【書籍版1巻2/20発売】貞操逆転ハードモード異世界を鋼メンタル冒険者が生き抜く   作:風見ひなた(TS団大首領)

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第9話「鋼メンタルで新チートを試し抜く」

「ウェズ君、僕魔力が増えたみたいだからちょっと鑑定してくれないか?」

 

「はぁ」

 

 翌日、冒険者ギルドに出向いたところ、ウェズ君は生返事を返してきた。

 なんだよその白けた反応は。

 ウェズ君はわざとらしく溜息を吐く。

 

「ユウジさん、いいですか。人間が持つ魔力量というのは生まれたときから決まっていて、後天的に増えることはないんです」

 

「でも増えたよ?」

 

「だから増えるわけないんですって。もし仮に鍛えて増やせたとしたら、社会の秩序がめちゃめちゃになってしまいますよ。貴族が貴族たる根拠のひとつが、膨大な魔力を生まれつき宿していることだという方もいらっしゃるほどなんですから。魔力は血によって遺伝するものなんです。後から増えることは絶対にないんですよ」

 

 へえー、そうなんだ。

 まあ魔力持ってるだけで物理面でもすっごいバフかかるもんなあ。高い魔力があれば、そりゃ特別な人間って扱いになるか。

 

「それはそれとして増えたよ?」

 

「……話聞いてましたか?」

 

 ウェズ君はもう一度溜息を吐いて、頭を振った。

 

「大体本当に魔力が増えたとして、ユウジさんはどうやってそれを知ったんです?」

 

 おっと、それ聞いちゃう?

 さすがに昨晩チート販売機で買いましたとは言いづらいかな。

 なんせ「この街の女に1万回オナペットにされたことを神様に褒められてお小遣いもらったので、それ使って魔力買いました」って説明しないといけないし。それはさすがに正気を疑われる気がする。僕が逆の立場なら絶対に信じないわ。

 

「……勘?」

 

「……」

 

 目を泳がせながら苦し紛れを口にする僕に、ウェズ君の白い視線が突き刺さる。

 やがてウェズ君は眼鏡を外し、クロスで磨きながら三度目の溜息を吐いた。

 

「仕方ありませんね。銀貨10枚いただきますけど、それでいいですか? 鑑定もタダじゃありませんので」

 

「やったぜ!」

 

 さすがウェズ君は話がわかるぅ!

 まあそれ以外の受付のお兄さんには軒並み嫌われてるんですけどね、僕。露骨に顔をしかめてくるもん。人種差別はよろしくないと思いますよ、ええ。

 

 

≪説明しよう!

 こいつが受付の男性スタッフに嫌われているのは、人種差別が主な理由ではない!

 たとえば我々の世界の職場にある日、若くてムチムチの美人が入社してきたとする。そして社長が「一番成績がいい社員にはこの子を嫁にやる」と言い出して、男性社員が全員その子に夢中になったとしたら、元からいた女性社員たちはどう感じるだろうか? そういうことである!≫

 

 

 僕が水晶玉に手をかざすと、以前と同様に謎の文字列が表示される。相変わらず僕には読めない文字だ。次にコインをもらえる機会があったら、異世界言語の読み書きスキルを買うのもいいかもしれない。どうやったらコインもらえるのか全然わからないけど。

 そんなことを思いながらウェズ君の解読を待っていると、彼は目を見開いて唖然とした声を上げた。

 

「し、信じられない……! 確かに魔力が上がっています!」

 

 おっ、やった!

 いや、チート購入したんだから魔力が上がってるのは当たり前なんだけど、やっぱウキウキするね。現地人にびっくりされるのもチートの醍醐味だし?

 

「まさかこんなことが……。一体どうやって……!?」

 

「それでそれで? 僕の魔力はいくつなの?」

 

 僕の魔力がおかしいって、それって魔力高すぎって意味だよな?

 なんせ魔族の最低値だし、30くらいは? いや、もしかして100とか? 強すぎちゃってごめんねごめんね!

 

「あ、数値は1です」

 

「1」

 

「考えうる中での最低値ですね」

 

「最低値……」

 

 僕はがくーっとその場に崩れ落ちた。

 あ、なるほどねー! そりゃ魔族だって個体差はピンキリだろうしねー! 魔族という種族の理論上の最低値は1だよねー! 魔族だろうが人間だろうが、最低値は1! そこに違いはねえじゃねえか!

 いやーこりゃ一本取られたわ! あはははははははー!

