【書籍版1巻2/20発売】貞操逆転ハードモード異世界を鋼メンタル冒険者が生き抜く   作:風見ひなた(TS団大首領)

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第89話「ドスケベ聖者の家庭訪問」

「きゃーーっ! ベビーちゃんベビーちゃんベビーちゃん! しばらく見てない間になんだかすごくカッコよくなったんじゃない!? 背もちょっと伸びた? でも相変わらずお顔可愛い! 私のベビーちゃん超可愛い! ちゅーってしちゃう! ちゅー!」

 

 ハイテンションにまくしたてながら正面から抱き着き、おでこや鼻の頭にちゅっちゅとキスの雨を降らしてくる女性の愛情表現を、ドラコはどこか困った顔で受け止めていた。

 真っ白な女性だった。

 腰まで長く伸ばした美しい銀髪も、白磁のように透き通る肌も、着ているドレスも、どこもかしこも白づくめだ。

 黙っていれば童話に登場する姫君のように美しい少女で……まだ十代後半のような若々しさを保っていたが、しかし彼女はれっきとしたドラコの母親だった。本人が腹を痛めて産んだから間違いない。

 もう齢40を超えたドラゴンの族長が彼女である。その肩書に見合う落ち着きの欠片も持ち合わせてはいないが。

 

「ママ、くすぐったいよ」

 

「!? ベビーちゃんがなんだか嫌そうな顔してる! どうして!? 人間の街に行く前は嬉しそうに抱き返してきたのに!」

 

 全身に電撃が走ったかのように驚愕に身を震わせるドラママに、ドラコは一瞬躊躇うような表情を見せたが、それでもきっぱりと口にした。

 

「ねえママ、ボクももう子供じゃないんだよ。いや、まだ全然子供かもしれないけど、もう赤ちゃんじゃないんだからそのベビーちゃんって呼ぶのやめて」

 

「!?!? ママショック!」

 

 ドラママは少し離れた場所から母子のふれあいをうかがっている夫へ振り返ると、動揺も露わに口を開いた。

 

「ねえあなた! ベビーちゃんが! 私のベビーちゃんが不良になっちゃった! どうしよう! きっと人間の街なんかに勉強にいかせたから、変なことを教え込まれちゃったんだわ!」

 

「少し落ち着きなさいお前」

 

 葉巻をくゆらせながら白い眼を向けていたドラパパは、ふうっとため息を吐いた。

 

「10歳も越えれば子供というのは多少自立しようとするものなのだよ。むしろそうでないと大問題だ。吾輩たちの子も成長したということだ、親として喜ばしいと思ってやりなさい」

 

「そうか! そうね! ベビーちゃんちょっと大人になったのね! やったあ! ママうれしい! ぎゅーってしちゃう! ぎゅー!」

 

 ドラパパに諭されたドラママは、我が子を抱きしめて喜色満面という顔をした。

 ぬいぐるみを抱きしめる無邪気な少女のような振る舞いであった。夫の口にした内容をまるで理解していない。

 

 ドラパパはやれやれと肩を竦めると、机の上のベルをちりんと鳴らした。

 すぐさま呼び鈴を聞きつけた侍従がやって来て、ドラママに恭しく頭を下げる。

 

「族長様、おやつの時間ですよ」

 

「わーい! 今日は何?」

 

「さあ、なんでしょうね。食堂についてのお楽しみです」

 

 ドラママはドラコをぽーいと放り出すと、侍従の後をついて小走りに食堂へと向かう。

 

 40も越えたというのにまったく落ち着きのない妻の後ろ姿にちらりと視線を向けてから、ドラパパは立ち上がって我が子の前へと歩みを進めた。

 ドラママとは対照的に、こちらは全身が黒い。豊かに蓄えた黒々とした顎髭も、他国の軍服のようにびしっと決まった服も、全身から厳めしさを醸し出していた。

 そんな彼は我が子を見下ろしながら、ふうっとため息を吐く。

 

「仕方のない奴だ。帰ってくるのが早すぎたぞ」

 

「で、でも……ボク、パパやママに会いたくて」

 

「もう少し我慢せんか。時間が必要だったのだ。お前という存在の欠落にあいつらを慣れさせなきゃならんかったのに、これでは台無しではないか」

 

 まったく、せっかく黙って連れ出したのに……とドラパパは頭を掻き、それから息子を見やった。

 

「ふむ。あいつの言う通り、多少背が伸びたか。どうだ?」

 

「えっと……」

 

「人間の街での生活はどうだと訊いているのだよ」

 

