【書籍版1巻2/20発売】貞操逆転ハードモード異世界を鋼メンタル冒険者が生き抜く 作:風見ひなた(TS団大首領)
「違うんですよ。それは自動車といって、僕の故郷では一般的な乗り物なんです。小型化した馬車みたいなもので、誓って卑猥な道具じゃありません。息子さんにこの絵をあげたのも、カッコいいと喜んでいるのかと思ったからで……」
僕はだらだらと滝のような汗をかきながら、ドラゴン夫妻に必死の弁解を試みた。
ちらっとアイリーンたちに目をやると……。
あ、よかった。3人ともドラゴンが何に興奮しているのかまるで理解できないという顔で首を傾げているね。
まさかこの世界の人間全員が自動車をエロく感じるのかと思ったけど、そんなことはないようだ。
……むしろなんでドラゴンがエロく感じてるんだよ。おかしいだろ。
生物としてこんなものに性欲を感じるような進化することある!?
ドラママがぷんすかと怒る隣で、ドラパパはじっと瞳を閉じている。
そしてもう一度自動車の絵を睨みつけて、むむむと唸り声をあげた。
「確かに……馬車をより頑丈に小型化させたら、こういうものになるだろう。とても合理的で筋が通った説明だ。おかしいのは我々ドライグの方だな」
「あなた!?」
ドラママが非難じみた悲鳴を上げるが、ドラパパはゆっくりと頭を振る。
「いや、だって吾輩人間に交じって30年近く生きてきたけど、こんな形のエッチなおもちゃとか見たことないもん。先生に悪気がなかったというのは本当だろう。先生の故郷にあるという乗り物が、たまたま我々ドラゴンの感性にとって超エロい形をしていた。そういう事故だと考えるほかない」
セ、セーフッ!
あぶねえええええええ!
これドラパパが人間の価値観に深い理解がなかったら、このまま焼き殺されててもおかしくなかったんじゃないの?
ドラパパが商人育ちの頭が柔らかい人で本当に良かった。
そんなドラパパは、ふーむと顎ひげをさすりながら食い入るように絵を見つめ続けている。
「それにしても不思議だ。どうしてこんな形の鉄の塊にこんなにも惹かれるのだろう。うっ……くっ……」
ドラパパ? どうして股間に手を置いてもじもじしているの?
「……回収! この絵は回収です!」
「あっ、待って! もうちょっと、もうちょっとだけ見せて!」
ぷくーっと膨れたドラママがスケッチを巻き取って後ろ手に隠そうとするのを、ドラパパが縋りつくようにして引き留めようとしている。
と思ったら立ち上がった拍子に股間の突っ張ったものがテーブルに当たったらしく、ふんぬっ!?と声を上げて背中を丸めた。
ワシは尊敬する漢のこんな姿、見とうなかった……!
ドラママは目を丸くしてそんな夫の姿を見ている。
「ダ、ダーリン……もしかして……」
「はい……ギンギンに勃起しています……。こんなに辛抱たまらんのは10代以来……!」
「私にはふにゃちんでしか相手してくれたことないのに! こんな絵ごときに!」
「ああっ、待って! 破らないで! 後生だから!」
まずい、夫婦の諍いの種になろうとしている。
まあ破られたところで、そんなサクッと描いた絵なんて惜しくもないんだけど。
そんな僕に、ウルスナはじっとりとした視線を向けている。
「何やってんだお前」
「いや、予想できないでしょこんなの。雑に描いたラフ程度でこんな反応をされるなんて……」
思わず口に出した反論に、ドラパパがぴくっと耳を動かした。
「えっ、これよりもっとしっかり描いたものがあるの!? どこどこ!? どこにあるの!? それ売ってくれたりする!? 今手持ちに現ナマないけど、物々交換でいい? スパイス1年分とかでどう!?」
がしっと肩を掴み、激しく揺さぶりながらドラパパが身を乗り出してくる。
こんな必死なドラパパ見たことない……!
