【書籍版1巻2/20発売】貞操逆転ハードモード異世界を鋼メンタル冒険者が生き抜く   作:風見ひなた(TS団大首領)

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第80話「鋼メンタルでウェズ君がデアボリカをわからせ抜く」

 しきりに恐縮したような態度のアミィさんを囲んで、ウルスナとアイリーンがきゃっきゃと盛り上がっている。仲良くやっていけそうで本当に良かったなあ。

 遠目に彼女たちの姿を眺めながら瞳を細める僕に、ウェズ君が声を掛けてきた。

 

「あの、ユウジ君。本当にこれでいいんですか?」

 

「何が?」

 

「いやその……婚約者が増えてしまいましたが、ユウジ君の意思を確認してないので……」

 

「? 僕は嬉しいけど?」

 

「そ、そうなんですか……」

 

 ウェズ君は何やらおずおずと訊いてくるけど、何の話だよ。こちとら共感性死んでるんだから、はっきり言ってくれよな~。

 いや、それよりも。

 

「ウェズ君、本当にありがとう! 君のおかげで素敵なお嫁さんが増えたよ! もちろん3人ともしっかり幸せにするから、従姉のことは安心して僕に任せてくれ!」

 

 そう言って彼の手をガッシと握り、ぶんぶんシェイクハンドすると、ウェズ君はどうしてか引き攣ったように見える笑みを漏らした。

 

「……はは。心底喜んでるんですね。性豪とは聞いてましたが、本当にそんな反応するんだ……」

 

「こいつマジか……?」

 

 ドラコは何をびっくりしてるんだろうか。

 これから同居人に素敵なお姉さんが増えるけど、僕のだからな。絶対に渡さないぞ。

 

「……ほら、見て。ウェズ×ユウだよウェズ×ユウ。てぇてぇなあ……」

 

「は? どう見てもユウ×ウェズだろ。ユージィから手を握ってんだろうが、てめぇの目は節穴かよ」

 

「あっちの女装ショタとはどういう関係? あの子も絡んでくれねえかなぁ」

 

 なんかうるさいなぁ。

 冒険者たちが僕たちを見てハァハァ荒い息を吐いてるんだけど、なんなの?

 それより3人で今後の生活について盛り上がってる僕のお嫁さんたちの方がてぇてぇだろ。そっち見ろそっち。

 

「チッ……。うるさい雌どもですね。しばらく息をするのをやめてもらえませんか?」

 

「きゃあああああっ♥」

 

「ウェズ君? どうして突然暴言吐いたのウェズ君?」

 

 何やらすさまじいことを言い放ったウェズ君に、僕は目を丸くした。

 しかも冒険者たちは怒るどころか、黄色い悲鳴を上げて大喜びしてるんだけど。

 

「ああ、失礼。この方たちは、最近こうして暴言を吐くと言うことを聞くようになったので、活用しているんです」

 

「そんな習性あったっけ!?」

 

 いや、よく考えたら僕が酒場でウェイターやってるときに、散々セクハラされたのですっごい塩対応してたんだけど、なんかなおさら喜んでたやつがいたような。

 そのときは数人だけだったけど、まさかその性質が全体に伝播したというのか……!?

 

 

≪説明しよう!

 クール系眼鏡女子に暴言を吐かれて喜ぶ非モテ童貞の集いである!

 これまでは雄士がセクハラさせてくれてガス抜きできていたので冒険者たちはまだまともな価値観を維持できていたのだが、彼がいなくなったことでバランスが崩れてしまった!

 行き場をなくした喪女の性欲は暴走し、危険な領域に突入する……!

