イムの娘(いむのこ)~番外編~   作:槙 秀人

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いざ、ミッション!

 テゾーロは、ステラがまだ天竜人に囚われているかも知れないと思っていた。

 

 だから彼は、どうやって奴隷であるステラを天竜人から救い出すかを考えた。

 

 ギャンブルで負けさせて、借金のカタに奴隷を買い上げる!

 

 天竜人から所有物を取り上げる…

 そんな大それた事を可能にするにはどうしたら良いだろうか?

 

 その為には…!!

 

 天竜人も逆らえないほどのチカラを手に入れる必要がある!

 

 国をつくり、天上金を納め…

 

 世界政府に自治を認めさせる必要がある!!

 

 天竜人はカネで言う事をきかせれば…

 いや、文句が出なければそれで良い。

 

 わざわざ自分のところまで足を運ぶようになれば…

 

 きっと、カネのチカラでそれは可能になるに違いない。

 その上でギャンブルに誘い、奴隷を買い上げるだけのカネを使わせれば…。

 

 奴隷を手放した後、それ以上のカネを手に入れる事が出来れば奴らに文句はないだろう。

 

 その為に…!

 

 この『悪魔(ゴルゴル)の実』のチカラを存分に!!

 

 使いこなせるように(覚醒するまでに)ならなければ!!

 

 

 

 ~ ~ ~ ~ ~

 

 ホテル<THE DICE> は、サイコロを積んだような風変わりな外観のホテルだ。

 カリーナが用意した部屋で、麦わらの一味は早い朝を迎えた。

 

 食事はファーストフード。

 バーガーとポテトとドリンク、そして黄金の塔の図面がテーブルに広げられた。

 

 黄金の塔の大金庫を狙う計画について再確認した一味は、準備を始めた。

 必要な資料の調達、情報収集。

 

 ― <麦わらの一味>の超新星!”堕天使”エル 処刑ショー!

 

 街のあちこちには、手際の良い事に今夜<THE REORO>で催される残酷な見せ物のポスターが張られていた。

 たちまち一日が過ぎる。

 

 夕景 ― 海も、空も、オレンジ色のハレーションに包まれた<グラン・テゾーロ号>は溶けるような黄金色に染まった。

 

「ここに居たの……こっちは準備OKよ」

 ホテルの屋上で、ナミはカリーナに声をかけた。

 

「そう」

 

「…アンタ、何処に行ってたの」

 昼間、カリーナは別行動をしていた。

 

「下準備よ」

「また逃げたのかと思ったわよ」

 ナミの言葉に、カリーナはカチンと来た。

 

「はァ?私が、いつ?」

「忘れたとは言わせない」

 ナミは手すりにもたれかかった。

 

「<トレジャー海賊団>のお宝を盗もうとして…あの時も、私達現場でかち合って…」

「ああ、あの時か……」

 そう言って、カリーナは夕日に目を細めた。

 

 六、七年…?

 そのぐらい前の事だ。

 

 まだ小娘だった二人は、仕事にしくじって海賊に捕まった。

 

 ― どっちが先に死にてェんだ!

 

 海賊の宝に手をつける泥棒など、クソにたかるハエのような物。

 <トレジャー海賊団>の船長マッド・トレジャーは『ジャラジャラの実』の鎖人間だった。

 二人は鎖ムチで痛めつけられ、皮膚が破れるほどの仕打ちを受けた。

 

 ― 宝は返す!私が、これまでにためた宝も全部、渡すから!

 

 カリーナは訴えた。

 

 ― だから、『二人』の命は助けて!

 

 このカリーナの提案を、海賊とレジャーは一端了解した。

 

 お宝に興味があったのだろう。

 ただし日没までに戻れと言った。さもなくば、ナミを殺すと…。

 

 ― 私を信じて。必ず、戻ってくる。

 

 カリーナはナミに告げて、この場を離れた。

 

「でも…カリーナ、アンタは、あの時…」

 ナミは思い返した。

 

 あの時、日没までにカリーナは戻ってこなかったのだ。

 

 ― 仲間を恨むんだな。

 

 トレジャーは鎖ムチを振るい、腹いせにナミをいたぶり殺そうとした。

 ナミにしてみればカリーナは商売敵。

 だから、こうなるのも覚悟はしていた。

 

 ― アイツは仲間でもなんでもないわ。

 

 …ねェ船長さん、取引しましょ?

