イムの娘(いむのこ)~番外編~   作:槙 秀人

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幹部戦

 シキは目を細め、離れていく3人を見送った。

 

「どこに逃げようと、皆殺しの運命に変わりはないがな」

 ここが自分の島である限りその事実には変わりない。それがシキの考えだ。

 

 しかし、シキに対するルフィの返答は明確だった。

 膝を折り、足のポンプのように動かし血流を増す。

 体から噴き出す蒸気はいっそう勢いを増した。

 ルフィは眼光鋭くシキを見据えた。

 

「俺たちの運命を、お前が決めんな!!ゴムゴムのぉ…」

 溜め込んだ力を一気に爆発させる。

 

 - ドウッ! -

 

 見えないパンチと同じ…いや、それ以上の速度で全身を肉弾と化したルフィは、一瞬で上空にいたシキの懐に入った。

 

「!?」

(ピストル)!!」

 胸に強烈な拳を受けて、シキは後方にふっ飛んだ。

 王宮の建物に叩きつけられる直前で、空中でたたらを踏む形でこらえ留まる。

 

 このガキ…

 ホントに力が4倍に増しやがった!いや、それ以上だ!!

 

「ジハハハハハ!面白れぇ!!」

 

「ビリー!俺に力を貸せ!」

 重力によって落ちていくままのルフィは、上空を旋回していたエレキ鳥に叫んだ。

 ビリーは迷うことなく急降下して、戦場の只中に飛びこむとルフィをひろい上げた。

 

「あいつを東の海には行かせねぇ!」

 ルフィはシキを追撃する。

 

 口元の血をぬぐったシキは、金の鬣を逆立てて迎え撃った。

 

「ジハハハハ!いいぞ、その希望!今、絶望に変えてやる!!」

 

 

 


 

 ウソップとチョッパーはナミを抱えて、王宮の庭を走っていた。

 解毒薬はSIQとセットで作られていると思われた。そんな危険な薬品を研究するのであれば、隔離された建物で行うはずだ。

 先ほどナミを探して見渡した時、ウソップは気になる別棟を見つけていた。

 

 雪の上を走っていると、その建物から声が聞こえた。

 

「みんな、今のうちだ。」

 敵かと思ってウソップとチョッパーは、慌てて壁の陰に隠れた。

 ナミを抱えている以上、戦闘は極力避けたいところだ。

 しかし建物から出てきた連中は、どうも様子が違っていた。

 

「おい、早くしろ!」

「全員そろったか?急いで逃げるんだ!」

 男たちは、かばんやリュックに持てるだけの植物を詰め込んで逃げていった。

 

「腕に羽根?シャオと同じだ!あいつら海賊じゃねぇよ!」

 きっと彼らはシャオの村の住人で、労働に駆り出されていた人たちだ。

 

「そうか、よかった。でも、あの植物は…IQ?」

 チョッパーはシャオが持っていた草を思い出した。

 

 ここはIQに関係した施設らしい。

 IQはダフト病の特効薬の材料で、シキはそれを独占することでメルヴィユを支配していた。

 

 二人は施設に入った。

 

 

「なんだ、ここは…」

「ぜんぶIQだ」

 ガラス張りの温室でIQが栽培されていた。

 おそらくSIQの研究施設に違いない!

 

「よし!」

「薬品の臭い…。この先にIQから作った解毒剤があるかもしれない」

 二人が奥の扉を開くと広い空間に出た。

 円形のドーム内にさまざまな実験器具、医療器具が並んでいる。

 規模からして、かなりの数の科学者がここで働いているようだ。

 

「きっと、あの怪物たちも被害者なんだよ」

 ここではSIQの開発が行われていたようだ。

 そしてメルヴィユの動物たちをつかった実験が行われていたに違いない。

 

「わかんねぇぞ!どうすりゃいいんだ…?」

 ウソップは戸惑った。

 薬品の瓶はあまりにも数が多すぎて、どれがダフト病の特効薬であるのか分からない。

 

 

 プップップー

 

 オナラの様な音を鳴らして、奇妙なピエロ男がやってきた。

 

「うわっ!?敵か!?」

 吹き抜けになった研究室の二階から顔を見せたのは、インディゴだ。

 

「薬品の臭いがプンプンするぞ!おまえ、科学者だな!?」

「ああ!とびっきり優秀のなぁ!」

 

「ダフトグリーンの毒素に効く薬を出せ!」

「ピロピロピロ!渡すか、バカ者!これのことだろ?応急用にいつも持ち歩いているからなぁ!」

 インディゴが薬品の小瓶を指にはさんで見せた。

 

「なんだ、簡単じゃねぇか」

 