 

 まともな世界に生まれていればヒロインの座を射止められそうな顔面偏差値の高さなのに、こんなイカレた世界に生まれてしまったばかりに性癖がこじれた喪女と化してしまった美少女たちの末路であった! 可哀想に!≫

 

 

「そもそもここは人様のお宅ですよ。お邪魔させてもらっている身なのですから、廊下の端っこにへばりついてこそこそと生きていなさい」

 

「はぁ~~~~~い♥♥♥」

 

「いや、本当にこの人たち気持ち悪いですね……」

 

「はひぃ♥♥♥」

 

 デアボリカがいなくなってウェズ君は本当に荒くれ冒険者の統制なんてできるのかなと思ってたけど、この調子だとなんか大丈夫そうだね。よかったよかった。

 いや、本当によかったのか?

 

「なるほど、こうすればメスは言うことを聞くのか……」

 

「ドラコ、これは学んじゃいけない例だよ。忘れよう、な?」

 

 僕はそっとドラコの顔に手を当て、教育に悪すぎるサンプルを隠した。

 

 まあ、なんだかんだでいい感じに収まったかな。

 

「さて……アレのことだけど」

 

「ああ、アレですね」

 

「どうするのあいつ」

 

 僕たちの視線の先にいるのは、もちろんデアボリカだ。

 おしっこ塗れのまま床に這いつくばっている姿は、あまりにも無様で哀愁を誘うが……。

 

「これで終わりにするわけがないよなぁ?」

 

 僕の言葉に、デアボリカがびくっと身を震わせた。

 やっぱり起きてんじゃねえかこいつ。

 

 その反応を見て、アミィさんや冒険者たちもじりじりと集まってくる。

 ちゃんとこいつに報いを与えないと話が締まらないよな。

 なんだかんだで許されると思ってんだろうけど、今度ばかりはそうはいかないからな。

 

「アミィさんの心を傷つけた償いはしっかりしてもらうぞ、デボ子」

 

「わ、私に何をするつもりだ!? 殺すか? 金か? 言っておくが蓄えはもうまったくないし、私を殺すのは悪手だぞ! 私はあくまでもホットテイスト家の利益のために働いただけなんだからな! 私を殺したら貴族殺しだぞ、この街にいられなくなるぞ! いいのか!?」

 

 こいつ、この期に及んで開き直りやがった。

 無駄な巨乳を張ってふんすとのけぞるデボ子の胸が生意気だ。

 

「しかし、まいったな。確かに始末に困るぞこいつ……」

 

 顔をしかめるウルスナに、僕は小首を傾げた。

 

「そうなの?」

 

「貴族家としてはお前と別れさせようとするのは間違ってないんだよ。それがこの世界で一般的な貴族ってもんだ。手段は人間として最低だったけどな」

 

「そ、そうだ! 私はホットテイスト家の血統を守るために正しいことをした……ヒイッ!」

 

 そう口にしながら、アミィさんの顔を見て悲鳴を上げる。

 こっちには背中を向けてるけど、どんな形相をしてるんだろうか……。

 アイリーンが僕の腕をつかみ、フルフルと首を振って制止してきたので確かめるのはやめておこう。

 

「だから怒りに任せてデアボリカを殺すのはダメだ。貴族家の利益のために動いたデアボリカを害することに正当性がない。俺たち平民が貴族を殺すのはご法度だし、アミィが手を下しても、殺人の罪を問われることになる」

 

「そうだぞ! アミィ姉様でも、私は絶対に殺せないんだ! ふははははははーーーーッ!」

 

 ウルスナの説明を聞いてるうちに気が大きくなったのか、デアボリカは高笑いまで上げ始めた。こいつすごい勢いで調子に乗るじゃん。おしっこ塗れのくせに。

 

「何が貴族家だ、まったく……。こんな片田舎のジェントリに守るべき血統も何もあるものか」

 

 当のアミィさんは、半目でそんなボヤキを上げている。

 

「そういうものなんだ?」

 

「そりゃそうだよ。伯爵やら侯爵やらの高位貴族ならともかく、我々はジェントリだぞ? それも長子ならともかく、私は次女だ。平民と結婚することに何の問題があるものか」

 

