イムの娘(いむのこ)~番外編~   作:槙 秀人

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捕らわれた仲間

 奴隷として天竜人に買われ、聖地について数ヶ月が過ぎた…

 

 私は天竜人の住居の外にある奴隷部屋で暮らしていた。

 女性5人で住む小屋は、四方の1つだけが壁で、三方が鉄格子という造りだった。

 同じような奴隷小屋がすぐ近くにもあった。

 

 ある日…

 隣の小屋にドサッと、誰かが放り込まれた。

 

 その男は傷だらけだった。

 拷問でも受けたのだろうか?

 

「うぅっ…」

 寝返りをうった男が声を漏らした。

 

「!!?」

 私はその声に聞き覚えがあった。

 

 ― もしかして…

 

「…テゾーロ?」

 私は格子に寄りかかり、他に気づかれないように声をひそめて問いかけた。

 

 男がゆっくりとこちらに顔を向ける。

 

「!!?」

 ガバッっと男が起き上がる。

 

 彼は格子をつかみ、声を張り上げようとして…

 しかし思いとどまる。

 

 

 私は涙を流していた。

 

 

 酷い女だ…

 彼が売られてきたというのに、喜んでしまうなんて…

 

 

 私たちは、夜に少しの時間だけ語らった。

 ほんの数分、だけど貴重な時間。

 

 それだけで、どんな事にも耐えられる!!

 

 しかし、そんなしあわせも長く続かなかった。

 

 私の買主が住居を移し、離れ離れになってしまったからだ。

 

 

 私は何度も脱走を試みた。

 何回か成功したけれど、いつも途中で捕まり、彼の元に行くことは出来なかった。

 その度にせっかんされたけれど、私は諦めなかった。

 

 買主が困っていようとお構いなしに…

 

 刃物を向けられてすら、私は脱走をやめなかった。

 

 そして…

 

 私は城に居た。

 

 

 ~ ~ ~ ~ ~

 

「あれ、負けちった…」

 ルフィは首をひねった。

 

「うそ…ルフィが負けた…」

 初めは、何が起きたのか分からなかった。

 でも、だんだん今起きた事が現実として実感されてくる。

 

 勝てば十倍。負ければ……

 自分達が抱えたリスクの、その大きさが。

 

「ハハハ…」

 乾いた拍手。

 テゾーロだった。

 たいして面白くもなさそうに拍手をすると案内係の女を見る。

 

「― ご苦労。愉快なショーだったよ、バカラ」

「え?」

 

見せ物(ショー)って…どういう―」

「貴方、やっぱり能力者ね?」

 ナミが叫びかけた時、エルがバカラを睨んで言った。

 

「…そうよ」

 バカラはあっさり認めた。

 

「私は『ラキラキの実』の能力者。この手で触れた者の“運気”を吸い取る事が出来ますの」

「運気…運を?」

 ナミは顔を蒼白にしながら息を呑んだ。

 

 ではさっき…、ツボを振る直前にバカラがルフィの肩に触れたのは…

 

「ん?俺、今運ないのか?」

「ええ、そうね。」

 バカラは彼女の術中にハマッた男を見た。

 

「でも、普通だぞ?」

 ルフィは、自分の体をあらためた。

 

 グルルルルル…ゴリュ、ゴリュ…グビビビビビ…!

 

 ゴムがねじれ合って、こすれたような音がした。

 

「うっ…?何だこれ…腹が痛ェ…?」

「え?ルフィが今まで一度も腹痛になったことなんてなかったのに…」

 よろめいたルフィが、フラフラと後ずさる。

 と、なぜか床に落ちていたバナナの皮を踏んでしまう。

 

 ズルッ!

 

 転倒したルフィは、転がりこんで壁に頭から激突した。

 ゴム人間は頭をぶつけても痛くはないが、お腹が痛いのは別だ。

 ルフィはうずくまって苦しんでいる。

 

「バナナの皮…!」

「なんて能力じゃ!『ラキラキの実』…!」

 ナミは心配そうにルフィに駆け寄り、サンジとジンベエはわなないた。

 

 悪魔の実の能力には、人の心理など見えない物に影響を及ぼす変わり種も存在する。

 そうした能力者を敵にすると思いがけない苦戦を強いられることがあるのだ。

 

 しかし、まさか“運気”を吸い取るとは…!

