「私に言わなきゃいけない事、忘れてたりしない?」
『いいえ。別に何もないと思うけど?』
「本当に?最近になって気づいたのよね。マジでビックリしたんだけど…」
『あ~…もしかして、ステラの強さの事かしら?』
ユナはカノンに連絡した。
ステラの
「油断してたわ。あの子、気配消すのがうま過ぎる!!」
『でしょでしょ?あの娘の素質はごいのよ!鍛えるのがものすんごく楽しかったんだから!!』
「喜んでんじゃねぇよ!そういう事はちゃんと伝えて!!」
『てへっ!』
「…あんたねぇ…」
てへっ!じゃねぇよ!あたしゃホントにビックリしたんだからな!!
素質がすごいというならば、それはそう。
ステラがカノンと過ごした年月を考えれば、彼女の強さには納得がいく。
納得したくはないけれど…
原作では、覇気を覚えて3年ほどで、ルフィやゾロは覇王色を纏えるほどになるのだ。
カノンに10年も鍛えられたのだとするならば、その強さは想像を絶する。
むしろ、最初に気づかなければいけない事だった。
反省すべきは私かもね…
~ ~ ~ ~ ~
下甲板、通気口。
襲い来る黄金コウモリを倒しつつ、ルフィとジンベエが進撃した。
「まったく、何匹おるんじゃ!」
「切りがねぇ!!」
敵は闇の支配者。明かりなどない通気口の中では無敵なはずだった。しかしルフィもジンベエも覇気がある。
見聞色の使える二人にとってはこの状況、不利でもなんでのないのだった。
ギャア!!
悲鳴が上がった。
後に続いて来た囚人の1人が、黄金コウモリに捕まった。
ギュルンッ!
ゴムの足が黄金コウモリを蹴り上げる。たまらずコウモリは囚人を落とした。
「…行くぞ」
ルフィは先を急ぐ。もう、エルの処刑まで時間がない。
暗闇の中を進むと、行く手に明かりが見えた。
ゴォオオオオオ………!
巨大な竪穴 ― 換気塔だった。
「でっかい換気ファンじゃな…」
ジンベエが穴を覗き下ろした。
直径数十メートルの換気塔と、同じ大きさの送風羽が回転していた。
「あのファンの下が船底…ポンプ室だ」
マックスが言った。やけに船内構造に詳しいのはもしかして…
彼がグラン・テゾーロに来たのは、革命軍がらみの仕事だったのかもしれない。
「 ― あのファンはテゾーロの罠だ。海楼石で出来ているから能力は効かねェ。覇気で壊すことも出来ねェ!」
「うォおおおおおお!」
ルフィは迷わず換気塔にダイブした。
黄金で固められた腕をファンに叩きつける。
だが―
「ルフィ!」
たちまち猛回転するファンにはじかれて、換気塔の壁に激突してしまった。
ガンッ!ガンッ!ガンッ!
「おれは…」
ルフィは、エルを助けるために。
「諦めねェ!」
何度でもファンに向かって
しかし、海楼石のファンはびくともせず、ルフィをはじき返した。
武装色の覇気を駆使してボロボロになりながらルフィは何度も巨大ファンに挑む。
「これは…無理じゃな…」
全身に武装硬化を施して、ルフィを救いに行こうとするジンベエの肩に手が置かれた。
「負け犬に成り下がった・・・・・」
「?」
「ツキが落ちたおれが…もう一度だけ賭けたくなった。あいつにだ!」
マックスが無謀にもファンに死闘を挑むルフィに向かって叫ぶ
「麦わら坊主、いいや、モンキー・D・ルフィ!!」
「おっさん…?」
「ルフィ!いったん戻れ!!おれに考えがある!!」
「おっさん、どうすんだ?」
ボロボロになりながらも、戻ったルフィがマックスに問いかける。
マックスは、一歩前に出た。
「おっさん…?」
「あの羽の間を通り抜ければ、下でファンを停止できる。コイツはギャンブルと同じだ。回転を…見切ってやる…!」
巨大な換気ファンを見下ろす。
彼には、それはスロットマシーンのドラムに見えたのか、それともルーレットか。
目押しで望んだ絵柄を揃え、望んだ数字にルーレットの玉を入れることが出来る一流のギャンブラーにとって、ファンの回転の隙間を狙う事は不可能ではない。
チッ、チッ………
小さく舌打ちしながらタイミングを計る。
「今だ!」
マックスは換気口に身を投じた。
空気抵抗で速度を調整しながら、真っ直ぐにファンの隙間を ―
ガンッ!
