「よーし!全員配置に着け!予定通り計画に移行せよ!!」
司令部で、シキの様子を確認したインディゴは一人頷き電伝虫に向かって声を出す。
シキとナミが村を去ったあと、村を囲った樹林帯を異変が襲う。
スカーレット率いる防毒マスクをつけたシキの強化兵が、次々とダフトグリーンを伐採しはじめたのだ。
ここは毒に守られた村である。その毒の防壁に突如毒素のおよばない通路がきり開かれた。
司令室に戻ったシキに続いて、ゆっくりと黒いドレスに身を包んだナミが現れた。
「ジハハハハ!見ろよ。お前はいい判断をした。故郷がこうならずに済むと言う幸せを噛みしめるがいい」
シキはメルヴィユ各地の映像電伝虫の中継に目をやると、満足げに笑った。
そこには信じがたい光景があった。
中継が流れるモニターを見てナミは目を見開いていた。
狂暴な動物たちがあの村を踏みにじっている映像だ。
シキはというと、インディエゴと何か話をしているようだ。
「あの一味の事を調べるんですか?」
「ああ。ここに来てないヤツが居るらしい。」
「…わかりました。」
ナミはそれに気づきもしないで村の惨状を見ていた。ただ、人の姿があまり見えない事が気になった。
逃げ惑う人は全員黒い服を着ている。そんな人、あんなに大勢いたかしら?
もしかして?
「ほんの余興だ。村を囲ったダフトグリーンの一部を撤去しただけの事。」
「…興味ないわ。部屋に戻る」
そんなナミを見送り、シキが怪訝な顔をする。
「なんだ…もっと逆上するかと思ったが…」
「シキの親分!」
「ん?」
「これを!!」
インディエゴが少し前の新聞と手配書の束を持って来た。
「ほぉ!あいつら、エニエス・ロビーを落としたのか。しかしこの写真…」
エニエス・ロビーの状況は、どう見ても弾幕によって焦土と化した様子にしか見えなかった。
その様子から、これをもたらしたのはバスターコールだとあたりをつける。
だとすると、逆に疑問が沸きあがる。
つまりなんだ?あいつらは、バスターコールから生き残ったってのか?
確かに楽園側に居るルーキーにしては一味の戦闘力は高かった。完全ではないにしても覇気を操っているのも驚いた。
特に長鼻が放ったパチンコに。
しかしあんな程度でバスターコールから抜けれるか?何かの偶然が重なったのか、それとも?
「ん?この顔!!」
こりゃあ、ヤツの船に乗ってた見習い小僧にそっくりじゃねぇか?
そういえば、あの麦わら帽子はあいつがかぶっていたのに似ている気が…
情報に疎いと言ってもさすがに現四皇についてはシキも知っている。
見習い小僧(赤髪のシャンクス)のガキかも知れねぇ…!
しかもこの二つ名…!!
「参謀かぁ…」
「どうします?探してみましょうか?」
インディエゴの問いにシキはすこし考える。船には9人しか居なかった。船内に居たという事でもないだろう。
いやまさか…?
一つだけ可能性を思い浮かべて、シキは笑みを浮かべる。
「いやいい。もしも(メルヴィユに)居るなら、向こうから会いに来るだろ?ジハハハハ!」
酒場で海賊をしめあげて湖畔にかけつけたロビン、フランキー、ブルックの三人だったが、彼らが到着した時には、村は怪物たちによってあらかた破壊されていた。
焼け跡には、互いに争った怪物たちの死体もいくつか残っていた。
怪物たちに村を攻撃させるといっても、けしかけるだけでコントロールは出来ないのだろう。
「あの新聞の写真に、そっくり…」
東の海の破壊された村で海軍が調査していた巨大な黒い影に、この怪物たちの死体だったのだ。
おそらくシキは、実験として先遣隊を送りこんでいたのだろう。
「ひでぇ事しやがる。いずれ東の海が、こうなるってわけか」
「ルフィさ~ん!いませんかぁ~?」
「!?なんだ、ありゃ?」
フランキーが示した先には、奇妙な尖った山が見えた。
「行ってみましょう」
そこで三人が見たのは、悪夢の光景だった。
山かと思ったのは土塊の塔で、そこにはルフィ、ゾロ、ウソップ、サンジ、チョッパーが生き埋めになっていた。
「麦わら!」
「ルフィさん!いったい、なぜ、こんなことに………!」
