何者かによって聖地が襲撃され、多くの奴隷が逃げ出した。
私が事件を知ったのは、事件発生からしばらく後の事だった。
襲撃事件そのものは、パンケア城には何の影響もあたえなかったからだ。
私に集められる情報などたかが知れているのだけれども…
亡くなった奴隷の情報をできるだけ集めてみた。
その中に彼と特徴の一致する者は居なかった。
きっと、無事に逃げ出せたハズ!
そう思う事にする。
幸か不幸か、カノン様付きの侍女のほとんどが、襲撃事件の影響で城から居なくなってしまい、一番懐いているだろうからと、カノン様のメイン担当に私がなってしまった。
ほとんどの奴隷が聖地からいなくなってしまった関係で、天竜人の世話をする者が不足した、というのが理由らしい。
私が近くにいると、カノン様はご機嫌との事らしいのだが?
昔から子供に好かれる体質?で、私自身も子供は好きなので別に不満は無いのだけれど…
本当に、私で良いのかしら?
特に大きな出来事もなく、年月は過ぎた。
カノン様が6歳になった時、それが起こった。
カノン様に着いていくと異様な場所に行きついた。
そこは、城の地下。
CPと呼ばれる政府機関の強者が集う修練場との事だ。
いろんな器具や武器があり、広い場所では何人かが組手を行っている。
「ちょっとみなさん、いいかしら?」
カノン様がそういうと、全員の動きが止まり、驚いた顔がこちらに向けられる。
「今日から私が鍛えてあげる!」
鳩が豆鉄砲を食らったように目を点にする面々。
次いで、彼らの口から笑いが漏た。
私は言葉の意味がわからずカノン様を見つめていると、頬が膨れて少し怒ったように見えた。
「笑ってられんの、今のうちだかんな…」
「…」
恐らく彼らには聞こえない。
隣にいた私にしか聞こえないほどの…
しかし、重低音の怒りの籠った声がした。
あ……
これ、ヤバいやつ?
数分後…
20人ものCPが、全員地面とキスをした。
~ ~ ~ ~ ~
『ゴルゴルの実』の能力によって、エルは黄金の像にされてしまった。
テゾーロの要求は、借金五億ベリーの返済。
期限は明日の夜十二時まで。
それまでにカネを用意出来なければ、エルの懸賞金で返済する。
すなわち命で払え!という事だ。
麦わらの一味は、一端ダウンタウンエリアに撤収した。
メインストリートは観光客でごった返している。
「どうやってエルを助けるの…?」
キャロットは仲間の事を考え、塞ぎ込む。
「う~~」
ルフィは悔しそうに拳を握った。
「そうだな~…!じゃあ、まずはメシだ!」
「うん、腹ごしらえは大切だ!」
ルフィとチョッパーが言うと、グ~っと三人のお腹の蟲が合唱するように鳴った。
お腹の蟲の音を聞いた仲間たちが爆笑して、その考えに賛成した。
少なくとも明日の夜十二時までエルの命は保証されている。
助けるにしてもまずは準備を整えなければならない。
「おっ!肉の匂い!」
ルフィはキャロット、チョッパーと一緒に走っていく。仲間達がそれに続いた。
ナミは、やれやれと息をつき、そして仲間の後を追おうと歩き出す。
「!?」
雑踏の中で、ナミは誰かと肩がぶつかった。
― ごめんなさい。
すれ違った女性が謝罪して、行き過ぎようとする。
その帽子にサングラスをかけた女の手首を、ナミは振り返り様に強く掴んだ。
「相変わらずね」
女の手にはナミの財布が握られていた。
異変に気づいたサンジ、ジンベエ、ブルックが引き返してくる。
スリだ。
観光地にはつき物だが、まさか元泥棒のナミから財布をスろうとは。
囲まれた帽子の女は、ところが悪微れた様子もない。
「腕は落ちてないみたいね、泥棒猫」
「アンタこそ」
ナミは女の手首を掴んだまま、反対の手でそれをお手玉した。
「………!」
女は、あっと声を出す。
「もうっ!」
財布だった。
肩がぶつかった一瞬で、お互いの財布をスっていたのだった。
「やっぱりアンタだったのね……カリーナ」
「ウシシッ……久し振りね、ナミ」
「おぬし…、テゾーロの手下じゃな!」
ジンベエが身構えた。ナミにナイフを突きつけた女だと気づいたからだ。
「あなたは…先程のお嬢さん!ナミさんのお知り合いでしたか?」
カワイ子ちゃんと見るや、サンジがクルクル舞ってアプローチする。
「しーーっ」
女 ― 歌姫カリーナは人差し指を立てた。
「フフフ…ナミとは泥棒仲間って感じ。ね?」
カリーナは財布を返すと、慣々しく接した。
「違うわよ!」
ナミは一歩引いた。
「仕事現場で、良く鉢合わせて!お宝の取り合いしてたんでしょ!」
ルフィと仲間になる以前、ナミが東の海で海賊専門の泥棒もやっていた頃の話だ。
― 私の宝よ!
