【書籍版1巻2/20発売】貞操逆転ハードモード異世界を鋼メンタル冒険者が生き抜く   作:風見ひなた(TS団大首領)

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第86話「鋼メンタルでお嫁さんズのご機嫌を取り抜く」

 ドラコにプレゼントした帽子は随分と気に入ってもらえたようだ。

 居間でくつろいでいる今も、ソファに仰向けで寝そべりながらお腹の上に帽子を置いて、ときおり軽く撫でている。

 子犬でも愛でるように可愛がっている様は見ていてほっこりするね。

 

 そんな呑気なことを思っていたのだが……。

 

「その帽子可愛いね、どうしたの? へえ-、ユージィにもらったんだ。そっかー。ユージィがプレゼントしたんだぁ。ふーん。あたしはまだ何ももらったことないのになあ。あたし、お嫁さんなのになあ」

 

 じい~~~~~~っ。

 

 ドラコが帽子をもらったことを知ったアイリーンが、じっと物言いたげな眼でこっちを見てくる。

 気づかない振りをして目を逸らしたり、そそくさと立ち去ろうとしても、ずっと無言でついてきて視界の中に入ってくる。知らなかったのか? お嫁さんからは逃げられない……。

 

「あの……アイリーンさん、どうかしましたか……?」

 

 根負けして恐る恐る訊くと、アイリーンはジトっとした上目遣いで僕を見つめてくる。

 

「お嫁さんはあたしだよ?」

 

「ええと」

 

「ドラコじゃないよ。あたしがお嫁さんだよ? ユージィはいつもドラコのこと可愛がってるよね。年下に優しいのはユージィのすごくいいところだと思うけど、ちょっと違わないかな? ユージィから最初にプレゼントもらうのは誰であるべきなのかな? ねえ?」

 

 ジト目で見上げながら淡々と言い募ってくる……!

 まるで新入りの犬ばかり可愛がる飼い主に無言の視線を向けてくる先住犬のごとき迫力だ。無邪気で可愛いとばかり思ってたけど、この子はこんな迫力出せたんだね……。あるいは女の子の基本技能なのかもしれないが。

 

 ソファに座って帽子をなでなでしながら横目を向けていたドラコは、その光景に……。

 

「ふっ」

 

「ウ、ウルスナ! この子、今、煽った……!」

 

 年下のオスガキに勝ち誇った眼で鼻で笑われたアイリーンは、様子を見ていたウルスナに泣きついた。

 こんなのに泣かされるアイリーンもアレだけど、ドラコも日頃アイリーンに世話になっておきながらよく煽る気になるよなあ。まったく、多少は丸くなったかなと思ってたけど、こいつの誰彼構わずに煽る悪癖はまるで改善される様子がないな。困ったもんだよまったく。

 

 

≪説明しよう!

 ドラコは別に無差別に煽っているわけではない! アイリーンをライバル視しているから煽ったのだ!

 具体的に言うと、雄士に年下として可愛がられるという点において、ドラコとアイリーンはポジションが被っている! 尊敬する年上に可愛がられたいという欲求に性別の差はないのだ!

 我々の価値観で言えば、尊敬するお姉さまに近づいてくるオスガキに、お姉さまからいただいた寵愛の証としてプレゼントを見せびらして牽制する百合妹といったところか!≫

 

 

「あーはいはい。ったく、ガキに煽られたくらいで泣きついてくるなよ。お姉ちゃんだろお前」

 

 鼻で笑われて泣きべそをかいたアイリーンの頭を撫でてやったウルスナは、ちらりとこっちに視線を向けてくる。

 

「だがユージィ。俺も妻のひとりとして言わせてもらうがな。お前が可愛がるべきは誰か。新婚なんだし、そこらへんをだな……」

 

「あ、うん。わかってるわかってる」

 