 ふざけんなよ詐欺カタログ。

 

「え……。ユウジさん、泣いてるんですか……?」

 

「ほっといてくれ。僕は半年間を無駄にした……!」

 

 床を何度も叩いてほろほろと泣き崩れる僕に、ウェズ君はなんとも話しかけづらそうな顔を向けていた。

 

 失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した。

 昨日の僕にメッセージを送れるなら絶対あの詐欺カタログの売り文句は信じるなと忠告してやりたいわ。

 何が自信をもってオススメだよ、悪意100%じゃねえか。チートくれる存在が意図的に騙そうとしてくる異世界転生ってある? さすがにハードモードすぎるだろ。

 打ちひしがれる僕をよそに、ウェズ君は何やら興奮した面持ちでカウンターから身を乗り出してきた。

 

「これはすごいことですよユウジさん! 魔力ゼロから1になったんです!」

 

「上がり幅は1じゃねーか」

 

「無から有になったんです、大変なことですよ!」

 

 いいんだよ、そんな無理やり励ましてくれなくたって。

 

「ちなみに大角ウサギの魔力はいくらなの?」

 

「えーと、確か20くらいですかね」

 

「ウサギの5%しかないゴミクズ人間が僕でぇす!」

 

 というか魔法とか特に使ってこないウサギでも20もあるんかい。

 ……まあ、それならそれでいいや。

 

「さてと」

 

 ひとしきりスッキリするまで泣いた僕は、気を取り直してすっくと立ちあがった。

 ちょっと実験することが増えたな。やっぱり昨日アレも取得しといて正解だったわ。

 ウェズ君は何やらひきつった顔でこちらを見ているが、共感性がぶっ壊れている今の僕にはその感情を読み取ることはできない。

 

「じゃあちょっと一狩り行ってきます」

 

「あ、待ってください。どうやって魔力を伸ばしたのかは教えてもらえないんですよね?」

 

「はい、秘密っス」

 

 まあ別に言ってもいいんだけど、正気を疑われる説明をしないといけないからね。

 

「なるほど……。おいそれと他人に明かせることではない、ということですか」

 

 眼鏡をキラリと光らせながら、ウェズ君が頷く。

 なんかすごい秘術でも使ったと思ってそうな口ぶりだけど、ドスケベ女どもに1万回オナペットにされただけなんだよなあ。まあ納得してくれるならそれでいいよ。

 

「ところで天恵(ギフト)も増えているようなのですが……。この【インフルエンサー】や【魔族種付け権】とは一体……?」

 

「こっちが聞きたいわい!」

 

 【魔族種付け権】って白昼に公共の場で聞くとトンチキ感がすごいな。

 まあせっかくだし、情報を確かめておこうか。

 

「……魔族と安全に子作りできる権利だってさ。ウェズ君は魔族って種族知ってる? 多分モンスターの一種だと思うんだけど」

 

「いえ、寡聞にして聞いたことがありませんね」

 

 ウェズ君は小首を傾げて、不思議そうな顔をした。

 

「少なくともこのナーロッパ地域にはそんなモンスターはいません。私たちの帝国は東方のインディスパイス地域まで版図に含めていますが、やはり存在は確認されていませんね。南方の暗黒大陸や、西の海の向こうにある新大陸の奥地にならいるのかも……」

 

「へえー」

 

 こりゃ相当なレア種族とみたね。

 僕が出会う機会は本当に一生なさそうだ。

 まあ、セックスするだけで呪いを撒き散らすような危険な種族と出会う機会がなくて本当に良かったよ。それにしてもこの世界、いろいろとハードモードすぎるだろ。

 

 

 

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 ブリシャブ島はウサギまみれだ。

 ノーマルサイズの小ウサギだけでなく、でかい角を生やした大角ウサギ、睡眠魔法を繰り出す眠りウサギ、時計を持って二足歩行で走り回る白ウサギ、聞く者に狂気を植え付ける哄笑を響かせる三月ウサギなど、多彩なウサギ系モンスターが島中にひしめいている。

 

 ウェズ君とピクニックに行ったときに聞いた話では、元々この島に住むウサギはそんなに多くはなく、モンスターも存在しなかったらしい。

 しかし一昔前、この島が面しているナーロッパ亜大陸から貴族のたしなみとして鹿狩りの文化が流入した。超エキサイティングなスポーツとして鹿狩りに夢中になった貴族たちは、一狩り行っとく? ってノリで鹿を狩りまくった。それこそ島中の鹿を狩り尽くし、全滅させてしまう勢いで。加減しろ莫迦!