 ドラパパに水を向けられたドラコは、俄かに顔を明るくする。

 先ほど大臣に容赦なくくだらないと切って捨てられたので、多少の怯えはあったが、それでも頑張って口を開いた。

 

「毎日楽しいよ。あのね、先生が考えたサッカーっていう遊びを友達と毎日してるんだ」

 

「ほう? 友達ができたのか。サッカーとは初めて聞く遊びだな。それはどういうものなのだ」

 

「あのね、皮のボールを蹴って、ゴールに入れるの。手は使っちゃダメなんだ。単純に見えるけど、すごく奥が深いんだよ。短い間にすごく体を動かさなくちゃいけなくて、終わる頃にはみんなへとへとになってるんだ。頭も使うんだよ」

 

「なるほど。それで少し逞しくなったのだな。大変いいことだ」

 

 ドラパパに肯定され、ドラコの顔が一気に明るくなった。

 息せき切るように、親に伝えたいことが心の底から湧き上がってくる。

 

「あとね、先生の奥さんたちから剣術とか詩作を学んでるの! 2人ともすごく強いんだ、多分そこらのドラゴンじゃ勝てないよ!」

 

「そうかそうか。それはどちらも学ぶ価値があるものだぞ。剣術は人間が我々を超克しようと編み出した技術、詩作は我々に欠落した文化の花だ。大変いいものを教えてもらう機会に恵まれたな。ぜひ身につけるがいい」

 

「うん! あとね、お手伝いもしてるんだ。精霊魔法でね、庭の木に水やりしたり……するんだけど……」

 

 口にしてから、ドラコは上目遣いに父を見上げた。

 「誇り高いドラゴンが人間のご機嫌取りなど! しかも種族の力の源である精霊魔法を軽々しく些事に使うなどありえません!」と大臣なら激怒するだろう。

 しかしドラパパは感に堪えないという顔で、深く頷いた。

 

「そうか……お前が人間の手伝いをか……」

 

 ドラパパはしゃがんで息子に視線を合わせると、大きな手でその頭を撫でてやった。

 ドラコは思わず目を白黒させる。こんな優しい瞳で父親から頭を撫でてもらうことなど、かねてなかったことだった。

 

「……勉強に出した甲斐があった。今、そう思っているよ」

 

「? うん!」

 

 ドラコには父親が何を思っているのかはわからなかったが、とにかく褒められて嬉しかった。

 もちろんこれまでだって周囲からは際限なく褒められて育ってきた。生きているだけで貴いとか、存在が高貴だとか。大臣や母親から、そうした麗しい言葉に囲まれ、愛されながら生きてきたのだ。

 だけど、今日こうして父親に褒められたのは、別格に嬉しかった。アミィやウルスナ、雄士から与えられた課題で好成績を出したときに、不意に褒められたのと同じように。お手伝いしてやったアイリーンが頭を撫でてくれるときのように。

 自分が成したこととは関係なく褒められることは、何も褒められていないのに等しい。ドラコは心の奥底で、それに気付きつつあった。

 

「それに、先生も算数を教えてくれるんだよ! 先生はすごいんだよ、サッカーだけじゃなくて見たこともない機械のことも知ってるんだ! あんなに物知りな人、王国の学院にもいないよ!」

 

「ほう、そうなのか……。やはり大した御仁だ。知遇を得たことはまさに僥倖だな」

 

「うん! お嫁さん3人もいて、家の中で脇丸見えの薄着で歩き回ってるすっごいスケベな変な奴だけど!」

 

「お、おう……そうか」

 

 

≪説明しよう!

 今更だが脇が見えるような薄着で筋肉をさらけ出して歩き回る男は、この世界では上はブラ1枚、下はローレグのショートパンツでそこらへんを歩き回るビッチにあたる!

 ファンタジーにはこんな格好をリアルでしたら犯罪だろという痴女ファッションの女がよく出てくるが、雄士はまさしくその枠であった!

 道理で全裸忍者に懐かれるわけである! 勝手に同類だとみなされていた!≫

 

 

「まあそれはともかく……そうか、楽しんでいるか」

 

「うん!」

 

「ならばよい。だったらなおさら、どうして今帰って来たのかとも思うが」

 

「いや、それは精霊石を取りに来ただけで……。先生がどうしても氷と炎の精霊石がほしいっていうから」

 

「氷の? 炎なら暖をとりたいとか、爆薬を作りたいとかの利用法が思いつくが……。人間が氷の精霊石など何に使うのだ」

 

「それは……」

 

「いや、いい。後で本人から聞くとしよう」

 

 ドラパパは顎髭を撫でながら立ち上がり、ちらとドラコが胸元に大事そうに抱えた物体へと視線を向けた。

 