 へえー。僕、いまいちジェントリってどのくらいの立場なのか理解できてないんだよね。

 僕が読んでたWEB小説には出てこなかったしなあ。まあ王子が男爵令嬢に惚れたからって公爵令嬢を一方的に婚約破棄するような話がまかり通る界隈だけど。その王子は廃嫡しろ。

 しかしそうなると……。

 

「ねえ、これ本当にホットテイスト家の意思なんだよね? 領主の許可得てるの? ちゃんと相談した?」

 

「し、したに決まってるだろ! 何言ってるんだまったく!」

 

 やけに早口じゃん。

 

「母上がそんなことに拘るとは思えんがな。そもそも我々の父上も出自不明の男だったぞ?」

 

「…………」

 

 アミィさんの指摘に、さっと視線を逸らすデアボリカ。

 ははーん。

 

「お前……さては独断だな? 大方、僕が義兄になるのが嫌だからとかの理由だろ」

 

 まあこちらとしてもデアボリカが義妹になるのは困るが。

 ……あれ? こいつ、もしかして僕の義妹になるの!? 嘘だろ、こんなお荷物が身内になるの!? マジかよ、アミィさんは魅力的だけどこんなんがついてくるのか!?

 

 【精神耐性】を貫通する勢いで動揺する僕をよそに、デアボリカはうがーっと犬歯を剥いて威嚇してくる。

 

「だ、だからどうだっていうんだ! 私はホットテイスト家の血統を守るために動いた! 家の利益のために行動したんだ、そんな私を殺せないのは確かだろう!」

 

 くそっ……まいったな。デアボリカを裁く方法を思いつかない。

 別に命までは奪おうとは思わないけど、そもそも身体にダメージを与える大義名分がない。

 もう金も持ってないから賠償金も取れないし。

 

「ふははははは! 今の私を傷つけることは誰にもできない! 法に守られた私は無敵の存在だ! ハハハハハハハーーーーッ!」

 

 無敵の人と化したデアボリカは、高笑いを上げて勝ち誇っている。

 

「くそっ……こいつにダメージを与える方法はないのか!?」

 

「ありますよ」

 

 そう冷静な表情で口にしたのはウェズ君だった。

 

「マジかよ!?」

 

「ええ。デアボリカの精神にダメージを与えるとっておきの案があります」

 

「強がりはよせウェズ君! 私は無敵の存在だ!」

 

 ちょっと黙っててデボ子。

 

「ウェズ君、それは一体……?」

 

「何、大したことじゃないですよ。アミィを騙して傷つけたことへの個人的な償いとして、デアボリカにはアミィとユウジ君の結婚を認めるように、ホットテイスト家を説得してもらいましょう」

 

 そう言って、ウェズ君はニヤリと唇の端を歪めた。

 

「そう、領主であるギガンティア様と、領主代行の()()()()()()を説得してきてください」

 

 ?????

 それがデアボリカの精神にダメージを与える方法?

 いや、なんでそれがダメージになるのかさっぱりなんだけど。

 アミィさんもまるで意味がわからないようで、きょとんとしている。

 

 しかしデアボリカの反応は劇的だった。

 

「ぎゃああああああああああああああーーーーーーーッ!」

 

 まるで十字架を突き付けられたコウモリ男みたいな悲鳴を上げるじゃん。

 え、何? そんなにお母さんと話すの嫌なの? 遅めの反抗期?

 

「ひ、ひ、ひどいっ! あんまりだっ! よくもそんなひどいことを思いつくねウェズ君!? 人の血が流れていないのかい!? というかどこでそれを知った!? 私しかそれを知る者はいないはず……!」

 

「デアボリカ。貴方は人が秘密にしている情報を得るときに、これまでどうしていましたか? 貴方のポストを受け継いだ私も、当然それを使えると思いませんか?」

 

「……裏切ったな、裏切ったなあいつーーーーーッ!!」

 

 虚空を見上げて絶叫するデアボリカ。

 あいつ?

