【書籍版1巻2/20発売】貞操逆転ハードモード異世界を鋼メンタル冒険者が生き抜く 作:風見ひなた(TS団大首領)
旅の支度に追われたり、その合間にお嫁さんとデートしたりしてるうちに、あっという間に一週間が過ぎてドラゴンの里へ旅立つ日がやって来た。
まあ旅といってもドラコに言わせればひとっとびらしいんだけどね。
なんせこっちに来るときもドラパパに「どれ、お前を泣かせた悪い人間に吾輩がガツン!と言ってやろう。ちょっくら案内せい」と言われて日帰りのつもりで来たんだって。近所の人にクレームつけるモンペみたいな気軽さで襲来するじゃんドラゴン。
こっちの要件も備蓄の精霊石さえ分けてもらえればすんなり解決するだろうし、まあやろうと思えば明日には帰ってこれる気がするけど。
ドラコも一か月ぶりの帰省だし、ドラゴンの里ってどんなところなのか興味もあるし、一週間ほどゆっくりと腰を据えて観光するのもいいんじゃないかな。
とりま必要なものだけあればいいかと旅支度を始めたんだけど、まあ気が付けばゴンドラいっぱいにぎゅうぎゅうと荷物が積まれていた。
ドラコ含めて6人分とはいえ、こんなにたくさんの荷物必要かなあ。
アイリーンとウルスナは僕と結婚する前はあちこち近隣の都市の救援要請に応えて回ってたっていうだけあって、割と旅慣れてるから荷物もコンパクトなんだよ。武器防具と着替えさえあれば問題なし、必要なものがあれば現地で調達すればいいの精神だね。さすがだ。
アミィさんは衛兵であまり旅慣れてないから、最初は普段着やらタオルやらかさばるものをたくさん持ち込もうとしてたけど、アイリーンやウルスナの荷物を見て減らしていた。他のお嫁さんを見習ったり相談できるコミュ力はとてもいいね。
荷物を増やした犯人はドラコとデボ子だ。
ドラコはおやつやらおもちゃ箱やら詩集やら、こっちで手に入れたもの全部持ち込もうとしてた。お前このままドラゴンの里に帰る気なのか?
とりあえずおもちゃ箱や本は置いてけと説得して大半は部屋に戻させたんだけど、何やら大切にしてるらしい箱だけはどうしても手放そうとしなかった。中身を聞いてみたら、頬を赤らめてすごく言いづらそうにしながら、僕が描いた自動車のスケッチだって教えてくれたよ。
そんなもんいくらでも描いてやるから置いてきゃいいのに……と思ったけど、そういえば僕も子供の頃に旅行に連れてってもらうとき、お気に入りのおもちゃだけは頑なに持ち運ぼうとしてたっけな。
こういうの「ライナスの毛布」っていうんだっけ? 子供ってお気に入りのおもちゃを持ち運ぶことで、環境の変化に耐えようとするらしいね。
それを奪うのはさすがに気が引けるから、スケッチの持ち込みは許可したよ。まあどれだけ荷物が重くなっても運ぶのは本人だし、そこまで大事にされたら悪い気はしないな。
で、スペースが空いたのをいいことにデボ子があれやこれやと荷物を詰めた。
お前さあ……。
「お前、冒険者ギルドのマスターだったんだろ? なんでこんな旅慣れてない人みたいにごちゃごちゃと積み込むんだよ」
「触るなぁ! これは私の金で買った大事な荷物だぞ!」
箱に伸ばそうとした僕の手をぱしっとはたいて、デボ子はキシャーッと威嚇してくる。
「いや……何入ってんのこれ? かなり重そうなんだが」
「サウザンドリーブズ特産のワインやウサギ毛の織物だ!」
「なんでドラゴンの里に行くのに、そんなもんを積み込むんだよ……」
「気に入ってくれるかもしれないだろ! ドラゴン相手に特産品を売りつけてやる! 一定の需要が見込めるようなら、交易会社を立てて、大儲けのチャンスだぞ!」
目を金貨の色に爛々と輝かせながら、デボ子はそんなことを力説する。
なんてたくましい奴だ……。
「お前、以前にロングフィールド家にお邪魔したときも行きの馬車で荷物いっぱい積んでたけど……もしかして」
「当然売り込みにいったに決まっているだろう! 冒険者ギルドなんて儲からない商売をする理由はそこだぞ。モンスターを倒したところで大した謝礼ももらえん。冒険者ギルドの数少ないメリットは、いろんな場所に売り込みに行けるところだ。サウザンドリーブズの特産品を売り込んで交易ルートを結ぶ! 私はもうかってウハウハ、都市が繁栄してアンゼ姉様も喜ぶ! 素晴らしい話だろう!」