― 私が、先に見つけたのよ!
少女時代の思い出が、ナミの脳裏を駆け巡る。
要するにナミにとって、カリーナは腐れ縁の商売敵だったのだ。
「アンタ、ガメつかったからね…ウシシッ」
「アンタの方が!よっぽどガメついでしょ!」
「むっ…何よ、泥棒猫!」
「強欲女狐!」
「「………」」
公衆の路上で、二人はいがみ合った。誰も口をはさむ者が居ないので、いがみ合いは止まらない。
だが、話がドンドン低レベルな方向に向かっていくので、仲間達はとりあえずカリーナの警戒だけは解いていた。
「そんなの良いから…」
誰もしなかった仲裁を我慢の限界からルフィが行った。なぜならお腹が空いたから!
「メシ~~~!!!」
<WILD・COW>
― 牛が骨付き肉をかじっている、微妙な看板のウエタンス風レストラン。
巨大ステーキと格闘しながら、下痢の収まったルフィは人心地着いた。
体力回復に全力で肉を頬張る船長を中心に、仲間達はテーブルを囲った。
「― さっきは、悪かったわね。でもテゾーロの手下としてここに潜り込んでいるから仕方なかったの」
カリーナが事情を告げた。
「いい…
「ルフィ…何言ってんのか分かんない。」
肉を頬張ったまま話すルフィに、キャロットが苦情を告げる。
ここなら電伝虫もいない ― そう言ってカリーナは話し始めた。
彼女は、今<THE・REORO>専属の歌姫として、テゾーロと契約しているのだと言う。
もちろん泥棒という素性は隠して。
「カリーナは、何でテゾーロの手下になったんだ?」
チョッパーが直球で尋ねた。
「それは……」
「アンタ、まさか“テゾーロマネー”を狙ってるの?」
カリーナが答える前に、ナミが言った。
その存在を知っていた者はピンと来た顔になり、それ以外の者は首をひねった。
テゾーロマネー
「― 莫大な利益を上げ続ける“黄金の街”グラン・テゾーロ。この巨大船には、世界で流通する
もちろん札束で、という意味ではないだろう。
カジノ王テゾーロの所有する金融資産は、表も裏もひっくるめると全世界の五分の一を占めると言われているのだ。
「それが通称テゾーロマネー…!それを盗み出すのは、全ての泥棒にとって最高の栄誉。と言われてる。」
ナミが興奮気味に説明した。
グラン・テゾーロが竣工したのは4年と少し前。
しかし、テゾーロが能力者になったのはそれよりずっと前の事…
”テゾーロマネー”が生まれたのは、実は10年近くも前になる。
幾度となく名のある泥棒たちがテゾーロマネーに挑んだが、成功した者はいない。
カリーナがテーブルに長さ二十センチほどあるカギを置いた。
「歌姫としてテゾーロに近づいて、ようやくスペアキーを作れたわ」
「鍵…!」
ナミは本気なの? という表情で昔なじみを見つめる。
「黄金の
桁違いの金額に、麦わらの一味は息を呑んだ。
「ご、五千億…」
「それって、スゲェのか?」
「小さな国なら、丸ごと買えちゃうほどの金額よ!」
チョッパーの問いにナミが答えた。
「テゾーロは、この街の売上の一部を天竜人に献上しているの」
「天上金…ちゅうことか…!」
カリーナの言葉に、ジンベエがうなる。
およそ八百年前、今の世界を支配するシステムを構築した十人の伝説の王がいたという。その末裔は世界貴族として<偉大なる航路>と<赤い土の大陸>が交わる聖地マリージョアに居住し、今も権力を振るっている。
「そう…。大金庫にあるのは天上金!テゾーロはカネのチカラで天竜人を動かして、世界政府が認める特権を手に入れたって訳」
「なるほどな、だから海軍もテゾーロに手出しが出来ねぇのか。」
カリーナの説明にサンジは納得した。
「テゾーロマネーは各国、海軍、大海賊にも流れている。全世界をカネで支配する”黄金帝” ― それがテゾーロの正体よ」
この船には、四つの海と<偉大なる航路>、その表と裏を動かす
「私と組まない、ナミ?」
カリーナは持ちかけた。
「………」
「カネを盗めば、貴方達の仲間も買い戻せる。
テゾーロといえども殺すも生かすも気分次第になるという事だ。
「そんな面倒な事しないで、力ずくで奪い返せばいいんじゃない?」
キャロットが言った。
「奪え返せたとして…どうやって彼女を元に戻すの?」
カリーナは問い返した。
エルは『ゴルゴルの実』の能力で黄金の像にされてしまったのだ。
「カジノ王の奴を、ぶっ倒す!」
ルフィが言った。
「…ワォ!」
カリーナは微妙な表情を返した。
「それが出きればね。言ってたでしょ、貴方達…私の体にも、テゾーロの金粉が取り込まれているのよ」
この船に乗ったときから。全ての人間は、能力を帯びた金粉に触れてしまっている。
「その気になればテゾーロは、この街にいる全ての人間を黄金の像にしてしまうことが出来る。だから…!」
騙して、奪い取る。
「テゾーロを倒すには…!この街のルールで勝つしかない!」
カリーナの言わんとすることを、ルフィたちはやっと理解した。
「仕方ないわね」
「確かに…。それしか手立ては無いかもしれんのう…」
「騙す騙さないなら、こちらのお嬢さんの話がウソでない証拠もありませんからねェ」
ブルックが困った表情で言った。
「どうする、ルフィ」
サンジが船長に水を向けた。ルフィはカリーナを見た。
「エルは救えるのか」
「成功すればね」
カリーナは即答した。
「良し、じゃあやるぞ!」
そうと聞けば、ルフィはニッと笑って決断した。
船長がその気になれば、一味はすぐにまとまる。
目的は、エルを救い出し元の姿に戻すこと。
そのために黄金の塔の最上階にある大金庫からカネを盗み出す。
「狙いは天上金、五千億ベリー!テゾーロマネーを狙う!これは…命懸けのギャンブルよ!」
ナミは仲間達を見回した。もちろん異を唱える者は居ない。
「…ただし!」
さらにナミはカリーナに突っ掛かる。
「取り分は、こっちが七でアンタが三!」
「は?冗談じゃないわよ!」
バンッ!バンッ!
