イムの娘(いむのこ)~番外編~   作:槙 秀人

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カウントダウン

 ― テゾーロ~~~~~!

 

 それは神の御名を称える声ではない。

 

「!?」

「ゴムゴムのぉ火拳銃!」

 

 ふたたびの武装硬化 ― 炎をまとうルフィの一撃に、黄金巨神はグラついた。

 

「ムダなんだよォ!”黄金の神の火”!」

 炎を呑みこむ業火がルフィを痛打した。

 爆風と衝撃が、グラン・テゾーロのメインストリートを何キロも貫いた。

 

 ― ハハハハハハ………!

 

 テゾーロの笑い声だけが響く。

 消し炭すら残さず ―

 この黄金のグラン・テゾーロにあって、ゴルゴルの実の能力者は破壊の神を演じる。

 戯れ、ほかのすべてを嘲ると、足元を見下した。

 

「麦わらのルフィはあのざまだ……カリーナぁ!」

「あ………!」

 黄金巨神を仰ぎ見たカリーナは、震えて立っていられなくなった。

 

「いい顔だな…。お前には心底失望した。」

 黄金巨神テゾーロは足をあげて、カリーナを踏みつけようとした。

 

「!」

 飛び込んだナミが、恐怖で動けなくなったカリーナを抱いて、間一髪、巨大な足をかわす。

 

「ナミ…? あんたなんで…」

「あんたには借りがある。あのとき……」

 まだふたりが小娘だったころ。海賊の宝を狙って、しくじったとき。

 入り江で、からっぽの宝箱と置手紙を見た時、ナミは死を覚悟させられた。

 だが、その直後。砂浜を見下ろす崖の上から、声が投げられた。

 

 ― 騙されたわね、あんたたち。

 

 カリーナだった。

 

 ― 「怪盗カリーナ参上!」

 

 旗を掲げた女狐は、海賊たちを挑発した。

 

 ― あんたらの宝は、このカリーナ様がすべていただいたよ!バーカ!

 

 逃げたカリーナの行方を、ナミは、ここで再会するまで知らなかったが……。

 その後、トレジャー海賊団の連中はカリーナを追った。そしてナミはその隙に逃げ延びる事が出来た。

 

「カリーナ…あんたあの時、命懸けで囮になってくれたんでしょ」

 考えてみれば、あのときあそこでカリーナがわざわざ姿を見せて、身を危険にさらして海賊を挑発する理由などない。

 カリーナはあのときリスクを背負って実行したのだ。

 ふたりが助かることが出来る方法を。自分ひとりではなく、ナミも。

 

「カリーナ!あんたは、わたしたちと組んだ。だったら信じて!」

 船長がドクロの旗を掲げるかぎり。絶対に負けはしはい。

 

 ガシッ!

 

 のばされた巨大な神の手に、ナミはわしづかみにされた。

 

「信じる……?」

 テゾーロは嗤った。

 

「おまえたちは、もう終わりだ。絶望しろ。それでショーは終わりだ」

 黄金巨神はじわじわとナミを握りつぶしていく。

 

 いい声で啼け。

 

 ナミは―声にならぬ声で叫び、テゾーロを睨み返した。

 何を言ったのかはわからなかった。

 だが、確かに―テゾーロにはわかった。

 

 この女は、たとえ命をとられても自分には屈しない。

 

「その手を……」

 そして船長は、

 

「?」

「放せェ~~~!」

 何度でも立ち上がり、星の焼印が捺された敵の背中に怒りをぶつける。

 黄金巨神は、わずらわしそうにふりかえった。

 

「笑えよ麦わら……」

 テゾーロは嗤う。

 

「この女は、まだおまえを信じている。笑えるだろう」

「っ………!」

「お前らは、おれとのギャンブルに負け、借金を背負ったクズだ!お前たちの命はもう、おれにカネで買われたんだ。おまえたちだけじゃない…この船にいる敗者たち、すべてがおれの所有物なんだよ!」

 

 モノだから。逆らえないのだ。

 若きテゾーロがそうだったように。

 

 彼を奴隷にした天竜人たちが、数百年ー永遠のような時間、そうやって世界を支配してきたように。

 

「テゾーロ!」

 ルフィは断じた。

 

「おまえは…おれの大嫌いなやつらに、そっくりだ」

「!?」

 テゾーロは怒りの表情を浮かべる。

 と、同時に心の中で満足げにほほ笑んだ。

 

 演技だが、演技ではない。テゾーロが天竜人を憎んできた事は事実だ。

 悔しかったからだ。ステラが、自分が、奴隷として買われた事が!

