イムの娘(いむのこ)~番外編~   作:槙 秀人

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そんなもん

 テゾーロとユナは、グラン・テゾーロ号の竣工パーティーで出会った。

 テゾーロはドフラミンゴからユナの事を聞いており、以前から興味を持っていた。

 F-RONPは世界で知らぬ者がいないほどの大企業だ。テゾーロも取引を行ってはいた。

 だから、会うのを楽しみにしていたのだ。

 

 そして、会ってみてすぐに意気投合した。

 それは恐らく、ステラを失ったと思っていなかったからだろう。

 

 彼が、グラン・テゾーロ号を作ったのは、ステラを救い出す為でもあった。

 天竜人に対するチカラを手に入れる為に、黄金のチカラを存分に使った。

 天竜人を呼び寄せカジノでカネを使わせ、奴隷を買い上げ、解放する為に…

 

 しかし、ステラを連れた天竜人は現れなかった。

 

 彼女が亡くなっているとは思いたくなかった。

 

 もしかして、彼女は既に聖地から逃げ出している?

 あの時、どうにかして逃げ出した?

 それとも、それより前に?

 

 

 テゾーロは、彼女(ユナ)の影響を受けて、グラン・テゾーロ内にも孤児院をつくった。

 

 ただし、保護する事を目的とする施設とは違い、生きる術を学ばせることに重きを置く事とした。

 ゆえに、甘やかすことなく子供の頃から労働させる事にしている。

 

 自分に恩を感じてほしくないと考え、子供たちには自分の置かれた状況を奴隷だと思わせるようにした。

 

 借金を背負った大人たちには、子供たちへの教育係を義務付けた。

 ちなみに借金を返し終えた者は、それまでに働いた分の給金をもらい、船を出ていくことが出来た。

 しかし、隠されたテゾーロの考えに共感し、そのままスタッフとして働き続ける者も少なくなかった。

 その事を知ったユナが、何かに納得していたのが印象的だった。

 

 二人が出会ってから数年が過ぎ、信頼関係が出来た頃、テゾーロはユナに相談事をもちかけた。

 

 

「人探し?」

「ああ…大っぴらに言える話じゃない。あんたが信頼に値する人物だと判断したから話すんだ。」

 

「表に出せない感じの話って事ね?」

「…ああ、彼女のその後に影響が出るかも知れないからな。」

 

「そう…。探すのは女性って事ね? 写真とかはあるのかしら?」

 

「無い。見ればすぐにわかる。教えられるのは名前だけだ。」

「なんて名前?」

 

「ステラだ」

「ステラ…。ステラねぇ…」

 

「!!知って…いるのか?」

「さあ、どうかしら?ステラという名前の女性ならF-RONP(うち)に3人ほど居るわ。あなたの探す娘は何歳くらい?」

「俺と…同じくらい…だ」

 

「だとすると、該当するのは一人だけね。写真を送ってもらうわ!」

 

 しばらくして、電伝虫から出力された写真を見て、テゾーロは驚愕する。

 

「F-RONPに…彼女が居たのか!!?」

「彼女は、芸能部門の要の子よ。部門の立ち上げから携わっているの……って、聞いてる?」

 

 テゾーロは号泣していた。

 写真を胸に抱いて崩れ落ちている…。

 

「…」

 おやまぁ、そんなにですかい?

 連れてくればよかったかしら?

 

 

 ~ ~ ~ ~ ~

 

 麦わらの一味とカリーナの合同チームは、黄金の塔攻略を開始した。

 

 <チームA>

 ルフィは”ギヤ4”バウンドマンになっていた。

 

「ルフィ、すまんのう…」

「心配すんな!もうすぐてっぺんだ!」

 ルフィはジンベエを背負って飛んでいた。

 

「ルフィ()飛べたんじゃな。改めて思うがすごい一味じゃな!」

 ジンベエを背負ったルフィは黄金の塔のてっぺんを目指す。

 

 

 <チームB>

 カリーナと一味のメンバーは、地下 ― グラン・テゾーロ号の甲板下から、カジノホテル<THEREORO>に侵入した。

 

「あれ?そう言えばサンジさん、空飛べるんじゃ?」

 ブルックが思い出した。サンジは、“空中歩行(スカイウォーク)”を会得して、空を蹴って歩く事ができる。

 

「オレはレディ達をお守りするという、大事な役目があるからな!」

 それに…と、サンジは続ける。

 ルフィも飛べるし、チョッパーだって飛べるのだ。

 