「ゾロ!?」

「そいつの持ってる薬を奪えばいいんだろ?どいてろ!そいつは俺がぶった斬る」

 一刀を口にくわえた三刀流の構えで、ゾロは悠々と研究室に踏み入った。

 大広間の大乱戦をくぐり抜けてきたゾロは、ジャケットを脱いでいつもの姿になっていた。

 体には、まだ傷一つ受けていない。

 

「こんなところまで追ってきやがって…」

 しつこいやつだと、インディゴは苦虫を噛みつぶしたような顔で二階から飛び降りた。

 

「ぶった斬るだとぉ!?東の海の馬の骨がぁ~!だいたいあんなくだらねぇ海一つ、潰れたからといって世界になんの支障もねぇんだよぉ~!」

「あ゛?」

 ぶちぎれたインディゴとゾロは激突した。

 研究所の壁を破って、戦場は王宮をつなぐ渡り廊下に移動する。

 

「ケミカルジャグリング!」

 インディゴが両手を広げた。両の掌から泡が噴き出しそれが液体の球に変化した。

 さらに球が三つ、四つ…。無数のボールがインディゴの上でアーチを描いた。

 

「…!?」

 奇術のたぐいか?

 

 ゾロは、じっと敵を見定めた。

 

 ただの水芸という事でもなさそうだ。あのボールは…。

 

「燃えつきな!」

 インディゴがボールを次々に投じた。

 

「!」

 刀で受けた途端にボールが爆発した。

 

 液体爆弾─

 

 爆弾ボールはインディゴの手から次々と生み出される。

 液体でははじく事も出来ず、たちまち被弾したゾロは爆風に包まれた。

 

「ゾロ!」

「大丈夫か!?」

 

「ピロピロピロ…!どうだケミカルジャグリングの威力は!!…ぬっ!?」

 爆発の煙が晴れたあとには、ゾロが立っていた。

 服はボロボロになっていたが、眼光は衰えず輝きを増している。

 

「曲芸に付き合ってる暇はねぇんだよ!!」

 

「しぶといやつだ!マス・ジャグリン!」

 インディゴは両手でひと抱えもある特大の爆弾ボールを作ると思い切りゾロに向かって投げつけた。

 狭い橋の上では逃げ場はない。

 マス・ジャグリンの直撃を受けたゾロは大爆発の中に消えた。

 

「まともにくらいやがったぜ!ピロピロピロ…!」

 飛び散った液体爆弾が、橋に引火する。

 燃えさかる炎のなかに見えるゾロの姿はインディゴのような大道芸ではない。

 現状ゾロの奥義とも言える心技一体の技である。

 

「鬼気!」

 ゾロは、三面六臂の阿修羅の姿になっていた

 

「!?」

 

「東の海で生まれた俺が、馬の骨なら…」

 鬼気から生じた自らの幻影を従えたゾロは、炎をひいて突進する。

 

「ケミカル─!」

 慌ててインディゴは迎え撃つべく液体爆弾を作り出す。

 

「おれに斬られるお前は」

「ジャグリング!」

 

「九刀流・阿修羅穿威!!」

 九閃の斬撃が、爆弾ボールもろともインディゴを斬り伏せた。

 インディゴはふっ飛ばされて大爆発をおこす。

 

「…おれに斬られるお前は、いったい、なんの骨なんだ…?」

 ゾロは落ちていた瓶をひろってチョッパーに投げてよこす。

 

「解毒剤だ!!」

 

「おれは大広間にもどる!ナミを頼んだぞ!」

「おう!」

 

「ゾロ!そっち逆!!」

 方向音痴のゾロは、ばつが悪そうに踵をかえして正しい方向に走り出した。

 

 

 

 


 

 雪の王宮に、火の粉が舞い散る。

 

 麦わらの一味と金獅子海賊団の銃撃戦のさなか乱入してきたメルヴィユの怪物たちが、王宮の庭にひっくり返っていた。

 脅威の進化をとげた動物たちを叩きのめしたのは『黒足のサンジ』の蹴りだった。

 

「ヨホホホホ!さすがですねぇ!」

 サンジの背中を守るブルックが、ほめたたえた。

 

「…ったく、きりがねぇ」

 本当の敵は、この怪物たちではない。

 炎に照らされた王宮を見渡していると、どこからかあのゴリラ男の声が聞こえてきた。

 

「ウホホ~~~ッ!」

「!!?」

 サンジが何かを察知した。

 この、盛りのついたエテ公丸出しの下品なうなり声は…!?

