【書籍版1巻2/20発売】貞操逆転ハードモード異世界を鋼メンタル冒険者が生き抜く   作:風見ひなた(TS団大首領)

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第98話「現在進行形の白竜伝説」

「子供に執着する邪悪なドラゴンめ! 我がブレスでその悪しき心を断つ!」

 

「清らかな子供の尊さがわからぬ無粋な輩が! 誰のチンポでもいいというのか!」

 

「ならば今すぐすべてのメスにショタチンを授けてみせろっ!」

 

「だからこそ今から若様を里のすべてのメスで共有しようと言っているのだ!」

 

「ショタチンではなくてもあの人間はすべてのオスのチンポを勃たせてみせた! あれがドライグの希望の光だと何故気付かない!」

 

 宮殿上空で繰り広げられるメスドラゴンたちの戦闘はまさに佳境を迎えていた。

 

 オスのED問題によって緩やかな滅びの危機に瀕していたドラゴンたち。

 大臣は種族の延命策として、クーデターを起こして自分が新たな族長となり、若様を里のメスの間で共有することで出産数を増やすことを計画していた。

 

 現族長はドラゴンの目から見てもアホそのもので、無策のまま現状を放置しているどころか、よそから来た夫の言いなりに人間ごときと商売をして媚びを売っている。

 そんな族長に比べれば、野心溢れる大臣はいかにも強く賢そうに見えて、若いメスたちは密かに大臣を支持した。それに若様と子作りさせてくれるっていうし!

 

 こうしてチンポに飢えていたメスドラゴンたちは大臣のクーデター計画に飛び付いたのだが、ここに来て前提が覆された。

 なんと若様の教師と名乗る人間が里のオスたちに画期的な回春法をもたらし、EDを治療してしまったのである。

 

 梯子を外された形となった反乱軍のメスドラゴンたちに与えられた選択肢は二つ。族長派に降るか、このまま大臣派として改革を断行するか。

 一部の真性のショタコンを除けば、ぶっちゃけほとんどのメスドラゴンは族長派に寝返りたい。下剋上したいというドラゴンの本能はあるが、族長の統治下ではいい暮らしさせてもらえてたし、イケメンドラチンポほしいし。だけどここで寝返るのはあまりにもプライドがなさすぎるだろ。誇りはどうした誇りは。

 

 プライドを捨てきれなかった真面目なドラゴンたちは反乱軍に留まったのだが、過半数のメスはあっさりと族長派に寝返ったので、数の面で大変な不利を強いられていた。真面目な奴が損をするのはいかなる世界でも同じなのである。

 

 そうしてメスたちが血みどろの争いを繰り広げる中、両陣営のエースと呼べる強力なドラゴンの一騎打ちが巻き起こる。

 

「希望だと!? 人間ごときがもたらす救いなど誇り高いドライグが受け入れられるものかよ!」

 

「それを変えるんだよ! 人間と手を取り合えば豊かになれるし、子作りもできる!」

 

「ドライグの純粋性を失えというのか! 人間に媚びを売って!」

 

「わからず屋めーーっ!」

 

 ブレスを吐き、爪のついた腕でぶん殴るたびに何か叫んでいるが、別に気にしなくていい。口走っている本人たちも何を言ってるのかよくわかってない。その場のノリでなんか適当なことを言っているだけである。

 突き詰めると「ショタチンポ大好き!」と「イケメン大人チンポの方がいい!」という話になるので、深堀りする必要は皆無だ。

 

 言っている内容はともかくその戦闘の苛烈さは戦場の中でも群を抜いており、いつしか誰もが戦う手を止めて二者の戦いに見入っていた。

 この戦いに勝った方の陣営が、勝利を収める……! 見守るドラゴンたちの間で、それが共通認識となるほどの勢い。間違いなく若手の中で最強の個体同士の争いであった。

 

 ブレスを吐き、躱し、脚で殴り合い、噛みつき合う。

 時に空中にてドッグファイトで互いの尻を取り、時に地上にて肉弾戦で殴り合う。

 そんな一進一退の攻防にもついに終わりの刻が訪れる。

 

