが真実か確かめるために自分も同行しよう」と返して今に至っている。

 同行というよりはもはや先導に近かったし、なんかその場のノリで一緒に死地に入って戦鬼にならんみたいなことも言っちゃったりしたが、事実としてはそうなる。

 

 カルラの疑問に、アミィは小さく微笑みを漏らした。

 

「上? この件に関しては私が一番上だよ。その私が、正面から言葉を交わさないと君たちはいつまでも納得しないだろうと判断した。まあ、そうだな……」

 

 アミィは細い顎に手を当てると、言葉を探した。

 

「つまり私は、この件を平和的に解決するためについてきたのだ。まずは話し合いをしたまえ、初手から暴力に頼るのではなく。文明人たるブリシャブ人らしくね」

 

「……おう」

 

 実際、アミィの言葉通りになっていた。

 もしもアミィが先導しなければ、冒険者たちは屋敷の中を打ち壊して進み、私兵と暴力沙汰を起こし、金品の略奪すら行ったかもしれない。

 しかしアミィがいてくれたおかげで、誰にとってもスマートに事は運んでいた。

 

「アンタ、変な衛兵だな……」

 

 衛兵といえば暴力で上から押さえつけてくるものだとばかり思っていたカルラは、困惑も露わにアミィに視線を送る。

 その視線を受け止めたアミィは、小さく肩を竦めた。

 

「私は誰も怪我しない解決が一番だと思っているだけだよ。まあ、個人的に確かめたいこともあるしね……」

 

「確かめたいこと?」

 

「いや、それは後でいい。今あいつの顔を見たら、私は何をするかわからんからな……!」

 

 そう言いながら、アミィはビキビキとこめかみに青黒い血管を浮かべていた。

 デアボリカが見たら誰も怪我しない解決が一番って言ったじゃん、言ったじゃん!と泣いてビビるのが確定の凶相であった。この女、冷静な顔をして静かにピキっている……。

 

 その迫力に、冒険者たちはごくりと唾を飲み下して後ずさった。

 この街で冒険者が問題を起こさない理由を端的に物語る光景である。

 

 アミィはふぅーっと息を吐くと、壁にもたれかかりながら顔を伏せる。

 

「私のことはいいから、とりあえず君たちの用事を済ませるといい」

 

「あ、ああ……。そうさせてもらうぜ」

 

 カルラはぱぁん!と両手を打ち鳴らして気合を入れると、ドアを勢いよく開け放った。

 

「デアボリカ! てめぇよくもアタシたちを騙してくれたな!」

 

「ぴぃぃぃ!?」

 

 カルラの怒号に、情けない悲鳴が上がる。

 しかし部屋中を見渡してみても、肝心の悲鳴の主はどこにも見当たらなかった。

 

 いや、ベッドがこんもりと人型に盛り上がっている。

 

「そこか!」

 

 つかつかと歩み寄ったカルラは、勢いよくシーツをはぎ取った。

 

「てめえ女らしくねえぞ! 自分がしでかしたことの責任くらい、正々堂々……と?」

 

「ふぇぇぇぇ……」

 

 シーツの下で震えていたのは、ふわふわのフリルたっぷりのロングスカートにヘッドドレスをした、可愛らしい女の子だった。

 

 いや、女の子ではない。

 なにせめくれ上がったロングスカートの裾からは、皮をかぶったちっちゃなウインナーさんがコンニチワしていたからだ。

 ちなみにシーツの下には奇妙な物体が描かれたスケッチが広げられていた。

 

「…………!?」

 

 冒険者たちは予想もしない展開に絶句した。

 なにせこれで怒りをぶちまけられると思ったら、デアボリカではなく女装した可愛い男の子がおちんちんを剥き出しにしてベッドに寝ていたのだ。理解不能である。

 

 

≪説明しよう!

 ドラゴンショタが女装姿のままベッドに潜り込んでドラゴンカーオナニーしている最中の光景である!

 ちなみに我々の世界のエロ漫画では女性が派手に股間おっぴろげてハードなオナニーするのがスタンダードのように描かれているが、実際にはベッドの中でシーツかぶって地味にクチュるのが普通である!

 つまり貞操逆転した世界では、今のドラコの姿が男性のスタンダードなオナニーと言えるのだ!≫

 

 

 ただ一つ言えることは、この光景を目撃した冒険者たちの半数の性癖が壊れた!

 また壊したんかこの師弟!

 あーあ、もう女装ショタでしかイケなくなっちゃったねえ。

 

「な、な、なんだよぅ! ボクに乱暴する気か!? ボクはお前たちなんて全然怖くないぞ!」

 

「ち、違う! アタシはショタコンじゃない! 断じて乱暴なんてしない、警戒しないでくれ!」

 

 おちんちんを丸出しにして威嚇するドラゴンに、カルラはあせあせと手を振った。チラッチラッと時折股間に視線を送りながら。

 

 

≪説明しよう!

 自分はロリコンではないと主張しながらも、幼女の裸を前にして思わずチラチラと胸元や股間に目をやってしまう男性の悲しい本能である!