換気塔に、鈍い音が響いた。
天井の穴から、ドサッと、人間が降ってきた。
テンガロンハットの男 ― 伝説のギャンブラー、レイズ・マックスは列車にでも轢かれたかのように全身ボロボロだ。
ドサドサドサッ
続いて何十人もの囚人達が、同じ天上の穴から落ちてくる。
「ここがポンプ室か!」
着地すると、ルフィは周りを見た。
「やりおったな、ギャンブラー」
ジンベエがニヤリと笑いかける。
「あの女にオトされたツキが、帰ってきたらしい」
マックスは倒れたまま親指を立てた。
換気塔の巨大ファンの賭けに勝った。
傷付きながらも、一行はついに船底のポンプ室にたどり着いた。
海水の配管を見つけると、一端バルブを閉める。ジンベエは、作業にとりかかった。
****
小塔の螺旋階段を駆け上がったナミ達もまた、ついにたどり着いた。
「ハァ、ハァ………これが大金庫の扉!」
「あとは…」
カリーナが前に出た。鍵を取り出して鍵穴に差し込む。
「
錠が外れる。
巨大扉は、ひとりでに開いていった。いよいよ五千億ベリーを収めた大金庫が―
肌を撫でたのは、夜気。
バババッ、とスポットライトが四方八方から光の砲撃を浴びせた。
ウォオオオオオオオーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!
数千数万の興奮。
渦の中に放り込まれた<麦わらの一味>は唖然と立ち尽くす。
― イッツ・ア・ショータイム!
大金庫があるはずの扉の向こうにあったのは、擂り鉢状の野外劇場だった。
プラチナチケットを手に入れた数千数万の客達が、席を埋める。
「何………これ……」
ナミも、仲間達も言葉を失う。確かな事は… ここは大金庫ではない。
ここは黄金の塔のスイートエリアのさらに上。
屋上部。
「ハハハハ………驚いたかね<麦わらの一味>の諸君?ここは“天空劇場”!」
「天空…劇場……?」
「”堕天使”エルの処刑に相応しいステージだ!そう思わないか?見たまえ!」
舞台衣装を着たテゾーロが身を翻す。ステージ上段に、何かがせり上がった。
輝く、星の ―
「エル………!」
仲間達は息を呑んだ。
首から下を金にされたエルを塗り込めた、星型をした黄金の磔台だ。
「素晴らしい眺めだろう………!」
テゾーロは得意満面だ。
「ここには、君らが狙ってい大金庫も五千億ベリーもない!天上金は、今頃は天竜人の船に積み込まれている!」
君らは騙されていたのだ、と。
つまり…
居並んだナミ達の列から、彼女は踏み出し…ステージに歩いていった。
「………!カリーナ、アンタ!?」
「最初に言ったでしょ?」
女狐が振り返った。
「ここはグラン・テゾーロ。騙された方が、負けなのよ!」
「お帰り、我が歌姫」
テゾーロは3人の幹部と共に、恭しくカリーナをステージに迎えた。
ナミは、ついに心の糸が切れて膝をついた。
「そんな…くっ!ちくしょう!」
― いいぞ!泥棒猫!
哀れなナミの姿を見て、観衆達は笑い、手を叩き、喝采する。
「貴方たちの様子は、ずっとそこのスクリーンに映し出されていたのよ」
バカラが説明した。
「観客を喜ばせる見せ物として…大金庫を狙う泥棒が、どこまで進めるかを賭けるギャンブルとして…」
テゾーロマネーの噂は、泥棒をおびき寄せる餌だ。
「命がけでカネを狙うバカどもが、最後に騙される…。これぞ最高のエンターテイメント!」
テゾーロが両手を掲げた。
観客は拍手喝采で盛り上げる。
「―お前たちは、よく頑張った。よく盛り上げてくれた。ご褒美にすばらしいショーを見せてやろう」
テゾーロが指を鳴らす。スクリーンに映像が映し出された。
船内―機関室のような…
仲間たちは息を飲んだ。そこに映っていたのは、
「ルフィ…」
***
ポンプ室で作業を終えると、ジンベエは改めてバルブを開栓した。
「やるぞ……!」
ゆるんだ配管の継ぎ目から、水圧で海水が噴き出しはじめた。
船には隔壁があり、この区画が浸水してもすぐに沈没するようなことはない。
ザババババッ!
噴水のように噴きあがった水を、その場にいた全員が気持ちよく浴びた。
すると、黄金に変えられたルフィの両腕がみるみる元に戻っていく
「体についた金粉が落ちていくぜ!」
「これでテゾーロを、ぶっ飛ばせる!」
ジンベエもルフィも、囚人たちも…
やった、これで自由だと、喜びの声をあげた。
ガコンッ
ふいに、何かの装置が作動した。
ポンプ室の天井、換気塔に繋がる穴が隔壁でふさがれた。さらに壁に開いた穴から大量の海水が流れ込み始めた。
「なんじゃ…?くっ!」
ジンベエがうなる。たちまち全員が腰まで海水に浸かってしまった。
「あっ、やべェ…おれ、海ダメだ………」
チカラが抜けて、足元がふらついた『ゴムゴムの実』の能力者をマックスが支える。
ルフィ達は絶体絶命のピンチに陥った。