「ステラはあなたと一緒になりたいと言っているわ。」
ここはグラン・テゾーロ号の執務室。
仕事の話が終わった後で、ユナはテゾーロにそう告げた。
「そ…そうか…」
テゾーロが嬉しそう…というか照れている。
いやいや、そうじゃねぇよ!
まぁ気持ちはわからんでもないけども!
「照れてる場合じゃないでしょう?あなたはどうしたいのよ!」
「もちろん、彼女を娶りたい。」
まあ、そう答えるのが普通だろうとは思うけど…
でもね、考えが浅すぎるんじゃないのかな?
「今のままで?」
「?」
「今のまま、あなたが彼女を娶ったとしたら…。どうなるのかしら?」
「?………ッ!!」
テゾーロがハッとしたように私の言いたい事を理解する。
テゾーロが伴侶を得た…なんて情報は、発表しなくてもいずれ漏れる事は必定。
隠れてひっそりと暮らすというならともかく、今のテゾーロの立ち位置でそんな事が出来ようはずもない。
彼の守るべき者が生まれたならば…
「彼女が狙われるわ!!」
「そう…か……そう…だよな……」
テゾーロが、ステラを心配してつぶやいた。
私はぶっちゃけ、心配してないよ?
そんじょそこらの海賊ならば、あの娘一人で対処できるもの…
いや、むしろ…
襲った奴らが心配になるほどだ。
カノンが言ってた。
ステラを育てるのは『すんごく楽しかった』って…
素質がとんでもなかったらしくてね。
気づいた時には…ってな感じ?
そしてユナは、テゾーロにある計画を提案した。
ちなみにステラの強さはね…
・
・
・
全盛期のロジャー並み ← え
いや、マジやべー!!(いろんな意味で…ね?)
~ ~ ~ ~ ~
天空劇場にテゾーロの高らかな笑い声が響く。
「他人の希望が絶望に変わる
テゾーロは人生を歌うように。
その姿と言葉は、電伝虫によって街のいたるところで流された。
夢を追い、そして見失い…。足腰を痛めながら安い賃金で踊り続けるダンサー。
チャンスをつかみに来た客に、愛想笑いですべてを奪うディーラー。
死ぬまで働いても返せない親の借金を背負わされた子供たち。
誇りを失った哀れな退役軍人。
夢も愛も強さも、カネで買えるとはかぎらない。だが…それらをカネで奪う事は確実にできる!
自由を奪う。そして最後に”希望”さえ失ったとき、人はたやすく奴隷に落ちる。
不確かな未来のすべてを黄金帝に捧げるのだ。
スクリーンに映ったポンプ室は、ついに天井まで海水で満たされた。
囚人たちは水流にもてあそばれる。ルフィは必至で扉を破ろうとした。
だが海水に浸かった能力者にチカラが出せるはずもない。
そして、ついに息がつづかなくなる。
コ・ロ・セ コ・ロ・セ! コ・ロ・セ!! コ・ロ・セ!!!
天空劇場の観客たちは刺激を求めていた。
刺激はカネで買える最高の娯楽だ。
カネのないやつらが本気で他人のために必死になり、無様な人生の自殺点を決める場面を傍から眺める事だ。
「クソ野郎ども……」
サンジの怒りに火がついた。
「さァ…フィナーレといこうか」
テゾーロの合図で、ステージを囲った堀から金粉の噴水がいくつも立ち上がる。
さながら黄金の蛇の群れだ。
サンジは空中を蹴って起動変更、それを避けながらステージに迫った。
「!?」
だが、急に踏ん張りが利かなくなってバランスを崩す。
グラン・テゾーロを訪れた者は、みなテゾーロの金粉を浴びている。
エルと同じ
黄金の蛇はサンジを、そして動けぬ仲間たちを全員捕らえ、締め付け、鎌首をもたげて掲げてみせた。
「ハハハハ!さァ、特等席で見るがいい!おまえたちの借金のために”堕天使”エルの首が飛ぶさまを!」
カネのために仲間の首が飛ぶところを!!