 

「レディがあぶねぇ!!」

 サンジは声のしたほうに走り出し、一足跳びで屋根に上がった。

 

「あれは…!?」

 ブルックが、屋根よりもはるか上を仰いだ。

 王宮で最も高い塔のてっぺんに、シキの海賊旗を掲げたポールに掴まった赤い服のゴリラ男、スカーレットの姿があった。

 そしてサンジの目は、スカーレットの右手に握られた美女の姿を望遠でとらえた。

 

「ロビンちゃん!?」

 

「ウホッ!ウホッ!ウホッ!」

 瞳をハート型にしたスカーレットは動けぬロビンに無理矢理、キスをしようとしていた。

 

「ぬぁにぃ~!ロビンちゃんを嫁にするだと~~~!?」

「言葉、分かるんですかぁ!?」

 ブルックが思わずツッコミを入れた。

 

 サンジは瞳に怒りと嫉妬の炎をたぎらせる。

 

「こんの…クッソ、エロ・ゴリラァァァ!!」

 くるりと回転したサンジが、火の粉の渦を身にまとう。

 タバコを吐き捨てると瓦ごと踏みつけて消して、塔に張られた補強ワイヤーをつたって駆け上がる。

 

 サンジを迎え撃つのは猿兵モンキートルーパー。メルヴィユで進化した二足歩行猿を飼い慣らしたもので、野生のパワーと戦闘技術を備えた兵士だった。

 両手でダブルヌンチャクをあやつり、モンキートルーパーがサンジに襲いかかった。

 

「ウキ~~~!」

「邪魔だぁ!」

 一蹴!!

 野生のパワーがどれほどのものだ!!

 

 モンキートルーパーをふき飛ばしたサンジは一気に塔の頂上に迫る。驚いたのはスカーレットだ。

 今まさにロビンの唇を奪おうとした時、塔の屋根を突き破って目の前に怒りMAXの男が現れた。

 

「ウホッ!ウホッ!ウホッ!」

「だいたいなめた事言ってるぜ、おめぇらはよぉ…!どの海を支配するって?おめぇ知ってんのかよ!東の海にどれほどの数のレディがいるのかを!!」

 サンジはその場で超回転をはじめた。靴底が摩擦によって過熱していく。

 危険を感じ取ったスカーレットはロビンを握ったまま、もう片方の手でサンジに殴りかかった。

 

「ウガァ~~~~~!」

 空気がうなる。

 スカーレットの拳が塔の屋根を砕く。

 小さな竜巻となったサンジは、それを難なくかわし跳び上がった。

 

「ウホッ」

 仰いだスカーレットの瞳に、灼熱の色に染まるサンジの足が飛びこんだ。

 

「悪魔風脚ジャンプ!」

「ウガ~~~!」

 サンジ必殺の竜巻蹴りに、スカーレットは拳で応戦した。

 スピードとパワーがぶつかりあい骨が折れる音がした。

 拳を砕かれたスカーレットは腕をはじかれ、サンジはとどめの技をくり出した。

 

「野獣肉シュート!」

 蹴りの乱打に、巨体が沈んでいく。

 ダメ押しの一撃が決まった直後、スカーレットは屋根をぶち破って塔の内部に落ちていった。

 

「それが東の海の恋の味だ。おっと」

 放り出されたロビンが塔から落ちていくのを見つけると、サンジはあとを追って飛び降りた。

 愛しのロビンちゃんを両手に抱こうと急ぐ。

 

「ヨホホホ!」

 ところが下にいたはずのブルックがサンジの目前で、軽やかにロビンを抱きとめた。

 

「大丈夫ですか?マドモアゼル」

「ええ、ありがとう」

 華麗に着地を決めたブルックにむかって、サンジは全力でツッコミを入れる。

 

「てめぇ!なにおいしいとこだけ持ってってんだ!オロすぞクソ野郎!」

 怒りのあまり着地することを忘れたサンジは、そのまま屋根を突き破っていた。

 

 

 


 

「とにかくナミの安全が第一だ!怪物にも海賊にも会わねぇように、ひたすら逃げまくるしかねぇぞ!」

「はぁ…はぁ…そうだな。それしかねぇ」

 

「ウソップ…」

「ナミ!」

「おお、よかった!目を覚ましたか!解毒剤が効いてきたみたいだな!」

 笑顔の仲間たちを見て、いつもは強気のナミが泣いていた。

 

「…うんっ…」

「ナミ、泣いてる暇はねぇぞ?まだやるべき事が残ってる」

「分かってる。シキを倒さなきゃ東の海は…!!」

 するとナミの感覚が夜空のむこうから迫り来る見えない変化をとらえた。

 

「止まって!」

「どうした?」

「嵐が来る!」

「「!!?」」

 航海士は断言した。

 