 私が盗んだ宝は隠してある。それで、私の命は助けて。

 

 この時ナミは、魚人アーロンに支配された故郷のココヤし村を買い戻すために泥棒を働いていた。

 だから、どんな惨めな目に遭っても死ぬわけにはいかなかったのだ。

 

 トレジャーと手下達をともなって入り江に向かい、隠した宝箱を開ける。

 しかし、中には宝はなかった。

 あったのは一枚の紙切れだった。

 

 ― 女の子は嘘と知恵で生き抜かないとね?

 

 カリーナ

 

 これを見た海賊達は、大笑いした。

 

 ― 哀れだなァ?見捨てられた挙句宝まで盗まれるとは……ジャラララ!

 

 

「― そんな昔話」

 ホテルの屋上で、カリーナは視線を逃がした。

 

 だがナミにとっては、ただの思い出話では済まされない。

 

「私は殺されていたかもしれないのよ」

「相手は海賊よ…?宝を素直に返していたら、二人とも殺されていたわ」

 カリーナは、最もらしい言い訳をした。

 ナミは苦虫を潰したような顔になる。

 

「また裏切ったら…許さないわよ、この女狐!」

「ええ、泥棒猫!」

 二人は拳と拳をトンッと突き合わせた。

 

「…ねェ、カリーナ」

 ナミはつぶやいた。

 

「ギルド・テゾーロって、どんな男…?」

「どんな、って…」

 

「泥棒にとって、ターゲットのなりを分析する基本のキ……大金庫の鍵ねェ?いくらお気に入りの歌姫って言ったって、こんな―」

「…一々スらないで」

 ナミが手して回した大金庫の鍵を見て、カリーナは息をついた。

 

「こんな簡単にスペアを作れちゃうって、正直脇が甘いんじゃない?結構な色男だけど、女にはだらしないとか?」

 ガキを返すと、ナミは興味ありそうな顔で尋ねた。

 

 カリーナは少し考えて、答えた。

 

「お気に入り…と言っても信頼はされていない。多分ね…。彼は、誰も心から信じていない。自分の部下でさえも…」

「そうなの?」

 猜疑心(さいぎしん)が強いタイプ。

 なにせ、笑いのツボを外しただけで、部下を処刑する…

 そんな男だ。

 

「彼はグラン・テゾーロの王にしてスーパースター。舞台の主役……スポットライトの中心にいるのは、いつも彼よ。」

「…」

 

「ステージが終わるとね…彼は必ず私にこう言うの。」

 ― 素晴らしい歌声だったよ。

 

「そうしたら、私はこう答えなくてはならない…。」

 ― テゾーロ様の歌には適いません。

 

「………」

 

「おかしいでしょ…?世界一の大金持ちが欲しがるのは、賞賛の言葉。自分の歌への褒め言葉。」

 カリーナの言葉にナミは答えた。

 

「ステージに立っているテゾーロが、本当の彼…って事?」

「私には、そう思えたわ」

 ステージに立っているカリーナだからこそ分かる。

 歌う直前の彼が、一番人間らしいのだと。とても輝いていて、そしてとても不安そうなのだと。

 

 金欲も、色欲も、食欲も、もしかすると権利欲さえ、今のテゾーロにとってはゲームでしかないのかもしれない。

 

 一端言葉を切ったカリーナだったが、やや迷いながらもまた口を開いた。

 

 

「― これはVIPのお客に聞いたんだけどね」

 ステージの後、世界政府の要人の相手をしていた時だと言う。

 

 その男はカリーナに気があった。

 酒に酔っていた男は、自分を大きく見せたかったのか、こんな事を口走った。

 