「それはそうと……その帽子、カッコいいな」

 

「あ、これ? いいでしょ。お気に入りなんだ」

 

「それはどこで作ってもらったのだ? あの街にはそんな奇抜な帽子を作れる職人がいるのか。いくらくらいした?」

 

 何やらソワソワとした態度でしきりに帽子について訊くドラパパに、ドラコは得意げな表情を浮かべた。

 

「これは先生がボクのために作ってくれたものだよ。世界にひとつしかないんだ。先生がボクを唯一の弟子として認めてくれた証なんだよ」

 

 雄士はそんなこと一言も言ってないのだが、ドラコの中ではそういうことになっていた。

 ドラパパはふうむと悔しそうに唸り声を上げる。

 

「そうか……師弟の絆を示すものとなれば、そうそう作ってもらうわけにはいかんか。しかしいいなー、それ」

 

「へへへー」

 

 しきりに羨ましそうな視線を送るドラパパに、ドラコは一層雄士からの贈り物への愛着を深めていくのだった。

 

 

 

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「おお……うまそう!」

 

「どうぞ、我らドライグの饗宴を心行くまで楽しまれよ」

 

 晩御飯に招待された僕たちは、目の前に並べられた料理に目を丸くした。

 これは豪勢だね! 大ブリシャブ島の贅沢料理の定番といえばローストビーフだけど、それだけじゃなくてでっかい魚を丸のまま煮たやつだとか、山海の具材がゴロゴロ入ったトマトスープだとか、そういう料理が山と出された。

 しかも何がすごいって、どれもスパイスがふんだんに効いている。コショウやトウガラシだけでなく、サフランなんかのハーブもたっぷり効いてるね。

 

 遠くの席に座ったドラコが、得意げにこちらに視線を向けて「フフンどうだ、嘘じゃなかっただろ」といった小生意気な顔をしているけど、実際恐れ入った。

 いや、実際ナメてたんだよ。なんせドライグの里って超僻地だからね。ドラコはあんな風に自慢してるけど、すっごい素朴な食生活なんだろうなって。なんなら獣を丸のままドラゴンブレスで焼いたのをどんっと置かれるかと思ってた。

 

 それがねえ……予想を良い意味で裏切られたよ。

 いや、料理法としては割と原始的なものばかりなんだよ。基本的に煮るか焼くかしかしてない。

 だけど食材がとにかく豪華だ。牛とか山羊とかの肉はもちろんごちそうだし、こんな山間の土地でどうやって手に入れたのか新鮮な魚介もある。トマトをまるごと潰して魚介と一緒に煮込んだのか、ブイヤベースっぽいトマトスープは絶品だね。

 それに豊富なスパイス。これ、ナーロッパ亜大陸だと相当な貴重品だと聞いている。大ブリシャブ帝国はスパイスの原産地のインディスパイスと新大陸を版図に加えているからコショウやトウガラシが手に入りやすいそうだけど、それでも庶民の口にはそうそう入らないよ。僕も料理のレパートリー増やしたくて度々所望しているけど、なかなかサウザンドリーブズみたいな田舎町では手に入らない。

 

「マジかよ。少なくとも食では完敗だな」

 

「ううむ。こういうものは私も初めて食べるな」

 

「はぐっ! はぐはぐはぐっ!」

 

 ウルスナとアミィさんも驚嘆を隠せない様子だ。高位貴族のウルスナもびっくりとなると、やっぱ相当すごい料理なんだねこれ。

 アイリーンは夢中で料理を次から次へと貪っている。好きなだけお食べ。

 

「いやあさすがはドラゴン様! 私たち人間ではこのような贅を尽くした料理、とても口に入りません! ドラゴン様は財力の面でも文化の面でも人間を遥かに超越しておられる! このような高貴な食事にありつけるとは! これに比べれば、我々人間風情の食事など残飯同然でございますなあ~!」

 

「お前はっ倒すぞ」

 

 言葉に偽りなく、僕は容赦なくデボ子の後頭部をはたいた。

 衝撃でズレた眼鏡を直しながら、デアボリカは食って掛かってくる。

 

「!? な、何をする貴様ー!」

 

「毎朝料理作ってる奴の前でたわごとをほざきやがって……」

 

 まあお前の分のメシ作ってるのはメイドさんだけどね。

 もう義妹になったんだから遠慮はいらない、バシバシ叩いて躾けてやるからな。

 そんな兄妹(不本意)のやりとりに、割って入る声があった。

 

「人間よ、芋の器を渡すがいい。チーズをかけてやろう」

 

 ドラゴンの女性給仕がツンとした態度でやってきた。

 それが客に対する態度かというのはこの際おいておこう。ドラゴンにしては多分これが精いっぱいの友好的な態度なんだと思うし。

 素直に言う通りにすると、アツアツのチーズをかけてくれる。

 これ知ってる! 『アルプスの少女ハ●ジ』に出てくるうまそうなやつだ!