「うおおおおおおおおおおおおおおーーーーーっ!」

 

「ぬぅん!?」

 

 地上での肉弾戦の末、族長派のエースが雄叫びを上げながら爪を振り下ろし、大臣派のエースの前足を地面に縫い付ける。

 そして大きく口を開き、繰り出されるのは渾身のドラゴンブレス。

 

「終わりだーーーーーーーーッ!!」

 

 至近距離から相手の顔面めがけて放たれたレーザーブレスが、大臣派のエースの顔を灼く。

 溶岩の熱にすら耐える鱗を貫通し、一瞬で顔を炭化させた大臣派のエースは、ずしんと重い音を立てて地に伏した。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 あまりにも高出力のブレスによって自分の喉をも焼いた族長派のエースは、治癒魔法をかけて急速に自分の傷を癒す。勝者は雄々しくあらねばならない。それがドラゴンの誇りだ。

 エースは大きく腕を広げると、空も割れんばかりの咆哮をあげた。

 勝者、ここにあり! その事実を戦場に在るすべての者に示さんがために。

 

 その勝鬨に、ドラゴンたちは誰が勝者であるかを認め、戦闘は終結した。

 

 ……かに見えた、そのとき。

 突如として空から舞い降りた巨大な影が、族長派のエースを踏み潰した。

 ズシャッと音を立てて地面にめり込んだエースはもがいて脱出しようとするも、巨大な影の爪は彼女を押さえつけてびくともしない。

 次いで浴びせかけられたのは、怖気の立つような闇色のブレス。その粒子がわずかにかかっただけで、周囲の草木が瞬く間に立ち枯れていった。それをまともに浴びせかけられたエースは、手足を激しく痙攣させるが、やがてぐったりとその場で身動きしなくなった。

 

 エースが倒れたことを確認した巨大な影は、顔を上げてじろりと周囲を見渡す。

 それはあまりにも禍々しいドラゴンだった。

 周囲のドラゴンを圧倒するような巨大なボディ。闇のように暗いオーラを纏った紫色の鱗。ところどころ稲妻のように赤いヒビが走り、鋭い牙が並んだ凶相はその邪悪な内面を体現するかのよう。

 

 そのドラゴンは周囲を睥睨する。

 自分に立ち向かう命知らずはいるかと問うように。

 そいつに見られただけで、勝者であるはずの族長派のドラゴンたちは足元に視線を落としてぶるぶると身を震わせた。

 

「……けるな……」

 

 凶相のドラゴンは……真の姿を曝け出した大臣は、ぶつぶつと喉奥から言葉を絞り出す。少しでも耳にすれば、魂まで汚染されるような負の感情に満ちた呪詛を。

 

「ふざけるなよ……。私が……この私が15年をかけた計画が……私の復讐が! こんな頭の軽い色ボケドラゴンどもの裏切りで! あんなどこの馬の骨とも知れん人間の! 卑猥な絵をくれてやるという口約束ごときで、水泡に帰すというのか! ふざけるんじゃあないッ!!」

 

 大臣ドラゴンは耳をつんざくような咆哮を上げる。

 ただそれだけで周囲には衝撃波が巻き起こり、有象無象のドラゴンたちはある者は物理的に吹き飛ばされ、ある者は頭痛に苦し身悶え、ある者は心を砕かれて跪いた。

 

「強い者がすべてを言いなりにするのがドラゴンの掟ならば、私にかかってくるがいい! 何十匹が同時でも構わん! 私こそが最強の竜! 私こそが最も賢き竜! あの日、族長の座を目の前で奪われて以来、私はすべてを力に捧げて力を得たのだ! 万物を地に伏せて、私こそが真の王であることを示してくれる! ……どうした、かかってくる者はいないのか!」

 

 そう吼える邪竜に、抗えるドラゴンなどいなかった。

 真の力を見せた大臣の力は、目にしただけでわかるほど桁が違う。若年層のエースの一騎打ちなどなどまさに児戯に等しい。

 何より、力への執着が違う。積年の憎悪と共に丹念に磨き抜かれたその魔力は、言葉に乗せるだけで他者の心を打ち砕くほどだった。

 こんな妄執と暴威の塊に勝てる者などいない。地上のいかなる存在をもってしても、この竜に立ち向かえる存在などいようはずもない。

 