 

「こんなのインチキじゃない!」

 ナミは憤った。

 

「するるるる…インチキ?」

 警備主任のタナカさんがデカイ顔を突っ込んできた。

 

「お前達に、一つ教えてやろう」

 ディーラーのダイスがデカイ声と図体でにじり寄る。

 

「フフ…この街の絶対ルールを」

 案内係のバカラは、ルフィに触れた手をペロッと舐めた。

 

「グラン・テゾーロでは……」

 ステージに上がったテゾーロは、配下の三人を従えて言った。

 

「騙された人間は、敗者なのだよ!」

 歌うように告げると、フロアの客達から喝采が上がった。

 

 ここにいるのは海千山千のギャンブラーばかり。

 ルフィ達のような新参者はカモなのだ。

 カモとは、勝負は始まってもカモを見つけられない奴の事だ。

 

「さて、勝負は着いた。麦わらのルフィ…貸した五億ベリー、耳を揃えて返してもらおうか」

 テゾーロは返金を要求した。

 

「支払うわけないでしょ!アンタらなんかに!」

 ナミが言い返す。

 

「払えない?では働いて、返してもらうしかないな!」

 テゾーロは一味を値踏みする目で見た。

 

「働く…」

「そうだよ、”堕天使・エル”」

 テゾーロは告げた。

 

「この街で働いている連中は、カジノで負けて借金まみれの奴隷だよ。払えないと言うなら財産を差し押さえて、何としても回収するしかない。あァ、お前達の船が港にあったか…」

 宝樹アダム材の船であれば、中古でも良い値が付くだろう。

 

「「「!」」」

 海賊旗を揚げた船を差し押さえる。それは麦わらの一味へ対する宣戦布告だった。

 

「おもしろい事、言うじゃない。」

「やれるもんなら、やってみやがれ」

 エルが拳を握り、サンジがレディを大切にしない奴に対するプライドの炎をまとい、靴で床をトントン叩く。

 ここが特別中立区 ― イカサマがまかり通ると言うのなら、こちらも押して通るのみだ。

 

「あ、痛ーい」

 ピンク色の声が上がった。

 

 バカラがしゃがみ込んで足首を痛そうに擦った。

 深いスリットの入ったドレスから、太ももの付け根、褐色のお尻までラインが露わになった。

 

「大丈夫!?バカラちゃ~ん!」

 男の本能で反応したサンジが、美女の元にクルクル舞いながらダッシュした。

 

「はい、タッチ」

「のわ~~~!しまった!」

 慌ててのけぞったが、もう遅い。

 サンジは美女に顎を撫でられたのと引き換えに、運気を吸い取られてしまった。

 

 さっそく、口からこぼれたくわえタバコが胸元に落ちて引火する。

 

「熱っ!あちちちちち!」

 必死に火を消そうとすると、

 

「バーナーナー!」

 さっきのバナナの皮を踏んで、壁に頭から突っ込んで、ぶつかりその場に倒れ伏す。

 

「まったく、何やってんの!」

 サンジの醜態に、エルは呆れた声を出す。

 船長もコックも、この有様では戦力になりそうもない。

 

「するるるる~~~~~!“スルー・イリュージョン”!」

 ジャンプしたタナカさんが、床にそのまま吸い込まれた。

 彼は『ヌケヌケの実』の能力者。生物以外、何でもスリ抜ける事が出来るのだ。

 

「消えた…うわっ!?」

 ダン!ダダダッ!

 

 出し抜けに、キャロットの背後に現れたタナカさんが拳銃を乱射した。

 反撃しようとする間もなく、タナカさんは再び床に沈んで、いなくなってしまう。

 

「何・何・何!!」

 おちょくられているのだ。

 

 キャロットがおたついていると、ジンベエが前に出た。

 

「“五千枚瓦正拳”!」

 ジンベエの拳が突き出される。

 

「イエス!」

 ガガンッ!

 ダイスが顔面でジンベエの拳を受け止める。

 

「!?」

「フィイイイ…気持ち良い(キモティ)!良いパンチだなァ」

 顔を真っ赤にしながら、ダイスは身もだえした。

 

「何じゃコイツ…」

「もっと、もっと」

 攻撃をねだられて一味はドン引きした。

 

 

「私が闘るわ」

 ジンベエとダイスがやり合ってる間に、エルがステージに詰め寄る。

 

「ほぉ…」

「ケンカは親分を倒すのが一番手っ取り早いものね。」

 本来は船長の役目だけど、あれじゃねェ…

 

 エルはうずくまるルフィをちらりと見てからテゾーロに向き直る。

 

「面白い事を言う」

 テゾーロは腰に手を置いた。五億の懸賞金のついた海賊に対し、丸腰のカジノ王は余裕の表情だ。

 

「私に勝つつもりかね?この街で…」

「負けるつもりはないけど?」

 造作もない。エルは腰を落とすと拳を構え、剃で一気に間合いを詰める。

 テゾーロは、ゆっくりと片腕を開いて向けた。

 

 (素手で私の拳を受けるつもり?)