テゾーロが能力を振るう。
磔台の両側から、黄金の巨人のごとき腕が出現した。その手には輝く金の巨斧が握られている。
「さァ、みなさま…!夢も!愛も!チカラも!自由すら…すべてを奪われ、死に方すら選べない海賊たちに拍手を!そして希望を絶望の色に!」
ありきたりな刺激では満足できなくなった観衆たちは、命をおもちゃにする娯楽に歓喜する。
巨人の腕が巨斧をふりあげる。
「ゴールド・スプラッシュ!」
テゾーロが指を掲げる。
ステージの上空、劇場のさらに数十メートル高くのびた王豪の塔の突端部から、光の粒が噴きあがった。
ルーレット版を模した船尾楼からも。
巨大船<グラン・テゾーロ号>は金粉の噴水で、盛大に彩られていった。
クライマックス
「さらばだ、麦わらの一味!わたしの勝だ!!」
この街で、おもしろいことは。ギルド・テゾーロが勝つことだ。
なにもかも思いのままに!!
巨人の腕が、ついに斧の刃をエルの首元に振り落とした。
ガキキッッ・・・!
軋む
「!!?」
ガクッ、ガクッと天空劇場が、黄金の塔全体が鳴動した。
金粉の飛沫も急に勢いがなくなり、一斉に止まってしまった。
どういう事だ? 一体、なにが起きている?
これが演出ではないことを知っていたタナカさん、ダイス、バカラは戸惑った。
「なぜ…止まった」
テゾーロは吐き捨てた。
― トラブルだ。
しかも深刻なトラブルだ。
巨斧を振り下ろした巨人の腕が、エルの首を落とす寸前で止まっていた。
―フフ……。
嗤ったのは女の声だった。
「ッ!なにがおかしい!」
テゾーロは声を荒らげた。
ナミだ。黄金の蛇に捕らえられた彼女はしかし、勝利の笑みを浮かべていた。
「騙されてたのはどっちかしらね」
「なにっ…? ッ!?」
テゾーロたちは、ふたたび背後をふりあおぐ。
塔の突端が、ふるえる。その内部をすさまじいエネルギーの濁流が噴きあがっていく。
ゴォオオオオオオオオオオオッ!
バキッ!
バババババッ!………
塔の突端部を破壊しながら、大量の水が雲を吹き飛ばす勢いで噴出した。
天空劇場はたちまち土砂降りのようなさまになった。
「しょっぱ…?これは、海水!きゃーっ!」
― ぺちゃん!
まともに水の塊を浴びたタナカさんは足を滑らせて転んだ。
巨大な水滴が、砲弾と変わらぬ威力でステージも客席も無差別に破壊していく。
「気持ィ!テゾーロ様、失礼します。」
緊急時だ。ダイスがテゾーロを抱きかかえて庇う。
『ラキラキの実』のラッキーガールは立ったままだ。水滴の砲弾は彼女を避けるように着弾する。
流れる水、シャワーや雨などであれば、それは海水であっても”海”ではない。
それだけでは能力者のチカラを完全に奪う事はなかったが、しかし『ゴルゴルの実』の能力が及んだ金粉は効果を失った。
ドン!ドン!ドン!
ドドドドドー
ついに<グラン・テゾーロ号>のあちこちから激しく水柱がほとばしった。
高級エリア、ダウンタウン、港
― 全長十キロの巨大双胴船のすべての区画が海水のシャワーで洗われていく
観光客たちは悲鳴を上げて降り注ぐ海水を避けて雨宿りをした。
― 海水だ!海水の雨だ!
― これで、もうテゾーロに固められることはねェ!
テゾーロの奴隷たちは歓喜した。
花売りの子ら、レストランの店長、ダンサー、ディーラー、マッスルガメたちも全身で海水のシャワーを浴びる。
テゾーロの能力で縛られ労働を強いられていた者たちだ。
黄金の呪縛は解かれた。
天空劇場で、麦わらの一味を捕えていた黄金の蛇もまた、音を立てて崩れた。
磔台に塗る込められたエルもまた…
全ての舞台装置は、テゾーロの脚本もろとも崩れ去った。
― 海流一本背負い!!