 もちろん僕だってアイリーンとドラコならどっちを優先すべきかなんてわかってるよ。

 そりゃアイリーンに決まってる。ドラコはあくまで仕事の付き合いだけど、アイリーンは大事なお嫁さんだからね。

 

 それにしても嫉妬するアイリーンも可愛いな。愛されてるのをビンビン感じる。

 年下に泣かされても手を出さない優しさも好きだなあ。

 

 でも、最近ちょっとドラコに構いすぎたのも確かかもしれない。アイリーンたちが協力してくれるから甘えちゃったけど、新婚だしもっとお嫁さんとイチャイチャすべきだったかもなあ。釣った魚に餌はやらないなんて考えてるわけじゃないけど、結果的にそうなってしまっている。いかんなあ。

 

 僕のおじいちゃんも言っていたよ。

「いいかい、雄坊。とにかく女には下手に出るのが家庭円満のコツだよ。強者たる男が弱者である女の顔色をうかがう必要はないなんて価値観が昔は流行っていたけど、おじいちゃんはそうは思わない。男が強いのはベッドで女をひいひいよがらせてるときだけでいいんだ。実際に家庭を切り盛りするのは女であって、男は燃料を運んでいるだけなんだ。せいぜい女からの覚えをめでたくしておいて、いざというとき口を挟む権利をもらえればそれで充分なのさ。そのためには日頃から細やかな気配りで女からの好感度を稼いでおかなくてはいけないよ。

 

 おじいちゃんも若い頃からおばあちゃん以外の女からの好感度を稼いでハーレムに備えていたんだけど、そのたびにおばあちゃんに見つかって、おばあちゃんの好感度が下がるんだ。不思議だね。……くそおおおおっ! 俺もあいつ以外の女ともイチャイチャしてええええ!」

 

 直後、どこからともなく飛来した包丁によって服を柱に縫い留められたおじいちゃんは、舌なめずりするおばあちゃんによって好感度を無理矢理上げさせられていたね。

 おじいちゃんには悪いけど、あの夫婦間において男性は弱者だったよ。

 

 ともあれ、ここはおじいちゃん直伝の恋愛テクニックを見せるときだ。

 

 僕は目尻に涙を浮かべるアイリーンを抱き寄せ、その頭にそっと手を伸ばした。

 しゅるっ……。

 

「うん、可愛い。すごくよく似合うよ」

 

 そう言って、僕はアイリーンに笑顔を向けた。

 アイリーンの頭につけられていたのは、空色のリボン。白い縁取りがあり、バラを模した造花も添えられている一品だ。

 いつものアイリーンのポニーテールをほどいて結び付けてみたけど、これがとてもよく似合っていた。普段よりずっと大人っぽく見えて、飾った本人もドギマギしてしまう。アイリーンの少女っぽさとちょっと背伸びしたオシャレさのバランスが絶妙だ。

 

 手鏡に映して見せると、アイリーンはぱああっと顔を輝かせた。

 よほど嬉しかったのか、手鏡をじーっと眺めたり、角度を変えてみたり、リボンにちょんちょんと手を添えてみたりと、ウキウキしながら僕の贈り物を鑑賞している。

 

「ありがとう、ユージィ! これ、大事にするね!」

 

「うん。そう言ってもらえると僕も嬉しいよ」

 

 ……セーフ!

 

 いや、別にこれ前々から用意したものではないんだけどね。

 仕立て屋にもらった包みがリボンと造花で飾られた結構高級なもので、捨てるのももったいないからなにかに使えないかなと思っていたんだけど……ちょっとアレンジしたら良い感じの髪飾りになったんだよ。そのうちアイリーンにあげようと思って懐に忍ばせていたんだ。

 これ、アイリーンにしか使えない手だったな。ウルスナやアミィさんにはリボンはちょっと似合わない。

 ともあれ……ククク……切り抜けたぞ……!

 おじいちゃんの言う通りだ、チョロいもんだ……! 女なんてな……!