 ただ一頭を除いて。

 

 怯えるドラゴンたちの群れを割って、純白の少女が静かに歩み寄ってくる。

 竜にも変化していない、ただの人間体。脚を振り下ろすだけであっさりと踏み殺してしまえるようなその少女に、ドラゴンたちは我先にと後ずさった。

 

 族長の姿を見た邪竜の瞳が爛々と紅く輝く。

 その怒りのぶつけ先を、憎悪と妄執の源を目の当たりにして、邪竜の口から生命を奪う闇色のブレスが漏れ出した。

 

「ハクアアアアアァァァァァァァ! 貴様さえ……貴様さえいなければ! 15年前、貴様が族長の座を奪ったから、私はこうなった! 貴様のすべてが気に入らなかった! 貴様のような奴が族長にふさわしいわけがない! 私の方がドライグの未来を考えているのに! 何故、何故貴様のような阿呆が族長の座も! 男も! すべてを持っていく!? 私が貴様より劣っているはずがないのに!!」

 

「あらら……。そんな愚痴を言いたくてこんな反乱なんてしちゃったの? みんなを巻き込んですることじゃないでしょ~? うーん、愚痴を聞いてあげなかった私が悪いのかな。今度飲み会する? 全部吐けばスッキリするよ」

 

 ニコニコ笑顔でとぼけたことをのたまう族長に、邪竜がギイイイイイイイイと聴くものを狂わせるような咆哮を上げる。

 

「アアアアアアアアアア!! 貴様は……貴様はいつもいつも! こんな阿呆が! こんな知性の欠片もないようなマヌケにどうしてこの私が頭を下げねばならん! 何故貴様のような存在が族長として敬われるのだ! 私の方が! 私の方がより賢く、ドライグの未来を考えていて、族長にふさわしいのに! 何故! 何故だああああああああ!!?」

 

「そうかー、忘れちゃったんだね」

 

 その瞬間、少女から放たれる重圧が桁違いに膨れ上がる。

 純白の髪は逆立ち、細い腕にみるみるうちに純白の鱗が並び、裂けた口から鋭い牙が覗く。爛々と好戦的な色を瞳に浮かべた少女は、怒声と共に咆哮を上げた。

 

「私に白痴であることを望んだのは貴様らであろうがッ!!」

 

 そして顕現するのは、純白の竜。

 邪竜と同等の20メートル以上にも及ぶ、畏怖を感じずにはいられない壮麗な体躯。

 周囲には白い雷球を幾重に纏わせたその姿は、聖性に満ち溢れている。

 誰も手を触れることが許されぬ禁忌の竜。

 事実、老いですら彼女を蝕むことはない。彼女が生まれ持ったあまりにも強すぎる魔力は、彼女から老化という現象を奪った。彼女はその命が尽きる瞬間まで、全盛期の姿のまま在り続けることを宿命づけられている。

 

 ドライグの始祖たるア・ドライグ・ゴッホは伝説に語り継がれる偉大な竜である。

 彼女もまた、数百年後には歴代最強の竜として名を遺すことだろう。

 現在進行形の神話、最も新しい伝説。盤古不易の白き神竜として。

 その名をエンプレスドラゴン・ハクア。

 

「貴様が願ったのだ、最も強き竜は最も馬鹿であってくれと。その無垢が若き竜が強さを求める心に火を点けるだろうと。それを忘れて自分の言葉を信じ込んでしまったというのなら……今一度知らしめてやろう。誰が最強の竜なのかをな!」

 

「ギイイイイイイイイイイイッ!!!」

 

 邪竜が鳴動する。

 それは絶対者への恐れか。聖性を宿した竜への嫌悪か。あるいは、かつての自分の言葉を思い出してしまったのか。

 