だぷんと無駄な乳を揺らしてデアボリカがふんぞり返る。
「はぁ……。罪のない人をモンスターから救って人助けするのが、お前の数少ない美点だと思ってたんだけどなあ」
僕は深々と嘆息した。
こいつ自己中で金の亡者でどうしようもないクソな性根だけど、わざわざ冒険者ギルドを立てて人助けしようという精神だけはあるんだよなと買ってはいたんだが。
「結局は金かよ……」
「なんだ? 何か文句あるのか? 誰だって金がなくては生きてはいられんだろうが!」
がるると犬歯を剥き出しにする駄犬(犬種:チワワ)を、僕は白い目で見つめた。
「ギルメン集めるときに『みんなをモンスターの脅威から救いたいんです! あなたのお力を貸してください!』って瞳をウルウルさせて頼み込んだってカルラが言ってたんだけど。お前、もう一度みんなに土下座して回ってこいよ」
僕の指摘に、デボ子は得意そうな笑みを返してくる。
「もちろんモンスターは倒すさ。奴らに都市を襲われては、商売あがったりだからな! モンスターという降りかかる火の粉を払うついでに、交易で金も儲ける! それを褒められこそすれ、批判される覚えはないぞ! 私は公益も私益も両取りする、デキる商売人ということなのだよ! クハハハハ!」
こいつぅ~~……。
「まあまあ、そう白い目で見てやるなユウジ。結果的にモンスターの脅威から人々は救われたし、デアボリカとて私欲だけで冒険者ギルドを立てたわけではない。それに儲けるチャンスがあれば手を伸ばすのは商売人の才覚というものだ」
苦笑を浮かべながら妹をフォローするアミィさん。本当にデキた人だな……。
「それにデアボリカも当初は先陣を切ってモンスターに戦いを挑んだものだ。冒険者たちもそんなデアボリカの姿に心を打たれて、剣を預けたのさ」
「へえー……デアボリカにもそんな時期があったんだな」
「ふっ、当然のことだ! 口だけでは人はついてこないからな! 部下を信頼させるには、まずトップが行動しなくてはならない! 組織運営の基本だとも!」
「なるほど。驕って行動しなくなったから、部下の信頼を失ったんだな……」
「組織が大きくなったら人に任せるのは当然のことだろ!? 何のために人を集めたと思っている!」
まあそれはそうなのだが。
こいつ、スターティングメンバ―としては最高だけど、しばらくしたら老害になるタイプの指導者じゃないか。やっぱり人の上に立たせちゃダメだよこいつ。もしくは会社が大きくなったら会長とかに祀り上げて組織に介入できなくすべきだね。
「まあ、冒険者ギルドが小さかったときは、本当にデキる子だったんだよ。現場指揮官としても優秀でな、人を救うという確固たる信念のもと行動していたんだ。私も何度か窮地を助けられたよ。あのときの理想に燃えたデアボリカが、今もこの子の中にいると私は信じている。だからユウジ、いろいろと言いたいことはあるだろうが、この子のことを長い目で見てやってくれないか?」
アミィさんにそう言われたら、僕も矛を収めるしかないんだよな。
「うん……そういう理屈はわかってはいるんだよ。冒険者としてこいつにいいように利用されたのが腹立つだけで」
「ふん! 利用される方がマヌケなのだよ! この世はいつだって私のように目端の利く才人が上に立つようにできているのだからな! ハハハハハハハ!」
調子に乗ってふんぞり返るデボ子。もう上体反らしすぎておっぱいしか見えないんだけど。こいつ本当にルックスだけはうまそうだな。性格がクソすぎて手を出す気にならないけど。しかも義妹。泣けるぜ。
「ところで、私は官憲なのだが。そう私欲をひけらかされると、つい気になってしまうぞ。お前、ギルド設立にあたってアンゼ姉様から補助金を受け取っていたな? まさか一部を自分のポケットに入れたりなどしていないよな。ちょっと数年前に遡って調査していいか?」
「えへへへ、冗談じゃないですかぁ~。私はみなさんをモンスターの脅威から救いたいということしか考えてませんよ~。人命救助が第一です、商売なんて考える余裕はとてもとても。あ、姉様肩とか凝ってません? 靴でもお舐めしましょうか?」
こいつ、この一瞬で土下座を……!