 

「金の切れ目が縁の切れ目でござるよ。それ以外の関係性を築いてこなかったのだから、ニントモカントモ仕方ないでござるな」

 

 何もいないはずの隣の空間から、そんな呟きが聞こえてきた。

 なるほど、彼女に素っ破抜かせていたのか。こいつが見えないのどういう理屈なんだろうな。全裸なのに。というか、こいつもしかしてずっと僕の隣にいたの? 怖いんだけど。

 

「い、嫌だっ! 私は絶対にそんな話は聞かないぞ!」

 

「おや、どうしてです? 言っておきますが、半年前の当時とは状況が変わりました。もうユウジ君は得体のしれない東洋人の流れ者ではありません。ロングフィールド伯爵家が認める聖人であり、彼を取り込むことはホットテイスト家にとって大変利益があることなんですよ。どこかの誰かさんが身を張って証明してくれましたものね?」

 

「んぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐっ……!」

 

 ニヤニヤと笑うウェズ君に、デアボリカは歯噛みしながら喉から奇声を絞り出した。

 なるほど、そういえばそうだ。僕は聖人ってことになっていたんだった。

 そしてそれを証明したのは、他ならぬデアボリカ本人なのだ。すごいなこいつ、すべての行いが的確に跳ね返って来てるぞ。

 

「ホットテイスト家の利益を忠実に考えているデアボリカさんは、もちろんユウジ君とアミィの婚姻のために尽力してくれますよね? それ以外の償いなど認めませんよ。何せ賠償金も支払えないほどお金に困っているんです、今の貴方には身一つで働くしかありませんよね?」

 

「そ、れ、は……!」

 

 ウェズ君は言葉に詰まるデアボリカに、人差し指を突き付けた。

 

「さあ、どうなんです。お二方を説得するのかしないのか! 今すぐこの場で聞かせてもらいましょう!」

 

「~~~~~~~っ!!」

 

 だらだらと脂汗を垂れ流しながら苦悶の声を上げていたデアボリカは、やがてその滴がぽたりと床を汚すと同時に、這いつくばるようにうなだれた。

 

「……わかった、説得してくる……」

 

「それは重畳」

 

 ウェズ君は我が意を得たりとばかりにニヤリと笑った。

 うーん、一体どういうことだったんだ?

 いまいち事情がわからないんだけど、ウェズ君が渾身の策でデアボリカをハメたことはわかったよ。

 さすがはギルマスだね、これなら冒険者ギルドは安泰だ。

 

「ああ、念のために言っておきますが、やっているフリはナシです。少なくともアンゼリカ姉の説得だけはきっちりやってもらいますよ。貴方もご存じの見張りをつけておきますからね」

 

「うぐぐぐぐ……」

 

 デアボリカはものすごく青い顔でお腹を押さえている。

 胃でも痛いのかな。【疾病耐性】を分けて……いや、こいつにはいいや。

 

 おや、真っ白に燃え尽きているデアボリカに、アミィさんがつかつかと近寄っていく。

 まだ腹の虫が収まらなくて一発ビンタでもするのかなと思っていたら、おもむろにひしっと抱擁した。

 

「ありがとう、デアボリカ……。なんだかんだ言って、私のためにお母様たちを説得してきてくれるんだな」

 

「んぎっ!?」

 

 アミィさんはとても幸せそうな顔で、ぐすっと涙ぐんだ。

 

「さっきはいろいろ言ったけど、私はお前を許すよ。お前が身を張って祝福してくれるんだ、姉としてこれほど嬉しいことはない。お前からの祝福、受け取らせてもらうよ」

 

「んぎいいいいいいいいいいいッ!」

 

 あ、デボ子が盛大に泡を噴いて卒倒した。

 

 

 こうしてデアボリカへの怒りに端を発した討ち入り騒動は、アミィさんと僕の婚約発表会という形で、数多くの冒険者たちに祝福されながら幕を下ろしたのだった。




冒険者たちの総意「あいつは淫乱すぎてとてもウチらの手に負えないから、ギルマスとの絡みを鑑賞するだけにしとこ……」
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