 

 グラン・テゾーロは、ステラを救い出すため作ったものだ。

 想定とは違うが、ステラは救われた。

 そしてステラと一緒になるために、テゾーロは”ギルド・テゾーロ”という怪物を演じはじめた(・・・・)

 

 表向き、カネのない者は救われない国を!

 

 カネがすべてのこの国とそのシステムを!

 

 だからと言って、面と向かって『天竜人(やつら)とそっくり』などと言われると、かなりムカつくセリフだが…

 

「おれが…そっくりだと……?」

 彼がもっとも恨み、憎んでいる天竜人に。

 

「その手を……放せ!」

「!」

 役の上とは言え、ルフィの一言一句はギルド・テゾーロをいらだたせた。

 

 この男は…潰す!!

 

「仲間を助ける…? カネのないやつが…誰かを!守れるわけがねェだろうがァ!」

 それが、設定された黄金律。

 

 これを、こいつが覆したら…!!

 

 それはテゾーロの表舞台からの退場(狙った通りのエンディング)となる!

 

 だからこそ!黄金帝は吠えた。

 

「笑え!笑えといったら笑え!おれのモノをどうしようとおれの自由だ!そうだろうカリーナ?」

 腕を掲げ、黄金巨神テゾーロは、そのままナミをカリーナめがけて投げつけた。

 

 ガッー

 

 猛然とダッシュしたルフィが、ナミとカリーナの体にゴムの腕をまきつけ、衝撃をやわらげながらふたりを救出した。

 

 だがテゾーロは見逃さない。そのままルフィたちめがけて拳をふりおとす。

 

「エル!まかせた!」

 叫びながら、ルフィはゴムのチカラでふたりを投げた。

 ルフィは黄金巨神の拳で地面に打ち付けられる。ナミとカリーナは…

 

 だが、スピードがつきすぎていた。

 そのまま叩きつけられれば、ただではすまない。

 

「お願い!風の精霊(シルフ)!二人を受けとめるて!!」

 

 ― ”エア・アブソーバー”

 

 エルが風の精霊を使役して、空気のクッションを作り出す。

 二人のスピードはみる見る落ちてゆき、ゆっくりと足から着地する。

 ナミとカリーナは無事、事なきを得た。

 

「ちっ…!なにっ!?」

 舌打ちしたテゾーロは、直後、違和感をおぼえた。

 

 ピキッ………

 

 黄金巨神の拳がルフィを叩き潰したはずの地面に、亀裂が縦横に走った。

 

 甲板が破壊されて、あちこちで崩落が起きる。

 さらに黄金巨神の拳が、メリメリと地面からもちあげられていく。

 

「おれの仲間は…」

 ルフィの声だ。

 

「モノじゃねェ!」

 

 ― ギア4(フォース)

 

 筋肉風船。

 覇気を纏った腕、そして全身をふくらませた。

 ゴムの特性を維持したまま武装硬化された肉体は肥大し、身長四メートルあまりの弾む男となるのだ。

 

 パァアアアアアアッン!

 

 覇気の拳によって、黄金巨神の拳に亀裂が走った。

 巨神の左腕が、肩まで粉々に砕かれる。

 虚を衝かれたテゾーロに、ルフィは反撃の隙をあたえない。

 

「ゴムゴムのォ~~~」

 ルフィの拳が、自身の腕にめりこんでいく。まるでバネだ。

 ゴムの張力によって限界まで打撃力を高めた、必倒の、

 

「”猿王銃”!」

 

 

 ***

 

 自由とは…

 

 貫き通すこと。

 

 いかなる敵、どのような現実(世界)を前にしても信念を折らぬこと。

 

 

 ***

 

 銃使いのヌケヌケの実の能力者、タナカさんは余裕を無くしていた。

 

「くっ…!」

「モノはすり抜けられてもよ!」

 サンジはタナカさんの能力を把握した。

 モノをすり抜ける事は出来るが、それだけだ。触れるモノがなければ抜けれない。

 

 サンジは見聞色に神経を集中して、タナカさんがどこから出てくるかを察知して、出た瞬間に攻撃する事を繰り返した。

 体が出きった時にタナカさん自身を攻撃するのではなく、触れるモノを攻撃、その後タナカさんを狙って蹴りを放つ。

 繰り返すうち、サンジは奇妙な感覚に陥った。

 察知する…というよりタナカさんが出てくる前にその姿が見えるのだ。

 

 サンジは気づいていないが、それは未来視だ。

 

 ついに、タナカさんは触れるモノから遠退いた。天井から抜け出た瞬間、触れていた箇所が破壊された。

 

「抜けるモノがなけりゃ、あとは蹴るだけだ!!」

 サンジの脚が赤く燃え上がる。

 