 鹿がいなくなって狩りの対象がなくなった貴族たちは、今度はキツネを狩りの対象にし始めた。鹿ほど大きくなくて逆襲される危険も少ないキツネは、狩りの達成感は控えめながらも、小さな体で素早く駆け回るのでなかなか楽しい獲物だったようだ。楽しすぎてまたしても絶滅させちゃうくらいに。

 さてキツネがいなくなった島では何が起こるか? キツネが主に獲物としているのはウサギだ。自然界は食物連鎖によって個体数が調整されている。天敵がいなくなったウサギは、それはもう大繁殖した。増えに増えて島中の草原に拡散し、草という草を食らいつくし、村に押し寄せて農作物を食い荒らした。おかげでこの島の都市や村落は、周囲をぐるりと壁で覆う必要にかられたほどだ。

 

 そこまでならまだよかった。

 ウェズ君によると、この世界にはモンスターが出現する法則のようなものがあり、ひとつの地域で一定以上に繁栄した種からはモンスターが誕生するらしい。普通のウサギからやたら大きく凶暴なウサギが生まれはじめ、世代を重ねることでみるみる巨大化し、武器として巨大な角を持った大角ウサギが誕生する。これが一番安定した種だったのか、大角ウサギはこれまでのノーマルウサギに代わって島中に増殖し、ブリシャブ島はウサギの王国となって現在に至るというわけだ。

 

 この話を聞いた僕は「お貴族様ってマジでロクなことしねえな」と思わず口にしてしまい、ウェズ君に真っ青な顔で口を塞がれたものだ。ピクニックしてるときでよかったわ、街中で口にしてたらどうなってたかわからん。まあウェズ君も貴族の末席なんだけどね。

 

 人類にとってよかったのは、ウサギの多数派となった大角ウサギが戦闘面では雑魚だったことだろう。発情期がなく繁殖力が非常に強い、大食漢というヤバい特性は備えているものの、駆除自体は一般人でもこなせるのだ。

 つまり僕のような最底辺冒険者でもね。

 

 僕は表皮をかじり尽くされた樹の陰に隠れて、大角ウサギの様子をうかがった。イノシシほどの大きさの個体で、今はようやく再生してきた健気な雑草を無慈悲にもしゃもしゃしている。時折鼻をピスピスしている姿は可愛いのだが、あれで人間を見かけると興奮して突進してくる好戦的なモンスターなので油断は禁物だ。

 僕も何度か対処をミスって皮鎧と体に穴を空けられている。体に穴が空いてもポーション直接ぶっこめばクッソ痛いだけで済むんだけど、鎧に穴が空いたら修理費がキツいんだよね。今も金がなくて鎧には穴が空いたままだ。早く直さないとそこから裂けてくるんだけど、手元に金がないのはいかんともしがたい。

 まあ今日を境に狩り効率がグッと上がる可能性もあるし……。そう思いながら、僕はマジックアイテムの柄を握り直す。

 

 いつもは片手槍と盾で戦う僕だが、今回槍の代わりに握っているのは小ぶりなバトンだ。“ショックバトン”という名の一品で、行方不明になった先達が倉庫に置いていった遺産のひとつである。

 電撃を放つことはできるが非致死性で、大角ウサギを仕留めるには至らない。せいぜいびっくりさせて動きを止めるのが関の山だ。一般人が電撃を食らっても、びりっとして体に力が入らなくなる程度で済むため、痴女対策として持ち歩く男性もいるとか。まあ要するに護身用のスタンガンだよね。

 その程度の魔道具でも、僕にとってはぜひ使ってみたかった一品だ。異世界でマジックアイテムを使うって、一度はやってみたかったんだよね。……というか、マジックアイテムが使えないと不便なことが多すぎるんだよ。懐中電灯みたいなマジックアイテムはこの世界でも発明されているけど、そもそもこれまでの僕は魔力ゼロで、起動すらできなかったのだ。

 ちなみに道具の威力は使用者の魔力に左右されない。僕のような魔力1のゴミ人間でも、起動さえすれば規定の威力の電撃が出る。魔力1は懐中電灯のスイッチを押すために最低限必要な握力というわけだ。……こう言うと泣けてくるね。

 

 さて、ではそろそろ戦闘に入ろう。

 僕は木陰に隠れたままショックバトンの先端を大角ウサギに向け、ウェズ君に教わったように“発動しろ”と念じる。

 するとこれまで何度頑張っても何の反応も示さなかったバトンは、それまでが嘘だったかのように空気を軋ませながら大角ウサギに向けて電撃を迸らせた。空気中のゴミが焼け、独特のオゾン臭が鼻腔をくすぐる。

 ……あーいいね、すごくいい! 今まさに魔法を使ってるって実感があるよ! 異世界に来たからにはこういうのを使ってみたかったんだ、僕は!

 

「ピイッ!?」

 

 電撃を受けた大角ウサギは、悲鳴を上げて小さく体を震わせた。

 やはり事前の説明通り、多少びっくりさせる程度か。

 すかさずきょろきょろと周囲を見渡し、やがてその視線は僕が隠れている樹へと向けられる。おっと、発見されたか……。

 大角ウサギは真っ赤な瞳に怒りを漲らせ、後ろ足で地面をスタンピングする。突進してくる合図だ。

 僕は左手の盾を構えながら、ショックバトンをぎゅっと強く握り直す。

 さてここからが本題だぞ……!