「貴様など……貴様など恐れるものか! 私は、私は15年をかけて自分の力を磨いたのだ! 修行と魔術儀式により、自らの体を改造した! 悪魔の肉体の一部すらも移植したのだぞ! 悪魔すらも飲み込んだこの私こそが、史上最強の竜なのだ!!」 

 

 そんな邪竜を前に、白竜はくいくいと掌を自分に向けて振って見せた。

 

「かかってきなさい、お嬢ちゃん」

 

 その挑発に、邪竜がおぞましい咆哮を上げて飛びかかった。

 

 

 

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 かつて、大陸の山奥にあるはぐれ竜が住んでいた。

 

 はぐれ竜になるドラゴンは2種類。ひとつは罪を犯して一族から追放された者。もうひとつは周囲に馴染めずに自ら集落を出た者。

 その竜は後者だった。強さだけを至上とし、弱者を虐げ、強者におもねる。そんな一族の常識に嫌気がさし、孤独であることを選んだ誇り高い竜だった。

 

 生まれながらに純白の肉体を持っていたその竜は、人間体であっても髪も肌も真っ白で、ひどく人目を引いた。さらにどれだけの月日が過ぎようとも十代の娘のように姿が変わらない。これでは人間に交じって暮らすわけにもいかない。

 

 普段は山奥の洞窟に籠って過ごし、たまに竜の姿で空を散歩する。

 それがその白竜の変わらない日々だった。

 

 そんな彼女が、ある日ふらりと生まれ故郷の里に帰って来た。

 しかも見知らぬ黒竜の男性を連れて。

 

 里への案内を頼まれたから連れてきたと語る彼女をよそに、里のメスたちは大いに盛り上がった。予定外の見眼麗しいオスの発見である。

 もう30代に入ろうとしているから生殖能力は失っているだろうが、オスというだけで娶る価値はある。ドラゴンというのは生来のコレクターで、気に入ったものを巣に持ち帰って大切に愛でる習性があるのだ。

 

 ちょうど前族長が引退する時期だったこともあり、オス争奪戦に勝利した者が最強の竜として族長を継ぐということになった。

 当時最強と目されていたのは、白竜と同い年の幼馴染の紫竜。力だけでなく頭脳にも自信があり、白竜が里を出てからは若い世代のリーダーとしてブイブイいわせていた。

 

 順当にいけば、当然のようにこの紫竜が次期族長となるだろう。誰もがそう思っていた、そんな戦いの前夜。

 

「眠れないの?」

 

 夜風にあたっていた黒竜の青年の元に、白竜の少女が訪れた。少女のように見えるのは見た目だけで、実のところは年齢はほぼ変わらないらしいのだが。

 

「ああ……。戸惑ってるんだ。ただの行商人だった俺が、族長の夫なんていう待遇を与えられて、ドラゴンの女が俺を巡って争って……なんて、現実感がなくてさ。数か月前まで、ドラゴンの里を探すのは諦めて、どっかに腰を落ち着けて商店でもやろうかなんて思ってたんだぜ」

 

「ふーん。後悔してるの?」

 

「まさか。ドラゴンの里を見つけるのは、俺の生涯の夢だったんだ。それが叶って本当に嬉しいし、ここに連れて来てくれたハクアには感謝してる」

 

「そっかあ、じゃあよかった。ねえねえ、君の夢は叶ったけど、その先は? もう夢ってないの?」

 

 そう訊いてくる白い少女に、黒竜の青年は応えた。

 

「いや……あるよ。新しい夢ができた」

 

「へえ! 訊きたいな、教えてくれる?」

 

「ああ。この里はあまりにもちっぽけで、ドラゴンの数も少ない。このままじゃ100年もしないうちに、人間たちに飲み込まれちまう。俺はせっかく見つけた同胞の里を、もっといいところにしたいんだ! だから商売をしたい! ドラゴンの翼があれば貿易で大儲けができるし、護衛もいらない。そうして稼いだ金を資金にして、人間の社会に殴り込みだ! でっかい会社を作って、金の流れを牛耳る! 人間がドラゴンを排斥したくでもできない大勢力にしてやるんだ! ……あっ、ごめん。いきなりこんな話されて、びっくりしただろ」