「プルミエール・アッシェ”!」

 炎の回し蹴りがタナカさんを直撃。

 蹴られた瞬間、タナカさんは意識を失いそのまま壁に叩きつけられた。

 壁抜けの能力を使う余裕もなく崩れ落ちた。

 

「ヌケヌケの実…か…」

 サンジは煙草を吸い直し、倒れたタナカさんを見下ろす。

 

「スケスケの実の次に欲しかった実だよ…。まったっくもってついてねェ…」

 深いため息を吐くと、仲間のもとへ向かって走り出した。

 

 

 ***

 

 キャロットの体が光に包まれ、白い毛がふわりと伸びる。

 瞳は紅く輝き、電撃が全身を走る。

 

「ス、スーロンですか!? こんな室内で……!」

「あの光…さっきの声って…誰なんだ? でも、今はチャンスだ!」

 

 キャロットはゆっくりとバカラに向き直る。

 

「バカラ。もう、あたし…止まらないよ!」

 

 

 バカラは焦りながらコインを弾く。

 

「ラッキーガールの私にはあなたたちが何をしたところで…」

 言い終わる前に、キャロットの姿が消えた。

 

「えっ…どこ……?」

 次の瞬間、バカラの背後に白い残光が走る。

 

「ここだよ」

 バカラが振り返るより早く、キャロットの蹴りがコインを弾き飛ばす。

 コインは壁に突き刺さり、運の暴走が止まる。

 

「な、なんて速さ……!」

 

 バカラは懐から別のコインを取り出し床に落とす。

 しかし、キャロットはその“落ちる瞬間”を見切っていた。

 

「そんなの、もう効かないよ」

 キャロットが床を蹴ると、風圧だけでコインが浮き上がる。

 不運の発動前に、バカラの手から“運”が霧のように散っていく。

 

「うそでしょ!私の運が……!?」

 運の残量が見る間に減少していく。

 補充しようにもキャロットに邪魔され黒服たちのところまで移動も出来ない。

 かといって、キャロットに触れる事も出来なかった。

 

 彼女はとにかく速すぎる…

 

 

 キャロットがバカラを空中へ蹴り上げる。

 そこへブルックが氷の斬撃を重ね、チョッパーが重量級の拳で叩き落とす。

 

「ヨホホホ! これでフィナーレです!」

「いっけぇぇぇぇぇ!!」

 バカラは床に叩きつけられ、金色のオーラが完全に消えた。

 キャロットはふわりと着地した。”5分で決めろ”との言葉通り、光は5分で消え失せた。

 スーロンが解除され、キャロットの姿が元に戻る。

 

「あの声…どこかで聞いた気が…(ペドロさんなわけないですし…)」

「助けてくれたのは確かだけど…」

 

 

「………ありがと」

 キャロットは勝利の余韻に浸りながら、月光のような光があった場所を見つめていた。

 

 

 ***

 

 ― ひィ! 逃げろ!

 

 幹部たちの敗北をまのあたりにして、ジンベエと戦っていた黒服たちは背中をむけて逃げ出した。

 

 ― グラン・テゾーロは終わりだァ!

 

 ルフィに倒された黄金巨神の足元を、逃げ惑う黒服たち。

 ビジネスが、船が、国が―黄金の支配力が、音を立てて崩れ去っていく。

 

 ボバッ!

 

 不意に、逃げる黒服たちの足元に、黄金の筋が走った。

 縦横にのびた亀裂から、溶けた黄金が噴く。たちまちあたりは輝くマグマ壁に囲まれてしまった。

 みな、逃げ惑う。黒服も、観光客も、奴隷も、囚人たちも。

 

「すべてを溺れさせ、呑みこむ……!」

 これがゴルゴルの実の能力。

 黄金巨神を融解させたテゾーロは、大量の金でグラン・テゾーロ号を覆いつくし、そそり立つ黄金のステージに立った。

 

「沈む……!」

 麦わらの一味もまた、黄金のマグマに腰まで沈んでいく。

 

「見ろ、この黄金の美しさを……!このチカラに、お前たちは抗えない」

 喜び、苦しみ、引き裂かれ、絶望する。

 感情とは、心とは、人生とは ― 黄金が決める。

 カネでは幸せは買えない、というやつもいるだろう。

 だがカネさえあれば、避ける事ができた不幸は確実に存在し、そして多くの人間がその罠にはまる。

 であれば、ゴルゴルの実の能力は、人の運命をおおよそ決める事ができるものだ。

 

「テゾーロ……!」

 ギヤ4 ― 弾む男となったルフィはテゾーロを睨んだ。

 

「いいぞ、怒れ麦わら!お前が救おうとした、守ろうとした大切なモノはすべて、おれのチカラに呑み込まれる。これが、この世界だ!すべては黄金に支配される!」

「だったら支配してみろよっ!」

 弾む男が跳ぶ。

 飛ぶ ― ゴムの特性で空を蹴り、ルフィはロケットのように加速、一気にテゾーロとの距離をつめた。

 

「黄金に屈しろォ~~~!」

 ― 黄金の神の裁き!