「しっ!来た」

 ナミが小さく警戒を促した。

 

 ここはカジノのバックヤード、従業員スペースだ。

 三人の黒服が、VIPエリアで使う例の巨大な黄金ツボのスペアを、台車で搬入するところだった。

 

「あらァ?素敵なマッチョさんだこと」

「カリーナさん?」

 歌姫がこんな所にいるとは思わず、ツボを運んでいた黒服達は驚いた。

 

「そのツボ、何処に運ぶの?」

「VIPエリアに運びます。ツボはダイス様が割ってしまうので、常に補充をするんです。」

 丁半でツボを割る必要などないのだが、あの巨漢ディーラーはクセになっているらしい。

 

「へェ…見せて、見せて」

 カリーナは胸を大きく開いたドレスを着て、わざと前屈みになってツボを覗いていた。

 なんかもう、布から胸がこぼれそうで危ない!

 

「なんて、大きいの!」

「は……大きいです?」

 黒服たちはカリーナの胸元に視線が集中して、メロメロになっていた。

 

「ヨホホホ!羨ましい」

「良いから早く!」

 指をくわえて黒服たちの背中をツボから、見たブルックをナミが小声でせっついた。

 カリーナが注意を引いている間に、物陰から出た一味は、おかれていた巨大ツボの中に忍び込んだ。

 

「じゃ、頑張ってお仕事してね~!」

 一味がツボに隠れたのを確かめたカリーナは、その場を立ち去った。

 

 巨大ツボに隠れた一味を乗せたエレベーターは、VIPエリアの階まで上がった。

 例によってタナカさんが、扉をすり抜けて現れた。

 そして、壁をすり抜けて、ツボの台車を黒服ともどもVIPエリアに運んだ。

 

「するるるる……ダイスの部下三名、ツボ搬入…」

 

 ― コンコン

 

「ん?」

 タナカさんは振り返った。もう一基のエレベーターから音がしたのだ。

 また能力でエレーベーター内を覗く。

 

「どちら様で…ああ、カリーナ様。どうぞ、お通り下さい」

 タナカさんは歌姫をVIPエリアに通した。

 その時には、巨大ツボはVIPエリアのバックヤードに搬入されていた。

 黒服たちが出て行くと、一味はツボの中から外に出た。

 侵入成功だ。

 

 

 ***

 

 壁を上るのではなく飛んで移動したルフィ達は、原作とは違い、あっさりと棟の頂上に到達。

 万全を期する為、ギヤ4を解いて休憩していた。

 

「よし、復活!!」

「いくぞ、ルフィ!セキュリティエリアは、この大時計の奥じゃ!!」

 

 

 

 VIPエリアからスイートエリアに侵入したチームBは、廊下を進んだ。

 合流したカリーナが先導する。大金庫へ続く螺旋階段の出入り口は、この先だ。

 

「あの…この変装、意味あるんでしょうか?」

 ブルックが尋ねた。

 他のメンバーはルームキーパーなどの制服だが、ブルックはなぜかピエロの格好だ。

 

「ここでは、いろんなショーが行われているから……待って」

 カリーナが一味を制した。

 角を曲がった先が、出入り口だ。しかし、そこにはガードマンがいる。

 

「おれに任せてくれ」

 言うと、サンジの姿がそこから消えた。

 HCIでサンジは自身のスピードに自信をつけていた。

 ガードマンといえど、麦わらの一味からすれば一般人と変わらない。

 次の瞬間、屈強なガードマンたちは声もなく崩れ落ちていた。

 

 ガードマンの気配が消えたのを確認して、カリー名は通路に顔を出した。

 

「流石…」

 カリーナは感服した。懸賞金三億超えは伊達ではないらしい。

 大金庫へと続く扉の前に、二人のガードマンが倒れていた。その隣でサンジがカリーナにサムズアップしている。

 

 チームBは扉を開き、小塔に入った。

 その先には―

 

 暗闇を、赤い光線が行きかっていた。

 

 ― ホー、ホー、ホー、ホー、ホー、ホー、ホー、ホー……

 

「これは…“赤目フクロウ”!」

 ナミが舌打ちをした。

 通路のあちこちにフクロウが止まっていた。

 映像電伝虫が監視カメラなら、こちらはセンサー式警報装置だ。

 