呼吸をするように命乞いする妹に、アミィさんははぁとため息を吐いた。
「こんな荷物を詰め込みながら、商売を考える余裕はないと言われても困るのだが」
「えへへ、今はもうギルマスも引退してますから。今の私はただの一介の行商人デアボリカちゃんです! 私はクリーンな存在です! 税金も払います!」
「…………」
すげえな、こいつもう存在そのものがお目こぼしの産物だぞ。
命の100%が僕たちの慈悲というか、殺すのもめんどくさいという諦めでできてるのやべーよ。
ただまあ、僕たちにとってメリットがない話かといえばそうでもない。
もしドラゴンの里との交易が成立したら、それはとても希少なルートとなる。
そうなれば都市が発展するのは元より、ドラゴンにとってもこんな役立つ商売相手を遊びで殺すのはやめようって考えになるかもしれないしね。種族友好のかけ橋になるかも。
僕では地元の特産品のサンプルを持ち込もうなんて発想にはならなかっただろうし、そう考えればデアボリカも役に立つんだね。
まあ荷物が増えたところで、誰も損はしないし持っていき得だよ。
「いや、荷物が重いとボクが疲れるんだけど……」
「じゃあ宝物は置いていくか?」
「絶対だめ! アレなしで1週間を過ごせっていうの!? 鬼! 悪魔!」
お前もお前で、どうして自動車の絵なんかにそこまで執着するんだよ……。
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ドラゴンの里は大ブリシャブ島の南西部にある大きな山にあるそうだ。
サウザンドリーブズは島の南東部にあって、そこからざっと400~500キロメートルは離れている感じかな。距離感がわからない? 東京から大阪までが500キロだよ。
その距離を、ドラコはほんの2時間くらいで飛んでいってしまった。そりゃ日帰り気分だわ。
つまりドラゴンの飛行速度は時速250キロってところか。本人的にはホウキで並走するアミィさんに気を遣って「あくびが出そうな速さ」で飛んだらしいから、本気を出せば300キロくらいいけるのかもしれない。
アミィさんはへとへとになってたけど、ドラコは全然余裕そうだね。改めて、ドラゴンと人間のスペックの差にびっくりだよ。
ドラコはドラゴンについてこれるなんてやるなあとかアミィさんを褒めてたけどね。アミィさん本人は顔を引き攣らせていたよ。
さて、ドラゴンの里は峻厳な連峰の合間に存在していた。
徒歩ではとても登れないような険しい山に囲まれて平原が広がっていて、そこに里を作って暮らしているみたいだね。
上から見る限り、規模は……さほどでもないな。特にデカい建築物が立ち並んでるって感じでもない。ごくごく普通の村って感じだけど……。
真っ赤な翼を広げてドラコが近づくと、たちまち数体のドラゴンが村から飛び上がってきた。
いや、どれもデカいし体色も鮮やかだね。青とか黄色とか緑とかピンクとか。それぞれ何かの属性を司ってるのかな。
ブルードラゴンは氷、イエロードラゴンは雷、グリーンドラゴンは大地とか? ピンクドラゴンは何だよ。お色気担当か?