二人はテーブルを叩き合った。
「こっちは人数が多いでしょうが!」
「鍵は私が用意したのよ!案内係の私がいなきゃ、あんた達は何も出来ない!そもそもこっちはあんた達の仲間を助けるのを手伝ってあげるのよ!!」
「何ですってェ!」
「何よ」
― ガシャン!
ナミとカリーナが言い合っていると、店のどこかでグラスが割れた。
仲間達は、音のしたほうを見た。
料理を運んでいた給仕が、客にぶつかって皿を落とし、ステーキソースで客のズボンを汚してしまったようだ。
「あ…う……」
「大丈夫か、テンポ」
別の給仕が慌てて駆け寄ってくる。
「おいおい……ガキども、おれ達をテゾーロ様の部下だと知って、やったのか?」
客は因縁をつけた。
「ご…ごめんなさい、許してください」
皿を落とした給仕 ― 幼い女の子は手をついて謝った。
「ダメだ」
客の男は意地悪く笑んだ。
「借金二億ベリー追加だ」
「そんな……!」
女の子は涙目になった。
「あの子…さっき花を売ってた…」
キャロットが気づいた。
カジノホテルの前で、花を売っていた兄妹だ。このレストランでも働いていたようだ。
「この街で借金を背負ったから、働いて返しているのよ」
カリーナの言葉に、ルフィも兄弟を見る。
「アイツらが、借金…?」
「おおかたギャンブルに溺れた
妹のテンポを、兄のリッカが庇う。その態度が気に入らなかったのだろう。
客の男 ― テゾーロの部下は威嚇しつつ拳を振り上げた。
そこに、誰かが割って入った。
「…この子達が、何か?」
エプロンをした大柄な男は、店長のようだった。
自分よりはるかに体格の良い店長にビビリながら、テゾーロの部下は声を裏返した。
「お、おい、元軍人!お前の店は、まともに教育も出来ないのか!」
テゾーロの部下ならば、この船では特権階級だ。
「どうぞ、お許しを」
店長は ― 膝を着き、額を床に付けて謝罪した。
「お客様には…!笑顔だろうがっ!」
テゾーロの部下は靴で店主の後頭部をグリグリと踏みつけた。
「………」
「テゾーロ様に逆らえば、どうなるか忘れたか?ほら、笑えよ…!そんなんだから、お前は―」
アハハハ……と、踏まれながらも店主は笑顔を作った。
調子に乗ったテゾーロの部下は、笑え、もっと笑えと店主を踏みつけた。
そうして満足すると、仲間と連れだって店を出て行った。
「店長!」
兄妹が駆け寄る。店長はそれでも笑い続けていた。
「お前ら」
彼らに話しかけたのは、ルフィだった。
「?」
「なんで戦わねェんだ?」
立ち上がった店長に尋ねる。
元軍人、海兵あがり。その丸太のように太い腕なら、さっきのチンピラたちなどどうにでもできたはずだ。
ルフィの言葉に店長も、他の店員達も下を向く。
大人たちは、口を噤んだ。それが契約。
これは、子供たちの為なのだ。
「戦ったって、意味ねェだろ!」
叫んだのはリッカだった。
「何で?」
それでもルフィは問いかける。
「何でって…カネがなけりゃ自由になれねェんだ!クソッ!」
「お兄ちゃん!」
涙声で叫ぶと、リッカとテンポは店の外に駆け出してしまった。
ルフィは幼い兄妹の背中を見送った。
そして、手にした骨付き肉を噛み千切った。