 

 僕は勝利の余韻に浸りながら、ウッキウキの笑顔で手鏡を覗き込むアイリーンを眺めた。

 そしてアイリーンの背後には、口元だけにこやかに微笑みながらこちらを見つめてくるウルスナとアミィさんの姿が。

 

「…………」

 

「…………」

 

 じいいいいいいいいいいいい~。

 

「あの……ウルスナさん、アミィさん……眼力すごいっすね……」

 

「俺には? アイリーンと同時に婚約したんだから、アイリーンだけもらうのはおかしいよな?」

 

「こういうものは公平でなくてはならない。平和とは、実に維持が難しいものだ。だがもちろん賢明な我が夫はその機微をわかってくれていると思う。そうだな?」

 

「はい……」

 

 こうして僕は、ウルスナとアミィさんへのアクセサリーをプレゼントするために、貴金属店に連れていかれることになったのだった。

 

 いや、体としては女性にせがまれてアクセサリーを買わされるって形だけど、別に僕としてはまるでマイナスの感情はないよ。

 そもそも僕が2人に合うようなプレゼントが手元にないから、貴金属店に連れて行ってほしいってねだったわけだしね。

 

「いや、ほんの気持ち程度の品でいいからな。無理すんなよ?」

 

「うむ……。私もアイリーンが羨ましかっただけであってだな。何か形になるものがあれば、それで十分なのだが……」

 

 いざ貴金属店の前まで来て、ウルスナとアミィさんはそんなしり込みを始めた。

 本当に奥ゆかしいんだよなあ、この2人。元高位貴族と現貴族なんだから、どーんと構えてりゃいいのに。

 今の僕は結構お財布も潤ってるし、ここでがっつり奮発するつもりでいるよ。先日アンゼリカさんから治療費をもらったけど、お金の使い道が今のところ特にないから余らせちゃってるんだよね。

 

 しかしそうなるとプレゼントの格の違いがアイリーンと開きすぎやしないかと思うんだけど、僕のお手製髪飾りを付けたアイリーンはものすごく上機嫌で一行の最後尾を歩いている。

 いつもの服のまま髪を下してリボンを付けただけなんだけど、僕の目にはすごくおしゃれして見えるな。あ、目が合った。どうしたの?と不思議そうに小首を傾げて、ニコニコでこっちを見てくる。

 いや、多分これウルスナとアミィさんに値が張るものを贈っても気にしないな。手作りの方が喜ぶタイプだ。それを安上がりな女性とみるか、値段でごまかせない難しい女性とみるかは男性次第だろうね。

 

「ようこそいらっしゃいましたお客様! こちらの男性への贈り物ですね? ホホホ、いやあお若くていらっしゃいますから、どんなアクセサリーでも似合いますよ! 当店はさまざまなアクセサリーを取り揃えておりますから、ええ、もちろん! お財布の事情に合わせてどんなものでもお出しできますよ!」

 

 店に入るなり……マヌカンっていうの? きっちりとしたスーツを着込んだ男性店員が、すりすりと手もみしながらアミィさんに近づいてきた。

 いや、現代日本だとこういうファッションの店の店員って大体女性なんだけども……この世界だと男性なんだね。

 

「それで、この度はどういうアクセサリーをお探しでしょう? もしかしてご結婚など? それでしたら指輪などいかがでしょう。こちらの指輪、材質が純銀となっておりまして。新大陸で銀が大量に採れておりますから、今大変お買い得になっておりますよ! ご予算に余裕があるようでしたら、金無垢の指輪もございます! 女性3人と男性1人で揃いのデザインを4本分ご用意することもできますよ!」

 

「ああ、いや……結婚はするのだが……」

 