 僕はしっかりと大角ウサギを視界に収めて、口にした。

 

「【インフルエンサー】-【魔力】!」

 

 すると大角ウサギはがくんと大きく態勢を崩し、地面に這いつくばったではないか。

 

「ギッ!? ギッ!?」

 

 大角ウサギは必死に上体を起こそうとしているが、思うように体に力が入らないらしい。僕を見つめたまま、ぷるぷると体を震わせている。

 

「フフフ……ようこそ、“こちら側”へ。ここが魔力1のクソ雑魚の世界だ……!」

 

 やはり思った通りだ。

 この世界の生物にとって、魔力は攻撃力や防御力に直結している。つまり肉体を動かすために無意識に魔力を使用しているのだ。そこに魔力1のクソ雑魚のステータスを移植してやればどうなるか。答えは目の前のウサギのように、肉体の制御を失ってバランスを崩すというわけだ。

 相手が強いのなら、自分と同程度の雑魚にしちゃえばいいじゃなーい。……言ってて悲しくなってくるね。とはいえ、デバフこそ戦術の王者だと僕は思うよ。

 

「じゃあそろそろメインの実験に移ろうか」

 

 僕はショックバトンを構えると、魔力1になった大角ウサギに電撃を放った――。

 

 

 

 

 

「………………」

 

 ぶすぶすと肉の焼ける臭いが周囲に立ち込めている。

 僕は黒焦げになって絶命した大角ウサギを見て、言葉を失っていた。

 毛皮は無残に焼け焦げ、露わになった肌には稲妻のような樹状の痕が走っているのがわかる。落雷を受けて奇跡的に生き延びた人が、全身にこういった痕が残るというのをネットニュースで見た記憶があった。この大角ウサギは生き延びることはなかったが。

 苦しむ間もなく一瞬で死ぬことができたことが、ウサギにとって幸運だっただろう。

 口からはでろりと舌が垂れており、その肉もまた焼け焦げていた。

 

 僕は思わず口元を手を抑えると、その場にしゃがみこんだ。

 とてつもなく気分が悪かった。目元から思わず涙が流れてくる。

 

 これは僕だ。僕はこのウサギの末路に、自分を重ねてしまっていた。

 魔力1の生物は、スタンガン程度の魔法を受けただけでこうなるのだ。

 もし魔法を使うモンスターと遭遇した場合、どんな魔法であれ僕はこのように死ぬ。

 

 この半年、大角ウサギを狩り続けて僕はまがりなりにも成長したつもりでいた。いっぱしの冒険者に少しでも近づけていると錯覚していた。

 何が成長だ。半年もの間冒険者を続けていられたのは、単に運が良かっただけだ。他の冒険者がたびたび討伐をこなしているというゴブリンメイジとでも遭遇していたら、僕は間違いなく死んでいた。

 魔力1の世界は、魔法にかすっただけで即死する絶望の世界だった。

 

「……これはダメだ」

 

 【精神耐性】に支配されている僕だが、恐怖を感じないわけではない。危険は避けるという合理的な判断はちゃんとできる。

 いくらなんでも、この先冒険者としてやっていくのは不可能だ。オワタ式の冒険をリアルの人生でやるほど、僕は酔狂でも戦闘センスに自信があるわけでもない。間違いなく早晩人生が終わる。

 

 魔力1の生物……つまり僕が魔法を食らったらどうなるのか、というのを調べるのが今回【インフルエンサー】を取得した目的だったのだが、その価値は確かにあった。

 自分が初級魔法一発で黒焦げになって即死することを知れた。この情報は僕の命を買えたに等しい。

 相手を魔力1にすれば魔法も使えなくなる……つまり魔法封印スキルとして活用できるはずという目算もあったのだが、【インフルエンサー】は僕の視界内の対象にしか使えない。つまり不意打ちや混戦で僕が認識できないところから魔法が飛んで来たら一発でお陀仏だ。そんな危ない橋は渡りたくない。

 『あなたほど冒険者に向いていない人間は見たことがありません』という、ウェズ君が半年前に言ってくれた言葉の意味が、ようやく理解できた。

 魔法一発で死ぬ人間は、確かに冒険者をやるべきではない。

 

「……よし、冒険者辞ーめた!」

 

 

 こうして僕は半年間続けた冒険者を引退して、新しい道へ踏み出すことを決めたのだった。




週間総合1位ありがとうございます。
この成果に今一番困惑してるのが私なんだよね。
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