 

「うーん……私には難しい話だけど、それは君にとって大事な夢なんだよね?」

 

「ああ! ……まあ、でも夢は夢だよ。俺にはそんな力はない。きっと俺を婿にするドラゴンも、俺の言うことなんて耳を貸してくれないんだろうなって思う。あの人たちの態度を見ればそれくらいわかるよ」

 

 青年の言葉を聞いた少女は、どんっと自分の胸を叩いた。

 

「よーしわかった! じゃあ、私が貴方をお婿さんにもらってあげよう!」

 

「えっ?」

 

 青年は戸惑いの声をあげる。

 目の前の白竜の少女は、明らかに外様扱いされている。10年以上もはぐれ竜として暮らしてきた彼女は、里のドラゴンからは腫れ物のように扱われていた。競争心に溢れた里から逃げ出した臆病者、それが彼女に貼られたレッテルだった。

 特に次期族長最有力と目されている紫竜は、露骨に見下した目で彼女を見る。

 

 当然オス竜争奪戦という名の後継争いには参加する姿勢を一切見せず、距離を置いていたのだ。

 そんな彼女が、突然争奪戦に名乗りを上げるという。

 

「どうして? 俺みたいなドラゴンの常識もロクに知らないし、アガリも迎えてるようなドラゴンをなんで娶りたがるんだ?」

 

「それは君の夢を叶えてあげようと思ったからです。私が族長になれば、君がやりたいように政治をさせてあげる。私は君のやりたいことに一切口を出さないって約束するよ」

 

「いや……わからん。どうしてそんなことを? ドラゴンってのは強い奴が好きなようにするのが文化なんだろう。俺みたいな弱い竜の言うことなんて無視されるのが当たり前じゃないのか」

 

「ううん、君は強い竜だよ」

 

 そう応える白竜の少女の瞳は、強い確信を宿していた。

 

「私も結構強い竜だけど、せいぜいこの山を消し飛ばすくらいしかできないの。それが私の限界」

 

「そ、そんなことできるんだ……」

 

「だけど、君は……新大陸だっけ? 私の知らない遠い国からお金になるものを持ってきて、山のような富を築き、無数の人間に言うことを聞かせられる。やろうと思えば大ブリシャブ帝国や、シャルスメル王国みたいな大国だって動かせるんだよ。山一つを砕くしかできない竜と、世界を動かす竜。どっちが強いかは明らかじゃない? だから私は最強の竜である貴方に従おうと思うの」

 

 思ってもみないことを言われ、黒竜の青年は言葉を失う。

 この里のメス竜に、こんな視野を持つ子がいるなんて思ってもみなかったのだ。

 

 ぼうっとする青年に、白い少女はくすっと悪戯っぽい笑みを向けた。

 

「なーんて、建前だけどね。本当のことを言うと……私、君のことが好きになっちゃった。夢を語る君は、とてもキラキラしてる。知ってる? ドラゴンはね、キラキラするものが好きなの。そういうのを見ると、手元に入れたくて仕方がなくなる。だから……私と結婚してくれる?」

 

「……う、うん」

 

「へへー、やったあ。じゃあこれは、約束の先払いね」

 

 そう言って、少女はまだ髭の生えていない青年の頬にそっと口づけた。

 

 誰もが想像もしなかった奮戦を果たし、里の強豪たちを悉く地に叩き伏せたはぐれ竜が新たな族長の座に君臨したのは、その翌日のことだった。

 10年以上も里を離れていた者を族長に据えるのはどうかという老人の意見もあったが、最終的にはその意見も折れる。その白竜に正当な族長の血が流れていたことがひとつの理由。そしてぐだぐだ抜かす老人を、少女がこてんぱんに叩きのめしたからでもある。

 

 名実ともに最強の竜となった彼女は、黒竜を夫に迎えて族長となる。

 しかし彼女は政治に関するすべてを夫に丸投げして、天衣無縫な愚者として振る舞い続けたのだった。

 

 

 

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「ふう」

 

 決着は一瞬でついた。

 いや、勝負と呼ぶにもおこがましいものだった。

 ただの一撃。白竜が呼び起こした白き雷撃に打たれただけで、邪竜は再起不能に追い込まれた。

 だらしなく舌をでろりと出して昏倒する弱者がもう身動き一つしないのを見た族長は、人間体に戻って周囲に視線を巡らせる。

 

「じゃあ私の勝ちってことでいいよね?」

 

 こくこくこくこく!