「なんと、おめでとうございます! もうご結婚されることが決まっていらっしゃるのであれば、記念品としてこちらのネックレスなどいかがでしょう? こちら非常に貴重な水の精霊石をあしらった純金の逸品となっております! どうです、アクアマリンにも負けないほどの輝きでしょう? かのロングフィールド伯爵家に伝わる伝説の宝珠の姉妹石と伝わっております! こちらの男性にとてもよくお似合いですよ!」

 

 そう言って店員はショーケースの中のネックレスを見せつけてくる。

 へえー、あの水の宝珠と同じ石なの? それは興味をそそられるな。

 そんなことを思ってネックレスに目を向けるも、なんかこの石小さいな。小指の先ほどしかないじゃん。あの一抱えもある宝珠とは似ても似つかないよ。

 むしろネックレスがギンギラギンの金細工で、すっごいゴテゴテしてるのが気になる。

 というか店そのものの店構えもそうなんだけど、なんかこう……悪趣味なんだよね。全体的にゴージャスなんだけど、成金趣味というか……。

 

 あとさっきから店員がアミィさんにしか話しかけてこないのが気になる。

 いつものバンダナに軽装のチンピラスタイルのウルスナとか、ちょっとおしゃれしたジャリのアイリーンはガン無視してるね。僕のことはたまに引き合いに出してくるんだけど、どうも扱いが軽いというか……。

 

「あのー、ちょっといいですか? 買い物するのは僕なんですけど。別に指輪とかネックレスなんていらないよ。それよりこの子たちに似合うアクセサリーがほしいんだけど」

 

「は? あなたが買い物?」

 

 そう言うと、男性店員は奇異なものを見る目つきでじろじろと僕を頭のてっぺんから靴の先まで眺めてきた。なんか不躾だなあ。

 やがて店員はフッと鼻で笑うと、自分の肩についた埃を拭うかのような仕草をする。

 

「失礼ですが、当店にはあなたのような男性のお財布で買えるような安い品は置いておりませんよ。他の店をあたられてはどうです? まあ、サウザンドリーブズの貴金属店といえばウチくらいのものですがね」

 

 何やこの人。男性客と見るや露骨に態度変えるじゃん。

 僕、そんなに貧乏に見える?

 いや、見えるか……。なんせまだハタチの若造だしね。

 シャネルとかのブランドショップにそこらへんの男子大学生が入ってきたら、まあ冷やかしとみられても仕方ないわな。

 

「金ならそれなりに持ってるよ。とりあえず品物を見せてもらってもいい?」

 

「それはもちろん構いませんが……くれぐれも傷をつけないようお願いしますよ」

 

 まあ勝手に見せてもらうほうがこっちも気楽でいいや。

 距離を取った店員は、胡散臭そうな顔でこちらをじっと見つめている。盗みでもしないかと思われてんのかな。

 

「何あの人、感じ悪い!」

 

「まあ……仕方ねえな。俺やお前は冒険者だからな。一般市民からすれば、犯罪者スレスレの無頼だ。追い出されなかっただけマシとしようや」

 

 プリプリと怒るアイリーンを、ウルスナが宥めに回っている。

 唯一まともな身分とみられたであろうアミィさんは、苦笑を浮かべていた。

 

「これでもサウザンドリーブズでは屈指の高級店だからな……。防犯意識が高いのもあるのだろうな」

 

「そういうものなんだ。アミィさんはこういう店よく来るの?」

 

「いや……衛兵の仕事で来ることはあるが、プライベートではないな。なにせ私はこういうものを贈る相手に縁がなかったものでな……」

 

「ふーん?」

 

 自分で着飾るために買ったりはしないのかな。

 まあアミィさんはあんまり無駄遣いしそうな感じしないけどね。

 

 

≪説明しよう!

 この世界において、貴金属とは基本的に女性から男性へプレゼントするものなのだ!

 家に押し込められていることが多い男性は基本的には金を持っておらず、しかも社会的な立場も低いため、店員によっては歩くマネキンのように思っていたりする!