「あの目から出ている赤い光に生物が触ると、大声で鳴く習性があるのよ」

 もし、あの赤い光にふれてしまえば、赤目フクロウの鳴き声を聞きつけて大勢のガードマンが来るに違いない。

 

「そっか…だからアイツら、それで上とか下とか見る方向を言っているのか」

 チョッパーがつぶやいた。

 

 ― ホー↑、ホー↓、ホー↑、ホー↓……

 

「!?」

 カリーナは目を丸くした。

 

「あなた、動物の言葉が分かるの?すごい!」

「そ…そんな、ほめられたってうれしくなんてねェぞ、コノヤロー!」

 褒められたチョッパーが、口では怒りながらニヤニヤした。

 赤目フクロウの鳴き声を確認しながら、赤い光の方向を予測し、センサーをやり過ごしていく。

 

 ホー→

 

「!?ヤバイ!」

 これまで上下の動きしかなかった赤目フクロウが、いきなり横を向いたのだ。

 

 ― 走れ!

 

 誰ともなく声が上がった。ダッシュだ。赤い光のセンサーが床を照らして迫った。

 

「ブルック、急げ!」

「はい!ちょ、これ走りにく…」

 チョッパーが声を掛けるが、ブルックは裾の長いピエロの衣装を引きっていた。

 

 ― ホー!

 

 ついにブルックは赤い光の一斉照射を浴びてしまった。

 

「ギャ~、しまった~~~!あー、あー~~~……あ?アレ?」

 ところが赤目フクロウ達は警報を発しない。

 赤い光は、ブルックの姿を浮び上がらせただけだった。

 

「お前…生物じゃないから、大丈夫なんだな?」

 サンジの言葉に、ブルックは別の意味でショックを受けた。

 

 ブルックは、『ヨミヨミの実』の能力で、蘇ったのは骨だけの体のガイコツ人間になってしまったのだ。

 少なくとも赤目フクロウにとっては、ブルックはただのしかばねだった訳だ。

 

「私、フクロウ嫌いになりました!」

 笑いもせずに、ブルックが吐き捨てた。

 

 一行は、ついに螺旋階段にたどり着いた。

 カリーナは電伝虫を手にした。

 

「― こちらチームB。螺旋階段に到着…チームA、そっちはどう?」

 

 ルフィとジンベエは、セキュリティエリアの通気口に侵入していた。

 

「― こちらチームAじゃ。おったぞ…バカデカイ電伝虫」

 電伝虫で交信しながら、ジンベエは通気口の枠を外すと下を覗き込んだ。

 全ての電伝虫を管理する、体長10メートルありそうなホスト電伝虫が鎮座していた。

 部屋にはガードマンも数名いる。

 

『― ホスト電伝虫から伸びている三番のケーブルが、螺旋階段と繋がっている』

 

「あれか…」

 ジンベエは3と書かれたケーブルに目をつけた。

 

「あのケーブルに、この白電伝虫を付ければいいわけじゃな!」

 ジンベエはルフィに白電伝虫を渡した。

 

 白電伝虫は希少種で、妨害念波を飛ばすことが出来る。他の電伝虫に付けることで通信を妨害できるのだ。

 

「ルフィ、今じゃ!」

 ガードマンの位置を確認したジンベエの合図で、ルフィは通気口(ダクト)から出て、ゴムの腕をロープ代わりにホストルームに降りて行く。

 しかし、長さが足りず、三番ケーブルの上に吊らされた状態になってしまった。ルフィはつい(・・)ケーブルの上に着地すると、白電伝虫を設置した。

 

 計画通り?

 ルフィはニンマリして顔を上げた。

 

「あ」

 そこで、大きな目玉のホスト電伝虫とルフィの目が合う。

 

 えっ?

 と振り返ったガードマンも、ルフィと目を合わせる。

 

「ルフィ…いったい、何をしとるんじゃ…」

 そもそもケーブルの上に降りる事自体が間違いだ。

 ジンベエは呆れて、ため息を吐いていた。

 

 ― 侵入者だ。

 

 ホストルームは騒然となった。

 

 

 

 

 ダウンタウンエリア

 

 花売りをしていたリッカとテンポの兄妹の前で、街頭スクリーンに映像が出現した。

 

「お兄ちゃん…!」

「アイツ、昨日の<麦わら>…!」

 

 ガードマン達の銃撃が侵入者を追った。

 

 ― ドン!