 ― テゾーロなど、元はマリージョアの奴隷だった男だ。

 

「……!!」

 意外な事実に、ナミは息を呑んだ。

 

 奴隷 ― それは人身を売られ、天竜人に買われた人間の事だった。

 

「もちろん、それが本当かどうかは分からない」

 

「天竜人の奴隷なら…体のどこかに焼印が…」

 天竜人は“天駆ける竜の蹄”の焼印を、所有物である奴隷の体に捺すのだ。

 

「彼には焼印はない。ただ………代わりにと言ってはなんだけど、背中いっぱいに星型の焼印が…」

 カリーナは言った。

 

 それは奴隷の印を消すための星型の焼印かもしれない。

 だが、確証もない。

 

「ステージの上のテゾーロが本物……なら彼は、必ずステージで決着を着けるはず!」

 これは勝負事(ギャンブル)だから。

 

 ナミはテゾーロと言う男を記憶した。

 

 

 日没。

 

 それはグラン・テゾーロでは、始まりの合図だ。

 これからが大人の時間、ショータイム ― ネオンサンと七色のサーチライトが彩る高級エリアに、今十人のチームが居並んだ。

 

「さァ、計画通りやるわよ!」

 カリーナは海賊達に告げた。

 

「よーし…!で、どうやるんだっけ?」

「さっき説明したでしょ!」

 麦わらの船長をカリーナがどやすと黄金の塔の図面を広げた。

 下層はカジノと商業施設。中層にホテルの客室があり、コントロールルーム、VIPルーム。

 さらに展望台のように張り出した塔頂部に至る。

 

「大金庫があるのは、ここ…てっぺんのスイートエリア!天空のドームに天上金五千億ベリーはある!床も壁も天井も、分厚い黄金で出来てるから、外から壊して入る事は出来ない」

 

「黄金ってそんなに固くはないんでしょ?壊せないのかな?」

 

「ダメよ!テゾーロは“覚醒”した能力者」

 カリーナの言葉に、一味に緊張が走った。

 

 悪魔の実の“覚醒”については、分からない事が多い。

 大まかには、その能力が飛躍的にパワーアップしたり、本人以外の対象に影響しうるものになる。という現象だ。

 

「― この街にある金には、全てテゾーロの能力が及んでいる。この<グラン・テゾーロ号>は、いわば彼の体の一部も同然なの。もし黄金の(タワー)自体に強い衝撃が加われば、気付かれる危険がある」

 バレたら即、エルが処刑されてしまいかねない。

 

 では、どうやって天空のドームに?

 

 カリーナは図面の塔頂部を指した。

 展望台の外周に、さらに張りだした円蓋を被せた小塔が三つ付属している。

 政務室、プライベートルーム、大浴場などがあるようだが、その一つが大金庫だと言う。

 

「出入り口は、ココだけ…スイートエリアから大金庫に続く螺旋階段!」

 

「でも、そこには映像電伝虫が大量に…。普通に行ったらすぐに見つかっちゃう!」

 キャロットが肯いた。

 

「警備の穴はある。だから、アンタ達のチカラを借りるのよ。まず…チームA!」

 

 黄金の塔の外を登って、展望台の付け根にある大時計から侵入、コントロールルームへ。

 そこには<グラン・テゾーロ号>全体の電伝虫を管理するホスト電伝虫がいる。

 そいつに細工して、大金庫室に続く螺旋階段の映像だけを一時的に停止するのだ。

 

 チームB。

 そのほかのメンバーは、ルームキーパーや掃除係に変装する。

 そしてカジノフロアのバックヤードからエレベーターでVIPエリア。

 さらにスイートルームエリアへ。

 ここの警備を突破すれば、後は一本道で螺旋階段にたどり着く。

 電伝虫の映像が止まっている間に一気に駆け上り大金庫に至る。

 

 

「― 後はホテルのランドリーカートに五千億べりイーの札束を詰め込んで、堂々と正面から出る。これで計画完了(ミッションコンプリート)よ!」

 

 

 

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