 もちろん男性から女性にプレゼントしたいというケースもあるのだが、大体あまり金にはならない!≫

 

 

「ウルスナも来ないの?」

 

「俺もねえな。実家では箔付けのためにこういう貴金属もいくらか持ってたりはしたが」

 

 ウルスナはギラギラとした成金趣味な商品や、悪趣味な内装にちらりと目をやった。

 

「……本当の金持ちは直接店には行かねえよ。おすすめの商品を見繕って持ってこいって呼びつけるもんさ」

 

「なるほど」

 

 ということは、ここってマジでそういう本物の金持ちには及ばない、成金を相手にした店なんだな……。

 なんかそう考えると店員の嫌味な態度も納得だ。リッチな店で働ける自分にプライドを持ってる類の人なんだろうね。

 僕たちの身なりも、アミィさん以外はあんまり金持ってるように見えないだろうし。

 まあいいけどね。

 

 とりあえず店の中央あたりのスペースは、きんきらのネックレスやら宝石やらだったので見る価値なしと判断した。

 あんまこういうの、趣味じゃないんだよね。

 僕の実家は地元だと結構裕福な家だったけど、祖父母はあんま派手に着飾るのが好きじゃなかった。質実剛健っていうのかな。質素に見えるけど長く使えて味のあるデザインをした、そういう品が好きだったね。その薫陶を受けてる僕も、派手なのは感性が受け付けない。

 

 幸いなことに元高位貴族のウルスナもその部分は僕と共通しているようだ。もしかしたらウルスナって僕のおばあちゃんが若い頃、こんな感じだったんだろうか? いや、さすがに俺っ子を装ったりだらしなく酒に溺れたりはしないか。男には溺れてたけどね。

 

 貧民育ちのアイリーンや、武人気質のアミィさんも派手な服飾には興味がないようで何よりだ。末永く仲良くやっていける予感がするよ。僕がそういうのに興味がない子を魅力的に感じているから、お嫁さんに似たような気質の子が集まっただけなのかもしれないが。

 

 もっと地味なデザインで、キラリと光るセンスがあるアクセサリーはないかな。それも女性向けで。

 そう思っていろいろ見て回るけど、どういうわけかそもそも女性向けのアクセサリー自体があまり置いてなかった。

 アミィさんやウルスナ曰く、大体が男性向けなんだって。どのへんが女性向けでどのへんが男性向けなのか、僕には違いがよくわからないが……。

 

 監視の男性店員を連れ回しながら店の中を徘徊することしばし。

 やがて店の端っこで、僕はおっと目を惹くアクセサリーに出会った。

 

「これいいな。派手過ぎず、意匠も細かい。こういうの喜びそう」

 

 誰が喜ぶって、僕のおばあちゃんがだよ。

 あの人が喜びそうなデザインは多分ウルスナとアミィさんも喜ぶと思う。

 案の定、横から覗き込んできたウルスナとアミィさんもほうと声をあげる。悪くない印象を受けたみたいだね。

 

「ここの一角の商品、どれもいいね。なんでこんな隅っこに追いやられてるんだろ?」

 

「ああ……多分冷遇されてる職人の作なんだろうな」

 

「冷遇?」

 

 ウルスナの言葉に、僕はふうむと唸り声を上げる。

 なるほど。そう言われるとどのアクセサリーも似た意匠というか、共通するデザインセンスがあるような気がする。

 

「こちらはとある零細工房のものですな。大して需要のない女性向けのデザインばかり作りますし、いくらもっと金や宝石をふんだんに使った華美なものにしろと言ってもまるで言うことを聞かず、こんな地味なものばかり押し付けてきまして……。とはいえ意匠のセンスはいいですし、細工も凝っていますので、お情けで買い上げていますが。こちらのものでしたら、あなた程度の財布でも十分買えるのではありませんか? ホホホ」

 