 

 ビリッ!

 

 金の指輪をはめたテゾーロの手が、ビリビリと火花を散らした。

 

「!?」

 エルの体に異変が生じる。

 あと少しで拳が届くかと思われた瞬間、エルの足先が、じわりと金色に染まった。

 それは液体のように蠢いて、瞬く間に脛、膝、太腿へと広がっていく。

 

「えっ…エル!」

 仲間たちは、その現実を理解した瞬間、息を呑んだ。

 

「…これは…なかなか重いわね」

 

 さらにテゾーロが少し手を動かすと、近くの柱にあった黄金の像が動いた。

 

 ヌルッ!

 

 柱から抜け出した黄金の竜が、テゾーロに殴りかかったエルの拳を受け止めた。

 そしてそのまま、エルの体は足からジワジワと黄金に覆われて(・・・・)いった。

 

「…みんな!動かないで!!」

 エルの体は、とうとう腰、胸、腕まで黄金に覆われて(・・・・)しまった。

 

「そう…動けば全員、黄金の像になっていた」

「お前!何の能力だ!」

 チョッパーが叫んだ。

 

「金だよ。私は『ゴルゴルの実』の能力者…一度触れた金は自在に操れる」

 テゾーロは隠さず、能力を明かした。

 

「!?」

 

「エルに…何を…した!」

 腹痛に苦しむルフィが、やっと顔を上げた。

 

「お前達…この船に乗ってから金粉を浴びただろう?」

「「!」」

 テゾーロに言葉に一味は、ハッとさせられた。

 ダウンタウンエリアのパレードでも、高級エリアでも…

 どこでもこの<グラン・テゾーロ号>では紙吹雪のように金粉が舞っていた。

 

 あの時、既に―

 

「私の能力がこめられた金を、お前達の体に付着させていたんだ」

「「……っ!」」

 一味は自分達の体を確かめた。

 服にも、肌にも、髪にも、細かい金が付着していた。

 だからエルの体は、『ゴルゴルの実』の能力者であるテゾーロの意のままに、金に変えられてしまったのか!

 

「私のチカラを帯びた金粉は、体に染み込んでいく。もう、お前達は私の支配下にいるのさ…この船にいる、全ての人間がなァ!」

 ついに首から上を残して、全身が金で覆われて(・・・・)しまったエルの肩に、テゾーロは手を置いて微笑んだ。

 

「さて」

 笑いながら、テゾーロは考える仕草をした。

 

「― では、貸した金を回収させてもらおうか?…懸賞金五億ちょうどを…”<堕天使>エル”の首でなァ!」

「!!」

 ナミは察した。

 最初に一億、そして四億。

 バカラが貸した金額は、エルに懸けられた世界政府の懸賞金と同じだったのだ。

 

「ハハハ…!この船では、誰も私には逆らえない」

「調子に乗ら―」

 その時、言いかけたナミの喉元に鋭いナイフが当てられた。

 

「動かないで」

「!?」

 刃先を当てたまま、相手はナミの前に回った。

 

「(今は)…黙って従って」

 歌姫カリーナだった。

 サングラスをかけた彼女の横顔を見た時、ナミは…

 

「アンタ…?」

 表情を変えずに、しかし小さく、テゾーロには聞こえないほどの声でつぶやいた。

 そして、つかの間思案する。

 

 それからナミは、カジノ王に向き直った。

 

「分かった…おカネは用意する。少し時間を頂戴」

「ナミさん?」

 サンジは情けない声を出した。

 そんなカネは、どこにも…。

 

「ほう…?良いだろう。では明日の夜十二時まで待とう。間に合わなければ…コイツを公開処刑する」

 客の前で、見せ物(ショー)にする。

 

 テゾーロは動けぬエルに笑みを向けた。

 

「約束よ…!」

「もちろんだ。これは賭け事(ギャンブル)だからな」

 どんなルールであれ、一端定めればそれを違えることは許されない。例え王であってもだ。

 それはグラン・テゾーロの国家の信用に関わることだ。

 

「せいぜい楽しませてくれ。期待しているよ」

 ギルド・テゾーロは愉悦の声を漏らした。

 

 ナミは ― 喉元にナイフを当てられたまま、その持ち主の女を改めて見つめた。

 

 

 

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