というかスパイス1年分って現金でいくらになるんだろ。
どう考えても日本円換算で1億円どころじゃないでしょ。エロ絵ごときがドラゴンのオスにとってどんだけの価値があるというんだ。
「この絵ってドラコが宝物にしてなかったっけ?」
そこに空気を読まずにアイリーンが爆弾を投げ込んできた。
「確か大事そうに箱に入れて、荷物に積み込んでたのを見たけど……」
「おい、バカ……!」
「あいた! なんでお尻つねるの!?」
ウルスナに咎められて涙目で抗議の視線を向けるアイリーンだけど、時すでに遅し。
ドラパパは目を大きく見開いて彼女の方を見ている。
「我が息子が持ってきているのか!? ここに!?」
「えっ、うん……」
ドラゴンの王のあまりの剣幕に怯むアイリーン。
でもドラパパの反応は子供が見るようなものじゃないから取り上げよう!とか、自分も欲しい!とかそういう感じのものじゃなかった。
「まずいな、それは……!」
「えーと、何がまずいんです?」
「我が息子を取り囲むメスどもに荷物を検められた恐れがある。息子が既に精通していることに気付かれたが最後……!」
「それはまずい!」
僕はドラパパと視線を交わし合うと、こくりと頷いた。
「ドラコはどこに!?」
「離宮だ! 急ぐぞ!」
そして僕たちはドラパパを先頭に、一陣の風のように離宮への道を急いだのだった。
やべーぞ、レイプだ!
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夜も更けて、そろそろ良い子は寝る時間だ。
天蓋のついた金細工の豪奢なベッドに横たわったドラコは、ふわぁと大きな欠伸をした。
寝台に使われているきめ細やかな手触りのラシャはこの里で育てている羊の毛を使用したもので、とても暖かく眠気を誘う。
ベッドの周りに侍った侍女たちが精霊魔法でぽかぽかと温まった空気を送ってきているので、標高が高く夜には体の芯まで凍り付くような気温となるこの里でも、ドラコのいる部屋はまるで春の夜のように過ごしやすい。
もっともドラコ自身もそれくらいは片手間にできる。
精霊魔法に熟達したドラコはサウザンドリーブズで暮らしているときは常時自分の周りに温かい空気の膜を巡らせて寒さ対策しているほどだ。おかげでアイリーンに近くにいると温かいことに気付かれ、カイロとして後ろから抱っこされるのが日常になってしまったが。
とはいえいかに造作ない魔法でも、他人にやらせた方が楽ではある。
子供の頃からずっとそれが当たり前だったので、他人に細かく世話されることをドラコは疑問に思ったこともなかった。
父の手で人間の街に預けられるまでは。
ドラコはじろっと侍女たちに視線を向ける。
「お前たち、ボクはもう寝るから出ていけ」
「…………?」
侍女たちはドラコの言葉に、不思議そうに首を傾げる。
「若様、夜は冷えます。お風邪を召されてしまいますよ。私たちが夜の間お傍で暖めさせていただきますので、どうぞこのままお休みなさいませ」
「いらないよ。寝ながら部屋を暖めるくらい僕にもできる」
「そのようなことで若様のお手を煩わせることはございません。ささ、お休みなさいませ。いつものように子守唄を歌って差し上げましょうね。こわくないですよ、悪い妖精が来ても私たちが追い払ってあげますからね」
ぽんぽんとドラコの胸を優しく叩きながら赤子を寝かしつけるような対応をする侍女に、ドラコはむっとした表情を浮かべる。
「お前たち、いつまでボクを子供扱いするつもりだ!」
「…………?」
侍女たちは互いに顔を見合わせ、突然の子供の癇癪にオロオロとする。
「若様、どうなされたのですか? 私たちが若様のお世話をするのは当然のことではありませんか。生まれてからずっとそうだったでしょう?」
「もういいよ! 他人が部屋の中にいたら気が休まらないだろ! ボクを一人にしてよ!」
「どうしてそんなことをおっしゃるのです? 若様は高貴なお方なのですから、私たちの存在などお気になされることはありません。空気のように当たり前のものと考えればいいだけではありませんか」
「そうです、若様は私たちにお世話されるのが当たり前なんですよ」
「どうしたのでしょう、気が立っておられる様子です……。ホットミルクを召し上がりますか? とれたての山羊のお乳です。今哺乳瓶に入れてきますから、ちゅっちゅしまちょうね~♥」
「こらっ、寝る前にお飲み物なんて飲ませて夜中におもらししちゃったらどうするの」
ドラコの反応を見て困り半分できゃっきゃと盛り上がる侍女たち。
その反応が、さらにドラコの神経を苛立たせる。
(こいつらは、ボクが何を言っても話を聞かない。聞くつもりが最初からない)