 一言多いなあこの店員。

 とはいえ、いいものを安く買えるのならそれに越したことはないよ。

 とりあえず工房の名前だけは覚えておこう。いつか直接発注しにいってもいいな。

 

 というわけで、ウルスナにはバレッタを買ってあげることにした。

 蝶をあしらった銀細工で、ウルスナの煌めくような金髪にぴったりだね。

 むしろこの店が売りにしてるようなキンキラキンだったら埋もれちゃってるよ。

 

「大人っぽくてすごくいいと思うよ」

 

「ホントだ! なんだか色っぽいね!」

 

 バンダナをほどいてバレッタを試着したウルスナは、僕とアイリーンに褒められてまんざらじゃない照れ顔をみせた。

 いやマジでロングヘアにしたウルスナって気品がすごいな。いつものバンダナってよほど品がなく見えてたというか……これうかつに人に見せたら貴族だってバレるわ。

 このロングヘアは僕の前だけで見せてほしい。この美貌を独り占めできるなんて、僕ってなんて幸せ者なんだろうなあ。

 

「ええと、アミィさんには……」

 

 期待の眼差しでこちらを見ているアミィさん。

 その視線をビンビンに感じながら、僕は剣の鞘を飾る留め金に目をやっていた。

 

 アミィさんといえば尚武。その剣を飾るこの留め金はきっと彼女の華やかな武を鮮やかに彩ってくれることだろう。

 

 ……いや、違う! それはダメだ!

 

 アミィさんの目をよく見ろ!

 あれは普段下品なチンピラムーブしてるウルスナでもこんなにおしゃれにできたのだから、自分も可愛くしてくれるはずという期待の眼差し!

 そこに剣の留め金とか贈ったら絶対に逆効果!

 共感性が死んでいる僕でもわかる地雷選択肢だ!

 

 自分を信じろ! 他人ならどう思うかなんて浅い共感性は捨てろ!

 20年をかけて培われてきたギャルゲーマーとしての自分の経験を信じるんだ!

 

「この花の冠がいいんじゃないかな!」

 

 ここは逆張りだ! あえて可愛さ全振りでいけ! 僕は銀片を重ね合わせて作られた、金属製の花冠をセレクトした。

 

「こ、これは……可愛すぎるのではないか? 私のような武骨な女には似合わないぞ」

 

「いや、これがいい! このデザインこそアミィさんに不足しているものだ! ぜひ被ってみてくれ。……なんと可憐な! まるで地上に降り立ったヴァルキリーだ!」

 

 僕はここぞとばかりに大げさにほめそやした。

 いや、だいぶおだててはいるけど本気でいいなこれ。本人の苛烈な尚武の気質を、可憐な花のデザインが和らげていて、すごくバランスが取れてる。

 銀片を重ね合わせた造花なのもいいね。銀片1枚1枚が剣を思わせるし、それが集まって可憐な花になっているのはアミィさんの生き様そのものを表しているようで、とても象徴的だ。

 

「わー、可愛い! アミィさん、それとっても似合うよ!」

 

「一見可愛すぎるかと思ったけど、これはいいな。よく似合ってるぜ、受け取っておけよアミィ」

 

「そ、そうか。では……ありがたく」

 

 そう言って、アミィさんはまんざらでもなさそうに微笑んでくれたのだった。

 

 うん。初デートとしてはなかなかいい1日だったな。

 

 

 

 帰宅後。

 みんなで紅茶を飲んで一服していると、やかましいのが突撃してきた。

 

「ユウジ! 貴様、私の経営する店に訪れたらしいな! 今度は何を企んでいる! 吐け、さっさと吐かないか! 私の財布に手を出すようならただではおかないと知れ!」

 

「ああ、あの成金趣味、お前の店か……」

 

 つーかアミィさんに賠償金払う金がないとかいって、まだ余裕あるんじゃねーかデボ子。

 今度金がないとかほざいたら、雑巾を絞るように締め上げるからな。

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