 

 割って入ったジンベエの魚人空手が、銃弾を弾き飛ばす。

 

「魚人空手、唐草瓦正拳!!」

 正拳突きを繰り出し、空気中の水分からその衝撃を伝える技だ。

 ジンベエはたちまちガードマン達を吹き飛ばした。

 

「ルフィ!一端退くんじゃ!」

 

 撤退しようとした3人の背後で、床下から妙な物体が現れた。

 

 ビシュッ!

 

 予期せぬ痛みにのけぞり、フランキーはフランキーは電伝虫を取り落とされる。

 

「ガ八ッ…!」

 

「えっ!?」

 ジンベエを叩きのめしたのは黄金の帯だ。それは槍のように鋭く、鞭のようにしなやかで、生物のように動いた。

 

「― ハハハハ!」

 演技がかった笑い声が響く。ギルド・テゾーロだった。

 カジノ王が、タナカさんと共に床をすり抜けて、ホストルームに現れた。

 

「まったく、大切な仲間がどうなっても良いのか…?」

 テゾーロは指を鳴らした。

 

「エル!」

「なんと…!」

 ルフィとジンベエは声を上げた。

 ホスト電伝虫画家紅投影したのは、黄金の磔台にさらされたエルの姿だった。

 

「素晴らしいだろう…?公開処刑に相応しいステージだと思わないか?」

 映像が引きになっていく。エルが磔になっているのは劇場のステージらしい。

 

「「…!」」

 

「イッツ・ア・エンターテインメント!どうだ麦わら!最高だろう? 笑えよ……ハハハハ!」

 

 この船で、何が面白いのかを決めるのは、王だ。

 だが…

 

「笑わねェ!」

 バンッ!

 床を叩くと同時に、ルフィの両脚に新たな力が生じる。

 風のないはずのホストルーム内に熱気流が巻き上がった。

 

 ― ギア(セカンド)

 

 両のふくらはぎを第二、第三の心臓と化したルフィは、全身の血流を加速、爆発的なパワーアップするのだ。

 

「ゴムゴムのJET銃!」

 俊速の突き。

 

 ガガンッッ!

 

 だが、テゾーロは避けるまでもなく、黄金の床を操って壁と化した。

 次の瞬間、ルフィの拳を防いだ黄金の壁は、渦を巻きながら変形しルフィに牙を向いた。

 

黄金爆(ゴオン・ボンバ)!」

 テゾーロが拳を振るう仕草をすると、黄金の壁は巨大な輝く拳となってルフィを殴りつけた。

 ゴム人間はバウンドしながらぶっ飛んだ。それでも踏み留まり再度ダッシュする。

 

「JET--!」

 

 拳と拳が激突する。

 だが直後、テゾーロの黄金拳は再び変化する。磯巾着みたいに口をあけて触手を伸ばすと、ルフィの腕に喰らいついた。

 引き抜こうとしてあてがった繁多の腕までが黄金に取り込まれていく。

 

「抜けねぇ…!!」

「無駄だよ。この街で……この船で、私は無敵だ!」

 全ては王の思うまま。

 

「動かなねェ…!?」

 

「覚えておけ…この世界はカネだ!カネのない奴は、何も手にできない!何も得られず、何も守れない…支配されるしかない!」

「おれは!」

 ルフィの声は怒気をはらんだ。

 

そんなもん(カネ)に支配なんかされねェ!」

 カネが全て ― そんな事をいう奴に興味はない。だが、そうして他人を嘲り笑うのは気に入らない。

 一々決め付けるのが、苛立つ。

 

「そんなもん……だと?」

 テゾーロはテゾーロで、ルフィの言葉がシャクに触った。

 

 ― お前の言う、カネ(そんなもん)がなかったから… ―

 

 ― おれはあの時… ―

 

 ― 彼女を救えなかったんだぞ? ―

 

 黄金の光が爆ぜる。

 吹き飛ばされたルフィは黒く変色した壁に激突した。

 

「グアァ…」

「ルフィ…!」

 

「やってみろ!カネのないお前に未来があるのならな!」

 テゾーロは指を鳴らした。

 

 タナカさんが大きくジャンプして、両脚で着地する。

 

「“ホトムレス・ヘル”!」

 『ヌケヌケの実』の能力で、ホストルームの床に大穴が開いた。

 

 奈落 ― ルフィとジンベエは、船底へと真っ逆さまに落ちて行った。

 

 

 

 

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