 たしかラクレットチーズっていうんだっけ? とろとろに炙ったチーズがナイフでスライスされ、茹でたジャガイモの上にたっぷりとかかった。

 へへ、こりゃたまりませんな。もぐもぐ。

 

「ンマーイ!」

 

 僕とアイリーンは古の漫画のごとく顔を見合わせ、最高にうまい!を表現した。

 いや、こりゃ絶品だね。コクがとっても深い。チーズってもうそれ自体が激ウマ調味料だよね。

 ただこれは牛乳じゃなくて別の乳を使ってるのかな。風味が牛乳とはちょっと違う気がするけど、これはこれで超うまいよ。

 

「これすごくうまいですね!」

 

「む……そうだろう。何せこの村で育てたヤギの……」

 

 給仕の女性は鼻をヒクヒクさせたが、すぐに口元に手を当てて咳払いした。

 

「何でもない。誇り高きドライグは下等な獣の世話などしないのだ!」

 

「あ、はい」

 

 牧畜くらいいいじゃん……と思うんだけど。ドラゴンって気難しいな。

 

 気難しいといえば族長一家もそうだ。

 僕たちの向かいのテーブルに座ってはいるんだけど、めっちゃ距離を離した高い位置から見下ろしている。

 こういう饗宴って賓客とホストが親睦を深めるためにやるんじゃないの?って思うんだけど、向こうから話しかけてくる様子はないね。ドラゴンにとっては他種族にご馳走を恵んでやって、それに驚く姿を肴にする場なのかもしれない。

 

 なんかドラコの隣に座ってるやたらエロいおばさんが、すっごい嬉しそうにニヤニヤしながらこっち見てくるし。なんか甲斐甲斐しくドラコにご飯をあーんしてあげながら、隙あらばチラチラ見てくんだよね。

 そしてめっちゃめちゃ体つきがエロい。胸も太ももも豊満で、すごく揉みごたえありそうな肉付きのよさ。体中から色香を放っており、ドラコに向ける笑顔がねっとりしてる。ドラコが差し出されるスプーンを咥えるたびに、たまに口元がニマァって緩んでるもん。抑えきれぬ母性愛……!

 

 まあジロジロ見たら僕のお嫁さんの機嫌が悪くなるからあんまり見ちゃいけないなとは思ってるけど。

 へっ、そんなドスケベBBAを見せつけて勝ったと思うなよドラコ! こっちはアイリーンのむっちりしたお尻に、アミィさんのデカパイ、加えていくらでもおさわりさせてくれるウルスナのスケベさがあるんだぞ! 3倍だぞ3倍!

 まあドラコは差し出されるスプーンに迷惑そうな顔してるけどね。僕の屋敷では普通に自分で飯食ってるけど、もしかして実家だとこうして人に食わせてもらってたの?

 

 やけに甲斐甲斐しく世話を焼くからこれがドラコのお母さんなのかなと思ってたけど、なんかお母さんは僕の真向かいに座っている全身真っ白な女の子らしい。ドラコのお姉ちゃんなのかなと思ってたけど、まさかの実母。

 

「はぐはぐはぐ! 今日の料理おいしー! いつものより豪勢だね! なんかあったの?」

 

 テーブルマナーもへったくれもなく、ガツガツと肉を頬張るドラママ。いや、マジでこれ母親?

 

「我が妻よ、今日は賓客がいるからおとなしくしてくれ。我が息子の師が訪ねてきている」

 

「おー! そういえば見慣れないのがいるね! おーい!」

 

 ドラママはにこにこと屈託のない笑顔で手を振ってくる。

 

「どう? ドライグのご飯おいしい?」

 

「めっちゃうまいです」

 

 僕が素直に答えると、そうかそうかとドラママは機嫌良さそうに頷いた。

 

「人間じゃ食べられないご馳走ばかりでしょ! 人間の王侯貴族だってこんな料理食べられないんだから、たらふく食べていくといいよ!」

 

「はい、そうします」

 

 実際王国貴族でもそうそう食べられないだろうってのはウルスナの態度からもわかるしね。

 ナチュラルに賓客を見下す妻の態度に、ドラパパが額に手を置くのが見えた。

 苦労してんだなこの人……。

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