海流に乗って、魚人が仲間たちの前に着地した。
「ジンベエ!」
「間に合ったようじゃな!」
ジンベエが、ニヤリと笑う。
続いて囚人たちが、塔の突端から服出した海水もろともステージに降って来た。
「おまえたち……なにをした!」
テゾーロはいきりたつ。
そこにいるのはショーの司会者ではなかった。ステージを台無しにされて、怒り心頭の興行主だった。
「あんたはいつも、ショーの最後に金粉の雨を降らせる。それはわかってた。教えてもらったのよ」
「?」
「悪いわね!わたしが本当に組んでいたのは麦わらの一味よ!」
カリーナだった。
ナミの傍らに立った裏切り者の歌姫の姿に、テゾーロはついに次のセリフを忘れた。
「―あんたたちが楽しんでいたのはわたしたちのお芝居だったの」
「わたしたちは」
ナミがセリフを重ねる
「大金庫も天上金五千万ベリーもどうでもよかった。」
カリーナから受け取った大金庫の鍵を、ナミは放り捨てた。
「海水さえ手に入ればね」
ナミは手をペロっと舐めて、しょっぱそうな顔をした。
「カリーナさんの情報で、ゴルゴルの実の能力を帯びた金粉は、海水で洗い流せるそうですからね」
ブルックが立ち上がる。海水の噴水の勢いが少しずつ衰えてきた。
「わしが黄金監獄に落ちたのも作戦のうち。ポンプ室で海水のパイプを噴水のパイプにつなぎかえたんじゃ!」
ジンベエが手にしたのは、カリーナから受け取っていたポンプ室の配管図だった。
「あ、ルフィだけは何も知らないけどね!」
キャロットがウインクしながらそう言った。
「これでおれたちは戦える」
「あなたのルールに従わなくていい…あとはこっちのルールで行かせてもらう」
チョッパーとキャロットは毛皮をふるさせて水をはじいた。
「私たち海賊なのよ!」
変装を脱ぎ捨て、ナミが口上をのべた。
覚悟しろ!
麦わらの一味は黒い戦闘服姿となった。
「海賊は欲しいものはチカラで奪う!さァ、仲間はかえしてもらう!」
「てなわけで、一緒に闘ってやろうぜ!エル!!」
一服つけていたサンジがステージの上段に激を飛ばした。
「ね?テゾーロ、言ったでしょ?」
「…!」
テゾーロの背後で、磔台から抜け出したエルは、仲間の元へと戻っていった。
「五億程度の金額じゃ、私の首には見合わないわよ!」
エルは収納貝から愛槍を取り出した。
ギィンッ!
槍全体に覇気を巡らせ、戦闘に備える。
― テゾーロ~~~
ボインボイン!
最後に、塔の突端から吐き出されたゴム人間は、破壊されたステージで弾むと仲間たちの前に滑り込んだ。
「作戦成功よ、ルフィ」
「は? 作戦?」
グラン・テゾーロ号のポンプ室に細工をして、海水の雨を降らす作戦。
知らなかったのはルフィだけだ。
この際、細かいことはいいってことで…
「あとは…テゾーロをぶっ倒すだけよ!」
「やってくれたな…!」
やりたい放題の海賊たちに、しかしテゾーロはニヤリと笑う。
「あら…怒ってるのかと思ったのに?」
ナミは眉根を寄せる。
「言っただろう?ここはグラン・テゾーロ…騙される方がわるいのだ!」
世界一のカジノにふさわしい、最高のショー。
― これぞ、究極のエンターテイメント!
並みいる全員が会心の表情で立ち上がる。
ルフィは身構えた。
「おまえは、おれがぶっ倒す!」
ついに最終決戦が始まのだ。
「……」
黄金帝は口角を上げてルフィを見やる。
あの日から、練り上げたこのチカラ…
この街も、全てのエキストラも
磨き上げ、演じ続けたこの役も、この街も多くのエキストラも…
いよいよフィナーレを迎えるわけだ。
感慨深い…最高の舞台だ。
ステラ…おれの雄姿を見ているか?
いっその事、勝って終わりにしてやろうか!!
勝てはしないだろうが…
だが、全力でいかせてもらう!!