 キミ、素質あるよ≫

 

 

「というか、デアボリカは!? ここ、デアボリカの部屋じゃないのか!?」

 

「デアボリカの部屋だったけど、なんかこの前『私の使っていた部屋でよろしければドラコ様に献上いたします。ゲヘヘ、この屋敷で一番いい部屋でございますよ……』って揉み手しながらくれたんだよ」

 

「なんだと……!?」

 

「というかお姉さんたち誰だよ! 早く出て行ってよ、おまわりさん呼ぶぞ!」

 

「ご、ごめんなさい! 衛兵に通報だけは勘弁して!」

 

 そう言いながらカルラと冒険者たちは大慌てでデアボリカ改めドラコの部屋から逃げ出した。

 おまわりさんならそこの壁にもたれてますけど。

 

 そのおまわりさんことアミィは、部屋から出てきたカルラたちに不審そうな目を向ける。

 

「……どうした? デアボリカとの話はもう終わったのか?」

 

「ここデアボリカの部屋じゃなかったぞ! なんか超可愛い男の子の部屋になってた!」

 

「なんだと? ついこの前まではデアボリカの部屋だったはずだが……」

 

 カルラとアミィは顔を見合わせると、たらーっと脂汗を流した。

 ではデアボリカはどこに?

 

「……屋敷中を探せ! このままでは逃げられるぞ!」

 

「おのれデアボリカ! さてはこうなることを予想して部屋を取り換えていたのか!」

 

 いや、そんなわけないやろ。

 とはいえ怪我の功名で、デアボリカが凸を免れたことは確かである。

 

「探せ! ただし屋敷の家財にはくれぐれも傷をつけるなよ! 万が一盗みをした奴は腕を切り落としてやるからな!」

 

「ウッス! どこだデアボリカーー!」

 

 俄かに殺気立った冒険者たちは、デアボリカの身柄を抑えようと屋敷中へと散り始める。

 

「ふわぁ……なんだよ、騒がしいなぁ」

 

 そこに呑気な声でのこのこやって来た奴がいる。

 昼寝していたのか髪の毛はボサボサで、まだ眠そうなまなこをしていた。

 

「あれ? アミィさんとカルラじゃないか。遊びに来たの?」

 

「ユージィ! アタシたちはお前を助けに来たんだ!」

 

「……僕を? 誰から?」

 

 カルラの言葉に不思議そうに小首を傾げる雄士。

 廊下の突き当りからは騒ぎを聞きつけたアイリーンとウルスナもぴょこりと顔を出している。

 

 アミィは意を決して雄士の手を握り、身を乗り出しながら尋ねた。

 

「ユウジ、確認させてくれ。お前はデアボリカの愛人なのか!?」

 

「はぁ!? そんなわけないでしょ! ぶっとばすぞ!?」

 

 その言葉に、アミィとカルラはふぅーっと安堵の息を吐く。

 

「ち、違うんだな? その噂はデマなんだな?」

 

「当たり前だろ! こんなひどい侮辱を受けたのは生まれて初めてだ! 生涯に一度あるかないかレベルの中傷だよ!」

 

「そ、そうだよな。ああよかった、安心した」

 

 アミィは豊かに実った胸を撫で下ろし、穏やかな微笑みを向けた。

 

「もちろん、私はわかっていたが。だがユウジも悪いのだぞ。姉様の許可があることとはいえ、デアボリカの屋敷になど住むからそんな噂を立てられるのだ」

 

「あ、そういうことか。確かにデアボリカと一緒に暮らしてたら、そういう邪推をする人も出てくるか……」

 

「ああ、なるほど。噂の出どころはそこか」

 

 横で聞いていたカルラは、ようやく腑に落ちたという表情で頷く。

 その視線は、雄士の手に重ねられたままのアミィの手に注がれていたが。

 

「ところで、お前らどういう関係……」

 

「ユウジ、前々から言おうと思っていたがいい機会だ。ここを出て、私と一緒に新居に住もう。以前、お前がいつかは住みたいと言っていた大きくて広い庭のある白い家が見つかったんだ。子供が遊ぶにもぴったりだぞ、きっとお前も気に入ると思う」

 

『えっ?』

 

 アミィを除くその場の全員が、きょとんとした目をした。

 つまり雄士もカルラもアイリーンもウルスナも、ついでに扉の隙間から様子を見ているドラコも全員が何言ってんだこいつという目でアミィを見た。

 

 その反応に、アミィが首を傾げる。

 

「どうした? おかしいことは何もないだろう。だって私たちは婚約者なのだし」

 

『あ゛?』

 

 その言葉に、アイリーンとウルスナが静かに殺気を纏う。

 

「おいお前、それはどういう……」

 

「ギョアアアアアアアアアアア!!?」

 

 ウルスナが詰め寄ろうとした瞬間、廊下の壁の一部がくるりと回転して、中から白目を剥いたデアボリカが転げ落ちてきた。

 

「お……終わった……。軟着陸への目論見がすべて潰えた……」

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