ほんの1か月前までは疑問に思ったこともなかった。
食事から排泄まで他人にこれほどちやほやとお世話される者など里には彼くらいしかおらず、ここまで特別な扱いをされる自分は生まれ持ってえらいのだと信じていた。
しかし、今は違う。
たった1か月の人間の街での暮らしが、ドラコにそれまでの人生を疑問と共に振り返る機会を与えていた。
人間の群れの中でたった一人、食事の世話をされることもなく、排泄の手助けをされることもなく、自分のことは自分でしろと突き放される。
それでいて朝には鬼のようなコーチに遠慮なくしごかれるわ、夕方には庭の草木の水やりなんて雑用をさせられるわ、ドラゴンの次期族長をなんだと思っているのかという雑な仕打ち。まったくロクでもない環境だった。
だが、そこにはドラコ個人への尊重があった。
悪いことをすれば叱られ、良いことをすれば褒められ。周囲の大人たちはドラコをひとりの人間として扱った。ドラコの主張はたとえ最終的には否定されたとしても、きちんとした論拠が返ってきた。
ここはどうだろうか。
ただいるだけで褒められる。座っているだけでおもねられる。ドラコの主張はすべて頭ごなしに否定され、貴方はただそこにいるだけで貴いとだけ返ってくる。
それは人形を愛でているのと何が違うのか。
ドラコはようやく気付いていた。
自分は決して彼女らが言うような高貴な存在などではない。
本当に尊重しているのなら、その言葉にも耳を傾けるはずだ。
自分はただの愛玩動物に過ぎないのだと。
では、その目的は何なのか。
自分をちやほやと甘やかして、意思のない人形に仕立て上げるその行為の意味は?
それがまるでわからず、今はただ彼女らが気味悪くて仕方なかった。
(先生に逢いたい……)
あの何を考えているのかわからない目つきをした、珍妙な東洋人の顔を見たい。
どう考えてもソシオパスとしか言いようのない社会不適合者で、いつも自信満々で、男のくせにどうしようもないスケベで、しかしいつもドラコのことを考えていてくれる優くて物知りな先生なら、自分のこの気持ちをわかってくれるだろうか。
「ええ、そうですね。若様はもう大人でいらっしゃいます」
そこに降って沸いたような声に、侍女たちは一斉に平伏した。
「これは大臣……」
ノックもなくドラコの部屋に入ってきた大臣は、額を床にぴったりとつける侍女たちの反応を当然のように受け止めながらその間を縫うように歩み寄る。
まるで蛇が這い寄るように距離を詰める、自分より4倍も齢を重ねた熟れた美女に、ドラコは怪訝そうに眉を寄せた。
大臣が彼の部屋に来ることは珍しいことではない。
若様には次期族長として相応しい教育を受けさせると主張して彼をこの離宮に押し込めたのは大臣だし、彼をお世話する侍女たちもすべて大臣の息がかかった人員ばかりだ。
もっとも、今やドラゴンの里には彼女の息がかかっていない者の方が珍しいが。大臣の言うことに従わないのは、脳みそツルツルの族長ハクアと、その配偶者である黒王直属の部下くらいのものだろう。
黒王の部下たちは大臣にやたら反抗的だが、常に忙しく里の外を飛び回る彼女たちの発言力などなきに等しい。
大臣こそがこの里の真の支配者だ。里のメスたちは誰もがそう考えていた。そもそもハクアが族長となる前には、大臣が次期族長として君臨していた時期もあったのだ。
しかしこんな夜分にわざわざ彼の部屋を訪れたことはない。
「どうした? ボクはもう寝るから……」
「若様は確かにもう大人でいらっしゃいます。ですが、大人は一人で寝るものではないとご存じではない様子。ここは私が身を張って、正しい大人の寝方というものを教えて差し上げますわ」
大臣はしゅるりと衣擦れの音を立て、纏っていたローブを脱ぎ捨てた。
じっとりと熟れに熟れた豊満なバストがドラコの目の前で大きく揺れる。
歳の割には全体的には大きく形が崩れすぎてもいない。さすがに腹部には年相応の肉が油断としてつきつつはあったが、それも人によっては魅力として感じられるだろう。
小娘には決して出せない大人の魅惑に溢れた肢体を晒し、大臣はチロリと唇を舐める。
「若様♥ 大人になったオスドラゴンは、決して一人で寝たりはしないものなのですよ。寝るときは必ずメスを侍らせて、セックスをするものなのです♥」
「あ、あうあう……」
ドラコは大臣の豊満な胸から目を逸らし、真っ赤になって顔を俯かせている。
それでも時折チラチラと大臣の胸に目をやろうとしている姿が、大臣の女心をくすぐった。この子、私のオッパイで興奮してる……! その事実が、これまでつがいとなるオスも得られないまま40年以上を生きてきた大臣の自尊心をくすぐった。
≪説明しよう!