「急いで掘り出しましょう」
三人は塔に駆け寄ると、それぞれの能力で仲間たちを助け出した。
月は朧に霞み、空中群島メルヴィユに夜が訪れた。
破壊された村で、助け出されたルフィたちは意識を取り戻した。
みな、シキに対して口惜しいといった様子で、うつむく。
「シキが、東の海の事件をおこした張本人…!?」
「ええ」
ロビンはルフィに伝えた。
大勢の海賊が、この島に集結していること。
シキは世界政府の転覆を狙って、その手はじめに東の海を滅ぼすつもりであること。
「あの怪物どもをつかって、東の海をめちゃめちゃにしようってのか…!クソ野郎が!人をコケにしやがって」
あの男は、自分たちを敵とさえ認めていなかった。
サンジは悔しそうに唇を噛んだ。
「ナミは東の海を守るために、シキについていっちまった」
チョッパーの治療を受けながら、ウソップはシキとのやり取りの事を話した。
「…」
チョッパーが顔を上げた。
向こうからシャオと、老婆を背負った母親がやってきた。
シャオは、ふるえながら小さく頷いた。
村が壊滅したことにショックを受けているのだ。
「地下壕に隠れていたから……」
まれにダフトグリーンをくぐり抜けて村に迷いこむ怪物もいたため、あらかじめ地下壕を用意していたのだという。
「そうか。よかった」
「それより今の話…。東の海ってのは、あんた達の故郷なのかい?あの娘も…そこが故郷なのかい?」
「ああ、そうだ」
「わたしは、なんてことを…!」
母娘の顔に後悔の念が浮かんだ。
二人はナミのまえで、早くシキが東の海に行ってしまえばいいと口にしてしまったのだった。
「─なんて、ひどいことを言ってしまったんだ」
「わたしもシキがいなくなるって、喜んじゃった…!」
「…おまえら、すげぇなシャオ!自分たちの村がこんなめちゃめちゃになってるのに…。ナミのこと気づかってくれてよ!!こんなに心のやさしいやつら、見たことねぇよ!おまえらはちっともひどくなんかねぇ…!ひでぇのは、シキのやつだ!!おれが、あいつをぶっ飛ばしてきてやるからよ!元気出せ、な!」
その時、シャオが手にしていた物にルフィが気づいた
「シャオ…その貝、どうした」
「?ああ、これ?今さっき、ここでひろって……」
「ちょっと見せてくれ」
ルフィが差し出した手に、シャオは貝を渡した。
「なんだ、音貝?」
ウソップが気がついた。
ルフィのもとに、仲間たちが集まった。
音貝は声を録音できる。そこには、なんらかの伝言が残されているかもしれない。
『─みんなの前から、黙って立ち去ることを、許してください』
「ナミの声だ!」
『わたしはシキの一味で航海士をする事にしました。シキは…たとえルフィたちが逆らっても、絶対に敵わない伝説の海賊。…みんながわたしを追ってきてくれても、命を落とすことになる。…これだけ言っておきます──』
ナミの声が録音されていた。
伝言を聞いたルフィの顔が、みるみる怒りの表情に変わった。
「なんだ、こりゃぁ~~~ッ!」
ルフィの雄たけびには、シキに敵わないと言われた悔しさと、仲間であるナミがあきらめようとしている事への強い拒絶が詰まっていた。
「なんだ、あいつ…!こんな言葉、残しやがってぇ!」
「落ち着け、ルフィ!」
ルフィのあまりの剣幕に、シャオは気絶してしまった。
「俺たちが絶対、敵わないだと…!?何言ってやがんだ!!」
「現におめぇら、全員まとめてシキにやられちまったんだろ?」
フランキーの不用意な発言が火に油をそそいだ。
「なんだとぉ?これは…!別に!おれは…!」
「落ち着けって!」
フランキーにくってかかったルフィを、ウソップが止める。
「くそっ!」
「?」
ルフィは音貝をウソップに押しつけると、くるっと背中をむけた。
そのまま、どこにいるかも分からないシキのところに向かおうとする。
「おい、ウソップ!もう一度聞かせろ!」
「え?ああ、おぉ…」
ルフィは伝言の途中で再生を止めてしまっていた。
ウソップはもう一度、音貝の再生ボタンを押した。
再びナミの声が流れる。