 テゾーロは黄金の鉄槌でルフィを迎え撃つ。

 ルフィは両腕を構えた。ギヤ4での両手掌底。さらに、その両腕の筋肉を噛んでふくらませた。

 

 これが最強の、

 ― ゴムゴムの獅子王バズーカ!

 

 黄金の神は砕かれる。

 拳は裁きの鉄槌を折り、貫き、すべての衝撃をテゾーロという人間に叩きつけた。

 

 ― おれは、

 

 テゾーロの脳裏に、浮かんだのは。

 あの時、彼が救えなかった女。

 彼が救えなかった女の最後の言葉。

 

 ― わたしは心から幸せだった。

 

 たとえ、何も持っていない奴隷でも。

 

「ステ…ラ……」

 

 テゾーロの顔に笑みが浮かぶ。

 

 やっとこの役を終わらせられる。

 

 長かった。

 ステラを探し続けた時間よりはかなり短いはずなのに…

 彼女と再会してから、今日までの時間がとても長く感じられた。

 

 ― まったく、2年も姿を眩ませやがって!! ―

 

 麦わらの一味がチカラを増して、力を蓄える期間だとは聞かされていた。

 しかし、待つ身としてはとてもやきもきさせられた期間でもある。

 だからこそ…意趣返しというわけではないが痛めつけてやろうと思っていたのだ。

 

 それも止む無しだろう?

 なにせおれたちは、お前らの副船長(・・・・・・・)に長らく痛めつけられたんだからなぁ!!

 

 

***

 

 

 巨大双胴船から、最後に、金色の爆発が生じた。

 数秒後、F-RONPのエンブレムが掲げられた脱出船の甲板に金色に輝くなにかが落ちてきた。

 ギルド・テゾーロだった。

 砕けた黄金を身にまとった王は、笑みを浮かべたまま失神し、もはや動くこともできない。

 

「随分と派手にやられたものね。」

 最後の姿は原作通りの怪物だった。いや、原作以上の怪物ね…

 

「…」

 ステラはテゾーロに抱き着いていた。

 

 このまま、この船はF-RONPへと向かう予定だ。数年はゆっくり過ごすと良いだろう。

 その後、二人が望むなら、芸能活動を開始してもいい。

 その頃にはきっと、体制は変わっているだろうから…

 

 

 ***

 

 戦いは決した。

 

 ルフィは、元の姿で路上に倒れていた。

 ギア4は諸刃の剣で、いったん限界がくると、覇気の回復までに時間を要する。

 

 仲間たちが船長のもとに集まる。

 

「ルフィ……!」

 ナミが膝をついて状態をたしかめようとしたとき、どこかで奇妙な音が鳴った。

 

 なんだ、と、あたりを見回す。

 

 すると、街のあちこちにあるスクリーンに映像が出現した。

 

 ―「100」 99……数字が減っていく。

 

 これは、カウントダウンだ。

 

「なに…これ!」

「ナミ!みんな、急いで!」

 カリーナが駆けよって来た。

 

「?」

「テゾーロは、この船を沈める気よ!」

 まさかの自爆、自沈装置……!

 

 カリーナの言葉に、あたりにいた全員が騒然となった。

 

「みんな!早く船に!」

 

 脱出劇が始まった。

 

 

 サウザンドサニー号がある港エリアまで、走る。

 

「カリーナ?急いで!」

 ナミは声をあげた。

 

「先に行って」

「?」

 カリーナの返事を聞いて、ナミは戸惑った。

 

「わたしは…この船を遠ざける。みんなが船で退避したあと、このグラン・テゾーロ号を遠ざければ犠牲を抑えられる」

 これだけの巨大船が沈めば、たとえ爆発に巻き込まれなくても、その沈む渦に巻き込まれて転覆してしまう。

 

「なにを言って…」

 叫びかけたナミを、カリーナはぎゅっと抱きしめた。

 

「…?」

「あいつら…いい仲間だね」

 カリーナは笑った。

 

「最後にあんたたちと一緒に()れて、楽しかった」

 

 ― ドンッ ―

 

 カリーナは、ナミを突き放すと、崩壊していく船のどこかに走り去った。

 

「カリーナ!」

「よすんじゃ、ナミ!時間がない!」

 追いかけようとしたナミを、ジンベエが諫めた。

 

 この船の残り時間は、もうわずかだ。

 

 

 

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