大人の女に相手にされたことがないロリコン中年が、ずっと狙っていたロリにチンポを見せつけ、怯える姿に欲情しているシーンである!
人として終わってんなこいつ!≫
「今日は名実ともに若様が大人になられる大切な記念日。私たちに種付けして、立派なオスになりましょうね♥」
その言葉に、突然の大臣の行動に呆気に取られていた侍女たちがごくりと喉を鳴らす。
「だ、大臣! ということは……! 私たちも!?」
「無論だ、貴重なオスの子種を独り占めするほど私は狭量ではない。大切に大切に育ててきた若様を、皆で分け合おうではないか。ドラゴンという種族の繁栄はここから始まるのだ!」
「ウッヒョー! 待ってました!」
「さすが大臣は話がわかる!」
「どれだけこの日を待ち望んだことか! えへへ、こわくない! こわくないですよ若様! お姉ちゃんたちに任せておいてください!」
舌なめずりして肉食獣の本能を剥き出しにする侍女たちの姿に、ドラコの瞳が絶望に染まる。
ここには大臣の暴挙を止めようとするものなど誰一人いなかった。
自分を赤子の頃から取り巻き、優しく美辞麗句を囁いてきたメスたちの中にただの一人も、ドラコの味方なんていやしなかった。
ああ、先生の言葉は本当だった。
自分のことなど、誰も気にかけてはいなかった。
自分が何を考えようと、何を主張しようと、どうでもよかった。
自分はただの種馬として育てられたのだから。
悲しいことに精通を迎えたばかりのオスの本能は、オッパイという性的刺激に敏感に反応しており、ドラコの意思とは裏腹に若い肉幹はビキビキとそそり立っている。
まだ皮を被ったその高ぶりに、飢えたメスどもはごくりと喉を鳴らした。
「おい、暴れないように押さえておけ」
大臣の言葉で、侍女たちがドラコの両手両脚をがっしと押さえつける。
「さあ若様。私の肉壺で、大人になりましょうね。そして貴方の子を宿した私は、次期族長の母となる。私の遺伝子が、竜の皇統に残るのです……! うふ、うふふふふっ。なんていい気分なのかしら……!」
絶望に染まったドラコの瞳から、一筋の涙が零れ落ちた。
そのとき。
ドアの向こうで怒声に続いて何かが倒れる音が響き、続いて勢いよくドアが開かれる。
「我が息子よ、無事か!?」
駆けつけてきたドラパパの悲鳴に、大臣は余裕の笑みを返した。
全裸で族長の息子の上に跨り、ふふんと鼻を鳴らす。
「勘がいい……。だが遅かったな、お前の息子は私がいただく。奪われた族長の座が、お前の息子と私の卵を経て、私の元に帰ってくるのだ……!」
「くっ……!」
「おっと、動くなよ。既に私は宮中すべてを掌握している。貴様に味方する者など、ここには誰一人おらぬわ!」
大臣の言葉と共に、侍女たちが隠していた武器を手に身構える。
ドアの外からは怒声が響いており、多くのドラゴンが駆けつけようとしているのがわかった。それもみな、大臣の息がかかっている。
その人数差は圧倒的であり、ドラパパたちは包囲された形になりつつあった。
「ククク……そこで息子が私の卵に種付けするところを指を咥えて見ているがいい。おっと竜化などするなよ、息子の命が惜しければな。こんな細い首、折り取るなど私には造作もないぞ?」
「…………」
「フフフ、ハハハハハハ! 黒王の名が形無しだな。さあ若様♥ パパの目の前で、私の卵におちんぽでぶちゅーっとキスしちゃいましょうね~っ♥♥♥」
「いやああああああああっ!」
そして、大臣の腰が打ち付けられんとしたとき……。
「私の教え子に汚い手で触るな、クソババアがーーーーーッ!!」
疾風のごとき勢いで部屋に飛び込んできた女性が、叫びと共に大臣の顎に拳を叩き込む。
その衝撃で大臣は軽々と宙を舞い、侍女数人を巻き込みながら壁に頭を打ち付けた。
目を回した大臣を一顧だにせず、ドラコは立ち上がるとぽろぽろと瞳から雫を零しながら扉に向かって駆け寄る。
「来てくれたんだね、先生!」
遅れました、ごめんなさい!