 大臣派のみならず、族長派ですら全力で族長の言葉を肯定した。下手に言葉にして万が一にでも不興を買いたくないのか、それとも恐ろしくて歯の根が合わないのか、ただただ頷くことしかできない。

 こうして大臣派と族長派の争いは、族長ひとりの勝利という形で収まったのである。

 

「馬鹿な奴」

 

 族長は溜息一つ吐くと、気絶する大臣を見上げた。

 

「私たちが王様として周囲を導く必要なんてなかった。私たちの役割は、ただ子供たちの世代がこれからはこうしたいんだってドキドキしながら持ってきた提案に、『アンタたちのやりたいようにやりなさい』って背中を押すだけ。ただそれだけをすればよかったのよ。時代は私たちにただ新しい世代への中継ぎだけを求めていた。それができず、自分が王様として導かなければ気が済まないっていうのなら」

 

 フッ……と族長は嘲りの笑みを向ける。

 

「こうなったって仕方ないな? 時潮が読めぬ弱者よ」

 

 さて……。

 物言わぬ大臣に背を向けた族長は、遠くの空に視線を向ける。

 世界はいつだって若い世代のもの。ドライグが迎える新時代の旗手が、そこに息づいている。老いた自分たちは、ただその決断を見守るのみ。

 

「うおおおおおおおお! オチンポワッショイ! オチンポワッショイ!!」

 

「ここに男性器と女神を祀る神殿を作ろう! これから描かれる女神の絵をここに奉納するのだ!」

 

「俺たちは今日この日をもってEDから解放された! 今日がチンポのインディペンデンスディだ!!」

 

「……えーと」

 

 え? 本当にあいつらに新時代を任せてもいいのか?

 

 族長は自分の決断を一瞬ひどく後悔したが、次の瞬間ぱあっと笑顔を浮かべた。

 

「ま、いっか!」

 

 知性を投げ捨てたいつもの族長スマイルであった。

 バカを装って15年、毎日のようにバカ仕草を繰り返しているうちに、もはやそっちが素になってしまっていた。

 

「ハクア! 無事か!?」

 

「あ、ダーリン!」

 

 人間体ベースで黒い翼をはためかせてやってきた夫を見た族長は、ぴょーんと飛び付いてその首っ玉に縋りつく。

 愛妻のハグを受けた黒王は、15年前から変わらないその体を強く強く抱き返した。

 

「ねえ、まだ勃起してる?」

 

「え、うん」

 

 あれ? なんか様子がおかしいぞ?

 

 耳元で囁かれた言葉に首を傾げつつ、黒王は頷く。

 

「さっき先生が頭の中にイメージ送り込んできたし、してるけども……」

 

「じゃあ子作りしましょ子作り! ベイビーちゃんに弟か妹を作ってあげるわよー!」

 

「えぇ……?」

 

 一瞬ドン引きする黒王。

 しかし愛する妻から頬にチュッチュと口づけされると、フンッと下腹に力を入れる。

 

 そういえば、15年前のあの夜も同じところにキスされたっけ。

 そんなことを考えながら、彼は愛妻をお姫様だっこして夜の宮殿へと消えていったのだった。




≪説明しよう!
 ドラママは乙女ゲームによくいる「強者に媚びる周囲が気に入らなくて家出した不良系王子様」である!
 家出した先で貧乏生活をしていたある日「へっ、おもしれー女……!」と出会い、「お前のお願いは俺が叶えてやる。だから……俺のものになれよ」と強引にキスしてきたのだ。
 そして迎えるハッピーエンド! めでたしめでたし!≫


ドラパパが時々一人称俺だったり砕けた言葉遣いをするのは、行商人育ちだから。

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