そんなことを考えていると、ピンクドラゴンがずいっと前に出た。お前が一番偉いのかよ。
「おお……若様! お戻りあそばされましたか!」
「うむ。帰ったぞ」
レッドドラゴン姿のドラコは、尊大な口調で返す。
おっ、僕たちの前では最近見せなくなったデカい態度じゃん。
僕たちの前でふんぞり返ると滑稽だけど、目の前の警備兵?なドラゴンたちは、それを当然のように受け止めているね。
「なんと、人間の街に囚われていたと聞きましたが。ご自身で脱出を? 先ぶれをいただければ、我々がお迎えにあがりましたものを!」
「う、うむ。まあそれには及ばん。たまには翼を広げるのもよかろうと思ってな」
何か言いにくそうっすねドラコさん。
なんせ先ぶれとか出しようがないもんね。自分ひとりしかいないわけだし。
それにしてもこのピンクドラゴン、喜色満面といった感じだけど。
なんとなくこう……口調が甘ったるいというか、猫なで声というか。
僕は思わずゴンドラに同乗してる無駄乳眼鏡に視線を向けた。
「なんだ? 何か言いたいことがあるのか」
「いや……」
まさかなあ。
このドラゴンからデボ子に似たものを感じた気がするけど、仮にも高貴な存在を自称するドラゴン様からそんな気配がするわけないし。
いや、自分で高貴な存在を名乗る面の皮の厚さがそっくりだともいえるのだが。
一族みんなデボ子みたいな性格した種族なんてこの世にいるわけないよね。
ドラゴン全部がデボ子であってみろ、この世の終わりだぞ!
「ささ、若様長旅お疲れでしょう! 早速宮殿へお戻りください! ……なんです、その抱えた小船は? 捨てておしまいなさい。何でしたら、私が捨てておきましょうか?」
おっ、こちらに目を向けてきた。
しかもすっげえ敵対的な感じじゃん。
デボ子がぴいっと鳴いておもらし水遁の構えに入る一方で、アイリーンとウルスナは剣呑な目つきで戦闘態勢を整えている。アミィさんもホウキを操縦しながら、左手にボウガンを握っているね。ドラゴン相手には心もとないけど、そのやる気は心強い。
ただ、この場はドラコのきっぱりとした言が戦端を開かせなかったけど。
「いらぬ。この人は先生だ。丁重にもてなす」
「……は?」
「聞こえなかったのか。この人間はボクの先生とその家族だ」
「に、人間ごときが若様の師!? ははは……! 若様、狩りごっこの次はまた新しい遊びですか? 黒王様が人間に若様を預けたとは噂に聞き及んでおりますが……若様もそのようなお戯れに乗らずとも」
そう言ってピンクドラゴンは、露骨に見下した目でこっちを見る。
なんか子供が虫かごにバッタ捕まえてきたときみたいな目だね。
「その目つきは何だ! ボクの先生に無礼だろう! ドライグに対するのと同じように……いや、それ以上に遇しろ! この人を見下すことは、ボクを見下すのと同じだ! いいな!」
「ひっ……」
口から若干炎を漏らしながらのドラコの恫喝に、ピンクドラゴンは露骨に怯んだ様子を見せた。
「か、かしこまってございます……。お、おいそこのお前! 今すぐ宮殿に行って若様のお帰りを伝えろ!」
「はっ!」
ドラコにはぶるぶる震えながら頷いたのに、部下に命令するときは瞬時に偉そうな態度になるなこいつ。切り替えが早すぎるだろ。
「ささ、若様! 宮殿にて余計な荷物を下されましたら、すぐに民どもにその姿を見せてやってくださいませ! みな、若様のお戻りを一日千秋の想いで待っておりましたよ!」
「いや、ボクはちょっと戻って来ただけで……」
「若様はどうやら人間の街で苦労をなされて、気が立っておいでのご様子! 大丈夫です! 宮殿でゆるりと数日休まれましたら、すぐにいつもの若様にお戻りあそばされますとも!」
ピンクドラゴンは自分に言い聞かせるように、そんなことを口にした。
いや、マジでデボ子が被って見えるんだけど大丈夫かこの種族。