『わたしはシキの一味で航海士をする事にしました。シキは…たとえルフィたちが逆らっても、絶対に敵わない伝説の海賊。…みんながわたしを追ってきてくれても、命を落とすことになる。…これだけ言っておきます──』
「ふんっ!」
ゴムゴムパンチが、さっきまで彼らを生き埋めにしていた土の塔を、粉々に打ち砕いた。
轟音と土煙のなかで、ナミが最後に小声で言い残した言葉が、仲間たちの心に伝わる。
「ハァ…!ハァ…!」
ルフィは憤激し、ヒートアップした。
イオリに怒られてもかまわねぇ!おれは
彼らの船長は、俄然やる気になっていた。
仲間たちはナミの言葉を胸に、再び戦場にむかった。
島船が灯台のライトを頼りに着水して、夜の王宮の島に接岸した。
空中港に下船してきたのは、シキの檄文に賛同し集まった海賊たちだ。
「次々と先鋭たちが集まってきよる。いよいよだ!世界政府…目にもの見せてくれるぞ」
二十年をかけて熟成されたシキの復讐心。
失った足が、うずく。
その代償に得たこの空は、我がものだ。
世界政府であっても侵すことはできない、シキの領土だった。
いっそすべての大地を、彼の能力で空に浮かべてしまおうか。
その時海軍のセンゴクやガープ、世界政府を牛耳る者どもは、どんな顔をするだろう。
シキのもとにインディゴがやってきた。
パントマイムで何かを伝えようとする。
「そうか、分かった。すぐ行く」
立ち上がると、シキは司令室をあとにした。
いつもとは違ったシキの反応に、インディゴは彼の主を見送ると、ワンテンポ遅れてびっくり仰天した。
「通じた~~~!!?」
王宮の島にもメルヴィユの動物は棲みついている。
シキの王宮がダフトグリーンで守られているのはシャオの村と同じだった。
「なるほど。…ダフトグリーンを焼き払って、ここを怪物どもに襲わせようというのか」
防毒マスクを被ったシキは、女を眇めた。
「あんたが…!わたしの頼みなんか聞いてくれるわけがない…!」
強化兵に組み伏せられているのは、ナミだった。
樹林帯には、彼女が王宮の武器庫から持ち出したらしいダイナマイトが仕掛けられていた。
爆破の寸前に取り押さえたのだ。
「滅ぶ故郷も…!凶報に肩を落とす仲間たちの姿も、わたしは見たくないのよ…!」
「早まったまねを………」
ナミの顎をシキは片手で持ち上げた。そのままナミをダフトグリーンの幹に押しつける。
「ぐっ!うっ…」
ナミの顔には緑色の痣が浮かんでいた。シャオの祖母と同じダフト病のものだ。
「この樹が放つ、強力な毒素は誤算だったか…?」
ダフト病は、ダフトグリーンの放つ粒子が呼吸によって体内に取り込まれることで発症する。
緑の痣は、みるみるナミの顔全体に広がっていった。
「ううっ」
「海賊が、故郷だの家族だの口にしちゃぁいけねぇよ。そんなもんの為に足ひっぱられて自分の命を危ぶめてりゃ、世話ねぇや!」
ダフト病に冒されて、息も絶え絶えになったナミをシキは放り投げた。
数十本の鉄棒が、どこからともなく飛来した。シキの能力を付与された棒が、次々と地面に突き刺さる。
そうして完成した即席の鉄棒監獄の中に、ナミの体はがんじがらめになって囚われた。
裏切り者の女をさらしものにすると、シキは王宮に戻っていった。
マスクを外したシキの前に、一人の女が現れた。
「おまえがあの一味の参謀か…。航海士を連れ戻しに来たのか?」
「それもあるけど、忠告しに来てあげたのよ。」
「忠告だと?」
「うちの船長をあんまり甘く見ない事ね。あんたと闘ったさっきの戦闘力は1/4だから!」
「!!? 手加減してたようには見えねェが?」
「色は違うけどあいつの腕に、これと同じモノ(腕輪)がついてたでしょう?」
「…」
シキはルフィとの戦闘を思い出す。左腕にたしかにイオリのつけているモノより薄い色の腕輪があった。
そして、イオリの腕輪の色には見覚えがあった。
「まさか!!?」
シキはそれが海楼石だと気付いた。そして目の前の女がとてつもない強者だという事にも同時に気づく。
確かコイツは能力者。それが純度100%とおぼしき海楼石をつけてなお、普通に動くどころか気配一つも感じさせないだと!!?