「気圧が下がってる。きっとサイクロンが近くにあるのよ!王宮に戻るわよ!」

「ええ~?戻る!?」

「マジか…」

 王宮で大暴れする怪物軍団を想像して、ウソップとチョッパーは遠い目をした。

 

 

 


 

 月明かりのもと、麦わらのルフィと金獅子のシキは対峙した。

 ビリーにまたがったルフィとフワフワの実の能力者の戦いは空中戦となっていた。

 しかし、翼の揚力で飛ぶ鳥のビリーと空中であっても前進後退が自由自在なシキとではその機動力に雲泥の差があった。

 シキの飛ぶ斬撃で狙い撃ちにされて、ビリーが逃げまわるという状態が続いていた。

 

「うぉおおおおっ!」

 ルフィがゴムゴムパンチで反撃する。ルフィの長い射程が機動力の差を埋めた。

 

 ふき飛ばされたシキは岩礁に激突。だが、その巨岩を砕いて即座に戦闘に復帰する。

 きわめて接近したメルヴィユの島々の間をすり抜けて、空中戦は続いた。

 

「!?」

 戦闘の只中に巨大な翼が割りこんだ。古代鳥だ。

 

 ビリーを獲物と定め、襲いかかってきたのだ。

 牙の並んだ嘴と爪を、ビリーがかろうじてやりすごす。

 その直後、ふいをついたシキがビリーごとルフィを蹴り落とす。

 

 岩礁を二つ三つ貫いたところで、傷だらけになりながらエレキ鳥はルフィを背負って踏みとどまる。

 

「ビリー、大丈夫か!?」

 ルフィの呼びかけにビリーは、クォ~と鳴き平気だと答えた。

 しかしゴム人間のルフィはともかく、生身のビリーがあのシキの攻撃にいつまでも耐えられるはずがない。

 

 いったん間合いを取って、体勢を立てなおす。

 王宮の島の側面にへばりついた海のへりに沿って上昇していく。

 

 

 ザバッ─

 

 海水の壁を破って、いきなり波飛沫が上がった。

 現れたのは青鯨だ。

 その尾びれがおこした波に叩きつけられたルフィとビリーは、再び挙動を乱した。

 

 

「そろそろ決着のとき!斬波!」

 シキの義足刀から飛ぶ斬撃がくり出された。

 斬ったのは海だ。海の一部分がばっさりと断たれ、膨大な海水の塊が浮力を失いルフィとビリーに降りかかった。

 

「うわ~~~!?」

 泡をくった二人は、必死でかわそうとする。

 ところが波飛沫はピタリと重力を無視して空中に静止した。

 そして再び一つの塊になると、ルフィとビリーは水の中に閉じこめられた。

 

「ジハハハハ…!勝負あったな小僧!」

 シキは会心の笑みを浮かべた。

 

 空にあっても海水は海水だ。悪魔の実の能力者は海に落ちれば力を奪われて、たちまち溺れてしまうのだ。

 このまま放っておけば、あの麦わら小僧はくたばるだろう。

 

 その時、シキが懐に入れた小電伝虫が鳴った。

 

『─航海士チームよりシキ様へ!島を東にそらせてください!嵐が来ます!』

 司令室の航海士チームから、シキに緊急連絡が入った。

 

「嵐だと…?」

 シキは、あたりを見わたした。

 月が照らす夜空に、それらしい雲はない。

 メルヴィユの針路を決めるのは、帆でも舵でもなく島を浮かせているシキの意志だった。

 ともかくシキは、雲のない東の方向に針路を変えた。

 

 

 

 ~ ~ ~ ~ ~

 

「─こ…これで、いいんですか…?」

 シキ配下の航海士は通信を切ると、冷や汗をかきながら言った。

 航海士の左右には、パチンコをひきしぼった長鼻の狙撃手と、恐い顔をした人間トナカイがいた。

 司令室の航海士チームは全員、二人によって倒されていた。

 

「…いいんだよな、ナミ?」

「ええ、これでいいわ」

 島を、東にむける。サイクロンがやってくる東の方角に。

 

「でも、大丈夫なのか?嵐のなかに突っ込んで…」

「大丈夫じゃないわよ。けど、シキを止めるにはこうするしかないの!!」

 ナミがウソップに告げる。

 そしてドレスを破って、動きやすいミニスカートに変えた。

 

 

 

 

 その頃、一味の副船長は…

 

「メルヴィユの島々は…っと!あっ、これもそうだ!!」

 

 上空から島の形を確認しながら、いくつもの島を小さくしては収納貝に入れて回っていた。

 

 

 

 

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