海楼石をつけた状態で全盛期のレイリーと同等かそれ以上だと感じた。
コイツが腕輪を外したならば…恐らく…
「そのまさかよ。楽園側で注目されるのはあまり嬉しくないからね。」
「…船長以外の男共は能力者じゃねぇんだろ?って事は奴等はそのままの強さじゃねぇか!!」
「あいつらは、2年で鍛える予定よ。」
「2年?」
「こっちの話。気にしないで!20年よりは短いでしょ?」
「確かにな。で、お前は俺と闘るのか?」
「ルフィに負けた時の言い訳がほしいなら、闘ってあげてもいいけど?」
「ジハハハ!口が達者じゃねぇか!!いいだろう。船長を倒した後に相手してやる!!」
「健闘を祈るわ。」
「ほざけ!」
大広間の襖が開かれ、シキが入場した。
金糸をふんだんに使った、豪奢な羽織袴姿だ。
総会会場に集まった海賊の幹部連は黒いスーツにネクタイ着用で、ドレスコードが徹底されていた。
壇上、シキが金屏風の前の席についた。
「よく集まったな、野郎ども!これより、俺の配下に収まってもらうための契りの杯を交わしてもらう。なお…裏切り者には容赦しねぇので、そのつもりで」
「「「オォオッ!」」」
「さぁ、出発だ!惨劇の東の海へ!」
空が哭いた。
闇のなかで、群島が王宮の島を取りまいた海の水を押し分けて、次々と合体していく。さながら天地創造だ。
シキは、まさに新たな世界を造ろうとしていた。
カルデラ湖のある山の斜面に墜落していたサウザンドサニー号の、ライオンの船首像の口が開き、砲口が現れた。
秘密兵器ガオン砲が、まばゆい火を噴噴いた。
コーラ三樽分のエネルギーを充填した砲撃の瞬間、ガオン砲は船体後部の噴射口からも二樽分のエネルギーを放つことで衝撃を相殺緩和する。
砲撃は火口に命中し、その外縁分を削り取った。
カルデラ湖の水が、堰を切ってあふれ出した。
ちょうど山肌の溝に位置していたサウザンドサニー号は、濁流に押し流されていった。
「うまく水を引き込めたわ」
甲板で、ロビンが声を上げる。
ルフィたちは母船に戻ると、ナミを助けにむかうことにしたのだった。
「おい…!島が動きだしてるぞ!!」
ゾロが気づいた。
他の島は、頭上にある王宮の島と合体していく。
取り残されているのは、彼らがいる島だけだった。
「だんだん離れてく~~~!」
「本当に大丈夫でしょうか…!?」
チョッパーとブルックが不安そうに声を上げる。
「やるしかねぇ!考えてるヒマなんかねぇよ!」
サウザンドサニー号は、山の傾斜を後ずさるように流されていく。
「とにかく急げ!行くぞ、フランキー!」
ルフィが合図する。
帆を絞った船は、舳先にめざす王宮の島をとらえた。
あそこにナミがいる。
「風来・バースト!」
後部の噴射口からコーラエネルギーが放たれた。
桁ちがいの推進力を得た船は、濁流を逆走、斜面を発射台にして一気に飛翔した。
空へ─!!
シキの王宮を警護する強化兵たちは、襲撃など想定してはいなかったはずだ。
こうして縦列を作って前庭に並んでいるのは、親兄弟の契りにあたっての儀礼的なものでしかなかった。
ここは空中群島メルヴィユ。
不可侵の領空。
いったい、誰が攻めてくるというのだ。
だが、彼らは知らなかった、
世界には悪魔の実の能力に頼らずとも、空を飛ぶ船があるということを。
強化兵たちが夜空を仰いだ時、すでに奇襲は成功していた。
風来・バーストで飛翔したサウザンドサニー号は雪の積もった平原に着地。そのままダフトグリーンの樹林帯を薙ぎ倒して、王宮の前庭に滑りこんだ。
「う…嘘だろ?」
「船で王宮に乗りつけるなんて、どこのどいつだ!?」
突然、降ってわいた船にはじき飛ばされて、部隊の数割は戦闘不能に陥る。
強化兵たちは、まだそれが襲撃だとは信じられず、遅刻してきた海賊の誰かかと思う者も少なくなかった。
マストにたなびく海賊旗は………
「!?」
ドレスコードを守って正装した彼らの姿、麦わら帽子の旗印を見た時、強化兵たちは完全に浮き足立っていた。